EBook2 Magazine Vol.5, No.47, 08/06/2015 2010-15 OTI, Inc. E-Book 2.0 Magazine 2015 年 8 月 6 日号 Vol.5, No.47, 08/06/2015 [無償公開版] 写真 墨 Wikipedia より 目次 ANALYSIS & COLUMN 北米の眠れる巨人ダネリーの新戦略 デジタル迫害 課税の現状 2 3 NEWS & COMMENT 電子教科書環境として拡大する Whispercast ワシントンポスト紙ナレッジマップのビジョン PRH が廉価 E-Book 推薦サービス LitFlash 6 7 10 E-Book 2.0 Magazine 2015 年 8 月 6 日発行 第 5 巻第 47 号 ISSN: 2185-954-X 2010 年 9 月 15 日創刊 編集兼発行人 鎌田 博樹 発行 オブジェクトテクノロジー研究所 185-0003 東京都国分寺戸倉 3-15-22 www.otij.org Email : newsletter@ebook2forum.com 2010-2015 by Object Technology Institute, Inc. 1
ANALYSIS & COLUMN 北米の眠れる巨人ダネリーの新戦略 北米の巨大複合情報サービス企業ダネリー社は 8 月 4 日 同社の事業を 3 つの上場企業に再編する意向を表明した 過去 20 年ほどの吸収 合併によって拡張を続けてきたダネリーは ようやく戦略と統治構造を確定しつつあると見られる 異業種の統合として進行しつつある情報産業のグローバルな再編への影響も少なくないだろう [ 全文 = 会員 ] 企業コミュニケーション管理を中軸に事業再編 デジタル統合と淘汰の時代 2
ANALYSIS & COLUMN デジタル迫害 課税の現状 世界的な出版社団体である国際出版社協会 (IPA) は 7 月 20 日 79 ヵ国を対象とした紙とデジタル書籍への課税の比較調査の結果を発表し E-Book への平均税率が印刷本の 2 倍にも達することを明らかにした 消費税制というものは市場をある方向に誘導する働きがあるが 多くの国の行政 立法府は明らかに紙を 支持 しているといえよう 欧州諸国で顕著な 紙の優遇 調査は IPA と欧州出版社連盟 (FEP) が行った 国によって付加価値税 (VAT) 商品サービス税 (GST) に分けられるが 本調査では VAT/GST と一括している 対象は欧州 36 アジア 13 ヵ国 中南米 9 ヵ国とカナダ オーストラリア ニュージーランド 州ごとに分かれる米国は含まれていない 設問は (1) 標準税率 (2) 書籍への別枠の有無 (3)E-Book への別枠の有無 とくにデジタルへの課税の相対レベルに注目している その結果だが とくに欧州諸国では 紙の優遇 が顕著で 5.75% に対して 12.25% スウェーデン アイルランド ハンガリーでは印刷本への税率はごく僅かであるか免税されるのに対して E-Book は 3
20% 以上と ほとんど 罰金 に近い その他の主要な事実は以下 調査対象国のうち 標準税率を印刷本に適用している国は 22% E-Book に適用しているのは 69%( 一般商品扱い ) 印刷本と E-Book の税率が同じなのは 37 ヵ国 37 ヵ国では印刷本を優遇 35 ヵ国では E-Book に高率の課税 E-Book に軽減税率を適用する国はフランス イタリア トルコの 3 ヵ国 印刷本に適用される平均税率は 5.75% E-Book は 12.25% チリを例外として 中南米諸国では印刷本は免税 イスラエルを例外として中東諸国は印刷本に標準税率を適用しない アジアの標準税率 (8.6%) は欧州 (21%) よりかなり低い アフリカ諸国 ( 対象は 13 ヵ国中 8 ヵ国 ) では印刷本が免税 デンマークの印刷本への税率は対象国中最高の 25% ハンガリーは E-Book への税率が同じく最高の 27% 無税化を促進しないとコンテンツビジネスは衰退する IPA の立場は レポートで述べられているが 1. 本は特別な商品であり 軽減税率 ( 理想的にはゼロ ) が適用される べきである 2. E-Book は印刷本と同じく読書に使われるもので 同等に扱われる 4
