内外における電力自由化 の到達点と課題 学習院大学矢島正之会津大学大藤建太電力中央研究所後藤美香 後藤久典 井上智弘 公益事業学会政策研究会 1
内容 内外における電力自由化の現状 米国 EU 日本 内外における電力自由化のパフォーマンス わが国における電力自由化の課題 公益事業学会政策研究会 2
内外における電力自由化の現状 EU 全面自由化と構造分離 米国 全面自由化と構造分離および規制と垂直統合の併存 日本 部分自由化と垂直統合 ( 会計分離と中立機関 ) 公益事業学会政策研究会 3
構造分離の基本形 法的分離 持ち株会社 所有権の分離 持ち株会社 ISO( Independent System Operator) 化 持ち株会社 ISO 発電 発電 発電 送電 送電 ( 資産 運営 ) 送電 ( 資産 ) 送電 ( 運営 ) 配電 配電 配電 供給 供給 供給 注 : 発送電分離には 会計上の分離 機能分離 法的分離 ( 別会社化 ) 所有の分離 ( 資本関係のない独立の組織の設立 ) などがある 法的分離と所有の分離は構造分離と呼ばれている 構造分離には 系統を所有しないが 系統運用のみを行なう独立機関 (independent system operator:iso) の設立を含めることができる 公益事業学会政策研究会 4
RTO (Regional Transmission Organizations) : 所有権の分離と運営の分離 所有権の分離運営の分離 発電 生産 送電 ( 所有 + 運営 ) 送電 ( 所有 ) 送電 ( 運営 ) 小売り 小売り 注 : 配電は省略している 公益事業学会政策研究会 5
北米における独立の送電組織 注 : 色を塗ったところが 独立の送電機構 (RTO/ISO) が設立されている地域 ( カナダと米国 ) 出所 :Federal Energy Regulatory Commission
アンバンドリングに関する 3 つのオプション (EU) 所有権の分離 ISO( Independent System Operator) ITO( Independent Transmission Operator) 発電 生産 生産 送電 ( 所有 + 運営 ) 所有 運営 送電 ( 所有 + 運営 ) 小売り 小売り 小売り 注 : 配電は省略している 公益事業学会政策研究会 7
日本における電力自由化 1996 年 2000 年 2005 年 2007 年 卸売分野 火力全面入札制度 卸電力入札制度有限責任中間法人 (IPP 入札 ) 日本卸電力取引所設立 (2003.11.28) 廃止 卸電力取引所運営開始 (2005.4) 送配電分野 有限責任中間法人電力系統利用協議会設立 (2004.2.10) 電力系統利用協議会を中立機関中立機関に指定 ( 送配電業務等支援機関 ) (2004.6.15) 運営開始 (2005.4) 小売分野 特別高圧需要家 特別高圧需要家 特別高圧需要家 (2000KW-) 高圧需要家(500kW-) 高圧需要家全面自由化を含 <2000.3-> <2004.4-> (50kW-) む制度改革の検特定電気事業制度 <2005.4-> 討 <2007.4~ 2008.3> 公益事業学会政策研究会 8
電力自由化のパフォーマンス 卸電力価格 小売料金 供給事業者の変更率 電力サービス 公益事業学会政策研究会 9
卸電力市場における価格動向 電力 ( 米 PJM) USD/MWh PJM West Day-Ahead On-Peak 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 証券 1998/4/24 1998/8/5 1998/11/16 1999/3/2 1999/6/14 1999/9/27 2000/1/7 2000/4/20 2000/8/7 2000/11/28 2001/3/13 2001/6/26 円 2001/10/10 2002/1/25 価格スパイク 2002/5/8 2002/8/19 2002/11/29 2003/3/13 2003/6/24 2003/10/6 2004/1/15 2004/4/27 2004/8/6 2004/11/17 2005/2/28 2005/6/9 2005/9/20 2006/1/3 2006/4/14 2006/7/28 