総 説 福 島 護 之 兵 庫 県 立 農 林 水 産 技 術 総 合 センター 北 部 農 業 技 術 センター ( 669 5254 兵 庫 県 朝 来 郡 和 田 山 町 安 井 123) [はじめに] 子 牛 の 感 染 症 を 考 えると 飼 養 管 理 失 宜 による 子 牛 の 栄 養 不 足 に 伴 う 罹 患 が 多 く 見 受 けられる ことから 哺 乳 期 の 栄 養 管 理 の 重 要 性 が 論 議 さ れるようになってきた 特 に 多 頭 化 に 伴 う 飼 養 規 模 の 拡 大 によって 黒 毛 和 種 の 牧 場 では 人 工 哺 乳 を 基 軸 とする 管 理 方 法 が 広 がってい しかし 生 産 現 場 では 日 齢 によるプログラムに 頼 りすぎた 管 理 により 個 々の 子 牛 において 栄 養 不 足 による 感 染 症 の 蔓 延 や 食 餌 性 の 下 痢 の 発 生 などがあり 個 々の 子 牛 の 状 況 に 合 致 した 適 切 な 栄 養 管 理 が 必 要 とされ 今 回 は 黒 毛 和 種 の 哺 乳 期 の 栄 養 管 理 を 中 心 に 子 牛 の 栄 養 についての 概 要 と 感 染 症 を 考 え [ 初 乳 の 重 要 性 ] ウシの 胎 盤 は 解 剖 学 的 な 特 徴 から 免 疫 グロブ リンをはじめ 分 子 量 の 大 きな 蛋 白 質 を 通 過 させ ることができない そのため 子 牛 は 初 乳 を 摂 取 することで 初 めて 病 原 体 から 身 を 守 る 受 動 免 疫 を 獲 得 することができ 初 乳 の 成 分 については 常 乳 に 比 べて 免 疫 グ ロブリン 初 乳 球 をはじめとする 白 血 球 成 長 因 子 サイトカインおよび 栄 養 素 を 豊 富 に 含 ん でおり その 濃 度 は 時 間 を 経 るにしたがって 減 少 していく 栄 養 素 のうち 初 乳 中 には 常 乳 と 比 較 すると 特 に 蛋 白 質 ビタミン 類 とミネラル が 多 い 蛋 白 質 のうちカゼインはほとんど 差 が ないが 免 疫 グロブリンおよびアルブミンが 顕 受 理 :2012 年 3 月 20 日 著 に 多 い これらの 蛋 白 質 は 脂 肪 乳 糖 とあ わせて 出 生 後 間 もない 子 牛 の 重 要 な 栄 養 源 に なっていまた ビタミン 類 に 富 み 脂 溶 性 ビタミンのうちビタミン A は 常 乳 の 約 10 倍 ビタミン D は 3 倍 ビタミン E は 6 倍 を 含 む 水 溶 性 のビタミン B 12 も 約 5 倍 含 まれてい カルシウム 鉄 リンおよびマグネシウムなど のミネラル 類 も 多 く 含 まれ 初 乳 中 の 固 形 分 の 組 成 比 率 は 平 均 27%と 常 乳 の 12.9%に 比 べて 2 倍 以 上 を 占 める 他 ラクトフェリン ラクトペ ルオキシダーゼやリゾチームなどの 抗 菌 性 物 質 に 富 んでいることも 初 乳 の 特 徴 であ 初 乳 は 液 性 免 疫 と 細 胞 性 免 疫 のいずれに 対 し ても 活 性 化 作 用 を 有 し 重 要 な 役 割 を 示 すこと が 知 られていそこで 初 乳 摂 取 による 受 動 免 疫 を 獲 得 したかを 確 認 する 場 合 には 出 生 後 24 ~ 48 時 間 の 血 清 中 IgG 濃 度 が 10 mg/ml 以 上 であるかで 判 定 することが 多 い 新 生 子 牛 の 血 清 中 IgG 濃 度 に 影 響 を 及 ぼす もっとも 大 きな 要 因 は 給 与 された IgG の 量 ( 初 乳 中 の IgG 濃 度 初 乳 の 給 与 量 )と 出 生 から 初 乳 摂 取 までの 時 間 の 2 つと 考 えられてい [ 初 乳 製 剤 