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本マニュアルの作成に当たっては 学術論文 各種ガイドライン 厚生労働科学研究事業報告書 独立行政法人医薬品医療機器総合機構の保健福祉事業報告書等を参考に 厚生労働省の委託により 関係学会においてマニュアル作成委員会を組織し 社団法人日本病院薬剤師会とともに議論を重ねて作成されたマニュアル案をもとに 重篤副作用総合対策検討会で検討され取りまとめられたものである 日本消化器病学会マニュアル作成委員会 千葉勉松本譽之樋口和秀安藤朗久松理一渡辺憲治 京都大学大学院消化器内科学教授兵庫医科大学内科学下部消化管科教授大阪医科大学第 2 内科教授滋賀医科大学大学院感染応答免疫調節部門教授慶應義塾大学医学部消化器内科専任講師大阪市立大学医学部消化器内科講師 ( 敬称略 ) 社団法人日本病院薬剤師会 飯久保尚 東邦大学医療センター大森病院薬剤部部長補佐 井尻好雄 大阪薬科大学臨床薬剤学教室准教授 大嶋繁 城西大学薬学部医薬品情報学講座准教授 小川雅史 大阪大谷大学薬学部臨床薬学教育研修センター実践医療 薬学講座教授 大濵修 福山大学薬学部医療薬学研究部門教授 笠原英城 社会福祉法人恩賜財団済生会千葉県済生会習志野病院副 薬剤部長 小池香代 名古屋市立大学病院薬剤部主幹 後藤伸之 名城大学薬学部医薬品情報学研究室教授 小林道也 北海道医療大学薬学部実務薬学教育研究講座准教授 鈴木義彦 国立病院機構東京医療センター薬剤科長 高柳和伸 財団法人倉敷中央病院薬剤部長 濱 敏弘 癌研究会有明病院薬剤部長 林 昌洋 国家公務員共済組合連合会虎の門病院薬剤部長 1

( 敬称略 ) 重篤副作用総合対策検討会 飯島正文 昭和大学病院院長 皮膚科教授 池田康夫 早稲田大学理工学術院先進理工学部生命医科学教授 市川高義 日本製薬工業協会医薬品評価委員会 PMS 部会委員 犬伏由利子 消費科学連合会副会長 岩田誠 東京女子医科大学病院医学部長 神経内科主任教授 上田志朗 千葉大学大学院薬学研究院医薬品情報学教授 笠原忠 慶應義塾常任理事 薬学部教授 金澤實 埼玉医科大学呼吸器内科教授 木下勝之 社団法人日本医師会常任理事 戸田剛太郎 財団法人船員保険会せんぽ東京高輪病院名誉院長 山地正克 財団法人日本医薬情報センター理事 林 昌洋 国家公務員共済組合連合会虎の門病院薬剤部長 松本和則 獨協医科大学特任教授 森田寛 お茶の水女子大学保健管理センター所長 座長 ( 敬称略 ) 2

本マニュアルについて 従来の安全対策は 個々の医薬品に着目し 医薬品毎に発生した副作用を収集 評価し 臨床現場に添付文書の改訂等により注意喚起する 警報発信型 事後対応型 が中心である しかしながら 1 副作用は 原疾患とは異なる臓器で発現することがあり得ること 2 重篤な副作用は一般に発生頻度が低く 臨床現場において医療関係者が遭遇する機会が少ないものもあることなどから 場合によっては副作用の発見が遅れ 重篤化することがある 厚生労働省では 従来の安全対策に加え 医薬品の使用により発生する副作用疾患に着目した対策整備を行うとともに 副作用発生機序解明研究等を推進することにより 予測 予防型 の安全対策への転換を図ることを目的として 平成 17 年度から 重篤副作用総合対策事業 をスタートしたところである 本マニュアルは 本事業の第一段階 早期発見 早期対応の整備 として 重篤度等から判断して必要性の高いと考えられる副作用について 患者及び臨床現場の医師 薬剤師等が活用する治療法 判別法等を包括的にまとめたものである 記載事項の説明 本マニュアルの基本的な項目の記載内容は以下のとおり ただし 対象とする副作用疾患に応じて マニュアルの記載項目は異なることに留意すること 患者の皆様へ 患者さんや患者の家族の方に知っておいていただきたい副作用の概要 初期症状 早期発見 早期対応のポイントをできるだけわかりやすい言葉で記載した 医療関係者の皆様へ 早期発見と早期対応のポイント 医師 薬剤師等の医療関係者による副作用の早期発見 早期対応に資するため ポイントになる初期症状や好発時期 医療関係者の対応等について記載した 副作用の概要 副作用の全体像について 症状 検査所見 病理組織所見 発生機序等の項目ごとに整理し記載した 3

