生 命 保 険 論 集 第 160 号 機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 と コーポレートガバナンス 小 林 毅 ( 中 京 大 学 経 済 学 部 准 教 授 ) 1.はじめに 近 年 コーポレートガバナンスにおける 機 関 投 資 家 の 役 割 が 注 目 さ れている 従 来 日 本 企 業 のコーポレートガバナンスにおいては 主 に 内 部 昇 進 により 地 位 を 獲 得 した 経 営 陣 と いわゆるメインバンクの 発 言 力 が 大 きく 株 主 の 発 言 力 は 小 さかったと 考 えられている Lichtenberg and Puchner(1994) は 1980 年 代 の 日 本 において 金 融 機 関 の 株 式 保 有 が 経 営 監 視 等 によってコーポレートガバナンスに 大 き な 貢 献 をしてきたと 論 じている しかし 株 主 主 権 を 主 張 する 声 が 高 まり また 銀 行 の 経 営 状 態 の 悪 化 およびその 結 果 としての 資 金 供 給 能 力 の 低 下 株 式 持 合 いの 解 消 に 伴 って メインバンクの 発 言 力 は 低 下 した( 宮 島 2003) 株 主 のなかでも コーポレートガバナンスにおける 役 割 を 期 待 されているのは 主 に 機 関 投 資 家 であると 考 えられる 個 人 投 資 家 の 役 割 を 軽 視 するわけではないが 一 般 に 個 人 投 資 家 が 積 極 的 にコーポレートガバナンスに 関 与 するのは 容 易 ではないと 考 えられ ている 藤 井 鈴 木 (2004)はこの 点 に 関 して 個 人 投 資 家 がコーポ 75
機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス レートガバナンスに 関 与 することが 難 しい 理 由 を 1. 人 的 金 銭 的 資 源 が 乏 しい 2. 十 分 な 発 言 力 を 持 つためには 集 団 的 行 動 が 不 可 欠 だが それが 難 しい 3. 投 資 額 が 小 額 なため コストに 見 合 う 成 果 を 得 にく い という 点 にあると 述 べている そこで 本 研 究 では 生 命 保 険 会 社 に 代 表 される 機 関 投 資 家 を 取 り 上 げ 機 関 投 資 家 の 投 資 行 動 とコー ポレートガバナンスへの 関 与 について 実 証 研 究 を 試 みたい 生 命 保 険 会 社 のみならず 他 の 有 力 投 資 主 体 である 外 国 人 および 年 金 をも 取 り 上 げることによって 生 命 保 険 会 社 の 特 性 を 浮 彫 りにしたい 投 資 家 がコーポレートガバナンスに 関 与 する 動 機 は 投 資 収 益 にある と 考 えるのが 自 然 である 投 資 家 が 投 資 先 企 業 に 働 きかけ その 結 果 として 投 資 先 企 業 の 業 績 の 向 上 株 価 の 上 昇 を 目 指 していると 考 える ならば 投 資 家 のコーポレートガバナンスに 与 える 影 響 を 分 析 するた めのアプローチとして1. 議 決 権 行 使 等 投 資 家 の 投 資 先 企 業 への 直 接 的 な 働 きかけを 分 析 する2. 投 資 先 企 業 のガバナンス 体 制 と 企 業 業 績 企 業 行 動 株 価 等 の 成 果 との 関 係 を 明 らかにする3. 投 資 家 の 持 株 比 率 等 と 投 資 先 企 業 の 成 果 との 関 係 を 直 接 分 析 する が 考 えられ るであろう 1.のアプローチは 機 関 投 資 家 による 議 決 権 行 使 や 投 資 先 企 業 との ミーティング 等 コーポレートガバナンスへの 関 与 を 直 接 的 に 解 明 し ようとするものであり 日 本 を 対 象 とした 先 行 研 究 の 例 として 大 村 首 藤 増 子 (2001) 川 北 (2003)などをあげることができる 大 村 首 藤 増 子 (2001)は 年 金 基 金 信 託 銀 行 および 生 命 保 険 会 社 に 対 するアンケート 調 査 をもとに それぞれの 主 体 のコーポレートガバナ ンスに 対 する 姿 勢 を 分 析 している その 結 果 受 託 機 関 である 信 託 銀 行 や 生 命 保 険 会 社 は 議 決 権 行 使 等 を 通 じてコーポレートガバナンス に 関 与 する 傾 向 がうかがえるが 年 金 基 金 にはそのような 意 欲 があま 76
