1 小 動 物 用 MRI (1.5T MRmini) の 病 態 生 理 学 と 薬 理 学 への 応 用 -Phathophysiological MRI と Pharmacological MRI- 1970 年 代 NMR (Nuclear Magnetic Resonance: 核 磁 気 共 鳴 ) 画 像 撮 像 法 の 試 みから 始 まり 1980 年 代 に MRI (Magnetic Resonance Imaging: 磁 気 共 鳴 画 像 ) 装 置 の 臨 床 診 断 用 が 世 の 中 に 登 場 し 現 在 では 病 院 などで 画 像 診 断 の 有 力 な 機 器 として 日 常 的 に 1~1.5T (Tesla: テスラ)の 超 伝 導 磁 石 を 有 する MRI 装 置 が 広 く 利 用 されている 最 近 基 礎 医 学 の 分 野 でも 超 伝 導 磁 石 を 有 する 高 磁 場 (4.7~12.8T)MRI 装 置 で 猿 から 小 動 物 ( 齧 歯 類 )を 用 いて 多 くの 研 究 が 行 われてい る しかし このような 装 置 は 大 変 高 価 であるのと 同 時 に その 設 置 場 所 の 確 保 ランニングコスト の 捻 出 など 演 者 のような 基 礎 医 学 薬 学 分 野 一 般 の 研 究 者 にとっては 容 易 には 手 の 出 せないもの である そこで もっと 広 く MRI の 技 術 を 基 礎 医 学 薬 学 分 野 の 研 究 者 に 利 用 してもらいたいととも に 将 来 の 新 しい MRI の 応 用 開 発 のため 永 久 磁 石 を 有 した 小 動 物 用 MRI 装 置 (MRmini)を 用 いて 現 在 我 々は 病 態 生 理 学 的 また 薬 理 学 的 研 究 手 法 として 特 に 神 経 科 学 領 域 における 有 用 性 を 生 かした 研 究 を 行 っている 内 容 の 一 部 を 紹 介 したい 永 久 磁 石 低 磁 場 MRI の 利 点 と 問 題 点 を 高 磁 場 MRI 装 置 と 比 べると 利 点 は 特 別 な 静 磁 場 空 間 を 必 要 としない 操 作 が 簡 単 経 済 的 可 動 性 素 人 でも OK 一 方 問 題 点 も 解 像 度 磁 場 の 均 一 度 が 低 い 解 析 法 などがあげられる このような 問 題 点 もあるが それ 以 上 に 操 作 が 簡 単 で 我 々のような MRI 初 心 者 でも 容 易 に 画 像 を 得 ることができ さらに 今 回 紹 介 する 様 な 病 態 モデル 動 物 を 用 いる 研 究 また 薬 理 学 的 手 法 を 用 いた 研 究 にその 有 用 性 を 発 揮 する
2 病 態 生 理 学 的 MRI (Phathophysiological MRI) の 二 例 1) 脳 内 出 血 モデルラット 脳 卒 中 は 現 在 日 本 人 の 主 な 死 因 の 第 3 位 に 位 置 している 重 大 な 疾 患 の 一 つである 脳 卒 中 は 脳 梗 塞 と 脳 内 出 血 (ICH)の 2 つに 大 別 することができる 以 前 脳 卒 中 死 亡 の 大 半 は ICH であ ったが 近 年 その 最 大 危 険 因 子 である 高 血 圧 が 良 くコントロールされるようになり ICH は 脳 卒 中 のうち 25%まで 劇 的 に 減 少 した しかし ICH は 発 症 後 2 日 以 内 に 約 50%の 患 者 が 死 亡 し 生 存 者 のうち 80% 近 くは 何 らかの 障 害 を 持 って 生 活 しなければならない 重 篤 な 疾 患 であることは 間 違 いない QOL を 高 めるために 脳 障 害 身 体 的 障 害 を 含 む 後 遺 症 をできるだけ 軽 減 させる 治 療 を することが 重 要 である 後 遺 症 の 発 症 で 一 番 問 題 になるのが 血 腫 による 脳 浮 腫 を 含 む 二 次 脳 障 害 で これをどの 様 にコントロールするかが 後 遺 症 軽 減 のために 大 変 重 要 である しかし 残 念 ながら ICH に 伴 う 二 次 脳 障 害 に 関 する 基 礎 的 研 究 はほとんど 行 われていないのが 現 状 である 脳 内 出 血 に 伴 う 二 次 脳 障 害 に 対 する 薬 物 治 療 は 可 能 なのか?