溜池通信 vol. 596 July 22, Biweekly Newsletter

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る傾向がみられる 自由貿易協定が個人の経済状況に与えた影響 全体支持候補年齢学歴大卒大学高卒クリントントランプ 大卒以上中退以下良い影響 40% 51% 24% 66% 42% 31% 32% 56% 43% 42% 30% 悪い影響 45% 32% 68

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米国大統領選挙の展望 構成 1. 大統領選挙の行方 2. 選挙後の政策を考える 2 1. 大統領選挙の行方 3 69



溜池通信 vol. 587 March 14, Biweekly Newsletter

Q1: 先に行われました第 1 回テレビ討論会についてどう思われましたか? A: 9 月 27 日 ( 日本時間 ) のテレビ討論会では 民主党候補のヒラリー クリントン氏と共和党候補のドナルド トランプ氏が初めて直接対決しました 選挙にはまだ時間がありますし 今回のテレビ討論会だけで 何らかの結論

2016 年 10 月 26 日が順当に勝つと予想している だが トランプ氏が現時点で多くの支持と勝利を確信しているなら 本選で敗れても選挙結果に不正があると訴えてすぐに受け入れない恐れがある トランプ氏の不正説の裏にあるのは 現実逃避か確信なのか 意外だが それを確かめられる簡単な方法がある 実際

米中間選挙結果とインプリケーション

2016 年 11 月 8 日利が確実になっていた 前回の本報告でも述べた通り この時点はトランプ氏と陣営 共和党支持者の熱意も低下し トランプ氏が大敗を喫する可能性も高くなっていた しかし大詰めの選挙戦は FBI( 米連邦捜査局 ) のコミー FBI 長官が米議会へクリントン氏の私用メール問題に関

キヤノングローバル戦略研究所 (CIGS) ダニエル C スナイダーセミナー 米国中間選挙: その結果と米外交政策にもたらす意味 講演要旨 開催日 :2018 年 11 月 12 日 会場 : キヤノングローバル戦略研究所会議室 CopyrightC2018 CIGS. All rights res

2. 政党支持率政党支持率は 自民党が前回に比して 増加 が 2 社から 5 社に増え 減少 が 7 社から 3 社に減少した 立憲民主党は 前回に比して 増加 が 6 社 減少 が 2 社 変わらず 1 社となっており 前回と同じ結果になっている 他の政党は大きな変化がない 表 1 参照 3. 憲

Donald Trump 1 1 Thomas Wright NATO TPP NAFTA Vladimir Putin

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る軍事プレゼンスは世界を安定させ これらの自由な経済活動を可能にしてきた トランプ大統 領の就任演説にはこのような意識はみじんもない そして彼がこれから行おうとしていること は以下の点に集約される 今日 この日から アメリカ第一のみになります アメリカ第一です 貿易 税金 移民 外交についてのすべて

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伊藤貫 ( いとう かん )/ 国際政治アナリスト 1953 年 東京生まれ 東京大学経済学部卒 コーネル大で国際政治学を学ぶ ワシントンのコンサルティング会社とロビー事務所で外交 金融政策のアナリストとして勤務 シカゴ トリビューン ロサンゼルス タイムズ コモンウィール フォーリン ポリシー な

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1. 米国大統領選挙 (1) 一段と混沌の度合いを増す選挙戦共和党の大統領候補はドナルド トランプ氏 1 人に絞られた 一方 民主党ではバーニー サンダース氏が残ってはいるが ヒラリー クリントン氏が指名獲得に必要な代議員の過半数を超えたため 同氏が大統領候補となることがほぼ確実となった 前回 3

溜池通信 vol. 574 September 11, Biweekly Newsletter

アウトルック

溜池通信 vol. 653 November 16, Biweekly Newsletter

2016 年 6 月 24 日大統領選挙どうして今年の大統領選挙は重要なのか? 戦後最も注目されている今回の選挙 最大の理由は 今回の大統領選終了後 大統領制への移行となるからです 2017 年 4 月 16 日 トルコでは 大統領権限強化を盛り込む憲法改正の是非を問う国民投票 が実施されました 結

はじめに

遡れば 改革派保守と目される識者たちは 2012 年のオバマ大統領再選を契機に 路線修正の必要性を強調し始めていた 3 その主張が集約されたのが Room to Growである 発表にあわせて実施されたセミナーに マコネル上院院内総務を始めとする共和党の議会指導部メンバーが登壇したことも 改革派保守

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50 ブルベルト (テキサス州やフロリダ州など) の三つだ それぞれ結果はどうだっただろう ラストベルト で民主党が復調 錆びついた地帯 という名称からもわかる通り 鉄鋼で栄えたペンシルベニア州を中心とする地域だ ピッツバーグやアレンタウンといったペンシルベニア州の鉄鋼都市は製造業での外国企業との争

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14 選挙結果の概要一般得票でヒラリー クリントン氏は6083万9千票あまりを獲得したのに対して トランプ氏は6026万5千票あまりを獲得している(表1参照2 ) ここで民主党 共和党候補の一般得票数 得票率 投票率を比較してみると 2016年の選挙は投票率が過去3回の選挙よりも低く 本選挙での投票