副作用の判別基準( 判別方法 ) 臨床現場で遭遇した症状が副作用かどうかを判別 ( 鑑別 ) するための基準 ( 方法 ) を記載した 判別が必要な疾患と判別方法 当該副作用と類似の症状等を示す他の疾患や副作用の概要や判別 ( 鑑別 ) 方法について記載した 治療法 副作用が発現した場合の対応として 主な治療方法を記載した ただし 本マニュアルの記載内容に限らず 服薬を中止すべきか継続すべきかも含め治療法の選択については 個別事例において判断されるものである 典型的症例 本マニュアルで紹介する副作用は 発生頻度が低く 臨床現場において経験のある医師 薬剤師は少ないと考えられることから 典型的な症例について 可能な限り時間経過がわかるように記載した 引用文献 参考資料 当該副作用に関連する情報をさらに収集する場合の参考として 本マニュアル作成に用いた引用文献や当該副作用に関する参考文献を列記した 医薬品の販売名 添付文書の内容等を知りたい時は 独立行政法人医薬品医療機器総合機構の医薬品医療機器情報提供ホームページの 添付文書情報 から検索することが出来ます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬の副作用により被害を受けた方への救済制度については 独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページの 健康被害救済制度 に掲載されています (http://www.pmda.go.jp/) 4

重度の下痢 英語名 :severe diarrhea A. 患者の皆様へ ここでご紹介している副作用は まれなもので 必ず起こるというものではありません ただ 副作用は気づかずに放置していると重くなり健康に影響を及ぼすことがあるので 早めに 気づいて 対処することが大切です そこで より安全な治療を行なう上でも 本マニュアルを参考に 患者さんご自身 またはご家族に副作用の黄色信号として 副作用の初期症状 があることを知っていただき 気づいたら医師あるいは薬剤師に連絡してください 下痢とは通常よりも水分が多い便や 形のない便が 頻回に排出される状態をいいます 下痢はさまざまな原因によって起こりますが 薬が原因となって起こる場合もあります 薬による下痢は 服用後すぐに起こる急性的な下痢と 服用後 1~2 ケ月経過してから起こる遅発性の下痢がありますが 一般には薬を使用し始めて 1~ 2 週間以内に起こることが多いといえます さまざまな薬が予期しない下痢を起こすことがありますが 一時的なものがある一方で 放置すると重症化するものもあります なかでも 抗がん剤 抗菌薬 免疫抑制薬や一部の消化器用薬は重度の下痢を引き起こすことがあるので 注意が必要です 何らかの薬を服用していて 次のような症状が継続して起こる場合 または指示された 下痢止め を服用しても症状が改善しない場合には 放置せずに ただちに医師又は薬剤師に連絡して下さい 便が泥状か 完全に水のようになっている 便意切迫またはしぶり腹がある さしこむような激しい腹痛がある トイレから離れられないほど頻回に下痢をする 便に粘液状のものが混じっている 便に血液が混じっている など 5

1. 薬剤による重度の下痢とは? 薬剤性の下痢とは 治療のために用いた薬によって腸の粘膜が炎症を起こす 粘膜に傷がつく 腸管の動きが激しくなる 腸内細菌のバランスを著しく変化させることなどが原因になって引き起こされる下痢を言います 下痢は 異常に水分の多い便や 形のない便が頻度を増して排出される状態を言います 下痢の持続期間が 2 週間以内なら急性 2 ~4 週間なら持続性 4 週間を超える場合は慢性と定義されます 急性下痢症の 90% 以上は感染症が原因ですが 感染症でない場合の原因のうち最も多いのは薬の副作用によるものです 一方 慢性下痢症の原因のほとんどは非感染性であり さまざまな原因の中には薬が誘引になっている場合があります 原因になる医薬品はたくさんありますが 重度の下痢を起こす代表的なものとして抗がん剤 ( イリノテカン シタラビン メトトレキサート フルオロウラシルなど ) 抗菌薬 ( ペニシリン系 セフェム系など ) 免疫抑制薬 一部の消化器用薬 ( プロトンポンプ阻害薬 ミソプロストール ) 痛風発作予防薬 ( コルヒチン ) などがあります 薬の種類にもよりますが 一般に投与開始後 1~2 週間以内に多くは発症します しかし 抗がん剤では 投与中あるいは直後から 24 時間以内に発症する早発性の下痢と 投与開始後数日から 10 日くらい経ってから起こる遅発性の下痢があります また 複数の抗がん剤の組み合わせ方によっては 重度の下痢が起こりやすくなる場合があります 高齢者 腎機能や肝機能障害者 体が弱っている時などにはこれらの副作用が起こりやすいので注意が必要です 6

