国外転出時課税制度(出国税)の導入

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用語の意義 この FAQ において使用している用語の意義は 次のとおりです 用語 意義 所得税法 ( 所法 ) 所得税法 ( 昭和 40 年法律第 33 号 ) をいいます 所得税法施行令 ( 所令 ) 所得税法施行令 ( 昭和 40 年政令第 96 号 ) をいいます 改正所令 所得税法施行令の一

き一 修正申告 1 から同 ( 四 ) まで又は同 2 から同 ( 四 ) までの事由が生じた場合には 当該居住者 ( その相続人を含む ) は それぞれ次の 及び に定める日から4 月以内に 当該譲渡の日の属する年分の所得税についての修正申告書を提出し かつ 当該期限内に当該申告書の提出により納付

2018年度改正 相続税・贈与税外国人納税義務の見直し

2017年度税制改正 相続税・贈与税国外財産に対する納税義務の範囲の見直し

~ 改正の変遷 ~ (1) 平成 12 年度改正前相続人 受贈者がの場合には 国内財産のみ課税 (2) 平成 12 年度改正後 平成 25 年度改正前平成 12 年度改正 : 相続人 受贈者について国籍主義を導入 H12 年度改正 : 国内財産 国外財産ともに課税 相続人 受贈者 相続人 受贈者 被

第 5 章 N

税法実務コース 海外勤務者と外国人の出国 入国 滞在時の国際税務 学習スケジュール 回数学習テーマ内容 第 1 回 第 2 回 第 3 回 第 1 章 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第 5 章 第 6 章 第 7 章 第 8 章 テーマ 1 居住者 非居住者判定テーマ 2 課税範囲についてテー

(1) 相続税の納税猶予制度の概要 項目 納税猶予対象資産 ( 特定事業用資産 ) 納税猶予額 被相続人の要件 内容 被相続人の事業 ( 不動産貸付事業等を除く ) の用に供されていた次の資産 1 土地 ( 面積 400 m2までの部分に限る ) 2 建物 ( 床面積 800 m2までの部分に限る

( 相続時精算課税適用者の死亡後に特定贈与者が死亡した場合 ) (6) 相続時精算課税適用者 ( 相続税法第 21 条の9 第 5 項に規定する 相続時精算課税適用者 をいう 以下 (6) において同じ ) の死亡後に当該相続時精算課税適用者に係る特定贈与者 ( 同条第 5 項に規定する 特定贈与者

問題 1 1 問題 1 1 納税義務者 相続税の納税義務者及び課税財産の範囲 課税価格 1 納税義務者 ⑴ 次に掲げる者は 相続税を納める義務がある 1 居住無制限納税義務者 ( 法 1 の 3 1 一 ) 相続又は遺贈により財産を取得した個人でその財産を取得した時において法施行地に住所を有するもの

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

税金読本(16-2)税務署への財産債務の申告と国外転出時みなし譲渡益課税

時価で譲渡したものとみなされ所得税が課税され かつ その所得税は相続税の課税価格の計算上被相続人の債務として控除されていることにより 所得税と相続税の負担の調整は済んでいますので この特例の適用は受けられません 2 取得費に加算される金額平成 26 年度の改正前は 相続財産である土地等の一部を譲渡し

事業承継税制の概要 事業承継税制は である受贈者 相続人等が 円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において その非上場株式等に係る贈与税 相続税について 一定の要件のもと その納税を猶予し の死亡等により 納税が猶予されている贈与税 相続税の納付が免除される

2. 制度の概要 この制度は 非上場株式等の相続税 贈与税の納税猶予制度 とは異なり 自社株式に相当する出資持分の承継の取り扱いではなく 医療法人の出資者等が出資持分を放棄した場合に係る税負担を最終的に免除することにより 持分なし医療法人 に移行を促進する制度です 具体的には 持分なし医療法人 への

1: とは 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの ( 青色事業専従者等に該当する者を除く ) のうち 合計所得金額 ( 2) が 38 万円以下である者 2: 合計所得金額とは 総所得金額 ( 3) と分離短期譲渡所得 分離長期譲渡所得 申告分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額 申告分

国外転出時課税制度に関する改正「所得税基本通達」の解説

2. 改正の趣旨 背景 国内に住所を有しないことにより相続税 贈与税の課税を免れる租税回避行為を抑制するため 平成 12 年度改正 ( 相続人 受贈者の国籍による納税義務判定の導入 ) 平成 25 年度改正 ( 相続人 受贈者が日本国籍なしの場合の課税強化 ) が行われてきた 平成 29 年度改正で

用語の意義 この FAQ において使用している用語の意義は 次のとおりです 用語 所得税法 ( 所法 ) 所得税法施行令 ( 所令 ) 所得税法施行規則 ( 所規 ) 租税特別措置法 ( 措法 ) 国税通則法 ( 通法 ) 国税通則法施行令 ( 通令 ) 国税通則法施行規則 ( 通規 ) 金融商品取

平成19年12月○日

N 譲渡所得は 売却した土地や借地権 建物などの所有期間によって 長期譲渡所得 と 短期譲渡所得 に分けられ それぞれに定められた税率を乗じて税額を計算します この長期と短期の区分は 土地や借地権 建物などの場合は 売却した資産が 譲渡した年の1 月 1 日における所有期間が5 年以下のとき 短期譲

〇本事例集は 平成 31 年 3 月を期限とした個人の確定申告について 国税通則法関連 ( 所得税 の納税地を含む ) の 誤りやすい事例 について取りまとめています 〇本事例集は 誤りやすい事例 を載せた後に 正しい解釈 処理方法を提示しています なお 無用 な文字数 ページ数の増加を避けるため

