日本小児看護学会誌 Journal of Japanese Society of Child Health Nursing Vol.26 p.15-22, 2017 doi: /jschn.26_15 研究報告 子どもと家族にかかわるすべての看護師に求められること これからの小児看護

Similar documents
短 報 Nurses recognition and practice about psychological preparation for children in child health nursing in the combined child and adult ward Ta

Bulletin of Toyohashi Sozo University 2017, No. 21, 臨床実習指導で実習指導者が倫理的ジレンマと捉えた課題と対処 植村由美子 * 1 大島弓子 * 2 抄録 キーワード : clinical instruct

実習指導に携わる病棟看護師の思い ‐ クリニカルラダーのレベル別にみた語りの分析 ‐

ども これを用いて 患者さんが来たとき 例えば頭が痛いと言ったときに ではその頭痛の程度はどうかとか あるいは呼吸困難はどの程度かということから 5 段階で緊急度を判定するシステムになっています ポスター 3 ポスター -4 研究方法ですけれども 研究デザインは至ってシンプルです 導入した前後で比較

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

習う ということで 教育を受ける側の 意味合いになると思います また 教育者とした場合 その構造は 義 ( 案 ) では この考え方に基づき 教える ことと学ぶことはダイナミックな相互作用 と捉えています 教育する 者 となると思います 看護学教育の定義を これに当てはめると 教授学習過程する者 と


2013 年度 統合実習 [ 表紙 2] 提出記録用紙 5 実習計画表 6 問題リスト 7 看護過程展開用紙 8 ( アセスメント用紙 1) 9 ( アセスメント用紙 2) 学生証番号 : KF 学生氏名 : 実習期間 : 月 日 ~ 月 日 実習施設名 : 担当教員名 : 指導者名 : 看護学科

表紙.indd

<4D F736F F F696E74202D208ED089EF959F8E F958B5A8F70985F315F91E630338D E328C8E313393FA8D E >

Ⅲ 目指すべき姿 特別支援教育推進の基本方針を受けて 小中学校 高等学校 特別支援学校などそれぞれの場面で 具体的な取組において目指すべき姿のイメージを示します 1 小中学校普通学級 1 小中学校普通学級の目指すべき姿 支援体制 多様な学びの場 特別支援教室の有効活用 1チームによる支援校内委員会を

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください がんの疑い 体調がおかしいな と思ったまま 放っておかないでください な


ICTを軸にした小中連携

Slide 1

12 Vol. 12, No Benner 8 ICU 1 2 ICU Krippendorff, K ICU 5

<4D F736F F F696E74202D2093FA967B8AC E397C38A7789EF837C E815B81408EBF934995AA90CD8F4390B394C52D2D2D32205B8CDD8AB B83685D>

資料2 本調査の依頼書(対象者用)

SBOs- 3: がん診断期の患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 4: がん治療期 ; 化学療法を受けている患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 5: がん治療期 ; 放射線療法を受けている患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 6: がん治療期

ける臨床実習指導者と病棟看護師の役割分担を明確にして協力体制を整えることで 病棟 全体で学生指導に携わるという実習環境を整えることができると考え 実践計画を立案す ることとした II. 計画内容 1. 目的臨床実習指導における臨床実習指導者と病棟看護師の役割分担を明確にし 臨床実習指導体制を整える

家政_08紀要48号_人文&社会 横組

1 国の動向 平成 17 年 1 月に中央教育審議会答申 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について が出されました この答申では 幼稚園 保育所 ( 園 ) の別なく 子どもの健やかな成長のための今後の幼児教育の在り方についての考え方がまとめられています この答申を踏まえ

表紙案8

看護師のクリニカルラダー ニ ズをとらえる力 ケアする力 協働する力 意思決定を支える力 レベル Ⅰ 定義 : 基本的な看護手順に従い必要に応じ助言を得て看護を実践する 到達目標 ; 助言を得てケアの受け手や状況 ( 場 ) のニーズをとらえる 行動目標 情報収集 1 助言を受けながら情報収集の基本

総合診療

(1) 体育・保健体育の授業を改善するために

11号02/百々瀬.indd

1. 緒言 p 問題の所在 ) p

00.\...ec5

<4D F736F F D20906C8AD489C88A778CA48B8689C881408BB38A77979D944F82C6906C8DDE88E790AC96DA95572E646F6378>

DV問題と向き合う被害女性の心理:彼女たちはなぜ暴力的環境に留まってしまうのか

日本臨床麻酔学会 vol.36

000-はじめに.indd

72 豊橋創造大学紀要第 21 号 Ⅱ. 研究目的 Ⅲ. 研究方法 1. 対象 A B

説明項目 1. 審査で注目すべき要求事項の変化点 2. 変化点に対応した審査はどうあるべきか 文書化した情報 外部 内部の課題の特定 リスク 機会 利害関係者の特定 QMS 適用範囲 3. ISO 9001:2015への移行 リーダーシップ パフォーマンス 組織の知識 その他 ( 考慮する 必要に応

看護部 : 教育理念 目標 目的 理念 看護部理念に基づき組織の中での自分の位置づけを明らかにし 主体的によりよい看護実践ができる看護職員を育成する 目標 看護職員の個々の学習ニーズを尊重し 専門職業人として成長 発達を支援するための教育環境を提供する 目的 1 看護専門職として 質の高いケアを提供

Microsoft PowerPoint - centerPJ09yamamoto.ppt [互換モード]