生 命 保 険 論 集 第 160 号 りないことを 明 らかにしている 生 命 保 険 協 会 に 関 しては 安 宅 川 (2003)は 生 命 保 険 協 会 のコーポレートガバナンスに 対 する 取 り 組 み を 評 価 して 協 会 の 活 動 には 一 定 の 評 価 をするものの 個 別 投 資 先 企 業 へのミクロベースの 活 動 については 熱 心 ではなかったと 述 べている 2.のアプローチをとるものとして 日 本 コーポレートガバナンス 研 究 所 (JCGR)の 調 査 に 基 づいた 報 告 書 ( 日 本 コーポレートガバナンス 研 究 所 (2003))や この 調 査 をもとにした 藤 島 (2004) 若 杉 (2004) がある これらの 研 究 は JCGRが 開 発 したコーポレートガバナンスに 関 する 指 標 であるJCGIndexが 高 い(コーポレートガバナンスが 優 れて いる) 企 業 ほど 業 績 が 優 れていることを 明 らかにしている また 大 谷 (2006)のサーベイでは コーポレートガバナンスに 優 れた 企 業 は 後 の 企 業 価 値 の 増 大 を 実 現 しているとする 先 行 研 究 がいくつか 紹 介 さ れている 最 後 のアプローチは 機 関 投 資 家 の 持 株 比 率 等 と 投 資 先 企 業 のパフ ォーマンスや 行 動 ( 配 当 性 向 設 備 投 資 など)との 関 係 を 観 察 するこ とにより 機 関 投 資 家 が 投 資 先 企 業 に 与 える 影 響 を 間 接 的 に 明 らかに する 手 法 である 馬 場 (2000)は 製 造 業 に 含 まれる6 業 種 を 分 析 し 外 国 人 投 資 家 の 持 株 比 率 が 高 い 企 業 ほど 収 益 性 が 高 く また 研 究 開 発 にも 積 極 的 であることを 示 した これらのアプローチには それぞれ 特 徴 があると 思 われる 1.のア プローチは 投 資 家 のコーポレートガバナンスへの 関 与 の 実 態 を 直 接 観 察 する 点 では 優 れている しかし 投 資 先 企 業 の 実 態 はそれぞれ 異 なり 最 適 な 関 与 の 手 段 も 当 然 異 なる 例 えば Carleton, Nelson, and Weisbach(1998)は 米 国 TIAA-CREFが1992 年 から1996 年 までにコーポレ ートガバナンスに 関 して 接 触 を 持 った45の 投 資 先 企 業 のうち 約 70% は 議 決 権 行 使 を 待 たずして 自 主 的 にTIAA-CREFの 要 求 を 受 け 入 れてい 77
機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス ることを 明 らかにしている これは 単 純 に 機 関 投 資 家 のコーポレー トガバナンスへの 関 与 を 議 決 権 行 使 やミーティングなどに 分 類 して 論 ずることの 難 しさと 限 界 を 物 語 っている また Karpoff, Malatesta, and Walking(1996)は コーポレートガバナンスに 関 する 株 主 提 案 がな されても そのことが 株 価 や 業 績 の 改 善 にはつながらないとしている また2.のアプローチは 企 業 の 組 織 のあり 方 と 成 果 との 関 係 を 問 うと いう 面 で 興 味 深 いが 投 資 家 など 外 部 者 の 態 度 行 動 には 触 れていな い 本 研 究 は3.