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1. 重篤な不正出血の発現状況 ( 患者背景 ) (1) 患者背景 ( 子宮腺筋症 子宮筋腫合併例の割合 ) 重篤な不正出血発現例の多くは子宮腺筋症を合併する症例でした 重篤な不正出血を発現した 54 例中 48 例 (88.9%) は 子宮腺筋症を合併する症例でした また 子宮腺筋症 子宮筋腫のい

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M


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緒言

配偶子凍結終了時 妊孕能温存施設より直接 妊孕能温存支援施設 ( がん治療施設 ) へ連絡がん治療担当医の先生へ妊孕能温存施設より妊孕能温存治療の終了報告 治療内容をご連絡します 次回がん治療の為の患者受診日が未定の場合は受診日を御指示下さい 原疾患治療期間中 妊孕能温存施設より患者の方々へ連絡 定

群馬大学人を対象とする医学系研究倫理審査委員会 _ 情報公開 通知文書 人を対象とする医学系研究についての 情報公開文書 研究課題名 : がんサバイバーの出産の実際調査 はじめに近年 がん治療の進歩によりがん治療後に長期間生存できる いわゆる若年のがんサバイバーが増加しています これらのがんサバイバ

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ける発展が必要です 子宮癌肉腫の診断は主に手術進行期を決定するための子宮摘出によって得られた組織切片の病理評価に基づいて行い 組織学的にはいわゆる癌腫と肉腫の2 成分で構成されています (2 近年 子宮癌肉腫は癌腫成分が肉腫成分へ分化した結果 組織学的に2 面性をみる とみなす報告があります (1,

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1 999 年 9 月 30 日 Leiomyomatosis の一例 早坂和正 田中良明 矢野希代志 藤井元彰 奥畑好孝 氷見和久 根岸七雄 * 日本大学医学部放射線医学教室 * 第二外科学教室 Hayasaka, T anaka, Yano, Fujii, Okuhata, Himi, Negi

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はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに


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32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

診療のガイドライン産科編2014(A4)/fujgs2014‐114(大扉)


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新入職医師のご紹介 2017 年 10 月より新たに常勤医 1 名が加わり 診療体制が充実しました 川崎幸病院婦人科飯田玲 認定資格等 日本産科婦人科学会専門医 平素より大変お世話になっております 本年 10 月より川崎幸病院婦人科で勤務しております 専門分野は婦人科良性疾患の手術 特に骨盤臓器脱手

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9 2 安 藤 勤 他 家族歴 特記事項はない の強い神経内分泌腫瘍と診断した 腫瘍細胞は切除断端 現病歴 2 0 1X 年7月2 8日に他院で右上眼瞼部の腫瘤を に露出しており 腫瘍が残存していると考えられた 図 指摘され精査目的で当院へ紹介された 約1cm の硬い 1 腫瘍で皮膚の色調は正常であ

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

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2010 年 6 月 25 表 身体所見 134 cm 31 kg /60 mmhg 83/ ,

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公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

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脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

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2 4 診断推論講座 各論 腹痛 1 腹痛の主な原因 表 1 症例 70 2 numeric rating scale NRS mmHg X 2 重篤な血管性疾患 表

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

含む ) 周産期 生殖 内分泌 女性のヘルスケアの4 領域を万遍なく研修することが可能となる 産婦人科専攻医の研修の順序 期間等については 個々の専攻医の希望と研修進捗状況 各施設の状況 地域の医療体制を勘案して 産婦人科研修プログラム管理委員会が決定する B. 産婦人科研修プログラムの具体例 専門

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医療関係者 Version 2.0 多発性内分泌腫瘍症 2 型と RET 遺伝子 Ⅰ. 臨床病変 エムイーエヌ 多発性内分泌腫瘍症 2 型 (multiple endocrine neoplasia type 2 : MEN2) は甲状腺髄様癌 褐色細胞腫 副甲状腺機能亢進症を発生する常染色体優性遺

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検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

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方法について教えてください A 妊娠中の接種に関する有効性および安全性が確立されていないため 3 回接種を完了する前に妊娠していることがわかった場合には一旦接種を中断し 出産後に残りの接種を行うようにしてください 接種が中断しても 最初から接種し直す必要はありません 具体的には 1 回目接種後に妊娠

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2018 年 10 月 4 日放送 第 47 回日本皮膚アレルギー 接触皮膚炎学会 / 第 41 回皮膚脈管 膠原病研究会シンポジウム2-6 蕁麻疹の病態と新規治療法 ~ 抗 IgE 抗体療法 ~ 島根大学皮膚科 講師 千貫祐子 はじめに蕁麻疹は膨疹 つまり紅斑を伴う一過性 限局性の浮腫が病的に出没

