エネルギー機能材料学特論 第 11 回目 担当 : 西野信博 A3-012 号室 nishino@hiroshima-u.ac.jp 1 プラズマ実験装置 NSTX(Princeton)
授業の内容 プラズマ計測 診断 (Plasma Diagnostics) プラズマパラメータ ( 密度, 温度など ) を調べる事, また, 調べた結果からプラズマの状態を知ることをプラズマ計測 診断という このために各種の測定方法が開発されている 計測方法の分類方法 一通りではないが,1) 何を使用して,2) 何を計るかということに尽きる 1) 何を使う?( 受動的, 能動的 ) 光, 粒子, 電磁場 ( 電極, 電磁波, 磁場 ), 2) 何を計る? 代表的なプラズマパラメータである電子密度, 電子温度, イオン密度, イオン温度 その他に, 不純物の種類と不純物量, 及びそれらのプラズマ中の分布, プラズマの流速, など 2
この授業で紹介する代表的なプラズマ計測方法 静電プローブ 電子密度 イオン密度 電子温度など 磁気プローブ プラズマ電流 磁気揺動 反磁性信号など 光計測 ドップラー幅によるイオン温度測定 T i 電磁波による計測 マイクロ波の干渉法による密度測定 n e トムソン散乱による電子温度測定 T e 3
静電プローブ 針状の金属 ( 探針という ) をプラズマに入れて 電流 電圧特性を調べるのが 静電プローブ (Langmuir Probeともいう ) といわれるものである ( 電極と同じ ) 今 プラズマ中に図のように探針が入れると プラズマ中の熱運動している電子もイオンも飛び込んでくる 単位時間当たりに探針に飛び込んでくる電子とイオンの数が計算できれば 電流値が分かる Plasma 金属 プラズマ 表面相互作用としてシースが形成されるプローブ理論は シース理論の応用である 絶縁物 4
プレシースとシースの電位分布 既に シースのところで学んだように シース端ではイオンが音速まで加速されているはずである イオンの温度は0を仮定しているから シースとプラズマとの間にイオンの加速領域 ( プレシース ) がある 図参照 プラズマの電位から測ったシース端の電位 φ 0 は ボームの条件から e 0 プローブ 2 mi v0 kt 2 2 e イオンの速度 は音速と考える v 0 シース プレシースは重要な概念であるが 位置や長さについては明確ではない プラズマ理工学入門より 5
補足 電子の流束 単位面積を持つ面に対して プラズマの片側から来る電子の流束 Φ e は 速度分布関数 f e (v) を用い v f (v) dv dv dv e ex e ex ey ez 0 ここに ve は電子のx 方向の平均速度である n e v 4 e X 注意 : 通常 正味の流束は 単位時間当たり面を通過する粒子の差し引き この場合 探針側は固体でプラズマはないと考えている イオンの場合は 速度分布ではなくシース端で音速 ( ボームの条件 ) を使用 6
探針の電位がプラズマ電位より負の場合 1 イオン電流 シース端に流れ込むイオンの電流 ボームの条件により イオンはシース端で音速 よって イオン電流密度は すると イオン電流は j is Zen ここに A はプローブのシース面積 シース端でを仮定 i kt m I j A en C A is is es s i e Zn i n es ほとんどのプローブ計測ではイオン飽和電流が測定可能である なぜなら イオン飽和電流側においては シース領域の拡大がおきにくく 電離の影響も少ないからである 7
探針の電位がプラズマ電位より負の場合 2 電子電流 プラズマの電位より負の電位をかけると 電子に対して減速電界となるため エネルギーの小さな電子から到達できなくなる この電位差に対する流入電子の変化は 電子の速度分布を反映する プラズマの電位を Vs 探針の電位を Vp とし 電子の速度分布に Maxwell-Boltzmann 分布を仮定すれば kt evp V e s ev je ene exp jesexp 2 m e kt e kt e V V V p s よって I e j A j Aexp e es ev kt e すなわち 電圧を下げると電子電流は指数関数的に減少し 最後には ほとんどの電子が追い返される この時は イオンシースが形成される 8
プローブの I-V 特性負の場合 プローブ電圧がプラズマの電位 ( スペースポテンシャル ) より低い場合の図は 以下となるはずである ev jes Aexp- kte? V<V s イオン飽和電流を基準にとり プローブ電流と電圧を方対数で表わせば 傾きより電子温度 T e が求められる また イオン飽和電流 Iis jis A enescs A で T e がわかれば C s が求められるのでが求められる n es 9
よって シース端とプラズマ中の電子密度の関係 n es シース端での電子密度 はプレシースの電位分プラズマ中の はより 小さくなる 2 mi v0 kte e 0 2 2 1 とすると nes ne exp 0.61ne 2 I en C A0.61en C A is es s e s n e 10