給 与 の 効 果 ] 最 近 粉 末 初 乳 製 剤 が 複 数 市 販 されてい そこで 新 生 子 牛 に 3 種 類 の 粉 末 初 乳 を 給 与 し た 場 合 の 血 清 中 IgG 濃 度 を 比 較 したところ( 表 1) 自 然 哺 乳 の 対 照 区 に 比 較 して 各 区 とも 有 意 (P < 0.05)に 低 かったが 2 種 類 では 免 疫 に 必 要 な 濃 度 とされる 10 mg/ml を 確 保 できた (12.9 ± 6.8 mg/ml 10.1 ± 2.8 mg/ml) しかし 含 有 IgG 量 の 不 明 確 な 製 品 では 8.9 ± 3.3 mg/ ml と 必 要 量 が 確 保 されなかった また 血 清 - 49 -
家 畜 感 染 症 学 会 誌 1 巻 2 号 2012 子 牛 の 栄 養 と 感 染 症 中 IgG 濃 度 と 血 清 総 蛋 白 (r = 0.659)やγ- グ ルタミルトランスフェラーゼ(r = 0.587)と の 間 には 1% 水 準 で 有 意 な 相 関 があり 初 乳 摂 取 の 間 接 的 な 指 標 とな 初 産 母 牛 の 初 乳 は 乳 量 が 少 ない 上 に 含 まれ る IgG 濃 度 が 低 く 子 牛 への 移 行 抗 体 が 2 産 以 上 の 母 牛 に 比 較 して 低 いことが 知 られてい そこで 初 産 2 産 母 牛 の 産 子 において 出 生 直 後 に 粉 末 初 乳 を 補 助 的 に 1 回 給 与 し その 後 自 然 哺 乳 させた 場 合 の 子 牛 血 清 中 IgG 濃 度 を 比 較 した 母 乳 のみでは 初 産 牛 の 最 小 値 が 8.0 mg/ml 2 産 牛 が 12.6 mg/ml と 初 産 牛 で 最 小 必 要 量 の 10 mg/ml を 確 保 できない 個 体 が 存 在 した しかし 1 回 のみであるが 粉 末 初 乳 を 追 加 した 場 合 には 平 均 22.9 mg/ml と 最 小 で も 15.5 mg/ml が 確 保 された 以 上 の 結 果 から 粉 末 初 乳 は 含 有 IgG 量 の 明 らかな 製 品 を 選 択 すること また 哺 乳 ロボッ ト 等 を 利 用 する 超 早 期 母 子 分 離 子 牛 への 初 乳 給 与 では 母 牛 と 1 日 以 上 同 居 させることで 十 分 ではあるが 初 産 子 牛 に 限 っては 出 生 直 後 に 粉 末 初 乳 を 1 回 給 与 することが 望 ましい [ 子 牛 の 消 化 機 能 の 発 達 ] 反 芻 動 物 にとっての 栄 養 摂 取 に 関 する 発 達 段 階 は 以 下 のように 分 類 されている(Davis ら 1981) 1 ) 液 状 飼 料 給 与 期 第 一 胃 がほとんど 機 能 しておらず 主 たる 栄 養 源 は 乳 ( 生 乳 や 代 用 乳 )である 時 期 2 ) 移 行 期 主 たる 栄 養 源 は 乳 であるが 離 乳 に 向 けて 人 工 乳 (カーフスターター)や 乾 草 などの 粗 飼 料 も 摂 取 して 必 要 な 栄 養 源 の 一 部 をこれら でまかなっている 時 期 3 ) 反 芻 期 第 一 胃 での 微 生 物 発 酵 によって 生 成 される 揮 発 性 脂 肪 酸 (VFA)を 主 たる 栄 養 とし 人 工 乳 や 粗 飼 料 などの 質 や 量 が 発 育 に 重 要 と なる 時 期 子 牛 の 管 理 においては 上 記 の 発 達 段 階 を 把 握 した 上 で 合 理 的 な 対 応 が 必 要 とな [ 黒 毛 和 種 子 牛 の 生 理 的 特 徴 と 哺 乳 ] 黒 毛 和 種 子 牛 の 哺 乳 期 ( 液 状 飼 料 給 与 期 )に おける 飼 養 は 