世界の商品取引は拡大する一方 日本は低下 NYMEX の WTI は世界でも有力な原油先物指標 世界の先物取引のうちエネルギーや農産物など いわゆる商品先物 ( コモディティ ) に関するシェアは 17% 程度となっている ( 図表 2 ) 商品先物取引所の出来高を見ると 過去 1 年間において世界

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Ⅱ-2-4. 米国石油産業にみるイノベーション-WTI からみた先物市場の活性化策 - 要約 米 WTI 先物市場の創設によって原油価格の決定権は 石油メジャー OPEC からマーケットに移って行った WTI が世界でも大きな影響力を有する商品先物市場の 1 つとなった背景には 米国政府による石油価格統制の廃止 世界最大の消費国という位置づけ 金融機関等の資金の取り込み等があったと考えられる 市場メカニズムが石油価格を決定するようになったことはイノベーションと考えられる 我が国商品先物市場の活性化に求められる取り組みは 1 規制強化 / 緩和のバランス 2 取引参加者の拡大 3 総合的なエネルギー取引所の構築 等と考えられる 政策当局 事業者等の取引参加者 取引所が一体となって市場の活性化に努め エネルギーに関する我が国の課題解決につながることを期待したい 1. 商品先物市場の役割期待 日本で始まった先物取引 商品先物市場の 4 つの役割 世界の先物取引 ( 公設市場 ) のはじまりは 173 年に大阪の堂島米会所で始められたコメ取引が起源といわれている 当時の各藩の財政収入は年貢米を貨幣に交換することで成り立っており 米相場の変動リスクをヘッジする必要があった 当時から既に証拠金や差金決済といった現代の先物市場につながる仕組みを有しており この取引所は封建末期の我が国において 2 世紀近くにわたり経済生活に組み込まれていた 商品先物市場の役割には 1 価格形成機能 2 リスクヘッジ機能 3 現物の調達機能 加えて近年では 4 金融商品としての機能が求められるようになっている ( 図表 1 ) 一般に現物取引では 需給等のファンダメンタルズを基本としながらも 事業者間の力関係等によって 価格決定に影響をもたらす可能性がある しかし 多数参加する先物市場において需給を反映した指標価格を形成できれば 現物取引の値決めにあたって事業者が参照できる効率的な方法となる また 先物価格が現物価格と連動するのであれば 将来の価格変動に対してリスクヘッジすることが可能となる 調達側は将来的な値上がりリスクを回避して購入することができ 供給側は値下がりリスクを回避して販売することができる リスクの削減によってヘッジを行う事業者の効用は増大することから 効用ベースではゼロサムではなくプラスサムとも考えられる 図表 1 商品先物市場の役割期待 価格形成 売買の値決めにあたって事業者が参照すべき信頼性ある価格を提示 事業者 リスクヘッジ 事業者が商品の価格変動リスクを回避するツール 現物の調達 現物の生産および流通を円滑化させるためのツール 投資家 金融商品 投資家が株や債券との相関の低さやインフレヘッジを期待して金融資産に組み入れ ( 出所 ) 作成 123

世界の商品取引は拡大する一方 日本は低下 NYMEX の WTI は世界でも有力な原油先物指標 世界の先物取引のうちエネルギーや農産物など いわゆる商品先物 ( コモディティ ) に関するシェアは 17% 程度となっている ( 図表 2 ) 商品先物取引所の出来高を見ると 過去 1 年間において世界では 6 倍以上に拡大している一方 我が国の出来高はピーク時の 1/5 まで低下している ( 図表 3 ) 世界のうち中国やインドでは 石油 金属 食糧等の需要が増大する中 投資に積極的な国民性や金融商品の種類が少ないことから商品先物への投資が集中していると考えられる 一方 我が国では勧誘トラブルを抑制するための規制強化等を背景に流動性が低下している ( 詳細は後述 ) 世界の商品先物取引所ランキングを見ると 多くの米国取引所が上位に位置している ( 図表 4 ) 中でもニューヨーク商業取引所 (NYMEX) で取り扱う WTI(Light Sweet Crude Oil Futures) は 212 年以降 Brent に取引量で抜かれはしたものの それまでは世界最大の取引量を誇る原油先物の指標価格となっていた ( 図表 5 ) 本稿ではこの WTI がどのようにして世界で大きな影響力を有するに至ったのか その要因分析を行うことで我が国先物市場の課題に対するインプリケーションにつなげたい 図表 2 世界の先物取引シェア (213 年 ) 図表 3 世界の商品市場の出来高 エネルギー, 6% 金属, 5% その他, 2% 農作物, 6% 商品先物 個別株, 3% 35 3 25 ( 百万枚 ) 世界 日本 ( 右軸 ) 18 16 14 12 通貨, 12% 2 15 1 8 金利, 15% 株式インデックス, 25% 1 5 21 22 23 24 25 26 27 28 29 21 211 212 6 4 2 ( 出所 )FIA, Annual Volume Survey より作成 ( 出所 ) 金融庁公表資料等より作成 図表 4 世界の商品先物取引所 (212 年 ) 図表 5 エネルギー先物 / オプション取引 (213 年 ) 順位取引所国 契約数 ( 百万枚 ) 設立順位契約取引所 契約数 ( 百万枚 ) 1 大連商品取引所中国 521.4 1993 1 Brent Crude Futures, ICE( 英 ) 159.1 2 ニューヨーク商業取引所 (NYMEX) 米国 483.7 1882 2 Light, Sweet Crude Oil Futures(=WTI) Nymex( 米 ) 147.7 3 マルチ商品取引所 (MCX) インド 386.5 1952 3 Henry Hub Natural Gas Futures Nymex( 米 ) 84.3 4 上海期貨交易所中国 365.3 1995 4 Gasoil Futures ICE( 英 ) 64. 5 ICE フューチャーズ ヨーロッパ英国 282.1 187 5 Crude Oil Futures MCX( インド ) 39.6 6 シカゴ商品取引所米国 239.9 1848 6 WTI Crude Futures ICE( 英 ) 36.1 7 鄭州商品取引所中国 29.7 199 7 NY Harbor RBOB Gasoline Futures Nymex( 米 ) 34.5 8 ロンドン金属取引所英国 159.7 1877 8 No. 2 Heating Oil Futures Nymex( 米 ) 32.7 9 ICE フューチャーズ US 米国 53.8 187 9 Crude Oil (LO) Options Nymex( 米 ) 31.5 1 インド国立商品デリバティブ取引所インド 44.9 23 1 Natural Gas Futures MCX( インド ) 23.8 11 シカゴ商業取引所米国 3.7 1898 12 東京商品取引所 (TOCOM) 日本 25.5 1951 211 年までは WTI がトップ WTI はシェールオイル / ガス増産による価格低下等によって Brent 対比の地位が低下 ( 出所 ) 金融庁公表資料等より作成 ( 出所 )FIA, Annual Volume Survey より作成 124

2. 米原油先物市場 (WTI) が活性化した背景 米国生まれの石油産業 196 年代までメジャーが価格を決定 197 年代から OPEC が価格決定権を握る 米国には採掘しやすい油田が豊富に存在していたことから 石油産業の歴史は 1859 年の米国での機械堀りから始まった 2 世紀に入ると 石油は自動車や航空機の燃料として用いられるようになり 石油需要が拡大していった 196 年代までは米国を中心とする石油メジャー ( 以下メジャー ) 1 と呼ばれる巨大石油資本が石油資源を支配しており 国際的に取引される原油価格もメジャーによって決定されていた 具体的には ガルフ プラス方式 ( 米国メキシコ湾岸での原油価格を元に輸送コストを反映 ) および 中東プラス方式 ( 同様に中東での原油価格を指標とする ) によって 世界の消費国への供給を行っていた メジャーの一方的なやり方に不満を持っていた産油国は OPEC を結成し 石油価格の安定と維持を要求したが 当時は米国が最大の産油国であったことから大きな影響力を有していなかった しかし 197 年代に入ると 需給バランスの逼迫化に伴い産油国の力が強まり OPEC による石油会社資産 ( メジャー等 ) の国有化の動きが加速した ( サウジアラビア クウェート等 ) 1973 年の第 4 次中東戦争ではアラブ産油国が対アラブ非友好国に対する石油禁輸を宣言する等 OPEC の石油会社に対する優位性はさらに高まり 公示価格 ( メジャーが産油国に対して支払う税額の算定基準となる価格 ) を 13% 引き上げることに成功した ( 第一次オイルショック ) メジャーは価格をコントロールすることが困難となり OPEC 最大の石油埋蔵量を持つサウジアラビアが価格決定に際してのリーダーシップをとるようになっていった 図表 6 石油産業の歴史 図表 7 原油価格の推移(2 年まで ) 年 イベント 4 1859 米国でドレークが油井の機械掘りに成功 ( ドル /bbl) 35 187 ロックフェラー オハイオ スタンダード設立 1911 反トラスト法により スタンダードオイル解散 3 196 ベネズエラと中東 4ヵ国 OPEC 設立 1973 第一次オイルショック 25 第 2 次オイルショック 1978 第二次オイルショック 2 1983 WTI 先物がNYMEXに上場 1986 サウジアラビアがアラビアンライト原油の価格公示を廃止 15 第 1 次オイルショック 1994 サウジアラビアが米国向け指標価格をANSからWTIに変更 1 1997 アジア危機 21 米国同時多発テロ 5 28 リーマンショック 29 サウジアラビアが米国向け指標価格をWTIからASCIに変更 195 196 197 198 199 2 ( 出所 )JXHD 石油便覧 等より作成 ( 出所 )BP 統計より作成 図表 8 原油価格決定方式の変遷 メジャーの時代 OPEC の時代マーケットの時代 原油価格は石油メジャーが ガルフ プラス方式 および 中東プラス方式 を用いて決定 スポット市場は存在せず 原油取引は開示されず OPEC が石油産業を国有化 第 4 次中東戦争を契機に OPEC が原油価格を一方的に引き上げ 原油先物市場が開設 次第に先物価格に連動して原油価格が決定される方式が定着 195 s 197 s 198 s Present ( 出所 ) 資源エネルギー庁 エネルギーに関する年次報告 EIA より作成 1 現在のエクソンモービル ( 米 ) シェル ( 英蘭 ) BP( 英 ) シェブロン ( 米 ) トタール ( 仏 ) など 125

1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 199 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2 1976 1978 198 1982 1984 1986 1988 199 1992 1994 1996 1998 2 Ⅱ-2. 米国のイノベーション創出力 198 年代より市場が原油価格を決定 石油危機による原油価格の高騰は コストが高い非 OPEC の原油生産を促進させたのみならず 先進国における需要減少や省エネルギー対策に拍車をかけ 石油需給は大幅に緩和していった また 国有化によって権益を喪失したメジャーが自社の製油所に供給する原油を確保するため スポット市場での原油調達をより活発に行うようになっていった かかる状況下 リスクヘッジの重要性が認識されるようになり 1983 年に NYMEX で WTI(West Texas Intermediate) が上場するに至った このようにして メジャー OPEC が原油市場を支配する時代は終わり 石油価格を市場メカニズムが決定する時代となった 図表 9 WTI 上場の背景 権益を失ったメジャーの原油調達ニーズ 非 OPEC の石油生産量拡大 スポット市場の拡大 (197s~) ヘッジツールとしての先物市場の必要性 