緊張 ~ 緊張は和らげることができるのか ~ 瀨林美渚長澤理緒中島詩織三澤彩織酒井舞先生 1 研究の動機 緊張して声が震え 頭が真っ白になってしまう そんな経験が何度もあった私たちは 発表する場に立つたびに 緊張しなくなるよい方法はないのかと思い続けてきた そのため ぜひ今の機会に 緊張とは何なのか その正体を探り 緊張に打ち勝つための方法を見つけ出したいと思い 緊張 をテーマに選んだ 2 研究の方法 (1) アンケート木曽青峰高校 2 学年を対象に 緊張に関するアンケートを行う (2) 実験研究者 4 の前で木曽青峰高校校歌を歌ってもらう その際 脈拍測定器をつけて脈拍を測定する 無体策時 歌う直前 歌っているとき 終了 3 秒後の脈拍を記録する 通常 食事後 リラックスの反射付けの後 ( 一週間寝る前に香りをかぐ ) 練習 ( 条件反射の消去 ) の4つの場合に分けてそれぞれ 2 ずつ実験をする 3 調査 (1) 緊張のメカニズム 1 緊張とは緊張とは交感神経が活発になった状態 この緊張は集中力や身体機能を高めている状態で前向きなよい反応である しかし 緊張がすぎて交感神経が活発になりすぎてしまい悪い影響が出ることがある 例えば 判断力が鈍り 皮膚が荒れ 内臓の働きも悪くなる バランスをとる筋肉細胞は緊張して動作がぎこちなくなり 毛細血管は収縮して血行が悪く 手足が冷たくなったり 顔色が悪くなったり イライラが募ったりする 2 緊張の伝わり方緊張の元となるストレスの情報は 大脳皮質で受け取られ その情報が視床下部を経て腎臓のすぐ上にある副腎髄質に伝わる そこから アドレナリンが分泌されると 全身の細胞にストレスの情報が伝わり その結果 筋緊張を起こしたり 心拍数が高くなったりする この状態のことを緊張している と言う 副腎髄質から分泌されるホルモン 血糖上昇作用をもつ また 心臓の働きを強めて血圧を上げ 気管を拡張させる 5-1
思考 情報 刺激( ストレス ) 心の状態 心理的反応( 大脳 ) 脳下垂体 視床下部 内分泌系( ホルモン ) 神経系( 神経インパルス ) 生理的反応 自律機能 リラックスのホルモン 緊張のホルモン( アドレナリン ) 筋弛( リラックス ) 筋緊張 満足 安心 興味不満 不安 イライラ ( はつらつとした状態 ) ( ぎこちない しずみがち ) (2) 交感神経と副交感神経 自律神経系 作用が相反する2つの神経 交感神経と 副交感神経に分類される 脳や脊髄には自律神経の中枢があり それぞれ近くの末梢神経に自律神経線維を送っている 自分の意思でコントロールすることが難しい 1 交感神経の働き交感神経は日中の活発な動作の源になる神経である は目が覚めると交感神経が副交感神経よりも活発になり 様々な活動を行うことができる 目の瞳孔は開いてより多くの視覚情報が脳に入るようになる また 目がよく見えるように涙の分泌が減る より多くの空気 ( 酸素 ) が吸えるようになるため 気管支を取り巻く筋肉がゆるみ その内径が広がる そして 活発な活動に則して全身に血液を送るため 心臓がより一層働く 血圧も上がる このように交感神経は心身を興奮状態に置き とっさの対応が必要なときにも備える体制を作る 2 副交感神経の働き副交感神経は交感神経と正反対の働きをする 夜寝るときは光りが入らない方がよく眠れるため 瞳光が狭まり 寝ている間に目が乾いてしまわないよう涙の分泌が増す 寝ている間は特にたくさんの空気 ( 酸素 ) は必要がないので 気管支平滑筋が締まり気管支内径が狭まる 5-2
休んでいるときは血液の循環量は少なくてすむため 心臓の働きはゆっくりとなり 脈拍数が減る 血圧も下がる この休息時間に 胃腸は活発になり 食べ物を効率よく消化 吸収する また これらのことより副交感神経は 眠ったり 体を休めるときに適した体の状態を作る このように 食事 ( 消化や吸収 ) 排泄( 排尿や排便 ) 睡眠など 体のメンテナンスに必要な生命を維持するために大切な作業を司っている (3) 古典的条件付け 1 条件反射付けロシアの生理学者 I.P. パブロフが発見した 犬に餌をやる時に鈴の音を鳴らすという動作を繰り返すと犬は鈴の音を聞いただけで唾液を出すという法則 本来鈴の音というものは犬が唾液を分泌することと関係のないことだが 何も繰り返し学習することによってある反応に結びつけることができる たとえば 梅干を見ると唾液が出てくるなどの反応は 梅干はすっぱいということを何度も経験し 学習した結果の条件反射である 1 餌( 無条件刺激 ) 唾液の分泌( 無条件反応 ) 2 餌( 無条件刺激 ) 鈴の音( 