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症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

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診療科 血液内科 ( 専門医取得コース ) 到達目標 血液悪性腫瘍 出血性疾患 凝固異常症の診断から治療管理を含めた血液疾患一般臨床を豊富に経験し 血液専門医取得を目指す 研修日数 週 4 日 6 ヶ月 ~12 ヶ月 期間定員対象評価実技診療知識 1 年若干名専門医取得前の医師業務内容やサマリの確認

検査項目情報 1223 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4E. 副腎髄質ホルモン >> 4E040. メタネフリン分画 メタネフリン分画 [ 随時尿 ] metanephrine fractionation 連絡先 : 3495 基本情報 4E040 メタネフリン分画分析物

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

2009年8月17日

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1 卵胞期ホルモン検査 ホルモン分泌に関して卵巣や脳が正常に機能しているかを知る目的で測定します FSH; 卵胞刺激ホルモン脳の下垂体から分泌されて 卵子を含む卵胞を成長させる作用を持ちます 低いと卵胞の成長がおきませんが 卵巣の予備能力が低下している時には反応性に高くなります LH; 黄体化ホルモ

胎児計測と胎児発育曲線について : 妊娠中の超音波検査には大きく分けて 5 種類の検査があります 1. 妊娠初期の超音波検査 : 妊娠初期に ( 異所性妊娠や流産ではない ) 正常な妊娠であることを診断し 分娩予定日を決定するための検査です 2. 胎児計測 : 妊娠中期から後期に胎児の発育が正常であ

背景 急性大動脈解離は致死的な疾患である. 上行大動脈に解離を伴っている急性大動脈解離 Stanford A 型は発症後の致死率が高く, それ故診断後に緊急手術を施行することが一般的であり, 方針として確立されている. 一方上行大動脈に解離を伴わない急性大動脈解離 Stanford B 型の治療方法


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遠隔転移 M0: 領域リンパ節以外の転移を認めない M1: 領域リンパ節以外の転移を認める 病期 (Stage) 胃がんの治療について胃がんの治療は 病期によって異なります 胃癌治療ガイドラインによる日常診療で推奨される治療選択アルゴリズム (2014 年日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン第

づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

Transcription:

症例報告 子宮筋腫からのエリスロポエチン産生 によると思われた赤血球増多症の 1 例 朝野晃 1) 島崇 1) 斉藤彩 1) 澁谷剛志 1,4) 吉田美帆 1) 早坂篤 1) 鈴木博義 2) 横山寿行 3) 明城光三 1) 和田裕一 1) 1) 国立病院機構仙台医療センター産婦人科 2) 国立病院機構仙台医療センター臨床検査科 3) 国立病院機構仙台医療センター血液内科 4) 自衛隊仙台病院産婦人科 抄録 症例は 52 歳 主訴は子宮筋腫 多血症 既往歴は 26 歳時漿膜下筋腫核出術を施行 42 歳時子宮筋腫 過多月経のため子宮動脈塞栓術を施行 2008 年に子宮は手拳大であったが 2011 年 4 月には子宮は小児頭大に増大し ヘモグロビン (Hb) が 17.6g/dl と赤血球増多症が進行していた 2012 年 1 月には Hb が 18.5g/dl と更に増加した また 術前の血中エリスロポエチン (EPO) 値は 35.0mU/ml と高値を示した その後も子宮の増大を認めたため 2012 年 7 月に腹式子宮全摘術 両側付属器切除術を施行し 1,930g の平滑筋腫であった 術後 5 日目の EPO 値は正常化し Hb は 15.0g/dl と低下し 術後経過は良好であった キーワード : 子宮筋腫 赤血球増多症 エリスロポエチン (2012 年 12 月 4 日受領 2 月 6 日採用 ) 1 緒言異所性のエリスロポエチン産生による赤血球増多症は比較的稀であり 腎癌 肝癌 小脳血管芽細胞腫 子宮筋腫などが知られている 1) また 近年 血中エリスロポエチン (EPO) が臨床検査で測定できるようになり 血中 EPO 上昇を示す子宮筋腫に赤血球増多症を合併した症例が報告されている 2-16) 今回我々は筋腫の経過観察中に赤血球増多症が進行し 血中 EPO が高値であった症例を経験したので報告する 2 症例年齢 :52 歳 女性 主訴 : 子宮筋腫 多血症 家族歴 : 特記事項なし 既往歴 :26 歳時 漿膜下筋腫核出術 (500g) を施行 42 歳時 子宮筋腫 過多月経のため子宮動脈塞栓術を施行 月経歴 : 初経 11 歳 閉経 50 歳 妊娠歴 :0 経妊 0 経産 喫煙歴 : なし 47