探針の電位がプラズマ電位より正の場合 電子電流 電子がMaxwell-Boltzmann 分布しているとして 単位面積あたりの電子電流は kte jes ene 2 me であった 電子による流束 ( 電子束 ) は 電離やその他の原子分子過程がなければ 変わらないはずである 従って 電子電流は理想的には飽和して 電圧を上げても変わらなくなる 現実には 電圧が大きくなった時にシース領域が大きくなったり また シース領域内で衝突電離が起きて シース自体が破壊される場合があり 電子電流は飽和しない場合が多い 11
イオン飽和電流 プローブに印加する電圧 ( プローブ電圧 ) を徐々に上げていき プラズマより正にすることによってプローブ表面に到達するイオンを減速させることができる 最後に イオンはほとんど来なくなるが この時 プローブの前面には電子シースが形成されている ( という ) この時のイオン電流を求めるには イオン温度 T i とし ボルツマン分布を仮定すると Vp Vs ji jisexpe kti となるはずである Φ シース領域 シース端 イオン プローブ 電子 0 X 12
単針プローブのまとめ 探針 ( プローブ ) を一本入れた単針プローブ (Langmuir Probeともいう ) の電流電圧特性は以下のような図となる これを測定すれば プラズマパラメータに関する情報が得られる すなわち プローブにかける電圧を掃引し I-V 特性を取得する 電子飽和領域は観測されにくい イオン飽和領域は観測されやすい 13
発展形 ダブルプローブ 直流放電などでは電位の基準となる電極があるが 高周波による放電などの無電極放電では バイアス電圧を加えることが困難となる場合もある そこで 複数のプローブを使用する方法が考えられた 右の図は二つのダブルプローブの場合である Plasma I プローブの面積をそれぞれA 1,A 2 電位をV 1,V 2 とすると V V1V2 V=0の時 V 1 =V 2 =V f ( 浮遊電位 floating potential) となる 今プローブ 1,2 に流れるイオン 電子電流をそれぞれ i 1+,i 1-,i 2+,i 2- とすると i i i i 1 1 2 2 0 I i i ( i i ) 2 2 1 1 プラズマのポテンシャルを V s とすると ( V1,2 Vs ) i1,2 ea1,2 jes exp e kte I - V + I 14
ダブルプローブの特性 前頁の式より よって V V V より 1 2 i1 I A 1 ev exp i2 I A2 kte 通常 プローブは同形にするので A 1 =A 2 i i i より ev I i tanh 2 kt e また V=0でI=0より kte di i 2 e dv ( V1 Vs ) i1 I i1 ea1jes exp e kte ( V2 Vs ) i2 I i2 ea2jes exp e kte V 0 ちなみに 非対称のプローブの場合は 1 2 di e i i dv kt i i 1 2 V 0 e 1 2 15
ダブルプローブのまとめ ダブルプローブは 全体に浮動電位のため プラズマの電位によらず測定が可能である長所がある 電圧が正でも負でも イオン飽和電流がでてくるため 放電 アークなどが起きにくい 電圧を0 付近で掃引すれば 傾きとイオン飽和電流から電子温度が また イオン飽和電流から電子密度が算出される 電圧の掃引が必要という事は変わらないので 使いにくさは残る イオン飽和電流のみを求める方式には有用 16
さらに発展 トリプルプローブ ダブルプローブの傍に浮遊した第 3の探針を加えた物をトリプルプローブと呼ぶ 3つの探針をそれぞれ P 1,P 2,P 3 とし その面積をそれぞれA 1,A 2, A 3 電位を V 1,V 2,V 3 電流をI 1,I 2,I 3 とする ( V1,2,3 Vs ) i1,2,3 ea1,2,3 jes exp e Te i j A en C A 1,2,3 is 1,2,3 es s 1,2,3 I i i 1,2,3 1,2,3 1,2,3 P 1 P 2 P 3 I 1 I 2 I 3 V 1 V 2 V f V 2 -V 1 V 2 -V f プラズマの空間電位 V s ( スペースポテンシャル ) と浮遊電位 V f は異なることに注意 簡単のため すべての探針は同じ形状とすると A 1 =A 2 =A 3 ev 21 1exp kt I1 I2 e I3 I2 ev 23 1exp kt e V V V 21 2 1 V V V 23 2 3 常に V V ( 浮遊電位 floating potential) I であるから I 3 f 3 0 I 1 2 17
