( 案 ) 資 料 1-11 重 篤 副 作 用 疾 患 別 対 応 マニュアル 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 平 成 23 年 月 厚 生 労 働 省
本 マニュアルの 作 成 に 当 たっては 学 術 論 文 各 種 ガイドライン 厚 生 労 働 科 学 研 究 事 業 報 告 書 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 の 保 健 福 祉 事 業 報 告 書 等 を 参 考 に 厚 生 労 働 省 の 委 託 により 関 係 学 会 においてマニュアル 作 成 委 員 会 を 組 織 し 社 団 法 人 日 本 病 院 薬 剤 師 会 とともに 議 論 を 重 ねて 作 成 された マニュアル 案 をもとに 重 篤 副 作 用 総 合 対 策 検 討 会 で 検 討 され 取 りまとめられ たものである 日 本 腎 臓 学 会 マニュアル 作 成 委 員 会 富 野 康 日 己 順 天 堂 大 学 医 学 部 腎 臓 内 科 教 授 谷 本 光 生 順 天 堂 大 学 医 学 部 腎 臓 内 科 非 常 勤 助 教 新 田 孝 作 東 京 女 子 医 科 大 学 第 四 内 科 教 授 武 井 卓 東 京 女 子 医 科 大 学 第 四 内 科 助 教 木 村 健 二 郎 聖 マリアンナ 医 科 大 学 腎 臓 高 血 圧 内 科 教 授 山 川 宙 聖 マリアンナ 医 科 大 学 腎 臓 高 血 圧 内 科 非 常 勤 講 師 上 田 志 朗 千 葉 大 学 大 学 院 薬 学 研 究 院 医 薬 品 情 報 学 教 授 小 川 真 千 葉 大 学 大 学 院 医 学 研 究 院 生 体 情 報 臨 床 医 学 講 師 城 謙 輔 仙 台 社 会 保 険 病 院 病 理 部 部 長 ( 敬 称 略 ) 社 団 法 人 日 本 病 院 薬 剤 師 会 飯 久 保 尚 東 邦 大 学 医 療 センター 大 森 病 院 薬 剤 部 部 長 補 佐 井 尻 好 雄 大 阪 薬 科 大 学 臨 床 薬 剤 学 教 室 准 教 授 大 嶋 繁 城 西 大 学 薬 学 部 医 薬 品 情 報 学 講 座 准 教 授 小 川 雅 史 大 阪 大 谷 大 学 薬 学 部 臨 床 薬 学 教 育 研 修 センター 実 践 医 療 薬 学 講 座 教 授 大 濵 修 福 山 大 学 薬 学 部 医 療 薬 学 総 合 研 究 部 門 教 授 笠 原 英 城 社 会 福 祉 法 人 恩 賜 財 団 済 生 会 千 葉 県 済 生 会 習 志 野 病 院 副 薬 剤 部 長 小 池 香 代 名 古 屋 市 立 大 学 病 院 薬 剤 部 主 幹 後 藤 伸 之 名 城 大 学 薬 学 部 医 薬 品 情 報 学 研 究 室 教 授 小 林 道 也 北 海 道 医 療 大 学 薬 学 部 実 務 薬 学 教 育 研 究 講 座 准 教 授 鈴 木 義 彦 国 立 病 院 機 構 東 京 医 療 センター 薬 剤 科 長 高 柳 和 伸 財 団 法 人 倉 敷 中 央 病 院 薬 剤 部 長 1
濱 敏 弘 癌 研 究 会 有 明 病 院 薬 剤 部 長 林 昌 洋 国 家 公 務 員 共 済 組 合 連 合 会 虎 の 門 病 院 薬 剤 部 長 ( 敬 称 略 ) 重 篤 副 作 用 総 合 対 策 検 討 会 秋 野 けい 子 財 団 法 人 日 本 医 薬 情 報 センター 理 事 飯 島 正 文 昭 和 大 学 病 院 院 長 皮 膚 科 教 授 池 田 康 夫 早 稲 田 大 学 理 工 学 術 院 先 進 理 工 学 部 生 命 医 科 学 教 授 市 川 高 義 日 本 製 薬 工 業 協 会 医 薬 品 評 価 委 員 会 PMS 部 会 委 員 犬 伏 由 利 子 消 費 科 学 連 合 会 副 会 長 岩 田 誠 東 京 女 子 医 科 大 学 名 誉 教 授 上 田 志 朗 千 葉 大 学 大 学 院 薬 学 研 究 院 医 薬 品 情 報 学 教 授 笠 原 忠 慶 應 義 塾 常 任 理 事 薬 学 部 教 授 金 澤 實 埼 玉 医 科 大 学 呼 吸 器 内 科 教 授 高 杉 敬 久 社 団 法 人 日 本 医 師 会 常 任 理 事 戸 田 剛 太 郎 財 団 法 人 船 員 保 険 会 せんぽ 東 京 高 輪 病 院 名 誉 院 長 林 昌 洋 国 家 公 務 員 共 済 組 合 連 合 会 虎 の 門 病 院 薬 剤 部 長 松 本 和 則 獨 協 医 科 大 学 特 任 教 授 森 田 寛 お 茶 の 水 女 子 大 学 保 健 管 理 センター 所 長 座 長 ( 敬 称 略 ) 2
