知って得する相続の基礎知識 空き家にしないための相続対策 平成 23 年 10 月 29 日 一般社団法人相続相談センター 専任コーディネーター 天谷晃一
1. なぜ空き家が多くなってきたのか その原因? 1 賃貸経営 ( 貸家 ) に関する認識不足 2 賃貸契約に関する問題 ( 借地借家法 ) 3 相続に関する問題 2. 賃貸経営に関る問題点と対策 1 不動産の賃貸経営を事業として認識しておられない 2 借入金に対する認識が甘い ( 相続税対策が主である ) 3. 賃貸契約に関する問題点と対策 (1) 貸家の現状と問題点 これまでの貸家の問題点は 建物をいったん借家人に貸すと 当初の契約期間が満了しても無償で建物を返してもらえない 貸家を持っておられても相続税の節税効果はありません 貸すことによって土地( 貸家建付地 ) や建物 ( 借家権 ) の評価減が受けられるのです 貸家について 一戸建て( 特に新しい建物 ) を貸す家主はありません したがって相続対策のため貸家を取り壊しアパートやワンルームマンションを建てて貸される (2) 新しく借地借家法が創設された 貸家については 平成 12 年 3 月 1 日から新しく 定期借家権 が創設された 借地については 平成 4 年 8 月 1 日に 定期借地権 が創設された (3) 新借地借家法により創設された借家権 平成 12.2.28 迄の契約は旧法を適用 平成 12.3.1 以後の新規契約 ( 定期借家権の活用が原則不可 ) ( 定期借家権の活用が可能 ) (4) 定期借家権とは何か 借家契約 の開始 借家契約 期間満了 契約期間の満了をもって 正当事由制度の 適用がなく 契約を終了させる
(5) 従来の借家権との相違 借家契約 借家契約 の開始期間満了 1 正当事由制度 当初の契約期間を終了 2 法定更新制度 させることは原則不可 4. 相続に関する問題点と対策 (1) 税制改正大綱で相続税の改正が予定されています 相続税の基礎控除が 60% 相当額に縮小することが掲げられている 現行 改正案 5,000 万円 +1,000 万円 相続人の数 3,000 万円 +600 万円 相続人の数 相続税が改正されますと多く京町家等の所有者が 相続時に新たな課税対象者となられる ことが予想されます 昨年の税制改正で相続税について小規模宅地の課税価格の特例( 評価減 ) の適用要件が強化された 居住用宅地等 被相続人と同居していた親族が申告期限まで引き続き所有し かつその家屋に居住して いる場合 240 m2まで 80% の評価減 事例 1m2250 千円の宅地 240m2の場合 250 千円 240m2=60,000 千円 250 千円 240m2 (1-0.8)=16,000 千円 ポイント 相続開始時に被相続人と同居している 事業用宅地等 ア. 被相続人の親族が 相続開始時から相続税の申告期限までに その宅地の上で被相続人が営んでいた事業を引き継ぎ 申告期限まで引き続いて宅地等を所有し かつ事業を営んでいる場合 400m2まで80% の評価減イ. 不動産貸付業等の事業用の場合 200m2まで50% の評価減
(2) 相続対策とは 1 相続税の節税対策 2 納税資金対策 3 財産継承対策 ( 紛争対策 ) (3) 相続対策の現状 ( 問題点 ) 1 借入金による節税対策が主である 2 相続財産の継承対策が不十分である 3 良き相談者がおられない (4) 相続対策についての誤った認識 1 相続対策は節税対策さえ行えばよい 事例 多額の借入金が招いた悲劇 甲さんは JRの駅から徒歩 5 分の所に約 1500m2の土地を所有 平成 12 年に地場の建設会社から相続税対策として賃貸マンションの建築を勧められ 4 階建て賃貸マンション (1 階はテナント ) を約 3 億円 ( 全額借入 ) で建築された