2. 早期発見と早期対応のポイント 薬による治療を受けている間に 便が泥状か 完全に水のようになっている 便意切迫またはしぶり腹がある さしこむような激しい腹痛がある トイレから離れられないほど頻回に下痢をする 便に粘液状のものが混じっている 便に血液が混じっている などの症状が継続する場合 薬による下痢の可能性を疑う必要があります 放置せずに医師 薬剤師に連絡をしてください 受診する際には 使用中の薬 ( 内服 わかる場合は注射も ) の種類と量 使用し始めてからの期間 症状の種類や程度と持続期間などを医師に知らせてください 下痢が継続すると脱水症状を起こします 水分を多めにとるようにしてください 重度の下痢を放置しておくと 体液のバランスがくずれ 口が渇き 尿の量が減り 重症になると脈が速く 血圧が低下するなどの全身症状があらわれ さらに進むと意識が混濁する ( いつもと反応が違う 無気力など ) などの重篤な症状を呈するようになります とくに 高齢者や乳幼児 小児では危険です すみやかに受診する必要があります 医薬品の販売名 添付文書の内容等を知りたい時は 独立行政法人医薬品医療機器総合機構医薬品医療機器情報提供ホームページの 添付文書情報 から検索することができます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬の副作用により被害を受けた方への救済制度については 独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページの 健康被害救済制度 に掲載されています (http://www.pmda.go.jp/) 7

B. 医療関係者の皆様へ 1. 早期発見と早期対応のポイント 重篤な下痢を惹起する薬物としては 抗がん剤 抗菌薬 免疫抑制薬 一部の代謝拮抗剤 一部の消化器用薬などがあげられる 一般に 抗がん剤や免疫抑制薬などは原疾患の病状が重篤であったり 治療により免疫力の低下がみられたり 高齢者であったりするなど 全身状態が必ずしも良好とは言えない場合が多く 下痢による循環動態や電解質の異常をきっかけとして全身状態の悪化を引き起こすことも少なくない また 化学療法や造血幹細胞移植を要するような状態では複数の抗がん剤や放射線治療を併用することも多く それぞれのレジメン毎の特性をよく知り 重篤な下痢を早期に予知 予防するなどの方策が重要である 抗がん剤による治療に関して American Society of Clinical Oncology(ASCO) の制定した がん治療に関連する下痢の治療に関するガイドライン 1) の推奨ステートメントでは イリノテカン / フルオロウラシル / ロイコボリン (IFL) レジメンあるいは その他の強力な抗がん剤治療を行う場合 特に第 1 クールでの患者の詳細なモニターが重要と記載している 高齢者では少なくとも 1 週間ごとに消化器毒性 ( 症状や検査データ ) をチェックすることが推奨される また 過去にがん治療に関連する下痢を経験した患者には より積極的な対応が必要である さらに IFL 治療で下痢が発生した場合には 24 時間以上下痢などの症状が消失したことを確認するまで 抗がん剤の投与は中止するよう推奨している 2. 副作用の好発時期薬物の種類によるが 一般に投与開始後 1~2 週間以内に発症する場合が多いが 抗がん剤などでは数クール経過後に起こることもある 薬物と投与法による特徴を知っておくことが重要である 抗がん剤では 投与早期に発症するタイプがあり この中にも投与中あるいは投与直後に発症する早発型ものと 24 時間以後から発生する遅発型がある 遅発する例には 投与後時間をおいて (1~2 週間以上たってから ) 発症するタイプもある また 抗がん剤の投与プロトコールにより ( 休薬期間をおいて投与する場合 )1 クール目から発症しやすい薬剤と数クール 8

