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為 が 行 われるおそれがある 場 合 に 都 道 府 県 公 安 委 員 会 がその 指 定 暴 力 団 等 を 特 定 抗 争 指 定 暴 力 団 等 として 指 定 し その 所 属 する 指 定 暴 力 団 員 が 警 戒 区 域 内 において 暴 力 団 の 事 務 所 を 新 たに 設

平成25年度 独立行政法人日本学生支援機構の役職員の報酬・給与等について


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第 3 四 半 期 運 用 状 況 の 概 要 第 3 四 半 期 末 の 運 用 資 産 額 は 2,976 億 円 となりました 第 3 四 半 期 の 修 正 総 合 収 益 率 ( 期 間 率 )は +1.79%となりました なお 実 現 収 益 率 は +0.67%です 第 3 四 半 期

第5回法人課税ディスカッショングループ 法D5-4

39_1

Microsoft Word - 【QA】外貨MMF受付停止.doc

m07 北見工業大学 様式①

Microsoft Word ETF・日経400ベア決算短信.doc

Microsoft PowerPoint - 報告書(概要).ppt

預 金 を 確 保 しつつ 資 金 調 達 手 段 も 確 保 する 収 益 性 を 示 す 指 標 として 営 業 利 益 率 を 採 用 し 営 業 利 益 率 の 目 安 となる 数 値 を 公 表 する 株 主 の 皆 様 への 還 元 については 持 続 的 な 成 長 による 配 当 可

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

18 国立高等専門学校機構

平成24年度 業務概況書

公表表紙

平 成 27 年 度 第 3 四 半 期 運 用 状 況 の 概 要 第 3 四 半 期 の 運 用 資 産 額 は 2 兆 4,339 億 円 となりました 第 3 四 半 期 の 修 正 総 合 収 益 率 ( 期 間 率 )は +2.05%となりました 実 現 収 益 率 は +1.19%です

は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし

第4回税制調査会 総4-1

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

( 別 紙 ) 以 下 法 とあるのは 改 正 法 第 5 条 の 規 定 による 改 正 後 の 健 康 保 険 法 を 指 す ( 施 行 期 日 は 平 成 28 年 4 月 1 日 ) 1. 標 準 報 酬 月 額 の 等 級 区 分 の 追 加 について 問 1 法 改 正 により 追 加

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

検 討 検 討 の 進 め 方 検 討 状 況 簡 易 収 支 の 世 帯 からサンプリング 世 帯 名 作 成 事 務 の 廃 止 4 5 必 要 な 世 帯 数 の 確 保 が 可 能 か 簡 易 収 支 を 実 施 している 民 間 事 業 者 との 連 絡 等 に 伴 う 事 務 の 複 雑

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損 益 計 算 書 自. 平 成 26 年 4 月 1 日 至. 平 成 27 年 3 月 31 日 科 目 内 訳 金 額 千 円 千 円 営 業 収 益 6,167,402 委 託 者 報 酬 4,328,295 運 用 受 託 報 酬 1,839,106 営 業 費 用 3,911,389 一

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別紙3

しかし 主 に 欧 州 の 一 部 の 回 答 者 は 受 託 責 任 について 資 源 配 分 の 意 思 決 定 の 有 用 性 とは 独 立 の 財 務 報 告 の 目 的 とすべきであると 回 答 した 本 ED に 対 する ASBJ のコメント レターにおける 意 見 経 営 者 の 受

その 他 事 業 推 進 体 制 平 成 20 年 3 月 26 日 に 石 垣 島 国 営 土 地 改 良 事 業 推 進 協 議 会 を 設 立 し 事 業 を 推 進 ( 構 成 : 石 垣 市 石 垣 市 議 会 石 垣 島 土 地 改 良 区 石 垣 市 農 業 委 員 会 沖 縄 県 農

( 別 途 調 査 様 式 1) 減 損 損 失 を 認 識 するに 至 った 経 緯 等 1 列 2 列 3 列 4 列 5 列 6 列 7 列 8 列 9 列 10 列 11 列 12 列 13 列 14 列 15 列 16 列 17 列 18 列 19 列 20 列 21 列 22 列 固 定

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No.7 アメリカ 合 衆 国 小 規 模 事 例 (そ4) 助 金 も 財 源 になっている しかし 小 規 模 事 業 体 では 連 邦 政 府 から 基 金 はもちろん 市 から 補 助 金 もまったくない が 実 状 である すなわち 給 人 口 が25 人 から100 人 規 模 小 規

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代 議 員 会 決 議 内 容 についてお 知 らせします さる3 月 4 日 当 基 金 の 代 議 員 会 を 開 催 し 次 の 議 案 が 審 議 され 可 決 承 認 されました 第 1 号 議 案 : 財 政 再 計 算 について ( 概 要 ) 確 定 給 付 企 業 年 金 法 第

T T VWAPギャランティ 取 引 とは T T VWAPギャランティ 取 引 とは これまでの 成 行 や 指 値 とは 異 なる 東 海 東 京 証 券 が 提 供 する 新 しい 形 の 売 買 方 法 です その 方 法 とは 1 金 融 商 品 取 引 所 ( 以 下 取 引 所 )に

(4) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 国 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている.