本 マニュアルについて 従 来 の 安 全 対 策 は 個 々の 医 薬 品 に 着 目 し 医 薬 品 毎 に 発 生 した 副 作 用 を 収 集 評 価 し 臨 床 現 場 に 添 付 文 書 の 改 訂 等 により 注 意 喚 起 する 警 報 発 信 型 事 後 対 応 型 が 中 心 である しかしながら 1 副 作 用 は 原 疾 患 とは 異 なる 臓 器 で 発 現 することがあり 得 ること 2 重 篤 な 副 作 用 は 一 般 に 発 生 頻 度 が 低 く 臨 床 現 場 において 医 療 関 係 者 が 遭 遇 する 機 会 が 少 ない ものもあること などから 場 合 によっては 副 作 用 の 発 見 が 遅 れ 重 篤 化 することがある 厚 生 労 働 省 では 従 来 の 安 全 対 策 に 加 え 医 薬 品 の 使 用 により 発 生 する 副 作 用 疾 患 に 着 目 した 対 策 整 備 を 行 うとともに 副 作 用 発 生 機 序 解 明 研 究 等 を 推 進 することにより 予 測 予 防 型 の 安 全 対 策 への 転 換 を 図 ることを 目 的 として 平 成 17 年 度 から 重 篤 副 作 用 総 合 対 策 事 業 をスタートした ところである 本 マニュアルは 本 事 業 の 第 一 段 階 早 期 発 見 早 期 対 応 の 整 備 として 重 篤 度 等 から 判 断 して 必 要 性 の 高 いと 考 えられる 副 作 用 について 患 者 及 び 臨 床 現 場 の 医 師 薬 剤 師 等 が 活 用 する 治 療 法 判 別 法 等 を 包 括 的 にまとめたものである 記 載 事 項 の 説 明 本 マニュアルの 基 本 的 な 項 目 の 記 載 内 容 は 以 下 のとおり ただし 対 象 とする 副 作 用 疾 患 に 応 じて マニュアルの 記 載 項 目 は 異 なることに 留 意 すること 患 者 の 皆 様 へ 患 者 さんや 患 者 の 家 族 の 方 に 知 っておいて 頂 きたい 副 作 用 の 概 要 初 期 症 状 早 期 発 見 早 期 対 応 のポイントをできるだけわかりやすい 言 葉 で 記 載 した 医 療 関 係 者 の 皆 様 へ 早 期 発 見 と 早 期 対 応 のポイント 医 師 薬 剤 師 等 の 医 療 関 係 者 による 副 作 用 の 早 期 発 見 早 期 対 応 に 資 するため ポイントになる 初 期 症 状 や 好 発 時 期 医 療 関 係 者 の 対 応 等 について 記 載 した 副 作 用 の 概 要 副 作 用 の 全 体 像 について 症 状 検 査 所 見 病 理 組 織 所 見 発 生 機 序 等 の 項 目 毎 に 整 理 し 記 載 し た 3
副 作 用 の 判 別 基 準 ( 判 別 方 法 ) 臨 床 現 場 で 遭 遇 した 症 状 が 副 作 用 かどうかを 判 別 ( 鑑 別 )するための 基 準 ( 方 法 )を 記 載 した 判 別 が 必 要 な 疾 患 と 判 別 方 法 当 該 副 作 用 と 類 似 の 症 状 等 を 示 す 他 の 疾 患 や 副 作 用 の 概 要 や 判 別 ( 鑑 別 ) 方 法 について 記 載 し た 治 療 法 副 作 用 が 発 現 した 場 合 の 対 応 として 主 な 治 療 方 法 を 記 載 した ただし 本 マニュアルの 記 載 内 容 に 限 らず 服 薬 を 中 止 すべきか 継 続 すべきかも 含 め 治 療 法 の 選 択 については 個 別 事 例 において 判 断 されるものである 典 型 的 症 例 本 マニュアルで 紹 介 する 副 作 用 は 発 生 頻 度 が 低 く 臨 床 現 場 において 経 験 のある 医 師 薬 剤 師 は 少 ないと 考 えられることから 典 型 的 な 症 例 について 可 能 な 限 り 時 間 経 過 がわかるように 記 載 した 引 用 文 献 参 考 資 料 当 該 副 作 用 に 関 連 する 情 報 をさらに 収 集 する 場 合 の 参 考 として 本 マニュアル 作 成 に 用 いた 引 用 文 献 や 当 該 副 作 用 に 関 する 参 考 文 献 を 列 記 した 医 薬 品 の 販 売 名 添 付 文 書 の 内 容 等 を 知 りたい 時 は 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 の 医 薬 品 医 療 機 器 情 報 提 供 ホームページの 添 付 文 書 情 報 から 検 索 することが 出 来 ます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬 の 副 作 用 により 被 害 を 受 けた 方 への 救 済 制 度 については 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 のホームページの 健 康 被 害 救 済 制 度 に 掲 載 されています (http://www.pmda.go.jp/) 4