「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて

13 Ⅱ-1-(2)-2 経営の改善や業務の実行性を高める取組に指導力を発揮している Ⅱ-2 福祉人材の確保 育成 Ⅱ-2-(1) 福祉人材の確保 育成計画 人事管理の体制が整備されている 14 Ⅱ-2-(1)-1 必要な福祉人材の確保 定着等に関する具体的な計画が確立し 取組が実施されている 15

2 保険者協議会からの意見 ( 医療法第 30 条の 4 第 14 項の規定に基づく意見聴取 ) (1) 照会日平成 28 年 3 月 3 日 ( 同日開催の保険者協議会において説明も実施 ) (2) 期限平成 28 年 3 月 30 日 (3) 意見数 25 件 ( 総論 3 件 各論 22 件

蝨ー蝓溯・豐サ縺ィ繧ウ繝溘Η繝九ユ繧」蠖「謌舌↓髢「縺吶k螳滓・隱ソ譟サ・域擲莠ャ迚茨シ峨€仙悸邵ョ縺ェ縺励€・indd

<4D F736F F F696E74202D C E9197BF A90EA96E58AC58CEC8E E88AC58CEC8E F0977B90AC82B782E98AF991B682CC89DB92F682C682CC8AD68C5782C982C282A282C42E >

Core Ethics Vol.

学習指導要領の領域等の平均正答率をみると 各教科のすべての領域でほぼ同じ値か わずかに低い値を示しています 国語では A 問題のすべての領域で 全国の平均正答率をわずかながら低い値を示しています このことから 基礎知識をしっかりと定着させるための日常的な学習活動が必要です 家庭学習が形式的になってい

年 9 月 24 日 / 浪宏友ビジネス縁起観塾 / 法華経の現代的実践シリーズ 部下を育てない 事例甲課乙係のF 係長が年次有給休暇を 三日間連続でとった F 係長が三日も連続で休暇をとるのは珍しいことであった この三日の間 乙係からN 課長のところへ 決裁文書はあがらなかった N

資料5 親の会が主体となって構築した発達障害児のための教材・教具データベース

いろいろな衣装を知ろう

Ⅱ. 用語の操作的定義 Ⅲ. 対象と方法 1. 対象 WAM NET 2. 調査期間 : 3. 調査方法 4. 調査内容 5. 分析方法 FisherMann-Whitney U Kruskal-Wallis SPSS. for Windows 6. 倫理的配慮 Vol. No.

ケア困難患者や家族への直接ケア 医療スタッフへのコンサルテーション 退院や倫理的問題を調整する調整 ケアの質を改善 向上させるための教育と研究を実践し CNS が関わることで患者の病状や日常生活機能と社会的機能が改善して 患者と家族の QOL が高まり 再入院が減少することが明らかとなってきておりま

Taro-小学校第5学年国語科「ゆる

6. 研究が終わった後 血液を他の研究に使わせてください 詳しくは ページへ 病には未解決の部分がまだ多く残っています 今後のさらなる研究のため ご協力をお願いいたします ( 必要に応じて ) バンク事業へのご協力をお願いします 遺伝子を扱う研究を推進するため 多くの人の遺伝子の情報を集めて研究に使

小学生の英語学習に関する調査

24 京都教育大学教育実践研究紀要 第17号 内容 発達段階に応じてどのように充実を図るかが重要であるとされ CAN-DOの形で指標形式が示されてい る そこでは ヨーロッパ言語共通参照枠 CEFR の日本版であるCEFR-Jを参考に 系統だった指導と学習 評価 筆記テストのみならず スピーチ イン

サマリー記載について

00

当院人工透析室における看護必要度調査 佐藤幸子 木村房子 大館市立総合病院人工透析室 The Evaluation of the Grade of Nursing Requirement in Hemodialysis Patients in Odate Municipal Hospital < 諸

豊川市民病院 バースセンターのご案内 バースセンターとは 豊川市民病院にあるバースセンターとは 医療設備のある病院内でのお産と 助産所のような自然なお産という 両方の良さを兼ね備えたお産のシステムです 部屋は バストイレ付きの畳敷きの部屋で 産後はご家族で過ごすことができます 正常経過の妊婦さんを対

≪障がい者雇用について≫

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol 12, No 1, pp 49 59, 2008 資料 看護師におけるメンタリングとキャリア結果の関連 Relationship between M

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

Ⅰ. 緒言 Suzuki, et al., Ⅱ. 研究方法 1. 対象および方法 1 6 表 1 1, 調査票の内容 図

001

総合的な探究の時間 は 何を 何のために学ぶ学習なのか? 総合的な探究の時間 は与えられたテーマから みなさんが自分で 課題 を見つけて調べる学習です 総合的な探究の時間 ( 総合的な学習の時間 ) には教科書がありません だから 自分で調べるべき課題を設定し 自分の力で探究学習 ( 調べ学習 )

地域生活サポートセンターいこな

0ミ

1 発達とそのメカニズム 7/21 幼児教育 保育に関する理解を深め 適切 (1) 幼児教育 保育の意義 2 幼児教育 保育の役割と機能及び現状と課題 8/21 12/15 2/13 3 幼児教育 保育と児童福祉の関係性 12/19 な環境を構成し 個々 1 幼児期にふさわしい生活 7/21 12/

環境 体制整備 4 チェック項目意見 事業所評価 生活空間は 清潔で 心地よく過ごせる環境になっているか また 子ども達の活動に合わせた空間となっているか クーラーの設定温度がもう少し下がればなおよいと思いました 蒸し暑く感じました お迎え時に見学させて頂きますが とても清潔だと思

