Microsoft Word - 住宅新報200808

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12. 地価公示は 土地鑑定委員会が 毎年 1 回 2 人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め その結果を審 査し 必要な調整を行って 標準地の正常な価格を判定し これを公示するものである 13. 不動産鑑定士は 土地鑑定委員会の求めに応じて標準地の鑑定評価を行うに当たっては 近傍類地の取 引価格から

Microsoft Word - 住宅新報200809

Microsoft Word - H30 市税のしおり最終版

不動産鑑定士第2次試験

LEC 東京リーガルマインド 複製 頒布を禁じます 平成 29 年度不動産鑑定士論文式試験 ズバリ的中 鑑定理論 論文問題 問題 1 (50 点 ) 移行地に関する次の各問に答えなさい (1) 不動産の種別における移行地の定義について 見込地と比較した上で 説明しなさい (2) 移行地の個別的要因に

~ 都市計画道路予定地の評価 ~ 今回の豆知識では 我々不動産鑑定士が日常の評価業務において良く目にする 都市計画 道路予定地 の評価について取り上げてみたいと思います 1. 都市計画道路とは? 都市計画法では 道路 公園 下水道処理施設等の施設 ( 都市施設 ) のうち必要なものを都市計画に定める


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< 解答例 > 一小問 (1) について不動産の価格は 不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要に影響を与える諸要因の相互作用によって形成されるが その形成の過程を考察するとき そこに基本的な法則性を認めることができる 不動産の鑑定評価は その不動産の価格の形成過程を追究し 分析する

73,800 円 / m2 幹線道路背後の住宅地域 については 77,600 円 / m2 という結論を得たものであり 幹線道路背後の住宅地域 の土地価格が 幹線道路沿線の商業地域 の土地価格よりも高いという内容であった 既述のとおり 土地価格の算定は 近傍類似の一般の取引事例をもとに算定しているこ

路線価図

税理士法人チェスター【紹介】

第 6 回令和元年度固定資産評価実務者勉強会 第 3 部 税理士による最近の各種課税評価に関するお話 講師 : 税理士 不動産鑑定士 赤川明彦 ( 株式会社土地評価センター取締役 ) copyright 2019 KOTOBUKI PROPERTY ASSESSMENT all rights res

物件番号

第 1 基本的事項 1 業務内容についての順守事項本業務を行う不動産鑑定士又は不動産鑑定士補 ( 以下 不動産鑑定士等 という ) は 本業務が単に個別地点について行う鑑定評価と異なり 同一価格時点で大量に行う鑑定評価であり 特に面的な価格の均衡が求められる固定資産税評価のための基礎資料を作成するも

PowerPoint プレゼンテーション

1 天神 5 丁目本件土地及び状況類似地域 天神 5 丁目 本件土地 1 状況類似地域 標準宅地

不動産鑑定士からみた広大地評価の留意点 (1) 広大地かどうかを判断するには 1 チェック項目 大規模工業用地ではない? または 1,000 m2以上? はい 1,000 m2以上あります 最寄の駅から徒歩 15 分以上? はい 15 分以上かかります周辺は住宅地でマンションが建っていない? はい

相続財産の評価P64~75

TAS-MAP 土地建物評価土地建物評価 レポートのサンプル 評価レポート (PDF) 評価額 比準表 評価条件 事例一覧 路線価表示住宅地図 公示等推移グラフ 変動率 固定資産税データを使用した場合このページは出力されません 事例プロット図 評価レポート (Excel) エクセル形式では土地建物レ

例会レジュメ

Microsoft Word - 優秀作品(土地)

市街地再開発事業による社会的便益の分析

名前 第 1 日目 建築基準法 2 用途規制 1. 建築物の敷地が工業地域と工業専用地域にわたる場合において 当該敷地の過半が工業地域内であると きは 共同住宅を建築することができる 2. 第一種低層住居専用地域内においては 高等学校を建築することができるが 高等専門学校を建築する ことはできない