目から発症しやすいタイプとがある フルオロウラシルとイリノテカンの組み合わせにおいて高頻度に発現することが知られており 特にフルオロウラシル / ロイコボリンの大量静注を行うレジメンでは重篤な下痢が起こりやすいことが報告されている 1) また このような治療に放射線照射を組み合わせた場合にはさらなる注意が必要である 葉酸系のホリナートでは 1 クール目 レボホリナートでは 4~6 クール目に多いが 投与する薬剤の組み合わせにより変わる メルファランやボルテゾミブ エルロチニブ ゲフィチニブなどでも重篤な下痢の報告があり 通常 2 週間から 1 ヵ月以内の発症が多い 投与中や直後に発症する早発型の代表としては イリノテカンなどのトポイソメラーゼ阻害剤がある また プラチナ系では 投与開始後 7~14 日目に 2) フルオロウラシル系では注射薬で 1 ヵ月以内 経口薬で 2 ヵ月以上経過してからの発症が多い 一方 抗菌薬などでは数日以内の発症が多い また ジギタリス製剤やコルヒチンなどでは中毒症状として発症し 長期にわたり症状が続くこともある (1) 患者側のリスク因子一般に 高齢者 腎機能や肝機能障害などがリスク因子と言われている 抗がん剤や免疫抑制薬などを使用する場合では 原疾患あるいは治療薬による免疫不全状態もリスク因子となる (2) 投薬上のリスク因子抗がん剤などでは 一般に複数の薬物を組み合わせた形での投与が多い 同系統の薬剤や消化管上皮細胞への障害作用を持つ薬物の同時投与あるいは放射線治療を同時に行っているケース 1) では注意が必要である さらに 同一薬物でも 経静脈投与の方が 経口投与より下痢が起こりやすいものもある また 抗がん剤の投与などで骨髄抑制や免疫抑制が起こっている状態では 菌交代現象が起こりやすいため抗菌剤の併用に関しても注視が必要である (3) 患者もしくは家族等の早期に認識しうる症状 ( 医療関係者が早期に認識しうる症状 ) 通常は 便回数の増加と便性状の変化で始まる 重度の場合には 水様便でしぶり腹となり トイレから離れられない状況になる 腹痛は伴う場合と伴わない場合がある 粘膜障害を伴うと血便がみられ 血便の程度が 9

強いことは 粘膜の障害が強いことを意味する 下痢に伴う脱水や循環不全を示唆する症状としては 粘膜の乾燥 皮膚緊張の低下 乏尿や濃縮尿があり 頻脈や血圧低下を呈する さらに進むと意識混濁 ( いつもと反応が違う 無気力など ) を呈する (4) 早期発見に必要な検査と実施時期最も重要なことは 感染性腸炎や菌交代現象による腸炎との鑑別である 速やかに便培養を行う ( 抗菌薬などを投与される前が望ましい ) 必要ならウィルス学的検査 ( ノロウィルスなど ) を行う また 偽膜性腸炎 ( 詳細は 偽膜性大腸炎 のマニュアル参照 ) を疑う場合には 便中 Clostridium difficile 毒素の検査や内視鏡検査を行う 抗菌薬起因性出血性腸炎では 大腸内視鏡で深部大腸の観察が有用である 重度の下痢では 血液学検査や生化学検査 (CRP, BUN, scr や電解質 ) を行い 必要に応じて血液ガス検査を行う 3. 副作用の概要 (1) 自覚症状 下痢 ( 便中の水分量の増加 ) で始まるが 同時に便回数も増加する 重りきゅうこうじゅう症となると裏急後重 ( しぶり腹 ) の状態となり トイレから離れられなくなる 粘液便になることも多く 時には血液の混入を認めることもある 脱水症状を呈すると口渇 強い倦怠感 脱力感などが起こる また 電解質異常により手足のしびれ感などを合併することもある (2) 他覚症状下痢に伴う 脱水により皮膚緊張の低下 乾燥がみられ 重症になると血圧低下 頻脈などが起こる 通常腸雑音は亢進気味になる 感染を合併した場合は発熱を認める また 骨髄抑制などでは出血傾向などを合併することもある (3) 臨床検査下痢に特徴的な臨床検査所見はない 重篤な下痢への進展を回避するためには 脱水に伴う電解質や腎機能の変化に注意する また 炎症反応や白血球数にも注意を要するが 合併した感染や抗がん剤による骨髄抑制の影響なども受けるため総合的な判断が必要である 10