のアプローチを 採 用 する このアプローチは 投 資 家 の コーポレートガバナンスへの 関 与 投 資 先 企 業 の 対 応 企 業 業 績 行 動 の 変 化 という 経 路 によって 機 関 投 資 家 の 意 向 が 企 業 業 績 行 動 に 反 映 されると 考 える 持 株 比 率 の 大 きい 投 資 家 ほど 企 業 経 営 により 強 く 関 与 できるならば 例 えば 長 期 的 視 野 で 投 資 を 行 う 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 が 高 い 企 業 ほど 長 期 的 視 野 で 設 備 投 資 等 を 決 定 する など といった 傾 向 が 観 察 されるであろう 投 資 家 は 常 に 最 適 な 手 段 でコー ポレートガバナンスに 関 与 している(あるいはコスト 面 を 考 慮 して 関 与 しない)と 仮 定 しているため 1.のアプローチで 述 べたような 議 決 権 行 使 とミーティングの 差 異 の 有 無 といった 問 題 は 捨 象 される こ のアプローチの 欠 点 は 企 業 業 績 行 動 の 変 化 は 景 気 や 技 術 革 新 他 企 業 との 競 争 などコーポレートガバナンス 以 外 のさまざまな 要 因 に 左 右 されるため 必 ずしも 明 確 な 結 果 が 得 られるとは 限 らない 点 にある 本 論 文 の 構 成 は 以 下 の 通 りである 第 2 節 では 実 証 分 析 の 手 法 につ いて 述 べる 第 3 節 では 実 証 分 析 の 結 果 について 議 論 する 第 4 節 で は 結 論 を 述 べる 78
生 命 保 険 論 集 第 160 号 2. 実 証 分 析 の 手 法 投 資 主 体 の 持 株 比 率 と 投 資 先 企 業 のパフォーマンス 等 との 関 係 につ いて 分 析 を 行 う 際 留 意 する 必 要 があるのは 因 果 関 係 である 例 えば 外 国 人 投 資 家 の 持 株 比 率 が 高 い 企 業 の 収 益 性 が 高 いという 結 果 が 得 ら れた 場 合 それは 外 国 人 投 資 家 の 投 資 先 企 業 へのコーポレートガバナ ンスへの 関 与 の 結 果 なのか あるいは 外 国 人 投 資 家 が 収 益 性 の 高 い 企 業 への 投 資 を 好 む 傾 向 があることが 原 因 なのかを 明 らかにする 必 要 が あろう 本 研 究 では 限 定 的 ではあるが 因 果 性 を 考 慮 するため 以 下 の 二 つの 回 帰 分 析 を 行 うこととした 回 帰 分 析 (1): 説 明 変 数 :2002 年 度 ( 本 研 究 では 2002 年 4 月 から2003 年 3 月 ま でをさす 以 下 同 様 ) 決 算 時 における 各 投 資 主 体 の 持 株 比 率 および 財 務 指 標 ( 後 述 ) 被 説 明 変 数 :ROE ROA 設 備 投 資 / 売 上 比 率 研 究 開 発 支 出 / 売 上 比 率 配 当 性 向 のそれぞれの2005 年 度 と2003 年 度 の 値 の 差 分 回 帰 分 析 (2): 説 明 変 数 :2002 年 度 年 度 持 株 比 率 と2000 年 度 持 株 比 率 の 差 分 ( 例 えばある 投 資 先 企 業 の 生 命 保 険 会 社 の2002 年 度 末 持 株 比 率 が6%で 2000 年 度 末 持 株 比 率 が5%であれば +1%)および2002 年 度 の 財 務 指 標 の 値 被 説 明 変 数 :2005 年 度 におけるROE ROA 設 備 投 資 / 売 上 比 率 研 究 開 発 支 出 / 売 上 比 率 配 当 性 向 の 値 これらの 被 説 明 変 数 のうち ROEおよびROAは 収 益 性 の 指 標 である 79
機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス また 設 備 投 資 および 研 究 開 発 支 出 は 主 に 投 資 家 の 投 資 視 野 の 長 さに 関 する 指 標 である 仮 に 短 期 的 な 利 益 を 追 求 する 投 資 家 が 存 在 するな らば そのような 投 資 家 の 持 ち 株 比 率 が 高 い 企 業 の 設 備 投 資 や 研 究 開 発 支 出 は 停 滞 する 可 能 性 がある また 説 明 変 数 には これらの 被 説 明 変 数 に 影 響 を 与 えると 考 えられる 財 務 指 標 として 2002 年 度 決 算 にお ける 現 金 / 売 上 比 