エリスロポイエチン産生子宮筋腫 現病歴子宮動脈塞栓術以降 過多月経 貧血もなく 6 ヶ月毎に当科で経過観察されていた 2008 年 (48 歳 ) 時には子宮は手拳大であったが 2011 年 4 月に子宮は小児頭大に増大してきており ヘモグロビン (Hb) が 17.6g/dl と赤血球増多症が進行していた 子宮の増大を認めており手術を勧められていたが 自覚症状に乏しいため 経過観察を希望していた MRI では骨盤腔を占拠する子宮筋腫を認めた ( 図 1) 2012 年 1 月には Hb が 18.5g/dl と更に増加し 筋腫の増大も認めたため子宮全摘術予定した 術前 表 1 症例の子宮の大きさの変化と赤血球数 (RBC) ヘモグ ロビン (Hb) ヘマトクリット (Ht) 値の推移と血中エリスロポ エチン (EPO) の術前術後の変化 図 2 摘出子宮 ( 上 ) および割面像 ( 下 ) 長径 18 cmの筋 腫核を認める 図 1 子宮筋腫の MRI 像 (T2 強調画像 矢状断 ) 検査では赤血球増多を認めた他 血液凝固能 生化学検査値に異常を認めなかった 表 1 に Hb, ヘマトクリット値 赤血球数の推移を示した 術前の血中エリスロポエチン (EPO) 値は 35.0mU/ml ( 正常値 8-36mU/ml) と高値を示した 2012 年 7 月に腹式子宮全摘術 + 両側付属器切除術を施行し 子宮の周囲 図 3 摘出子宮の組織像 (HE 染色 ) 48

に癒着を認めたが肉眼的には子宮筋腫であり 子宮重量は 1,930g( 図 2) 手術時出血量は 230g 手術時間は 1 時間 56 分であった 病理診断も子宮平滑筋腫であり ( 図 3) 付属器に異常を認めなかった 術後 5 日目の EPO 値は 6.7mU/ml と低下し Hb も 15.0g/dl と低下した 術後の経過は良好であり 術後 7 日目に退院し 術後 1 カ月の Hb は 14.3g/dl であった 3 考察子宮筋腫に赤血球増多症を伴う症例は 1991 年の北原ら 2) の報告時には 世界で 30 例以上 本邦で 10 例の報告がなされていた 赤血球増多症に血中 EPO 高値を示すことは以前より知られており EPO 産生腫瘍の診断基準 1) は 1 腫瘍と赤血球増多症の合併 2 腫瘍摘出により赤血球増多の消失 3 血中または尿中 EPO 活性の増加 あるいは腫瘍摘出による低下 正常化 4 腫瘍抽出液あるいは嚢胞液中の EPO 活性の証明 5ほかに赤血球増多や EPO 活性増加の原因のないこととされている また Suzuki ら 7) は 赤血球増多症を認めた子宮筋腫組織が EPO を産生することを EPO mrna を測定し直接的に証明している 抗 EPO モノクローナル抗体を用いた免疫染色では 平滑筋腫細胞質が染色され 免疫組織学的にも平滑筋腫細胞が EPO を分泌していることが認められている 9) 表 2 に近年の血中エリスロポエチン増加を伴 表 2 血中エリスロポエチン (EPO) 増加を伴った赤血球増多症の報告例 (EPO 正常値の記載のある症例のみ 1990-2012 年 ) った赤血球増多症の最近の例をまとめた 全例 術後に EPO 値は低下していた 年齢は 55 歳以上の閉経後症例が半数を占めていた Hb 値は 18.1g/dl から 25.0g/dl まであり 70% 以上の症例で術前に 血栓症の予防のために瀉血を施行していた 本症例では 術前の凝固検査で異常を認めないため 瀉血は行わず手術を施行したが 術後の経過は良好であった 術後に血栓症を認めた赤血球増多症例はなか ったが 北原ら 2) は 術前に赤血球増多症に伴う脳梗塞を合併した巨大筋腫の例を報告しており 喫煙者でもあり血液粘稠度の増加が脳梗塞の誘因となったと考えられている また Unosawa ら 14) は BMI 41.9 の高度肥満の赤血球増多症を伴う子宮筋腫症例で肺梗塞を生じた症例を報告している 赤血球増多症を伴う子宮筋腫では特に 術前の血栓症の精査が必要である 本症例では 血栓症の発症に対し留 49

