平 成 17 年 2 月 25 日 判 決 言 渡 平 成 14 年 (ワ) 第 21196 号 損 害 賠 償 請 求 事 件 判 決 主 文 1 原 告 の 請 求 を 棄 却 する 2 訴 訟 費 用 は 原 告 の 負 担 とする 事 実 及 び 理 由 第 1 請 求 被 告 は 原 告 に 対 し 654 万 1834 円 及 びこれに 対 する 平 成 14 年 10 月 12 日 から 支 払 済 みまで 年 5 分 の 割 合 による 金 員 を 支 払 え 第 2 事 案 の 概 要 原 告 は 過 去 に 右 下 の 歯 の 治 療 を 受 けブリッジを 装 着 していたところ その 部 分 が 再 び 痛 み 出 したので 被 告 医 院 を 受 診 して 診 療 契 約 を 締 結 し 被 告 から 根 管 治 療 を 受 け ブリッジを 新 しいものに 付 け 替 えた しかし 下 顎 右 6 番 の 歯 ( 右 側 下 顎 部 正 中 部 から 数 えて6 番 目 の 歯 を 指 す 以 下 右 下 6 番 といい その 他 の 歯 についても 同 様 に 呼 ぶこととする )の 痛 みがなくな らず 結 局 抜 歯 することとなったものであるところ このような 結 果 を 招 いたのは 被 告 が 右 下 6 番 の 根 管 治 療 の 際 に 誤 って 穿 孔 した 過 失 及 び 右 下 8 番 について 不 必 要 な 断 髄 及 び 不 完 全 な 根 管 治 療 を 行 った 過 失 によるものであるとして 原 告 は 被 告 に 対 し 損 害 賠 償 と 訴 状 送 達 の 日 の 翌 日 から 民 法 所 定 の 年 5 分 の 割 合 による 遅 延 損 害 金 の 支 払 を 請 求 した 1 前 提 となる 事 実 ( 認 定 の 根 拠 となった 証 拠 等 を 文 末 の() 内 に 示 し 直 前 に 摘 示 した 証 拠 のページ 数 を 内 に 示 す 以 下 同 じ ) (1) 当 事 者 ア 原 告 は 昭 和 34 年 10 月 12 日 生 まれの 女 性 であり 東 京 都 港 区 ab-c-d 所 在 のA 歯 科 医 院 ( 以 下 被 告 医 院 という )の 患 者 として 歯 列 の 治 療 を 受 けた( 争 いのない 事 実 ) イ 被 告 は 歯 科 医 師 であり かつ 平 成 9 年 当 時 被 告 医 院 を 経 営 し 歯 科 診 療 に 従 事 し ていた( 争 いのない 事 実 ) (2) 前 医 による 診 療 原 告 は 23 歳 に 至 るまでに 京 都 市 内 の 歯 科 医 院 をかかりつけ 医 とし 右 下 6 番 ないし8 番 にわたるブリッジを 装 着 する 治 療 を 受 けた( 争 いのない 事 実 甲 A30 乙 A2 弁 論 の 全 趣 旨 ) (3) 診 療 経 過 の 概 略 ア 原 告 は 右 下 の 歯 に 痛 みを 感 じ 被 告 医 院 に 平 成 8 年 5 月 1 日 から 平 成 13 年 8 月 20 日 まで 通 院 して 治 療 を 受 けた( 甲 A30 乙 A1 弁 論 の 全 趣 旨 ) イ 右 下 5 番 の 治 療 経 過 原 告 は 平 成 8 年 5 月 1 日 右 下 5 番 の 歯 冠 継 続 歯 ( 歯 間 部 根 部 一 体 型 の 人 工 歯 )がは ずれたとして 被 告 医 院 を 受 診 し 被 告 は これを 取 り 外 して 再 装 着 した その 後 被 告 は 平 成 9 年 2 月 27 日 右 下 5 番 を 抜 歯 して 義 歯 を 装 着 した( 争 いのない 事 実 乙 A1 2ないし8 ) ウ 右 下 3 4 番 の 治 療 経 過 原 告 が 平 成 9 年 3 月 13 日 に 被 告 医 院 を 受 診 した 際 被 告 は 原 告 に 対 し 右 下 4ない し8 番 のブリッジを 希 望 する 場 合 は 抜 歯 した 部 分 が 安 定 するのに1か 月 かかること 根 の 治 療 から 治 療 を 開 始 することを 説 明 した また 同 年 7 月 15 日 には 右 下 4ないし8 番 のブリッジ を 希 望 する 場 合 には 右 下 4 6 及 び8 番 の 根 の 治 療 が 必 要 であり 根 気 よく 治 療 を 受 ける 必 要 があるとの 説 明 をした( 乙 A1 9 A12 弁 論 の 全 趣 旨 ) このブリッジ 装 着 の 点 については 結 論 が 出 ないまま 原 告 は 同 年 12 月 9 日 同 月 16 日 平 成 10 年 9 月 8 日 に 被 告 に 通 院 してクリーニングなどの 処 置 を 受 けていたが 同 年 9 月 2 1 日 に 至 り 右 下 4 番 及 び6 番 の 歯 茎 の 腫 れを 訴 え 被 告 は 右 下 4 番 に 対 して 切 開 の 処 置 を し 同 月 25 日 右 下 4 番 の 噛 み 合 わせの 調 整 をした さらに 被 告 は 根 の 治 療 が 必 要 であ ると 説 明 して 同 年 10 月 5 日 から 感 染 した 根 管 について 拡 大 ( 根 管 内 の 傷 んだ 部 分 を 削 るこ と 以 下 同 じ )をして 根 の 治 療 を 開 始 し 次 いで 右 下 3 番 についても 同 様 の 処 置 を 行 い 平 成 11 年 2 月 2 日 右 下 3 4 番 について 根 管 充? 処 置 をして 根 の 治 療 を 終 えた( 乙 A1 9ないし 18 A12 弁 論 の 全 趣 旨 ) エ 右 下 6 番 の 治 療 経 過 被 告 は 平 成 11 年 2 月 16 日 右 下 6ないし8 番 に 以 前 から 装 着 されていたブリッジを 除