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●電力自由化推進法案

第1章 財務諸表

注 記 事 項 (1) 当 四 半 期 連 結 累 計 期 間 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 : 無 (2) 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 : 有 ( 注 ) 詳 細 は 添 付 資 料 4ページ 2.サマリー 情 報 (

スライド 1

Microsoft Word - 文書 3

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スライド 1

経 常 収 支 差 引 額 の 状 況 平 成 22 年 度 平 成 21 年 度 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 4,154 億 円 5,234 億 円 1,080 億 円 改 善 赤 字 組 合 の 赤 字 総 額 4,836 億 円 5,636 億 円 800 億 円 減



1. 決 算 の 概 要 法 人 全 体 として 2,459 億 円 の 当 期 総 利 益 を 計 上 し 末 をもって 繰 越 欠 損 金 を 解 消 しています ( : 当 期 総 利 益 2,092 億 円 ) 中 期 計 画 における 収 支 改 善 項 目 に 関 して ( : 繰 越

定 性 的 情 報 財 務 諸 表 等 1. 連 結 経 営 成 績 に 関 する 定 性 的 情 報 当 第 3 四 半 期 連 結 累 計 期 間 の 業 績 は 売 上 高 につきましては 前 年 同 四 半 期 累 計 期 間 比 15.1% 減 少 の 454 億 27 百 万 円 となり

募集新株予約権(有償ストック・オプション)の発行に関するお知らせ

経 常 収 支 差 引 額 等 の 状 況 平 成 26 年 度 予 算 早 期 集 計 平 成 25 年 度 予 算 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 3,689 億 円 4,597 億 円 908 億 円 減 少 赤 字 組 合 数 1,114 組 合 1,180 組 合 66

連結計算書

16 日本学生支援機構

(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 き 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 23 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 号 給 の 給 料 月 額 最 高 号 給 の 給 料 月 額 1 級 2 級 3 級 4 級 5 級 ( 単 位 : ) 6 級 7 級 8 級 135, , ,900 2

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公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

Q7 従 業 員 に 対 する 現 物 給 付 は 報 酬 給 与 額 に 含 まれます A7 法 人 が 役 員 又 は 使 用 人 のために 給 付 する 金 銭 以 外 の 物 又 は 権 利 その 他 経 済 的 利 益 (いわ ゆる 現 物 給 与 )については 所 得 税 において 給


第316回取締役会議案

(2)大学・学部・研究科等の理念・目的が、大学構成員(教職員および学生)に周知され、社会に公表されているか

4 教 科 に 関 する 調 査 結 果 の 概 況 校 種 学 年 小 学 校 2 年 生 3 年 生 4 年 生 5 年 生 6 年 生 教 科 平 均 到 達 度 目 標 値 差 達 成 率 国 語 77.8% 68.9% 8.9% 79.3% 算 数 92.0% 76.7% 15.3% 94

⑨持分法基準

疑わしい取引の参考事例

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建設特別・資産運用の基本方針

った 場 合 など 監 事 の 任 務 懈 怠 の 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 減 算 する (8) 役 員 の 法 人 に 対 する 特 段 の 貢 献 が 認 められる 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 加 算 することができる

3 職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 (24 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 平 均 給 与 月 額

平成24年度税制改正要望 公募結果 153. 不動産取得税

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職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 ( 平 成 年 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 福 岡 県 技 能 労 務 職 歳 1,19,98 9,9 歳 8,

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平成22年度

Q IFRSの特徴について教えてください

Microsoft Word - 全国エリアマネジメントネットワーク規約.docx

4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 有

質 問 票 ( 様 式 3) 質 問 番 号 62-1 質 問 内 容 鑑 定 評 価 依 頼 先 は 千 葉 県 などは 入 札 制 度 にしているが 神 奈 川 県 は 入 札 なのか?または 随 契 なのか?その 理 由 は? 地 価 調 査 業 務 は 単 にそれぞれの 地 点 の 鑑 定

[2] 控 除 限 度 額 繰 越 欠 損 金 を 有 する 法 人 において 欠 損 金 発 生 事 業 年 度 の 翌 事 業 年 度 以 後 の 欠 損 金 の 繰 越 控 除 にあ たっては 平 成 27 年 度 税 制 改 正 により 次 ページ 以 降 で 解 説 する の 特 例 (

企業結合ステップ2に関連するJICPA実務指針等の改正について③・資本連結実務指針(その2)

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国立研究開発法人土木研究所の役職員の報酬・給与等について

3. 選 任 固 定 資 産 評 価 員 は 固 定 資 産 の 評 価 に 関 する 知 識 及 び 経 験 を 有 する 者 のうちから 市 町 村 長 が 当 該 市 町 村 の 議 会 の 同 意 を 得 て 選 任 する 二 以 上 の 市 町 村 の 長 は 当 該 市 町 村 の 議

税金読本(8-5)特定口座と確定申告

技 能 労 務 職 公 務 員 民 間 参 考 区 分 平 均 年 齢 職 員 数 平 均 給 与 月 額 平 均 給 与 月 額 平 均 給 料 月 額 (A) ( 国 ベース) 平 均 年 齢 平 均 給 与 月 額 対 応 する 民 間 の 類 似 職 種 東 庄 町 51.3 歳 18 77

波佐見町の給与・定員管理等について

続 に 基 づく 一 般 競 争 ( 指 名 競 争 ) 参 加 資 格 の 再 認 定 を 受 けていること ) c) 会 社 更 生 法 に 基 づき 更 生 手 続 開 始 の 申 立 てがなされている 者 又 は 民 事 再 生 法 に 基 づき 再 生 手 続 開 始 の 申 立 てがなさ

Ⅰ 調 査 の 概 要 1 目 的 義 務 教 育 の 機 会 均 等 その 水 準 の 維 持 向 上 の 観 点 から 的 な 児 童 生 徒 の 学 力 や 学 習 状 況 を 把 握 分 析 し 教 育 施 策 の 成 果 課 題 を 検 証 し その 改 善 を 図 るもに 学 校 におけ