自 然 哺 乳 が 通 常 であり 母 牛 の 泌 乳 能 力 に 大 きく 依 存 してい 泌 乳 量 は 母 牛 の 産 次 母 牛 体 重 分 娩 前 後 の 栄 養 水 準 や 子 牛 の 性 などによって 相 互 に 影 響 を 受 け 子 牛 の 発 育 に 大 きく 関 与 していそこで 黒 毛 和 種 繁 殖 雌 牛 の 泌 乳 特 性 の 概 要 を 把 握 するために 黒 毛 和 種 子 牛 の 発 育 に 対 して 影 響 を 及 ぼす 遺 伝 と 環 境 の 効 果 を 概 説 す 子 牛 の 発 育 において 母 性 効 果 は 環 境 要 因 の 一 つとして 位 置 づけられていしかし 実 際 には 遺 伝 的 な 部 分 として(1) 相 加 的 母 性 遺 伝 表 1 各 種 粉 末 初 乳 を 給 与 した 子 牛 の 生 後 24 時 間 目 の 血 液 性 状 区 分 製 品 区 分 頭 数 ( 頭 ) IgG(mg/ml) TP(g/dl) GGT(mU/ml) 試 験 区 A 区 9 8.9a ± 3.3 4.5a ± 0.4 585.0b ± 581.2 B 区 10 10.1a ± 2.8 5.1a ± 0.3 1024.4ab ± 602.3 C 区 14 12.9a ± 6.8 4.9a ± 0.5 1293.8ab ± 799.4 対 照 区 14 41.8b ± 16.8 6.4b ± 1.7 1707.6a ± 1176.0 a b: 同 列 異 符 号 間 に 有 意 差 (P < 0.05) TP: 血 清 総 蛋 白 GGT:γ- グルタミルトランスフェラーゼ 表 2 凍 結 初 乳 又 は 粉 末 初 乳 を 補 助 的 に 給 与 した 場 合 の 子 牛 血 中 IgG 濃 度 産 次 給 与 した 初 乳 の 種 類 頭 数 血 中 IgG 濃 度 (mg/ml) 平 均 ± 標 準 偏 差 最 大 最 小 初 産 2 産 粉 末 初 乳 7 22.9 ± 4.9 31.1 15.5 母 乳 のみ 11 20.3 ± 11.7 50.6 8.0 粉 末 初 乳 8 27.7 ± 7.0 35.1 15.8 母 乳 のみ 13 25.6±10.4 47.9 12.6-50 -
図 1 黒 毛 和 種 の 産 次 別 泌 乳 曲 線 (Shimada, et. al., 1988) 図 2 黒 毛 和 種 の 子 牛 の 1 日 増 体 重 の 推 移 (Shimada, et. al., 1988) 効 果 と(2) 細 胞 質 遺 伝 効 果 環 境 的 な 部 分 と して(3) 永 続 的 母 性 環 境 効 果 と(4) 一 時 的 母 性 環 境 効 果 に 分 けられ (1) 相 加 的 母 性 遺 伝 効 果 主 として 母 牛 の 泌 乳 能 力 の 差 として 子 牛 の 発 育 に 影 響 を 及 ぼす 効 果 のことであ 母 牛 の 乳 量 は 子 牛 の 初 期 発 育 をほとん ど 決 定 するほどの 影 響 力 を 有 し 同 時 に 子 牛 の 発 育 から 母 牛 の 泌 乳 能 力 が 推 定 でき そして その 泌 乳 能 力 に 関 与 する 遺 伝 子 を 母 牛 から 1/2 受 け 継 ぎ 雌 牛 であれば 自 身 が 親 になった 場 合 に 一 世 代 遅 れてその 能 力 を 発 揮 することになまた 父 牛 も 泌 乳 に 関 する 遺 伝 子 を 持 っているので さ らに 一 世 代 隔 ててではあるが 泌 乳 能 力 推 定 の 対 象 とな (2) 細 胞 質 遺 伝 効 果 細 胞 質 遺 伝 は 卵 子 の 細 胞 質 中 のミトコン - 51 -
