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医療関連感染サーベイランス

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

カテーテル管理

第10回 感染制御部勉強会 「症例から考える感染症診療」

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿

要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

Clostridium difficile 毒素遺伝子検査を踏まえた検査アルゴリズム

在宅療養高齢者における尿路感染予防に関する研究 - 膀胱留置カテーテル留置による尿路感染症を予防するためのケアプロトコール 年 要約 千葉大学大学院看護研究科博士後期課程印田宏子 I. 緒言尿道留置カテーテルの使用は尿路感染症のリスクであり 急性期施設では医療関連感染症の尿路感染症 (C

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

PowerPoint プレゼンテーション

背部痛などがあげられる 詳細な問診が大切で 臨床症状を確認し 高い確率で病気を診断できる 一方 全く症状を伴わない無症候性血尿では 無症候性顕微鏡的血尿は 放置しても問題のないことが多いが 無症候性肉眼的血尿では 重大な病気である可能性がある 特に 50 歳以上の方の場合は 膀胱がんの可能性があり

スライド 1

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

腹腔鏡下前立腺全摘除術について

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

2009年8月17日

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や


市中肺炎に血液培養は必要か?

背景 カテーテル関連尿路感染症 (Catheter-associated urinary tract infection: CAUTI) は, 急性期病院における院内感染の 30% 以上を占め, 患者死亡率の増加につながるのみならず, 入院コストの増大や, 入院期間の延長の原因ともなる また, 採尿

2015 年 7 月 8 日放送 抗 MRS 薬 最近の進歩 昭和大学内科学臨床感染症学部門教授二木芳人はじめに MRSA 感染症は 今日においてももっとも頻繁に遭遇する院内感染症の一つであり また時に患者状態を反映して重症化し そのような症例では予後不良であったり 難治化するなどの可能性を含んだ感

Microsoft Word - <原文>.doc

針刺し切創発生時の対応

(案の2)

Microsoft Word - CDDP+VNR患者用パンフレット doc

減量・コース投与期間短縮の基準

それでは具体的なカテーテル感染予防対策について説明します CVC 挿入時の感染対策 (1)CVC 挿入経路まずはどこからカテーテルを挿入すべきか です 感染率を考慮した場合 鎖骨下穿刺法が推奨されています 内頚静脈穿刺や大腿静脈穿刺に比べて カテーテル感染の発生頻度が低いことが証明されています ただ

Q&A(最終)ホームページ公開用.xlsx

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

PowerPoint プレゼンテーション

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

表 1: 尿道留置カテーテルの適応 1 急性の尿閉または下部尿路閉塞のある患者 2 尿量の正確な測定を必要とする重篤な患者 3 特定の手術処置における周術期の使用 泌尿器の手術や泌尿生殖の隣接組織の手術を受けた患者 長時間の手術が予想される場合 術中に大量の輸液や利尿剤を投与されることが予想される患

プライマリーケアのためのワンポイントレクチャー「総論」(2017年4月12日開催)

放射線併用全身化学療法 (GC+RT 療法 ) 様の予定表 No.1 月日 経過 達成目標 治療 ( 点滴 内服 ) 検査 処置 活動 安静度 リハビリ 食事 栄養指導 清潔 排泄 / 入院当日 ~ 治療前日 化学療法について理解でき 精神的に安定した状態で治療が

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

患者さんへの説明書

第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

Microsoft PowerPoint - 北摂(VCUG).ppt

耐性菌届出基準

 85歳(141

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

販売名 : アドバンテージ ( 承認番号 : 22300BZX ) 別紙 改訂箇所を _ 下線で示しております < 新記載第 5 版 > 適切な項目へ記載した < 旧記載第 4 版 > 警告 1. 適応対象 ( 患者 ) 以下の患者には TVT 術を実施する際のリスクと利点を慎重に検討

本文/開催および演題募集のお知らせ

はじめに 前立腺癌に対する永久留置法による小線源療法は一口で言うと 弱い放射線を出す小さな線源を前立腺内に埋め込み 前立腺内部から癌の治療を行うものです ただし すべての前立腺癌に適応できるものではありません この説明書は小線源療法についての概説です よくお読みになった上で ご不明の点があれば担当医