(4) 画像検査所見下痢に特徴的な画像所見はない 感染性腸炎 ( 菌交代現象によるものを含む ) では起因菌により潰瘍やびらん 発赤などの所見が認められるが 抗がん剤などにより惹起された粘膜障害がある場合では鑑別は容易ではない (5) 病理検査所見下痢に特徴的な病理所見はないが 感染性腸炎の鑑別 ( 偽膜性腸炎などの菌交代現象を含む ) や 粘膜障害の程度を推定する際に補助資料となる 移植後では 移植片対宿主病 (GVHD) との鑑別に重要である (6) 発生機序抗がん剤に由来する下痢については 1 コリン作動性による下痢と 2 腸管粘膜障害に基づく下痢がある 1 は投与後早期に起こるが 2 は数日以降に起こることが多く 薬物の直接作用や白血球減少に伴う免疫抑制による腸内フローラの変化や腸管感染症によるものと考えられている 抗菌薬による下痢は 大部分が腸内細菌フローラの変化や菌交代現象によるものである 投与後数日で発症することが多い プロトンポンプインヒビター (PPI) など一部の薬剤では 顕微鏡的腸炎 (collagenous colitis や lymphocytic colitis など ) を介しての下痢が起こりうる 免疫抑制薬などでは 免疫抑制による腸管感染 腸内フローラの変化のほか GVHD による腸粘膜障害や血栓性微小血管障害 (TMA; 免疫抑制薬そのものによる腸粘膜の毛細血管障害 ) が考えられる コルヒチンでは 乳糖分解酵素の活性低下により小腸の機能が低下し 可逆的な吸収不全の状態になり 下痢をはじめとする腹部症状が出現すると考えられている また Na,K-ATPase 活性低下による吸収抑制に加え C-GMP および Ca を介する水 電解質の分泌亢進も関与している 3,4) ミソプロストール (PGE 1 ) による下痢は 小腸に作用し 蠕動運動の亢進や水分吸収阻害によると考えられている 5) (7) 医薬品ごとの特徴フルオロウラシル注射薬では約 70% の症例が本剤投与開始から 1 ヵ月以内に発症している 投与初期から下痢が発現した場合には重篤化する恐れがあるため特に注意を要する フルオロウラシル経口薬では 2 ヵ月以上経過してから発症した例が半数を占めている 一般的にフルオロウラシルによる下痢は 持続点滴投与よりも急速静注による 1 回大量毎週投与を繰 11

り返した場合に急激で激しい症状をきたす傾向がある イリノテカン投与による下痢に関しては 前述の如く 早発性 遅発性の 2 つの機序が考えられている シスプラチンによる下痢は 7 14 日に発現することが多いとされている 葉酸系のホリナートカルシウムでは ホリナート テガフール ウラシル療法の投与開始初期 特に 1 クール目に発現する頻度が最も高いことが知られている レボホリナートでは レボホリナート フルオロウラシル療法において投与回数に依存して発現頻度が高くなり 4 6 回目に最も高くなることが知られている ゲフィチニブでは 76% の患者で最初の治療サイクルで下痢が発症していた 6) ミコフェノール酸モフェチルでは 投与 1~2 週後に起こることが多い 本剤は腎移植時などに用いられることが多く サイトメガロウィルス (CMV) 感染症や GVHD との鑑別が重要である この鑑別には C7-HRP などのウィルス抗原の検索や内視鏡による病理組織学的検索が有用である シロドシンでは 胃 小腸に存在する α 1A 受容体を遮断することによる運動亢進による下痢と考えられている 本剤は高齢者に投与されることが多いため注意が必要である 7) コルヒチンでは 急性期の治療時に急性中毒症状として コレラ様の下痢を発症することがある 通常投与量で発生する下痢は減量およびラクターゼの投与が効果的とされている ミソプロストールでは投与後 1 週間以内の発症が 70% 以上と言われており そのうち 40% は経過と共に自然軽快している (8) 副作用発現頻度参考 1 薬事法第 77 条の 4 の 2 に基づく副作用報告件数 を参照 4. 判別が必要な疾患と判別法 (1) 判別が必要な疾患感染性腸炎が最も重要である 感染性腸炎には 細菌性 ( 病原大腸菌やカンピロバクターなど ) とウィルス性 ( ノロウィルスなど ) がある また 抗菌薬投与後の症例などでは 偽膜性腸炎や出血性大腸炎が問題となる その他に虚血性腸炎 炎症性腸疾患 顕微鏡的腸炎 (collagenous colitis や lymphocytic colitis など ) やアミロイドーシスなどが鑑別上問題となる 検査所見で異常がない場合 12