家 畜 感 染 症 学 会 誌 1 巻 2 号 2012 子 牛 の 栄 養 と 感 染 症 ドリアに 含 まれる DNA に 起 因 するので 核 遺 伝 子 のように 父 母 から 受 け 継 がれるの ではなく 全 て 母 牛 から 子 牛 に 遺 伝 す 通 常 は 相 加 的 母 性 遺 伝 効 果 に 比 較 して 小 さいとされてい (3) 永 続 的 母 性 環 境 効 果 出 生 前 の 胎 子 の 間 に 受 ける 影 響 と 出 生 後 に 受 ける 影 響 に 区 分 され 出 生 前 の 影 響 としては 子 宮 容 量 など 母 牛 の 体 格 や 子 宮 角 内 での 着 床 する 位 置 などがあ 出 生 後 では 母 牛 の 子 牛 に 対 する 母 性 行 動 などが 考 えられ (4) 一 時 的 母 性 環 境 効 果 産 次 等 により 影 響 を 受 ける 特 有 の 効 果 の こと このように 子 牛 の 発 育 は 遺 伝 と 環 境 ( 栄 養 管 理 )との 両 者 のバランスによって 成 立 するも のであり 総 合 的 な 情 報 解 析 が 必 要 であし かし 哺 乳 期 については 栄 養 が 母 乳 に 限 定 され ることが 多 く 哺 乳 離 乳 と 固 形 飼 料 ( 別 飼 い 飼 料 )の 給 与 という 限 定 された 項 目 で 把 握 する ことが 可 能 であ [ 母 牛 の 産 次 が 泌 乳 量 に 及 ぼす 影 響 ] そこで まず 母 牛 の 泌 乳 量 について 考 えてみ たい 前 項 の[ 黒 毛 和 種 子 牛 の 生 理 的 特 徴 と 哺 乳 ]で 概 説 したように 泌 乳 量 に 影 響 を 及 ぼす 要 因 は 多 いが 最 も 大 きな 要 因 は 母 牛 の 産 次 であ 島 田 は 図 1 に 示 すように 供 試 牛 35 頭 延 べ 74 乳 期 について 子 牛 の 体 重 差 法 により 調 査 した 黒 毛 和 種 では 乳 牛 のように 泌 乳 ピーク は 認 められず 分 娩 直 後 から 直 線 的 に 泌 乳 量 が 減 少 してい 産 次 別 にみると 1 産 次 と 8 産 次 以 上 の 母 牛 では 泌 乳 量 が 少 なかった このとき の 子 牛 の 発 育 も 図 2 に 示 すように 他 の 産 次 に 比 較 して 低 いことを 報 告 してい 子 牛 が 自 身 で 飼 料 を 摂 取 できるようになるま では 大 半 の 栄 養 源 を 母 乳 に 依 存 していそ のため 子 牛 の 発 育 の 良 否 は 母 牛 の 泌 乳 能 力 に 依 存 していShimada, K. et. al. は 週 齢 別 にみた 母 牛 の 泌 乳 量 と 子 牛 の 1 日 増 体 重 の 関 係 を 検 討 した その 結 果 1 ~ 11 週 齢 までは 0.5 以 上 の 有 意 な 相 関 係 数 が 認 められたことを 示 し ており 母 乳 に 対 する 依 存 度 が 高 いと 述 べてい その 後 は 固 形 飼 料 の 摂 取 量 が 急 激 に 増 加 することから 母 乳 への 依 存 度 が 急 激 に 低 下 する とも 報 告 していこのように 黒 毛 和 種 子 牛 の 発 育 においては 3 か 月 齢 前 後 までの 泌 乳 量 が 重 要 であることが 伺 え [ 黒 毛 和 種 の 哺 乳 期 の 標 準 的 な 発 育 に 必 要 な 哺 乳 量 ] 黒 毛 和 種 子 牛 の 正 常 発 育 曲 線 は ( 社 ) 全 国 和 牛 登 録 協 会 が 公 表 していしかしながら 黒 毛 和 種 子 牛 の 栄 養 摂 取 形 態 は 自 然 哺 乳 条 件 下 において 固 形 飼 料 を 増 加 させるというものであ り 個 体 差 の 大 きな 母 牛 乳 量 の 影 響 もあって 斉 一 性 の 高 い 状 況 ではない 基 本 的 には 生 後 8 