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ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

-3- Ⅰ 市町村国保の状況 1 特定健康診査受診者の状況 平成 23 年度は 市町村国保 (41 保険者 )98,439 人の特定健康診査データの集計を行った 市町村国保の診者数は男性 女性ともに 歳の割合が多く 次いで 歳 歳の順となっている 男性 女性 総数

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日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

日本内科学会雑誌第103巻第8号


1. 背景ながはまコホート事業は 京都大学と滋賀県長浜市が共同して行っている 市民の健康づくりと最先端の医学研究を目的として実施されている事業です 5 年ごとに一般の特定健診項目に加えて 遺伝子解析を含む血液検査や睡眠検査などの様々な検査が行われています 私たちはこのコホート事業において 睡眠呼吸障

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婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

study のデータベースを使用した このデータベースには 2010 年 1 月から 2011 年 12 月に PCI を施行された 1918 人が登録された 研究の目的から考えて PCI 中にショックとなった症例は除外した 複数回 PCI を施行された場合は初回の PCI のみをデータとして用いた

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のつながりは重要であると考える 最近の研究では不眠と抑うつや倦怠感などは互いに関連し, 同時に発現する症状, つまりクラスターとして捉え, 不眠のみならず抑うつや倦怠感へ総合的に介入することで不眠を軽減することが期待されている このようなことから睡眠障害と密接に関わりをもつ患者の身体的 QOL( 痛

3 スライディングスケール法とアルゴリズム法 ( 皮下注射 ) 3-1. はじめに 入院患者の血糖コントロール手順 ( 図 3 1) 入院患者の血糖コントロール手順 DST ラウンドへの依頼 : 各病棟にある AsamaDST ラウンドマニュアルを参照 入院時に高血糖を示す患者に対して 従来はスライ

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー


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章 a 図 b 口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 uvulopalatopharyngoplasty UPPP a 術前 b 術後 睡眠障害 睡眠呼吸障害クリニックの つではないかと思われる 当初多かった不眠症にかわって 睡眠呼吸障害が漸増し 耳鼻咽喉科などと連携し 病因の解明や治療法に向けた研究がスタートし


高齢者の筋肉内への脂肪蓄積はサルコペニアと運動機能低下に関係する ポイント 高齢者の筋肉内に霜降り状に蓄積する脂肪 ( 筋内脂肪 ) を超音波画像を使って計測し, 高齢者の運動機能や体組成などの因子と関係するのかについて検討しました 高齢男性の筋内脂肪は,1) 筋肉の量,2) 脚の筋力指標となる椅子

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( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

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( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

News Release 報道関係各位 2015 年 6 月 22 日 アストラゼネカ株式会社 40 代 ~70 代の経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんと 2 型糖尿病治療に従事する医師の意識調査結果 経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんは目標血糖値が達成できていなくても 6 割が治療

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

第二問 : 睡眠障害 ( 不眠症 ) の種類は大きく分けて 入眠障害 中途覚醒 熟眠障害 早朝覚醒 の四つがあります それぞれの種類についてどのような症状であるか それぞれの図を参考に説明 してください 入眠障害 床についてもなかなか寝付けない症状が入眠障害である 日常的に 1 時間以上眠れずに苦痛

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糖尿病予備群は症状がないから からだはなんともないの 糖尿病予備群と言われた事のある方のなかには まだ糖尿病になったわけじゃないから 今は食生活を改善したり 運動をしたりする必要はない と思っている人がいるかもしれません 糖尿病予備群の段階ではなんの症状もないので そう考えるのも無理はないです しか

す しかし 日本での検討はいまだに少なく 比較的小規模の参加者での検討や 個別の要因との関連を報告したものが殆どでした 本研究では うつ病患者と対照者を含む 1 万人以上の日本人を対象とした大規模ウェブ調査で うつ病と体格 メタボリック症候群 生活習慣の関連について総合的に検討しました 研究の内容

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第三問 : 次の認知症に関する基礎知識について正しいものには を 間違っているものには を ( ) 内に記入してください 1( ) インスリン以外にも血糖値を下げるホルモンはいくつもある 2( ) ホルモンは ppm( 百万分の一 ) など微量で作用する 3( ) ホルモンによる作用を内分泌と呼ぶ

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ン投与を組み合わせた膵島移植手術法を新たに樹立しました 移植後の膵島に十分な栄養血管が構築されるまでの間 移植膵島をしっかりと休めることで 生着率が改善することが明らかとなりました ( 図 1) この新規の膵島移植手術法は 極めてシンプルかつ現実的な治療法であり 臨床現場での今後の普及が期待されます

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, 2008 * Measurements of Sleep-Related Hormones * 1. * 1 2.