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PowerPoint プレゼンテーション

米国大統領選の動向と TPP 議会審議への影響について 1. はじめに 11 月の米大統領選挙に向けて 2 月 1 日のアイオワ党員集会を皮切りに始まった予備選挙 党員集会は 重要州の投票が集中するいわゆるスーパー チューズデー等を経て 両党における候補が絞られてきた 共和党側では 出馬当初には躍進

Vol

7 民法改正 : (13) 選択的夫婦別姓の実現 (14) 婚姻最低年齢 再婚禁止 (15) 婚外子相続分差別規定廃止 是正 8 性暴力 : (16) 性暴力禁止法 (17)DV 防止法 9 日本軍 慰安婦 : (18) 河野 村山談話 (19) 国家の謝罪と補償 10 性的健康 : (20) 刑法

ったことである しかも 共和党は南北戦争中ですら 北部においても有権者の圧倒的な支持を得ていたわけでなく 南北戦争後も 政治的課題として浮上した 奴隷制を廃止したうえで南部諸州を連邦に復帰させる再建 (Reconstruction) をめぐる争点群は 民主党よりも共和党にとって分裂を惹き起こしやすい

1 アジア時報2016年アメリカ大統領選挙では例年にも増して 民主党と共和党以外の 第三政党 の動向が注目されている リバタリアン党 や 緑の党 の大統領候補者 さらには無党派の新参の候補者らが共和党候補のドナルド トランプ 民主党候補のヒラリー クリントンの票を奪う形で 両者の選挙戦の結末に影響す

評論・社会科学 91号(よこ)(P)/2.三井

果の平均は 残留が 44% 離脱が 40% と僅差ながら残留が離脱を上回っている ( 第 1 表 ) ただしここで 調査方法毎の平均をみると インターネットを通じたオンライン調査の結果 は 残留が 40% 離脱が 41% と拮抗状態にあるのに対し 電話調査では残留が 47% 離脱 が 38% と残留

小手川大助 (CIGS 研究主幹 ): 質疑応答に入る前に二つ質問したい 第一に 現政権の作業小部会の活動は オバマ氏のホワイトハウス運営と比べてどうか? 第二に 最近共和党の現職議員が予備選挙で敗北したり 引退を発表したりしているが これは確かか? また中間選挙でトランプ氏はどんな戦略を取とると考

期待に反して共和党によって ねじれ議会 が解消された場合には オバマ政権は自らの政策を推し進め難くなる 議会の主導権を共和党に掌握されるからである 現在の ねじれ議会 であれば 少なくとも上院においては 多数党を占める民主党が ある程度は政権の意向を代弁してくれる これが共和党議会となれば 議会の立

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アメリカ大統領選とねじれ議会

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2016 年米国選挙 : 市場の反応および推測されること 11 月 8 日は 次の 4 年間で誰がその国を導いていくかを決めるため米国市民が招集される日である 最新の世論調査は事実の疑念性を高めており 2 人の主要候補者間の支持率の差が近日かなり接近していることがわかっている 当然のことながら 共和

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目次 1. 調査概要 Page 2 2. 回答者属性 Page 3 3. 問 1. 地球儀を俯瞰する外交 Page 4 4. 問 2. 日本の国連安保理非常任理事国としての取組 Page 5 5. 問 3. 東アジアの安全保障政策 Page 6 6. 問 4. 女性参画推進における国際的取組 WAW

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丸紅ワシントン報告 年 11 月 3 日 丸紅米国会社ワシントン事務所長今村卓 米国中間選挙 4 速報 共和党は下院で 60 議席以上伸ばす 1948 年以来の大勝 民主党は上院の過半数を確保でき

「これだけは学んでおきたい! 最新時事問題&現代用語 2013」 - 夏号(サンプル)

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三浦市長 吉 田 英男 新年明けまして おめでとうございます 市民の皆様には 気持ちも新たに 素晴らしい新年をお 迎えになられたこととお喜び申し上げます 昨年は 消えた年金問題 薬害肝炎犠牲者への対応 安倍首相の突然の辞任 ねじれ国会 による審議の停滞など 国政においては 国民に目を向けているとは思

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動き始めたトランプのアメリカの経済政策

7 民法改正 : (13) 選択的夫婦別姓の実現 (14) 婚姻最低年齢 再婚禁止 (15) 婚外子相続分差別規定廃止 是正 8 性暴力 : (16) 性暴力禁止法 (17)DV 防止法 9 日本軍 慰安婦 : (18) 河野 村山談話 (19) 国家の謝罪と補償 10 性的健康 : (20) 刑法

第 2 問問題のねらい青年期と自己の形成の課題について, アイデンティティや防衛機制に関する概念や理論等を活用して, 進路決定や日常生活の葛藤について考察する力を問うとともに, 日本及び世界の宗教や文化をとらえる上で大切な知識や考え方についての理解を問う ( 夏休みの課題として複数のテーマについて調

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夢真ホールディングス IR セミナー 大岩川源太 ( 新生ジャパン投資投資インストラクター ) 2017 年 5 月 25 日 ( 木 ) 夢真ホールディングス本社 22 階会議室 Copyrights(c)2016 gentajuku all rights reserved.