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

Title 尿道留置カテーテル離脱にむけた急性期病院での排尿管理の検討 : 寝たきり状態の有無と尿排出障害の関連性 Author(s) 土山, 克樹 ; 上木, 修 ; 南, 秀朗 ; 川口, 光平 ; 青木, 芳修 Citation 泌尿器科紀要 (2010), 56(6): Is

2 経験から科学する老年医療 上記 12 カ月間に検出された病原細菌総計 56 株中 Escherichia coli は 24 株 うち ESBL 産生菌 14 株 それ以外のレボフロキサシン (LVFX) 耐性菌 2 株であった E. coli 以外の合計は 32 株で 内訳は Enteroco

名称未設定

微生物学的検査 >> 6B. 培養同定検査 >> 6B615. 検体採取 患者の検査前準備検体採取のタイミング記号添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料採取量測定材料リグアニジン塩酸塩尿 5 ml 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 ク

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

2015 年 9 月 30 日放送 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE) はなぜ問題なのか 長崎大学大学院感染免疫学臨床感染症学分野教授泉川公一 CRE とはカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 以下 CRE 感染症は 広域抗菌薬であるカルバペネム系薬に耐性を示す大腸菌や肺炎桿菌などの いわゆる

ROCKY NOTE 食物アレルギー ( ) 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいというこ

目 次 1. はじめに 1 2. 組成および性状 2 3. 効能 効果 2 4. 特徴 2 5. 使用方法 2 6. 即時効果 持続効果および累積効果 3 7. 抗菌スペクトル 5 サラヤ株式会社スクラビイン S4% 液製品情報 2/ PDF

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

第1章_ _総説.indd

平成18年度九州歯科大学附属病院 歯科医師臨床研修プログラム

在宅医療における尿路管理

褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit

2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

ROCKY NOTE 肺炎球菌 / レジオネラ尿中抗原の感度と特異度 ( ) (140724) 研修医が経験したレジオネラ肺炎症例は 1 群ではなかったとのこと 確かに 臨床的 に問題に

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Introduc>on 鎖骨下 内頚および大腿への中心静脈カテーテル挿入は 感染 血栓形成 機械的合併症と関連性がある カテーテル関連血流感染 (CRBSI) は 患者予後および医療費の増加に重大な影響を及ぼしている

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Microsoft Word - 届出基準


中医協総会の資料にも上記の 抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス から一部が抜粋されていることからも ガイダンスの発表は時機を得たものであり 関連した8 学会が共同でまとめたという点も行政から高評価されたものと考えられます 抗菌薬の適正使用は 院内 と 外来 のいずれの抗菌薬処方におい

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E301. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 イ ヘパリンナトリウム ( 緑 ) 血液 5 ml 全血 検体ラベル ( 単項目オー

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

Microsoft Word - *Xpert Flu検討 患者用説明書 修正.docx


脳神経外科患者における尿道カテーテル留置期間短縮や抜去後の発熱減少に向けた取り組み

公開情報 2016 年 1 月 ~12 月年報 院内感染対策サーベイランス集中治療室部門 3. 感染症発生率感染症発生件数の合計は 981 件であった 人工呼吸器関連肺炎の発生率が 1.5 件 / 1,000 患者 日 (499 件 ) と最も多く 次いでカテーテル関連血流感染症が 0.8 件 /



総合診療

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

平成15年度8階病棟の目標                  2003/06/03

インフルエンザ(成人)

消化性潰瘍(扉ページ)

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

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別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

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3 上部尿路閉塞 腎後性腎不全景知識2. 上部尿路閉塞の原因上部尿路閉塞の原因としては結石, 悪性腫瘍, 放射線治療による炎症性狭窄などがあるが, 神経因性膀胱や前立腺肥大症などの下部尿路通過障害による尿閉状態か らでも腎後性腎不全は起こりうる 上部尿路の尿流を直接閉塞する可能性のある悪性腫瘍として

33 膀胱異物の三例 豊田精一 今井克忠 dl はじめに GPT 膀胱異物の症例は 日常臨床で稀なものではな く今日まで多数の文献的報告がなされている 我々も約2年間に 3例の膀胱異物の症例を経験 したので若1の文献的考察を加えて報告する Cr lo O 91mg dl 尿酸6 0mg dl u L