トリプルプローブのまとめ 前頁の式より V 21 1exp e kt e 2 V2 Vf 1exp e kte もし が電子温度より十分高ければ V 21 1 2 V 1 exp e V 2 f kt e V V exp e kte 2 f 1 2 kt e V2 V f e ln 2 となり 電子温度がすぐに求まる すなわち 電圧掃引しなくとも電圧から電子温度 電流 ( イオン飽和電流 ) から電子密度がリアルタイムで求めることが可能となる トリプルプローブの長所は プローブ特性 (I-V 特性 ) を取る必要がないことに尽きる すべてのプローブチップが同じプラズマに接している仮定がある 18
多種のプローブ トリプルプローブ以外に プローブの大きさをあえて変えるタイプ プローブチップ ( 先端 ) の形が円筒形でない ( 平板型 ) など 多種のプローブがある 以下は その例 4 芯プローブ マッハプローブ RFプローブ RF 補償型プローブ 19
磁気計測 磁気プローブ コイルのループに入る磁束に変化があると 誘導電圧が生じる この電圧を測定して コイルのループ内の磁束変化を調べるのが磁気プローブである プラズマ内の磁場の変動を調べる 20
測定例 下図は Heliotron J( 京都大学エネルギー理工学研究所のプラズマ実験装置 ) の測定例である 磁気信号はMP2(magnetic probe 2), diamagと呼んでいるもので それぞれ前頁の (a) の2 種の磁気プローブ信号 #45418 1 0 ECH NBI Line integrated density MP2 Intensity (a.u.) 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1-0.2-0.1 0 Halfa Diamag 180 200 220 240 260 time (ms) -1 180 200 220 240 260 time (ms) 21
光計測 ドップラー幅によるイオン温度測定 波長 λの光を出しているイオンの速度がvの時, 速度方向のドップラーシフトは v c であるから イオンが温度 T i のMaxwell 分布をしていると 線スペクトルの形 I( λ) は 2 m c I( ) exp 2T i となる 但し mはイオン質量 cは光速 λは中心波長 従って ドップラー全半値幅 λ D は D 1/2 1/2 1/2 2(2ln 2) T i 5 1 Ti 7.7010 c mi A e 22
全半値幅とは? 前項の式を利用したドップラー拡がりの例 1.2 1 A=16,Ti=400eV 全半値幅 0.8 0.6 高さはピークの半分 0.4 0.2 0 4994 4996 4998 5000 5002 5004 5006 23
注意点 イオン温度を線幅から求めるためには 他の原因による線幅の拡がりを吟味しなければならない また 水素イオン ( プロトン ) は軌道電子がないため 線スペクトルを出すことができない 不純物イオンの線スペクトルは良く用いられるが プラズマイオンと不純物イオンのエネルギー緩和過程を考慮しなければならない 線幅の拡がりの他の原因として 線スペクトルの微細構造 プラズマ中の磁場によるゼーマン (Zeeman) 効果 光を出すイオンの場所におけるミクロな電場 ( 荷電粒子の影響 ) によるシュタルク (Stark) 効果などがある 分光学参照 24
電磁波による計測マイクロ波の干渉法による密度測定 電子密度 n のプラズマの屈折率 N は 振動数 f の電磁波に対して 2 f p N 1 f で与えられる (n:m -3 ) 但し f p はプラズマ周波数である 1/2 1/2 2 1 ne e fp n s 2 me0 1/2 1 8.98 e ( ) f=f p となるところで N=0でcut-offとなり 電磁波は浸透しない その波長とcut-offとなる密度の関係は 0.112 20 3 2 10 ( ) ( : ) nc m cm 25
フリンジ数と密度の関係 2mmのマイクロ波に対してはn c =2.8 10 20 m -3 である プラズマの大きさをdとすると プラズマの屈折率による光路長の変化は (N-1)dで与えられる 次項の図に示したマッハーツェンダー干渉計 (Mach- Zehnderinterferometer) やマイクロ波干渉計等で 光路長の変化をフリンジ数の変化として観測する 2 即ち ( N 1) d 1 f p d 16 4.4910 dn 2 f (d λ nはsi 単位 ) 26
測定装置の原理 どちらも光路差による光 ( 波 ) の干渉を利用している 27
干渉縞の概念 位相が合うところは強調され 位相が反転するところは減光する 0.1 フリンジに対応する nd は nd 0.1 2.2310 ( ) 20 2 ( m ) 28