_トランプ政権誕生について

HからのつながりH J Hでは 欧米 という言葉が二回も出てきた Jではヨーロッパのことが書いてあったので Hにつながる 内開き 外開き 内開きのドアというのが 前の問題になっているから Hで欧米は内に開くと説明しているのに Jで内開きのドアのよさを説明 Hに続いて内開きのドアのよさを説明している

2017 年 12 月 11 日みずほ総合研究所 2 年目のトランプ政権と米国経済 Cartoons: 双日総合研究所吉崎達彦 1

株式:マーケット・フォーカス

溜池通信 vol. 650 October 5, Biweekly Newsletter

むしろ 中間選挙への政治的な計算は オバマ政権による政策運営の障害となっている面が目立つ 好例が冒頭に上げたTPAである 民主党の場合 オバマ政権の通商アジェンダの推進に対しては 労働組合などの主要な支持者に反対論が根強い 選挙を最優先したい議会のリーダーとしては この時期に敢えて支持者の反感を買う

平成23年度 児童・生徒の学力向上を図るための調査 中学校第2 学年 外国語(英語) 調査票

溜池通信 vol. 604 November 18, Biweekly Newsletter

ここからの Brexit タイムラインと要注意日 英国で最も政治に注目が集まる党大会シーズンが終了しました ここからは時間があまり残っていない Brexit 交渉の最終合意に向け アクセルを踏む時期となります EU 側もイギリスの党大会シーズン終了をじっと待っていたため ここから一気に動きが加速しそ

2. 富裕層減税で一致する共和党候補トランプ氏の提案が普通であると驚かれたのは 富裕層減税の路線が維持されたからだ それまでの選挙戦でトランプ氏は 富裕層に対しては増税を行い 減税の中心を中間層とする意向を示唆していた 最高税率の引き下げを重視してきた共和党にとって 富裕層増税は政治的に踏み込むこと

米中間選挙結果と今後の経済政策への影響-追加減税やオバマケア廃止の軌道修正は必至

溜池通信 vol. 555 Nov.14, Biweekly Newsletter

合意内容わかりやすく表にまとめてみましたが ほぼ全ての点で EU の主張が通っており メイ首相が 4 回の演説を通して訴えた内容とはかけ離れた合意となったことが判ります これだけ大幅な譲歩を迫られたということは 見方を変えれば英国政府は自分達の交渉能力を過信しすぎた結果とも言えます 今回の合意につい

一部新興国市場が動揺 アルゼンチンは前四半期から経済危機に陥っていましたが トルコでは 6 月に再選された大統領が米国と対立したこと等を契機に 8 月に通貨が急落しました ブラジルや南アフリカ インドの通貨も下落が加速する局面が見られ 中国元も緩やかに値を下げました これまでのところ個別国の問題とい

権の場合には政権発足後 13 か月目に QDR が発表されることとなる そのため 本来戦略文書の最上位文書にあるはずの NSS よりも早く QDR が公表されるという状況が発生していた ブッシュ政権最初の QDR が公表されたのは9 11テロ事件直後の 2001 年 9 月 30 日であったが 先制

ラーク便り 73 号 2017 年 2 月 28 日 小特集② トランプ大統領の誕生に揺れ動く米国の宗教 米国大統領選挙の投開票が 2016 年 11 月 8 日に行われ 共和党候補のドナルド トラン プ氏が過半数の 270 人を超える 306 人 得票数約 6,238 万票 の選挙人を獲得し当選し

民主党 2016 年度定期大会 開催要項 ( 案 ) 1 開催日 2 会場 3 大会構成 4 議案 2

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3 アジア時報その中でも最も重要だと筆者が思うのが 白人ブルーカラー層の不満や不安をトランプ氏が見事に代弁していることであろう アメリカの中の格差が次第に広がっていく中 下層からはい上がれない人々が白人ブルーカラー層である 白人ブルーカラー層が抱えているのは 置き去りになってしまったという単なる経済

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シーラ スミス博士 米外交問題評議会 CFR 日本担当シニア フェロー : 今日は 米国大統領選挙と新政権について お話したいと思います トランプ政権にとっての優先事項と それにどのように対応していくのかは まだ分かりません 新政権で誰が何を担当するのか 多くの人が関心を寄せていますが 今 私に答え

指数から読み解く日本の政策不確実性の特徴

朝日 TV 2015/4/18-19 原発政策安倍内閣は 今後の電力供給のあり方について検討しているなかで 2030 年時点で 電力の 2 割程度を 原子力発電で賄う方針を示しています あなたは これを支持しますか 支持しませんか? 支持する 29% 支持しない 53% わからない 答えない 18%

米国の TPA( 貿易促進権限 ) の行方と 今後の TPP 交渉について ( 前編 ) はじめに 昨年 11 月 中国で行われたTPP 首脳会合では 過去数か月の大きな進展を歓迎する とともに 閣僚等に対して この協定の妥結を最優先とすることを指示した などとする首脳声明が発表された この会合に先

