目次 ページ 1. はじめに 3 2. MRSA 発生時チェックリスト 3 3. MRSA の感染防止対策 5 4. MRSA 患者 家族への説明 指導 7 5. MRSA の治療 7 6. MRSA 感染解除について MRSA サーベイランス 参考文献 11 2

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目次 ページ 1. はじめに 3 2. MRSA 発生時チェックリスト 3 3. MRSA の感染防止対策 5 4. MRSA 患者 家族への説明 指導 7 5. MRSA の治療 7 6. MRSA 感染解除について 10 7. MRSA サーベイランス 11 8. 参考文献 11 2

1. はじめに MRSA(Methicillin Resistant Staphylococcus aureus) の正式名称はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌である 黄色ブドウ球菌 (Staphylococcus aureus) は自然界に広く分布するグラム陽性好気性球菌で ヒトでは皮膚 毛包や鼻腔などの上部気道に常在する 通常は無害であるが 皮膚の切創や刺創などに伴う化膿症や膿痂疹 毛嚢炎 セツ 癰 蜂巣炎などの皮膚軟部組織感染症から 肺炎 腹膜炎 敗血症 髄膜炎などに至るまで様々な重症感染症の原因となる 国内でも 1980 年代の後半より 病院感染症の原因菌として重要な問題と認識された 現在では 市中の黄色ブドウ球菌の 70% は MRSA であると言われ 臨床で分離される黄色ブドウ球菌の 60% 程度が MRSA と判定される事態に至っている MRSA は乾燥に強く 体内にカテーテルや人工関節 人工弁などの異物が存在するとそこに定着しやすい また 医療従事者の手指や医療器具 衣類などを介して容易に伝達される 拡散を防ぐには 適切な接触感染予防が重要である 近年では メチシリン耐性株のみならず アルベカシン耐性株やムピロシン耐性株も国内でしばしば報告されている それらを増加させないための抗菌薬の適正な使用方法や感染対策への取り組みに より一層の配慮が必要である 2. MRSA 発生時チェックリスト 新たな MRSA の検出が確認された場合に以下のチェックリストに沿い 対策を確実に実 施する 病院内の MRSA 発生の報告経路に従い 感染対策室に迅速に報告する 原則的には 担当医 ( 不在時は医師側病棟責任者 ) が看護側病棟責任者へ通知後 速やかに感染対策室へ報告 ( 電話が望ましい ) することを徹底する 細菌検査室から MRSA 分離結果レポートが毎日感染管理担当者へ届くシステムを構築すると 情報の遺漏が少なくなる 患者 家族への情報提供用紙などの資料を用いて説明し 理解を得る MRSA に対する理解 感染対策への取り組み関する協力を得て 対応を円滑に行 う 個室管理を実施する MRSA の検出部位に関わらず また感染症か定着かの区別に関わらず 原則的に個室管理が望ましい 複数の MRSA 患者がいる場合には ひとつの病室に集団で隔離することも可能である ( コホート隔離 ) 移動先の個室が不足するなど判断に難渋する場合は 感染管理担当者へ相談する 防護装備 ( 手袋 ビニールエプロン 場合よりマスク ) 着用を徹底する 接触感染予防策を遵守し 実施しやすくするために病棟内の必要な場所に十分 3

数を設置する ( 例 : 病室室内 廊下 処置室内 汚物処理室など ) 病室内など使いやすい場所への速乾性アルコール手指消毒剤の設置 手指衛生を遵守することが重要である 確実に手指衛生ができるよう使いやす い場所へ設置する 4