46

220 28;29) 30 35) 26;27) % 8.0% 9 36) 8) 14) 37) O O 13 2 E S % % 2 6 1fl 2fl 3fl 3 4

HからのつながりH J Hでは 欧米 という言葉が二回も出てきた Jではヨーロッパのことが書いてあったので Hにつながる 内開き 外開き 内開きのドアというのが 前の問題になっているから Hで欧米は内に開くと説明しているのに Jで内開きのドアのよさを説明 Hに続いて内開きのドアのよさを説明している

<4D F736F F D E937893FC8A778E8E8CB196E291E8>

DVD DVD

短 報 A narrative analysis of nurses uncomfortable feelings and dilemmas experienced in teamwork 1 1 Megumi TAGUCHI Michio MIYASAKA キーワード : 違和感 ジレンマ チーム

Microsoft Word - 医療学科AP(0613修正マスタ).docx

プログラムの特徴はじめにはじめに 公益社団法人日本看護協会 本研修プログラムの特徴 日本看護協会看護師職能委員会 Ⅱ 介護 福祉関係施設 在宅等領域 委員長齋藤訓子 近年 介護施設を取り巻く環境は 入居者の医療的ケアの増加や要介護度の上昇など大きく変化しています こうした状況を鑑み 日本看護協会では

Microsoft PowerPoint - 電子ポートフォリオのフィードバック(配付).pptx

Microsoft Word - 9概要(多保田春美).docx

授業概要と課題 第 1 回 オリエンテェーション 授業内容の説明と予定 指定された幼児さんびか 聖書絵本について事後学習する 第 2 回 宗教教育について 宗教と教育の関係を考える 次回の授業内容を事前学習し 聖書劇で扱う絵本を選択する 第 3 回 キリスト教保育とは 1 キリスト教保育の理念と目的

精神科病棟に勤務する熟練看護師に備わっている能力調査 半構成的インタビューを通して 鈴木亮 1) 鈴木孝三 1) 櫻井信人 2) 1) 独立行政法人国立病院機構さいがた医療センター 2) 新潟県立看護大学 キーワード : 熟練精神科看護師 目的平成 25 年度から厚生労働省は, がんや脳卒中などの

Water Sunshine

JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

DOUSHISYA-sports_R12339(高解像度).pdf

l. 職業以外の幅広い知識 教養を身につけたいから m. 転職したいから n. 国際的な研究をしたかったから o. その他 ( 具体的に : ) 6.( 修士課程の学生への設問 ) 修士課程進学を決めた時期はいつですか a. 大学入学前 b. 学部 1 年 c. 学部 2 年 d. 学部 3 年 e

shiryou2-1_shikuchouson-survey2.docx

3-2 学びの機会 グループワークやプレゼンテーション ディスカッションを取り入れた授業が 8 年間で大きく増加 この8 年間で グループワークなどの協同作業をする授業 ( よく+ある程度あった ) と回答した比率は18.1ポイント プレゼンテーションの機会を取り入れた授業 ( 同 ) は 16.0

表 参照文献 ( 文献 ). 185, Expert Nurse. 1211, suppl, , CNS 2000, , , , 4

蘇生をしない指示(DNR)に関する指針


untitled

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

PowerPoint プレゼンテーション

ISN_Preschool_boshuu_nagano.pdf

I II

 

A5 PDF.pwd

日本臨床麻酔学会 vol.37

PowerPoint プレゼンテーション

平成18年度

Try*・[

Transcription:

日本小児看護学会誌 Journal of Japanese Society of Child Health Nursing Vol.26 p.15-22, 2017 doi: 10.20625/jschn.26_15 研究報告 子どもと家族にかかわるすべての看護師に求められること これからの小児看護につながる小児看護学実習の課題 Elements required for nurses who interact with children and their families: Educational issues of undergraduate pediatric nursing practice 川名るり *1, 吉田玲子 *1, 太田智子 *1, 江本リナ *1, 鈴木健太 *2, 鈴木翼 *3, 山内朋子 *1 *1, 筒井真優美 Ruri Kawana *1, Reiko Yoshida *1, Tomoko Ota *1, Rina Emoto *1, Kenta Suzuki *2, Tsubasa Suzuki *3, Tomoko Yamauchi *1, Mayumi Tsutsui *1 抄録本研究は小児看護の専門性を熟知しつつ かつ 病院全体の小児看護にかかわる相談を受ける立場にある現役の小児看護専門看護師 ( 以下 小児 CNS) の視点からみた 子どもと家族にかかわるすべての看護師に求められることを明らかにし 小児看護学実習における課題と示唆を得ることを目指した 小児 CNS 7 名へ半構成的面接を実施した その結果 小児 CNS はコンサルテーション業務等でかかわる成人看護師の戸惑いや現場の状況を踏まえて 子どもと家族にかかわるすべての看護師には以下の内容が求められると考えていることが明らかになった 1. 子どもには大人とは異なる さじ加減 があり 発達の見方をつなぎ合わせて子どもを理解すること 2. 親 親子関係の発達を踏まえた専門的なかかわりが必要な時期があることを理解すること 3. 子どもと家族 医療者の間で協同するスタンスをもつこと 4. 人生初期の体験は後に与える影響が大きいため労力や時間をかけるのは当たり前という考えをもつこと 今後 さらに臨床現場で生じる課題を見通し 臨床現場のニーズに対応できる看護師育成を視野に入れて 基礎教育での実習展開や指導について具体的に再検討をすることが求められる Abstract To describe what types of understanding were needed by nurses who interact with children and their families as seen by Certified Nurse Specialists in Child Health Nursing(CNSs). The research participants were seven CNSs. The following four elements were found to be needed in nurses who interact with children and their families. 1. It is important to recognize that while it is okay to wait and observe signs of a condition in adults, the condition in children can worsen rapidly, so children require more attentive assessment. 2. It is important to understand that there is a critical period for children and their families when they need nursing specialty recognizing the parent development and development of parent-child relationship. 3. It is vital that nurses see children and their family as a single unit. It is also important for nurses to take the stance that they are providing care in collaboration with the family. 4. The experiences of infancy have a strong influence on children s lives when they grow older. For this reason, when providing children with nursing care it is important to accept that a lot of time and effort in providing care and support for children and their families is a prerequisite for maintaining the child s development. キーワード : 看護師に求められること 小児看護 看護実践 小児看護専門看護師 Key Words: elements required for nurses, child health nursing, nursing practice, certified nurse specialists 受理 :2016 年 12 月 26 日 *1 日本赤十字看護大学 /Japanese Red Cross College of Nursing *2 日本赤十字看護大学大学院博士後期課程 /Doctoral program, Japanese Red Cross College of Nursing *3 埼玉県立小児医療センター /Saitama Children s Medical Center 15