1. 米国大統領選挙の推移と勝敗の行方前回の 6 月出張時点では その前の 3 月出張時に比べて ヒラリー クリントン候補をドナルド トランプ候補が追い上げる形で両候補の支持率の差が縮小し 僅差となっていた このため 選挙の行方を予想することは難しく 選挙当日になるまでわからないとの見方が多かった

と強調するが, 同参加者はそのようなことを言わずに, 中国は将来, 東アジアにおいて紛争が起こることを想定してその備えをしている 中国に対して挑戦者が出てきた場合, 中国は自らの国益を守るために紛争 (conflict) という手段に備えなければならない と述べた 私はこのような発言を今まで聞いたこ

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無党派層についての分析 芝井清久 神奈川大学人間科学部教務補助職員 統計数理研究所データ科学研究系特任研究員 注 ) 図表は 不明 無回答 を除外して作成した 設問によっては その他 の回答も除外した この分析では Q13 で と答えた有権者を無党派層と定義する Q13 と Q15-1, 2 のクロ

マグダラのマリアの福音書

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CONTENTS

EP-3 事件と中国の危機管理 : 2001年米中軍用機接触事故の今日的教訓

主として英語 ( 法律上の定めはない ) 5 宗教 信教の自由を憲法で保障, 主にキリスト教 6 国祭日 7 月 4 日 ( 独立記念日 ) 7 略史 年月 略史 1776 年独立宣言 1783 年英国が独立を承認 2

Transcription:

溜池通信 vol.596 Biweekly Newsletter July22, 2016 双日総合研究所 吉崎達彦 Contents ************************************************************************ 特集 : 前代未聞の 2016 年共和党大会 1p < 今週の The Economist 誌から> The dividing of America 分断されるアメリカ 7p <From the Editor> 中道政治は難しい 8p ********************************************************************************** 特集 : 前代未聞の 2016 年共和党大会 今週はオハイオ州クリーブランドで共和党大会が行われ ドナルド トランプ氏が正式に大統領候補に指名されました 副大統領候補には マイク ペンス知事 ( インディアナ州 ) が選ばれました これで来週は ペンシルバニア州ピッツバーグで民主党大会が開催され ヒラリー クリントン前国務長官が指名を受けることになる その先は間もなくリオ五輪が始まるので 米大統領選挙はしばし中休み期間となるでしょう 2016 年は驚くことの多い年ですが 何と言っても今年の米共和党には驚かされっぱなしです 今回の共和党大会も 前代未聞の事態がいくつも起きています クリーブランドの トランプ劇場 を同時進行で描いてみました 共和党 後継者決定ルール の変容 予備選挙で意外な大統領候補者を指名するのは 普通は民主党の専売特許である 史上初のカトリック信者大統領 ( ケネディ ) も 史上初の黒人大統領 ( オバマ ) も それから州知事を 1 期やっただけのピーナッツ畑の農夫さん ( カーター ) という例もあった 逆に共和党側は番狂わせが少ない 少なくとも 20 世紀まではそうであった 第 42 代ビル クリントン大統領の選挙参謀を務めたディック モリスは 回顧録 オーバル オフィス の中で 共和党王朝の 後継者決定ルール をこんな風に説明している 1 2 予備選で 2 人が激戦となったときは 勝った側が大統領選に挑む それで失敗した時は 2 位だった候補者が次の機会に挑戦する 1

恐るべきことに この 2 つの法則だけで過去の共和党の候補者選びのほとんど説明がつ いてしまうのである 1976 年 : 予備選でフォード大統領とレーガン知事 ( カリフォルニア州 ) が対立してフォードが勝利 ( 法則 1) だがフォードはカーター元知事( ジョージア州 ) に負ける 1980 年 : 今度はレーガンが候補者になり ( 法則 2) 大統領に当選して 2 期務める 1988 年 : ブッシュ Sr. 副大統領がドール上院議員 ( カンザス州 ) と争って指名を得る ( 法則 1) そのまま民主党のデュカキス知事( マサチューセッツ州 ) を破って大統領に 1992 年 : ブッシュ Sr. 大統領がクリントン知事 ( アーカンソー州 ) に敗北 1996 年 : ドール上院議員が候補者になるが ( 法則 2) 返り討ちに遭う 2000 年 : ブッシュ Jr. 知事 ( テキサス州 ) とマッケイン上院議員 ( アリゾナ州 ) の対決になり ブッシュが勝つ ( 法則 1) 本選ではゴア副大統領を破って大統領を 2 期務める 2008 年 :2000 年にブッシュ Jr. に敗れたマッケインの出番 ( 法則 2) ロムニー元知事 ( マサチューセッツ州 ) を破って候補者に 本選ではオバマ上院議員に敗れる 2012 年 : 前回敗れたロムニーの出番 ( 法則 2) 本選でオバマに敗れる 2016 年 : 今まで全く無関係だったトランプ氏が候補者に つまり共和党は 大統領候補者の 正統性 を重んじる伝統がある 端的に言えば 前回の予備選における次点候補者 の地位が高い それが多少 年を取っていても問題はなくて 現にレーガン (69 歳 ) ドール(72 歳 ) マッケイン(72 歳 ) といった高齢者を本選挙に送り出している こうしてみると 2016 年予備選の異常さがよくわかる 本来なら今年の共和党候補者は 2012 年にロムニー候補を苦しめた相手であるべきだった しかるに 2012 年予備選は候補者が乱立し ギングリッチ元下院議長やロン ポール下院議員 サントラム元上院議員などがいたとはいえ 皆が認めるような ナンバーツー が不在であった ということは 2016 年の共和党は最初から正統な 後継者 を欠いていたことなる 今日の異変は 実は長い時間をかけて用意されたものだったのかもしれない ドナルド トランプ氏は過去の共和党予備選挙に出馬したことはなく それどころか共和党員でさえなかった なおかつ一切の公職に就いたことがない 政治経験皆無ということであれば 第 34 代のアイゼンハワー大統領の前例があるが こちらは第 2 次世界大戦の英雄であって国民的な人気があった ところが 2016 年共和党予備選においては 経営者兼テレビタレントのトランプ氏が ベテランから若手までのプロ政治家たちを相手に終始優勢に選挙戦を展開し 史上最高の得票数で勝利してしまった いわば単身で歴史ある政党を乗っ取ってしまったわけである 今回の党大会は トランプ氏の勝利を確定するセレモニーであった 2