3. MRSA の感染防止対策 MRSA の感染経路は MRSA 保菌者やその周囲環境に接触することによって 直接的 間接的に接触感染する 時に MRSA 保菌者では内因性の感染を起こす場合がある MRSA の感染防止対策として 接触感染予防策を実施しなければならず 予防策の実施は 検出患者の保菌 / 感染状態を問わず すべての MRSA 保菌患者に対し実施しなければならない MRSA の感染防止対策の具体例 隔離手指衛生と防護具身体の清潔寝具 リネン 寝衣食器一般ゴミ排泄物 ( 血液 体液付着物を含む ) 便器 尿器 検出部位に関わらず 原則的に個室管理とする 検出患者が複数名いる場合には 多床室でコホート管理を行っても良い やむを得ず多床室管理を行う場合 常時カーテンを閉める必要はない (P.10 MRSA 感染症解除についての項を参照 ) 標準予防策に則り 処置毎に手指衛生を行う 接触感染予防策に則り 患者や患者の周囲環境に接する場合は 入室時に手袋 ビニールエプロンを着用する 吸引 洗浄などの処置で痰などの飛沫による曝露が著しい場合には 標準予防策に準じて マスクまたはフェイスシールドマスクを着用する ただし接触感染予防策としては 必ずしもマスクの必要はない 制限はなし ただし 他者への曝露を最小限にするため 入浴順序は最後にし 使用後は両面活性剤 中性洗剤で洗浄する使用後のリネンは直ちに水溶性プラスチックバッグかビニール袋に密封し リネン室へ出す ( 詳細については 契約業者と相談のこと ) 病棟内のコインランドリー使用は推奨しない 患者退院時はマットレスおよびカーテンを交換する 特別な扱いはしない 特別な扱いはしない 標準予防策に準じる オムツ等はビニール袋へ入れ直ちに密封し 感染性医療廃棄物として処理する 排泄物を取り扱う際には 手袋 必要時ビニールエプロンを着用する ベッドパンウォッシャーによる熱水消毒を行う あるいは 中性洗剤で洗浄後乾燥させ 0.1% ミルトン液へ浸漬消毒もしくはアルコールクロスで清拭消毒する ( 消毒薬 物品管理マニュアル 5

看護用品 医療器具の消毒方法早見一覧表 参照 ) 診療器具 看護用品病室の清掃患者 家族への対応検査届出 MRSA の解除 可能な限り患者専用物品を準備する 消毒が必要な場合には 中性洗剤で洗浄 乾燥後に 1 0.1% ミルトン液に 30 分間浸漬 2 アルコールクロスで清拭 3 0.1% 両性石けん液 ( もしくはハイジール水 ) へ 15 分間浸漬 4 リネン室での洗濯いずれかの方法を選択し実施する ( 消毒薬 物品管理マニュアル 看護用品 医療器具の消毒方法早見一覧表 参照 ) 入院中の環境整備 : 通常の方法で可 患者が高度に接触する場所 ( ベッド柵 床頭台 オーバーテーブルなど ) は中性洗剤を用いて清掃する 雑巾は専用もしくは使い捨ての物品を使用する アルコール含有クロスを使用しても構わない 退院清掃 : 通常の退院清掃で可 高度に接触する場所 ( ベッド柵 床頭台 オーバーテーブルなど ) はアルコール含有クロスで清拭消毒する 患者 : 病室外への出入りは最小限にする やむを得ず病室外へ出る際には 患部を覆う ( 創部はドレープで閉鎖 咳 鼻水が著しい場合には サージカルマスクを着用する ) 家族 : 面会は最小限に控える 高度に接触する場合のみ手袋 ビニールエプロンを着用する (P.7 患者 家族への説明 指導 参照) 検査は最小限にする やむを得ず検査室で検査を行う場合 事前に検査室へその旨を連絡する 順番は可能な限り一日の検査リストの最後にする 検査室の清掃は通常清掃で可 高度に接触する場所は中性洗剤を用いて清掃する 雑巾は専用もしくは使い捨てとする 処置台など高危険度エリアではアルコール含有クロスを使用しても構わない 院内で規定された病院感染症報告経路に沿って報告する院内で規定された病院感染症報告経路に沿って解除報告する病院感染症報告書の解除年月日 解除理由欄を記載し 提出 (P.10 MRSA 解除 参照 ) 6