去 するとともに 右 下 6 番 について 歯 の 中 の 土 台 となっている 金 属 部 分 を 除 去 し 同 月 19 日 から 同 年 11 月 24 日 までにかけて その 根 管 の 治 療 を 行 った( 乙 A1 18ないし31 A12) オ 右 下 8 番 の 治 療 経 過 被 告 は 平 成 11 年 9 月 8 日 から 同 年 10 月 8 日 まで 右 下 8 番 について 歯 冠 部 の 除 去 麻 酔 抜 髄 貼 薬 及 び 根 管 充? 措 置 を 行 った( 争 いのない 事 実 乙 A1 28 29 ) カ 右 下 6 番 の 状 態 原 告 は 平 成 14 年 10 月 1 日 B 歯 科 クリニックにおいて 右 下 6 番 を 抜 歯 したが 抜 歯 後 の 歯 の 近 心 根 の 根 管 側 壁 のうち 上 下 方 向 の 中 心 部 分 には 穿 孔 があった( 争 いのない 事 実 乙 A10の1ないし4) 2 争 点 (1) 右 下 6 番 の 根 管 治 療 において 近 心 根 管 側 壁 と 髄 床 底 に 対 し 誤 って 穿 孔 し かつこれ に 対 する 処 置 を 怠 った 過 失 の 有 無 (2) 右 下 8 番 の 根 管 治 療 において 必 要 のない 神 経 を 除 去 し また 不 完 全 な 根 管 治 療 を 行 った 過 失 の 有 無 (3) 各 過 失 による 損 害 の 発 生 の 有 無 (4) 損 害 額 ( 判 断 する 必 要 がなかった 争 点 ) 3 争 点 についての 当 事 者 の 主 張 (1) 争 点 (1)( 右 下 6 番 の 根 管 治 療 において 近 心 根 管 側 壁 と 髄 床 底 に 対 し 誤 って 穿 孔 し かつこれに 対 する 処 置 を 怠 った 過 失 の 有 無 )について ( 原 告 の 主 張 ) ア 被 告 は 平 成 11 年 2 月 16 日 から 同 年 3 月 24 日 まで リーマー( 針 状 のやすり)による 根 管 拡 大 治 療 を 行 っていたところ 同 月 19 日 には 閉 のまま 拡 大 を 断 念 したとカルテには 記 載 されている しかるに 短 期 間 に6 回 という 多 数 回 にわたる 根 管 拡 大 治 療 を 行 ったにもか かわらず 結 局 のところ 根 尖 部 に 到 達 せず 断 念 したという 経 過 からして 上 記 治 療 過 程 にお いて リーマーにより 側 壁 の 穿 孔 が 引 き 起 こされた 可 能 性 が 高 いものというべきである イ 被 告 は 右 下 6 番 に 穿 孔 があることを 認 めながら この 原 因 として 抜 歯 の 器 具 によっ て 削 れた 可 能 性 と 原 告 が20 年 ほど 前 に 受 けたC 歯 科 医 院 ( 以 下 前 医 という )の 治 療 によ る 可 能 性 を 指 摘 しているが これらの 主 張 は 以 下 に 述 べるとおり 合 理 性 を 欠 く まず 抜 歯 に 当 たって 器 具 は 当 該 部 位 にさわる 必 要 はなく その 器 具 によって 近 心 根 の 表 面 が 削 れることはあり 得 ない また 確 かに 前 医 は 原 告 に 対 して 右 下 6 番 の 根 管 治 療 を 行 っており 根 管 充? 処 置 も 実 施 した しかし 被 告 医 院 を 受 診 した 段 階 では 右 下 6 番 の 近 心 根 において 慢 性 根 尖 性 歯 根 膜 炎 に 起 因 する 根 尖 孔 を 含 む 多 少 の 骨 の 透 過 像 を 呈 してはい るものの 根 分 枝 部 においては 慢 性 辺 縁 性 歯 周 炎 が 著 明 に 出 現 している 状 態 ではなく 根 管 充? 材 もレントゲン 写 真 上 遠 心 側 壁 には 到 達 していないのであるから 前 医 による 上 記 根 管 治 療 は 完 全 ではないにしても これによって 穿 孔 が 生 じていたものとは 考 え 難 い もし この 時 点 で 穿 孔 していれば 根 管 充? 材 が 穿 孔 を 通 じて 管 外 へ 溢 出 していたはずであり そのこと や 根 管 充? 材 の 溢 出 に 対 する 透 過 像 がレントゲン 写 真 上 確 認 できるはずであるが このような 所 見 は 認 められない ウ 他 方 被 告 医 院 における 治 療 後 のレントゲン 写 真 においては 明 らかに 根 管 充? 材 が 溢 出 し それに 伴 う 穿 孔 が 形 成 されて 存 在 している なお 被 告 医 院 における 根 管 治 療 前 のレ ントゲン 透 過 像 の 発 生 原 因 は 老 化 による 骨 吸 収 によるものであり 根 管 治 療 後 のレントゲン 透 過 像 は 穿 孔 による 急 性 症 状 を 伴 う 病 的 なものである さらに 根 分 枝 部 においては 慢 性 辺 縁 性 歯 周 炎 はほとんど 観 察 できない 状 態 であっ たにもかかわらず 被 告 医 院 における 根 管 治 療 終 了 後 補 綴 処 置 に 進 み 金 属 コア( 金 属 の 芯 を 指 し 少 なくなった 歯 冠 部 歯 質 の 補 強 を 行 う 装 置 に 用 いる )を 装 着 したところ 骨 透 過 像 が 急 激 かつ 著 明 に 増 大 している この 骨 透 過 像 は 根 分 枝 部 から 近 心 根 遠 心 側 壁 の 穿 孔 が 存 在 している 部 分 にまで 交 通 し ここから 根 分 枝 部 の 穿 孔 が 裏 付 けられる 事 実 後 日 B 歯 科 クリニックにおいて 右 下 6 番 を 抜 歯 した 際 D 医 師 は 抜 歯 前 処 置 で 金 属 コアを 除 去 した 時 点 において 穿 孔 が 存 在 していたことを 確 認 している エ 以 上 のとおり 右 下 6 番 の 根 管 治 療 において 被 告 が 誤 って 穿 孔 を 生 じさせたことは 明 らかであり そのような 場 合 できるだけすみやかに 修 復 処 置 を 行 うべきであるのに 何 ら 適 切 な 処 置 を 行 わず 漫 然 と 仮 歯 装 着 ブリッジ 装 着 に 至 ったのであるから 被 告 の 過 失 は 明 ら かである ( 被 告 の 主 張 )
ア 抜 歯 された 右 下 6 番 近 心 根 に 穿 孔 が 存 在 することは 認 めるが この 穿 孔 は 以 下 に 述 べるとおり 被 告 の 治 療 行 為 に 起 因 するものとはいえない イ まず 抜 歯 された 右 下 6 番 の 近 心 根 は ちょうどピンク 色 の 根 管 充? 材 が 見 える 部 分 の 表 面 が 削 れたような 状 態 になっており それが 抜 歯 の 際 に 器 具 によって 削 れたものである 可 能 性 及 びそれにより 根 管 充? 材 が 表 面 に 出 たものにすぎない 可 能 性 が 否 定 できない また 上 記 穿 孔 が 仮 に 上 記 抜 歯 以 前 から 存 在 していたものであるとすると その 穿 孔 は 被 告 による 治 療 以 前 に つまり 前 医 の 治 療 によって 生 じたと 考 えられる すなわち 被 告 が 治 療 を 開 始 した 際 原 告 の 右 下 6 番 は 前 医 により 既 に 根 の 治 療 がさ れ 根 管 充? 材 が 充?されている 状 態 であった これに 対 し 被 告 は 平 成 11 年 2 月 26 日 以 降 上 記 の 根 管 充? 