て 次に掲げる要件が定められているものに限る 以下この条において 特定新株予約権等 という ) を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権等に係る株式の取得をした場合には 当該株式の取得に係る経済的利益については 所得税を課さない ただし 当該取締役等又は権利承継相続人 ( 以下この項及

土地建物等の譲渡損失は 同じ年の他の土地建物等の譲渡益から差し引くことができます 差し引き後に残った譲渡益については 下記の < 計算式 2> の計算を行います なお 譲渡益から引ききれずに残ってしまった譲渡損失は 原則として 土地建物等の譲渡所得以外のその年の所得から差し引くこと ( 損益通算 )

N 譲渡所得は 売却した土地や借地権 建物などの所有期間によって 長期譲渡所得 と 短期譲渡所得 に分けられ それぞれに定められた税率を乗じて税額を計算します この長期と短期の区分は 土地や借地権 建物などの場合は 売却した資産が 譲渡した年の1 月 1 日における所有期間が5 年以下のとき 短期譲

改正された事項 ( 平成 23 年 12 月 2 日公布 施行 ) 増税 減税 1. 復興増税 企業関係 法人税額の 10% を 3 年間上乗せ 法人税の臨時増税 復興特別法人税の創設 1 復興特別法人税の内容 a. 納税義務者は? 法人 ( 収益事業を行うなどの人格のない社団等及び法人課税信託の引

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公共債の税金について Q 公共債の利子に対する税金はどのようになっていますか? 平成 28 年 1 月 1 日以後に個人のお客様が支払いを受ける国債や地方債などの特定公社債 ( 注 1) の利子については 申告分離課税の対象となります なお 利子の支払いを受ける際に源泉徴収 ( 注 2) された税金

間の初日以後 3 年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間 6 高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例事業者 ( 免税事業者を除く ) が簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に国内における高額特定資産の課税仕入れ又は高額特定資産に該当する課税貨物の保税地域からの引取り ( 以下 高

Z-64-A 簿記論〔第一問〕-解 答-

5 適用手続 ⑴ 相続時精算課税の適用を受けようとする受贈者は 贈与を受けた財産に係る贈与税の申告期間内に 相続時精算課税選択届出書 ( 贈与者ごとに作成が必要 ) を贈与税の申告書に添付して 納税地の所轄税務署長に提出する ( 相法 21の92) なお 提出された当該届出書は撤回することができない

に限る ) は その追徴すべき不足税額 ( 当該減額更正前に賦課した税額から当該減額更正に基因して変更した税額を控除した金額 ( 還付金の額に相当する税額を含む ) に達するまでの部分に相当する税額に限る 以下この項において同じ ) については 次に掲げる期間 ( 令第 4 8 条の9の9 第 4

( 外国 ) 同上 ケース ( ) 相続人が取得した全 2 財産に対して課税 ( 外国 ) 国内財産に対しての み課税 ケース ( ) 相続人が取得した全 3 財産に対して課税 ( 外国 ) 同上 ( 平成 25 年度税制改正より ) ケース ( ) 被相続人 相続人いず 4 れも 5 年超居住の場

上場株式等の配当等に対する課税

第68回税理士試験 消費税法 模範解答(理論)

ビジネス・タックス・ロー・ニューズレター

給与所得控除額の改正前後の比較 改正前 改正後 給与等の収入金額給与所得控除額給与等の収入金額給与所得控除額 180 万円以下 収入金額 40% 65 万円に満たない場合は 65 万円 180 万円以下 収入金額 40%-10 万円 55 万円に満たない場合は 55 万円 180 万円超 360 万

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新規文書1

この特例は居住期間が短期間でも その家屋がその人の日常の生活状況などから 生活の本拠として居住しているものであれば適用が受けられます ただし 次のような場合には 適用はありません 1 居住用財産の特例の適用を受けるためのみの目的で入居した場合 2 自己の居住用家屋の新築期間中や改築期間中だけの仮住い

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税金読本(16-2)税務署への財産債務の申告と国外転出時みなし譲渡益課税

金庫株を活用した事業承継対策 1. 概要 非上場株式を相続して相続税が発生する場合は 相続で取得した自社株を相続税の申告期限後 3 年以内に金 庫株すればみなし配当課税しない (= 譲渡所得とする ) 特例があります ( 措置法 9 条の 7) 所得税の特例の内容 ( 自己株式をみなし配当課税しない

法人会の税制改正に関する提言の主な実現事項 ( 速報版 ) 本年 1 月 29 日に 平成 25 年度税制改正大綱 が閣議決定されました 平成 25 年度税制改正では 成長と富の創出 の実現に向けた税制上の措置が講じられるともに 社会保障と税の一体改革 を着実に実施するため 所得税 資産税についても

土地の譲渡に対する課税 農地に限らず 土地を売却し 譲渡益が発生すると その譲渡益に対して所得税又は法人税などが課税される 個人 ( 所得税 ) 税額 = 譲渡所得金額 15%( ) 譲渡所得金額 = 譲渡収入金額 - ( 取得費 + 譲渡費用 ) 取得後 5 年以内に土地を売却した場合の税率は30

2. 改正の趣旨 背景 (1) 問題となっていたケース < 親族図 > 前提条件 1. 父 母 ( 死亡 ) 父の財産 :50 億円 ( すべて現金 ) 財産は 父 子 孫の順に相続する ( 各相続時の法定相続人は 1 名 ) 2. 子 子の妻 ( 死亡 ) 父及び子の相続における相次相続控除は考慮