日本小児看護学会誌第 26 巻 (2017) Ⅰ. 序論近年 少子高齢化に伴い小児病棟 小児科外来等の閉鎖や縮小が進められてきた このような日本の医療事情の中で 小児病棟 小児科外来のない病院でも子どもと家族への対応に迫られるよう変化している 小児看護の実践能力は小児科のような子どもの看護を専門とする場の看護師だけでなく 領域を問わずすべての看護師に必要となってきた その結果 対応に苦慮するさまざまな臨床現場の様子が報告されている ( 天野, 松山, 赤松,2014) 現在 看護系大学では専門領域中心の教育からコアとなる看護実践能力育成の教育へと視点の転換がなされている しかし これまでの小児看護学という専門領域中心の教育内容をコアカリキュラムへ具体的にどのように設定するかは各大学に任されており ( 文部科学省,2011) 実習への言及も皆無に等しい 各大学では小児看護学の何をコアとして捉え どう教育すべきか すなわち コアカリキュラムの中で教授すべき小児看護学のコアとなる内容とはどのようなものか このことを考えるには 小児科はもとより現在の子どもと家族の看護が展開されるさまざまな臨床現場の看護師にとって コアとなる小児看護実践能力とは何かを考えることが喫緊の課題である そこで われわれはこれまで現在の臨床状況につなぐ看護基礎教育 ( 以下 基礎教育 ) としてコアとなる小児看護学の教育内容を検討することに注目してきた 先行研究では小児看護学実習での実習場の拡大 実習内容や方法の工夫などについてさまざまに報告されていた ( 吉田, 川名, 江本他,2014) しかし 専門領域を問わず 子どもと家族の看護が展開される多様な臨床現場でのニーズに対応できる看護師育成を視野に入れた コアとなる小児看護学の基礎教育 中でも実習内容を検討したものは見当たらない そこで臨床現場で子どもと家族にかかわる看護師に今何が求められているのかという視点をもって 小児看護学の教育的課題を明らかにする必要があると考えた これは小児看護を専門とする病棟や外来だけではなく 成人病棟や一般外来等 通常は主に大人が対象となる臨床現場での子ども ( 患児 ) とその家族の看護を含めて焦点を当てている 今回 小児看護の専門性を熟知しつつ かつ 病院全体の小児看護にかかわる相談を受ける立場にあ る現役の小児看護専門看護師 (Certified Nurse Specialist in Child Health Nursing 以下 小児 CNS) の視点からみた 子どもと家族にかかわるすべての看護師に求められることを明らかにし 小児看護学の基礎教育 とりわけ実習における教育的課題と示唆を得ることを目指すこととした Ⅱ. 研究目的小児 CNS が考える子どもと家族にかかわるすべての看護師に求められることを明らかにし 小児看護学の基礎教育 とりわけ実習における教育的課題と示唆を得る Ⅲ. 研究方法 1. 研究参加者看護系大学の小児看護学実習指導経験があり 協力の得られた小児 CNS 7 名 ( 総合病院の小児病棟 混合病棟 小児専門病院他 ) 施設内では病棟をまたいで小児看護のコンサルテーション業務等も担っている 小児 CNS 経験が 5 年以上ある看護師が 4 名 小児看護学実習指導経験が 5 年以上ある看護師が 6 名であった 2. データ収集期間 2015 年 1 月 ~3 月 3. データ収集半構成的面接法 各 3 名のグループ 2 組と日程調整が難しかった1 名 1 組にインタビューを実施した ファシリテーターの経験のある研究者が各グループのファシリテーターを務め 1 子どもと家族の看護にかかわるすべての看護師に備えてほしいこと 2 その理由 を中心に自由に語ってもらった インタビューは平均約 80 分であった メモと IC レコーダーへの録音について許可を得て実施した 4. データ分析逐語録を作成し インタビュー内容 1 2についてデータを繰り返し読み 小児 CNSの考えを説明する重要な点を特定した 小児 CNSが現場の課題をどのように認識し 子どもと家族にかかわるすべての看護師にどのようなことが求められると考えるかを 16