には 過敏性腸症候群との判別が問題となる (2) 判別方法臨床経過 ( 合併する症状や流行状況 抗菌薬の服用状況など ) は 感染性腸炎の鑑別に重要である 疑われる場合には 培養などの微生物学的検査を行う CMV 感染を疑う場合には アンチゲネミアや内視鏡下生検組織での病理組織学的所見 ( 核内封入体の証明 ) や PCR が有用である また 血便や粘液便を伴う場合には 内視鏡検査を行い炎症性腸疾患との鑑別を行う 顕微鏡的腸炎やアミロイドーシスの鑑別には生検による病理学的検査が必要となる 5. 治療方法 (1) 治療の原則下痢において 脱水による循環障害や電解質異常 アシドーシスなどにより緊急対応が必要か否かの判断である 次に 原因となる薬物に応じて 下痢以外の副作用の発現の有無を確認する 治療にあたっての原則は 原因薬物の把握と中止 適切な補液などによる循環動態の安定 電解質異常の補正などを優先する 同時に起こりやすい他の副作用 ( 例えば抗がん剤などでは造血障害など ) に関して状態を把握し 適切な対応を行う 消化管の上皮細胞障害を伴うような症例では 下痢の長期化が予想されるため 経管栄養などを必要に応じて選択する 循環動態や電解質異常を伴わない程度の下痢 ( あるいはコントロールされた後 ) ではロペラミドなどの止瀉薬により対症的な治療が行われるが 菌交代現象などの感染の関与が考えられるケースでは止瀉薬の投与は慎重に行う方が良い ASCO のガイドラインの推奨ステートメント 1) としては グレード 1,2 の下痢で他の症状がない単純型の症例では保存的治療が選択される しかしながらグレード 3 以上の下痢あるいは中等度以上のけいれん グレード 2 以上の嘔吐 活力低下 発熱 敗血症 白血球減少 血便 脱水などの症状を伴うケースは合併症例として より綿密な観察と治療を要する (2) 予防法ペメトレキセドナトリウムなどの葉酸に関連した代謝拮抗剤では 前投薬としてビタミン B 12 葉酸の投与により下痢を含めた副作用発現率が軽 13

減されることが報告されている ( ペメトレキセドナトリウムの添付文書 警告 欄 もしくは文献 9,10) を参照 ) メルファランを前処置として用いた造血幹細胞移植の施行に際しては 腹部への追加照射を避ける 抗菌薬の長期投与を避ける等の注意が必要である 11) また 最近高用量のプロバイオティクス投与による腸内の細菌叢などの環境の改善が有用という報告もある 12) 6. 典型的症例 ゲフィチニブ 50 歳代 女性非小細胞肺癌に対してシスプラチン 塩酸ゲムシタビンを併用して ゲフィチニブ 250mg/ 日の投与を開始した 5 日目より中等度の嘔気 嘔吐が出現した 14 日目には嘔気 嘔吐が強くなり さらに水様性下痢が出現した 補液とロペラミド (2mg/ 日 7 日間 ) による治療を開始し 20 日目には下痢は回復した ホリナート テガフール ウラシル療法 60 歳代 男性直腸癌術後の局所再発と肺 肝転移に対し ホリナート テガフール ウラシル療法 ( ホリナート :75mg/ 日 テガフール ウラシル :500mg/ 日を開始した 1 クール目にグレード 2 の水様性下痢が出現した さらに治療を続けたところ 2 クール目にはグレード 3 の水様性下痢が発現 脱水傾向も出現したため 休薬および補液 臭化ブチルスコポラミン 塩酸ロペラミド等による治療を行い 数日で下痢は回復した 3 クール目以降はテガフール ウラシルを 400mg に減量にすることにより 治療継続が可能であった 7. 参考文献 1) Benson AB, Robert BA, Catalano RB, et al. Recommended guidelines for the treatment of cancer treatment-induced diarrhea. J Clin Oncol 2004,22: 2918-2926. 2) 西條長宏 ( 監 ): がん化学療法の副作用と対策 中外医学社 東京 1998, p.5 3) 岩崎良昭 小山茂樹ら. 腸管の水 電解質輸送機序に関する研究. Digestion & Absorption 1985;8:70-73 14