べきである というもので 多くの人が賛同するものと思われる しかし 現実はそうなっておらず 日本がそうであるように 書籍への軽減税率も常識というほどではない さらに E-Book への 懲罰的 課税は このフォーマットがアマゾンを通じて広がったことへの反撥も映しているが 逆に国内の E-Book サービスデジタル出版の成長を困難にしている 欧州では消費国課税 (VATMOSS) によって 問題はさらに複雑になった コンテンツ / サービスへの課税は市場と技術革新を歪んだものにする 印刷本と E-Book は無税化すべきだ さもなければコンテンツは Web 上の無償のものが発展するが それはコンテンツの市場化より広告的コンテクストのアンバランスな市場化 ( サービスへの従属 ) を促進することになるからだ 長期的には IPA の提唱する方向に進むと思われるが 時間がかかるほど米国型のビジネスモデルが優位となるほかはない ( 鎌田 08/06/2015) 記事タグ 本誌カテゴリ : コンテンツビジネス, 出版 製作 タグ :E-Book 課税, 国際出版協会 5
NEWS & COMMENTS 電子教科書環境として拡大する Whispercast ニューヨーク市教育庁が 同市とアマゾン社との間で合意された 1,800 の公立学校に E-Book プラットフォームを開設する契約を承認する見通しであることが報道された 3 年契約で 3,000 万ドル 2 年間の延長オプション付で総額 6,450 万ドルの大型案件 クラウドでの強味を背景に いまや電子教科書を再定義しつつある [ 全文 = 会員 ] NY 市から教育庁から総額 6 千万ドル以上の受注 価格と機能 : クラウド環境で他社の追随を許さず 6
NEWS & COMMENTS ワシントンポスト紙ナレッジマップのビジョン ワシントン ポスト紙は 7 月 16 日 オンライン版でナレッジマップ (Knowledge Map) と呼ばれる対話型拡張機能のテストを開始した ( 記事 ) 進行中の複雑な事件に関する記事をめぐる背景情報や参考記事を 読者に提供するもので 新聞閲読というユーザー体験 (UX) を中断させることなく背景とともに読み進むことができるように配慮されている 対話型コンテクスト表示インタフェース だけでない テスト用に公開されたのは イスラム国 に関するこちらの記事で 複雑な背景情報を コラムなども使ってうまく処理している ナレッジマップは ポスト紙のデジタル戦略部門 データサイエンス部門などの協力で開発された テーマは記事閲読を阻害せず かつ体験をよりパーソナライズすることだった 読者が必要とするときに 欲しいものをということだ 今日の記事を読むと ナレッジマップは記事本文に埋め込まれたハイライト付リンクとして提示される これをクリック / タップするとすぐに情報が紙面上に表示される この補助コンテンツは背景や脈絡 同一テーマの記事を提供する もちろん読者のアクションは記録されるので データマイニング技術を使ってデータの最適化を行うことが出来る また別のアプリケーションを 7
起動させてネイティブ広告とリンクさせることも可能だ 最終的にはビッグデータを使った表示情報の最適化も目指している 情報の視覚化 構造化技法はインフォグラフィックとともに進化し デジタルでコストが下がったことで多用されるようになってきたが 本文 を中心とした書籍や雑誌 新聞の Web 版において 視覚言語を含む図形情報を配置する方法は まだ決着 定着していない 固定レイアウトとリフローという土台の問題のほかに 対話型のインタフェースの出し方ということもある 編集者が最も気にするのは 読書体験を中断され 終わりまで読まなくなることだ 過ぎたるは及ばざるが如し で 過剰ならばないほうがよいのだが 読者の個人差もあるので単純にはルール化できず 情報デザインは困難となる だからこそ普及に時間がかかっているのだが それでも教育や広告などこの分野の進化を促す要因は高まっている ポスト紙のナレッジマップは たんなるユーザー支援以上のものだ それは高度なジャーナリズムとネイティブ広告を 読者のためのパーソナル化において両立することで 稼げる新聞 を目ざすものだ 動的な情報のアグリゲーション環境としても優れており これがジェフ ベゾスの課題に対する解答として構想されていることは明らかだろう やや気が早いかもしれないが この技術が完成した暁には ジャーナリズムの独立性 ( 新聞の唯一の価値 ) とマネタイズ メカニズムの中立性を保証するものとしてメディアビジネスに多大な影響を与えるかも知れない ただし マネタイズ メカニズムはビッグデータ環境を必要とするので アマゾンや Google のほかにはあまり候補 8