クリーブランドの異様な党大会 共和党大会が開催されたのはオハイオ州クリーブランド市である エリー湖ほとりの水運で街が開け ミネソタの鉄鉱石とアパラチア炭田を結びつけて製造業が繁栄し かつては全米第 5 位の都市であったこともある それが 1960 年代以降は重工業の退潮とともに衰退し The Mistake on the Lake ( 湖上の過ち ) などと呼ばれるようになる 1 今週の共和党大会も これと同じ名前を呈されるかもしれない 直前に公表されたスケジュールを見るだけでも これがいかに異様な大会であるかが浮かび上がってくる 共和党大会のスピーカーたち (* 青色は予備選の対立候補 藍色は大物政治家 赤色はトランプ一家 ) 7/18 Monday "Make America Safe Again": Duck Dynasty star Willie Robertson, former Texas governor Rick Perry, Navy SEAL Marcus Luttrell, actor Scott Baio, Pat Smith (mother of Benghazi victim Sean Smith), Battle of Benghazi veteran Mark Geist, Battle of Benghazi veteran John Tiegen, Kent Terry and Kelly Terry-Willis (siblings of Brian Terry, killed while patrolling the U.S. border), actor Antonio Sabato, Jr., immigration reform advocate Mary Ann Mendoza, immigration reform advocate Sabine Durden, immigration reform advocate Jamiel Shaw, Rep. Michael McCaul (R-TX), Sheriff David Clarke, Rep. Sean Duffy (R-WI), U.S. Senate candidate Darryl Glenn, Sen. Tom Cotton (R-AR), Karen Vaughn (mother of fallen U.S. Seal Aaron Carson Vaughn), Sen. Jeff Sessions (R-AL), former NYC mayor Rudy Giuliani, Melania Trump( 妻 ), Lt. Gen. Michael Flynn (ret.), Sen. Joni Ernst (R-IA), veterans' advocate Jason Beardsley, Rep. Ryan Zinke (R-MT) 7/19 Tuesday "Make America Work Again": RNC Co-Chair Sharon Day, UFC President Dana White, Gov. Asa Hutchison (R-AR), Arkansas Attorney General Leslie Rutledge (R), Former Attorney General Michael B. Mukasey, Businessman Andy Wist, Sen. Ron Johnson (R-WI), NRA Lobbyist Chris Cox, LPGA Golfer Natalie Gulbis, Senate Majority Leader Mitch McConnell (R-KY), Speaker Paul Ryan (R-WI), House Majority Leader Kevin McCarthy (R-CA), Gov. Chris Christie (R-NJ), Tiffany Trump( 次女 ), Trump Winery GM Kerry Woolard, Donald Trump, Jr.( 長男 ), Sen. Shelley Moore Capito (R-WV), Ben Carson, actress Kimberlin Brown 7/20 Wednesday "Make America First Again": Radio host Laura Ingraham, businessman Phil Ruffin, Florida Attorney General Pam Bondi (R), astronaut Eileen Collins, businesswoman Michelle Van Etten, Kentucky State Senator Ralph Alvarado, Jr. (R), Pastor Darrell Scott, businessman Harold Hamm, Gov. Scott Walker (R-WI), Trump family personal assistant Lynne Patton, Sen. Marco Rubio (R-FL), Sen. Ted Cruz (R-TX), Eric Trump( 次男 ), Former Speaker Newt Gingrich and his wife Callista, Gov. Mike Pence (R-IN)= 副大統領候補 7/21 Thursday "Make America One Again": Motivational speaker Brock Mealer, Rep. Marsha Blackburn (R-TN-7), Gov. Mary Fallin (R-OK), National Diversity Coalition for Trump member Dr. Lisa Shin, RNC Chairman Reince Priebus, Evangelical leader Jerry Falwell, Jr., businessman Peter Thiel, businessman Tom Barrack, Ivanka Trump( 長女 ), Donald Trump = 大統領候補 1 クリーブランド市の名誉のために付け加えると 近年では都市再生の努力が成果を挙げて Comeback City とも呼ばれるようになっている ちなみに来週 民主党大会が開催されるペンシルバニア州ピッツバーグも ほとんど同じような歴史と評価をたどっている 3