週 齢 以 降 では 母 乳 だけで は 発 育 に 充 分 な 栄 養 を 摂 取 することはできない ことから 固 形 飼 料 を 採 食 させる 必 要 があ 自 然 哺 乳 は 幼 齢 期 では 固 形 飼 料 の 採 食 に 抑 制 的 に 働 くことから 固 形 飼 料 採 食 の 促 進 による 発 育 改 善 を 目 的 に 柵 越 哺 乳 や 制 限 哺 乳 などが 実 施 されてい 標 準 的 な 発 育 に 必 要 な 哺 乳 量 について 小 畑 ら は 春 から 秋 まで 放 牧 した 飼 養 条 件 ではあるが 哺 乳 量 1 kg が D.G.0.133 kg に 相 当 すると 報 告 し て お り D.G.1kg で 8.29 kg D.G.0.9 kg で 7.53 kg 及 び D.G.0.8 kg で 6.78 kg の 哺 乳 量 が 必 要 であるとしてい 近 年 一 般 的 といえる 舎 飼 い 条 件 では 子 牛 の 運 動 量 も 少 ないことから 10% 程 度 少 ない 哺 乳 量 が 適 切 と 考 えられ [ 泌 乳 量 の 推 定 法 と 哺 乳 量 確 保 ] 黒 毛 和 種 子 牛 の 離 乳 時 体 重 における 泌 乳 量 の 影 響 は 大 きく 離 乳 時 体 重 が 子 牛 価 格 に 大 きく 反 映 されることを 考 えると 肉 用 牛 経 営 にとっ 表 3 離 乳 時 の 子 牛 の 日 齢 ( 体 重 ) 性 人 工 乳 500 g/ 日 摂 取 時 人 工 乳 700 g/ 日 摂 取 時 雄 33 ± 9 日 (41 ± 3 kg) 41 ± 10 日 (51 ± 2 kg) 雌 43 ± 3 日 (42 ± 4 kg) 45 ± 1 日 (49 ± 1 kg) 代 用 乳 を 200 g(1.2 リットル) 2 回 / 日 哺 乳 - 52 -
て 重 要 な 形 質 であそこで 母 牛 の 泌 乳 量 を 的 確 に 把 握 しておくことは 子 牛 に 対 する 固 形 飼 料 や 母 牛 に 対 する 増 し 飼 いなどの 飼 養 管 理 上 からも 重 要 なことと 考 えられてい 寺 田 らは 体 重 差 法 と 子 牛 の 体 重 と 増 体 量 から 母 牛 の 授 乳 量 を 推 定 する 方 法 を 報 告 していこれにより 母 牛 の 泌 乳 量 の 推 定 が 可 能 となった しかし 生 産 現 場 においては 別 飼 いを 実 施 する 必 要 があ る 子 牛 と 評 価 された 時 点 での 子 牛 の 発 育 遅 延 は 大 きく 別 飼 いへの 対 応 が 遅 すぎるため より 早 期 に 泌 乳 量 を 推 定 しておく 必 要 があ 久 馬 らは 生 後 1 週 間 の 増 体 重 から 母 牛 の 日 乳 量 間 には 0.84 の 有 意 な(p < 0.01) 相 関 が 認 められ ることから 哺 乳 初 期 の 子 牛 の 増 体 から 母 牛 の 泌 乳 量 を 推 定 できるとしてい 坂 瀬 らは 同 様 の 検 討 から 泌 乳 量 が 不 足 する 子 牛 については 早 期 に 追 加 で 哺 乳 する 手 法 を 報 告 していこれ により 離 乳 期 以 前 の 子 牛 における 初 期 発 育 の 水 準 を 維 持 し 適 切 な 発 育 を 確 保 できること 示 してい [ 黒 毛 和 種 子 牛 の 期 待 すべき 消 化 機 能 の 発 達 (ホ ルスタイン 種 子 牛 での 発 達 を 参 考 にして)] 濱 田 は ホルスタイン 種 子 牛 の 早 期 離 乳 にお ける 固 形 飼 料 摂 取 の 特 徴 をシグモイド 曲 線 で 示 し これを 3 段 階 に 区 分 し 消 化 機 能 発 達 の 目 安 として 示 していこの 目 安 