(2) 支 状 況 保 育 所 ( 定 員 60 人 以 上 ) 支 状 況 は 次 とおりです 1 総 入 構 成 比 は 割 合 が88.1% 活 動 外 入 が2.1% 特 別 入 が9.8%でした 2 構 成 比 は 運 営 費 入 が80.1% 経 常 経 費 補 助 金 入 が17.8%

セルフメディケーション推進のための一般用医薬品等に関する所得控除制度の創設(個別要望事項:HP掲載用)

平 成 27 年 11 月 ~ 平 成 28 年 4 月 に 公 開 の 対 象 となった 専 門 協 議 等 における 各 専 門 委 員 等 の 寄 附 金 契 約 金 等 の 受 取 状 況 審 査 ( 別 紙 ) 専 門 協 議 等 の 件 数 専 門 委 員 数 500 万 円 超 の 受

プラス 0.9%の 年 金 額 改 定 が 行 われることで 何 円 になりますか また どのような 計 算 が 行 われているのですか A これまでの 年 金 額 は 過 去 に 物 価 が 下 落 したにもかかわらず 年 金 額 は 据 え 置 く 措 置 をと った 時 の 計 算 式 に 基

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別 紙 第 号 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 議 案 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 を 次 のように 定 める 平 成 26 年 2 月 日 提 出 高 知 県 知 事 尾

1 変更の許可等(都市計画法第35条の2)

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Transcription:

生 命 保 険 論 集 第 160 号 機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 と コーポレートガバナンス 小 林 毅 ( 中 京 大 学 経 済 学 部 准 教 授 ) 1.はじめに 近 年 コーポレートガバナンスにおける 機 関 投 資 家 の 役 割 が 注 目 さ れている 従 来 日 本 企 業 のコーポレートガバナンスにおいては 主 に 内 部 昇 進 により 地 位 を 獲 得 した 経 営 陣 と いわゆるメインバンクの 発 言 力 が 大 きく 株 主 の 発 言 力 は 小 さかったと 考 えられている Lichtenberg and Puchner(1994) は 1980 年 代 の 日 本 において 金 融 機 関 の 株 式 保 有 が 経 営 監 視 等 によってコーポレートガバナンスに 大 き な 貢 献 をしてきたと 論 じている しかし 株 主 主 権 を 主 張 する 声 が 高 まり また 銀 行 の 経 営 状 態 の 悪 化 およびその 結 果 としての 資 金 供 給 能 力 の 低 下 株 式 持 合 いの 解 消 に 伴 って メインバンクの 発 言 力 は 低 下 した( 宮 島 2003) 株 主 のなかでも コーポレートガバナンスにおける 役 割 を 期 待 されているのは 主 に 機 関 投 資 家 であると 考 えられる 個 人 投 資 家 の 役 割 を 軽 視 するわけではないが 一 般 に 個 人 投 資 家 が 積 極 的 にコーポレートガバナンスに 関 与 するのは 容 易 ではないと 考 えられ ている 藤 井 鈴 木 (2004)はこの 点 に 関 して 個 人 投 資 家 がコーポ 75

機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス レートガバナンスに 関 与 することが 難 しい 理 由 を 1. 人 的 金 銭 的 資 源 が 乏 しい 2. 十 分 な 発 言 力 を 持 つためには 集 団 的 行 動 が 不 可 欠 だが それが 難 しい 3. 投 資 額 が 小 額 なため コストに 見 合 う 成 果 を 得 にく い という 点 にあると 述 べている そこで 本 研 究 では 生 命 保 険 会 社 に 代 表 される 機 関 投 資 家 を 取 り 上 げ 機 関 投 資 家 の 投 資 行 動 とコー ポレートガバナンスへの 関 与 について 実 証 研 究 を 試 みたい 生 命 保 険 会 社 のみならず 他 の 有 力 投 資 主 体 である 外 国 人 および 年 金 をも 取 り 上 げることによって 生 命 保 険 会 社 の 特 性 を 浮 彫 りにしたい 投 資 家 がコーポレートガバナンスに 関 与 する 動 機 は 投 資 収 益 にある と 考 えるのが 自 然 である 投 資 家 が 投 資 先 企 業 に 働 きかけ その 結 果 として 投 資 先 企 業 の 業 績 の 向 上 株 価 の 上 昇 を 目 指 していると 考 える ならば 投 資 家 のコーポレートガバナンスに 与 える 影 響 を 分 析 するた めのアプローチとして1. 議 決 権 行 使 等 投 資 家 の 投 資 先 企 業 への 直 接 的 な 働 きかけを 分 析 する2. 投 資 先 企 業 のガバナンス 体 制 と 企 業 業 績 企 業 行 動 株 価 等 の 成 果 との 関 係 を 明 らかにする3. 投 資 家 の 持 株 比 率 等 と 投 資 先 企 業 の 成 果 との 関 係 を 直 接 分 析 する が 考 えられ るであろう 1.のアプローチは 機 関 投 資 家 による 議 決 権 行 使 や 投 資 先 企 業 との ミーティング 等 コーポレートガバナンスへの 関 与 を 直 接 的 に 解 明 し ようとするものであり 日 本 を 対 象 とした 先 行 研 究 の 例 として 大 村 首 藤 増 子 (2001) 川 北 (2003)などをあげることができる 大 村 首 藤 増 子 (2001)は 年 金 基 金 信 託 銀 行 および 生 命 保 険 会 社 に 対 するアンケート 調 査 をもとに それぞれの 主 体 のコーポレートガバナ ンスに 対 する 姿 勢 を 分 析 している その 結 果 受 託 機 関 である 信 託 銀 行 や 生 命 保 険 会 社 は 議 決 権 行 使 等 を 通 じてコーポレートガバナンス に 関 与 する 傾 向 がうかがえるが 年 金 基 金 にはそのような 意 欲 があま 76