2006/11/13 2007/3/9 2007/8/21 2008/2/5 2008/6/13 2008/12/11 2009/6/18 2009/12/11 2010/5/6 2010/10/13 2011/5/10 2011/11/10 JEPX DA-PT, DA-24 電力 ( 日 JEPX) 円 /kwh 70 60 50 40 30 20 DA-PT 10 0 2005/4/1 2005/7/1 2005/10/1 2006/1/1 2006/4/1 2006/7/1 2006/10/1 2007/1/1 2007/4/1 2007/7/1 2007/10/1 2008/1/1 2008/4/1 2008/7/1 2008/10/1 2009/1/1 2009/4/1 2009/7/1 2009/10/1 2010/1/1 2010/4/1 2010/7/1 2010/10/1 2011/1/1 2011/4/1 2011/7/1 2011/10/1 DA-24 証券 ( 東証 ) 円 23000 21000 19000 17000 15000 13000 日経平均株価 ( 終値 ) PJM: 前日市場 PJM-West Hub,Firm On-Peak 指標価格 ($/MWh) 1998 年 4 月 24 日 ~2011 年 12 月 2 日の平日データ 3,000 点 JEPX: 前日市場 DA-24, DA-PT 指標価格 ( /kwh) 2005 年 4 月 1 日 ~2011 年 12 月 30 日の平日データ 1,667 点 東証 : 日経平均株価終値 ( 円 ) 1996 年 8 月 1 日 ~2011 年 12 月 22 日の平日データ 3,782 点 11000 9000 7000 5000 1996/8/1 1999/4/28 2002/1/22 2004/10/18 2007/7/15 2010/4/10 データ :ICE,JEPX,Yahoo! Finance
欧州の電気料金変化 ( 家庭用 ) 0.20 欧州電気料金 家庭用 (Euro/kWh) 0.15 0.10 0.05 0.00 イギリスドイツフランスイタリアスペインオランダフィンランドスウェーデンノルウェー ( 注 )Eurostat データを元に作成 公益事業学会政策研究会 11
日本の電気料金変化 ( 家庭用 ) 30.00 日本電気料金 家庭用 ( 円 /kwh) 25.00 20.00 15.00 10.00 5.00 0.00 ( 注 ) 電灯収入を電灯需要 (kwh) で除した総合単価を表す 公益事業学会政策研究会 12
16 米国の電気料金変化 ( 家庭用 ) セント /kwh 14 自由化州 12 10 8 6 4 2 全州 規制州 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 出所 :DOE/EIA( 各年 ).
米国における供給事業者の変更率 ( 家庭用需要家 ) ナカアリゾリネフチォカルッニアコトワシランウトェンDCデアイイマリノサリチーューラセンッツメイドメシュュュンニガーーーンニハジヨンャープーシジャーニー( 注 ) 各時点での競争的事業者のシェア ( 電力量ベース 一部州では契約口数ベース ) テキサス州では 既存事業者の料金を高いレベル規制したため供給事業者の変更が積極的に行われた オハイオ州では 自治体によるopt-outのアグリゲーション プログラムが実施されたため 供給事業者の変更率が高まった ( 出所 )KEMA. ハイクオンシオペルヴェニードアアロキサスミイランドテ公益事業学会政策研究会 14
米国電力会社の家庭用需要家向け のサービス 電気の安全な利用に関する情報提供エネルギーの節約に関する情報提供料金計算 メニューに関する情報提供供給信頼度維持に関する情報提供停電時の電話やメールによる迅速な情報提供 24 時間体制のコールセンター電子メールによる電気料金の通知自動検針器の設置インターネットを使った電気料金照会サービスグリーン電力料金 0 20 40 60 80 100 (%) 出所 ) 蟻生俊夫 (2005): 米国電力会社のブランド戦略と顧客価値にもとづく評価 電力中央研究所報告 Y04008 2005 年 5 月 公益事業学会政策研究会 15