示す鍵となる内容を文脈的にテーマとして抽出した 分析内容は共同研究者間で繰り返し検討し 必要時 研究参加者へ解釈の確認をして妥当性を高めた 5. 倫理的配慮研究参加の任意性 途中辞退や同意撤回の保証 個人情報保護等を書面と口頭で説明し書面で同意を得た 所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得た Ⅳ. 結果小児 CNS は小児病棟へ異動してきた看護師や主に大人を対象に看護している看護師 ( 以下 成人看護師 ) にコンサルテーション等でかかわる機会をもっていた 小児 CNSは成人看護師が子どもと家族への看護に戸惑いや悩みを抱えていると感じたり現場の状況に課題を感じていた インタビューではそのような成人看護師の姿を通して見出される 子どもと家族だからこそ求められる特徴ある看護について語られていった 小児 CNS が語った子どもと家族にかかわるすべての看護師に求められることとは 特定の知識や技術 行為そのものというよりも子どもや家族との関係において看護行為を生み出す基盤となる子どもと家族の理解の仕方 向き合い方と言えるものであった 子どもと家族にかかわるすべての看護師に求められると考えられたコアとなる 4 つの内容を以下に示す 小児 CNS の語りの中で重要と思われた表現を 中でも文脈として重要な内容をゴチック体 小児 CNS がかかわった成人看護師の語りを で示した 1. 大人とは異なるアセスメントの さじ加減 と発達の見方をつなぎあわせて子どもを理解する小児 CNS は 時折 成人看護師から子どものケアは ちょっと困った という ( 拒否の ) 反応をされると語っていた そして 成人看護師がなぜ困ったり拒否的な反応を示したりするのかについて 小児 CNS は次のように代弁した 自分のかかわりによって何かがあった時に命にかかわってしまうところが怖い と言っていたんで す しかし 成人看護師の気持ちを理解しつつ小児 CNS は 子どもは気管切開カニューレや栄養チューブの 位置ひとつで致死的な状況 に陥ってしまうため アセスメントの さじ加減 が大人とは違うことをわかっていてほしいと語った また さじ加減 を図る子どもの見方 ( 観察の仕方 ) は発達の見方とつながっており それが理解できれば子どもを拒否せず 目の前の子どもを看ることができる だから発達の見方とつながっていることを理解して怖がらずに子どもを看てほしいと語った そして 次のように続けた 尿量の減少が見られた時 大人なら少し様子を見ている範囲でも 子どもは急激に状態が悪くなるので すぐに医師に報告するなどアクションを起こしたほうがいい 小児 CNS が語る大人とは違うアセスメントの さじ加減 には どこまでなら今の様子を見ていて大丈夫かという判断も含まれていた つまり さじ加減 とは 位置ひとつで致死的な状況 に陥るのを防ぎ 急激に状態が悪くなる のを事前に察するのに重要なものだった さらに 小児 CNS は子どもの身体をアセスメントする上で知ってほしい子どもの見方 ( 観察の仕方 ) の特徴について 次のようにも語った 遊びを通したコミュニケーションの取り方は 一見仕事してないように見えたとしても そこに意図的なかかわりがある 駄々をこねたり 嫌がったりっていうのがあっても 子どもの見方につながってくることを知って欲しい 小児 CNS は子どもの身体にかかわる重要な情報が遊びを通して現れるため 子どもにかかわる看護師には遊びという手段を使って意図的に子どもを観察してほしい それが子どものアセスメントの さじ加減 の手がかりになることを知ってほしいと語っていた 同時に 遊びの重要性がわからないと遊びの中で子どもを意図的に観察できず重要な情報を得る機会を失ってしまう また ほかの看護師が 子どもと遊んでいる様子を 仕事をしていない ように見てしまうと 小児 CNS は危惧していた 17