4. MRSA 患者 家族への説明 指導 MRSA が検出された場合 その後の対応 ( 個室管理 接触感染予防策 ) を円滑に行うために 患者 家族から十分な理解 協力を得ることが重要である 近年 MRSA による感染症や院内感染に関するニュースが世間を賑わせていることから MRSA に対し必要以上に恐怖心を抱いていたり 誤って解釈していることも少なくない そのような患者 家族の心理を十分に汲み取り 正しい知識に基づいた説明を行う必要がある MRSA 検出時の説明は原則として担当医が行い 対応の承諾を得た後に 個室管理 接触感染予防策の実施を開始する 説明時には 病院で統一した情報提供用紙を使用することを推奨する 5. MRSA の治療 近年 不必要な抗菌薬の使用が耐性菌の増加につながるという事実が周知されつつある中で 感染管理上 耐性化を防ぐために抗菌薬の適正使用は重要な事項である この項では 治療に関する基本的考え方 鼻腔保菌者への対応 MRSA 感染症の治療に分けて記載する 1) 基本的な考え方 MRSA の治療は 抗菌薬を局所的投与するのではなく 必ず経静脈的に全身投与をおこなう必要がある 鼻腔や創部で単なる定着状態にある MRSA は抗菌薬による治療の必要性がなく たとえ抗菌薬を投与しても除菌できないことに注意する したがって抗菌薬の全身投与は 明らかに MRSA が起炎菌である感染症に限定するべきである 2) 鼻腔保菌者への対応鼻腔保菌者の除菌には バクトロバン軟膏 (2% ムピロシン含有 ) を用いるが 除菌の成功率は低く しかも非常に高頻度にムピロシン耐性を生じるので 必ず ICD に相談の上 適正な使用方法の指導をうけてから限定的に使用する バクトロバン軟膏使用にあたっては 以下の点を厳守すること バクトロバン軟膏は 1 日 3 回両鼻腔 5 日間を 1 コースとする 1 コース終了後 48 時間以上あけてから 鼻腔の MRSA スクリーニングを行う 1 コース終了しても除菌できない場合には ICD と相談の上 2 週間以上あけてイソジンガーグル (1 日 3 回 ) によるうがいに加え 4% クロルヘキシジンあるいは 7.5% ポピドンヨードによる全身洗浄 洗髪 清拭を併用しながら 2 コース目を試みる場合もある 1 年以内に3コース以上は繰り返し使用してはならない 7

< バクトロバン軟膏使用のフローチャート > ICD に相談しバクトロバン軟 膏の適応ありと判断された はい いいえ 定着として バクトロバン軟膏 は使用しない 適応あり 1 日 3 回両鼻腔 5 日間 48 時間以上あけて 鼻腔 MRSA スクリーニング 陰性 陽性 ICD に相談の上 2 週間以上あけて バクトロバン軟膏両鼻腔塗布 1 コース追加上記に加えて 以下を同時実施 イソジンガーグル(1 日 3 回 ) による含嗽 4% クロルヘキシジンあるいは 7.5% ポピドンヨードによる全身洗浄 洗髪 清拭 連続して 3 回陰性であれば 接触感染予対策解除 注意!)1 年以内に合計 3 コース以上は繰り返し使用してはならない 注意 ) ハベカシン バンコマイシン タゴシッドなど抗菌薬の吸入や局所投与は 化学的刺激による気管攣縮やアレルギー反応などの危険がある また全身的投与以上には局所での薬剤濃度が上昇しないため 除菌が困難なうえに耐性菌を生じさせ その後の治療をいっそう困難にすることがあるため推奨しない 3)MRSA 感染症の治療 MRSA 感染症の治療において抗菌薬を使用する際には ICD へコンサルテーションすることを推奨する 基本的には下記表に示す 1 または 2 の単独投与で血中濃度モニタリング (TDM) を確実に行えば 治療成績は良好である MRSA による血流感染症や重症感染症の場合には 1 または 2 に加え 3~6 までのいずれかを短期間併用してもよい 7 8 は保険適応外であり VISA および VRSA のために温存すべきである 9 は重大な副作用発現の可能性のため 他剤が使用できずかつ生命に関わる MRSA 重症感染症の場合のみに適応を限定し乱用してはならない 一部薬剤については保険適応外の投与量であるが いずれも海外臨床試験によって有効性が証明されており米国や英国で推奨されている標準投与量であるので 救命目的ではこれを最大として医療施設および患者の状態を鑑み 耐性菌を選択しない範囲内で適宜減量すること 8

1 薬剤名 塩酸バンコマイシン ( 塩酸バンコマイシン ) 投与量 方法 / 備考 1 回 1g 1 日 2 回点滴静注 (Ccr 60 では 1 日 1 回 ) 最低血中濃度 ( トラフ ) は 8~20mg/L の範囲とする 医療安全管理マニュアルに記載されている 塩酸バンコマイシンの静注による投与方法ガイド を参照すること 2 テイコプラニン ( タゴシッド ) 3 アルベカシン ( ハベカシン ) 4 ゲンタマイシン ( ゲンタシン ) 1 回 400mg 2 日目まで 1 日 2 回 3 日以降 1 日 1 回点滴静注トラフは 15~20mg/L の範囲とする 1 回 200~400mg 1 日 1 回点滴静注 (Ccr 60 のときは 1 日 200mg を 2 回分割投与 ) 1 日 1 回投与法では トラフを 2mg/L 未満にする 副作用予防のため最大 5 日間までスルバクタム / アンピシリン 1 回 3g 1 日 4 回点滴静注を併用可 1 回 5~7mg/kg 1 日 1 回 (Ccr 60 のときは 1 日 120~180mg を 2~3 回分割投与 ) 1 日 1 回投与法では トラフが 1mg/L 未満にする ゲンタマイシン耐性株には無効 副作用予防のため最大 5 日間まで 5 サルファメトキサゾール / トリメトプリム合剤 ( バクタ バクトラミン ) 1 日トリメトプリム換算で 8mg/kg 2~3 回分割点滴静注又は 内服 6 リファンピシン 1 日 450~600mg 1 日 1 回内服 7 リネゾリド ( ザイボックス ) 8 キヌプリスチン / ダルフォプリスチン ( シナシッド ) 9 クロラムフェニコール ( クロマイ ) 1 回 600mg 1 日 2 回点滴静注 1 回 7.5mg/kg 1 日 3 回点滴静注 1 日 50mg/kg 1 日 4 回に分割点滴静注高齢者 腎障害者 4 歳以下の小児では トラフは 15mg/L 未満に維持 注 ) アミノ配糖体系薬は 耐性菌出現予防の観点から単独での治療を推奨しない 9