ふくじゅおもて面1

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

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症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

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Transcription:

Clinical ques2on 2014 年 8 月 5 日 JHOSPITALIST network カテーテル関連尿路感染症 (Catheter- associated urinary tract infec2on:ca- UTI) の診断と予防! 筑波大学附属病院総合診療グループ 山本由布 監修五十野博基 分野 : 感染症テーマ : 診断

こんな経験ありませんか

80 代女性が発熱を主訴に来院 認知症 高尿酸血症 CKD があり 訪問診療中 なぜか数年来尿道カテーテルが留置 バイタルサイン 身体診察上は 37.4 度の微熱と活気低下以外に特記なし 院内簡易尿検査 : 亜硝酸 + 白血球 + 血液検査は翌日の結果 レントゲン上は肺炎像なし

研修医 先生 おしっこどろどろですね 尿路感染症で入院で良いですか? それいつもだし これって本当に UTI? ただの風邪? そもそもなんでバルーンが入っているの? 家できちんと管理できていたのかな?

Clinical Ques2on カテーテル関連尿路感染症 (CA- UTI) の診断をどう行うか CA- UTI の予防のために有効なものはあるか 参考にしたガイドライン IDSA ガイドライン (Diagnosis, Preven2on, and Treatment of Catheter- Associated Urinary Tract Infec2on in Adults:2009 Interna2onal Clinical Prac2ce Guidelines from the Infec2ous Disease Society of America) CDC ガイドライン (GUIDELINE FOR PREVENTION OF CATHETER- ASSOCIATED URINARY TRACT INFECTIONS 2009, CDC) 欧州泌尿器科学会尿路感染ガイドライン (Guidelines of Urological Infec2ons 2014:European Associa2on of Urology)

CA- UTI( カテーテル関連尿路感染症 ) とは 1 膀胱留置カテーテル ( 経尿道 経膀胱瘻 ) を挿入中 または間欠的導尿を施行後 2UTI として矛盾しない症状があり その他の感染症が否定できる 3 カテーテル採取尿または中間尿から培養される細菌は 10 3 CFU/ml 以上 IDSA ガイドライン 抗菌薬による治療対象となる

UTI として矛盾しない症状 発熱 悪寒 意識レベルの変化 傾眠 側腹部 痛 CVA 叩打痛 急性の血尿 骨盤部の違和感 排尿障害 頻尿 恥骨上部の疼痛または圧痛 IDSA 発熱やせん妄 活気の低下のみの 症状もありうる

おばあちゃんはいつも 35 度台なんです 37 度だともうふらふらで は真実だった! 高齢者 (65 歳以上 ) では 平熱から 1.1 以上の上昇は発熱である Uptodate:Evalua2on of infec2on in the older adult 発熱反応の変化によるもの 平熱を聴取し 37.0 度の発熱を見逃さない

CA- ASB( カテーテル関連無症候性細菌尿 ) とは (catheter- associated asymptoma2c bacteriurea) 1 経尿道カテーテル 経膀胱瘻カテーテルを挿入中 または間欠的導尿を行った患者で 2 特に症状はないが 3 カテーテル採取尿または中間尿で 10 5 CFU/ml 以上の細菌が培養される 抗菌薬による治療対象にならない ( 例外 : 妊婦 膀胱粘膜からの出血が予想される泌 尿器科手技を受ける患者など ) IDSA

膀胱カテーテル留置患者の CA- UTI, CA- ASB の有病率 カテーテル留置患者で 1 日当たり 3~10% に細菌尿が出現し 30 日後には 100% に達する しかし細菌尿を有する患者で CA- UTI を発症するのは 10~25% である Uptodate:Catheter- associated urinary tract infec2on in adult 細菌尿のうち 75~90% は CA- ASB 正しく診断し 必要のない抗菌薬投与 を減らす必要がある

CA- UTI 診断の際の注意 白血球尿 尿混濁や悪臭のみで CA- ASB や CA- UTI の 診断をしない 亜硝酸塩は一部の菌には関連せず 産生には 4 時間 以上かかる カテーテル留置者には適さない検査で 陽性の場合もCA- UTIとCA- ASBの鑑別にはならない IDSA Clin Infect Dis. 2004 Apr 15;38:1150-8 有症状 一定数以上の細菌の存在が前提 でも培養を 待って診断をつけるなんて臨床では非現実的?? グラム染色を参考に!