公共債の税金について Q 公共債の利子に対する税金はどのようになっていますか? 平成 28 年 1 月 1 日以後に個人のお客様が支払いを受ける国債や地方債などの特定公社債 ( 注 1) の利子については 申告分離課税の対象となります なお 利子の支払いを受ける際に源泉徴収 ( 注 2) された税金

Microsoft Word - NO.2 株式の譲渡 2.docx

注 1 認定住宅とは 認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう 注 2 平成 26 年 4 月から平成 29 年 12 月までの欄の金額は 認定住宅の対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が 8% 又は 10% である場合の金額であり それ以外の場合における借入限度額は 3,000 万円とする

6 課税上の取扱い日本の居住者又は日本法人である投資主及び投資法人に関する課税上の一般的な取扱いは 下記のとおりです なお 税法等の改正 税務当局等による解釈 運用の変更により 以下の内容は変更されることがあります また 個々の投資主の固有の事情によっては異なる取扱いが行われることがあります (1)

投資法人の資本の払戻 し直前の税務上の資本 金等の額 投資法人の資本の払戻し 直前の発行済投資口総数 投資法人の資本の払戻し総額 * 一定割合 = 投資法人の税務上の前期末純資産価額 ( 注 3) ( 小数第 3 位未満を切上げ ) ( 注 2) 譲渡収入の金額 = 資本の払戻し額 -みなし配当金額

税金の時効 税務では 時効のことを更正 決定処分の期間制限 = 除斥期間 といいます その概要は 以下の通りです 1. 国税側の除斥期間 ( 通則法 70) 1 期限内申告書を提出している場合の所得税 相続税 消費税 税額の増額更正 決定処分の可能期間 : 法定申告期限から 3 年 2 無申告の場合

1 繰越控除適用事業年度の申告書提出の時点で判定して 連続して 提出していることが要件である その時点で提出されていない事業年度があれば事後的に提出しても要件は満たさない 2 確定申告書を提出 とは白色申告でも可 4. 欠損金の繰越控除期間に誤りはないか青色欠損金の繰越期間は 最近でも図表 1 のよ

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海外財産の相続 : 事例研究 ~ 米国の財産の相続手続き ( 第 4 回 ) 三輪壮一氏三菱 UFJ 信託銀行株式会社リテール受託業務部海外相続相談グループ米国税理士 これまで 海外に財産を保有する場合の 海外相続リスク の存在 特にプロベイト手続き等の相続手続きの煩雑さについて 米国の例を基に説明

平成 30 年 7 月豪雨により被害を受けられた方の税務上の措置 ( 手続 )FAQ 平成 30 年 7 月広島国税局 平成 30 年 7 月豪雨により被害を受けられた方の税制上の措置 ( 手続 ) 等につきまして 照会の 多い事例を取りまとめましたので 参考としてください 目次 Ⅰ 災害にあった場

1. 贈与税のながれ はじめに行う作業 1 データの 新規追加 2 税理士登録 3 受贈者登録 4 贈与者登録 贈与税申告書の作成 5 贈与税申告書 の作成 その他の帳票作成 印刷 6 税務代理権限証書 の作成 印刷 2

配偶者の税額軽減特例の有利な受け方 配偶者がいる場合の 相続税の具体的な計算例は以下の通りです 1. 設例 自宅 預貯金等の相続財産の遺産額 =2 億円 法定相続人 = 配偶者 + 子 2 人の合計 3 人 実際の遺産分割は 法定相続分の通りとする 未成年者控除 外国税額控除 生命保険金の非課税枠金

Ⅲ 納付 [Q6] 申告 納付等の期限の延長が認められた場合 延滞税 利子税はどのようになりますか また 加算税は賦課されますか 7 [Q7] 今般の熊本地震災害により被害を受けましたが 納税の猶予はどのような場合に受けることができますか 8 [Q8] 納税の猶予の 相当の損失 とはどの程度の損失を

1 検査の背景 (1) 租税特別措置の趣旨及び租税特別措置を取り巻く状況租税特別措置 ( 以下 特別措置 という ) は 租税特別措置法 ( 昭和 32 年法律第 26 号 ) に基づき 特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより 国による特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとさ

債券税制の見直し(金融所得課税の一体化)に伴う国債振替決済制度の主な変更点について

内に 耐火建築物以外の建物についてはその購入の日以前 20 年以内に建築されたものであること 地震に対する安全上必要な構造方法に関する技術的基準又はこれに準ずるものに適合する一定の中古住宅 を 平成 17 年 4 月 1 日以降に取得した場合には 築年数に関係なく適用が受けられます (56ページ 一

事業承継税制の全体像は ( 図表 1) の通りである ( 図表 1) 事業承継税制の全体像 経営者 1 代目 経営者 2 代目 一括贈与 大臣認定 贈与税の課税 贈与税の納税猶予の適用 相続税の納税猶予制度と同様 雇用確保を含む 5 年間の事業継続を行い その後も株式を継続保有 生前贈与により株式の

5 配偶者控除等 配偶者控除 配偶者特別控除 扶養控除及び勤労学生控除の合計所得金額の要件 について 一律 10 万円ずつ引き上げられます 6 青色申告特別控除正規の簿記の原則により記帳している者に係る控除額が 55 万円に引き下げられ 正規の簿記の原則により記帳し かつ e5tax 等により確定申

目 次 問 1 法人税法における当初申告要件及び適用額の制限に関する改正の概要 1 問 2 租税特別措置法における当初申告要件及び適用額の制限に関する改正の概要 3 問 3 法人税法における当初申告要件 ( 所得税額控除の例 ) 5 問 4 法人税法における適用額の制限 ( 所得税額控除の例 ) 6