まず ブッシュ一家が誰一人顔を出していない 2008 年の候補者であったマッケイン上院議員や 2012 年のロムニー元知事など 党の重鎮が姿を見せない さらに全米から ゲストを迎える立場である地元オハイオ州のケイシック知事も居ない 事前には 政治家が少ない分だけ 芸能人やスポーツ選手を招く という噂も流れたが それにしたって 大物 は呼べなかったようである ( 前回の 2012 年大会ではクリント イーストウッド監督が演説している ) 逆に目立つのはトランプ一家である 大統領候補の妻が登場するのは 毎度おなじみの お約束 だが それも 演説の盗作疑惑 でミソを付けてしまった 子どもたちも総出演で それも長男 長女 次男の 3 人は The Trump Organization 社の役員であるからいいとして 次女のティファニーなどは 22 歳のモデルである ( 美人だが ) 加えて トランプ関連企業の 使用人 と思しき人物までノミネートされている これだけ ファミリー優先 では 党の結束を強めることなどほとんど不可能ではないか 案の定 3 日目に壇上に立ったテッド クルーズ上院議員は 最後まで トランプ支持 を明確にしなかった 2 そしてマルコ ルビオ上院議員は欠席し ビデオでの出演となった 討論会の席上などで Lying Ted ( 嘘つきテッド ) とか Little Marco ( ちびマルコちゃん ) などと何度も呼ばれた恨みは 簡単に消えるものではないのであろう 共和党内の亀裂を修復することは 容易なことではないのである プラットフォームも苦心の調整作 トランプ候補があまりに無茶な公約を乱発したために ( そしてそれらがウケてしまったために ) 党としての政策綱領(Platform) をどうまとめるかが至難の業となった 3 PDF ファイル 58 ページを拾い読みすると 突っ込みどころが満載で面白い 以下 注目度の高い政策をピックアップしてみよう * 通商政策 (A Winning Trade Policy P2) 自由貿易反対 とか保護主義を などとは言っておらず 国益に資するような通商交渉をしろ (We need better negotiated trade agreements that put America first) とだけ言っている TPP という言葉は 1 回も使われていない ただし最後の 1 行に Significant trade agreements should not be rushed or undertaken in a Lame Duck Congress. ( 重要な通商合意はレイムダック議会で性急に諮るべきではない ) とある点は注意が必要だ 大統領選終了後の 12 月に サクッと TPP 批准 という期待は どうやら望み薄のようである 2 Cruz Control は失敗したが トランプ氏は No big deal!! ( 構わん!) と大人のツィートをしている 3 https://www.gop.com/the-2016-republican-party-platform/ 4

* 移民政策 (Immigration and the Rule of Law P25-26) 前段部分でテロや麻薬 犯罪組織などのことを強調し だから南の国境に壁を作ることを支持する (That is why we support building a wall along our southern border and protecting all ports of entry.) と言っている メキシコ とは特定しておらず もちろん カネを払わせる なんて下品なことはもちろん言及していない さらに後段の外交政策に関する部分では 妙にメキシコを持ち上げる部分があったりして面白い (The Mexican people deserve our assistance as they bravely resist the drug cartels that traffic in death on both sides of our border.) さすがに気を遣っているのであろう * 規制政策 (Regulation: The Quiet Tyranny P27-28) 主に規制緩和の必要性を述べているのだが 環境規制 医療規制などに続いて 金融規制も槍玉にあげている (The Dodd-Frank law, the Democrats legislative Godzilla, is crushing small and community banks and other lenders.) ドッド フランク法は 民主党が作ったゴジラ だそうである ところがその後に突然 われわれはグラス スティーガル法を復活させる と (We support reinstating the Glass-Steagall Act of 1933 which prohibits commercial banks from engaging in high-risk investment.) と来る 論理矛盾もいいところである おそらく 民主党内で金融規制強化の論陣を張っていたバーニー サンダース候補の支持票を取り込むために 後から唐突に追加したのであろう こうしておけば 本選挙では ヒラリーはウォール街の手先だ! と非難することができるという思惑である * アジア政策 (U.S. Leadership in the Asian Pacific P48-49 ) 共和党のプラットフォームでは アジア太平洋地域の同盟国の名を挙げて謝意を述べるのが 吉例 となっている 今年は treaty alliances with Japan, South Korea, Australia, the Philippines, and Thailand. という順序で いつも通り日本が先頭に来ている もちろん 駐留経費をもっと払え! などとは書いていない その後の部分では 台湾に関する記述が 23 行も続いている 中国との衝突があった際には 米国は台湾関係法に基づいて 自衛する台湾を助ける (the United States in accordance with the Taiwan Relations Act, will help Taiwan defend itself.) など こういうときのお決まりの文句 ( ただし最近はあまり聞かなかった ) が並んでいる その後の部分で中国について触れているが 言葉遣いが非常に厳しい the cult of Mao revived. 毛沢東のカルトが復活した とか The complacency of the Obama regime has emboldened the Chinese government and military to issue threats of intimidation throughout the South China Sea オバマ政権の怠慢さにより 中国政府と軍は南シナ海全体を恫喝している などと喧嘩を売っている こういう過激な文言が最終稿に残っているということは たぶん十分な時間がなくて推敲の機会が少なかったのであろう 5