率 Qレシオ( 株 式 時 価 総 額 を 会 計 上 の 株 主 資 本 で 除 したもの) 自 己 資 本 比 率 を 取 り 上 げた 現 金 / 売 上 比 率 は 企 業 の 内 部 資 金 の 制 約 を 表 す 変 数 である ペッキングオーダー 仮 説 では 企 業 が 調 達 する 資 金 には 調 達 方 法 によりコストが 異 なり 一 番 低 コストな のが 内 部 資 金 であると 考 えられる 従 って 内 部 資 金 の 多 寡 が 企 業 活 動 に 影 響 を 与 える 可 能 性 を 否 定 できないため 説 明 変 数 に 加 えた Q レシオは トービンのQの 簡 易 的 な 代 替 指 標 として 利 用 している ト ービンのQが1より 小 さい 企 業 は 設 備 投 資 を 抑 制 するのが 望 ましい というのが 教 科 書 的 な 理 解 である しかし 先 行 研 究 によれば 日 本 で は 必 ずしもこのことが 成 立 せず その 理 由 のひとつとしてコーポレー トガバナンスのあり 方 が 考 えられている 米 澤 佐 々 木 (2001)や 宮 島 蟻 川 斎 藤 (2001)では コーポレートガバナンスと 過 剰 投 資 問 題 (ト ービンのQから 判 断 して 日 本 企 業 の 多 くに 過 剰 投 資 が 見 られる)の 関 係 を 扱 っている この 過 剰 投 資 問 題 とは 企 業 が 成 長 を 重 視 するあ まり 非 効 率 な 投 資 を 行 っているというものである 米 澤 佐 々 木 (2001) は 外 国 人 投 資 家 の 持 株 比 率 が 高 い 企 業 では 過 剰 投 資 は 少 ないことを 示 し 外 国 人 投 資 家 が 株 主 利 益 の 重 視 を 要 求 するという 形 でコーポ レートガバナンスに 関 与 していると 主 張 した 本 来 であれば 総 資 産 負 債 を 時 価 評 価 したトービンのQを 用 いるのが 望 ましいが 本 論 文 は トービンのQ 自 体 を 分 析 するのが 目 的 ではないので 簡 易 的 にQレシ オを 利 用 した 自 己 資 本 比 率 は 現 金 / 売 上 比 率 と 同 じく 企 業 の 財 務 80
生 命 保 険 論 集 第 160 号 状 態 を 表 す 変 数 として 採 用 している 自 己 資 本 比 率 の 小 さい 企 業 は そうでない 企 業 と 比 較 して 資 金 調 達 が 容 易 ではなく その 結 果 設 備 投 資 などが 制 約 を 受 ける 可 能 性 がある データ 本 研 究 に 必 要 な 株 主 に 関 するデータは 大 株 主 総 覧 ( 東 洋 経 済 新 報 社 ) 各 号 から 得 ている 有 価 証 券 報 告 書 では 上 位 10 大 株 主 につい てのみ 公 表 義 務 があるが 大 株 主 総 覧 は 独 自 調 査 を 行 い 最 大 30 位 までの 大 株 主 の 名 前 と 持 株 数 を 明 らかにしている さらに 役 員 外 国 人 および 年 金 ( 信 託 ) の 持 株 数 をも 調 査 している この 資 料 は 有 用 であるが 以 下 の 点 に 注 意 する 必 要 がある まず 独 自 調 査 であるため 一 部 の 企 業 においては 欠 落 している 項 目 がある また 上 位 30 位 より 少 ない 株 主 しか 記 載 されていない 場 合 もある さらに 生 命 保 険 会 社 については 上 位 30 位 以 内 に 含 まれない 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 が 不 明 である 本 研 究 における 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 は 大 株 主 として 名 称 および 持 株 数 が 明 記 されている 生 命 保 険 会 社 の 持 株 数 の 合 計 から 算 出 しており 上 位 30 位 以 内 の 大 株 主 に 含 まれない 生 命 保 険 会 社 は 無 視 している そのため 実 際 の 生 命 保 険 会 社 全 体 の 持 株 比 率 よりは 小 さい 値 となっている