1. 1.1. 2.
2.1. 2.2. a)
b) c)
あてたままである 武家礼法からみると ナンバの所作は運動合理性のみを原理としており 風格 美しさに欠ける ナンバは庶民の作業 動作であり 武家礼法は大名クラスの作法であるから当然であるが d) 履物による差異 洋式歩行でもハイヒールでは踵着地ができないように 履物によっても歩行法は変わる あしなか たとえば 足 半 という長さが半分しかない草履がある 絵巻物によると 旅や運搬作業での着用が見られることから 足半は裸足を常とする人たちのす べり止め用らしい 長良川の鵜匠は現在も着用している 絵巻物を概観する と 足半は機能的にも身分 作法的にも裸足と草履の中間の存在であることが わかる 図 4(右図は図 4 の誤り 裸足に慣れている当時の庶民は 足半を履いていてもすり足をしていたようで あるが 足半に合わせてつま先立ち姿勢をとることによって 足半特有の歩行 運動が実現する つま先立ちの静止姿勢で 最初の一歩を踏出すと 重心が前 図3 足半の武士 春日権現験記絵 より に移動するので 自然に後方蹴り出しになる すると 蹴り出しからの慣性力 だけで上体が着地足よりも前方に出る 重心が依然として足より前方にあるため 次の足がまた自然に着地足の前に出 る この推進原理は洋式歩行に近い ただ洋式歩行と違って 一歩ごとの後方蹴り出しが不要となり 最初の一歩以降 は ほとんど慣性の力だけで前進できる 足半を実際着用してみると 非常にエネルギー効率のよい歩行を実現する履 物であることがわかる むしろ制止時に制動力を使う これは ナンバの 地球重力をじょうずに活用して 前に倒れ ながら移動 小林 2004 という歩行原理を実現しているといってよい この利点のため 足半は図 4 のように馬に 乗らない下級武士 歩兵 の履物として戦場で使われるようになった また一本歯の足駄 高下駄 という不思議な履物がある 修験者の履物として有名であるが 絵巻物によると行者でな くても履いている これを履いている時のアンバランス状態が身体の訓練によいと古武術家の甲野善紀氏が推奨してい る 筆者がこれを履いて実感したのは 安定して歩くには完全なすり足歩行を必要とするということだ 言い換えれば 昔の日本人は元来すり足歩行であったため このような一見不安定な履物でも難なく履きこなせたのである さらに すり足歩行自体がバリエーションをもっている たとえば同じ小笠原流でも弓術 弓道 の時は 踵を上げた ままのすり足で進む また小笠原流礼法と同時代に完成した能の仕舞 狂言では逆に一歩ごとに爪先をあげるすり足で 進んでいる 3. 歩 行 の 使 い 分 け 以上概観してきたように 理想の歩行は一種類ではなく 理想の根拠の数だけ存在することがわかる 歩行姿勢を規定 するのは 履物 服装 そして接地面の状態である また歩く目的によっても理想の動作は異なる たとえば速度 運 動効率を求めるなら競歩やナンバが理想になろう しかし風格や美しさを求めるなら礼法のような別の基準で洗練され た歩行姿勢になる このようにみてくると 一人の人間にとっても複数の歩行法をマスターし 状況に応じて使い分け 4
4.