フリンジスキャン法 ( 縞走査法 ) 干渉計で得られる干渉縞は, 通常, 明るさが正弦波状に変化する干渉縞である 従って, 着目する点の明るさが分かれば, その点の初期位相が分かり, 光路差 ( 高さの情報 ) が得られる しかしながら,1 枚の干渉縞画像から明るさを決定し, 初期位相を決定するのは, 画面のシェーディングやノイズがあって難しい 初期位相を正確に求めるために考案された方法がフリンジスキャン法である 参照面または被検面を光軸方向に少し移動すると, 両者の間隔が変化し, それに伴って干渉縞が変化して見える 実際には干渉縞全体の形は変わらないが, 各点に注目すると明暗が周期的に変化し, 干渉縞が走査されて見える http://www.fujinon.co.jp/jp/products/laser/kisotisiki5_1.htm などより 29
PZT を用いた変位法 ピエゾ素子によってミラーを動かす 30
トムソン散乱による電子温度測定 レーザー光をプラズマ中に入射すると プラズマによって散乱される光のスペクトルは拡がる 通常, イオンによる散乱は, 質量は電子に比べて大きいので無視できる 電子が速度 v で走っている時, 散乱光の各周波数 ω s は k v のドップラーシフトを受ける すなわち, 4 s L kv 2vk1 sin vsin 2 2 k 方向の速度 v に関してマックスウェル分布しているとき, 分布関数 f(v)dv は 1/2 2 m e m v f(v) dv exp dv 2Te 2Te 31
散乱光の分光強度 前ページの式から散乱光の分光強度は F( ) d( ) 1/2 2 m e m exp d( ) 2Te 4sin( 2) 2Te 4sin( 2) この議論は, 各々の電子が独立に運動できるという仮定の上に成立するので, この散乱を無相関散乱 (noninteracting scattering) という 微小立体角 dωに散乱する散乱断面積 dσ 1 は 2 2 d Es R 1 2 2 2 0 sin d E 1 であるから, 一個の電子のトムソン散乱断面積 σ T は 2 80 28 2 T 0.66510 ( m ) 3 32
実際の例 面積 Sの広がりを持つ入射光の強度をIとした時 密度 n e 入射光に沿っての長さlの部分から立体角 dω 中に散乱される散乱光の単位時間当たりのエネルギー Wは d 2 sin 2 W InelS d ISnel0 d d 例として 電子密度 n e =10 20 m -3 φ=90 l=0.01m dω=10-2 とすると W/I S =0.8 10-13 であるので ( 元のパワーに比べると はるかに小さい ) I S =100MWで W=8μWである 従って 測定上の注意として レーザー光をプラズマに当てる時 光が通過する装置の窓等から散乱される装置散乱光 (Stray Light) を小さくし かつ 検出形に入ってこないようにする必要がある 33
測定装置の例 下図は実際の装置の概要である (Beam Dumps) (Viewing Dumps) 34
レポート プラズマ計測法について, 何か一つ調べてみよ Report an example of plasma diagnostics. 35
参考資料 フリンジから信号の再現 干渉縞がちょうど 1 周期分 (2π) 走査されるだけ参照面と被検面の間隔を変化させ, その間に, 例えば干渉縞が π/2(1 縞の 1/4) 走査される毎に 4 回画像を取り込んで (4 ステップ法 ), その明るさの変化から初期位相を計算する 着目する点の明るさが,I 0,I 1,I 2,I 3 と変化した時, 初期位相 (φ) は, I tan I 1 3 1 I0 I2 となる 但し,φは-π~πの間の値となるので, 隣り合う点に2πの位相飛びがある場合には,2πを足したり引いたりして, 位相を繋ぎ合わせる必要がある この操作を位相接続 ( 位相アンラップ ) と言う 36
参考資料 続き いま, 縞の 1 周期を M 分割して位相シフト 2/M を与え縞画像をサンプリングすると m 番目の縞画像強度 I m (x, y) は, I ( xy, ) axy (, ) bxy (, )cos ( xy, ) 2 m/ M m となる, ここで a(x,y) は背景強度分布,b(x,y) はコントラストむら,(x,y) が求めたい位相分布である.Brunning らによる手法では, これらの縞画像を用いて ( xy, ) tan M 1 1 m0 M 1 m0 I sin(2 m/ M) m I cos(2 m/ M) m を計算することで, 位相分布が求められる. また, 上式に含まれる未知数が 3 であることから容易にわかるように, 計算に必要な最低枚数は 3 であり, M=4(90 度シフト ) の場合は, 前ページの式となる この計算法は 3-step 法とよばれ, その後少ない入力縞画像による解析法がさまざま考案され, 最近では 5~11-step 法などより高次の誤差補償により高精度な位相解析が行える方法が提案されている. また, 連続的に位相を走査し一定位相走査間の干渉縞強度を積分する方法も含む (4 区間の場合 4- bucket 法とよぶ ).( 加藤純一 ) 37