NYMEX で WTI 上場 (1983) ( 出所 ) 資源エネルギー庁 エネルギーに関する年次報告 等より作成 WTI 原油は 米国テキサス州沿岸部の油田で産出される原油の総称である WTI は上場当初こそ取引は低調であったものの 金融機関等も含め市場参加者の広がりによって徐々に市場が拡大し ( 図表 1 ) 商品先物取引の中で最大の出来高を誇るに至った WTI は比重を示す API 度が 35~5 度と超軽質で 硫黄分も.2% 程度と少なく良質であり消費地に近いことから 当時は他油種よりも一般的に高値で取引されていた ( 図表 11 ) 図表 1 WTI の出来高推移 (2 年まで ) 図表 11 原油価格の推移 (2 年まで ) 4 35 3 ( 百万枚 ) 4 35 3 ( ドル /bbl) Dubai Brent WTI 25 25 2 2 15 15 1 1 5 5 ( 出所 ) 各種公表資料より作成 ( 出所 )BP 統計より作成 ( 注 )11 年ごろより Brent>WTI の傾向となっている WTI が世界で最も影響力の大きい位指標に 米国の石油価格統制を廃止 WTI は米国のガソリン需給等にも影響を受けやすく 世界の価格指標としての性格を疑問視する声もあった 1988 年にはロンドンにて Brent が上場する等 複数の原油先物市場が存在していた中 WTI が世界で最も影響力のある原油先物指標となったのには複数の要因が考えられる まず 政策面の変化が大きいだろう 米国では 197 年代後半から石油価格規制が緩和されつつあったが 1981 年にレーガン大統領が就任するとそれまでの石油価格統制を廃止し 市場メカニズムに任せる方針に転換した 石油 126

1965 1967 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 21 23 25 27 29 211 1965 1967 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 21 23 25 27 29 211 Ⅱ-2. 米国のイノベーション創出力 価格を政策的に抑えることや代替エネルギーの開発に補助金を与えるのではなく 価格形成を市場に委ね 仮に価格上昇しても省エネや代替エネルギーの開発が促進されるという考えであった 米国は世界最大の石油消費国 次に需給面における米国の位置づけである ( 図表 12 13 ) 特に米国の石油需要は世界最大のシェア ( 先物上場時で 26%) を占め 実需に裏付けられた発達した現物市場が存在していたことも先物取引を活性化の一因となった また 前述したように非 OPEC の原油生産が増加し OPEC の影響力が低下したことも市場化を促進したと考えられる 図表 12 世界の石油需要 図表 13 世界の原油生産量 1, 9, 8, 7, 6, ( 千 b/d) その他 アジア 欧州 米国 米国シェア ( 右軸 ) 4% 35% 3% 25% 1, 9, 8, 7, 6, ( 千 b/d) その他 OPEC 米国米国シェア ( 右軸 ) 3% 25% 2% 5, 2% 5, 15% 4, 3, 2, 1, 15% 1% 5% 4, 3, 2, 1, 1% 5% % % ( 出所 )BP 統計より作成 ( 出所 )BP 統計より作成 他油種の価格フォーミュラに組み込まれる 先物市場における取引が増加し 現物取引のヘッジツールとしての役割が拡大すると 産油国との現物取引において 値決めそのものに先物価格の水準が影響するようになってきた これは 198 年代にシェアを失った OPEC にとって硬直的な価格を維持し続けるよりも 先物で取引されている競合原油の価格を参考にしてより柔軟な価格決定を行うべきとの考えに基づいている 具体的には サウジアラビアが 1994 年より米国向けの輸出価格について 取引量の多い WTI を指標とする価格フォーミュラを利用し始めた ( 図表 14 ) WTI が米国産の原油取引だけでなく 他油種の値決めにも適用されたことは 世界的に大きな影響力を有するようになったことを意味している 