4) 西沢常男 西田琇太郎ら.Colchicine による消化器症状に対する lactase の効果. 診断と治療 1953; 5: 907-910 5) Rutgeerts P, et.al: Postprandial administration of prostaglandin produces less adverse effects on intestinal transit than its preprandial administration. Gastroenterology 1988; 94: A391. 6) Kris MG, Natale RB, Herbst RS, Lynch TJ Jr, Prager D, Belani CP, Schiller JH, Kelly K, Spiridonidis H, Sandler A, Albain KS, Cella D, Wolf MK, Averbuch SD, Ochs JJ, Kay AC. Efficacy of gefitinib, an inhibitor of the epidermal growth factor receptor tyrosine kinase, in symptomatic patients with non-small cell lung cancer: a randomized trial. JAMA. 2003; 290: 2149-58 7) Scofield MA, Liu F,Abel PW, Jeffes WB. Quantification of Steady State Expression of mrna for Alpha-1 Adrenergic Receptor Subtypes Using Reverse Transcription and a Competitive Polymerase Chain Reaction. J Pharmacol Exp Ther 1995; 275: 1035-42 8) Japan Clinical Oncology Group: 有害事象共通用語規準 v3.0 日本語訳 JCOG/JSCO 版 http://www.jcog.jp/doctor/tool/ctcaev3j_041027_2log.pdf 2004;18 9) Scagliotti GV, Shin DM, Kindler HL, Vasconcelles MJ, Keppler U, Manegold C, Burris H, Gatzemeier U, Blatter J, Symanowski JT, Rusthoven JJ. Phase II study of pemetrexed with and without folic acid and vitamin B12 as front-line therapy in malignant pleural mesothelioma. J Clin Oncol. 2003; 21: 1556-61 10) Vogelzang NJ, Rusthoven JJ, Symanowski J, Denham C, Kaukel E, Ruffie P, Gatzemeier U, Boyer M, Emri S, Manegold C, Niyikiza C, Paoletti P. Phase III study of pemetrexed in combination with cisplatin versus cisplatin alone in patients with malignant pleural mesothelioma. J Clin Oncol. 2003; 21: 2636-44 11) 森下剛久 堀部敬三 山田博豊 森島泰雄 ( 編 ): 造血細胞移植マニュアル第 2 版改訂新版 日本医学館 東京 2000 12) Bowen JM, Stringer AM, Gibson RJ, Yeoh AS, Hannam S, Keefe DM. VSL#3 probiotic treatment reduces chemotherapy-induced diarrhea and weight loss.cancer Biol Ther. 2007 Sep;6(9):1449-54. Epub 2007 Jun 23 15

参考 1 薬事法第 77 条の 4 の 2 に基づく副作用報告件数 ( 医薬品別 ) 注意事項 1) 薬事法第 77 条の 4 の 2 の規定に基づき報告があったもののうち 報告の多い推定原因医薬品を列記したもの 注 ) 件数 とは 報告された副作用の延べ数を集計したもの 例えば 1 症例で肝障害及び肺障害が報告された場合には 肝障害 1 件 肺障害 1 件として集計 2) 薬事法に基づく副作用報告は 医薬品の副作用によるものと疑われる症例を報告するものであるが 医薬品との因果関係が認められないものや情報不足等により評価できないものも幅広く報告されている 3) 報告件数の順位については 各医薬品の販売量が異なること また使用法 使用頻度 併用医薬品 原疾患 合併症等が症例により異なるため 単純に比較できないことに留意すること 4) 副作用名は 用語の統一のため ICH 国際医薬用語集日本語版 (MedDRA/J)ver. 12.0 に収載されている用語 (Preferred Term: 基本語 ) で表示している 年度副作用名医薬品名件数 平成 19 年度 下痢 テガフール ギメラシル オテラシルカリウム 53 ブスルファン 27 塩酸イリノテカン 20 ベバシズマブ ( 遺伝子組換え ) 16 シスプラチン 15 テガフール ウラシル 8 オキサリプラチン 8 ドセタキセル水和物 7 メシル酸イマチニブ 7 ボルテゾミブ 7 ゲフィチニブ 7 塩酸エルロチニブ 6 メルファラン 6 ペメトレキセドナトリウム水和物 6 臭化ジスチグミン 4 シロドシン 4 ミグリトール 4 フルオロウラシル 4 その他 124 合計 333 16