エリスロポイエチン産生子宮筋腫 意し 術前の D ダイマーを測定したが 0.5μg/ml と正常値であり 術後は早期離床とヘパリンの皮下注射を施行し血栓症の発生は認めなかった また 赤血球増多症を伴う子宮筋腫症例では子宮筋腫が 1Kg を超える症例が 80% 以上であったが 血中 EPO 値との相関は認めなかった 子宮筋腫の治療に関しては 従来の筋腫の治療と変わりはなく 妊孕性温存が可能な年齢では筋腫核出術が施行され 4 例中 3 例が 1.8Kg を超える筋腫であった その他の症例では子宮全摘術が行われ 術後の経過は良好であり術後に赤血球増多症は消失し その後の予後も良好であった 4 結語子宮筋腫に赤血球増多症を伴う症例の場合 EPO 高値の場合があり 赤血球増多症は血栓 塞栓症のリスク因子となりうるため 術前 術後の血栓 塞栓症の予防に十分留意する必要があると思われた 5 文献 1) 鈴木光明 高見澤聡 榎本明美 ( 自治医大 ). 内分泌症候群 ( 第 2 版 ) その他の内分泌疾患を含めて 腫瘍とホルモン異所性ホルモン産生腫瘍異所性エリスロポエチン産生腫瘍. 日本臨床別冊内分泌症候群 III 2006;283-286 2) 北原賢二 茂木弘道 滝口道生 他. 赤血球増加症と脳梗塞を合併した巨大子宮筋腫の 1 例. 産婦人科の実際 1991;40 :2131-2136 3) Clark CL, Wilson TO, Witzig TE. Giant uterine fibromyoma producing secondary polycythemia. Obstet Gynecol. 1994;84(4 Pt 2) :722-724 4) 山崎浩史 新甲靖 加藤浩二. 子宮筋腫よりのエリスロポエチン産生が疑われた赤血球増多症の 1 例. 日本産科婦人科学会中国四国合同地方部会雑誌 1998;47:79-83 5) 渡辺知緒 小林陽一 中村真 他. 多血症を合併した巨大子宮筋腫の 1 例. 本産科婦人科学会関東連合地方部会会報 1988;35:224 6) Yoshida M, Koshiyama M, Fujii H, et al. Erythrocytosis and a fibroid. Lancet. 1999; 354:216 7) Suzuki M, Takamizawa S, Nomaguchi K, et al. Erythropoiechin synthesis by tumor tissues in a patient with uterine myoma and erythrocytosis. Br J Haematol 201;113:49-51 8) 瓦家裕美 山本昌彦 赤堀周一郎 他. 多血症を伴った巨大子宮筋腫の一例. 日本産科婦人科学会雑誌 2002; 54:408 9) Yokoyama Y, Shinohara A, Hirokawa M, et al. Erythrocytosis due to an erythropoietin- producing large uterine leiomyoma. Gynecol Obstet Invest 2003;56:179-183 10) Patel PB, Radin R. Myomatous erythrocytosis syndrome: a case report. Acta Radiol. 2006;47:998-999 11) Maslovsky I, Gemer O, Gefel D, et al. Polycythemia as a result of ectopic erythropoietin production in benign cystic leiomyoma of uterus. Acta Obstet Gynecol Scand. 2006;85: 887-888 12) 和田潤郎 橋本哲司 小田得三. 多血症を合併し 手術により速やかに改善した子宮筋腫の一症例. 日本産科婦人科学会東北連合地方部会誌 2006;54:74 13) 永田智子 佐藤美紀子 吉田浩 他. 子宮筋腫赤血球増多症候群を呈した巨大子宮筋腫の 1 例. 日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報 2006;43:294 14) Unosawa S, Hata M, Sezai A, et al. Pulmonary embolism with myomatous erythrocytosis syndrome and extreme obesity. Thorac Cardiovasc Surg. 2009;57:313-314 15) 井上佳子 中村美紀 榮達智 他. 日常診療で遭遇する血液疾患 (70) 子宮筋腫に付随した赤血球増加症.Medical Postgraduates 2010;48: 1-8 16) 森田剛文 永井孝 佐藤静香 他. 多血症を合 50

併した巨大子宮筋腫の一例. 日本婦人科腫瘍学会雑誌 2010;28:346 51