腫 瘍 崩 壊 症 候 群 英 語 名 :tumor lysis syndrome A. 患 者 の 皆 様 へ ここでご 紹 介 している 副 作 用 は まれなもので 必 ず 起 こるというものではありません ただ 副 作 用 は 気 づかずに 放 置 していると 重 くなり 健 康 に 影 響 を 及 ぼすことがあるので 早 めに 気 づいて 対 処 することが 大 切 です そこで より 安 全 な 治 療 を 行 う 上 でも 本 マニ ュアルを 参 考 に 患 者 さんご 自 身 またはご 家 族 に 副 作 用 の 黄 色 信 号 として 副 作 用 の 初 期 症 状 があることを 知 っていただき 気 づいたら 医 師 あるいは 薬 剤 師 に 連 絡 してください 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 は 悪 性 腫 瘍 の 治 療 時 腫 瘍 が 急 速 に 死 滅 ( 崩 壊 )するときに 生 じ 体 内 の 尿 酸 が 増 える カリウム カルシウム リンなどの 電 解 質 のバランスが 崩 れる 血 液 が 酸 性 になる 腎 臓 から の 尿 の 産 生 が 減 少 するなどの 異 常 が 出 現 します 通 常 治 療 開 始 後 12 時 間 ~72 時 間 以 内 に 起 きます 初 期 症 状 を 自 覚 して 早 期 発 見 することは 難 しい 副 作 用 です そのた め 的 確 に 副 作 用 を 把 握 するには 血 液 検 査 尿 検 査 尿 量 測 定 が 重 要 となります また 副 作 用 を 起 こさないために 水 分 補 給 などの 予 防 策 が 大 切 です なお 治 療 開 始 後 12 時 間 ~72 時 間 以 内 に 尿 量 が 減 ったと 気 付 い たら ただちに 医 師 看 護 師 薬 剤 師 におしらせください 5
1. 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 とは? 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 とは 悪 性 腫 瘍 の 治 療 の 際 に 抗 がん 剤 治 療 や 放 射 線 療 法 の 効 果 が 優 れており 腫 瘍 が 急 速 に 死 滅 ( 崩 壊 )するときに 起 きます 体 内 の 尿 酸 が 増 える カリウム カルシウム リンなど の 電 解 質 のバランスが 崩 れる 血 液 が 酸 性 になる 腎 臓 からの 尿 の 産 生 が 減 少 するなどの 異 常 が 出 現 します 腫 瘍 を 死 滅 させることが 悪 性 腫 瘍 の 治 療 の 目 的 ですので 治 療 が うまくいった 時 に 起 きる 副 作 用 ともいえます 通 常 治 療 開 始 後 12 時 間 ~72 時 間 以 内 に 起 きてきます 腫 瘍 細 胞 が 大 量 に 崩 壊 するときに それらの 細 胞 より 大 量 の 核 酸 ( 細 胞 の 中 にある 核 すなわち 遺 伝 子 を 形 成 している 物 質 ) カリ ウムなどの 電 解 質 酸 などが 放 出 されます 通 常 核 酸 は 尿 酸 に 分 解 代 謝 されて 腎 臓 より 尿 中 に 排 泄 されます 核 酸 が 大 量 に 放 出 さ れるので 大 量 の 尿 酸 が 体 内 で 作 られます 尿 酸 が 痛 風 の 原 因 とご 存 知 の 方 も 多 いと 思 いますが 尿 酸 が 足 の 親 指 の 関 節 などで 結 晶 化 した 時 に 痛 風 になります もともと 尿 酸 は 結 晶 化 しやすい 物 質 で す 尿 酸 は 尿 中 に 排 泄 されますが 尿 中 に 多 量 に 排 泄 され 尿 の 中 の 尿 酸 が 高 濃 度 になると 尿 中 で 結 晶 化 されます この 尿 酸 の 結 晶 が 尿 細 管 や 尿 管 という 尿 の 通 る 管 の 内 側 に 詰 まってしまうと 尿 が 外 