第 Ⅱ ゾーンの地区計画にはこんな特徴があります 建築基準法のみによる一般的な建替えの場合 斜線制限により または 1.5 容積率の制限により 利用できない容積率 道路広い道路狭い道路 街並み誘導型地区計画による建替えのルール 容積率の最高限度が緩和されます 定住性の高い住宅等を設ける


指定標準 適用区域 建ぺい率 容積率 建築物の高さの最高限度 m 用途地域の変更に あたり導入を検討 すべき事項 ( 注 2) 1. 環境良好な一般的な低層住宅地として将来ともその環境を保護すべき区域 2. 農地等が多く 道路等の都市基盤が未整備な区域及び良好な樹林地等の保全を図る区域 3. 地区計

首席国有財産鑑定官

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旧(現行)

1. 固定資産税 都市計画税について 固定資産税は 毎年 1 月 1 日 ( 賦課期日 といいます ) 現在に土地 家屋 償却資産 ( こ れらを総称して 固定資産 といいます ) を所有している人が その固定資産の所在する 市町村に納める税金です 都市計画税は 下水道 街路 公園などの都市計画事業

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調査対象物件の時価 ( 賃貸 ) No: , 調査物件の周辺範囲から 築年数 面積等の類似物件から賃貸物件の時価をレポートします 賃貸物件の時価調査対象範囲 : 3,000m 以内対象物件数 : 60 件 最も類似している賃貸物件の時価 20.5 万円

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調布都市計画深大寺通り沿道観光関連産業保護育成地区の概要

図 1 平成 19 年首都圏地価分布 出所 ) 東急不動産株式会社作成 1963 年以来 毎年定期的に 1 月現在の地価調査を同社が行い その結果をまとめているもの 2

用途地域の指定のない地域の建築形態規制\(素案\)

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意見書・別表

目 次 1 固定資産税と固定資産税評価 1 1 固定資産税とは 1 2 固定資産税の課税のしくみ 2 (1) 固定資産税を納める人 ( 納税義務者 ) 2 (2) 税額の計算 2 2 固定資産税評価のあらまし 1 固定資産税評価の意義 2 固定資産税評価によって求める価格とは 3 固定資産の価格を求

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ており 土地の個別的要因に係る補正が全て考慮されたものとなっていることから 土地の形状 道路との位置関係等に基づく個別的要因に係る補正 すなわち評価通達 15(( 奥行価格補正 )) から 20(( 不整形地の評価 )) まで及び 20-3(( 無道路地の評価 )) から 20-6(( 容積率の異な

借地権及び法定地上権の評価 ( 競売編 ) 出典 : 株式会社判例タイムズ出版 別冊判例タイムズ第 30 号 借地権の評価 第 1 意義 借地権とは 建物所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう ( 借地法 1 条 借地 借家法 2 条 1 号 ) 第 2 評価方法 借地権の評価は 建付地価格に

土地の概要 - 1 事例 A 8, m2 正面路線価 150 千円 借地権割合 70% 地区区分 ビル街地区 5.0 m m 地形 (: 計算方法 ) 旗状地 同説明 旗地 敷地延長とも言われる 狭小 奥行長大が適用されることが多い 路線価 ( 千円 ) 奥行補正 狭小 奥行

『知っておきたい 不動産所有コストの中身と抑えるコツ』

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都市計画法に基づく手続きの予定スケジュール 岩手県事前協議 平成 8 年 5 月 ~7 月 住民説明会 平成 8 年 8 月 9 日 都市計画案の縦覧 ( 意見書の提出期間 ) 平成 8 年 9 月 5 日 ~9 月 0 日 釜石市都市計画審議会 平成 8 年 0 月中旬 岩手県本協議 平成 8 年

スライド 1

筑豊広域都市計画用途地域の変更 ( 鞍手町決定 ) 都市計画用途地域を次のように変更する 種類 第一種低層住居専用地域 第二種低層住居専用地域 第一種中高層住居専用地域第二種中高層住居専用地域 面積 約 45ha 約 29ha 建築物の容積率 8/10 以下 8/10 以下 建築物の建蔽率 5/10