材 をクロロフォルム( 根 管 充? 材 のみを 溶 解 する 作 用 のある 薬 剤 )によって 少 しずつとかし 溶 けて 接 着 剤 のような 粘 性 の 液 状 になった 根 管 充? 材 をリーマーに 絡 ませる ようにして 根 管 から 除 去 していくという 方 法 で 根 管 の 拡 大 治 療 を 行 った 右 下 6 番 遠 心 根 については 上 記 のように 根 管 充? 材 を 除 去 していき リーマーの 挿 入 方 向 及 び 挿 入 した 長 さをレントゲン 写 真 と 照 らし 合 わせることによってリーマーの 先 端 が 根 尖 部 に 到 達 したと 判 断 し また 根 尖 部 から 根 管 内 に 膿 が 出 てきたことを 確 認 することによって 根 尖 部 が 開 通 したと 判 断 した 右 下 6 番 近 心 舌 側 根 については 同 年 3 月 3 日 に 遠 心 根 と 同 様 に リーマーの 挿 入 方 向 と 挿 入 した 長 さをレントゲン 写 真 と 照 らし 合 わせることによってリーマーの 先 端 が 根 尖 部 に 到 達 したと 判 断 し また 根 管 内 に 膿 が 出 てきたことを 確 認 することによって 根 尖 部 が 開 通 し たことを 確 認 した なお 右 下 6 番 近 心 頬 側 根 については 前 医 による 根 管 充?の 形 跡 もなく 被 告 が 根 管 の 拡 大 を 試 みても 途 中 で 閉 塞 した 状 態 となっていた 閉 塞 の 原 因 は 第 二 象 牙 質 の 添 加 ( 加 齢 等 により 根 管 内 に 象 牙 質 が 形 成 され 根 管 内 が 狭 まる 現 象 )と 推 測 され 無 理 に 開 通 を 試 み ると 穿 孔 等 の 危 険 があるため 拡 大 を 途 中 で 中 止 した 被 告 は 右 下 6 番 遠 心 根 及 び 近 心 舌 側 根 について 根 尖 部 が 開 通 したことを 確 認 した 後 は 開 通 部 分 の 穴 を 必 要 以 上 に 広 げることのないよう 注 意 しながら 根 管 充? 材 を 溶 かして 空 洞 となった 根 管 を 少 しずつ 時 間 をかけてリーマーによって 拡 大 していった これは 前 医 によ って 根 管 充? 材 が 充?されていた 部 分 すなわち 被 告 による 治 療 前 に 既 に 空 けられていた 穴 を 根 管 と 認 め そこを 少 しずつ 拡 大 していったのであり 被 告 が 新 たに 根 管 を 穿 孔 したもので はない ウ 以 上 のように 右 下 6 番 の 穿 孔 は 被 告 による 治 療 以 前 に 前 医 の 治 療 によって 生 じた と 考 えるのが 妥 当 である エ なお 前 医 の 治 療 において 右 下 6 番 に 穿 孔 が 生 じていたとしても レントゲン 上 は 根 尖 の 方 向 と 前 医 により 充?された 根 管 充? 材 の 方 向 とが 一 致 しており 被 告 がレントゲンで 穿 孔 を 確 認 することは 不 可 能 であった (2) 争 点 (2)( 右 下 8 番 の 根 管 治 療 において 必 要 のない 神 経 を 除 去 し また 不 完 全 な 根 管 治 療 を 行 った 過 失 の 有 無 )について ( 原 告 の 主 張 ) ア 被 告 は 右 下 8 番 の 神 経 を 抜 く 必 要 がなかったにもかかわらず これを 抜 いてしまった のであり この 点 にも 過 失 がある イ まず 被 告 は 平 成 11 年 8 月 26 日 右 下 顎 部 へのブリッジ 装 着 に 当 たり 右 下 8 番 の 抜 髄 処 置 の 必 要 性 を 原 告 に 対 して 伝 え 抜 髄 すべきかどうかを 決 めるよう 原 告 に 対 して 求 め たが 素 人 である 原 告 にこのような 判 断 を 求 めること 自 体 が 不 適 切 である 次 に 従 前 原 告 の 右 下 6 7 及 び8 番 は 7 番 を 欠 損 とし 6 及 び8 番 を 歯 台 とする 既 存 ブリッジが 装 着 されていたところ 既 存 ブリッジには 何 ら 問 題 がなく まして 右 下 8 番 において は 歯 髄 に 達 する 虫 歯 もレントゲン 写 真 上 認 められておらず さらに 歯 根 を 取 り 巻 く 歯 根 膜 腔 にも 異 常 はなく 何 年 もの 間 既 存 ブリッジが 装 着 されている 状 態 にあったため 歯 冠 部 の 第 二 象 牙 質 も 形 成 されており 当 該 部 分 には 何 ら 問 題 がなかったから ブリッジの 再 作 製 において も 歯 髄 を 除 去 する 必 要 はなかった さらに 右 下 8 番 に 対 する 根 管 充? 材 は 近 心 根 には 全 く 充?されておらず 遠 心 根 につ いても 途 中 までしか 充?されていない ウ このように 被 告 は 必 要 のない 神 経 除 去 を 行 ったばかりか その 神 経 除 去 後 に 行 っ た 根 管 治 療 も 不 十 分 なものであったのであり この 点 にも 過 失 がある
( 被 告 の 主 張 ) 被 告 は 平 成 11 年 9 月 8 日 から 同 年 10 月 8 日 まで 右 下 8 番 の 根 管 治 療 を 行 った 右 下 8 番 は 神 経 の 細 菌 感 染 はなかったが 新 たに 右 下 4ないし8 番 にブリッジを 装 着 するに 当 た り 歯 冠 部 を 平 行 に 揃 えるために 右 下 8 番 の 歯 冠 部 の 歯 質 を 削 る 必 要 が 生 じており それを 行 うと 歯 表 面 が 神 経 に 近 くなり 冷 水 痛 等 が 生 ずる 危 険 が 予 想 された このような 状 態 の 下 で 原 告 からの 補 綴 的 要 求 により すなわちブリッジ 装 着 後 に 冷 水 痛 等 が 発 生 するのを 防 ぐ ために 根 管 治 療 を 行 ったものである 右 下 8 番 の 遠 心 根 は 根 管 内 が 狭 窄 しており できる 限 り 拡 大 したものの 器 具 の 破 損 等 の 恐 れもあり 敢 えて 最 小 限 の 拡 大 に 留 めたものである 近 心 根 は 遠 心 根 よりもさらなる 狭 窄 が 予 想 され 敢 えて 根 管 内 の 神 経 は 治 療 せず 生 活 断 髄 法 ( 歯 冠 部 の 神 経 の 部 分 的 な 除 去 )を 選 択 したのであり 右 下 8 番 の 根 管 治 療 は 成 功 