生 命 保 険 論 集 第 160 号 りないことを 明 らかにしている 生 命 保 険 協 会 に 関 しては 安 宅 川 (2003)は 生 命 保 険 協 会 のコーポレートガバナンスに 対 する 取 り 組 み を 評 価 して 協 会 の 活 動 には 一 定 の 評 価 をするものの 個 別 投 資 先 企 業 へのミクロベースの 活 動 については 熱 心 ではなかったと 述 べている 2.のアプローチをとるものとして 日 本 コーポレートガバナンス 研 究 所 (JCGR)の 調 査 に 基 づいた 報 告 書 ( 日 本 コーポレートガバナンス 研 究 所 (2003))や この 調 査 をもとにした 藤 島 (2004) 若 杉 (2004) がある これらの 研 究 は JCGRが 開 発 したコーポレートガバナンスに 関 する 指 標 であるJCGIndexが 高 い(コーポレートガバナンスが 優 れて いる) 企 業 ほど 業 績 が 優 れていることを 明 らかにしている また 大 谷 (2006)のサーベイでは コーポレートガバナンスに 優 れた 企 業 は 後 の 企 業 価 値 の 増 大 を 実 現 しているとする 先 行 研 究 がいくつか 紹 介 さ れている 最 後 のアプローチは 機 関 投 資 家 の 持 株 比 率 等 と 投 資 先 企 業 のパフ ォーマンスや 行 動 ( 配 当 性 向 設 備 投 資 など)との 関 係 を 観 察 するこ とにより 機 関 投 資 家 が 投 資 先 企 業 に 与 える 影 響 を 間 接 的 に 明 らかに する 手 法 である 馬 場 (2000)は 製 造 業 に 含 まれる6 業 種 を 分 析 し 外 国 人 投 資 家 の 持 株 比 率 が 高 い 企 業 ほど 収 益 性 が 高 く また 研 究 開 発 にも 積 極 的 であることを 示 した これらのアプローチには それぞれ 特 徴 があると 思 われる 1.のア プローチは 投 資 家 のコーポレートガバナンスへの 関 与 の 実 態 を 直 接 観 察 する 点 では 優 れている しかし 投 資 先 企 業 の 実 態 はそれぞれ 異 なり 最 適 な 関 与 の 手 段 も 当 然 異 なる 例 えば Carleton, Nelson, and Weisbach(1998)は 米 国 TIAA-CREFが1992 年 から1996 年 までにコーポレ ートガバナンスに 関 して 接 触 を 持 った45の 投 資 先 企 業 のうち 約 70% は 議 決 権 行 使 を 待 たずして 自 主 的 にTIAA-CREFの 要 求 を 受 け 入 れてい 77

機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス ることを 明 らかにしている これは 単 純 に 機 関 投 資 家 のコーポレー トガバナンスへの 関 与 を 議 決 権 行 使 やミーティングなどに 分 類 して 論 ずることの 難 しさと 限 界 を 物 語 っている また Karpoff, Malatesta, and Walking(1996)は コーポレートガバナンスに 関 する 株 主 提 案 がな されても そのことが 株 価 や 業 績 の 改 善 にはつながらないとしている また2.のアプローチは 企 業 の 組 織 のあり 方 と 成 果 との 関 係 を 問 うと いう 面 で 興 味 深 いが 投 資 家 など 外 部 者 の 態 度 行 動 には 触 れていな い 本 研 究 は3.のアプローチを 採 用 する このアプローチは 投 資 家 の コーポレートガバナンスへの 関 与 投 資 先 企 業 の 対 応 企 業 業 績 行 動 の 変 化 という 経 路 によって 機 関 投 資 家 の 意 向 が 企 業 業 績 行 動 に 反 映 されると 考 える 持 株 比 率 の 大 きい 投 資 家 ほど 企 業 経 営 により 強 く 関 与 できるならば 例 えば 長 期 的 視 野 で 投 資 を 行 う 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 が 高 い 企 業 ほど 長 期 的 視 野 で 設 備 投 資 等 を 決 定 する など といった 傾 向 が 観 察 されるであろう 投 資 家 は 常 に 最 適 な 手 段 でコー ポレートガバナンスに 関 与 している(あるいはコスト 面 を 考 慮 して 関 与 しない)と 仮 定 しているため 1.のアプローチで 述 べたような 議 決 権 行 使 とミーティングの 差 異 の 有 無 といった 問 題 は 捨 象 される こ のアプローチの 欠 点 は 企 業 業 績 行 動 の 変 化 は 景 気 や 技 術 革 新 他 企 業 との 競 争 などコーポレートガバナンス 以 外 のさまざまな 要 因 に 左 右 されるため 必 ずしも 明 確 な 結 果 が 得 られるとは 限 らない 点 にある 本 論 文 の 構 成 は 以 下 の 通 りである 第 2 節 では 実 証 分 析 の 手 法 につ いて 述 べる 第 3 節 では 実 証 分 析 の 結 果 について 議 論 する 第 4 節 で は 結 論 を 述 べる 78