中性刺激 ) 唾液の分泌( 無条件反応 ) 2の形式を繰り返して学習させると 3 鈴の音( 中性刺激 ) 唾液の分泌( 無条件反応 ) 3の場合の唾液の分泌は 学習されること ( 条件付けされること ) によって獲得した条件反射である これを応用すると 1 睡眠( 無条件刺激 ) リラックス( 無条件反応 ) 2 睡眠( 無条件刺激 ) 香り( 中性刺激 ) リラックス( 無条件反応 ) 2の形式を繰り返して学習させると 3 香り( 中性刺激 ) リラックス( 無条件反応 ) という条件反射が得られると推測される 2 条件反射の消去古典的条件付けのパブロフの実験で 条件反射付けがされた犬は 鈴の音を聞いただけで唾液を分泌した この犬が鈴の音を聞いても唾液を分泌しないようにするには 鈴を鳴らしても餌を与えないことを何もくり返すと 犬は鈴の音に以前のように反応することなく 唾液を分泌することはなくなる これを 条件反射が消去された という そこで 鈴の音( 中性刺激 ) 唾液の分泌( 無条件反応 ) という反応の消去を利用し 前( 中性刺激 ) 緊張( 無条件反能 ) という反応を 練習することで消去すると緊張しにくくなると推測できる ( 参考 ) 生態が本来持っている反応が無条件反応 ( 例 ) 犬が唾液を分泌する 無条件反応を起こす刺激が無条件刺激 ( 例 ) 犬に餌を食べさせる 無条件反応を起こさない刺激が中性刺激 ( 例 ) 犬に音を聞かせる ( 学習成立前 ) 5-3
(4) アンケート結果 木曽青峰高校 2 学年 24 を対象に緊張に関するアンケートを実施した 有効答数は 167 であった 16 14 12 1 Q1. あなたは緊張しやすいですか 8 6 4 2 はいいいえどちらでもない 緊張しやすい 緊張しにくい Q2. どんな時に緊張しますか 9 14 8 7 12 6 1 5 4 3 8 6 2 1 前に立つとき 試合 テスト 異性と関わるとき と話すとき その他 なし 4 2 ない試合その他前に立つとき Q3. 緊張すると どのようになりますか 8 9 7 8 6 7 5 6 4 3 5 4 2 3 1 2 どきどきする 体が震える 手汗 汗がでる おなか痛くなる 頭が真っ白になるパニック 手が冷たくなるその他 呼吸ができない なし早口トイレに行きたくなる体が固まる 5-4 1 どきどきするなしその他体が震える手汗 汗
Q4. 緊張しないために何かしていますか 8 14 7 6 12 5 1 4 3 2 8 6 1 4 なし 深呼吸 ポジティブに考える イメトレ という字を手のひらに書く 体を動かす その他 2 なし深呼吸自己暗示その他 Q5. 緊張しなかったことはありますか 1 14 9 8 12 7 1 6 5 4 8 6 3 4 2 1 2 あるなしどちらでもない ある ない 14 12 1 Q6. 緊張しなかったのはどうしてだと思いますか 8 6 4 2 練習したから 自信があったから 諦めていたから わからない 一経験していたから その他 5-5
4 仮説 [ 仮説 1] 副交感神経を優位に働かせると緊張を和らげることができる [ 仮説 2] リラックスの条件反射をつけると緊張を和らげることができる [ 仮説 3] 緊張の条件反射を削除すると緊張を和らげることができる 5 実験結果 (1) 無対策時 1 平常時 ~ 歌う直前の心拍数の変化分 7 6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 目 2 平常時 ~ 歌っているときの心拍数の変化分 7 6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 目 5-6
3 平常時 ~ 終了 3 秒後の心拍数の変化分 5 4 3 2 1-1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 目 -2 (2) 食事後 1 平常時 ~ 歌う直前の心拍数の変化分 14 12 1 8 6 4 2-2 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 目 -4 2 平常時 ~ 歌っているときの心拍数の変化分 8 7 6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 目 5-7