図表 14 米国向けの原油価格フォーミュラ 国 油種 販売 23 年時点 213 年時点 サウジアラビア Arabian Light FOB WTI + 調整項 - 運賃割引額 ASCI + 調整項 - 運賃割引額 Arabian Heavy FOB WTI + 調整項 - 運賃割引額 ASCI + 調整項 - 運賃割引額 クウェート Kuwait US Gulf WTI + 調整項 ASCI + 調整項 イラク Basrah FOB WTI + 調整項 ASCI + 調整項 Kirukuk Ceyhan WTI + 調整項 ASCI + 調整項 Bonny Light FOB Dated Brent + 調整項 Dated Brent + 調整項 ナイジェリア Forcados FOB Dated Brent + 調整項 Dated Brent + 調整項 Brass River FOB Dated Brent + 調整項 Dated Brent + 調整項 Isthmus FOB.4 WTS+LLS +.2 Dated Brent + 調整項.4 WTS+LLS +.2 Dated Brent + 調整項 メキシコ Maya FOB.4 WTS+3%Fuel Oil +.1 LLS+Dated Brent + 調整項.4 WTS+3%Fuel Oil +.1 LLS+Dated Brent + 調整項 Olmeca FOB WTS+LLS+Dated Brent /3+ 調整項 WTS+LLS+Dated Brent /3+ 調整項 ( 出所 )TOCOM ホームページ等より作成 ( 注 )ASCI(Argus Sour Crude Index: 米メキシコ湾岸地域で取引される中質マーズ ポセイドンおよびサザン グリーンキャニオンの加重平均価格 ) 127

項目 政策面 ( 出所 ) 作成 図表 15 WTI の取引が拡大した背景 ( 仮説 ) 内容 米で石油価格統制を廃止し 価格決定を市場メカニズムに任せる方針に転換仮に価格が上昇しても省エネ対応や代替エネルギー開発が促進されるとの見方も 需要面 米国石油需要のシェアは 26% と世界最大 ( 先物上場の 1983 年時点 ) 供給面 現物市場 商品性 米国原油生産のシェアは18%( 先物上場の1983 年時点 ) 非 OPECの開発が進み OPECの地位は低下傾向 198 年代前半に石油の供給過剰により余剰となったスポット原油が増加流動性の高い現物市場の存在によって先物との裁定が働きやすい 情報開示の適時性等による高い透明性基軸通貨のドル建て取引による信頼性標準化や決済システムの整備による利便性金融商品化が進んだことで 事業者のみならず 米国金融機関の市場参加を促進 価格フォーミュラ サウジアラビア産の米国への輸出価格フォーミュラに適用 (94 年から 9 年まで ) 金融機関等の呼び込み 一方 市場の拡大に寄与した投機筋による弊害も生まれた 1987 年以降 原油先物市場において存在感を示してきた米国の投資銀行は Wall Street Refinery( ウォールストリートの石油会社 ) とも呼ばれ 原油価格には需給以外の要因が反映されやすくなっていった ( 図表 16 17 ) 例えば プログラム売買の手法によって価格が大幅に変動する等 先物主導で現物価格取引にも影響を与えていた また 商品先物の金融商品化が進み 一般投資家による商品ファンドへの投資も増え オプションやスワップなど多様なツールも成長していった 図表 16 米国原油先物市場のプレーヤー 図表 17 米国原油先物価格の変動要因 需要 ファンダメンタルズ 原油価格 供給 投機的要因 地政学的リスク 金融市場要因 ( 先物市場効果 ) ( 出所 ) 日本銀行公表資料等より作成 ( 出所 ) 作成 原油価格上昇は米国にプラスな面も 2 年代後半には原油価格が大幅に上昇した 市場ではアジア需要の拡大に加え イランやイラク等の主要産油国に関する地政学的リスクによる供給不安が絶えず 石油供給確保に対する懸念が高まっていた こうした懸念は投機資金にとっては格好の材料となり 巨額の資金が石油市場へ流入して石油価格を押し上げ 28 年に入ると 1 ドル /bbl を突破した 原油価格の高騰は中東等の産油国にメリットをもたらしただけでなく 米国の石油メジャーについても上流事業からの利益が大半を占めており 価格上昇は利益の上昇要因となった ( 図表 18 ) また 原油高騰によって米国では非在来型油田が採 128