叔父から財産の贈与(1~3) を受けた場合 1/1 12/31 2/1 3/15 相選養続択与子贈時届贈精出縁与算書与 1組課提2 税出3 暦年課税相続時精算課税 養子縁組前の贈与 1については 暦年課税により贈与税額を計算し 養子縁組以後の贈与 2 及び 3は 相続時精算課税により贈与税額を計算し

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2 引き続き居住の用に供している場合 とされる場合本人が 転勤などのやむを得ない事情により 配偶者 扶養親族その他一定の親族と日常の起居を共にしないこととなった場合において その家屋等をこれらの親族が引き続きその居住の用に供しており やむを得ない事情が解消した後は 本人が共にその家屋に居住することに

平成23年度税制改正の主要項目

野村資本市場研究所|顕著に現れた相続税制改正の影響-課税対象者は8割増、課税割合は過去最高の8%へ-(PDF)

目 次 最近における相続税の課税割合 負担割合及び税収の推移 1 地価公示価格指数と基礎控除(58 年 =100) の推移 2 最近における相続税の税率構造の推移 3 小規模宅地等の課税の特例の推移 4 相続税負担の推移( 東京都区部のケース ) 5 ( 補足資料 ) 相続税の概要 6 相続税の仕組

申告所得税関係 手続名 帳票名平成年分セルフメディケーション税制の明細書 ( 次葉 ) 特定証券投資信託に係る配当控除額の計算書 平成 年分給与所得の源泉徴収票 ( 平成 28 年以降用 ) 平成 年分特定口座年間取引報告書 ( 平成 28 年以降用 ) 平成 年分公的年金等の源泉徴収票 ( 平成

【表紙】

相続税・贈与税の基礎と近年の改正点

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第11 源泉徴収票及び支払調書の提出

相続税計算 例 不動産等の評価財産の課税評価額が 4 億 8 千万円 生命保険金の受取額が 2 千万円 現金 預金等が 4 千万円 ローン等の債務及び葬式費用等が 3 千万円である場合の相続税を計算します 相続人は妻と 2 人の子供の 3 人です ( 評価額を計算するには専門知識を要します 必ず概算

退職金についての市県民税はどうなるの? 私は平成 28 年 4 月に退職しました 勤続 30 年で退職金は 2,100 万円ですがこの退職 金に対する市県民税はいくらですか 通常の市県民税の課税は前年中の所得に対し翌年課税されるしくみになっていますが 退職金に対する課税については 他の所得と分離して

Microsoft Word - 文書 1

相続税の大増税に備える! 不動産による最新節税対策

(2) 源泉分離課税制度源泉分離課税制度とは 他の所得と全く分離して 所得を支払う者 ( 銀行 証券会社等 ) がその所得の支払の際に 一定の税率で所得税を源泉徴収し それだけで所得税の納税が完結するものです 1 対象となる所得代表的なものとして 預金等の利子所得 定期積金の給付補てん金等があります

1. 相続税 (1) 基礎控除額の引き下げ 1) 改正の趣旨現在 ( ) の相続税の仕組みは 下図の通りです すなわち 合計課税価格から 基礎控除額を除いた課税遺産総額が相続税の計算の対象となるため 合計課税価格が基礎控除額の範囲内である場合には 相続税が課税されません その結果として 現状の相続税

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松戸市市税条例等の一部を改正する条例 ( 松戸市市税条例の一部改正 ) 第 1 条松戸市市税条例 ( 平成 27 年松戸市条例第 12 号 ) の一部を次のように改正する 第 11 条中 及び第 2 号 を 第 2 号及び第 5 号 に それぞれ当該各号 を 第 1 号から第 4 号まで に改め 掲

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FX取引に係る確定申告について

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3 平成 25 年 4 月に給与の支給規程を改訂し 平成 24 年分 10 月にまでさかのぼって実施する こととなり 平成 25 年 4 月の給与支給日に支払うこととなった平成 24 年 10 月から平成 25 年 3 月までの給与改訂差額 A 3 1 給与所得の収入金額の収入すべき時期は 契約又は

供託者等の住所 氏名または名称および個人番号または法人番 号は 供託者等の口座管理機関から日本銀行に対して 課税事 務のために提供される 2 所得税の徴収 納 入 利付国債の利子または割引国債等 ( 国庫短期証券のうち その銘柄の価格競争入札における募入最低価格 ( 額面金額 100 円当り ) が

Ⅲ 納付 [Q10] 申告 納付等の期限の延長が認められた場合 延滞税 利子税はどのようになりますか また 加算税は賦課されますか 7 [Q11] 今般の北海道胆振東部地震により被害を受けましたが 納税の猶予はどのような場合に受けることができますか 8 [Q12] 納税の猶予の 相当の損失 とはどの

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13. 平成 29 年 4 月に中古住宅とその敷地を取得した場合 当該敷地の取得に係る不動産取得税の税額から 1/2 に相当する額が減額される 14. 家屋の改築により家屋の取得とみなされた場合 当該改築により増加した価格を課税標準として不動産 取得税が課税される 15. 不動産取得税は 相続 贈与

Microsoft Word - News_Letter_Tax-Vol.43.docx

スライド 1

経 ViewPoint 営相談 相続時における小規模宅地等の特例の改正 谷口敬三相談部東京相談室 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例 ( 以下 小規模宅地等の特例 ) は 一定の要件を満たす宅地等 ( 特定事業用等宅地等 特定居住用宅地等 貸付事業用宅地等 ) につ

[2] 税率構造の見直し 相続税の税率構造が現行の6 段階から8 段階に変更されるとともに 最高税率が 50% から 55% に引き上げられることとなりました ただし 各法定相続人の取得金額が2 億円以下の場合の税率は と変わりありません この改正は 平成 27 年 1 月 1 日以後に相続または遺