それまでは貸駐車場として利用されていた ( 稼働率 80% 月間収入 160 千円 ) その後 テナントを含め空室が多くなり 賃料では金融機関への返済ができなくなってこられた 金融機関からも返済について強い要請がある 家族会議で売却を検討されたが120 百万程度でしか売却できず とても返済ができない [ ここが失敗 ] 相続税額について把握されていなかった事が原因 マンションを建築される時に 相続財産額と相続税がどの程度なのか試算されていなかった 甲さんは本物件以外に自宅が約 300m2 別の賃貸アパートの敷地が約 500m2を所有 平成 12 年で評価してみますと 相続税が約 8 百万円程度と推測されます 駐車場を約 100m2売却 ( 諦める ) されたら相続税の納付が可能だったのです 2 納税資金は相続人が考えればよい 事例 自分の代は財産を減らしたくない 甲さんは 相続対策として活用できる土地は活用( 賃貸マンション等を建築 ) をしておられるが相続税はゼロにはならない 甲さんは相続税は相続人が考えればよいと思っておられる 自分の代は先祖の財産を減らしていない
3 無駄となった相続対策 事例 無駄となった生前贈与 甲さんは節税対策として年間(1 月 1 日 ~12 月 31 日 )110 万円までの基礎控除を活用して配偶者や子供 孫等に生前贈与されてこられた その後贈与者が亡くなり 相続申告で税務当局から贈与事実が否認され贈与者の相続財産に加算されてしまった (5) 相続対策でもっとも大切なのは財産継承対策 ( 遺産分割対策 ) である 財産継承対策が不十分なため 財産 ( 貸家 ) が放置されたままになったり 消失 ( 売却 ) されてしまう 遺産分割対策を何もしないで相続を迎えると 法に従って遺産を分割 することになる 民法に従った遺産分割とは 1 民法上の相続人と相続割合は 誰が相続人になるかは 相続発生時点における戸籍の記載で決まります 同順位の共同相続人は基本的には均等の相続分を有する 2 遺産分割協議書を作成する 遺産分割協議書は相続人全員で遺産の分割について協議を行い 遺産分割協議書を作成する 相続人全員の署名と捺印( 実印 ) がいります 添付書類として印鑑証明書が必要です これでよいのか 相続人はそれぞれ自分の意見を主張する 寄与分や特別受益について主張 殆どのケースが相続人全員の要求を満たす資産構成になっていない [ 資産構成 ] 現金や預貯金のみの遺産であれば問題ない 分割及び売却が困難な不動産が中心 自社株式等 売却が困難な資産が中心 遺産分割について合意できない
3 相続紛争の解決として法律が用意している手段 相続人間で遺産分割がまとまらなかったら 相続問題は司法の判断に委ねられます 遺産分割の審判には重大な制限がある 審判では 法定相続分と異なる内容の審判をすることができない 避けるべきことは 相続を契機とする家族関係の崩壊 法定相続分による相続を打ち破る法的な相続対策が必要 法的な相続対策 遺言書 (6) 数次相続と問題点 数次相続とは 数次相続とは 相続が開始して遺産分割協議を終える前に相続人が亡くなり 新たな相続が開始することです 遺産分割の話し合いがつかなかったり相続が開始したが相続財産が基礎控除の範囲内で相続申告が必要でない場合に 相続財産である土地建物等の相続手続き ( 所有権の移転登記等 ) が行われず放置されたままで 数年経過後に次の相続が発生してしまう場合です 数次相続の問題点 土地建物等の名義を変更するには必ず遺産分割協議書が必要です 但し 遺言書がある場合は必要ありません 最初の相続で手続きを行わないで次の相続を迎えますと 相続手続が難しくなります その原因は法定相続人に変動があるからです 相続人が亡くなりますとその配偶者や子供が相続人となります 手続きされていない期間が長くなりますと ねずみ算的に相続人が増えて行きます そして相続人の関係がより複雑になります 相続手続きは出来るだけ早い時期にしておくべきです ポイント 相続手続きができなければ 京町家の活用が難しくなります 最終的には売却して財産分けをすることになります