グラム染色について 検体の採取方法可能な限り カテーテルを入れ替えてから採取 不可能な時も採尿ポートから採取し バッグから直接採取しない IDSA グラム染色での >10 5 CHF/ml の目安無遠心の尿を 1 滴滴下し自然乾燥 グラム染色後に 1000 倍 ( 油浸 ) で鏡検し 1 視野に平均 1 個以上の菌体で 10 5 CFU/ml 以上に相当 ただし 10 3 CHF /ml の目安は明確では無い Manual of clinical Microbiology(American society for Microbiology)

何が見えますか? 細菌尿の原因菌について カテーテル挿入期間が 30 日を超える時は ほと んどが複数菌 カテーテルを長期間留置中 カテーテル交換直前 VS 交換直後の尿培養で E- coli Klebsiella: 同量 P.mirabilis P.stuar2i M.morganii P.auregiosa: 交換直前は直後の 10 倍以上多い これらの菌はカテーテル自体との関係が深いかもしれない IDSA

CAUTI の予防について strong recommenda2on 推奨非推奨データ不十分 不適切なカテーテル挿入を避け 不要になったらすぐに抜去する 長期留置の代わりに間欠的導尿を検討 閉鎖式システム ( カテーテル 排尿チューブ 尿バッグが一体化しており閉鎖性を保ったもの ) の使用 バッグを膀胱より下に下げて留める 抗菌薬の予防投与 毎日の尿道口の消毒 ( 入浴での洗浄など日常的な衛生管理が適正 :CDC) 膀胱洗浄 定期的なカテーテル交換 ( 頻繁の閉塞は 7 日 ~10 日で交換しても良いかもしれない ) CDC ガイドラインでは非推奨 必要時 ( 感染 閉塞 閉鎖式システムの破綻 ) の交換を推奨 注 ガイドライン名の記載が無いものは IDSA ガイドラインを参照した 現在行われていない方法などは適宜割愛

退院時にはこんなことも注意しよう 家でもバイ菌が逆流しないように この おしっこバッグは膀胱より下に置きましょう 先生 うちは畳に布団だ ベッドなんて ねえよ 毎日座って寝なきゃ駄目か 本当はベッドも借りると暮らしやすいと思う んですが 仕方ない 厚めのマットレス でも買って段差をつけましょうか 落ちないでくださいね フィクション

CAUTI の予防について moderate~weak recommenda2on moderate weak 推奨 清潔操作での挿入手技 ゼリーを使って尿道損傷を最小限に (Euro) 長期経尿道カテーテル留置の代わりに膀胱瘻を造設 間欠的導尿を行う場合は親水性コーティングされたカテーテルを使う (CDC) 頻繁にカテーテルが閉塞する場合はシリコン製を使う (CDC)

The new england journal of medicine videos in clinical medicine 尿道カテーテル挿入のための適切な手技 ( 公共の場での視聴は避けた方が無難です ) hfp://www.nejm.org/doi/full/10.1056/ NEJMvcm0706671 NEJM VIDEOS IN CLINICAL MEDICINE: Female Urethral Catheteriza2on 膣に誤挿入したら捨てて新しいものを使う 注入するのは蒸留水等

膀胱留置カテーテルの適応と適応外 不必要なカテーテル挿入を避ける事が最も大事な CAUTI の予防方法 CDC

症例の続き 尿グラム染色 :GNR( 大腸菌様 ),GPC( 連鎖状か双球菌様 ) 共に 1000 倍視野で 1 個以上で白血球多数あり 1 尿道カテーテル挿入中 2 発熱 活気低下の症状があり 他の感染源 は否定的 3 グラム染色で 10 3 CFU/ml 以上の細菌培養と予想 以上より CA- UTI と診断 カテーテル交換後尿培養 血液培養を採取し 抗菌薬を開始した.

Take Home Message 膀胱カテーテル留置患者では 細菌尿が検出され かつ症候性の場合のみCA- UTIと診断する CA- ASBに治療適応はない カテーテルの適応を良く考え 必要が無くなったらできるだけ早く抜去する