第 1 章 せいにゅう 生 乳 のはなし 牛 から 搾 った 乳 を 生 乳 (せいにゅう) といいます この 章 では 乳 牛 と 生 乳 に 関 する 基 礎 的 知 識 やデータを 取 り 上 げます 日 本 で 飼 育 されている 乳 牛 のほとんどは 寒 さに 強 く 乳 量 の 多 いホ ルスタイン 種 です 哺 乳 動 物 である 乳 牛 は 子 牛 を 産 んで 初 めて 乳 を 出 し ます 母 牛 が 作 る 乳 の 量 は 毎 日 20 30Lになります 乳 牛 の 健 康 を 守 り 高 品 質 な 生 乳 を 生 産 するのが 牧 場 ( 酪 農 家 )です 日 本 には 約 2.1 万 戸 の 酪 農 家 があり 地 域 や 飼 育 環 境 により 異 なる 飼 育 方 法 で 生 乳 を 生 産 しています 良 い 生 乳 を 生 産 するため 酪 農 家 は 搾 乳 から 出 荷 までの 衛 生 管 理 や 温 度 管 理 を 厳 しく 行 っています 国 産 生 乳 の 生 産 量 は 年 々 少 しずつ 減 少 してきています 国 産 生 乳 は 生 産 量 の 約 半 分 が 飲 料 用 に 約 半 分 が 乳 製 品 などの 加 工 品 向 けに 使 われ ています 第 1 章 生 乳 のはなし 7
第1章 I 1 乳牛の基本知識 乳牛の平均的な体形 第2章 体長 肩から尾のつけ根まで 約170cm 第3章 体高 135 145cm前後 第4章 体重 600 700kg 第5章 乳牛の種類 1日の食事量 1日に出る乳 生乳 の量 日本では 北海道を中心におよそ 青草の場合 50 60kg 牛の大きな乳房は4つの分房に分か 146万頭の乳牛が飼育されており そ 乾燥した草の場合 約15kg れ 乳頭が4つあります 搾乳量は1日に の約99 は白黒模様のホルスタイン種 です 体が大きく乳量が多く 性格は 温和でやさしく 寒さに強く暑さに弱 20 30L 200mLの牛乳容器で100 4つの胃袋 150本 になります Q&A いのが特徴です ホルスタイン種の他 牛の胃袋は 第1胃 第4胃の4つ 乳脂肪分の多いジャージー種や バ です 第1胃には微生物が住んでいる ターやチーズ作りに適したブラウンスイ ため 人間には消化しにくい牧草や穀 糞 1日に20 40kg ス種 エアシャー種なども わずかで 類などの固い餌でも時間をかけて消化 尿 1日に6 12L すが飼育されています することができます 糞や尿は 米や野菜などの堆肥とし 糞と尿の量 て利用されています 8
2 乳牛のライフサイクル 雌牛の誕生から出産までの流れ 授乳する期間300 330日 人工 授精 2ヶ月 約40日 離乳 雌牛誕生 育成 人工 授精 妊娠 出産 妊娠 約280日 14 16ヶ月 約10ヶ月 乾乳 2 3ヶ月 1回り12 15ヶ月を4回程度繰り返す 子牛を産まないと乳は出ない 次の人工授精 廃用牛 牛は人間と同じ哺乳動物の仲間で す 子牛を産まなければ 乳 生乳 雄子牛 出産から約40日後 よって乳になります 牛の乳房を見る 乳を搾らなくなった牛で と 太い血管が何本もあるのを確認で 食肉などに利用される きます 食肉に利用される 1Lの牛乳を作るのに 400 500L は出ません 出産から次の出産までのサイクルは の血液が必要です 母牛は毎日 1万 雌牛誕生から出産までの流れは次の 12 15ヶ月で これを1頭につき4回程 Lもの血液を乳房に送り 20 30L 分 ようになっています 度繰り返します の乳を作っています 雌牛誕生 体重は約40kg 生まれて約30分で 自分 で立つ 本来 乳は子牛を育てるために出す 母牛の体内で乳が出る仕組み はんすう もの 出産後 最初の5日間の 初乳 は たんぱく質 ビタミンなどの栄養 離 乳 約2ヶ月 牛は反芻動物と呼ばれ 第1胃から 素や特に免疫グロブリン