日本小児看護学会誌第 26 巻 (2017) 2. 子どもを理解するということの中に 親 親子関係の発達を踏まえた専門的なかかわりが必要な時期があることを理解する小児 CNS は成人看護師が乳児も幼児も子どもとしてひとくくりに見てしまうことや 大人と同じように思春期の子どもと接する様子をみて 子どもが理解されていないのではないかと感じていた そして もう一歩踏み込んで子どもを理解してほしいと考えていた 乳児を理解することについて 次のように語った 乳児って言葉で表現できないので 看ている側も言葉じゃない部分でキャッチしなきゃいけない 付き添いをしている親御さん自体も まだその子の異常とか 何か違うというのを 私もわからない というプロセスにいる そういう親御さんが付き添っている子を看ている そういう看護は ( 自分も ) 医師も難しいと思っています 小児 CNSは乳児を看護する場合 子どもの発達段階だけではなく親の発達段階も考慮することが重要だと語っていた なぜなら 親自身がもともと子どもと接した経験が少ないまま親となっていることが多く そのため 親も自分の子どもをわからない 親 ( 家族 ) が動揺しているという状況で付き添いをしている現状があるからだと言う その状況で子ども 親へかかわらなければならず そこに難しさがあると語った しかし 親も子どもの成長に伴い 徐々に子どもの身体の変化を察知できるようになり 子どもの代弁もできるようになると小児 CNSは付け加えた その意味で乳児の看護はまだ親が発達初期の段階にいるため 特に専門性が求められると語った 他方で 小児 CNSは思春期の子どもを理解する難しさについても語った 成人病棟に入院していた思春期の子どもが 治療で髪の毛が抜けたことを看護師に聞かれて 別に と言ったこと その言葉だけが記録に残されていたことの話を続けた 本人の言うことの奥に 何かがあるはずなんですけれど もう一押ししたらその子がもう少し何か気持ちを言えたかもしれないと思ったことがあったんです 小児 CNS は子どもの語りの奥にある思いを見極める難しさについて語るとともに 子どもの 別に の意味がわかるようになるのは 小児看護を専門にしていても数年かかると思うと語った 同時に 親も子どもの気持ちがわからないという ( 親子関係の ) 変化の時期にある と言い 思春期は親も子どもの気持ちに入ることが難しい時期なので その分 看護師は子どもを取り巻く人々の言葉や表情を大切にして 子ども 親 ( 家族 ) の思いを察しながら専門的にかかわることが重要だと繰り返し語った このように小児 CNSは 乳児期は親が親としての発達初期にいる 思春期は親子関係に変化が起こるという特徴を理解したかかわりの重要性を語っていた しかし一方で すべての成人看護師に専門的なかかわりをしてほしいと求めていたわけではなかった 専門性が必要だとわかることで より専門的な知識をもつ人に早めに相談できるのではないか と語っていたのである とは言え 専門性が必要だという理解そのものが 成人看護師には 子どもは特別 と思われたり 子どもと家族に接する上での 壁 を作る要因となっていることを 小児 CNS は危惧していた 3. 自立に至っていない子どもと代諾する家族 医療者の三者間で 協同するスタンスを持つ小児 CNS は慢性疾患の子どもへの移行期支援を通して 成人と小児の医療スタッフでは患者の自己責任と家族の捉え方が違うように感じると語っていた そして 小児 CNS は成人病棟で行われる 本人の意思に基づいて というかかわりが 慢性疾患の子どもと家族にとっては これまでの ( 小児科での ) かかわりと異なるために 突然 あなたの意思は? とくると子どもも親御さんもびっくりして 見放された と思ってしまうことがあるようです と語った 成人のスタッフは 本人の意思に基づいて治療するスタンスがある 要望を聞いて進むし なければないで進む 成人病棟では子どもも一人の人として扱われるか もしくは 子どもだから言ってもわからないから親御さんに ってなる 大人は自分で考えることができるけれど 子どもは経験が少ないから医療者が一緒に考えることで闘病を理解していく 一緒に考えることが子どもへのケアになるんですよね 小児 CNS は成人病棟での 本人の意思に基づい 18

て というかかわりについて 子どもの自立性を尊重する良い意味もあり 逆に 小児科ではもう少し取り入れたほうが良いとも考えていた しかし一方で 処置の代諾者がいる小児期は 治療の決定だけを子ども本人に任せるのも少し違うように思う やっぱり家族と協同して子どものケアをするというスタンスをもつことが大切 だと語り さらに次のように話を続けた 治療を受ける子ども本人の意思と治療を代諾する親御さんとの間でそれが違うこともあります それをわかりつつ なるべく両者が一致するように というか三者ですよね 三者が一致するようにということを大切にしているんです 面会に来たときの親御さんの振るまいが 本当にどれだけ子どもの安心感につながるかとか 子どもと親の気持ちが同じようにシンクロする感じで 本当にショックだよねっていうところ 家族に対してかかわることの大切さがありますよね 小児 CNS は親が子どもに罪悪感を抱くだけではなく親としての責任を果たせたと思えるように また 子どもには治療に自分も参加してできたと思えるようにするという両者への配慮が大切だと語った そして 家族へは お母さんお願いします ではなく 一緒に考えましょう と協同する姿勢を示すことが大切であり 家族と話す時は子どもの目線で話すのか誰の目線で話すかを考えることも重要だと付け加えた しかし 成人看護師にとってそれは成人患者の家族へのかかわりとは違うようだった 昼寝中だからと親御さんに断わられるらしくて どのように調整 交渉していくかわからない と言われる 家族が別物として捉えられているようなんです 小児 CNSは 成人看護師は患者本人に必要なことだと思っても親 ( 第三者 ) に断られることで調整に戸惑ってしまうようだと語り その原因の一つを 成人看護師が家族を調整する当事者ではなく 別物と捉えているからではないかと感じていた 4. 人生初期の体験はのちに与える影響が大きいから 労力や時間をかけるのは当たり前という考えをもつ小児 CNS は 子どもは大人とは異なり スムーズ に診療を進めることができないが 子どもにとっては人生の体験の初期であり それが後に与える影響が大きいので 労力 時間をかけるのは当たり前 と思っていることが大切だと考えていた 年齢が低いと泣いて協力できない 技術的にもできないことがある 親御さんは自分のことなら我慢できるけど ( 中略 ) 子どもの場合 人生の体験の初期で生涯にわたる健康行動に影響を与える時期 だから一つひとつのケア 体験がのちに与える影響が大きいから労力 時間をかけるのは当たり前だと思うんです そこにスキルがある 小児 CNS は家族の意見を聞くのは成人患者も同じだが 採血や清拭も子どもの普段の生活ペースに合わせて上手く入り込む必要があり そのためには面会時間や付き添い者 家族背景を含めて事前に話し合っておくことが重要 でも この細やかな事前の調整が成人看護師には 手間がかかる と捉えられてしまうところだと語った さらに 小児 CNSは入院によって受験勉強ができない子どもや 友だちと修学旅行へ行けるのか 卒業式を一緒にできるのかといった 普段の生活から離れたことに悩む子どもたちの姿について語った そして 子どもにとって友だちと一緒に時間を過ごせないことがどれほど重大な悩みかを看護師がどれほど理解できるか 自覚できているかが 子どもと家族の気持ちに添うことにつながると語り 成長していく姿を想像しなから 必要なケアを考える 時間をかけるケア が大切だと語った しかし それもまた成人看護師からは 手間がかかる と捉えられてしまう現状が語られた 子どもののちの自立のためにも 将来のご家族のためにも 親御さんにも適切なかかわり方をしてほしい それには ( 子どもと親 ) 両者に配慮もアセスメントもしてかかわらなきゃいけないから 倍手間がかかるというか スキルも両者に対して必要になります ( 中略 ) こちらの提示にうまく乗ってもらえないこともある 成人患者でも同じでしょうけど 自分で責任取ってねというスタンスが ( 成人病 19