このような 限 界 があることを 指 摘 した 上 で 本 研 究 では 大 株 主 総 覧 より 株 主 データを 得 ること とする また 投 資 先 企 業 の 財 務 データについては 会 社 四 季 報 ( 東 洋 経 済 新 報 社 ) 各 号 から 得 ている 分 析 の 対 象 は 分 析 の 対 象 期 間 を 通 じて 東 京 証 券 取 引 所 第 一 部 に 上 場 している 製 造 業 全 社 である このような 企 業 は 計 808 社 存 在 した た だし 一 部 の 企 業 については 数 値 の 一 部 が 欠 落 しており 分 析 に 必 要 な 数 値 が 得 られない 企 業 は 分 析 の 対 象 外 となっている 分 析 対 象 を 81
機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス 製 造 業 に 限 定 した 理 由 は 製 造 業 と 非 製 造 業 とでは 経 営 内 容 に 大 き な 差 異 があり 同 一 の 分 析 対 象 とみなすのは 無 理 があると 思 われるか らである 例 えば 非 製 造 業 には 研 究 開 発 支 出 がゼロである 企 業 が 少 なくない もちろん 製 造 業 に 含 まれる 企 業 も 業 種 によって 経 営 内 容 は 異 なるが この 差 は 製 造 業 と 非 製 造 業 の 差 異 よりも 小 さく 適 切 な 業 種 ダミー 変 数 を 利 用 することで 業 種 間 の 経 営 内 容 の 違 いを 吸 収 でき ると 思 われる 本 研 究 では 東 京 証 券 取 引 所 の 業 種 分 類 に 基 づいて 製 造 業 を 分 類 し 業 種 ダミー 変 数 ( 定 数 ダミー)を 説 明 変 数 に 加 えてい る 3. 分 析 結 果 の 解 釈 まず 役 員 生 命 保 険 会 社 外 国 人 および 年 金 のそれぞれの 投 資 主 体 の 持 株 比 率 の 状 況 について 概 観 する 分 析 対 象 である2002 年 度 の 値 および2002 年 度 と2000 年 度 の 変 化 の 大 きさの 平 均 値 ( 単 純 平 均 )を 表 1に 示 す これらの 主 体 のうちでは 外 国 人 の 持 株 比 率 が 最 も 高 く すでに 株 式 市 場 における 外 国 人 の 存 在 は 大 きなものとなっている ま た 年 金 の 持 株 比 率 が 増 大 し 生 保 をしのぐまでになっている また 役 員 の 持 株 比 率 も 生 保 や 年 金 と 比 較 しうるほどに 達 しており 無 視 で きない ただし この 数 値 は 単 純 平 均 であるため 比 較 的 規 模 が 小 さ く 役 員 持 株 比 率 が 高 いと 思 われるオーナー 系 企 業 が 全 体 の 数 値 を 押 し 上 げている 可 能 性 があることを 指 摘 しておく 82
生 命 保 険 論 集 第 160 号 表 1 投 資 主 体 の 持 株 比 率 の 平 均 値 およびその 増 分 02 年 度 (%) 2000 年 度 からの 増 分 (%) 役 員 3.324-0.061 生 保 4.023-0.767 外 国 人 7.689-0.283 年 金 4.290 0.972 実 証 分 析 の 結 果 は 表 2および3に 示 されている 表 2は 前 節 で 説 明 した 回 帰 分 析 (1)の 結 果 である 説 明 変 数 に 含 まれる 持 株 比 率 は2002 年 度 のものであり 一 方 被 説 明 変 数 は2005 年 度 と2003 年 度 の 差 分 であ る すなわち 2002 年 度 の 各 投 資 主 体 の 持 株 比 率 が その 後 の3 年 間 の 経 営 指 標 の 変 化 幅 にどのように 影 響 しているかを 推 計 している 被 説 明 変 数 が 研 究 開 発 支 出 / 売 上 であるとき 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 の 係 数 は 有 意 に 正 である すなわち 2002 年 度 末 に 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 