している (3) 争 点 (3)( 各 過 失 による 損 害 の 発 生 の 有 無 )について ( 原 告 の 主 張 ) レントゲン 写 真 によれば 右 下 6 番 の 根 管 治 療 開 始 前 と 根 管 治 療 後 においては 近 心 根 及 び 遠 心 根 の 根 尖 部 病 巣 が 明 らかに 拡 大 連 続 しており 縮 小 ないし 消 失 しているとは 到 底 いえない したがって 被 告 の 主 張 するような 骨 の 再 生 を 認 めることはできず 近 心 根 周 辺 の 病 巣 が 回 復 しているとはいえないから 結 局 被 告 の 各 過 失 によって 右 下 6 番 の 歯 に 炎 症 の 発 生 を 招 き 抜 歯 にまで 至 り 結 果 として 後 記 (4)で 主 張 するとおりの 損 害 を 与 えたものであ る ( 被 告 の 主 張 ) 原 告 は 右 下 6 番 を 治 療 し さらに 右 下 4ないし8 番 にブリッジを 装 着 した 後 も カルテ 上 痛 みや 腫 れを 訴 えたことはなく しかも ブリッジを 装 着 した 次 の 治 療 日 にはクリーニング を 受 けている クリーニングは 刺 激 を 伴 う 美 容 的 処 置 であるため 口 内 に 痛 みや 腫 れがある ときは 行 わないのであるから 原 告 がクリーニングを 受 けたことは 原 告 の 右 下 6 番 に 痛 みや 腫 れがなかったことの 証 左 である 被 告 がブリッジ 装 着 後 の 右 下 6 番 について 変 化 を 認 めたのは 平 成 13 年 6 月 29 日 のみ である このときは 右 下 6 番 歯 茎 部 が 暗 赤 色 に 軽 度 に 変 色 しているのが 認 められた これに 対 して 被 告 は 抗 生 剤 を 処 方 した もっとも このときのレントゲン 写 真 では 右 下 6 番 部 分 の 透 過 像 に 改 善 が 認 められていた なお カルテ 上 は この 日 について 切 開 との 記 載 があ るが これは このとき 行 った 投 薬 について 保 険 の 点 数 上 切 開 と 同 じ 扱 いであるためにこ のように 記 載 したに 過 ぎず 実 際 に 切 開 は 行 っていない このように 原 告 右 下 6 番 の 根 管 治 療 終 了 後 は 同 歯 の 根 尖 病 巣 及 び 根 分 岐 部 病 変 に ついて 骨 の 再 生 が 進 行 しており 順 調 に 改 善 していた したがって 処 置 としては 経 過 観 察 の みをすればよかったのであって 結 局 仮 に 被 告 に 上 記 各 過 失 があったとしてもこれによる 損 害 が 生 じたとはいえない (4) 争 点 (4)( 損 害 額 )について ( 原 告 の 主 張 ) 原 告 は 次 に 述 べる 損 害 のうち 654 万 1834 円 を 請 求 するものである ア 治 療 費 (ア) 被 告 医 院 における 医 療 費 12 万 2544 円 右 下 6 番 の 治 療 が 始 まった 平 成 11 年 2 月 分 から これが 不 完 全 ながらも 終 了 した 平 成 13 年 9 月 までの 間 の 医 療 費 を 損 害 として 請 求 する 証 拠 上 記 載 のある 請 求 点 数 の 合 計 に 1 点 当 たり10 円 を 乗 じ これに 自 費 負 担 分 である3 割 を 更 に 乗 じたものである (イ) 被 告 医 院 におけるブリッジ 代 金 63 万 7520 円 被 告 医 院 において 作 製 したブリッジ 代 金 は 結 局 右 下 6 番 に 対 する 不 適 切 な 治 療 に よって 使 用 に 耐 えないものとなったのであり この 代 金 相 当 額 も 損 害 である (ウ) Bクリニックにおける 医 療 費 等 1 万 2020 円 (エ) E 病 院 における 医 療 費 等 3770 円 (オ) ハワイにおける 医 療 費 等 9 万 7790 円 原 告 は ハワイのFデンタルクリニック 及 びGクリニックにおいて 診 察 を 受 けたものであ るが 当 該 診 察 にかかる 費 用 も 損 害 に 含 まれる (カ) 小 計 87 万 3644 円 イ 交 通 費
(ア) 被 告 医 院 への 交 通 費 3 万 8800 円 被 告 医 院 への 総 通 院 日 数 97 日 に1 日 当 たり 往 復 400 円 のバス 運 賃 を 乗 じたもので ある (イ) E 病 院 への 交 通 費 1440 円 バス 及 び 地 下 鉄 の 往 復 運 賃 である (ウ) 小 計 4 万 0240 円 ウ 休 業 損 害 57 万 7344 円 原 告 は 月 額 基 本 給 として50 万 円 の 給 与 支 払 いを 受 けていたところ これを 出 勤 日 数 2 4 日 として 時 間 給 に 引 き 直 すと1 時 間 当 たり2976 円 となる 他 方 被 告 医 院 への 通 院 に 要 し た 時 間 を1 回 当 たり 最 低 2 時 間 とすると 1 回 の 通 院 につき5952 円 の 休 業 損 害 となる そこ で これに 総 通 院 日 数 である97 日 を 乗 じて 算 出 した エ 今 後 の 治 療 費 160 万 6500 円 原 告 の 口 腔 内 における 右 下 欠 損 部 の 治 療 法 としては 可 撤 性 局 部 床 義 歯 ( 取 外 しので きるバネの 付 いた 入 れ 歯 )による 方 法 既 存 残 存 歯 牙 を 支 台 として 固 定 性 のブリッジを 装 着 す る 方 法 インプラントを 施 し 固 定 性 の 人 口 の 歯 牙 を 補 綴 する 方 法 が 考 えられるものの 咬 合 力 及 び 審 美 力 の 回 復 の 観 点 からは インプラント 治 療 が 最 も 適 切 である さらに 本 件 においては 右 下 6 番 のみならず 右 下 5 6 及 び7 番 の3 歯 にインプラント を 施 す 必 要 がある それは 仮 に 右 下 6 番 のみにインプラントを 行 い これと 残 存 する 右 下 4 8 番 を 支 台 としてブリッジを 装 着 することを 考 えると 生 理 的 動 揺 のないインプラント( 通 常 歯 牙 は 咬 むことにより 生 理 的 に 動 揺 するが インプラント 本 体 は 下 顎 骨 に 骨 性 癒 着 し 生 理 的 動 揺 はしない )と 生 理 的 動 揺 のある 歯 牙 とを 結 合 連 結 すれば インプラント 自 体 が 破 壊 するお それがある したがって 