算コストに見合う水準となり 例えばシェールオイル等の開発が促進される等 米国に恩恵をもたらす側面も見られた ( 図表 19 ) 図表 18 ExxonMobil の利益と原油価格の相関 図表 19 原油の生産コストイメージ 5, 45, (1 万ドル ) ( ドル /bbl) 4, 35, EMの純利益 3, WTI( 右軸 ) 25, 2, 15, 1, 5, 198 1985 199 1995 2 25 21 12 1 8 6 4 2 原油価格 ( ドル /bbl) 1 5 在来型油田 埋蔵量 非在来型油田 超重質オイルサンド シェールオイル ( 出所 ) 各種公表資料より作成 ( 出所 )IEA, World Energy Outlook213 より作成 3. 我が国商品先物市場へのインプリケーション WTI から我が国へのインプリ 米国では WTI が高い流動性を有していたことで 事業者にとって原油価格の変動を柔軟にリスクヘッジできることや 信頼性の高い指標価格が価格決定フォーミュラに適用されることで 公正で公平な値決めが可能となる等の恩恵をもたらした 冒頭で述べたように 我が国の商品先物市場は縮小傾向にある かかる状況下 WTI の活性化に見る我が国へのインプリケーションは 1 規制強化 / 緩和のバランス 2 利便性向上等による取引参加者の拡大 3 需要国の影響力を活かした商品の拡充等による総合的なエネルギー取引所の構築 等と考えられる ( 図表 2 ) 図表 2 我が国商品先物市場の活性化に求められる取り組み ( 仮説 ) 項目米国からのインプリ我が国で考慮すべき論点足元の動き / 方向性 規制強化 / 緩和のバランス 自由化の推進 取引減少の最大の要因となっている勧誘規制の緩和エネルギーセキュリティの観点 214 年 4 月に経産省及び農水省が商品先物の営業規制を緩和する省令案を示す 取引参加者の拡大 金融商品化による利便性 取引所の再編 ( 後述 ) 幅広い投資資金の取り込み利便性および流動性の向上 214 年 3 月に東商取とDME ( ドバイ ) がエネルギー分野の協力で合意 214 年 3 月よりガソリンと原油のスプレッド取引が可能に 総合的なエネルギー取引所 需要国の影響力スポット市場の活性化価格フォーミュラへの適用 エネルギー市場の構造変化への対応 電力やLNGの先物上場を検討 214 年 4 月よりLNGのスポット取引価格を公表 ( 出所 ) 作成 129

1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2 21 22 23 24 25 26 27 28 29 21 211 212 213 Ⅱ-2. 米国のイノベーション創出力 規制のバランス 214 年に営業規制緩和の改正案 まず 政策面からは規制強化 / 緩和のバランスが求められる 23 年当時 日本の TOCOM の売買高は世界 2 位 (NYMEX:111 百万枚 TOCOM:87 百万枚 ) のポジションにあったが 実態は売買の大部分を個人投資家に頼り 商品取引会社による強引な勧誘等によってトラブルも絶えなかった そのため 商品取引法を改正し 規制を強化することでトラブル件数は減少したものの 同時に流動性の低下にもつながった ( 図表 21 22 ) 214 年 4 月に経済産業省および農林水産省より商品先物取引に関する規制と指針の改正案が示され 商品先物の営業規制を緩和する内容が盛り込まれた 具体的には 7 歳未満の顧客であれば一定条件付きで営業ができる省令案を示した 市場の活性化と消費者保護のバランスに配慮した仕組みによって再び個人投資家等の資金流入にも期待したい 図表 21 我が国主要商品先物の出来高 図表 22 先物取引が減少した背景 ( 仮説 ) 8, 7, 6, 5, 