という 疑 問 に 答 えるためには まずICHに 伴 う 脳 浮 腫 を 含 む 二 次 脳 障 害 がどの 時 期 どの 様 な 機 構 で 形 成 され どの 様 な 障 害 を もたらすかを 明 確 にする 必 要 がある これらの 点 を 明 らかにするため 自 然 ICHに 近 いと 考 えられ ているコラゲナーゼ 線 条 体 内 微 量 注 入 ICHモデルラットを 作 成 した ICH 発 症 後 の 脳 内 を 時 空 間 的 ( 経 時 的 解 剖 学 的 )に T1 強 調 (T1W, TR: 500 msec, TE: 9 msec, NEX8) T2 強 調 (T2W, TR: 2500 msec, TE: 69 msec, NEX4) 拡 散 強 調 (DWI, TR: 2500 msec TE: 69 msec, b-factor: 1000 sec/mm 2, NEX4) 画 像 撮 像 法 を 用 い 観 察 した ( 図 は ICH 後 1 時 間 後 ( 上 :T2W)と 3 日 後 ( 中 :T2W 下 :DWI) 出 血 部 位 から 尾 側 方 向 の T2W DWI 画 像 を ICH と 脳 浮 腫 の 時 空 間 的 変 化 を 観 察 し 従 来 の 脳 水 分 含 量 測 定 法 に 代 わる MRI 画 像 診 断 による 脳 浮 腫 評 価 法 が 可 能 となる ICH 時 赤 血 球 内 のヘモグロビン(Hb)は 時 間 と 共 にオキシ Hb(Fe 2+ ) デオキシ Hb(Fe 2+ ) メト Hb (Fe 3+ )と 変 化 するが MRI 信 号 は この 変 化 に 対 して 大 変 敏 感 で Hb 内 の Fe 2+ Fe 3+ の 状 態 に 依 存 して 低 信 号 から 高 信 号 へ 変 化 する つ まり T2W 画 像 で ICH 1 時 間 後 で の 低 信 号 は Fe 2+ により 徐 々に 信 号 強 度 が 高 くなるのは Fe 3+ 変 化 し たことによると 考 えられる そこで T2W 画 像 をより 詳 細 に 解 析 するた め 信 号 強 度 を 定 量 化 する(T2 マッ ピング) また 血 腫 と 浮 腫 とを 区 別 するために 細 胞 性 浮 腫 ( 非 可 逆 的 組 織 障 害 ) 検 出 可 能 な DWI
3 で 撮 像 し 信 号 強 度 を 定 量 化 する (ADC) 更 に 3D 解 析 法 により 浮 腫 容 積 を 計 測 し 血 腫 と 脳 浮 腫 がいつ どの 部 位 でどの 程 度 で 起 きているかを 可 視 化 し 定 量 的 かつ 正 確 に 観 察 評 価 する ことができる 有 用 な 手 法 である 2) ob lep /ob lep マウスの 内 臓 脂 肪 量 ( 神 経 科 学 領 域 以 外 でも ) 肥 満 モデル 動 物 である ob lep /ob lep マウスの 内 臓 脂 肪 とその 量 を 経 時 的 に 撮 像 (3D-FLASH: TR: 50 msec, FA: 56.7, 64 slices, NEX=4) 観 察 測 定 す る 腎 臓 腎 静 脈 および 後 大 静 脈 が 鮮 明 に 認 められる 画 像 を 指 標 に 画 像 解 析 ソフト (Realia Professional Image J) を 用 い 内 臓 脂 肪 面 積 腎 臓 の サイズを 計 測 した また 3D 再 構 成 画 像 を 作 成 すること により 