共和党とトランプは折り合えるのか 以上 トランプ候補の無理目な公約に対し 政策綱領はギリギリのところで現実と折り合いを付けようとしている おそらくは党主流派が目を光らせていて プラットフォーム起草チームが調整に汗を流したのであろう そしてトランプ氏自身は たぶんこんな文書にはいちいち目を通していないに違いない トランプ氏という型破りな人物が 歴史あるリンカーンとレーガンの政党の候補者に収まるためには ほかにもさまざまな努力が必要であった マイク ペンス知事を副大統領に指名したこともそのひとつであろう トランプ氏自身は戦友 (?) であるクリスティー知事に傾いていたようだが それでは共和党本流派とのパイプが作れなくなってしまう ここは是非 下院議員 12 年の経歴があり ライアン下院議長との関係が良く さらに共和党への大口献金者であるコッチ兄弟ともつながりを持つペンス氏である必要があった 年齢バランス ( トランプ氏 70 歳に対して 58 歳 ) 地域バランス ( 中西部の製造業州であるインディアナ出身 ) なども申し分ない ついでに言えば あらゆる面でユニークな選挙戦を展開してきたトランプ氏が 意外とまっとうな副大統領候補選びをした ことも 党内を安心させる効果があったことだろう もっとも 党大会の最終日である 21 日に行われた肝心の大統領候補受諾演説を ユーチューブで実際に聞いてみると グローバリズムからアメリカニズムへ TPP で米国は外国政府の支配下に置かれる 米国が防衛する国々に対して相応の負担を求める 国境に巨大な壁を建設する などと いつもの通りの言いたい放題であった 4 党との折り合いをつけるために 持論を曲げるつもりはさらさらなさそうだ そしてまた 彼自身はこの路線で人気を得てきたのであるから 今さら党に遠慮する理由はないのである こうしてみると 今の共和党を結束させることができるのは 唯一 ヒラリーには勝たせたくない という共通点だけであろう 序盤戦で予備選挙をリタイアしたスコット ウォーカー知事 ( ウィスコンシン州 ) が 3 日目の演説で述べたように トランプ氏以外への投票は ヒラリー クリントンへの投票だ という理屈である 同じ理屈は民主党側にもあって つくづく 2016 年は嫌われ者同士の対決なのである とはいえ 2016 年選挙が終わった ( たぶん民主党が勝った ) 後は 共和党は分裂が避けられないのではないだろうか 1 共和党主流派はライアン下院議長などを中心に党の再生を図ろうとするが 2トランプ支持者たちはなおも勢力を維持し どうかすると長女イヴァンカ トランプを次の候補者に担ごうとし 3 保守派テッド クルーズは 2020 年に向けて我が道をゆく といった未来図が浮かんでくる トランプ劇場 は そう簡単には終わってくれそうには思えない 4 https://www.youtube.com/watch?v=bxmqieszyp0 6

< 今週の The Economist 誌から> The dividing of America Cover story 分断されるアメリカ July 16 th 2016 * The Economist 誌がカバーストーリーでトランプ批判を展開するのはこれが何回目か しかるにトランプ支持者には まったく届いていないのでありましょう < 抄訳 > 米国にまた朝が来る から イエス ウィキャン まで 米大統領選挙は楽観主義が基調であった 2016 年は様子が違い 悲観に包み込まれている 白人警官がダラスで黒人に狙撃され 黒人による抗議運動が逮捕者を出す 経済については左右の政治家たちが 米国の資本主義は身勝手なエリートに操作され 普通の人々を救えないと訴えている 問題はあるにせよ この国の繁栄と平和と人種差別は以前より改善している 真の脅威は国民的怒りに火をつけ クリーブランドの党大会で共和党候補者としての指名を受けるドナルド トランプにある 11 月に勝っても負けても 米国を変えてしまいかねない 陰鬱な評価と実体との落差は 経済において極まっている 景気拡大は史上 4 番目の長さで 株価は史上最高値 失業率は 5% 以下で中央値の賃金もようやく上昇し始めた そして格差とグローバル化に取り残された労働者の問題は 今に始まったことではない 人種問題はむしろ前進している 1995 年の調査でさえ 異人種間結婚を支持する米国民は半分だけだった 今ではそれが 9 割となり 結婚の 10 件に 1 件は異民族間である 非白人が郊外に移り住むようになり 今では溶け合っている ところがオバマ大統領が当選した 2008 年以降 白人と黒人の関係が良好とする意見は 68% から 47% に減っている 現状と認識のギャップはどこから来るのか 2011 年には白人と非白人の子どもの数はほぼ同じだったが 白人人口の高齢化に伴って 2045 年には半数を割り込む見込みである 建国から約 200 年間は 欧州の白人の子孫が社会の 8~9 割を占めていたのだが 人口動態の不安は政治の党派性によって強化される 二大政党の支持者は互いにほとんど重ならない だったら支持者を怒らせる方が得票率は上がる これにトランプ流の虐めが加わる 彼が大統領になれば打撃は大きい 通商協定を破棄して米国に雇用を取り戻すという中身は空っぽだ メキシコ国境の壁は作れず 1100 万人の不法移民を追い出すこともできない これらの公約が守れなくても すでに米国の評判は地に堕ちている トランプ政権誕生の最大の懸念は 自制心が乏しく短気な人物による決定が国家安全保障問題で下されることだ 世界最強の陸海空軍が 核兵器とともにその指揮下に入る ブックメーカーによればトランプの勝率は 3 割程度で これは英国の EU 離脱のときに近い 負けたとしても打撃は小さくない 既にメキシコ人やイスラム教徒 女性 独裁者たちとの関係を悪化させている 過去の歴史が示すところでは 党の伝統的価値観に挑戦した候補者はしばしば党の流れを変えている ゴールドウォーターは 1964 年に大敗したが 共和党は後にその政策綱領を引き継いだ 1972 年のマグガバンも同様である 7