は 黒 毛 和 種 子 牛 においても 同 様 であるので その 概 要 を 紹 介 す (1) 適 応 準 備 期 子 牛 が 最 初 に 固 形 飼 料 を 食 べ 始 めてか ら 1 日 250 g ぐらいまでの 固 形 飼 料 を 摂 取 するまでの 時 期 であこの 時 期 は 生 理 的 な 食 欲 調 節 によるものではなく 本 能 的 に 食 べやすいものを 口 に 入 れるという 時 期 であこの 時 期 を 前 倒 しするとその 後 の 固 形 飼 料 は 順 調 に 進 行 することから 離 乳 に 向 けた 第 1 段 階 として 重 要 視 する 必 要 が あ (2) 加 速 増 加 期 子 牛 では 1 日 250 ~ 1,000 g までの 固 形 飼 料 の 摂 取 時 期 に 相 当 す1 日 250 ぐら いの 固 形 飼 料 を 食 べ 始 めると その 後 は 急 激 に 固 形 飼 料 の 摂 取 量 が 高 まるので その 時 点 で 離 乳 することができ (3) 安 定 増 加 期 子 牛 で 1 日 1,000 g 以 上 の 固 形 飼 料 を 摂 取 するようになると 摂 取 量 の 増 加 は 緩 やか とな 以 上 の 3 期 の 段 階 は 第 1 胃 の 発 達 についても 相 当 していると 考 えられてい ホルスタイン 種 子 牛 では 固 形 飼 料 の 摂 取 量 が 1 日 500 g ~ 700 g を 超 えると 離 乳 できると されてい 黒 毛 和 種 子 牛 においても 同 様 の 水 準 で 離 乳 することができ [ 離 乳 に 向 けた 注 意 点 と 必 要 な 飼 育 プログラム] (1) 自 然 哺 乳 での 考 え 方 ホルスタイン 種 子 牛 と 比 較 して 生 時 体 重 の 軽 い 黒 毛 和 種 子 牛 では 個 々のステージが 若 干 遅 れて 進 行 することになるが 基 本 的 な 目 安 は 同 様 と 考 えることができ 一 般 に ホルスタイ ン 種 子 牛 は 人 工 哺 乳 によって 管 理 されるため 哺 乳 時 間 を 正 確 に 管 理 することができその 結 果 子 牛 が 空 腹 感 を 感 じやすく 固 形 飼 料 への 移 行 をスムースに 実 行 でき 一 方 黒 毛 和 種 子 牛 では 自 然 哺 乳 が 一 般 的 であるが 空 腹 感 に 応 じて 哺 乳 することから 固 形 飼 料 への 移 行 は 困 難 であそこで 柵 越 哺 乳 や 制 限 哺 乳 など 空 腹 感 を 感 じる 飼 養 環 境 を 設 定 することが 重 要 となこれらの 対 策 を 実 施 した 場 合 には 通 常 の 4 ~ 5 か 月 という 離 乳 月 齢 を 3 か 月 程 度 まで 若 干 短 縮 することが 可 能 とな (2) 人 工 哺 乳 での 考 え 方 黒 毛 和 種 子 牛 においても 超 早 期 母 子 分 離 のよ うに 分 娩 後 の 早 い 時 期 に 人 工 哺 乳 に 移 行 した 場 合 には ホルスタイン 種 子 牛 と 同 様 スムース に 離 乳 することが 可 能 であ 離 乳 については 自 然 哺 乳 に 比 較 して 格 段 に 取 り 組 みやすく 特 に 注 意 する 点 はない しかしながら 人 工 哺 乳 のプログラムについ ては 注 意 を 要 す 従 来 黒 毛 和 種 子 牛 におい てもホルスタイン 種 子 牛 と 同 様 に 代 用 乳 400 ~ 500 g/ 日 哺 乳 という 体 系 がみられた 上 記 黒 毛 和 種 の 哺 乳 期 の 標 準 的 な 発 育 に 必 要 な 哺 乳 量 でも 触 れたように 黒 毛 和 種 子 牛 の 標 準 発 育 に は 6 kg 以 上 の 哺 乳 が 必 要 でありこれを 代 用 乳 に 換 算 すると 1 kg 程 度 の 哺 乳 が 必 須 とな 体 格 の 大 きなホルスタイン 種 子 牛 の 場 合 には 代 用 乳 が 不 足 すると 直 ぐに 固 形 飼 料 を 摂 取 して - 53 -