す ) 5 地区 地域内の各筆の評価 ( 一画地の宅地ごとに評価額を算出します < 土地に対する課税 > (1) 評価のしくみ固定資産評価基準によって 地目別に定められた評価方法により評価します 平成 6 年度の評価替えから 宅地の評価は 地価公示価格の 7 割を目途に均衡化 適正化が図られています

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[2] 道路幅員による容積率制限 ( 基準容積率 ) 敷地面積に対する建物の延べ床面積の割合を 容積率 といい 用途地域ごとに容積率の上限 ( 指定容積率 ) が定められています しかし 前面道路の幅員が 12m 未満の場合 道路幅員に応じて計算される容積率 ( 基準容積率 ) が指定容積率を下回る

□高度地区見直し案

目   次

予定建築物等以外の建築等の制限 法 42 条 立地基準編第 5 章 (P127~P131) 法第 42 条で規定されている 予定建築物等以外の建築等の制限 については 次のとおりとする 1 趣旨開発許可処分は 将来その開発区域に建築又は建設される建築物又は特定工作物がそれぞれの許可基準に適合する場合

スライド 1

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3-3 新旧対照表(条例の審査基準).rtf

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鹿嶋市都市計画法の規定による市街化調整区域における

Ⅰ. 鑑定評価額 金 510,000,000 円也 Ⅱ. 対象不動産の表示 < 土地 > 所在地 大阪府大阪市 区 登記簿上の所有権者 法人 A 社地目地番登記面積 ( m2 ) 公簿現況 番宅地宅地 3, < 建物 > 所在地 大阪府大阪市 区 登記簿上の所有権者 法人 A 社 家屋番

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市税のしおり2016表紙再3

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渋谷区用途地域等一覧表

1 目的 建築基準法第 68 条の 5 の 5 第 1 項及び第 2 項に基づく認定に関する基準 ( 月島地区 ) 平成 26 年 6 月 9 日 26 中都建第 115 号 建築基準法 ( 昭和 25 年法律第 201 号 以下 法 という ) 第 68 条の 5 の 5 第 1 項 及び第 2

東京都市計画用途地域の変更 ( 東京都決定 ) 都市計画用途地域を次のように変更する ( 中野区分 ) 種類面積容積率建ぺい率 第一種低層住居専用地域 第 二 種 低層住居 専用地域 /10 15/10 4/10 5/10 外壁の後退距離の限度 建築物の敷

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1. 住宅地価格査定マニュアル 改訂の概要 (1) 大都市圏版 と 標準版 の区分を廃止し 一本化 1 改訂前は 査定地 ( 事例地 ) が所在する地理的要因に基づき大都市圏版または標準版のいずれかを査定者が選択し かつ 大都市圏版と標準版では各査定項目の評点について異なる設定としていますが 改訂で


目次 ( )

平成 22 年 5 月 7 日 問い合わせ先 国土交通省土地 水資源局土地市場課課長補佐小酒井淑乃 係長塩野進代表 : ( 内線 :30-214, ) 直通 : 土地取引動向調査 (*) ( 平成 22 年 3 月調査 ) の結果について

第 5 章 N

1) 庁舎位置の中心性建設候補地の評価 比較添付資料 1 人口重心との位置関係 候補地 1 現庁舎敷地 直線距離 250m 直線距離 1.4Km 候補地 2 都市広場 直線距離 1.3Km 候補地 3 鳥栖スタジアム第 4 駐車場 この地図は国 地理院の電 地形図を使 したものです 1

一団地認定の職権取消し手続きの明確化について < 参考 > 建築基準法第 86 条 ( 一団地認定 ) の実績件数 2,200 ( 件 ) 年度別 ( 住宅系のみ ) S29 年度 ~H26 年度 実績件数合計 16,250 件 用途 合計 ( 件 ) 全体 17,764 住宅系用途 16,250