が 高 い 企 業 ほど 2003 年 度 から2005 年 度 までの 間 に 売 上 に 対 する 研 究 開 発 支 出 の 伸 びが 大 きくなっている ただし ROEやROAなどの 経 営 効 率 性 を 被 説 明 変 数 にした 場 合 には 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 の 係 数 は 有 意 ではなく 配 当 性 向 の 差 分 を 持 株 比 率 とした 場 合 には 係 数 は 有 意 に 負 である これに 対 して 外 国 人 持 株 比 率 の 係 数 を 見 ると 投 資 や 研 究 開 発 支 出 には 影 響 しないが ROEには 有 意 に 正 の 影 響 を 与 えてい る すなわち 外 国 人 投 資 家 は 経 営 効 率 性 を 重 視 しており その 結 果 がROEの 伸 びに 表 れていると 考 えられる また 年 金 に 関 しては 係 数 が 有 意 であるものはなかった 83
機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス 表 2 回 帰 分 析 の 結 果 (1) 被 説 明 変 数 :2003 年 度 から2005 年 度 にかけての 各 変 数 の 変 化 説 明 変 数 : 役 員 生 保 外 国 人 年 金 は2002 年 度 の 各 投 資 主 体 の 持 株 比 率 その 他 は2002 年 度 の 値 投 資 / 売 上 研 究 / 売 上 ROE ROA 配 当 性 向 差 分 差 分 差 分 差 分 差 分 役 員 -0.0003 0.0002* -0.1804-0.0500-0.0054 生 保 0.0001 0.0003* -0.1282 0.0310-0.0438*** 外 国 人 0.0002-0.0000 0.3260* 0.0168 0.0062 年 金 0.0000 0.0002-0.5407-0.0871-0.0030 自 己 資 本 比 率 0.0025-0.0020-1.1464 0.4320-0.1259 Qレシオ -0.0003-0.0001 0.2082 0.1827 0.0226 総 資 産 -0.0043*** 0.0005 0.2011-0.2294 0.0299 現 金 / 売 上 -0.0685*** -0.0004-0.9973 0.1033-0.1900 R 2 0.4298 0.0521 0.0414 0.0788 0.0427 注 ) 本 論 文 を 通 じて 有 意 性 を 表 す 記 号 を 以 下 のように 定 める ***:1% 水 準 で 有 意 **:5% 水 準 で 有 意 *:10% 水 準 で 有 意 表 3は 回 帰 分 析 (2)の 結 果 であり 説 明 変 数 に 含 まれる 持 株 比 率 は 2002 年 度 と2000 年 度 の 差 分 であり 被 説 明 変 数 は2005 年 度 の 値 である すなわち 2000 年 度 から2002 年 度 にかけての 各 投 資 主 体 の 持 株 比 率 の 変 化 が その 後 (2005 年 度 )の 経 営 指 標 にどのような 影 響 を 与 えたの かを 推 計 したものである 被 説 明 変 数 として 設 備 投 資 / 売 上 をとった 場 84
生 命 保 険 論 集 第 160 号 合 生 命 保 険 会 社 外 国 人 それぞれの 持 株 比 率 (の 差 分 )は 共 に 有 意 に 正 である ただし 係 数 の 大 きさは 生 命 保 険 会 社 のそれ(0.0027) は 外 国 人 (0.0008)と 比 べて3 倍 以 上 の 値 をとっている また 被 説 明 変 数 が 研 究 開 発 支 出 / 売 上 の 場 合 は 外 国 人 持 株 比 率 の 係 数 は 有 意 に 負 である 一 方 生 命 保 険 会 社 のそれは 有 意 ではない また 経 営 効 率 性 の 指 標 であるROEおよびROAに 関 しては 被 説 明 変 数 をROEとしたとき に 生 命 保 険 会 社 と 年 金 の 持 株 比 率 の 係 数 が 有 意 に 正 であり 一 方 被 説 明 変 数 をROAとしたときは 外 国 