生 命 保 険 論 集 第 160 号 2. 実 証 分 析 の 手 法 投 資 主 体 の 持 株 比 率 と 投 資 先 企 業 のパフォーマンス 等 との 関 係 につ いて 分 析 を 行 う 際 留 意 する 必 要 があるのは 因 果 関 係 である 例 えば 外 国 人 投 資 家 の 持 株 比 率 が 高 い 企 業 の 収 益 性 が 高 いという 結 果 が 得 ら れた 場 合 それは 外 国 人 投 資 家 の 投 資 先 企 業 へのコーポレートガバナ ンスへの 関 与 の 結 果 なのか あるいは 外 国 人 投 資 家 が 収 益 性 の 高 い 企 業 への 投 資 を 好 む 傾 向 があることが 原 因 なのかを 明 らかにする 必 要 が あろう 本 研 究 では 限 定 的 ではあるが 因 果 性 を 考 慮 するため 以 下 の 二 つの 回 帰 分 析 を 行 うこととした 回 帰 分 析 (1): 説 明 変 数 :2002 年 度 ( 本 研 究 では 2002 年 4 月 から2003 年 3 月 ま でをさす 以 下 同 様 ) 決 算 時 における 各 投 資 主 体 の 持 株 比 率 および 財 務 指 標 ( 後 述 ) 被 説 明 変 数 :ROE ROA 設 備 投 資 / 売 上 比 率 研 究 開 発 支 出 / 売 上 比 率 配 当 性 向 のそれぞれの2005 年 度 と2003 年 度 の 値 の 差 分 回 帰 分 析 (2): 説 明 変 数 :2002 年 度 年 度 持 株 比 率 と2000 年 度 持 株 比 率 の 差 分 ( 例 えばある 投 資 先 企 業 の 生 命 保 険 会 社 の2002 年 度 末 持 株 比 率 が6%で 2000 年 度 末 持 株 比 率 が5%であれば +1%)および2002 年 度 の 財 務 指 標 の 値 被 説 明 変 数 :2005 年 度 におけるROE ROA 設 備 投 資 / 売 上 比 率 研 究 開 発 支 出 / 売 上 比 率 配 当 性 向 の 値 これらの 被 説 明 変 数 のうち ROEおよびROAは 収 益 性 の 指 標 である 79

機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス また 設 備 投 資 および 研 究 開 発 支 出 は 主 に 投 資 家 の 投 資 視 野 の 長 さに 関 する 指 標 である 仮 に 短 期 的 な 利 益 を 追 求 する 投 資 家 が 存 在 するな らば そのような 投 資 家 の 持 ち 株 比 率 が 高 い 企 業 の 設 備 投 資 や 研 究 開 発 支 出 は 停 滞 する 可 能 性 がある また 説 明 変 数 には これらの 被 説 明 変 数 に 影 響 を 与 えると 考 えられる 財 務 指 標 として 2002 年 度 決 算 にお ける 現 金 / 売 上 比 率 Qレシオ( 株 式 時 価 総 額 を 会 計 上 の 株 主 資 本 で 除 したもの) 自 己 資 本 比 率 を 取 り 上 げた 現 金 / 売 上 比 率 は 企 業 の 内 部 資 金 の 制 約 を 表 す 変 数 である ペッキングオーダー 仮 説 では 企 業 が 調 達 する 資 金 には 調 達 方 法 によりコストが 異 なり 一 番 低 コストな のが 内 部 資 金 であると 考 えられる 従 って 内 部 資 金 の 多 寡 が 企 業 活 動 に 影 響 を 与 える 可 能 性 を 否 定 できないため 説 明 変 数 に 加 えた Q レシオは トービンのQの 簡 易 的 な 代 替 指 標 として 利 用 している ト ービンのQが1より 小 さい 企 業 は 設 備 投 資 を 抑 制 するのが 望 ましい というのが 教 科 書 的 な 理 解 である しかし 先 行 研 究 によれば 日 本 で は 必 ずしもこのことが 成 立 せず その 理 由 のひとつとしてコーポレー トガバナンスのあり 方 が 考 えられている 米 澤 佐 々 木 (2001)や 宮 島 蟻 川 斎 藤 (2001)では コーポレートガバナンスと 過 剰 投 資 問 題 (ト ービンのQから 判 断 して 日 本 企 業 の 多 くに 過 剰 投 資 が 見 られる)の 関 係 を 扱 っている この 過 剰 投 資 問 題 とは 企 業 が 成 長 を 重 視 するあ まり 非 効 率 な 投 資 を 行 っているというものである 米 澤 佐 々 木 (2001) は 外 国 人 投 資 家 の 持 株 比 率 が 高 い 企 業 では 過 剰 投 資 は 少 ないことを 示 し 外 国 人 投 資 家 が 株 主 利 益 の 重 視 を 要 求 するという 形 でコーポ レートガバナンスに 関 与 していると 主 張 した 本 来 であれば 総 資 産 負 債 を 時 価 評 価 したトービンのQを 用 いるのが 望 ましいが 本 論 文 は トービンのQ 自 体 を 分 析 するのが 目 的 ではないので 簡 易 的 にQレシ オを 利 用 した 自 己 資 本 比 率 は 現 金 / 売 上 比 率 と 同 じく 企 業 の 財 務 80