既 存 の 欠 損 部 である 右 下 5 7 番 にもインプラントを 施 す 必 要 があ り これによらなければ 原 告 において 満 足 の 得 られる 咀 嚼 効 率 や 咬 合 力 を 回 復 することは 不 可 能 である オ 慰 謝 料 300 万 0000 円 原 告 は 本 件 治 療 のため 29か 月 にわたる 通 院 を 要 しており 交 通 事 故 の 例 に 照 らす と この 通 院 慰 謝 料 は207 万 円 となる しかし 被 告 は 長 期 にわたって 本 件 過 誤 に 気 付 か ず このために 原 告 は 他 院 において 治 療 を 受 ける 機 会 を 失 い 痛 みのあるままの 状 態 を 強 い られたのである したがって 慰 謝 料 は この 点 を 加 味 して 定 められるべきである カ 本 訴 提 起 の 準 備 費 用 6 万 6150 円 レントゲン 写 真 のコピー 費 用 等 も 損 害 として 請 求 する キ 弁 護 士 費 用 63 万 8361 円 ( 被 告 の 主 張 ) いずれも 不 知 ないし 争 う 第 3 当 裁 判 所 の 判 断 1 事 実 関 係 前 記 前 提 となる 事 実 証 拠 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば 右 下 6 番 及 び8 番 の 治 療 経 過 に 関 し 次 の 事 実 が 認 められる (1) 右 下 6 番 の 根 管 治 療 ア 被 告 が 治 療 を 開 始 した 際 原 告 の 右 下 6 番 は 前 医 により 既 に 根 管 の 治 療 がされ 根 管 充? 材 が 充?されている 状 態 であった( 争 いのない 事 実 乙 A12 被 告 本 人 ) イ 被 告 は 平 成 11 年 2 月 19 日 以 降 毎 月 数 回 原 告 を 来 院 させ 上 記 の 根 管 充? 材 をクロ ロフォルムによって 少 しずつ 溶 かし 溶 けて 接 着 剤 のような 粘 性 の 液 状 になった 根 管 充? 材 を 20 番 のリーマーに 絡 ませるようにして 根 管 から 除 去 していった( 甲 A31 乙 A1 乙 A12 乙 A 13 被 告 本 人 ) 右 下 6 番 遠 心 根 については 上 記 のように 根 管 充? 材 を 除 去 していったところ 根 尖 部 から 根 管 内 に 排 膿 があった( 乙 A1 乙 A12 被 告 本 人 ) 右 下 6 番 近 心 舌 側 根 についても 被 告 は 同 年 3 月 3 日 根 管 内 に 膿 が 出 てきたことを 確 認 した( 乙 A1 乙 A12 被 告 本 人 ) 右 下 6 番 近 心 頬 側 根 については 前 医 による 根 管 充?の 形 跡 もなく 被 告 が 根 管 の 拡 大 を 試 みても 途 中 で 閉 塞 した 状 態 となっていた 被 告 は 無 理 に 開 通 を 試 みると 穿 孔 等 の 危 険 があると 判 断 し 根 管 の 拡 大 を 中 止 した( 乙 A1 乙 A12 被 告 本 人 ) ウ 被 告 は 右 下 6 番 遠 心 根 及 び 近 心 舌 側 根 について 根 尖 部 が 開 通 したことを 確 認 した
後 少 しずつ 時 間 をかけて リーマーによって 根 管 を 拡 大 した( 乙 A1 乙 A12 被 告 本 人 ) エ 被 告 は 貼 薬 を 経 て 平 成 11 年 11 月 24 日 右 下 6 番 について 根 管 充? 措 置 を 行 った ( 乙 A1 甲 A31 乙 A12 被 告 本 人 ) (2) 右 下 8 番 の 抜 髄 及 び 根 管 治 療 ア 被 告 は 原 告 の 右 下 4ないし8 番 のブリッジを 設 置 しようとしていたところ 支 台 となる 4 6 及 び8 番 のうち 8 番 の 歯 の 上 部 は 他 の 歯 より 高 い 位 置 にあった( 乙 A1 乙 A12 被 告 本 人 ) 被 告 が 原 告 に 対 して 上 記 ブリッジを 設 置 することを 説 明 した 当 時 原 告 の 右 下 5 及 び7 番 は 既 に 存 在 しなかった( 乙 A1 弁 論 の 全 趣 旨 ) 被 告 は 平 成 11 年 9 月 8 日 右 下 8 番 の 歯 冠 部 を 除 去 し 虫 歯 及 び 古 い 接 着 剤 を 削 り 取 った 上 麻 酔 して 抜 髄 した( 乙 A1 28 ) 右 下 8 番 を 治 療 する 際 根 管 部 が 閉 塞 していた ( 乙 A1 乙 A12) イ 右 下 8 番 に 対 する 根 管 治 療 のうち 近 心 根 については 歯 冠 部 の 神 経 を 部 分 的 に 抜 くに とどめて 根 管 内 の 治 療 は 行 わず 遠 心 根 については 神 経 を 抜 いたものの 根 管 は 無 理 に 拡 大 すると 危 険 があったため リーマーが 入 る 範 囲 で 拡 大 し その 範 囲 で 根 管 充?を 行 うにとど めた( 乙 A1 乙 A12) (3) 右 下 6 8 番 の 仮 歯 装 着 及 びブリッジ 装 着 ア 被 告 は 右 下 4ないし8 番 のブリッジの 作 製 に 当 たり 平 成 11 年 12 月 13 日 右 下 4な いし8 番 について 歯 型 を 取 り 同 月 21 日 仮 歯 の 装 着 及 びクリーニングを 行 った( 乙 A1 3 1 ) イ 被 告 は 右 下 6 番 について 平 成 12 年 1 月 12 日 から 同 年 12 月 18 日 にかけて かみ 合 わせの 調 整 等 を 行 い 平 成 13 年 2 月 7 日 右 下 4ないし8 番 にブリッジを 装 着 した( 乙 A1 3 2ないし36 ) (4) 右 下 6 番 の 経 過 ア 右 下 6 番 自 体 のレントゲン 写 真 上 の 所 見 右 下 6 番 のレントゲン 写 真 上 平 成 8 年 5 月 1 日 ないし 平 成 10 年 12 月 8 日 においては 近 心 根 の 中 心 部 に 根 管 充? 剤 を 示 す 白 色 の 部 分 が 直 線 状 に 存 在 するが( 甲 A31ないしA3 5 乙 A2ないしA5 A9) 平 成 11 年 2 月 23 日 においては 近 心 根 の 中 心 部 が 黒 色 に 変 わっ ており 同 黒 色 部 は 直 線 状 に 存 在 する( 甲 A36 乙 A9) 他 方 平 成 11 年 11 月 24 日 ないし 平 成 13 年 6 月 29 日 においては 近 心 根 の 中 心 部 に 再 び 根 管 充? 