日本の電力会社評価の要因ウェイト 0% 20% 40% 60% 80% 100% 一般家庭 低圧事業所 高圧事業所 特高事業所 PPS 事業所 電気料金供給信頼度顧客サービス企業イメージ 注 )PPS 事業所はPPS(Power Producer and Supplier: 特定規模電気事業者 ) と契約している需要家を表す 出所 : 蟻生俊夫 後藤久典 (2006): 国内需要家の満足度と電力供給先選択 ロイヤルティに関する研究 電力中央研究所報告 Y05017 2006 年 4 月 公益事業学会政策研究会 16
わが国における電力自由化の課題 発送電分離 全面自由化 公益事業学会政策研究会 17
発送電分離の議論の論点 系統へのアクセス条件を整備することによる競争の活性化 広域的な市場の形成による価格の低下 範囲の経済性への影響 取引コストの増大 事故の復旧に際しての情報連携 発送電の投資の整合性 米国では独立の送電組織の設立に関してコスト便益分析が幅広く行われた 公益事業学会政策研究会 18
1 変更意志を示す割合国内一般家庭の料金差に対する 供給者変更の可能性 料金格差が 10% 程度ないと積極的な需要家変更が行われない可能性 料金差 - 変更可能性 20% - 5 割 10% - 2 割 5% - 5% 0.8 0.6 0.4 0.2 一般家庭低圧事業所高圧事業所特高事業所 PPS 事業所 0 0 20 40 60 80 100 ( 出所 ) 電力中央研究所 (2006) 電中研報告 Y05017 国内需要家の満足度と電力中央研究所供給先選択 ロイヤルティに関する研究 値下げ率 (%) 公益事業学会政策研究会 19
欧州における契約変更による料金 低減のポテンシャル ( 家庭用 ) ( 注 ) 各国価格比較ウェブサイト 規制当局等のデータにもとづいて推計 ( 出所 ) 電力中央研究所 VaasaETT との共同研究 ( 電中研より CRIEPI Report として公刊予定 ) 公益事業学会政策研究会 20-20 -
欧州における料金削減ポテンシャル と供給者変更率との関係 ( 家庭用 ) ( 出所 ) 電力中央研究所 VaasaETT との共同研究 ( 電中研より CRIEPI Report として公刊予定 ) 公益事業学会政策研究会 21
価格比較ツールの利用と供給者変更率との関係 ( 欧州 家庭用 ) 価格比較ツールは供給事業者の変更を可能にするために有用な手段 供給者変更率 ( 調査ベース ) 価格比較ツールの発見率 ( 出所 ) 欧州委員会 公益事業学会政策研究会 22-22 -
一般家庭による料金メニュー サー ビスの選択要因 ( 国内 2007 年 ) 生活パターンにマッチすること (17.1%) 付加価値 (16.8%) 電気料金が安くなること (45.9%) 料金変動が少なくなること (20.3%) ( 注 )4 つの要因のうち 2 つずつ計 6 つの組み合わせについて どちらが重要かについて回答してもらい その結果をもとに各要因の重要性を算出した 付加価値とは省エネ支援等のメリットがあることを表す ( 電力中央研究所研究報告 Y07013) 公益事業学会政策研究会 23
電源選択に対する一般家庭のニーズ 発電エネルギー源をそのコストに見合う料金を支払って選択 :2010 年 期待する やや期待する 0% 20% 40% 60% 80% 100% グリーン電力料金 ( 割高 ):2007 年 非常に関心がある 関心がある 0% 20% 40% 60% 80% 100% ( 出所 ) 電力中央研究所報告 Y10034 Y07013 公益事業学会政策研究会 24
全面自由化の課題 全面自由化を行うかどうかは需要家が全面自由化の意義を何に認めるかによって判断されることになる 供給事業者の選択権が与えられることに意義を認めるのであれば 全面自由化を行うべきである 小口需要家がコスト面で利益を得ることに意義を認めるのであれば 全面自由化を行うかどうかについては 発電市場に十分な競争が存在し 小口需要家が価格低下のメリットを受けることができるか マーケッティング スマートメータや料金徴収など小売供給にどのくらいコストがかかるか スマートメータを需要家は使いこなせるかなどが考慮されなくてはならない 全面自由化で小口需要家がコスト面で利益をうるかどうかはコスト便益分析により判断されるべきである 公益事業学会政策研究会 25