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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機能分類や左室駆出率, 脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain Natriuretic peptide, BNP) などの心不全重症度とは独立した死亡や入院の予測因子であることが多くの研究で示されているものの, このような関連が示されなかったものもある. これらは, 抑うつと心不全重症度との密接な

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研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

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概要 特別養護老人ホーム大原ホーム 社会福祉法人行風会 平成 9 年開設 長期入所 :100 床 短期入所 : 20 床 併設大原ホーム老人デイサービスセンター大原地域包括支援センター 隣接京都大原記念病院

( 様式甲 5) 氏 名 渡辺綾子 ( ふりがな ) ( わたなべあやこ ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲 第 号 学位審査年月日 平成 27 年 7 月 8 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 学位論文題名 Fibrates protect again

満 ) 測定系はすでに自動化されている これまで GA を用いた研究は 日本 中華人民共和国 (PRC) および米国で実施され GA 値が糖尿病の診断に有用という結果が日本とアメリカで報告された 本研究ではその普遍性を追求するため 台湾人での検討を行った 同時に台湾における GA の基準範囲を新規に

データを正しく 活用していただくために 今回は 平成 23 年度に市町村国保で実施した特定健診結果のみ集計しています 今後 協会けんぽ沖縄支部の結果とあわせて 改めてデータ集を発行する予定です 1. 集計対象者 今回の集計対象者は 平成 23 年度に特定健康診査を受診した者 ( 市町村国保分のみ )

解禁時間 ( ラジオ テレビ WEB): 平成 30 年 4 月 7 日 ( 土 ) 午後 1 時 ( 日本時間 ) ( 新聞 ): 平成 30 年 4 月 7 日 ( 土 ) 付夕刊 [PRESS RELEASE] 平成 30 年 4 月 3 日 夏の夜は心筋梗塞の増加に注意 日本 イタリアなど世

2009年8月17日

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犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

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統合失調症の病名変更が新聞報道に与えた影響過去約 30 年の網羅的な調査 1. 発表者 : 小池進介 ( 東京大学学生相談ネットワーク本部 / 保健 健康推進本部講師 ) 2. 発表のポイント : 過去約 30 年間の新聞記事 2,200 万件の調査から 病名を 精神分裂病 から 統合失調症 に変更

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本件リリース先 文部科学記者会 科学記者会広島大学関係報道機関 広島大学学術 社会産学連携室広報グループ 東広島市鏡山 TEL: FAX: 平成 2

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激増する日本人糖尿病 ( 万人 ) 2,500 糖尿病の可能性が否定できない人 (HbA1c 6.0~6.4) 糖尿病が強く疑われる人 (HbA1c 6.5% 以上 ) 2,210 万人 2,000 1,500 1,000 1,620 万人 1,370 万人 万人 880 万人 +

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糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

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抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

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Transcription:

プレスリリース 大阪科学 大学記者クラブ御中 2015 年 4 月 10 日 公立大学法人大阪市立大学広報室 E-mail:t-koho@ado.osaka-cu.ac.j 睡眠障害が糖尿病の血糖改善や血管障害防止に 有効な治療ターゲットであることを解明 < 概要 > 大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学の稲葉雅章 ( いなばまさあき ) 教授らのグループは 糖尿病の血糖コントロール悪化で睡眠の質の劣化を伴う睡眠障害が引き起こされること また睡眠障害が早朝高血圧を起こすことで糖尿病の心血管障害の原因となることを明らかにしました 以前から 睡眠障害の患者は糖尿病の有病率や将来高い確率で発症することが分かっていましたが 糖尿病の肥満に伴う睡眠時無呼吸症候群の関連は必ずしも明らかではありませんでした 私たちは今回の研究で 脳波計を用いて糖尿病の血糖コントロール指標である HbA1c 増悪が 睡眠の質を決定する睡眠第 1 相の時間短縮 さらに 脳を休息させる深睡眠である徐波睡眠の短縮と有意に関連することを明らかにしました さらに それらの睡眠の質の増悪が動脈硬化指標であり 心血管イベントリスク因子である頸動脈の内膜中膜肥厚度と関連することを示しました また これまでの研究で 糖尿病患者での血糖コントロール増悪が心血管イベントリスクである早朝の血圧上昇に有意に関連していることを認めています 睡眠に対する治療が夜間 早朝血圧の改善を示した研究を考慮すると 糖尿病での血糖コントロール悪化 睡眠障害 早朝血圧上昇 心血管エベントリスク上昇となり 糖尿病での睡眠障害が 血糖コントロール増悪で悪化すること および睡眠時無呼吸とは独立して糖尿病での心血管イベントを防止するための治療ターゲットであることが 脳波計を用いた本研究で初めて明らかとなりました さらに 睡眠障害は交感神経系賦活化を通じて夜間 早朝血圧上昇のみならず 血糖コントロールの悪化をもたらすことが示唆されています 今回の研究から 糖尿病患者への積極的な睡眠障害に対する治療は 不眠による QOL 増悪を改善するだけでなく 交感神経活動の低下により夜間 早朝血圧改善による動脈硬化進展予防や 血糖コントロール改善を目的とする治療として位置づけられます 睡眠導入薬の進歩や新規薬剤の投入により 不眠治療が臨床の場で安全かつ効率よく行えるようになったことに加え 不眠治療に対する認識を変えることができる研究であるといえます 本研究の成果は 日本時間平成 27 年 4 月 14 日 ( 火 ) 午前 4 時にオープンアクセスジャーナル PLOS ONE にオンライン掲載されます