材 を 示 す 白 色 の 部 分 が 写 っ ているところ この 白 色 部 分 は 近 心 根 のうち 上 下 方 向 の 中 心 付 近 から 左 側 へ 逸 れ 遠 心 根 側 の 側 壁 に 到 達 している( 甲 A3 甲 A37ないしA41 乙 A6ないしA9 証 人 D) 他 方 右 下 6 番 の 髄 床 底 付 近 においては 上 記 のような 白 色 部 分 は 見 当 たらない( 甲 A 37ないしA41 証 人 D) イ 原 告 の 右 下 6 番 に 関 する 愁 訴 原 告 は 右 下 6 番 の 治 療 開 始 から 右 下 4ないし8 番 にブリッジを 装 着 した 後 に 至 るまで 右 下 6 番 に 断 続 的 に 痛 みや 腫 れが 生 じたと 陳 述 しているものの それが 右 下 6 番 の 部 分 のみ に 生 じたか 否 かは 明 確 でないし 自 覚 症 状 の 全 てを 被 告 に 伝 えたか 否 かも 明 らかでない( 甲 A30 原 告 本 人 ) ウ 右 下 6 番 の 再 診 断 及 び 抜 歯 (ア) 原 告 は 平 成 13 年 10 月 12 日 友 人 の 紹 介 により D 医 師 に 右 下 6 番 についての 診 察 を 受 けた( 甲 A13) D 医 師 は 平 成 14 年 1 月 21 日 E 病 院 に 対 して 紹 介 状 をしたため 右 下 6 番 に 関 し 慢 性 歯 槽 膿 瘍 根 分 岐 部 髄 床 底 への 穿 孔 の 疑 い 及 び 近 心 根 遠 心 壁 への 穿 孔 の 疑 いがあるとの 情 報 を 提 供 した 上 で 診 断 書 の 発 行 を 求 めた( 甲 A19 5 甲 A21 00 9 ) これに 対 し E 病 院 は 右 下 6 番 についてデンタルレントゲンを 撮 影 し( 甲 A21 006 ) 同 病 院 のH 医 師 は 平 成 14 年 1 月 29 日 病 名 が 右 下 6 番 の 根 分 岐 部 病 変 であることを 附 記 と して 上 記 病 名 の 原 因 として 歯 根 ( 近 心 根 )の 破 折 が 疑 われます との 旨 をそれぞれ 記 した 診 断 書 を 発 行 した( 甲 A10 甲 A21 007 ) (イ) D 医 師 は 平 成 14 年 10 月 1 日 原 告 の 右 下 6 番 を 抜 歯 した( 甲 A19 8 証 人 D) (5) 右 下 8 番 の 経 過 右 下 8 番 については レントゲン 写 真 上 透 過 像 が 認 められず( 甲 A2 証 人 D) 原 告 もこ の 歯 を 特 定 しての 痛 み 等 は 特 に 訴 えていない( 弁 論 の 全 趣 旨 ) 2 医 学 的 知 見 関 係 証 拠 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば 右 下 8 番 の 治 療 に 関 し 次 の 医 学 的 知 見 が 認 められ
る (1) 狭 窄 根 管 については 断 髄 ( 抜 髄 )の 適 応 がある また 保 存 に 適 さないと 考 えられる 健 康 歯 髄 にも 断 髄 ( 抜 髄 )の 適 応 がある( 乙 B4) (2)ア ブリッジを 設 置 するに 当 たっては 支 えとなるべき 歯 が 必 要 であり かつ ブリッジを 設 置 すると 支 えとなるべき 歯 には 噛 み 合 わせによる 圧 力 がブリッジ 設 置 前 に 比 べて 大 きくか かるので その 圧 力 に 耐 えられる 歯 であることが 必 要 である( 乙 A12 被 告 本 人 ) イ ブリッジの 設 置 に 当 たっては 支 台 となるべき 歯 の 高 さを 平 行 にする 必 要 があり 平 行 にするためには 歯 の 表 面 を 削 る 必 要 がある( 乙 A12 被 告 本 人 ) ウ 歯 を 削 ると 中 の 神 経 に 反 応 しやすくなり 冷 水 痛 等 が 発 生 することから 神 経 が 正 常 であってもこれらの 症 状 の 発 生 を 避 けるために 断 髄 ( 抜 髄 )を 行 うのが 一 般 的 である( 乙 A1 2 B1 B2 証 人 I 被 告 本 人 ) 3 争 点 (1)( 右 下 6 番 の 根 管 治 療 において 近 心 根 管 側 壁 と 髄 床 底 に 対 し 誤 って 穿 孔 し か つこれに 対 する 処 置 を 怠 った 過 失 の 有 無 )について (1) 近 心 根 に 対 する 穿 孔 の 有 無 に 関 する 判 断 ア 上 記 1(1)において 認 定 したとおり 被 告 はリーマーを 用 いて 右 下 6 番 近 心 根 を 拡 大 治 療 していたのであるが 上 記 1(4)アにおいて 認 定 したとおり 根 管 の 拡 大 を 経 て 根 管 充? 材 の 充?が 終 了 した 後 には レントゲン 写 真 上 根 管 充? 材 の 充? 終 了 前 には 存 在 しなかった 近 心 根 の 中 心 部 に 根 管 充? 材 を 示 す 白 色 の 線 が 存 在 するところ その 線 が 近 心 根 の 遠 心 壁 へ 到 達 し ていることは 明 らかである このことと 前 記 第 2の1(3)カのとおり 抜 歯 後 の 右 下 6 番 の 近 心 根 の 根 管 側 壁 のうち 上 下 方 向 の 中 心 部 分 に 穿 孔 があることが 明 らかであることを 併 せ 考 えれ ば この 穿 孔 は 前 医 による 根 管 治 療 時 ではなく 被 告 による 根 管 治 療 時 に 生 じたものではな いかとの 疑 いが 生 ずるところである イ これに 対 して 被 告 は 次 の 諸 点 を 指 摘 して 穿 孔 の 事 実 を 否 定 している (ア) まず 被 告 は 右 下 6 番 の 抜 歯 時 に 器 具 によって 近 心 根 表 面 が 削 られ その 結 果 と して 根 管 充? 材 が 表 面 に 出 たものにすぎない 可 能 性 があると 主 張 するが 抜 歯 器 具 が 当 該 部 分 に 触 れる 可 能 性 がどの 程 度 のものかなど この 主 張 を 裏 付 ける 証 拠 は 何 ら 存 在 しないか ら 可 能 性 の 指 摘 にとどまるものにすぎず 被 告 のこの 主 張 は 採 用 できない (イ) 次 に 被 告 は 右 下 6 番 近 心 根 に 存 在 する 穿 孔 は 前 医 による 根 管 治 療 時 に 発 生 し たものであると 主 張 し その 根 拠 として 前 医 によって 充?された 根 管 充? 材 を 除 去 しただけで 排 膿 があったし 上 記 根 管 充? 