3 平常時 ~ 終了 3 秒後の心拍数の変化分 7 6 5 4 3 2 1-1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 目 -2 (3) 香りの反射付け後 1 平常時 ~ 歌う直前の心拍数の変化分 7 6 5 4 3 2 1-1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 目 2 平常時 ~ 歌っているときの心拍数の変化分 8 7 6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 目 5-8
3 平常時 ~ 終了 3 秒後の心拍数の変化分 7 6 5 4 3 2 1-1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 目 (4) 練習後 1 平常時 ~ 歌う直前の心拍数の変化分 5 4 3 2 1-1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 目 -2 2 平常時 ~ 歌っているときの心拍数の変化分 45 4 35 3 25 2 15 1 5-5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 目 -1 5-9
3 平常時 ~ 終了 3 秒後の心拍数の変化分 35 3 25 2 15 1 5-5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 目 -1-15 (5) 平常時からの心拍数の変化分の平均値 4 35 3 25 2 15 無体策練習食後香り 1 5 平常時歌う前歌っている時終了 3 秒後 平常時の心拍数と比べた 1 分間の心拍数の変化分の結果 ( 平均値 ) は次のようになった 無対策時の 歌う直前は 35.4 / 分 歌っているときは 31.1 / 分 終了 3 秒後は 23.5 / 分であった 食事後の 歌う直前は 33.7 / 分 歌っているときは 34.4 / 分 終了 3 秒後は 26.4 / 分であった リラックスの反射付けの後の 歌う直前は 15.8 / 分 歌っているときは 2.1 / 分 終了 3 秒後は 15.7 / 分であった 練習後の 歌う直前は 11.5 / 分 歌っているときは 14.3 / 分 終了 3 秒後は 12.4 / 分であった 5-1
5 考察無対策時と比較し 食事後の歌う直前は心拍数にほぼ変化がなく 歌っている時 終了 3 秒後は共に無対策時よりも心拍数が高かった このことから 副交感神経を活発に働かせても 必ずしも緊張は和らげることができないと考えられる リラックスの反射付けの後は 歌う直前 歌っている時 終了 3 秒後ともに 無体策時よりも心拍数が減少していた このことから 練習後よりも高い効果は得られなかったが リラックスの反射をつけると 比較的緊張を和らげることができると考えられる 練習後は 歌う直前 歌っている時 終了 3 秒後ともに 無体策時よも心拍数が減少した 実験した中では一番効果が見られた このことから場数を踏んだことにより 前で歌う 緊張 という条件反射が消去でき 緊張を和らげることができたと考えられる 6 結論今実験した中では緊張を和らげるには 練習後の実験結果が一番心拍数が低かったこ とから場数を踏むことが一番効果的であるといえる 7 今後の課題 反射付け後の結果が その香り自体が影響したためなのか 本当に反射がついたためなのか判断がつかなかったので それを確かめる実験を行うべきであった より反射をつけるために リラックスの反射付けの期間を増やすべきであった 8 参考文献 参考 URL (1) 解剖生理学 ( 日野原重明 / 医学書院 /1968/2/1) (2) 消化器疾患患者の看護 ( 大久保忠成 / 医学書院 /1968/3/25) (3) さようなら! 上がり症 1 から 1 の前でラクに話せる ( 麻生けんたろう / 同文舘出版 /26/9) (4) 上がり症を 7 日間で克服する本 ( 松本幸夫 /PHP 研究所 /28/12/2) (5) 行動を支配するもの学習 http://homepage3.nifty.com/mitsuaki-koba/newpage25.htm (6) 古典的条件付け http://www14.upp.sonet.ne.jp/tangsten/term/term/term3kotentekijoukenduke.html (7) 空腹と交感神経と副交感神経 http://www.jiritunavi.com/kiji/kuuhuku.html (8) 交感神経副交感神経 http://genki-go.com/autonomic/2.html 5-11