日本小児看護学会誌第 26 巻 (2017) 棟に ) ある でも 子どもは親御さんへの関与なしには成り立たない 必ず親子 家族セットになる でも そこまで手間がかけられない ってそういう風に捉えられてしまう そして 小児 CNSは基礎教育なのか現任教育かわからないがこの 時間をかけるケア の重要性を 健康な子どもがいない 病院の中だけで培うのは難しいと語った Ⅴ. 考察 1. 小児 CNS が考える子どもと家族にかかわるすべての看護師に求められること日本看護系大学協議会では 大学における看護学教育のコアとなる看護実践能力と 卒業時到達目標の基本的考えをまとめた ( 文部科学省,2011) そこでは習得すべき必要不可欠なコアとなる教育を検討する際 今後の社会や医療 看護の変化に対応可能な必要最小限の看護実践能力を中心に構成するよう示されている 本研究は小児看護を専門とする病棟や外来だけではなく 成人病棟や一般外来など 大人を対象とする臨床現場での子どもとその家族の看護を含めて焦点を当てた 成人看護師の戸惑いや現場で何が起きているかを踏まえてすべての看護師に求められることを明らかにしたことは 現代の医療の変化に対応可能な基礎教育を検討する上で重要な新たな知見である 今回の語りを通して 子どもとその家族にかかわる機会の少ない成人看護師が家族への配慮や処置で泣いて嫌がる子どもへの苦手意識を抱き 戸惑い それが問題にも発展していることが明らかになった その問題には看護行為の基盤となる子どもや家族への理解 姿勢が関与していると考えられ つまり 行為の基盤となる理解や姿勢こそ子どもと家族にかかわるすべての看護師に求められることだったと考えられるのである 子どもの処置が スムーズ にいかず難しさを感じていることに対して 小児 CNS は 時間をかけるのは当たり前 と考えることが大切であると語っていた この 時間をかける とは 単に時間の長さを意味するのではなかった 結果で示した通り 子どもの処置には家族と事前に細部にわたり調整し協同して子どものペースに上手く入る必要があった この一連のかかわりは子どもも取り組めたと思える体験 のちの自立, 将来のご家族 のためでもあり 家族への配慮や家族参加を含めた 家族セット であることが目指される その前提となる子ども理解には子どもにとっての親 ( 家族 ) の存在や親 親子関係の発達を理解することが重要とされた これが 時間をかけるケア であり 小児 CNS がすべての看護師に求める考え方であった また 小児 CNS がすべての看護師に求める さじ加減 は 位置ひとつで致死的な状況 に陥るのを防ぎ 急激に状態が悪くなる のを事前に察する判断であった しかし これが自分のかかわりによる命にかかわる 怖い ところでもあった 小児 CNS は 怖い という思いで 壁 を作らないよう求め 考え方 発想を転換することで 壁 に対応し 戸惑ったときにはいつでも専門家に助けを求めてよいことを提案している 今後 子どもと家族にかかわるすべての看護師が 壁 を作らず さじ加減 を身につけることができるような支援を具体的に検討することが求められる 2.すべての看護師が子どもと家族にかかわる可能性がある現代における基礎教育での課題今回 小児 CNSが子どもと家族の看護の特徴としてあげた内容は 大人とは違う さじ加減 親 親子関係の発達 子ども 家族との協同 時間軸の中での子どもと家族の理解であり 理解に伴うかかわりの重要性である これらは小児看護学実習の特徴としてあげられてきたものでもある ( 片山, 上山, 2011; 吉田, 川名, 江本他,2014) しかし 実際の臨床現場では命にかかわるケアの怖さや家族を含めた三者間の調整に難しさを感じる成人看護師の 子どもの看護に躊躇したり親から看護師に見放されたと思われたり 同僚から遊びを 仕事をしていない ように見られたりする問題として顕在 潜在している また こうした子どもの看護で感じる怖さや家族を含めた問題は小児病棟でも生じていることが報告されており ( 川名,2012) 本研究で小児 CNS から語られた成人看護師の戸惑いや課題状況と類似している 小児 成人病棟を問わず 看護師にとって子どもの看護で感じる怖さや家族との関係が看護する上での問題となる以上 怖さや家族との関係を現場の喫緊の課題と捉えて 解決に向けて取り組む必要がある 20