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線路敷 河川道路敷地道路久留米市建築確認申請の手引き (2016 年版 ) 制限の緩和等 ( 公園 水面 線路敷 道路 等 )(2/4) 関係条文法第 2 条第 1 項第六号 令第 20 条第 2 項 法第 42 条第 2 項 法第 53 条第 3 項第二号 市細則 17 条 令第 134 条 令第

再販入札⇒先着順物件調書

福岡県地価図マニュアル

(2) 路地街区 ア路地街区の内部で 防火性の向上と居住環境の改善を図るため 地区施設等に沿った建築物の高さの最高限度及び壁面の位置の制限を定めることにより 道路斜線制限を緩和し 3 階建て耐火建築物の連続した街並みを形成する イ行き止まりの路地空間では 安全性の確保のため 2 方向の避難を目的とし

日本橋・東京駅前地区

目次 方針策定の背景 1-1. 用途地域指定の基本的な考え方 1-2. 住居系 [ 第一種低層住居専用地域 ] [ 第二種低層住居専用地域 ] [ 第一種中高層住居専用地域 ] [ 第二種中高層住居専用地域 ] [ 第一種住居地域 ] [ 第二種住居地域 ] [ 準住居地域 ] [ 田園住居地域 ]

立川市絶対高さを定める高度地区指定に関する検討方針 平成 26 年 5 月 立川市 0

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物 件 調 書

20 土地総合研究 2011 年冬号 寄稿 低層住宅地における地価の要因分析 - 名古屋 15 km圏における第一種低層住居専用地域の地価を対象として - 名古屋工業大学工学部津上博行名古屋工業大学大学院工学研究科工学博士兼田敏之 1. 研究の背景と目的 近年 国民の住環境への関心の高まりから建築協

Ⅰ. 評価対象地の表示及び報告事項 1 評価対象地の表示 所在 地番 公簿 地目 現況 公簿 数量 ( m2 ) 対象 仙台市 区 町 番 宅地宅地 1, , 報告事項 評価対象地は 財産評価基本通達 24-4( 広大地の評価 ) に規定される 広大地 に該当するものと

案の理由書 1 南大浜地区本地区は石垣島の南部に位置し 字大浜 字真栄里 字平得の3 字を含み 用途地域が指定されている市街地の東側に隣接する地区です 本地区は 農振農用地区域が除外されたことにより 農業的土地利用と都市的土地利用が混在し 道路 公園 下水道等の都市基盤整備が不十分なまま無秩序な開発

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問題 (100 点 ) 別紙 2 資料等 に記載の不動産 (Ⅱ. 対象不動産 ) について 別紙 1 指示事項 及び別紙 2 資料等 に基づき 不動産の鑑定評価に関する次の問に答えなさい 問 1 求めるべき賃料の種類について説明しなさい 問 2 対象不動産の確認に関して 別紙 2 資料等 ( 資料

あるが 人が通り抜けられる状態となっており 効用の増加が認められると判断しているので 1% を加算している 公法上の規制による減価の1% について 用途地域が第一種低層住居専用地域で 建蔽率の差が10% 容積率の差が20% こちらを勘案して1% の減価としている その他減価の整地の3% について 整

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平成 31 年地価公示の概要 1 根拠法令地価公示法 2 実施機関国土交通省土地鑑定委員会 3 目的土地鑑定委員会が毎年 1 回標準地の正常な価格を公示し 一般の土地の取引価格に対して指標を与えるとともに 公共事業用地の取得価格算定の規準とされ また 国土利用計画法に基づく土地取引の規制における土地

θ の中心 次に 開口直上部分等から開口部の中心線までの距離 :( 垂直距離 ) ( 上図参照 ) を求めます. この を で割った値 = = θ θ の値が大きいほど採光に有利 上式が 採光関係比率 となります. 採光関係比率というのは, 水平距離 : が大きくなるほど大きくなり, 垂直距離 :