に 出 られなくなってしまいます 尿 が 出 なくなると 急 性 腎 不 全 と なり 場 合 によっては 一 時 的 に 人 工 透 析 が 必 要 になります 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 を 予 防 するために 効 果 の 高 い 治 療 を 行 う 際 に 色 々な 工 夫 が 行 われます その 予 防 法 を 下 に 列 挙 します 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 の 起 きやすさを 目 安 に これらの 予 防 法 のいくつかを 組 み 合 わせて 行 います 1) 水 分 を 多 く 摂 る: 水 を 飲 む 点 滴 で 水 分 を 補 給 することが 大 切 です 水 分 を 多 く 摂 ると 尿 が 薄 められ 尿 酸 が 結 晶 化 しにく くなります 電 解 質 のバランスが 崩 れることも 予 防 しま す 2) 核 酸 から 尿 酸 を 作 ることを 抑 制 するアロプリノールという 薬 を 治 療 前 から 予 防 的 に 服 用 します 6
3) 体 をアルカリ 性 にするためにクエン 酸 塩 重 曹 ( 炭 酸 水 素 ナト リウム)を 服 用 します アルカリ 性 にすると 尿 酸 の 水 ( 尿 )への 溶 解 度 が 増 し 尿 酸 が 結 晶 化 しにくくなります 同 時 に 血 液 が 酸 性 に なることを 防 ぎます 4) 尿 酸 を 分 解 するラスブリカーゼという 薬 を 使 います 2010 年 に 販 売 を 開 始 した 薬 です この 薬 は 尿 酸 を 分 解 す ることで 血 液 中 の 尿 酸 を 減 少 させます 2. 早 期 発 見 と 早 期 対 応 のポイント 腫 瘍 を 急 速 に 死 滅 ( 崩 壊 )させる 治 療 は 一 般 的 に 入 院 しておこ ないますので この 副 作 用 は 入 院 している 時 ( 治 療 開 始 後 12 時 間 から 72 時 間 以 内 )に 起 こることがあります ご 自 身 が 気 づくこの 副 作 用 特 有 の 早 期 の 症 状 は 少 なく 大 切 なことは 上 記 予 防 法 をしっ かり 実 行 していくことです さらに 副 作 用 を 的 確 に 把 握 するには 血 液 検 査 尿 検 査 尿 量 測 定 が 重 要 となります 治 療 開 始 後 特 に 48 時 間 以 内 は 時 間 ごとの 尿 量 測 定 血 液 中 の 尿 酸 濃 度 や 腎 不 全 の 目 安 となるクレアチニン 濃 度 などの 測 定 血 液 の 酸 性 度 の 測 定 などを 頻 繁 に 行 います 患 者 さんが 感 じる 症 状 が 出 ないうちの 早 期 に 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 の 兆 候 を 捕 まえる 大 切 な 検 査 ですのでご 理 解 ください 予 防 対 策 頻 回 の 検 査 にもかかわらず この 副 作 用 がおきても 重 く ならないように 各 種 の 治 療 法 が 用 意 されています ただし 最 近 では 外 来 での 化 学 療 法 が 増 えており ご 自 身 にも 理 解 していただき 予 防 法 を 実 行 していただくことが 重 要 です また 来 院 していただくスケジュールの 間 に 万 が 一 尿 量 が 減 ったと 気 付 いたら ただちに 医 師 看 護 師 薬 剤 師 におしらせください 7
医 薬 品 の 販 売 名 添 付 文 書 の 内 容 等 を 知 りたい 時 は 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 の 医 薬 品 医 療 機 器 情 報 提 供 ホームページの 添 付 文 書 情 報 から 検 索 することが 出 来 ます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬 の 副 作 用 により 被 害 を 受 けた 方 への 救 済 制 度 については 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 のホームページの 健 康 被 害 救 済 制 度 に 掲 載 されています 8