材 の 除 去 に 当 たっては20 番 という 細 いリーマーを 用 いたから そもそも 根 管 を 拡 大 してもいないことを 挙 げる しかしながら 20 番 という 細 いリーマーであるからといって 穿 孔 の 可 能 性 が 全 くない わけではないものであるところ( 証 人 D) 穿 孔 によって 根 管 外 から 根 管 内 への 排 膿 が 生 じたと 考 えることも 十 分 可 能 なのであって このことと 上 記 1(4)アにおいて 判 示 したとおりのレントゲ ン 写 真 上 の 比 較 結 果 とを 併 せ 考 えれば 上 記 穿 孔 が 被 告 の 治 療 後 に 生 じたものであることは 明 らかである (ウ) さらに 被 告 は 穿 孔 を 生 じて 直 ちにレントゲン 透 過 像 が 生 じることがないこと( 証 人 D 11( 第 3 回 口 頭 弁 論 分 ) )を 前 提 に 平 成 11 年 2 月 23 日 のレントゲン 写 真 ( 甲 A36 乙 A 9)に 存 在 する 透 過 像 が 穿 孔 により 生 じたものであるとすれば 乙 A 第 1 号 証 に 照 らし 穿 孔 が 2 月 19 日 の 治 療 時 に 生 じたものということになるが 2 月 19 日 には 穿 孔 をうかがわせる 出 血 も 排 膿 もなかったのであるから 結 局 被 告 による 穿 孔 はないと 主 張 する しかしながら 2 月 19 日 に 排 膿 等 がなかったことを 裏 付 けるに 足 りる 客 観 的 証 拠 はな いことと 上 記 1(4)ウ(ア)において 認 定 した 事 実 とを 併 せ 考 えれば 被 告 の 上 記 主 張 をたやすく 採 用 することは 困 難 である (2) 髄 床 底 に 対 する 穿 孔 の 有 無 に 関 する 判 断 ア 上 記 1(4)アにおいて 認 定 したとおり 髄 床 底 付 近 に 関 しては 穿 孔 を 疑 わせる 徴 候 が レントゲン 写 真 上 見 受 けられないのに 加 え 上 記 1(4)ウ(ア)において 認 定 したとおり H 医 師 は D 医 師 から 髄 床 底 の 穿 孔 の 疑 いがあるとの 情 報 を 提 供 されていながら 独 自 にデンタル レントゲンを 撮 影 した 上 で 髄 床 底 の 穿 孔 の 事 実 を 診 断 書 に 記 さなかったのである また J 医 師 I 医 師 及 び 被 告 本 人 は 証 拠 上 髄 床 底 に 対 する 穿 孔 を 確 認 することができない 旨 一 致 して 述 べているところである( 乙 A12 B1 B2 証 人 I 被 告 本 人 ) 他 方 このほかに 髄 床 底 の 穿 孔 を 疑 わせる 証 拠 は 存 在 しない 以 上 からすると 証 拠 上 右 下 6 番 の 髄 床 底 に 対 し て 被 告 が 穿 孔 したとの 事 実 を 認 めることができない
イ これに 対 して D 医 師 は 右 下 6 番 の 髄 床 底 に 対 して 被 告 が 穿 孔 したとの 供 述 をしてい るが この 供 述 に 沿 うレントゲン 写 真 上 の 所 見 等 の 客 観 的 な 証 拠 は 見 当 たらず 採 用 すること はできない (3) 小 括 以 上 によれば 被 告 が 右 下 6 番 の 根 管 治 療 の 際 その 髄 床 底 に 穿 孔 させた 事 実 は 認 め られないものの 近 心 根 の 遠 心 壁 に 穿 孔 した 疑 いは 容 易 に 払 拭 できないところである もっとも 仮 に 右 下 6 番 近 心 根 に 穿 孔 が 生 じたとしても 前 記 1(4)イのとおり そのこと 自 体 によって 原 告 に 新 たな 痛 み 等 の 症 状 が 発 生 したとは 認 められないのであるから この 穿 孔 によって 右 下 6 番 の 状 態 が 悪 化 して 抜 歯 せざるを 得 なくなったことが 認 められない 場 合 には 当 該 過 失 による 損 害 の 発 生 がないこととなるばかりか 穿 孔 に 対 する 適 切 な 処 置 を 怠 った 過 失 もないといわざるを 得 ない そこで 被 告 が 右 下 6 番 近 心 根 を 誤 って 穿 孔 させたか 否 かの 判 断 はひとまず 留 保 し 後 記 5において 上 記 の 穿 孔 により 損 害 が 発 生 したか 否 かについて 判 断 することとする 4 争 点 (2)( 右 下 8 番 の 根 管 治 療 において 必 要 のない 神 経 を 除 去 し また 不 完 全 な 根 管 治 療 を 行 った 過 失 の 有 無 )について (1) 前 記 1の 事 実 等 に 対 する 評 価 ア 上 記 1(2) 及 び2(2)アで 認 定 したとおり 右 下 4ないし8 番 にブリッジを 設 置 するに 当 たっ ては 右 下 8 番 を 支 台 とする 必 要 があったし 右 下 8 番 の 根 管 は 閉 塞 状 態 であったところ 上 記 2(1)のとおり 狭 窄 根 管 の 場 合 や 保 存 に 適 さないと 考 えられる 場 合 は 断 髄 の 適 応 があり 上 記 1(2)ア 及 び2(2)イのとおり 右 下 8 番 について 歯 の 表 面 を 削 ることは 不 可 避 であるが 上 記 2(2)ウのとおり 歯 の 表 面 を 削 る 以 上 それによる 冷 水 痛 等 の 不 都 合 を 避 けるために 断 髄 す ることは 一 般 的 な 処 置 であると 認 められる イ 上 記 アで 判 示 したところに 加 え 上 記 1(5)で 認 定 したとおり 右 下 8 番 に 特 段 の 症 状 が 生 じていないことからすると 右 下 8 番 については 必 要 な 治 療 をした 結 果 特 段 の 不 都 合 もなく 経 過 しているというべきであるから 治 療 が 不 完 全 であるとは 言 えない ウ したがって 被 告 には 右 下 8 番 の 根 管 治 療 において 必 要 のない 神 経 を 除 去 し ま た 不 完 全 な 根 管 治 療 を 行 った 過 失 を 認 めることはできない (2) 原 告 の 主 張 に 対 する 判 断 ア これに 対 し 原 告 は まず 被 告 が 右 下 顎 部 へのブリッジ 装 着 に 当 たり 右 下 8 番 の 抜 髄 措 置 の 必 要 性 を 訴 え 抜 髄 するかどうかの 判 断 を 原 告 に 求 めているところ このこと 自 体 が 不 適 切 だと 主 張 する しかし 医 師 はいわゆる 説 明 義 務 を 果 たすことが 