5. 相続対策には遺言書の作成が不可欠です (1) 遺言書の効用と必要性 遺言書の効用 1 遺言者の意思どおり継承できます 相続申告や相続手続き( 不動産の登記 預貯金の名義変更や払い出し手続き等 ) が遺言書でできます 2 相続税の節税対策にもなります ( 一代飛しの相続対策 ) 遺言書の作成が必要な方 1 法定相続と異なる財産の配分を行いたい方 事業や農業等の後継者の指定が必要な方 配偶者に財産の殆どを相続させたい方 2 配偶者の相続税額の軽減などをスムーズに受けたい方 相続財産の分割協議が10ヶ月以内に調わない場合は 軽減措置を受けないで申告することになります 3 夫婦間に子供がおられない方 相続人は配偶者と被相続人の親族( 親 兄弟 甥 姪 ) になります 4 相続人に行方不明者がある方 5 被相続人や相続人に離婚歴があり子供がおられる方 6 相続権のない孫や兄弟に遺産分けをしたい方 孫の場合は一代飛ばしの相続対策になります 親の財産を家督相続し 兄弟姉妹に財産の一部を返したい方 7 相続人がおられない方 (2) 遺言書の種類 1 自筆遺言証書 遺言の全文 日付 氏名を自筆し捺印をする 2 公正遺言証書 公証人役場で公証人の筆記の上作成されます 2 名以上の証人の立ち会いが必要です 証人になれない人は 未成年者や推定相続人 受遺者及び配偶者並びに直系血族以外の人
3 遺言書のメリットデメリット 自筆遺言書 公正証書遺言 秘密 作成者以外はわからない 公証人や証人が内容について 知り得る 費用 かからない 費用がかかる ( 公証人費用 ) 証人 いらない 証人 2 名が必要 検認手続き 相続発生後に家庭裁判所で 検認手続きが必要 いらない 6. 相続対策や手続きに係わる専門家 (1) 専門家 相続対策に係わる専門家には 税理士 司法書士 土地家屋調査士 弁護士 不動産鑑定士 建築士 フアィナンシャル プランナー 宅地建物取引業者 不動産コンサルティング技能者等 (2) 専門家による連携が必要 相続対策や申告の手続きを行うには多くの専門家が何人も係わってきます そうした専門家の方々の連携プレーがあってはじめて 効果的な相続対策ができます ところが 現実の相続対策や相続開始後の手続きではそれぞれの専門家が各自の仕事をしているにすぎないことが多く 結果的には依頼者 ( 相続人等 ) が一番損をされることになります 事例 平成 7 年 3 月に母親が亡くなられた 課税遺産総額は約 8 億円 相続人は父親 ( 当時 72 才 ) と子供 2 人 ( 当時長男 48 才 次男 45 才 ) 配偶者の相続税の軽減の適用をフルに利用して約 129 百万円の相続税を納付 ( 不動産を売却 ) された 問題は相続税を129 百万円納付されながら 財産は全部父親が相続された その結果 父親が亡くなられると現時点の課税遺産総額は約 7 億円で 相続税が約 221 百万円になります もし 母親の相続の時に半分子供が相続されておられれば相続税は98 百万円ですみます 約 123 百万円の負担贈になります その後 色々な専門家( 司法書士や不動産業者 ) が相続手続きに関与されまたが 各専
門家は自分に与えられた仕事を進められた (3) 相続税の節税は相続が開始してからでもできます 相続税は 相続財産の評価によって安くできます 亡くなってからでも遅くはありません むしろ亡くなってから申告までが大切です ポイント 相続継承対策は相続開始前しかできません 相続対策や相続の手続き等 ( 申告等 ) については 全体を把握してもらう コーディネーターが必要です