B. 医 療 関 係 者 の 皆 様 へ 1. 早 期 発 見 と 早 期 対 応 のポイント (1) 副 作 用 の 好 発 時 期 原 因 治 療 薬 の 開 始 後 通 常 12~72 時 間 以 内 に 発 症 する (2) 患 者 側 のリスク 因 子 もっとも 大 きなリスク 因 子 は 患 者 の 罹 患 している 疾 患 である 急 性 白 血 病 ( 急 性 骨 髄 性 白 血 病 急 性 リンパ 球 性 白 血 病 ) 悪 性 リンパ 腫 などが 大 きなリ スク 因 子 となる( 表 -3) もともとの 腎 機 能 が 低 下 脱 水 尿 の 濃 縮 酸 性 尿 などもリスク 因 子 である 表 -3) 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 を 生 じ 得 る 腫 瘍 の 種 類 と 頻 度 AML(11~27%, 17%) ALL(19~63%, 47%) CLL(0~10%, 3.5%) CML(0.9~9%, 4%) 悪 性 リンパ 腫 (18~28%, 22%) 多 発 性 骨 髄 腫 (0~3.9%, 1.4%) 固 形 癌 (1~5%, 3.6%) (3) 早 期 に 認 められる 症 状 および 検 査 異 常 典 型 的 な 症 状 は 治 療 開 始 6 時 間 以 内 において まず 高 カリウム 血 症 が 現 れる 少 し 遅 れて 24~48 時 間 後 にリン カルシウム 尿 酸 が 変 動 し それ 以 後 に 血 清 クレアチニン 値 が 上 昇 し 急 性 腎 不 全 が 生 じやすい 高 カリウム 血 症 については 腫 瘍 細 胞 内 は 細 胞 外 に 比 べカリウム 濃 度 が 高 い ため 崩 壊 されると 生 じる 症 状 として 筋 力 低 下 知 覚 異 常 や 嘔 気 嘔 吐 な どの 消 化 器 症 状 が 含 まれるが 血 清 カリウム 値 が 6.5mEq/L 以 上 となると 致 死 性 不 整 脈 の 危 険 が 高 まる 高 尿 酸 血 症 は 細 胞 崩 壊 により 大 量 に 放 出 された 核 酸 より 産 生 される 尿 酸 に よって 生 じる 腎 尿 細 管 は 元 来 皮 質 から 髄 質 側 にかけて 尿 酸 の 濃 度 勾 配 が 存 在 し 尿 が 尿 細 管 を 移 動 して 集 合 管 に 至 るとき 尿 酸 濃 度 が 最 大 となる この とき 尿 酸 結 晶 が 集 合 管 内 で 析 出 すると 尿 細 管 閉 塞 が 起 こり 急 性 尿 酸 腎 症 と なり 急 性 腎 不 全 に 至 ることがある また TLS の 高 尿 酸 血 症 に 対 して 予 防 的 治 療 的 によくアロプリノールが 用 いられるが 尿 酸 産 生 は 相 対 的 に 減 少 するも のの その 代 りに 前 駆 体 のヒポキサンチンとキサンチンの 尿 中 排 泄 が 増 大 する キサンチン 様 結 晶 の 存 在 を 尿 中 に 高 頻 度 に 認 めた 急 性 腎 不 全 の 場 合 高 キサン 9
チン 尿 症 が 原 因 となっている 可 能 性 もある 高 キサンチン 尿 症 を 予 防 するため に 尿 酸 酸 化 酵 素 であるラスブリカーゼを 使 用 する 機 会 も 増 加 している リン カルシウムについては 白 血 病 治 療 開 始 24-48 時 間 に 尿 細 管 でのリン 酸 の 再 吸 収 は 元 のレベルの 20-70%に 低 下 し 尿 中 の 排 泄 が 3-24 倍 に 増 量 す るといわれている 尿 細 管 でのリン 酸 濃 度 の 上 昇 により リン 酸 カルシウム 塩 の 尿 細 管 内 析 出 がはじまり 急 性 腎 不 全 を 生 じる また TLS に 伴 って 発 現 し 得 る 徴 候 の 一 つとして 乳 酸 アシドーシスが 挙 げ られ その 出 現 と 程 度 が TLS の 重 症 度 に 相 関 するとされる 乳 酸 アシドーシス は 血 中 乳 酸 値 が 4mEq/L 以 上 となり ph<7.37 を 示 す 代 謝 性 アシドーシスで anion gap ([Na+]-([Cl-]+[HCO3-]))が 開 大 する Kussmaul 型 過 換 気 血 圧 低 下 頻 脈 無 気 力 嘔 気 などの 症 状 を 呈 し さらに 増 悪 すると 意 識 障 害 に 至 る 乳 酸 アシドーシスの 一 般 的 な 原 因 は ショックや 敗 血 症 などにより 組 織 の 循 環 血 流 の 低 下 や 低 酸 素 の 病 態 で 生 じ 糖 尿 病 やアルコール 中 毒 などの 基 礎 疾 患 は 危 険 因 子 である TLS における 乳 酸 アシドーシスの 原 因 は 明 らかではないが 乳 酸 産 生 の 機 序 