たんぱく質 育 成 14 16ヶ月 第2胃に入った餌を何度も反芻 口に戻 が多く含まれるため子牛に飲ませ 工 人工授精 最初は 生後約1年半 して噛み砕くこと して消化しやすくして 場には出荷されません 妊娠期間 280日前後 います 反芻を経て第3胃 第4胃に餌 出 産 初産は 生後約2年半 を送り 小腸で消化 吸収しています 搾乳期間 300 330日 消化吸収された栄養素は血液に流 乾乳期間 2 3ヶ月 れ込み 全身へ運ばれて利用されま 次の出産のため乳を搾ら ず 体を休ませる す 乳房へ送られた血液中の成分を 利用して 乳房の中にある乳腺細胞に 9
第1章 3 牧場の1日 どをサイロに入れて発酵させた餌 サイ ある酪農家の1日のスケジュール レージ を作ったりもします 餌やり 牛舎の掃除 搾乳 子牛にお乳 酪農家の休日 生きものの飼育は1日も休むことがで 第2章 起 床 5時30分 朝 食 きません 牛は乳を毎日搾らなければ 8時00分 病気になってしまいます 従来より酪 農は最も休みが取りづらい分野でした が 現在は 酪農ヘルパー制度 があ 牛たちの健康チェック 牧草地や堆肥場の手入れ 牛舎の周りの手入れ 餌やり 休憩 子牛にお乳 り 酪農家が病気になったときや休み を取るとき 酪農ヘルパーが酪農家に 昼 食 第3章 就 寝 12時00分 代わって搾乳や餌やりなどの作業を行 います これにより 酪農家も月に1日 程度は休めるようになりました 夕 食 牛の健康管理 22時00分 餌やり 牛舎の掃除 搾乳 子牛にお乳 19時30分 第4章 17時30分 良い乳を牛に出してもらうには 一 頭一頭の健康管理がとても大切です 牛は暑さに弱い動物なので 牛舎の温 度は厳しく管理されています カゼをひ 餌やりは1日3回 さくにゅう 搾乳 いたり 病気になったりした場合は獣 医を呼び 治療をします 人工授精や 第5章 牛に良質な乳を出してもらうため 牛の乳を搾ることを 搾乳 さくにゅ 出産 子牛に乳を与える作業 成長 栄養バランスを考えて 餌と水を決まっ う といい 朝と夕方の2回行います 期に合った給餌も重要な仕事です た時間に与えます 人間と同じように1 現在の搾乳は主にミルカーと呼ばれ 母牛は 子牛を生んで40日以降に 日に3回 365日休みなく餌と水を与え る搾乳機で衛生的に行い 冷蔵タンク に再び妊娠し 乳を出しながら お腹 続けます に貯乳します の中で次の子牛を育てています 酪農 子牛には乳を与えます 成長期の牛 搾乳の前には乳房などを清潔にしま 家は 妊婦の状態である乳牛に対し には 健康な母牛に育てるため栄養を す 搾った生乳は サンプリング検査 餌の与え方や健康管理に昼夜を問わ 考えて餌を与えます と計量の後 乳業工場に運ばれます ず細心の注意を払っています Q&A 牛舎の掃除 牧草の育成と刈り取りなど 牛の寝床の清掃や 糞や尿の処理 牧草を育て 良い乳を出す餌を購 をして毎日牛舎を清潔に保ちます 入 保管し 牛の餌の準備をします 牛の体を拭くなど 牛自身を清潔に また 冬季の餌として牧草を刈り取り することも大切な毎日の仕事です 干し草にしたり 刻んだトウモロコシな 10
II 1 せいにゅう 生乳の基本知識 国産生乳について な牧場です 農山村の中で 農作物 牛は 食肉や革製品として生活に役 の生産と酪農を兼業経営しています 立っています 生乳は 牛や人間にとって栄養豊か 糞尿を堆肥化して農家の稲ワラと交換 乳牛が出す糞尿は 稲や麦 野菜 な食品ですが それは同時に細菌の したり 稲作農家の休耕田を借りてト や果物などを作る堆肥として有機栽培 繁殖にも好条件となります ウモロコシなどの飼料を栽培するなど などに利用されています 良い生乳を生産するためには 乳牛 地域農業と密接な関係を保っています 牧場が休耕田を牧草地やトウモロコ 高品質を支える日本の酪農家 の品種改良 飼育環境 餌の内容 