は残らないかも知れない ( 鎌田 08/06/2015) 記事タグ 本誌カテゴリ : コンテンツビジネス, テクノロジー, ニュースメディア, ユーザー体験, 出版 製作, 広告, 関連産業 タグ : ネイティブ広告, ビジネスモデル, ワシントンポスト紙 9
NEWS & COMMENTS PRH が廉価 E-Book 推薦サービス LitFlash ペンギンランダムハウス社が 子会社の LitFlash を通じて廉価 E-Book 推薦サービスを開始することが明らかになった この分野で最も成功している BookBub を追走する形となるが 大出版社がこうしたサービスを行う意図については様々な推測が成り立つ しかし 筆者は大出版社が本気でデジタルマーケティングに取組んでいると見ている E-Book 推薦サービスの成功から学ぶ BookBub については本誌でも取り上げたことがあり 個人的にも重宝している 大幅割引のほかに無料もあり なかでもチャーチル正伝全 8 巻を無償で入手したのが代表的な成果 廉価 E-Book 推薦サービスの仕組みは簡単で 登録されたジャンルとプロファイルに基づいて E-Book の期間限定割引販売情報を毎日提供するものだが 得られる情報 ( 推薦される本 ) の満足度とサービスの信頼性によって使うに足るものかどうかが決まる BookBub は E-Book マーケティングの必須のツールとされるまでに成長したが それはここで紹介されることで確実に売上につながり SNS などで共有される結果 キャンペーン終了後にも反響が持続するからである とくに 久しく話題になっていなかった既刊本の場合 10
は 売上が期間に集中することでベストセラー ランクが向上し 検索エンジンでのプロファイルも向上する これは新刊販促に血道を上げていた出版社が気づいていなかった ( あるいはアマゾンによって気づかされた ) ことだ BookBub の成功は 連日無数に発生する安売情報を連日配信してくれるからもあるが ( それだけなら数十のサービスが存在する ) あくまでサイトの UI/UX や推薦エンジン ( ディスカバリー ツール ) の有効性によるものだ ただし 注意を惹いて ページを開かせるには価格が重要なことは確実で 最近は BookBub を凌ぐサービスプラットフォームの開発競争が盛んになっている そうした中で LitFlash の意図はどこにあるか 詳細が発表されていない段階で PRH のタイトルに関する特売情報なのか PRH に限定しない全特売情報なのかが注目されている 筆者は 純然たるマーケティング情報の収集と推薦エンジンの改善 ビッグデータの蓄積を目的としていると考えている 販促は独自サイトでやればよいことだが そこで得られる情報は十分ではない 最も重要な ライバル書籍や関連書籍の情報が得られないからだ そうした情報は他社の本の販売の手伝いもしてみないと得られない そうしたことは アマゾンが常にやっている 本を売ってみなければ マーケティングのことは分からない 他社の本を売ってみなければ 自社の本をどう売るかもわからないだろう 出版社は書店 ( の手伝い ) をして知恵を付けなければならないのだ ( 鎌田 08/06/2015) 11
記事タグ 本誌カテゴリ : テクノロジー, マーケティング, 流通 書店 図書館 タグ :BookBub, ディスカバリー, ペンギンランダムハウス 12
E-Book2.0 Magazine V5N47 Copyright 2015 オブジェクトテクノロジー研究所 ISSN 2185-954X 発行日 :2015 年 8 月 6 日発行者 : 鎌田博樹発行所 : オブジェクトテクノロジー研究所 185-0003 東京都国分寺市戸倉 3-15-22 Web サイト http://www.ebook2forum.com/members/ Email : newsletter@ebook2forum.com 13