をミトコンドリアの 機 能 不 全 に 続 く 代 償 性 の 嫌 気 性 解 糖 の 亢 進 の 結 果 とみており 大 量 の 腫 瘍 細 胞 が 一 挙 にアポトーシスを 起 こす 時 に 一 過 性 に 乳 酸 産 生 の 亢 進 が 起 きる 可 能 性 が 示 唆 されている (4) 推 定 原 因 医 薬 品 報 告 頻 度 の 高 い 医 薬 品 は レナリドミド(Lenalidomide), イマチニブ (Imatinib), ニロチニブ(Nilotinib), フルダラビン(Fludarabine), サ リドマイド(Thalidomide ), リツキシマブ(Rituximab ), LBH589(Panobinostat 平 成 22 年 12 月 現 在 国 内 未 発 売 ), カペシタビン (Capecitabine), セツキシマブ(Cetuximab), スニチニブ(Sunitinib), ドセタキセル(Docetaxel), ゲムシタビン(Gemcitabine), ベバシズマブ (Bevacizumab)である 各 医 薬 品 の 副 作 用 発 現 頻 度 は 不 明 である TLS の 発 生 頻 度 は リスク 対 象 と なる 症 例 の 設 定 基 準 TLS の 予 防 処 置 の 有 無 と 内 容 さらに TLS の 診 断 基 準 の 取 り 方 によって 大 きく 異 なってくる 2. 副 作 用 の 概 要 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 (tumor lysis syndrome:tls)は 何 らかの 原 因 による 腫 瘍 の 急 速 な 細 胞 崩 壊 のために 細 胞 内 成 分 とその 代 謝 産 物 が 腎 の 生 理 的 排 泄 能 力 を 越 えて 体 内 に 蓄 積 し 尿 酸 リン カリウムの 血 中 濃 度 上 昇 低 カルシウム 血 症 乳 酸 アシドーシス さらには 乏 尿 を 伴 う 急 性 腎 不 全 を 含 む 多 彩 な 病 態 を 生 じる 急 激 な 細 胞 崩 壊 の 原 因 として 抗 がん 剤 や 放 射 線 その 他 の 治 療 開 始 が 契 機 となるのが 通 常 であるが 細 胞 回 転 の 著 しい 亢 進 と 腫 瘍 量 の 増 大 のため 10
既 に 治 療 前 に TLS の 徴 候 がみられる 症 例 もある 2008 年 米 国 臨 床 腫 瘍 学 会 (ASCO)ガイドラインによると laboratory TLS と clinical TLS に 分 け 前 者 はリン, カルシウム, カリウム, 尿 酸 のうち 2 つ 以 上 に 基 準 値 と 比 べ 25% 以 上 の 変 動 がある 場 合 に 定 義 され( 表 -1) 後 者 は 血 清 クレアチニン 値 不 整 脈 けいれんをもとに grade0-5 まで 分 けて 定 義 している( 表 -2 ) 表 -1)Laboratory TLS ガイドライン 元 素 血 中 測 定 値 基 準 値 からの 変 化 尿 酸 476μmol/L 以 上 または 8mg/dL 以 上 25% 増 加 カリウム 6.0mmol/L 以 上 または 6.0mg/dL 以 上 25% 増 加 リン 酸 2.1mmol/L 以 上 ( 小 児 ),1.45mmol/L 以 上 ( 成 人 ) 25% 増 加 カルシウム 1.75mmol/L 以 下 25% 低 値 表 -2)Clinical TLS ガイドライン 合 併 症 0 1 2 3 4 5 クレアチニン 1.5 倍 以 下 1.5 1.5-3.0 3.0-6.0 6.0 以 上 死 亡 心 臓 不 整 脈 なし 処 置 不 要 薬 物 療 法 症 状 あり 重 篤 死 亡 ( 緊 急 性 なし) ( 薬 物 療 法 除 細 動 では 不 十 分 ) けいれん なし なし 短 時 間 意 識 低 下 長 時 間 死 亡 一 過 性 反 復 性 (コントロ ール 不 良 ) 3. 治 療 方 法 ( 予 防 治 療 ) 腫 瘍 細 胞 が 大 きい 場 合 薬 剤 または 放 射 線 に 対 し 高 い 感 受 性 を 有 する 場 合 たとえば Burkitt リンパ 腫 またはその leukemic counterpart としての ALL-L3 や T リンパ 芽 球 性 リンパ 腫 (lymphoblastic lymphoma:lbl) あるいは 白 血 球 数 の 多 い 急 性 白 血 病 (ALL や AML)はリスクファクターとなるので 留 意 しておく また 脱 水 尿 量 減 少 酸 性 尿 濃 縮 尿 はリスクファクターであるので 治 療 前 には 補 正 しておく 具 体 的 には 水 分 負 荷 ( 補 液 ) 利 尿 アロプリノール 投 与 尿 アルカリ 化 である 11