家 畜 感 染 症 学 会 誌 1 巻 2 号 2012 子 牛 の 栄 養 と 感 染 症 不 足 分 を 回 復 することが 可 能 であるが 体 格 の 劣 る 黒 毛 和 種 子 牛 では 液 状 飼 料 給 与 期 が 長 く 直 ちに 必 要 量 の 固 形 飼 料 を 摂 取 できる 移 行 期 に は 入 れないことに 注 意 したい 例 えば 代 用 乳 を 400 g/ 日 給 与 体 系 におい て 固 形 飼 料 を 500 g/ 日 あるいは 700 g/ 日 摂 取 するための 要 件 を 検 討 したところ 生 後 日 齢 で はなく 体 重 に 依 存 していた すなわち 固 形 飼 料 を 500 g/ 日 摂 取 するためには 40 kg 700 g/ 日 摂 取 するためには 50 kg の 体 重 が 必 要 であ り その 体 重 に 達 するまでは 哺 乳 によって 増 体 させる 必 要 があると 考 えられ そこで 黒 毛 和 種 の 系 統 による 差 は 認 められ るものの 50 kg に 達 するまでは 液 状 飼 料 給 与 期 と 判 断 して 代 用 乳 を 日 量 1 kg 程 度 給 与 して 確 実 な 発 育 を 促 し 移 行 期 である 50 kg 前 後 に 達 した 時 点 でホルスタイン 種 子 牛 と 同 様 の 管 理 方 法 で 離 乳 を 実 施 することがよい 人 工 哺 乳 を 実 施 した 黒 毛 和 種 子 牛 の 離 乳 時 期 は 2 ~ 3 か 月 齢 と 大 きく 短 縮 することが 可 能 であ [ 哺 乳 期 の 飼 養 管 理 で 注 意 すべき 点 ] 黒 毛 和 種 子 牛 の 哺 乳 期 に 発 生 する 非 感 染 性 の 消 化 不 良 の 原 因 の 多 くは 環 境 の 急 変 であ 哺 乳 期 の 栄 養 は 母 乳 に 依 存 するため 母 牛 の 体 調 の 変 化 には 敏 感 に 反 応 することが 知 られて い 生 理 的 な 変 化 としては 母 牛 の 発 情 期 に 連 動 した 子 牛 の 下 痢 があまた 母 牛 への 飼 料 の 給 与 量 や 内 容 に 変 化 がある 場 合 にも 消 化 不 良 等 による 下 痢 がみられ 哺 乳 期 の 母 牛 の 管 理 は 分 娩 前 の 増 し 飼 いを 実 行 し 大 きな 変 動 をせずに 泌 乳 量 に 応 じた 細 かな 管 理 が 重 要 とな 一 方 子 牛 の 飼 養 環 境 の 急 変 も 重 要 であ 季 節 の 変 わり 目 や 冬 季 における 寒 冷 感 作 は 重 要 であり 牛 舎 環 境 としては すきま 風 のない 換 気 のよい 牛 床 の 乾 燥 した( 図 3) 居 住 空 間 を 確 保 することが 重 要 であ 子 牛 とはいえ 牛 は 基 本 的 に 寒 冷 感 作 に 対 して 抵 抗 性 があるもの の 温 度 変 化 が 大 きい 場 合 に 対 応 しきれずに 消 化 器 系 の 障 害 や 呼 吸 器 系 の 疾 病 を 引 き 起 こす きっかけを 作 りかねないことから 注 意 を 要 す 離 乳 とこれに 伴 う 群 飼 への 移 行 も 飼 養 環 境 の 図 3 床 を 高 くして 稲 ワラを 敷 いた 子 牛 スペース 変 化 として 多 くのストレスを 伴 うことから 注 意 しておく 必 要 があ 子 牛 の 感 染 症 に 対 する 抵 抗 力 を 低 下 させる 各 種 のストレスをいかに 回 避 して 