発表雑誌 PLOS ONE 論文名 Association between oor glycemic control, imaired slee quality, and increased arterial thickening in tye 2 diabetic atients 2 型糖尿病患者における血糖コントロール増悪 睡眠の質劣化 動脈壁肥厚度増加の関連 著者 Koichiro Yoda, Masaaki Inaba, Kae Hamamoto, Maki Yoda, Akihiro Tsuda, Katsuhito Mori, Yasuo Imanishi, Masanori Emoto, Shinsuke Yamada 掲載 URL htt://dx.los.org/10.1371/journal.one.0122521 < 研究の背景 > 一夜の睡眠段階は 覚醒から Stage1 Stage2 Stage3 Stage4 と移行します 入眠から 90 ~120 分経過すると最初のレム睡眠が出現する Stage1~レム睡眠の終わりまでを睡眠周期といい 一夜の睡眠で睡眠周期は 4~5 回繰り返されます 一夜の睡眠の前半では深い眠りで大脳皮質を休息させる徐波睡眠 ( 睡眠段階 3 4) が多く 後半ではレム睡眠が増加します 覚醒レム睡眠 ノンレ ム睡眠 徐波睡眠 1 2 3 4 1 2 3 4 5 6 7 8 深睡眠 ( 徐波睡眠 ) が睡 眠初期に多く現れる 睡眠時間 睡眠周期 (90 分 ~120 分 ) 明け方に REM が多い 図 1. 一晩の睡眠パターン Stage1-4 のノンレム睡眠は脳を休息させる睡眠で眠りの 20-25% を占め 特に stage3-4 の徐波睡眠は熟眠感が得られる質の高い睡眠といわれています 一方 レム睡眠を睡眠の 75-80% を占め 体を休息させる睡眠といわれています 徐波睡眠の役割として 脳の休息以外に交感神経活動の低下とともに副交感神経活動の上昇が見られ 夜間の血圧低下や血糖コントロールの改善が起きるといわれています 糖尿病患者では 一般人に比べて約 2 倍の不眠が見られるといわれています これは肥満に伴 う閉塞性睡眠時無呼吸症候群を除いた数字で 種々の原因が指摘されてきました 疫学研究では 睡眠時間の短縮とともに糖尿病の有病率が上昇することや 睡眠障害を有する患者では 2 型糖尿

病の発症確率が有意に高くなることから 睡眠障害で糖尿病増悪の可能性は示唆されましたが 糖尿病での血糖コントロールと睡眠障害の直接の関与は明らかではなく 血糖増悪による夜間排 尿回数の増加などが挙げられてきました < 研究の内容 > 今回の研究は 63 名の 2 型糖尿病患者に脳波計を用いて精密な睡眠の質判定を行い その結果 血糖コントロール指標である HbA1c の増悪につれて 深睡眠の程度を示すレム睡眠潜時が短縮すること また レム睡眠潜時は徐波睡眠の程度を示すデルタパワーと正相関することより 血糖コントロール増悪により深睡眠の徐波睡眠相が減少することを明らかにしました ( 図 2) 図 2. 睡眠指標 ( レム睡眠潜時 ログデルタパワー ) と HbA1c 頸動脈内膜中膜肥厚度との相関 次に 多変量解析を用いて REM 睡眠潜時と関連する因子を検定したところ 睡眠時無呼吸症候群の指標である無呼吸 低呼吸インデックス (AHI) と独立し手血糖コントロール指標である HbA1c は REM 睡眠潜時と独立した有意の負の関連を示しました これは 血糖コントロール増悪を示す HbA1c 上昇が 深睡眠指標であるレム睡眠潜時の短縮をもたらすことを示唆する結果でした