体 積 量 を 計 測 できる( 検 討 中 ) このマウスは 脂 肪 肝 であり この 脂 肪 肝 の 状 態 を 評 価 できる 様 になると 生 活 習 慣 病 の 研 究 において 有 用 な 手 段 の 一 つとなる ( 都 市 エリア 事 業 の 一 環 ) 薬 理 学 的 MRI (Pharmacological MRI) の 一 例 マンガン (Mn) 造 影 MRI (Manganese-Enhanced MRI: MEMRI)の 全 身 麻 酔 薬 の 影 響 につい ての 検 討 例 を 紹 介 する 現 在 MEMRI の 撮 像 は 麻 酔 下 で 行 っているため Mn 脳 内 動 態 の 各 種 全 身 麻 酔 薬 の 影 響 を 検 討 した 全 身 麻 酔 薬 は 動 物 実 験 に 汎 用 されているウレタン α- クロラローゼ ペントバルビタール ケタミン イソフルランを 用 いた そ れぞれの 全 身 麻 酔 薬 が 投 与 されたラッ トに MnCl 2 を 腹 腔 内 投 与 しその 後 の 血 液 脳 脊 髄 液 関 門 (BCSFB)を 介 した Mn 脳 内 移 行 について 検 討 した この 結 果 ケタミン 麻 酔 下 における Mn 脳 内 移 行
4 が 他 の4 種 類 の 麻 酔 薬 に 比 べ 約 90% 抑 制 されていることが 明 らかとなった ケタミンは NMDA 受 容 体 の 非 競 合 的 拮 抗 薬 である そこで 同 じ NMDA 受 容 体 拮 抗 薬 である MK801 の 効 果 を 検 討 したところ ケタミンと 同 様 な 効 果 が 認 められた さらに NMDA グルタミ ン 酸 AP-5 (NMDA 受 容 体 競 合 的 拮 抗 薬 ) NBQX (AMPA 受 容 体 拮 抗 薬 ) を 前 投 与 し 薬 理 学 的 検 討 を 行 った 結 果 BCSFB を 介 した Mn 脳 内 移 行 に 脳 内 グルタミン 酸 神 経 系 特 に NMDA 受 容 体 が 関 与 していることを 明 らかにした (K. Itoh et al., Neuroscience (2008) 154: 732-740) 今 後 撮 像 シークエンス 撮 像 時 間 の 短 縮 解 析 法 など 解 決 しなければならない 問 題 がある しかし 通 常 膨 大 な 実 験 動 物 数 が 必 要 となる 経 時 的 生 体 内 変 化 を 検 討 する 医 学 薬 学 研 究 の 場 合 薬 理 学 的 や 病 態 生 理 学 的 MRI の 活 用 による in situ 評 価 法 は この 問 題 点 を 解 決 すること ができ 動 物 愛 護 問 題 や 今 後 の 医 薬 品 開 発 の 観 点 からも 大 変 有 用 な 手 法 であると 確 信 してい る
5 参 考 文 献 < 業 績 >に pdf ファイルがあります 1) K. Itoh, M. Sakata, M. Watanabe, Y. Aikawa and H. Fujii, The Entry of Manganese Ions into the Brain Is Accelerated by the Activation of N-Methyl-D- Aspartate Receptors, Neuroscience, 154: 732 740, 2008 2) K. Itoh, M. Watanabe, K. Yoshikawa, Y. Kanaho, L. J. Berliner, and H. Fujii: MagneticResonance and Biochemical Studies during Pentylenetetrazole-kindling Development. -the relationship between NO, nnos and seizures -, Neuroscience, 129: 757-766, 2004