6. MRSA 感染解除について MRSA 対応の解除に関する原則として 同一検体による培養検査で 連続して 3 回の陰性を確認する 複数部位から検出されている場合 全ての部位から3 回連続して陰性の確認が必要である IVH カテーテル先 創部 ( 褥創を含む ) などから検出され 再度同一検体が採取できない場合に IVH カテーテルを抜去した および 創部が完治した などを理由に 培養検査を確認せず解除してはならない 万が一 これらの理由から同一検体の提出が不可能な場合には MRSA を保菌しやすい鼻前庭 咽頭 腋窩のいずれかの培養検査で3 回連続した陰性の確認を行う ( 下記フローチャート参照 ) 鼻前庭検体の採り方 左鼻であれば綿棒を 6 時から 3 時までの角度に手首をひねるようにして回し採取す る 鼻中隔側に回すと鼻出血の危険がある <MRSA 解除までの流れ > はい いいえ MRSA が検出された部位と 同一部位の検体が採取 できますか? MRSA を保菌しやすい鼻前庭 咽頭 腋窩 のいずれかの検体を採取し 連続して 3 回の陰性を確認しましたか? * 血液 髄液 カテーテル類 ドレーン類から分離された場合は いいえに進む 異なる日に採取した同一部 位検体で連続して 3 回の 陰性を確認しましたか? MRSA 解除 MRSA 解除不可 連続して 3 回の陰性確認が必要です 3 回確認後 解除としてください 10

7. MRSA サーベイランスについて 感染対策室では 微生物検査室からの MRSA 陽性レポートを基に MRSA の検出状況を把握し 感染対策活動に役立てることが重要である 例として当マニュアルでは 当教室が推奨する MRSA サーベイランスの一例を紹介する サーベイランスでは 下表に則り MRSA の伝播の有無を疫学的に判断し また保菌 / 感染状態を判定する 新規の MRSA 陽性レポートを把握した時には 当該病棟にて対策に関する指導を適宜実施する また 月 年度単位で病棟 診療科の分類別検出数を MRSA 報告とし 院内の感染対策委員会 看護師長会 診療委員会 医局長会 病棟医長会等で報告し MRSA を病院共通の問題点として捉えられ 改善対策に結びつけることができる環境を整備することが望ましい <MRSA 分類 > 過去 検査歴 過去 検出歴 今回の検出状況 判定 有検出時期 部位問わず輸入 有 無 入院 48 時間以内の検出 入院 48 時間以降の検出 輸入 院内新規 入院 48 時間以内の検出 輸入 入院 48 時間以降の検出 無 無 無菌領域もしくは入院後に挿入されたカテーテル 入院後に形成された創部からの検出 院内新規 入院 48 時間以降の検出 無菌領域以外 カテーテル由来でない部位からの検出 不明 8. 参考文献 1) 賀来満夫 大久保憲編集 :INFECTION CONTROL 2001 別冊実践 MRSA 対策, メディカ出版,2001, 2) 洪愛子編集 :Nursing Mook9, 感染管理ナーシング, 学習研究社,2003 3) 東京都新たな感染症対策委員会監修 : 東京都感染症マニュアル,2005 4) British Society for Antimicrobial Chemotherapy, Hospital Infection Society and the Infection Control Nurses Association. Revised guidelines for the control of methicillin-resistant Staphylococcus aureus infection in hospitals. 1998. J Hosp Infect. 1999 Dec;43(4):315-6. 11