[Q1] 復興特別所得税の源泉徴収はいつから行う必要があるのですか 平成 25 年 1 月 1 日から平成 49 年 12 月 31 日までの間に生ずる所得について源泉所得税を徴収する際 復興特別所得税を併せて源泉徴収しなければなりません ( 復興財源確保法第 28 条 ) [Q2] 誰が復興特別所

過納金とは 納付納入の時にはそれに対応する租税債務が存在していたが 結果的に不適法な納付納入となった場合における地方公共団体の徴収金のことであり 1 納付納入の時には一応適法であったものが その申告 更生 決定又は賦課決定が誤って過大にされていたため 後になって減額更正 減額の賦課決定又は賦課決定の

非課税上場株式等管理に関する約款 第 1 条 ( 約款の趣旨 ) この約款は お客さまが租税特別措置法第 9 条の8に規定する非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得の非課税および租税特別措置法第 37 条の14に規定する非課税口座内の少額上場株式等に係る譲渡所得等の非課税の特例 ( 以下 非課税

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1 KPMG Insight Vol. 12 / May 2015 国外転出時課税制度 ( 出国税 ) の導入 KPMG 税理士法人タックステクニカルセンター マネジャー山崎沙織 2015 年度税制改正において 個人が国外転出する時に有する株式等に係る未実現のキャピタルゲイン等に対して課税する国外転出時課税制度 ( いわゆる出国税 ) が導入され 2015 年 7 月 1 日から適用されることとなりました 本稿では 国外転出時課税制度の概要をご紹介するとともに 国外転出時課税制度の導入に伴い見直されることとなった財産債務明細書の提出制度に関する改正内容についてもお知らせいたします ポイント 国境を越えた人の動きに係る租税回避を防止する観点から 出国時における株式等に係る未実現のキャピタルゲイン等に対して課税する国外転出時課税制度が導入される 出国の場合だけでなく 贈与等 ( 贈与 相続または遺贈 ) により含み益を有する株式等を非居住者に移転した場合にも その株式等に係る未実現のキャピタルゲイン等が実現したものとみなして 国外転出時課税制度が適用される 国外転出時課税制度では 未実現のキャピタルゲイン等に課税することとなるため 納税資金が十分でない可能性に配慮し 納税猶予制度が設けられている 国外転出時課税制度の適用を受けた場合であっても 出国後一定期間内に株式等を売却せずに帰国した場合には 課税を取消すことができる措置が設けられている 国外転出時課税制度の創設に伴い 所得税 相続税の申告の適正性を確保するため 財産債務明細書について 記載内容の充実が図られるとともに 提出の有無等により所得税 相続税に係る過少申告加算税等を加減算するインセンティブ措置が設けられた やまざき山 さ 崎沙 おり織 KPMG 税理士法人タックステクニカルセンターマネジャー Ⅰ 国外転出時課税制度の導入の背景 株式等のキャピタルゲインについては 租税条約上 一定の場合を除き その株式等を売却した者が居住している国に課税権があるとされています これまでは こうした法制度を利用して 個人が含み益を有する株式等を保有したままキャピタルゲイン非課税国 ( たとえば シンガポール 香港 ニュージーランド等 ) に出国し その後に売却することにより キャピタルゲインに対する課税を回避することが可能となっていました このような税負担の回避は 日本だけでなく他国においても問題視されており 先進諸国 ( アメリカ イギリス ドイツ フランス イタリア カナダ等 ) では 出国時に有する資産に係る未実現のキャピタルゲインに対して特例的に課税する措置等が設けられています また 現在 G20/OECD が推進しているBEPSプロジェクト