4, ( 万枚 ) ゴム 金 石油関連 強引な勧誘等によってトラブル 法改正により個人への勧誘が慎重に 3, 2, 1, ( 出所 )TOCOM ホームページより作成 <24 年改正 > 再勧誘禁止規定の導入 事前説明義務付けの導入等 <26 年改正 > 事実に相違する広告等の禁止等 <29 年改正 > 不招請勧誘禁止規定の導入 (211 年 1 月施行 ) 等 ( 出所 ) 各種公表資料より作成 エネルギーセキュリティの観点も 投機資金の必要性 国際的な取引所連携 また 米国では石油価格の自由化を含めたエネルギー規制の撤廃が WTI 活性化の 1 つのきっかけとなったが 我が国の場合 あらゆる規制を機械的に自由化すればよいというものではない 米国と決定的に異なるのは 我が国は少資源国という点である 石油に関していえば 米国では自由化によって価格が上昇した局面では上流資源が豊富な石油メジャーの収益性改善やシェールオイル開発の促進といったプラスの面も見られたが エネルギー自給率の低い我が国 ( 原子力を除いて 4% 程度 ) においては価格上昇が不利に働くことが想定される 価格決定をどこまで市場に任せるかは エネルギーセキュリティに十分配慮することを前提に議論する必要がある 次に取引参加者の拡大である WTI の事例では金融機関等の資金の取り込みが市場活性化につながった 投機資金の流入によって需給以外の変動要因を受けやすくなるというデメリットにも十分留意する必要があるが ヘッジニーズ ( 買いもしくは売り一方向 ) のある事業者だけでは先物市場は成り立たない リスクテイクを行い 市場の潤滑油的な役割を果たす幅広い投資家 投機家 ( 金融機関に限らない ) の呼び込みは一定程度必要であると考えられる さらに活性化には海外の参加者のさらなる取り込みが不可欠である 近年 13

世界では国境を越えた取引所の再編が進んでいる ( 図表 23 ) 背景には デリバティブや電子取引の発達に伴い 金融市場が高度にグローバル化し 取引所間の競争が激化していることが挙げられる WTI を有する NYMEX も 28 年に CME に買収されている かかる状況下 我が国商品取引所においても海外参加者の利便性向上のため 海外取引所等とのさらなる連携強化が求められるのではないか 図表 23 世界の取引所再編の動き 年 再編の動き 26 ニューヨーク証券取引所 (NYSE) とユーロネクストが合併を発表 26 シカゴマーカンタイル取引所 (CME) がシカゴ商品取引所 (CBOT) の買収を発表 27 ナスダックがOMX( 北欧 ) の買収を発表 28 CMEがニューヨーク商業取引所 (NYMEX) の買収を発表 211 東京証券取引所と大阪証券取引所が経営統合を発表 212 香港証券取引所がロンドン金属取引所 (LME) の買収を発表 212 インターコンチネンタル取引所 (ICE) がNYSEユーロネクストの買収を発表 ( 出所 ) 各種公表資料より作成 多様なニーズに応える取引 また TOCOM では欧米では取引の主流であったスプレッド取引 ( ガソリン vs 原油 ) が 214 年 3 月より可能となり 多様なニーズに応える施策の 1 つと評価できよう こうした取引参加者の利便性を高める新たな取引に柔軟に対応していく努力も必要であろう 最後に総合的なエネルギー取引所の構築である 我が国エネルギー企業は従来の枠組みを超えて 石油 電力 ガスといった分野における総合エネルギー産業への転換を図っている これらの企業にとった利便性の観点からは 特定の商品だけでなく エネルギーの総合的な商品整備が必要である 日本は世界最大の LNG 輸入国 LNG 先物市場の是非 例えば LNG が挙げられる 日本は世界最大の LNG 輸入国であるにも関わらず その多くを原油リンクの長期契約で輸入しているため 欧米対比で割高な価格であることが指摘されている ( 図表 24 25 ) 世界的にはシェールガス革命により天然ガス自体の価格は相対的に安定して推移している一方 我が国が輸入する LNG 価格は大きく変動してきている さらに その価格変動リスクをヘッジする手段が不十分であることが指摘され 