具 体 的 予 防 法 治 療 法 1 水 分 負 荷 利 尿 急 激 な 細 胞 崩 壊 により 大 量 に 発 生 した 尿 酸 リン カリウムを 速 やかに 体 外 に 排 泄 し 尿 酸 とリン 酸 カルシウム 塩 の 尿 細 管 内 析 出 を 防 ぐために 大 量 補 液 を 開 始 して 尿 流 量 を 確 保 する 化 学 療 法 開 始 の 少 なくとも 24~48 時 間 前 より 補 液 を 始 める 2 アロプリノール 急 激 な 細 胞 崩 壊 により 生 じる 高 尿 酸 血 症 を 予 防 するために アロプリノー ルを 投 与 する アロプリノール 投 与 に 伴 うキサンチン 腎 症 の 予 防 のために も 水 分 負 荷 は 必 須 である 3 尿 アルカリ 化 尿 酸 の 析 出 を 尿 アルカリ 化 によって 抑 制 するために アルカリの 投 与 ( 重 曹 クエン 酸 塩 )を 尿 酸 値 が 高 い 時 期 には 行 う 強 度 の 尿 アルカリ 化 は 高 リン 血 症 患 者 においてはリン 酸 カルシウム 沈 着 を 促 すので 注 意 する 必 要 がある またクエン 酸 塩 にはカリウムも 含 まれるため 高 カリウム 患 者 に は 十 分 注 意 して 投 与 すること 4 高 カリウム 血 症 への 対 処 高 カリウム 血 症 が 著 しい 場 合 には Glucose-Insulin (GI) 療 法, 陽 イオン 交 換 樹 脂 投 与 フロセミド 投 与 透 析 など 適 切 に 行 う 5 乳 酸 アシドーシスの 早 期 診 断 ショックの 是 正 透 析 などであるが 死 亡 率 が 高 いので 早 期 診 断 早 期 発 見 が 必 要 である 6 尿 酸 を 分 解 するラスブリカーゼの 予 防 投 与 ラスブリカーゼは 尿 酸 酸 化 酵 素 であり 尿 酸 を 酸 化 しアラントインに する 主 として 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 予 防 のために 使 用 する 化 学 療 法 開 始 前 4~24 時 間 に 初 回 投 与 を 静 注 で 行 い 1 日 1 回 5~7 日 投 与 する 副 作 用 としてアナフィラキシー 溶 血 ヘモグロビン 尿 メトヘモグ ロビン 血 症 がある 7 透 析 の 適 応 腎 不 全 著 しい 高 カリウム 血 症 高 尿 酸 血 症 乏 尿 など 通 常 の 治 療 に ては 対 処 不 能 な 時 は 人 工 透 析 を 行 う 12
4. 典 型 的 症 例 概 要 典 型 的 症 例 ドセタキセル+ネダプラチン 57 歳 男 性 胸 部 下 部 食 道 癌 に 対 し 左 開 胸 開 腹 食 道 亜 全 摘 および 三 領 域 リンパ 節 郭 清 を 施 行 した 病 理 組 織 診 断 は 高 分 化 型 扁 平 上 皮 癌 であった 術 後 の 補 助 療 法 は 本 人 が 望 まなかったため いったん 退 院 となったが 1 年 後 にリ ンパ 節 転 移 多 発 性 骨 転 移 多 発 性 肺 転 移 を 認 め 化 学 療 法 目 的 で 再 入 院 とな った 化 学 療 法 (docetaxel 30mg/m2+nedaplatin 30mg/m2 を 隔 週 投 与 ) 開 始 11 日 後 の 採 血 で 血 清 カリウム 値 6.3 meq/l, 尿 酸 値 11.0 mg/dl,リン 値 7.2mg/dl, 血 清 クレアチニン 値 8.57 mg/dl となった TLS と 診 断 し 補 液 及 び 利 尿 薬 の 併 用 アロプリノール 投 与 クエン 酸 カリウム クエン 酸 ナトリウ ム 投 与 を 行 ったところ 奏 功 し 救 命 された ( 癌 と 化 学 療 法 2008; 35: 2030-2032) 13