生 命 保 険 論 集 第 160 号 状 態 を 表 す 変 数 として 採 用 している 自 己 資 本 比 率 の 小 さい 企 業 は そうでない 企 業 と 比 較 して 資 金 調 達 が 容 易 ではなく その 結 果 設 備 投 資 などが 制 約 を 受 ける 可 能 性 がある データ 本 研 究 に 必 要 な 株 主 に 関 するデータは 大 株 主 総 覧 ( 東 洋 経 済 新 報 社 ) 各 号 から 得 ている 有 価 証 券 報 告 書 では 上 位 10 大 株 主 につい てのみ 公 表 義 務 があるが 大 株 主 総 覧 は 独 自 調 査 を 行 い 最 大 30 位 までの 大 株 主 の 名 前 と 持 株 数 を 明 らかにしている さらに 役 員 外 国 人 および 年 金 ( 信 託 ) の 持 株 数 をも 調 査 している この 資 料 は 有 用 であるが 以 下 の 点 に 注 意 する 必 要 がある まず 独 自 調 査 であるため 一 部 の 企 業 においては 欠 落 している 項 目 がある また 上 位 30 位 より 少 ない 株 主 しか 記 載 されていない 場 合 もある さらに 生 命 保 険 会 社 については 上 位 30 位 以 内 に 含 まれない 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 が 不 明 である 本 研 究 における 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 は 大 株 主 として 名 称 および 持 株 数 が 明 記 されている 生 命 保 険 会 社 の 持 株 数 の 合 計 から 算 出 しており 上 位 30 位 以 内 の 大 株 主 に 含 まれない 生 命 保 険 会 社 は 無 視 している そのため 実 際 の 生 命 保 険 会 社 全 体 の 持 株 比 率 よりは 小 さい 値 となっている このような 限 界 があることを 指 摘 した 上 で 本 研 究 では 大 株 主 総 覧 より 株 主 データを 得 ること とする また 投 資 先 企 業 の 財 務 データについては 会 社 四 季 報 ( 東 洋 経 済 新 報 社 ) 各 号 から 得 ている 分 析 の 対 象 は 分 析 の 対 象 期 間 を 通 じて 東 京 証 券 取 引 所 第 一 部 に 上 場 している 製 造 業 全 社 である このような 企 業 は 計 808 社 存 在 した た だし 一 部 の 企 業 については 数 値 の 一 部 が 欠 落 しており 分 析 に 必 要 な 数 値 が 得 られない 企 業 は 分 析 の 対 象 外 となっている 分 析 対 象 を 81

機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス 製 造 業 に 限 定 した 理 由 は 製 造 業 と 非 製 造 業 とでは 経 営 内 容 に 大 き な 差 異 があり 同 一 の 分 析 対 象 とみなすのは 無 理 があると 思 われるか らである 例 えば 非 製 造 業 には 研 究 開 発 支 出 がゼロである 企 業 が 少 なくない もちろん 製 造 業 に 含 まれる 企 業 も 業 種 によって 経 営 内 容 は 異 なるが この 差 は 製 造 業 と 非 製 造 業 の 差 異 よりも 小 さく 適 切 な 業 種 ダミー 変 数 を 利 用 することで 業 種 間 の 経 営 内 容 の 違 いを 吸 収 でき ると 思 われる 本 研 究 では 東 京 証 券 取 引 所 の 業 種 分 類 に 基 づいて 製 造 業 を 分 類 し 業 種 ダミー 変 数 ( 定 数 ダミー)を 説 明 変 数 に 加 えてい る 3. 分 析 結 果 の 解 釈 まず 役 員 生 命 保 険 会 社 外 国 人 および 年 金 のそれぞれの 投 資 主 体 の 持 株 比 率 の 状 況 について 概 観 する 分 析 対 象 である2002 年 度 の 値 および2002 年 度 と2000 年 度 の 変 化 の 大 きさの 平 均 値 ( 単 純 平 均 )を 表 1に 示 す これらの 主 体 のうちでは 外 国 人 の 持 株 比 率 が 最 も 高 く すでに 株 式 市 場 における 外 国 人 の 存 在 は 大 きなものとなっている ま た 年 金 の 持 株 比 率 が 増 大 し 生 保 をしのぐまでになっている また 役 員 の 持 株 比 率 も 生 保 や 年 金 と 比 較 しうるほどに 達 しており 無 視 で きない ただし この 数 値 は 単 純 平 均 であるため 比 較 的 規 模 が 小 さ く 役 員 持 株 比 率 が 高 いと 思 われるオーナー 系 企 業 が 全 体 の 数 値 を 押 し 上 げている 可 能 性 があることを 指 摘 しておく 82

生 命 保 険 論 集 第 160 号 表 1 投 資 主 体 の 持 株 比 率 の 平 均 値 およびその 増 分 02 年 度 (%) 2000 年 度 からの 増 分 (%) 役 員 3.324-0.061 生 保 4.023-0.767 外 国 人 7.689-0.283 年 金 4.290 0.972 実 証 分 析 の 結 果 は 表 2および3に 示 されている 表 2は 前 節 で 説 明 した 回 帰 分 析 (1)の 結 果 である 説 明 変 数 に 含 まれる 持 株 比 率 は2002 年 度 のものであり 一 方 被 説 明 変 数 は2005 年 度 と2003 年 度 の 差 分 であ る すなわち 2002 年 度 の 各 投 資 主 体 の 持 株 比 率 が その 後 の3 年 間 の 経 営 指 標 の 変 化 幅 にどのように 影 響 しているかを 推 計 している 被 説 明 変 数 が 研 究 開 発 支 出 / 売 上 であるとき 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 の 係 数 は 有 意 に 正 である すなわち 2002 年 度 末 に 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 が 高 い 企 業 ほど 2003 年 度 から2005 年 度 までの 間 に 売 上 に 対 する 研 究 開 発 支 出 の 伸 びが 大 きくなっている ただし ROEやROAなどの 経 営 効 率 性 を 被 説 明 変 数 にした 場 合 には 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 の 係 数 は 有 意 ではなく 配 当 性 向 の 差 分 を 持 株 比 率 とした 場 合 には 係 数 は 有 意 に 負 である これに 対 して 外 国 人 持 株 比 率 の 係 数 を 見 ると 投 資 や 研 究 開 発 支 出 には 影 響 しないが ROEには 有 意 に 正 の 影 響 を 与 えてい る すなわち 外 国 人 投 資 家 は 経 営 効 率 性 を 重 視 しており その 結 果 がROEの 伸 びに 表 れていると 考 えられる また 年 金 に 関 しては 係 数 が 有 意 であるものはなかった 83