平成 20 年度 下痢 塩酸イリノテカン 64 塩酸エルロチニブ 60 テガフール ギメラシル オテラシルカリウム 59 セツキシマブ ( 遺伝子組換え ) 40 メルファラン 22 トシル酸ソラフェニブ 22 シスプラチン 21 テガフール ウラシル 17 ベバシズマブ ( 遺伝子組換え ) 15 フルオロウラシル 10 カペシタビン 10 ゲフィチニブ 8 デフェラシロクス 6 ボルテゾミブ 5 リンゴ酸スニチニブ 5 ランソプラゾール 5 塩酸バラシクロビル 5 ペメトレキセドナトリウム水和物 5 オキサリプラチン 5 レボホリナートカルシウム 4 パクリタキセル 4 ドセタキセル水和物 4 ブスルファン 4 その他 115 合計 515 医薬品の販売名 添付文書の内容等を知りたい時は 独立行政法人医薬品医療機器総合機構の医薬品医療機器情報提供ホームページ 添付文書情報 から検索することができます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬の副作用により被害を受けた方への救済制度については 独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページの 健康被害救済制度 に掲載されています (http://www.pmda.go.jp/) 17

参考 2 ICH 国際医薬用語集日本語版 (MedDRA/J)ver.12.1 における主な関連用語一覧 日米 EU 医薬品規制調和国際会議 (ICH) において検討され 取りまとめられた ICH 国際医薬用語集 (MedDRA) は 医薬品規制等に使用される医学用語( 副作用 効能 使用目的 医学的状態等 ) についての標準化を図ることを目的としたものであり 平成 16 年 3 月 25 日付薬食安発第 0325001 号 薬食審査発第 0325032 号厚生労働省医薬食品局安全対策課長 審査管理課長通知 ICH 国際医薬用語集日本語版 (MedDRA/J) の使用について により 薬事法に基づく副作用等報告において その使用を推奨しているところである MedDRAでは重症度は用語には含まれないため 重度の下痢 の表現を持つ用語はない 従って 下記には 下痢 を含むMedDRAのPT( 基本語 ) とそれにリンクするLLT( 下層語 ) を示す また MedDRAでコーディングされたデータを検索するために開発されたMedDRA 標準検索式 (SMQ) では 下痢 に相当するSMQは現時点では提供されていない 名称 PT: 基本語 (Preferred Term) ウイルス性下痢 PT: 基本語 (Preferred Term) 下痢 LLT: 下層語 (Lowest Level Term) 医原性下痢下痢 NOS 下痢増悪化学療法後下痢奇異性下痢機能性下痢機能性下痢 ( 痙攣性結腸による ) 急性下痢抗生物質関連下痢再発下痢浸透圧性下痢真性下痢水性下痢水様便切迫下痢泥状下痢泥状便特発性下痢軟便粘液性下痢爆発性下痢分泌性下痢 英語名 Viral diarrhoea Diarrhoea Iatrogenic diarrhoea Diarrhoea NOS Diarrhoea aggravated Diarrhoea post chemotherapy Paradoxical diarrhoea Functional diarrhoea Functional diarrhoea (due to spastic colon) Acute diarrhoea Antibiotic-associated diarrhoea Diarrhoea recurrent Osmotic diarrhoea Frank diarrhoea Watery diarrhoea Stools watery Urgent diarrhoea Mushy diarrhoea Mushy stool Idiopathic diarrhoea Loose stools Mucous diarrhoea Explosive diarrhoea Secretory diarrhoea 18

慢性下痢夜間下痢 PT: 基本語 (Preferred Term) 感染性下痢 LLT: 下層語 (Lowest Level Term) 感染源が推定される下痢感染性下痢 ( 推定 ) 中毒と関連した下痢旅行者下痢 PT: 基本語 (Preferred Term) 血性下痢 PT: 基本語 (Preferred Term) 細菌性下痢 LLT: 下層語 (Lowest Level Term) 急性細菌性下痢 PT: 基本語 (Preferred Term) 処置後下痢 LLT: 下層語 (Lowest Level Term) 術後下痢放射線下痢迷走神経切離術後下痢 PT: 基本語 (Preferred Term) 新生児下痢 PT: 基本語 (Preferred Term) 新生児感染性下痢 Chronic diarrhoea Nocturnal diarrhoea Diarrhoea infectious Diarrhoea of presumed infectious origin Infectious diarrhoea (presumed) Toxin associated diarrhoea Traveller's diarrhoea Diarrhoea haemorrhagic Bacterial diarrhoea Acute bacterial diarrhoea Post procedural diarrhoea Diarrhoea postoperative Diarrhoea post irradiation Post vagotomy diarrhoea Diarrhoea neonatal Diarrhoea infectious neonatal 19