参 考 1 薬 事 法 第 77 条 の4の2に 基 づく 副 作 用 報 告 件 数 ( 医 薬 品 別 ) 注 意 事 項 1) 薬 事 法 第 77 条 の4の2の 規 定 に 基 づき 報 告 があったもののうち 報 告 の 多 い 推 定 原 因 医 薬 品 を 列 記 したもの 注 ) 件 数 とは 報 告 された 副 作 用 の 延 べ 数 を 集 計 したもの 例 えば 1 症 例 で 肝 障 害 及 び 肺 障 害 が 報 告 された 場 合 には 肝 障 害 1 件 肺 障 害 1 件 として 集 計 2) 薬 事 法 に 基 づく 副 作 用 報 告 は 医 薬 品 の 副 作 用 によるものと 疑 われる 症 例 を 報 告 するものであ るが 医 薬 品 との 因 果 関 係 が 認 められないものや 情 報 不 足 等 により 評 価 できないものも 幅 広 く 報 告 されている 3) 報 告 件 数 の 順 位 については 各 医 薬 品 の 販 売 量 が 異 なること また 使 用 法 使 用 頻 度 併 用 医 薬 品 原 疾 患 合 併 症 等 が 症 例 により 異 なるため 単 純 に 比 較 できないことに 留 意 すること 4) 副 作 用 名 は 用 語 の 統 一 のため ICH 国 際 医 薬 用 語 集 日 本 語 版 (MedDRA/J)ver. 12.0 に 収 載 さ れている 用 語 (Preferred Term: 基 本 語 )で 表 示 している 年 度 副 作 用 名 医 薬 品 名 件 数 平 成 20 年 度 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 平 成 21 年 度 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 ボルテゾミブ 7 コハク 酸 プレドニゾロンナトリウム 3 ゾレドロン 酸 水 和 物 3 メシル 酸 イマチニブ 3 ヨード 化 ケシ 油 脂 肪 酸 エチルエステル 2 塩 酸 エピルビシン 2 リンゴ 酸 スニチニブ 2 シスプラチン 2 硫 酸 ビンクリスチン 2 シタラビン 2 その 他 6 合 計 34 プレドニゾロン 5 ダサチニブ 水 和 物 3 リツキシマブ 3 トシル 酸 ソラフェニブ 3 ボルテゾミブ 2 その 他 11 合 計 27 医 薬 品 の 販 売 名 添 付 文 書 の 内 容 等 を 知 りたい 時 は 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 の 医 薬 品 医 療 機 器 情 報 提 供 ホームページの 添 付 文 書 情 報 から 検 索 することができます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬 の 副 作 用 により 被 害 を 受 けた 方 への 救 済 制 度 については 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 のホームペー ジの 健 康 被 害 救 済 制 度 に 掲 載 されています (http://www.pmda.go.jp/index.html) 14
参 考 2 ICH 国 際 医 薬 用 語 集 日 本 語 版 (MedDRA/J)ver.14.1 における 主 な 関 連 用 語 一 覧 日 米 EU 医 薬 品 規 制 調 和 国 際 会 議 (ICH)において 検 討 され 取 りまとめられた ICH 国 際 医 薬 用 語 集 (MedDRA) は 医 薬 品 規 制 等 に 使 用 される 医 学 用 語 ( 副 作 用 効 能 使 用 目 的 医 学 的 状 態 等 )についての 標 準 化 を 図 ることを 目 的 としたものであり 平 成 16 年 3 月 25 日 付 薬 食 安 発 第 0325001 号 薬 食 審 査 発 第 0325032 号 厚 生 労 働 省 医 薬 食 品 局 安 全 対 策 課 長 審 査 管 理 課 長 通 知 ICH 国 際 医 薬 用 語 集 日 本 語 版 (MedDRA/J) の 使 用 について により 薬 事 法 に 基 づく 副 作 用 等 報 告 に おいて その 使 用 を 推 奨 しているところである 下 記 にMedDRAのPT( 基 本 語 )である 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 を 示 す また MedDRAでコーディングされたデータを 検 索 するために 開 発 されたMedDRA 標 準 検 索 式 (SMQ)では 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 に 相 当 するSMQは 現 時 点 では 提 供 されていない 名 称 PT: 基 本 語 (Preferred Term) 腫 瘍 崩 壊 症 候 群 英 語 名 Tumour lysis syndrome 15