管 理 できるかが 子 牛 の 生 産 性 を 高 める 上 で 大 きな 要 因 となるためであ [まとめ] 黒 毛 和 種 の 哺 乳 期 を 中 心 に 感 染 症 に 影 響 する 栄 養 や 飼 養 管 理 の 面 から 注 意 すべき 点 を 概 説 し た 実 際 には 出 産 以 前 の 母 牛 の 衛 生 栄 養 両 面 の 管 理 から 感 染 症 予 防 は 始 まっており これ に 続 く 初 乳 の 摂 取 や 適 切 な 栄 養 管 理 が 子 牛 の 感 染 症 に 対 する 抵 抗 力 に 大 きく 関 わってい 実 際 の 生 産 現 場 では 獣 医 師 が 予 期 しない 飼 養 管 理 がなされることも 多 いことから 栄 養 学 的 な 前 提 を 共 有 した 上 で 畜 産 現 場 での 感 染 症 対 策 を 検 討 していく 必 要 があ 酪 農 や 肥 育 現 場 のみ ならず 子 牛 生 産 の 繁 殖 現 場 においても 集 約 的 な 畜 産 が 定 着 しつつあるが 新 しい 管 理 形 態 に 対 応 した 新 たな 衛 生 管 理 が 必 要 になると 考 えら れ 子 牛 の 潜 在 能 力 を 存 分 に 発 揮 させ 効 率 的 な 子 牛 生 産 を 行 うための 一 助 になれば 幸 いで あ [ 引 用 文 献 ] 1.Davis, C. L. et al. 1981. Ruminant digestion and metabolism. Dev. Ind. Microbiology. 22: 247-259. 2. 遠 藤 洋.2009. 新 生 子 牛 における 抗 病 性 と 初 乳 の 役 割. 子 牛 の 科 学 ( 日 本 家 畜 臨 床 感 染 症 研 究 会 編 ).チクサン 出 版 東 京 pp81-85. 3. 濱 田 龍 夫. 哺 育. 新 乳 牛 の 科 学 ( 津 田 恒 之 編 ). 農 文 協 東 京 pp.239-256. 4. 久 馬 忠 ら.1979. 草 地 における 肉 用 牛 の 泌 乳 - 54 -
性 と 哺 乳 子 牛 の 発 育 に 関 する 研 究. 東 北 農 試 研 報.60:73-90. 5. 小 畑 太 郎 ら.1979. 和 牛 子 牛 の 哺 乳 量 と 哺 乳 初 期 増 体 量. 近 畿 中 国 農 研.57:71-73. 6. 坂 瀬 充 洋 ら.2005. 但 馬 牛 子 牛 の 哺 育 初 期 に おける 適 正 発 育 値 と 母 牛 泌 乳 量 の 早 期 推 定 法 の 検 討. 第 43 回 肉 用 牛 研 究 会 大 会 講 演 要 旨. 14-16. 7. 社 団 法 人 全 国 和 牛 登 録 協 会.2004. 黒 毛 和 種 正 常 発 育 曲 線 ( 平 成 16 年 )Shimada, K.. et. Al. 1988.Asian-Australasian J. Anim. Sci., 1: 47-53. 8. 島 田 和 宏.1998. 黒 毛 和 種 の 泌 乳 能 力 とその 改 良. 肉 用 牛 研 究 会 報.64:19-29. 9. 寺 田 隆 慶 ら.1979. 肉 用 牛 の 授 乳 量 に 及 ぼす 2 3 の 要 因 の 検 討 ならびに 授 乳 量 の 推 定 法 につ いて. 中 国 農 試 報.B24:23-36. Moriyuki Fukushima Northern Center of Agricultural Technology, General Technological Center of Hyogo Prefecture for Agriculture, Forest and Fishery (Yasui, Wadayama, Asago, Hyogo, 669-5254, Japan) - 55 -