健康管理などの他に 生乳の栄養成 分内容や鮮度維持なども欠くことので シ畑として利用することで 山間地など 牧場のその他の役割 を荒れ地にすることなく 豊かな農村 風景が残されます きない条件です そのため酪農家は 牧場 酪農家 は牛乳 乳製品の原 また牧場は きれいな空気や水の 搾乳から貯乳 出荷までの衛生管理 料である生乳を衛生的に生産している 保全だけでなく 牧場に棲む昆虫や小 や温度管理を厳しく行っています だけではなく 私たちの生活に必要な 鳥など生物の食物連鎖のバランスを保 現在の酪農家は 一戸当たりの平均 さまざまな役割を担っています ち 生態系の維持にも役立っています 飼育頭数が69頭を越え 2011年 多 雄の子牛や 生乳を搾らなくなった くは専門の酪農家として品質の良い生 乳を生産しています 全国の酪農家戸数は約2.1万戸です 2011年 地域や飼育環境などによ 牧場見学について 牧場見学は 見学者用トイレなどの設備や説明者の教育などが必要にな り 飼育方法に特徴があります り また 見学によって牛が乳を出さなくなることもあるため すべての 第1は 北海道に見られるような 牧場で可能なわけではありません 広い牧草地を持つ牧場の飼育方法で そこで 牧場を教育の場として開放し 子どもたちが食やいのちの大切 す 飼料の自給率を高め 放牧により さを学ぶことができる 酪農教育ファーム の認証制度が設立されました 生産コストを低減し 糞尿も採草地に 現在 全国に309の認証牧場があります 2012年 利用しています 第2は 都市と山間部の間に広がる 畑作地帯で行われている飼育方法で す 採草地や飼料畑をあまり持たない ため 飼料は主に購入しています 糞 尿は専用の処理施設を設けて堆肥化 し 周辺の農家や都市の利用者に供 給しています 酪農教育ファーム推進委員会事務局では 認証牧場の紹介を行ってい ますので まずは以下の事務局へお問い合わせください 101-0047 東京都千代田区内神田1-1-12 コープビル 社 中央酪農会議内 酪農教育ファーム推進委員会事務局 TEL 03 3219 2624 FAX 03 3219 2622 中央酪農会議のサイトから認証牧場を検索できます http://www.dairy.co.jp/edf/ 第3は 日本の酪農経営の原点的 11
第1章 2 日本の生乳生産量と消費量 生乳生産量 352万tは加工品向けなどに利用され 牛乳 乳製品の 年間国産生産量 消費量 ました 増加していますが 都府県で減少して 国産生乳の生産量 2010年度 は 1,136万tで そのうち国産生乳が約 いるため 全体ではやや減少傾向にあ 約763万tで このうち約54 の411 67 輸入乳製品 生乳換算 は約 ります 万tは飲用向けに 残りの約46 の 31 となっています 日本の生乳生産量は 北海道では 国 内 の 総 消 費 量 2010年 度 は 第2章 日本の生乳生産量の年度別推移 万t 1,000 834.3 800 865.9 831.2 809.1 736.1 763.1 第3章 661.2 600 484.1 400 200 第4章 0 536.9 343.1 218.0 119.9 1956 1961 1966 1971 1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006 2010 年度 出典 農林水産省 牛乳乳製品統計 国産生乳の生産量と消費量 在庫など 第5章 21万t 2 乳製品輸入 生乳換算 加工向け等 約352万t 約46 国産生乳 生産量 約763万t 飲用向け 約411万t 約54 約352万t 約31 乳の国内 総消費量 約1,136万t 国産生乳 Q&A 約763万t 約67 2010年度 出典 農林水産省 牛乳乳製品統計 12 2010年度 出典 財務省 貿易統計 生乳換算は農林水産省