トランプ氏の成功から得られる教訓は 小さな政府と社会的保守主義は予備選ではもはや人気がなく 21 世紀型のリアリティ TV や SNS に沿ったトランプ流ポピュリズムには勝ち目がないことだ 彼が指名を受けるのは共和党が袋小路に入ったことを意味する トランプ候補への一票は現行システムへの抗議を意味する それで何を失うかを問う有権者も居るだろう それは 6 月 23 日の英国 EU 離脱投票と同じ構図である だが 2016 年の米国は平和で繁栄し 人種間の宥和も進んでいる だからこそ恐ろしい <From the Editor> 中道政治は難しい 前回の 6 月 24 日号 Brexit: 開票速報を聞きながら もそうでしたが 今週も同時進行の共和党大会を横目で見ながらの執筆となりました 疲れますけれども 本誌としてはこれを取り上げないわけにいきませんよね つい先ほどまで トランプ氏の受諾演説を延々と聞いておりました 70 歳とは言え あれだけテンションの高い演説を あんなに長時間にわたって続けるわけですから 気力 体力ともに敬服するほかはありません ただし内容的には明らかな間違いで あの通りのことをやったら米国は確実におかしくなるでしょう 保護主義はいけませんし 壁だって作るべきではありません ところが聴衆は歓呼で応え USA USA という合唱が何度も起きました 聞いていて どんどん憂鬱になってしまいますな とはいえ これこそが同時代の米国政治の最前線である トランプはどうせ負けるだろうから ほっといていいよ などと言ってもいられない 米大統領選挙に執心し続けてきた本誌としても とことん付き合うほかはありません ところで今週は 刊行されたばかりの ビル クリントン ( 西川賢著 / 中公新書 ) を読みました レーガン ( 村田晃嗣 / 同 ) が 1980 年代を愛情込めて描いていたように 90 年代を懐かしく思い起こさせてくれる好著です この西川氏の指摘が面白い 90 年代のクリントン政権は 米国経済に未曽有の好況をもたらし 現実路線の外交でも一定の成果を挙げた しかるにクリントン大統領の中道政治が成功し過ぎたことで 21 世紀の民主党は左に旋回してしまう その延長に現在のオバマ政権があり 本来は ひとつの米国 を目指していたはずなのに イデオロギー的な分断をより激しくしてしまった 実は同じことが共和党側でも起きていた 1950 年代のアイゼンハワー大統領による中道政治が成功を収めたために その後の共和党の保守化路線が始まっている 1964 年には保守派のゴールドウォーター候補が大敗し それが後年のレーガン政権につながっていく 実は左右対称形のメカニズムが働いていたというわけです 米国政治の党派色の広がりについては メディアの変容から選挙区割りの問題までいろんな理由付けが行われていますが いやいや 中道路線の成功を定着させるのは意外と難しい それだけのことですよ と言われると これはもう脱帽するほかはありません 8

本書の終章は この激しい党派対立の結果 政治は行き詰まりを迎え アメリカの民主主義は危機に瀕しているといってよい と結論しています 眼の前のトランプ現象は その表れということになる さて これから先はどうすればいいのか 今後 共和党が分裂して第 3 政党が誕生するときが 事態解決の糸口を提供してくれるような予感がしています ピンチはチャンス トランプ現象が米国政治を救う はてさて そんなうまい話になりますかどうか * 次号は 2016 年 8 月 5 日 ( 金 ) にお送りします 編集者敬白 本レポートの内容は担当者個人の見解に基づいており 双日株式会社および株式会社双日総合研究所の見解を示すものではありません ご要望 問合わせ等は下記あてにお願します 100-8691 東京都千代田区内幸町 2-1-1 飯野ビル http://www.sojitz-soken.com/ 双日総合研究所吉崎達彦 TEL:(03)6871-2195 FAX:(03)6871-4945 E-MAIL: yoshizaki.tatsuhiko@sojitz.com 9