興味深い点は これら 2 型糖尿病患者において REM 睡眠潜時やログデルタパワーなどの深睡眠指標は 動脈硬化指標である頸動脈内膜中膜肥厚度と有意な逆相関を示したことです 多変量解析でも両者は有意な負の関連を示したことから 深睡眠の障害は動脈硬化進展につながる可能性が本研究より示唆されました ( 表 1) Measure β Model 1 Model 2 β 年齢 0.319 0.012* 0.220 0.088 糖尿病罹病期間 0.297 0.022* 0.274 0.032* 早朝血圧上昇 0.149 0.178 0.170 0.115 HbA1c REM 睡眠潜時デルタ波パワー値 0.190 0.232 0.080 0.038* 0.204 0.257 0.054 0.023* R 2 0.456 < 0.001 0.465 < 0.001 表 1.2 型糖尿病患者での頸動脈内膜 中膜肥厚度との関連 ( 多変量解析 ) 糖尿病での睡眠障害が動脈硬化進展に関連していることは明らかとなったが その機序についても我々は一つの機序を示すことができている それは 睡眠障害が夜間高血圧 早朝高血圧を引き起こすことによる とくに早朝高血圧は種々の血圧指標のなかで最も強力に心血管エベントを抑制する因子であることが示されている 50 名の 2 型糖尿病患者において 血糖コントロール指標である HbA1c と空腹時血糖は早朝の血圧上昇と有意に正に相関し またインスリン抵抗性指標も早朝血圧上昇と有意な正関連を示しています 多変量解析でも HbA1c とインスリン抵抗性指標である HOMA-R と血清中性脂肪値は正の有意な関連を示しました さらにこれら患者で早朝血圧上昇は 多変量解析で血管内皮依存性の血管拡張反応低下と有意な負の関連を示したことから 2 型糖尿病患者では 血糖コントロール悪化 早朝血圧上昇 血管障害が起こっていると考えられます この以前の研究に加え 本研究で血糖コントロール指標悪化が睡眠の質劣化と関連すること および以前の研究により睡眠障害の治療が夜間高血圧 早朝高血圧低下につながることが示されていることを包括的に考えると 2 型糖尿病患者での睡眠障害の積極的な介入が 血糖コントロール改善や動脈硬化進展の防止に向けた重要な治療ターゲットであることが浮かび上がってきました < 期待される効果 > 現在 睡眠障害により特異的に有効とされるオレキシン阻害薬を用いて 睡眠障害改善によってもたらされる現象について解析中です また血糖コントロールについてのみ わずかな症例の結果しか得られていませんが 睡眠障害治療によって交感神経系の改善がもたらされること それに伴って血糖の改善が有意に得られるという結果を得ています 今 血圧や血管障害指標の改善の有無についても検討しているところです それらの研究が進展して もし睡眠障害治療によって血糖コントロールの改善 夜間高血圧 早朝高血圧の改善 血管障害の緩和を期待できる結

果が得られるなら 睡眠障害治療を 2 型糖尿病での重要な治療ターゲットとして位置づけること ができます 最近の新規の異なった機序による睡眠障害治療薬の導入もあいまって 本研究が睡 眠障害の治療目的を新たに位置づけるうえで重要な研究となりうると期待されます < 今後の展開について > 今回の横断研究で明らかになった睡眠障害と血糖コントロール 血圧 動脈硬化の 3 者間での 因果関係を明らかにするため 睡眠を特異的に改善する薬剤を用いて 睡眠障害によって引き起 こされる代謝異常を検討しています 現在の予備段階の研究では 睡眠障害による交感神経系の 活動性低下や血糖コントロール改善が認められています 今後患者数を増やして睡眠障害に対する治療の位置づけを確立できるように研究を進めていく計画です 研究内容に関するお問い合わせ 大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学教授稲葉雅章 TEL:06-6645-3805 FAX:06-6645-3808 E-mail:inaba-m@med.osaka-cu.ac.j 報道に関するお問合せ先 大阪市立大学法人運営本部広報室担当 : 竹谷 TEL:06-6605-3411 FAX:06-6605-3572 E-mail:t-koho@ado.osaka-cu.ac.j