機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス 表 2 回 帰 分 析 の 結 果 (1) 被 説 明 変 数 :2003 年 度 から2005 年 度 にかけての 各 変 数 の 変 化 説 明 変 数 : 役 員 生 保 外 国 人 年 金 は2002 年 度 の 各 投 資 主 体 の 持 株 比 率 その 他 は2002 年 度 の 値 投 資 / 売 上 研 究 / 売 上 ROE ROA 配 当 性 向 差 分 差 分 差 分 差 分 差 分 役 員 -0.0003 0.0002* -0.1804-0.0500-0.0054 生 保 0.0001 0.0003* -0.1282 0.0310-0.0438*** 外 国 人 0.0002-0.0000 0.3260* 0.0168 0.0062 年 金 0.0000 0.0002-0.5407-0.0871-0.0030 自 己 資 本 比 率 0.0025-0.0020-1.1464 0.4320-0.1259 Qレシオ -0.0003-0.0001 0.2082 0.1827 0.0226 総 資 産 -0.0043*** 0.0005 0.2011-0.2294 0.0299 現 金 / 売 上 -0.0685*** -0.0004-0.9973 0.1033-0.1900 R 2 0.4298 0.0521 0.0414 0.0788 0.0427 注 ) 本 論 文 を 通 じて 有 意 性 を 表 す 記 号 を 以 下 のように 定 める ***:1% 水 準 で 有 意 **:5% 水 準 で 有 意 *:10% 水 準 で 有 意 表 3は 回 帰 分 析 (2)の 結 果 であり 説 明 変 数 に 含 まれる 持 株 比 率 は 2002 年 度 と2000 年 度 の 差 分 であり 被 説 明 変 数 は2005 年 度 の 値 である すなわち 2000 年 度 から2002 年 度 にかけての 各 投 資 主 体 の 持 株 比 率 の 変 化 が その 後 (2005 年 度 )の 経 営 指 標 にどのような 影 響 を 与 えたの かを 推 計 したものである 被 説 明 変 数 として 設 備 投 資 / 売 上 をとった 場 84

生 命 保 険 論 集 第 160 号 合 生 命 保 険 会 社 外 国 人 それぞれの 持 株 比 率 (の 差 分 )は 共 に 有 意 に 正 である ただし 係 数 の 大 きさは 生 命 保 険 会 社 のそれ(0.0027) は 外 国 人 (0.0008)と 比 べて3 倍 以 上 の 値 をとっている また 被 説 明 変 数 が 研 究 開 発 支 出 / 売 上 の 場 合 は 外 国 人 持 株 比 率 の 係 数 は 有 意 に 負 である 一 方 生 命 保 険 会 社 のそれは 有 意 ではない また 経 営 効 率 性 の 指 標 であるROEおよびROAに 関 しては 被 説 明 変 数 をROEとしたとき に 生 命 保 険 会 社 と 年 金 の 持 株 比 率 の 係 数 が 有 意 に 正 であり 一 方 被 説 明 変 数 をROAとしたときは 外 国 人 の 持 株 比 率 の 係 数 のみが 有 意 に 正 で あった 表 3 回 帰 分 析 の 結 果 (2) 被 説 明 変 数 :2005 年 度 の 値 説 明 変 数 : 役 員 生 保 外 国 人 年 金 は2002 年 度 と2000 年 度 の 各 投 資 主 体 の 持 株 比 率 の 差 その 他 は2002 年 度 の 値 投 資 / 売 上 研 究 売 上 ROE ROA 配 当 性 向 役 員 0.0003 0.0000 0.2186 0.0385-0.0053 生 保 0.0027** -0.0001 0.7230* 0.1375-0.0168 外 国 人 0.0008** -0.0003* 0.0673 0.1118*** 0.0052 年 金 -0.0003-0.0004 0.4526** 0.0751-0.0002 自 己 資 本 比 率 0.0173** 0.0115*** 5.0332** 3.1183*** 0.1331** Qレシオ 0.0005 0.0005 0.9459 0.4055*** -0.0223 総 資 産 0.0011 0.0024*** 1.6113*** 0.3425*** 0.0176 現 金 / 売 上 -0.0058 0.0005 1.8874 0.3226-0.0497 R 2 0.0654 0.5127 0.0816 0.1446 0.0499 85