求 められているとこ ろ 抜 髄 措 置 の 必 要 性 を 訴 え その 判 断 を 求 めることは 患 者 である 原 告 に 対 する 配 慮 であ るといえるから 原 告 のこの 主 張 は 採 用 できない イ 次 に 原 告 は 右 下 8 番 には 虫 歯 等 がレントゲン 写 真 上 認 められておらず 何 ら 問 題 がなかったから ブリッジの 再 作 製 及 び 装 着 に 当 たり 歯 髄 を 除 去 する 必 要 はなかったと 主 張 する しかしながら 上 記 2(2)アにおいて 認 定 したとおり ブリッジの 設 置 に 当 たっては 支 台 と なるべき 歯 の 調 整 が 必 要 であるところ 上 記 第 2の1(2)のとおり 既 存 のブリッジが 右 下 6ない し8 番 にわたるものであったのに 対 して 再 作 製 されるブリッジは 右 下 4ないし8 番 にわたるも のであって その 形 自 体 が 異 なるから 改 めて 支 台 となる 歯 の 調 整 が 必 要 であることは 明 らか である また この 調 整 にあたって 歯 を 削 ることはやむを 得 ないことであって そのために 歯 の 表 面 と 神 経 との 距 離 が 狭 まり 冷 水 痛 等 の 不 都 合 が 生 じるおそれが 高 まることもまた 明 らか である そうだとすれば 被 告 は このようなおそれを 回 避 するために いわば 良 心 的 に 右 下 8 番 の 抜 髄 措 置 を 講 じたものであると 認 めることができる したがって 右 下 8 番 に 虫 歯 等 が 認 められず または 何 らかの 病 変 がなかったとしても なお 抜 髄 の 必 要 性 が 認 められるから 原 告 のこの 主 張 も 採 用 できない (3) 小 括 以 上 のとおり 右 下 8 番 の 抜 髄 及 び 根 管 治 療 は 必 要 かつ 十 分 な 治 療 であったと 認 めら れるから 被 告 に 右 下 8 番 の 根 管 治 療 において 必 要 のない 神 経 を 除 去 し また 不 完 全 な 根 管 治 療 を 行 った 過 失 は 認 められない 5 争 点 (3)( 各 過 失 による 損 害 の 発 生 の 有 無 )について (1) 右 下 6 番 付 近 のレントゲン 写 真 上 の 所 見 右 下 6 番 の 近 心 根 周 辺 及 び 近 心 根 と 遠 心 根 との 間 付 近 のレントゲン 写 真 上 の 所 見 は 右 下 6 番 の 根 管 治 療 前 後 を 通 じて 次 のように 変 化 していることが 認 められる( 甲 A31ないしA
41 乙 A2ないし9) すなわち 根 管 治 療 開 始 前 から 近 心 根 根 尖 部 と 根 分 岐 部 の2か 所 に 病 変 を 表 す 骨 吸 収 像 が 認 められたところ このうち 近 心 根 根 尖 部 の 病 変 が 徐 々に 上 方 に 広 がり 根 管 治 療 開 始 前 には 両 者 が 連 続 した 病 変 となっていた この 状 態 は 根 管 治 療 中 から 新 たなブリッジ 装 着 の ころまでそれほど 変 化 がなかったが ブリッジ 装 着 後 には 骨 吸 収 像 が 薄 くなり 始 め 近 心 根 に 近 接 した 部 分 は より 遠 い 部 分 とは 明 らかに 異 なった 不 透 過 像 に 近 い 所 見 を 示 すようになっ た (2) 上 記 事 実 等 に 対 する 評 価 ア 上 記 (1)のレントゲン 写 真 上 の 所 見 につき 被 告 のほか J 医 師 及 びI 医 師 は 一 致 し て 右 下 6 番 近 心 根 において 被 告 による 根 管 治 療 後 に 骨 の 再 生 が 開 始 進 行 していることを 示 していると 述 べている( 乙 A12 B1 B2 証 人 I 証 人 J 被 告 本 人 ) また 上 記 1(4)イにお いて 認 定 したとおり 原 告 は 右 下 6 番 の 根 管 治 療 開 始 後 それまでと 異 なった 痛 みや 腫 れを 特 段 訴 えていないのである そうであれば 仮 に 被 告 が 誤 って 右 下 6 番 近 心 根 の 遠 心 壁 に 穿 孔 していたとしても 結 果 として 右 下 6 番 近 心 根 は 回 復 傾 向 にあった 可 能 性 がうかがわれると ころである イ 原 告 は 右 下 6 番 近 心 根 の 状 態 は 悪 化 しており したがって 抜 歯 をしたものであると 主 張 し D 医 師 は 平 成 13 年 6 月 29 日 の 時 点 ( 乙 A8)の 方 が 平 成 12 年 4 月 20 日 の 時 点 ( 乙 A 6)に 比 して 透 過 像 の 拡 大 が 見 られるので 症 状 は 悪 化 していると 供 述 する しかし 現 にこれ らのレントゲン 写 真 を 対 比 しても 透 過 像 の 拡 大 を 見 いだすことは 困 難 であるから 上 記 証 言 はにわかに 信 用 することができず この 供 述 を 以 て 上 記 アで 指 摘 したとおり 右 下 6 番 が 回 復 傾 向 にあった 可 能 性 を 否 定 することは 困 難 であるし 他 に 右 下 6 番 について 被 告 が 行 わなかっ た 処 置 をすべきであったことや 抜 歯 せざるを 得 ない 状 態 にあったことを 認 めるに 足 りる 証 拠 は ない(なお 原 告 は 本 件 弁 論 準 備 手 続 期 日 において 鑑 定 の 申 立 をしないと 明 言 してい る ) したがって 仮 に 被 告 に 過 失 があったとしても それによる 損 害 の 発 生 を 認 定 する 証 拠 はないものといわざるを 得 ない (3) 小 括 以 上 によれば 被 告 の 穿 孔 行 為 により 損 害 が 発 生 したと 認 めることはできない 6 結 論 以 上 のとおり 被 告 には 争 点 (2)の 過 失 はなく 争 点 (1)の 過 失 については 一 部 につきそ の 有 無 が 明 らかでないものの それによる 損 害 の 発 生 を 認 めることができないのであるから 争 点 (4)( 損 害 額 )については 判 断 するまでもなく 被 告 に 損 害 賠 償 責 任 が 発 生 しないことは 明 らかである したがって 原 告 の 請 求 には 理 由 がないから 棄 却 することとし 主 文 のとおり 判 決 する 東 京 地 方 裁 判 所 民 事 第 34 部 裁 判 長 裁 判 官 藤 山 雅 行 裁 判 官 金 光 秀 明 裁 判 官 萩 原 孝 基