KPMG Insight Vol. 12 / May 2015 2 ( 国際的な租税回避を各国で協調して防止することにより 公平な課税を実現し 税制に対する納税者の信頼を確保するための取組み ) において 昨年 9 月に公表されたAction 6( 租税条約の濫用防止 ) に関する報告書では 租税回避防止措置として出国時における未実現のキャピタルゲインに対して課税する制度を国内法に定めることは 租税条約に抵触しないことが示唆されました こうした流れを受け 日本においても国境を越えた人の動きに係る租税回避を防止する観点から 2015 年度税制改正において 国外転出時課税制度が導入され 2015 年 7 月 1 日から適用されることとなりました 在している外国人は 原則として本制度の適用対象とされますが 経過措置により 2020 年 6 月 30 日までは適用を受けないこととなります 図表 1 出入国管理及び難民認定法における在留資格 別表第一 1 外交 公用 教授 芸術 宗教 報道 2 高度専門職 経営 管理 法律 会計業務 医療 研究 教育 技術 人文知識 国際業務 企業内転勤 興行 技能 技能実習 3 文化活動 短期滞在 4 留学 研修 家族滞在 Ⅱ 国外転出時課税制度の概要 別表第二 5 特定活動 永住者 日本人の配偶者等 永住者の配偶者等 定住者 1. 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例 含み益を有する株式等を保有したまま出国し その後に売却することにより 日本での譲渡所得課税等を回避することを防止するための措置として 個人が国外転出する時に有する株式等に係る未実現のキャピタルゲイン等に対して課税する譲渡所得課税等の特例制度が導入されます (1) 適用対象者および対象資産 適用対象者 対象資産 国外転出 (*1) をする居住者で以下の 2 つの要件を満たす者 1 以下の対象資産の価額等の合計額が 1 億円以上であること 国外転出時に保有する対象資産 1の価額 国外転出時に契約を締結している対象資産 2のみなし決済損益の金額 2 国外転出の日前 10 年以内に 国内に住所または居所を有していた期間 (*2) の合計が 5 年超であること 1 所得税法に規定する有価証券 匿名組合契約の出資の持分 2 未決済のデリバティブ取引 信用取引 発行日取引 (*1) 国外転出とは 国内に住所および居所を有しないこととなることをいいます (*2) 国内に住所または居所を有していた期間 には 納税猶予( 下記 (5)2 参照 ) を受けている期間が含まれることとされている一方 出入国管理及び難民認定法別表第一の在留資格をもって在留していた期間は除かれます また 経過措置により 2015 年 6 月 30 日までに別表第二の在留資格で在留している期間についても 国内に住所または居所を有していた期間 から除かれることとされています 出入国管理及び難民認定法における在留資格については 図表 1 をご参照ください したがって たとえば別表第一の 2 等に掲げる在留資格 ( いわゆる就業ビザ ) により一時的に日本に滞在する外国人駐在員は 国外転出時課税制度の適用対象者から除かれることとなります また 別表第二に掲げる在留資格 ( 永住者や日本人の配偶者等 ) により滞 ( 別表第一の在留資格は 2015 年 4 月 1 日付で改正されています ) (2) 所得金額の計算国外転出時に有する対象資産について その国外転出の時に以下の区分に応じて定められた価額等により譲渡等があったものとみなして 譲渡所得等 ( 事業所得 譲渡所得または雑所得 ) 国外転出の日の属する年分の確定申告書の提出時までに納税管理人の届出をした場合を計算することとなります 国国外転出時における対象資 納税管理人の届出をしな産の価額 みなし決済損益のいで国外転出をした日以金額後にその年分の確定申告書を提出する場合 外転出時の価額等 その年分の所得税につき決定がされる場合 上記以外の場合 国外転出の予定日の 3 月前の日 ( 同日後に取得した場合は取得時 ) における対象資産の価額 みなし決済損益の金額 なお (1) 適用対象者の要件の1についても 上記の区分に応じて定められた価額等を用いて判定します (3) 適用税率原則として 15.315%( 復興特別所得税を含む ) の税率が適用されます (4) 申告納付手続対象資産に係る未実現の譲渡所得等は 国外転出の日の属する年分の他の所得とあわせて 以下の期日までに申告納税することとされています

3 KPMG Insight Vol. 12 / May 2015 国外転出時までに納税管理人の届出がある場合 国外転出時までに納税管理人の届出がない場合 申告期限 翌年の確定申告期限 ( 3 /15) 国外転出日 納付期限 申告期限までに担保の提供がある場合 : 納税猶予の適用あり ( 下記 (5)2~4 参照 ) 申告期限までに担保の提供がない場合 : 確定申告期限 ( 3 /15) 国外転出日 (5) 制度の主な留意点国外転出時課税制度には 以下の措置が設けられています ( 図表 2は以下の取扱いをフローチャートにまとめたものです ) 1 国外転出後 5 年以内に帰国した場合 国外転出時課税制度の適用を受けた者が 国外転出の日から 5 年以内に帰国 (*) した場合には 帰国の日から 4 月以内に更正の請求をすることにより 帰国時まで引き続き有している対象資産に係る課税を取り消すことができます 10 年間の納税猶予 ( 下記 2 参照 ) の適用を受ける場合に は 国外転出の日から 10 年以内に帰国 (*) したときも こ の課税の取消しに係る規定の適用を受けることができます (*) 帰国した場合のほか (i) 贈与により国外転出時に有していた対象資産を居住者に移転した場合や (ii) 死亡したことにより 国外転出時に有していた対象資産につき 一定の相続 遺贈により移転を受けた相続人 受遺者のすべてが居住者となった場合にも 課税の取消しに係る規定が適用されます 2 納税猶予制度 国外転出時課税制度の適用を受けた者は 以下のすべての要件を満たした場合に限り 5 年 ( 申請により 10 年 ) の納税猶予が認められます ⅰ 国外転出の日の属する年分の確定申告書に納税猶予を受けようとする旨の記載があり 納税猶予分の所得税額の計算に関する明細等の添付があること ⅱ その年分の所得税の確定申告期限までに納税猶予分の所得税額に相当する担保を提供すること ⅲ 国外転出時までに納税管理人の届出をすること 納税猶予される所得税額は 以下の (i) の金額から (ii) の金額を控除した金額とされます ⅰ 国外転出の日の属する年分の確定申告に係る所得税額 ⅱ 国外転出時課税制度の適用がないものとした場合における国外転出の日の属する年分の確定申告に係る所得税額 納税猶予を受ける者は 納税猶予の期限までの各年 12 月 31 日 ( 基準日 ) における納税猶予に係る対象資産に関する継続適用届出書を 基準日の翌年 3 月 15 日 ( 提出期限 ) までに 納税地の所轄税務署長に提出することとされています 継続適用届出書を提出期限までに提出しなかった場合には その提出期限から 4 月を経過する日が 納税猶予の期限となります 3 納税猶予の期限までに対象資産の譲渡等をした場合 納税猶予に係る所得税のうち譲渡等があった対象資産に係る部分については 譲渡等の日から 4 月を経過する日をもって納税猶予が終了し 納税義務が生じます 所得税を納付する際には 納税猶予がされた期間に係る利子税をあわせて納付しなければなりません 譲渡価額等が国外転出時の価額等を下回るときは 譲渡等の日から 4 月以内に更正の請求をすることにより 所得税額を減額することができます 図表 2 国外転出時課税制度 - フローチャート 納税猶予あり 猶予期限到来 猶予期限内に譲渡 課税但し 以下の場合には 更正の請求により所得税の減額が可 時価が下落した場合 外国所得税が課された場合 国外転出時課税制度 5 年以内 (*) に帰国 5 年以内に帰国 課税の取消し可 納税猶予なし 課税 (*) 10 年間の納税猶予の適用を受ける場合には 10 年以内