人 の 持 株 比 率 の 係 数 のみが 有 意 に 正 で あった 表 3 回 帰 分 析 の 結 果 (2) 被 説 明 変 数 :2005 年 度 の 値 説 明 変 数 : 役 員 生 保 外 国 人 年 金 は2002 年 度 と2000 年 度 の 各 投 資 主 体 の 持 株 比 率 の 差 その 他 は2002 年 度 の 値 投 資 / 売 上 研 究 売 上 ROE ROA 配 当 性 向 役 員 0.0003 0.0000 0.2186 0.0385-0.0053 生 保 0.0027** -0.0001 0.7230* 0.1375-0.0168 外 国 人 0.0008** -0.0003* 0.0673 0.1118*** 0.0052 年 金 -0.0003-0.0004 0.4526** 0.0751-0.0002 自 己 資 本 比 率 0.0173** 0.0115*** 5.0332** 3.1183*** 0.1331** Qレシオ 0.0005 0.0005 0.9459 0.4055*** -0.0223 総 資 産 0.0011 0.0024*** 1.6113*** 0.3425*** 0.0176 現 金 / 売 上 -0.0058 0.0005 1.8874 0.3226-0.0497 R 2 0.0654 0.5127 0.0816 0.1446 0.0499 85
機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス 以 上 をまとめると 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 が 高 い もしくは 増 加 している 企 業 は 設 備 投 資 や 研 究 開 発 支 出 に 重 点 をおくことが 多 く 一 方 外 国 人 投 資 家 の 持 株 比 率 が 高 い( 上 昇 している) 企 業 は 収 益 性 の 改 善 が 見 られる このことは 外 国 人 投 資 家 は( 比 較 的 短 期 の) 収 益 性 を 重 視 するという( 真 偽 はさておき) 一 般 的 な 見 解 と 矛 盾 しない ま た 長 期 投 資 に 重 点 をおく 生 命 保 険 会 社 は 意 図 はともかく 結 果 的 には 単 年 度 の 利 益 より 長 期 的 な 利 益 に 結 びつく 設 備 投 資 や 研 究 開 発 支 出 を 重 視 するように 投 資 先 企 業 を 誘 導 してきたと 考 えられる ま た 年 金 の 影 響 力 は 生 命 保 険 会 社 や 外 国 人 ほど 大 きくないと 考 えられ る これは 第 1 節 で 述 べた 大 村 首 藤 増 子 (2001)の 見 解 すなわ ち 年 金 は 個 別 投 資 先 企 業 に 対 するコーポレートガバナンスへの 関 与 に あまり 興 味 を 持 たないとする 結 論 と 一 致 する 4. 結 論 本 研 究 では 大 株 主 としての 生 命 保 険 会 社 が 投 資 先 企 業 の 行 動 や 収 益 性 にいかなる 影 響 を 与 えているのか 外 国 人 投 資 家 や 年 金 と 比 較 しながら 明 らかにすることを 試 みた その 結 果 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 の 高 さは その 後 の 設 備 投 資 や 研 究 開 発 支 出 の 大 きさにプラスに 働 く 一 方 外 国 人 投 資 家 の 場 合 は 収 益 性 にプラスに 働 く また 年 金 の 持 株 比 率 は 企 業 行 動 や 収 益 性 にあまり 影 響 を 与 えない これは 年 金 基 金 がコーポレートガバナンスにあまり 積 極 的 ではないとの 従 来 の 見 解 を 支 持 する 結 果 である なお 配 当 性 向 に 関 しては 各 投 資 家 の 持 株 比 率 が 影 響 したという 証 拠 は 得 られなかった 一 般 に 外 国 人 投 資 家 は 配 当 に 対 する 要 求 が 強 いといわれ また 生 命 保 険 協 会 も 毎 年 86