小児 CNS はケアの怖さを克服する具体的な方法として遊びを活用することを提案している 遊びを観察の手段としてさまざまな看護の場面で意図的に使うことで アセスメントの さじ加減 の手がかりを得ようと言うのである 太田 川名 鶴巻他 (2011) は 看護師は子どもの看護に遊びが大事だと理解していても 遊び とは時間を割いて遊ぶことだと狭義に捉えているため 子どもと遊ぶことに躊躇し罪悪感を抱いてしまうことを看護上の課題と捉えていた そこで オムツ交換時 歌いながら子どもに触れるという ケアに遊びを取り入れる 重要性を病棟内で周知しようと取り組んだ 小児 CNSの言う遊びとは こうしたケアに遊びを取り入れることであり だからこそ意図的に遊びを取り入れて 常に子どもの反応から重要な情報を得ようと言うのであろう 小児看護学の基礎教育では子どもの遊びの重要性や遊びへの援助についてさまざまに学習する機会があるが 臨床現場では遊びの捉え方が看護上の課題になっている つまり 基礎教育での学びが生かされていないのではないかと危惧される また 基礎教育では保育園実習の重要性は高く 病院では保育士の導入も増加している そのような中で 学生が保育士とは異なる看護師の立場で遊びをどのように捉えるのか 教育効果の再評価をする必要もあるだろう 今回 看護師の子どもの自立の捉え方が子どもと家族の 見放された という思いにつながりそれが問題として潜在していることが浮き彫りになった 移行期支援については基礎教育 生涯教育ともに重要視されつつもほとんど教授されていないと指摘されており ( 丸, 村上,2011) 基礎教育からの教育上の喫緊の課題と捉える必要がある 本研究では小児 CNSの語りを通して 看護における 子ども 家族 看護師の三者間で協同するスタンスの重要性が明らかになった 同時に スタンスをもっていない あるいは 家族を含めた調整に戸惑う成人看護師の現状も明らかになった 臨床現場での家族を含めたかかわりへの看護師支援 教育が求められてくる しかし この家族との調整にかかわる課題は すでに基礎教育でも指摘されてきた 山村 (2010) は小児看護学実習において 子どもの清拭をめぐる子ども 母親 学生の三者の協同が上手くいかないと きに調整に入る教員 指導者も苦慮しているというのである 小児看護を専門にしている指導者でも調整への支援が難しいならば 三者間で協同するスタンスをもたない また かかわりに戸惑う臨床現場の成人看護師に対して 誰がどこで何を伝え 支援 教育をするのかというさらなる課題が浮かび上がる 日本看護系大学協議会が教員に対する細やかな指導の必要性を指摘しているように 小児看護学実習の現場でも教員に対する指導や支援が必要とされている 基礎教育の中で家族と協同することの学びを十分に得られなければ臨床現場で学ぶしかないが このことは現場でも課題となっている 基礎教育での深刻な課題として 具体的な対策が望まれる 現在の小児看護学実習では継続的に一人の子どもを受け持つことができないことや 現在の家族形態の変化に伴う子どもと家族への影響を踏まえた実習展開の見直しが必要とされている ( 片山, 上山, 2011; 吉田, 川名, 江本他,2014) 共働きの家族が増える中 学生にとっては受け持ち患児の両親が面会に来られないので会えない 普段子どもと接していない遠方の祖父母が付き添いのため 日常の子どもの様子がわからない といった実習状況であることも少なくない 小児 CNSが現任教育で培うのは難しいと語る 時間軸の中での子どもと家族の理解を学生がいかに実感として得ることができるか まさに実習の再評価が必要である そしてこれからの小児看護学実習を考えるには臨床現場で生じる課題を見通し 臨床現場のニーズに対応できる看護師育成を視野に入れて 実習展開や指導について具体的に再検討をすることが求められると考える 以上 本研究で明らかにした課題は あくまで今回の研究参加者から語られた内容から検討した限定的なものである しかし 成人看護師の戸惑いや現場の状況を踏まえて浮き彫りにされた課題は 基礎教育における小児看護学実習を検討する上で貴重な一資料になると考える 今後はさらに 基礎教育と臨床現場とをつなぐ教育内容の具体的な検討が必要である 本研究にご協力いただきました小児看護専門看護師の皆様に深謝いたします 本研究は平成 25~28 年度文科省科研費補助金基盤研究 (C) 課題番号 (25463530) の助成を受けて行われ 第 3 回国 21

日本小児看護学会誌第 26 巻 (2017) 際ケアリング学会学術集会にて発表した 文献天野宜子, 松山三鈴, 赤松直子 (2014).A 病院救急外来トリアージ看護師が小児トリアージを行う上での 困難 に対する調査. 横浜市立市民病院看護部看護研究集録, 2013,7-12. 片山陽子, 上山和子 (2011). 看護系大学教育における小児看護学実習の動向と課題. 新見公立大学紀要,32,199-204. 川名るり (2012). 小児病棟の組織文化と看護実践患者が子どもであることによる困難さ. 看護研究,45(5),492-504. 丸光惠, 村上育穂 (2011). 小児慢性疾患患者の移行期支援. 治療,93(10),1994-2002. 文部科学省 (2011). 大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会最終報告.2016 年 4 月 14 日アクセス, http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/ 40/toushin/icsFiles/afieldfile/2011/03/11/1302921_1_1. pdf 太田有美, 川名るり, 鶴巻香奈子他 (2011). 子どもと大人の混合病棟にいる看護師の遊びに対する意識とケアの変化をおこすアクションリサーチ. 日本小児看護学会誌, 20(1),78-85. 山村美枝 (2010). 小児看護学の教員が語る実習における学生 子ども 母親との関係に関する指導の困難さ. 第 30 回日本看護科学学会学術集会講演集,265. 吉田玲子, 川名るり, 江本リナ他 (2014). 日本の看護系大学の小児看護学実習における教員および臨地実習指導者の指導内容. 日本小児看護学会誌,23(3),92-99. 22