KPMG Insight Vol. 12 / May 2015 4 その譲渡所得等に対して外国所得税が課される場合において その外国で二重課税が調整されないときは その外国所得税を納付することとなる日から 4 月以内に更正の請求をすることにより その外国所得税を国外転出の日の属する年において納付することとなるものとみなして 日本において外国税額控除の適用を受けることができます 4 納税猶予の期限が到来した場合 期限到来日に納税猶予に係る所得税について納税義務が生じます 所得税を納付する際には 納税猶予がされた期間に係る利子税をあわせて納付しなければなりません 期限到来日における対象資産の価額等が国外転出時の価額等を下回るときは 期限到来日から 4 月以内に更正の請求をすることにより 所得税額を減額することができます (6) 適用時期国外転出をする場合の譲渡所得等の特例制度は 居住者が 2015 年 7 月 1 日以後に国外転出をする場合について適用されます 2. 贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例 含み益を有する株式等を贈与等 ( 贈与 相続または遺贈 ) により非居住者に移転した場合には その贈与等の時に株式等に係る未実現のキャピタルゲイン等が実現したものとみなして所得税を課税する 上記 1. と同様の特例制度が導入されます したがって たとえばオーナー企業の経営者等が その保有する自社株式を非居住者に承継させるような場合には 本制度の適用を受ける可能性がありますので留意が必要です (1) 適用対象者および対象資産 適用対象者 対象資産 対象資産を贈与等により非居住者に移転する居住者 ( 以下の 2 つの要件を満たす贈与者または被相続人 ) 1 以下の対象資産の価額等の合計額が 1 億円以上であること 贈与等の時に保有する対象資産 1の価額 贈与等の時に契約を締結している対象資産 2のみなし決済損益の金額 2 贈与等の日前 10 年以内に 国内に住所または居所を有していた期間 (*) の合計が 5 年超であること 1 所得税法に規定する有価証券 匿名組合契約の出資の持分 2 未決済のデリバティブ取引 信用取引 発行日取引 (*) 国内に住所または居所を有していた期間 には 納税猶予( 上記 1.(5)2 参照 ) を受けている期間が含まれることとされている一方 出入国管理及び難民認定法別表第一の在留資格をもって在留して いた期間は除かれます また 経過措置により 2015 年 6 月 30 日までに別表第二の在留資格で在留している期間についても 国内に住所または居所を有していた期間 から除かれることとされています 出入国管理及び難民認定法における在留資格については 図表 1 をご参照ください (2) 所得金額の計算贈与等の時に その時における価額等で対象資産の譲渡等があったものとみなして 譲渡所得等を計算することとなります (3) 適用税率上記 1.(3) と同様 原則として15.315%( 復興特別所得税を含む ) の税率が適用されます (4) 申告納付手続 1 贈与の場合対象資産に係る未実現の譲渡所得等は 贈与の日の属する年分の他の所得とあわせて その年分の所得税に係る確定申告期限 (3/15) までに申告納税することとされています ただし 確定申告書に納税猶予の適用を受けようとする旨の記載および必要書類の添付があり 確定申告期限までに担保を提供した場合には 納税猶予の適用が認められます 2 相続または遺贈の場合対象資産に係る未実現の譲渡所得等は 相続または遺贈の日の属する年分の他の所得とあわせて 相続人がその被相続人に係る準確定申告書の提出期限 ( 相続開始があったことを知った日の翌日から4 月を経過した日の前日 ) までに申告納税することとされています ただし 準確定申告書に納税猶予の適用を受けようとする旨の記載および必要書類の添付があり 準確定申告書の提出期限までに相続人が担保を提供した場合であって 対象資産を取得した非居住者の全員が納税管理人の届出をしたときは 納税猶予の適用が認められます (5) 制度の主な留意点上記 1.(5) とほぼ同様の措置が設けられていますが たとえば以下の相違点があるため 留意が必要です 相続または遺贈の場合には 被相続人の所得税の申告納税義務は相続人に承継されるため 納税猶予の申請や継続適用届出書の提出 更正の請求の手続等は相続人が行うこととされています 贈与により対象資産の移転を受けた非居住者で贈与者から納税猶予を受けている旨および納税猶予期限の通知を受けた受贈者が 納税猶予の期限までにその対象資産の譲渡等をした場合には その譲渡等の日から 2 月以内に 譲渡等をした旨 譲渡等をした対象資産の種類 銘柄等の事項を贈与者に対して通知することとされています 対象資産の移転を受けた非居住者である受贈者 相続人