生 命 保 険 論 集 第 160 号 のように 株 主 への 利 益 還 元 を 提 言 している しかしながら 今 回 の 研 究 の 結 論 を 見 る 限 り 外 国 人 投 資 家 や 生 命 保 険 会 社 が 株 主 として 投 資 先 企 業 の 配 当 性 向 を 上 昇 させることに 成 功 したとはいえない ただし 近 年 では 配 当 のほか 自 社 株 買 いによる 資 金 の 還 元 も 盛 んに 行 われるよ うになった 自 社 株 買 いも 含 めた 株 主 還 元 については 今 後 の 研 究 課 題 としたい ( 本 稿 は 財 団 法 人 生 命 保 険 文 化 センターから 受 けた 平 成 18 年 度 研 究 助 成 による 研 究 成 果 である 同 センターに 対 して 記 して 御 礼 を 申 し 上 げる ) 参 考 文 献 安 宅 川 佳 之 (2003) コーポレート ガバナンスと 機 関 投 資 家 の 役 割 保 険 学 研 究 580 号 大 谷 昌 児 (2006) コーポレート ガバナンスとパフォーマンスの 関 係 年 金 レビュー ( 日 興 ファイナンシャルインテリジェンス) 2006 年 6 月 号 大 村 敬 一 首 藤 恵 増 子 信 (2001) 機 関 投 資 家 の 役 割 とコーポレート ガバナンス フィナンシャル レビュー December-2001 川 北 英 隆 (2003) 機 関 投 資 家 とコーポレート ガバナンス フィナン シャル レビュー December-2003 日 本 コーポレートガバナンス 研 究 所 (2003) 2003 年 度 コーポレート ガバナンスに 関 する 調 査 報 告 書 馬 場 大 治 (2000) 日 本 的 コーポレートガバナンスの 変 貌 と 企 業 経 営 甲 南 経 営 研 究 41 巻 1 2 号 87
機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス 藤 井 康 弘 鈴 木 誠 (2004) 米 国 年 金 基 金 の 投 資 戦 略 東 洋 経 済 新 報 社 藤 島 裕 三 (2004) JCGRのコーポレート ガバナンス 調 査 年 金 ニュ ースレター ( 大 和 総 研 )2004 年 7 月 号 宮 島 英 昭 (2003) 多 様 化 する 日 本 企 業 の 統 治 構 造 高 まる 機 関 投 資 家 への 期 待 とガバナンス 評 価 の 試 み 経 済 産 業 ジャーナル 2003 年 7 月 号 宮 島 英 昭 蟻 川 靖 浩 斎 藤 直 (2001) 日 本 型 企 業 統 治 と 過 剰 投 資 石 油 ショック 前 後 とバブル 経 済 期 の 比 較 分 析 フィナ ンシャル レビュー December-2001 米 澤 康 博 佐 々 木 隆 文 (2001) コーポレート ガバナンスと 過 剰 投 資 問 題 フィナンシャル レビュー December-2001 若 杉 敬 明 (2004) 日 本 企 業 のガバナンスと 企 業 業 績 JCGRの2003 年 ガバ ナンス 調 査 から 株 主 が 目 覚 める 日 コーポレート ガバ ナンスが 日 本 を 変 える 若 杉 敬 明 監 修 所 収 商 事 法 務 Carleton, W. T., J. M. Nelson, and M. S. Weisbach, (1998), The Influence of Institutions on Corporate Governance through Private Negotiations: Evidence from TIAA-CREF, Journal of Finance, Vol.53. Karpoff, J. M., P. H. Malatesta, and R. A. Walking(1996) Corporate governance and shareholder initiatives: Empirical evidence. Journal of Financial Economics, Vol42. Lichtenberg, F. R. and G. M. Pushner (1994) Ownership structure and corporate performance in Japan. Japan and the World Economy, 6. 88