機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス 以 上 をまとめると 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 が 高 い もしくは 増 加 している 企 業 は 設 備 投 資 や 研 究 開 発 支 出 に 重 点 をおくことが 多 く 一 方 外 国 人 投 資 家 の 持 株 比 率 が 高 い( 上 昇 している) 企 業 は 収 益 性 の 改 善 が 見 られる このことは 外 国 人 投 資 家 は( 比 較 的 短 期 の) 収 益 性 を 重 視 するという( 真 偽 はさておき) 一 般 的 な 見 解 と 矛 盾 しない ま た 長 期 投 資 に 重 点 をおく 生 命 保 険 会 社 は 意 図 はともかく 結 果 的 には 単 年 度 の 利 益 より 長 期 的 な 利 益 に 結 びつく 設 備 投 資 や 研 究 開 発 支 出 を 重 視 するように 投 資 先 企 業 を 誘 導 してきたと 考 えられる ま た 年 金 の 影 響 力 は 生 命 保 険 会 社 や 外 国 人 ほど 大 きくないと 考 えられ る これは 第 1 節 で 述 べた 大 村 首 藤 増 子 (2001)の 見 解 すなわ ち 年 金 は 個 別 投 資 先 企 業 に 対 するコーポレートガバナンスへの 関 与 に あまり 興 味 を 持 たないとする 結 論 と 一 致 する 4. 結 論 本 研 究 では 大 株 主 としての 生 命 保 険 会 社 が 投 資 先 企 業 の 行 動 や 収 益 性 にいかなる 影 響 を 与 えているのか 外 国 人 投 資 家 や 年 金 と 比 較 しながら 明 らかにすることを 試 みた その 結 果 生 命 保 険 会 社 の 持 株 比 率 の 高 さは その 後 の 設 備 投 資 や 研 究 開 発 支 出 の 大 きさにプラスに 働 く 一 方 外 国 人 投 資 家 の 場 合 は 収 益 性 にプラスに 働 く また 年 金 の 持 株 比 率 は 企 業 行 動 や 収 益 性 にあまり 影 響 を 与 えない これは 年 金 基 金 がコーポレートガバナンスにあまり 積 極 的 ではないとの 従 来 の 見 解 を 支 持 する 結 果 である なお 配 当 性 向 に 関 しては 各 投 資 家 の 持 株 比 率 が 影 響 したという 証 拠 は 得 られなかった 一 般 に 外 国 人 投 資 家 は 配 当 に 対 する 要 求 が 強 いといわれ また 生 命 保 険 協 会 も 毎 年 86

生 命 保 険 論 集 第 160 号 のように 株 主 への 利 益 還 元 を 提 言 している しかしながら 今 回 の 研 究 の 結 論 を 見 る 限 り 外 国 人 投 資 家 や 生 命 保 険 会 社 が 株 主 として 投 資 先 企 業 の 配 当 性 向 を 上 昇 させることに 成 功 したとはいえない ただし 近 年 では 配 当 のほか 自 社 株 買 いによる 資 金 の 還 元 も 盛 んに 行 われるよ うになった 自 社 株 買 いも 含 めた 株 主 還 元 については 今 後 の 研 究 課 題 としたい ( 本 稿 は 財 団 法 人 生 命 保 険 文 化 センターから 受 けた 平 成 18 年 度 研 究 助 成 による 研 究 成 果 である 同 センターに 対 して 記 して 御 礼 を 申 し 上 げる ) 参 考 文 献 安 宅 川 佳 之 (2003) コーポレート ガバナンスと 機 関 投 資 家 の 役 割 保 険 学 研 究 580 号 大 谷 昌 児 (2006) コーポレート ガバナンスとパフォーマンスの 関 係 年 金 レビュー ( 日 興 ファイナンシャルインテリジェンス) 2006 年 6 月 号 大 村 敬 一 首 藤 恵 増 子 信 (2001) 機 関 投 資 家 の 役 割 とコーポレート ガバナンス フィナンシャル レビュー December-2001 川 北 英 隆 (2003) 機 関 投 資 家 とコーポレート ガバナンス フィナン シャル レビュー December-2003 日 本 コーポレートガバナンス 研 究 所 (2003) 2003 年 度 コーポレート ガバナンスに 関 する 調 査 報 告 書 馬 場 大 治 (2000) 日 本 的 コーポレートガバナンスの 変 貌 と 企 業 経 営 甲 南 経 営 研 究 41 巻 1 2 号 87

機 関 投 資 家 としての 生 命 保 険 会 社 とコーポレートガバナンス 藤 井 康 弘 鈴 木 誠 (2004) 米 国 年 金 基 金 の 投 資 戦 略 東 洋 経 済 新 報 社 藤 島 裕 三 (2004) JCGRのコーポレート ガバナンス 調 査 年 金 ニュ ースレター ( 大 和 総 研 )2004 年 7 月 号 宮 島 英 昭 (2003) 多 様 化 する 日 本 企 業 の 統 治 構 造 高 まる 機 関 投 資 家 への 期 待 とガバナンス 評 価 の 試 み 経 済 産 業 ジャーナル 2003 年 7 月 号 宮 島 英 昭 蟻 川 靖 浩 斎 藤 直 (2001) 日 本 型 企 業 統 治 と 過 剰 投 資 石 油 ショック 前 後 とバブル 経 済 期 の 比 較 分 析 フィナ ンシャル レビュー December-2001 米 澤 康 博 佐 々 木 隆 文 (2001) コーポレート ガバナンスと 過 剰 投 資 問 題 フィナンシャル レビュー December-2001 若 杉 敬 明 (2004) 日 本 企 業 のガバナンスと 企 業 業 績 JCGRの2003 年 ガバ ナンス 調 査 から 株 主 が 目 覚 める 日 コーポレート ガバ ナンスが 日 本 を 変 える 若 杉 敬 明 監 修 所 収 商 事 法 務 Carleton, W. T., J. M. Nelson, and M. S. Weisbach, (1998), The Influence of Institutions on Corporate Governance through Private Negotiations: Evidence from TIAA-CREF, Journal of Finance, Vol.53. Karpoff, J. M., P. H. Malatesta, and R. A. Walking(1996) Corporate governance and shareholder initiatives: Empirical evidence. Journal of Financial Economics, Vol42. Lichtenberg, F. R. and G. M. Pushner (1994) Ownership structure and corporate performance in Japan. Japan and the World Economy, 6. 88