5 KPMG Insight Vol. 12 / May 2015 等が 納税猶予の期限までに対象資産の譲渡等をしたことにより その譲渡所得等に対して外国所得税が課される場合においても 二重課税の問題は生じないため 外国税額控除の適用はありません (6) 適用時期贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例制度は 2015 年 7 月 1 日以後の贈与等について適用されます 3. 外国転出時課税の規定の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例外国で日本の国外転出時課税制度に相当する規定の適用を受け 外国所得税を課された居住者が その課税対象となった資産の譲渡等をしたときは 所得金額の計算上 外国で課税対象とされた価額をその資産の取得価額等とすることにより 二重課税の調整が行われます この特例規定は 2015 年 7 月 1 日以後に外国における国外転出に相当する事由等が生ずる場合について適用されます 4. 地方税 ( 個人住民税 ) の取扱い現行法上 個人住民税は1 月 1 日に日本国内に住所を有する者の前年の所得に対して課税することとされています そのため 年の途中で出国した者については 翌年 1 月 1 日に日本国内に住所を有しないこととなるため 出国した年中に生じた所得 ( キャピタルゲイン等 ) に対して個人住民税は課税されません この現行法における取扱いとの整合性から 未実現のキャピタルゲインに課税する国外転出時課税制度 ( 上記 1. ~ 3. の規定 ) は 個人住民税には適用しないこととされています ただし 個人住民税に対する国外転出時課税制度の導入については 引き続き検討を行うこととされています なお 上記 2. のうち 贈与により非居住者に対象資産を移転した場合には 国外転出時課税制度の適用を受ける贈与者は贈与の翌年 1 月 1 日においても日本国内に住所を有している可能性がありますが その場合も含めて個人住民税は課税しないこととされています 5. 更正決定等の期間制限所得税に対する更正決定等の期間制限は 原則として 5 年とされていますが 国外転出時課税制度 ( 上記 1. または 2.) の適用がある場合 ( 納税管理人の届出および税務代理権限証書の提出がある場合等は除かれます ) の所得税については その更正決定等の期間制限が 7 年とされます この改正は 2015 年 7 月 1 日から施行されます Ⅲ 財産債務明細書の提出制度の見直し これまで 確定申告書の提出義務があり その年分の総所得金額および山林所得金額の合計額が 2,000 万円を超える個人は 財産及び債務の明細書 ( その年の 12 月 31 日において有する財産の種類 数量および価額ならびに債務の金額等を記載した明細書 ) を確定申告書に添付して提出することとされていました 国外転出時課税制度の創設に伴い この 財産及び債務の明細書 について 所得税 相続税の申告の適正性を確保するため 記載内容を充実させる等の整備が行われました 1. 提出基準および記載事項の見直し 財産及び債務の明細書 はこれまで所得税法に規定されていましたが 改正により 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律において新たに 財産債務調書 として規定され 提出基準が以下のように見直されることとなりました 改正前 改正後 その年分の所得金額が 2,000 万円超 以下の 2 つの基準を満たすこと 1 その年分の所得金額が 2,000 万円超 2 その年の 12 月 31 日に有する財産の価額の合計額が 3 億円以上またはその年の 12 月 31 日に有する国外転出時課税制度の対象資産の価額の合計額が 1 億円以上 記載事項については 国外財産調書 ( その年の12 月 31 日に有する国外財産の価額の合計額が 5,000 万円を超える個人 ( 永住者のみ ) が提出する調書 ) と同様となります たとえば これまで記載を要しなかった財産 債務の所在や有価証券の銘柄 取得価額 ( 国外財産調書 においても従前は 取得価額は記載事項ではありませんでしたが 改正により有価証券等については取得価額も記載事項に加えられています ) 等の情報も記載が必要となります また 財産の価額については その年の12 月 31 日における時価または見積価額により記載することとなります 財産債務調書 の書式については 図表 3をご参照ください この改正は 2016 年 1 月 1 日以後に提出すべき 財産債務調書 について適用されます

KPMG Insight Vol. 12 / May 2015 6 2. 過少申告加算税 無申告加算税の特例納税者が過少申告をした場合または申告すべき所得等を申告しなかった場合において 納税者による修正申告 期限後申告書の提出または国税当局による更正 決定 ( 以下 修正申告等 という ) があったときは 原則として 修正申告等による納税額に対し下記の課税割合を乗じた過少申告加算税または無申告加算税が課せられます 加算税修正申告等による納税額課税割合 加重措置 加重措置が適用される場合 加重措置の対象税額 加重措置の内容 期限内に 財産債務調書 の提出がない場合または 期限内に提出された 財産債務調書 に修正申告等の基因となる財産または債務に係る記載がない場合 ( 重要な事項の記載が不十分である場合を含む ) 財産債務に係る所得税 過少申告加算税または無申告加算税の課税割合が 5% 加重される 過少申告加算税 50 万円または期限内申告税額のいずれか多い金額を超える部分 15% 上記以外 10% 無申告加算税 50 万円を超える部分 20% 上記以外 15% 財産債務調書 の適正な提出を促すため 過少申告加算税および無申告加算税について 国外財産調書 制度に設けられている措置と同様の以下の特例 ( 軽減措置または加重措置 ) が適用されることになります 軽減措置 なお 財産債務調書 が期限後に提出された場合であっても その提出が 財産債務に係る所得税または財産に対する相続税についての調査があったことにより更正または決定があるべきことを予知してされたものでないときは 上記の特例の適用上 その 財産債務調書 は期限内に提出されたものとみなされます この特例は 2016 年 1 月 1 日以後に提出すべき 財産債務調書 に係る財産債務に係る所得税または財産に対する相続税について適用されます 軽減措置が適用される場合 軽減措置の対象税額 軽減措置の内容 期限内に提出された 財産債務調書 に修正申告等の基因となる財産または債務に係る記載がある場合 財産債務に係る所得税 財産に対する相続税 過少申告加算税または無申告加算税の課税割合が 5% 軽減される 図表 3 財産債務調書 の書式 平成 年 12 月 31 日分財産債務調書 財産債務を有する者 住所又は居所 氏 名 個人番号 財産債務の区分 種類用途所在数量 財産の価額又は債務の金額 備考 財産の価額の合計額 債務の金額の合計額 ( 取得価額については この調書の 財産の価額又は債務の金額 の欄に外書で記載することとされています )

7 KPMG Insight Vol. 12 / May 2015 本稿に関するご質問等は 以下の者までご連絡くださいますようお願いいたします KPMG 税理士法人タックステクニカルセンターマネジャー 税理士山崎沙織 TEL: 03-6229-8256 saori.yamazaki@jp.kpmg.com

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