213 年 3 月の LNG 先物市場協議会では 214 年度中に LNG の先物市場を創設する旨提言がなされた 現行の LNG 取引の大半は原油リンクに連動する相対契約となっていることや 長期契約が主体であることから 現状のスポット取引はそれほど活性化しておらず 先物市場を構築することについて限界的な側面があることは否めない さらに市場が創設されたからといって必ずしも安価な調達が可能となるわけではない また 日米の違いとして原油価格が高騰した際に権益を有する石油会社が恩恵を受けた面も見られたが 少資源国の我が国にとってエネルギー価格の高騰はネガティブな影響が想定される ただし 足元では原油リンク以外の契約も見られる中 中期的に先物市場を創設する必要性が高まる可能性がある 加えて WTI の事例にみたように 最大の消費国における先物市場は世界的な影響力を持つ可能性があり かつ 131

1984 1986 1988 199 1992 1994 1996 1998 2 22 24 26 28 21 212 Ⅱ-2. 米国のイノベーション創出力 価格フォーミュラ等に適用されれば流動性が向上することも期待できる 現物市場の活性化 先物取引の活性化には 裏付けとなる現物取引の活性化が不可欠である TOCOM は 213 年 11 月に GINGA ENERGY JAPAN 株式会社との共同出資により 店頭市場の運営会社を設立したが これは LNG 等の現物取引に向けた施策の一環とも受け取れる さらに 214 年 4 月には経産省が LNG のスポット取引価格をはじめて集計 公表した LNG の先物市場が成功するには これら以外にも多くの論点があるものの こうした取り組みが現物取引の活性化への第一歩となり ひいては将来的に先物市場の活性化につながる可能性もあるだろう 図表 24 LNG 輸入量 (212 年 ) アルゼンチン, 2% 米国, 2% その他, 1% イタリア, 2% トルコ, 2% フランス, 3% 英国, 4% 台湾, 5% 日本, 36% 18 16 14 12 1 8 6 図表 25 ガス価格の推移 ( ドル /MMBTU) 日本 (LNG) 欧州 (LNG) 米 (Henry Hub) 中国, 6% インド, 6% スペイン, 7% 韓国, 15% 4 2 ( 出所 )BP 統計より作成 ( 出所 )BP 統計より作成 4. おわりに 日本のゴム価格は世界の指標 中国が相次いで先物を上場 代表的な商品市場の指標価格は欧米が中心であるものの アジアにおいても日本のゴムおよびマレーシアのパームオイル等 世界的な指標価格が存在する 日本は中国 米国に次ぐゴム消費国であり 主要生産国である東南アジアと近いことから ゴムの貿易取引の要として位置づけられてきた TOCOM のゴム先物市場は 6 年以上の歴史を有し 世界のゴム価格の指標となっている また 足元では中国が原料炭 鉄鉱石 コークス等を自国先物市場で上場させており これは需要拡大を伴うリスクヘッジのニーズに応えるだけでなく 国際的な影響力を高める狙いもあると見られる ( 図表 26 ) 132

石油 ガス 石炭 鉄鉱石 銅 アルミニウム LNG( 輸入 ) Ⅱ-2. 米国のイノベーション創出力 図表 26 世界の需要に占める各国シェア (212 年 ) 6% 5% 日本中国米国 4% 3% 2% 1% % ( 出所 )BP 統計等より推計 エネルギー課題先進国 世界最大の原油先物であった WTI も 212 年には Brent に出来高で抜かれる結果となった 先物市場は魔法の杖ではなく 一度市場を創設すれば 自然と活性化し 自国にとって都合よく価格が上昇したり下落するものではない 我が国では少資源国という特性からエネルギーの安定供給およびコストの低減が必要であることに加え 震災以降のエネルギー構造の変化等 多くの課題を抱えている 政策当局 事業者等の取引参加者 取引所が一体となって市場の活性化に努め これらの課題解決につながることを期待したい ( 素材チーム松本成一郎 ) seiichiro.matsumoto@mizuho-bk.co.jp 133