固定資産税の課税のしくみ < 評価額と課税標準額と税額の推移 > ( 土地編 ) 課税標準額 評価額 税 額 なぜ, 地価が下落しているのに, 土地の固定資産税が上昇するの!? 2 なぜ, 平成 6 年評価額が急激に上昇したの!? 3 < 公的土地評価相互の均衡と適正化 > < 地価公示価格の一定割

大谷周辺地区 及び 役場周辺地区 地区計画について 木原市街地 国道 125 号バイパス 役場周辺地区 (43.7ha) 美駒市街地 大谷周辺地区 (11.8ha) 地区計画の概要 地区計画とは住民の身近な生活空間である地区や街区を対象とする都市計画で, 道路や公園などの公共施設の配置や, 建築物の

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はじめての鑑定実務 第 1 回 - 更地の比準価格の求め方 1- 不動産鑑定工房 不動産鑑定士 菱村寛 今号から何回かに分けて はじめての鑑定実務 と題して寄稿することとなりました 鑑定実務を始めたばかりの方 不動産鑑定と接点があり仕事内容に興味のある方 鑑定士試験受験を志す方に向けて 鑑定実務のイロハ をご紹介したいと思います 私はこれまで約 20 年間 金融機関 鑑定機関 ( 東京 大阪 ) 勤務と自らの鑑定事務所運営を通じて 主に企業の意思決定や訴訟に関連する鑑定評価 コンサルティングを経験してきました ひとくちに鑑定実務といっても 地域や取り扱う案件 会社の方針 師匠 の好みなどにより 仕事の進め方は千差万別です 本稿は これまでの経験を踏まえた一つの 私見 ですので 参考意見として日常の仕事や勉強に役立てていただければ幸いです 今回は 更地の比準価格の求め方 ( 事例選択から時点修正まで ) を取り上げます 本稿では 不動産鑑定評価基準 ( 以下 基準 ) からの引用には実線で下線を 運用上の留意事項 ( 以下 留意事項 ) からの引用には点線で下線を付します 引用文は多少修正することがあります 更地の比準価格 1. 更地の評価手法 ( 基準 各論第 1 章 ) 更地の鑑定評価額は 1 取引事例比較法による比準価格 2 収益還元法 ( 土地残余法 ) による収益価格を関連づけて決定するものとする 再調達原価が把握できる場合には 3 原価法による積算価格をも関連づけて決定すべきである 当該更地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては さらに4 開発法による価格を比較考量して決定する 2. 更地の比準価格 ( 基準 総論第 7 章ほか ) 取引事例比較法は 1まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い これらに係る取引価格に必要に応じて2 事情補正及び 3 時点修正を行い かつ 4 地域要因の比較及び 5 個別的要因の比較を行って求められた価格を 6 比較考量し これによって対象不動産の試算価格 ( 比準価格 ) を求める手法である 更地の評価に際し配分法を適用する場合における取引事例は 敷地が最有効使用の状態にあるものを採用すべきである 更地の比準価格の求め方のポイント更地の比準価格を求めるに当たっては 次の 2 点に留意すべきである その不動産の需要者は誰か その需要者は意思決定において何を重視するか を明確にし これに基づいて事例選択や要因比較を行う 更地は最有効使用に基づく経済価値を十全に享受し得る ことを 事例選択や要因比較に反映させる 比較を行う方法比較を行う方法には 1 地域要因の比較 個別的要因の比較を直接行う方法と 2 地域における個別的要因が標準的な土地を設定して行う方法 ( 標準的画地設定法 ) とがある 本稿では 標準的画地設定法により次の手順で比準価格を求める方法を紹介する 1. 標準的画地を設定する 2. 取引事例等との比準により標準価格を求める 3. 標準価格に個性率を乗じて対象地単価を求める 4. 対象地単価に面積を乗じて比準価格を試算する 1

標準的画地の設定地域分析に基づいて 近隣地域の範囲の判定と標準的画地の設定を行う 近隣地域の範囲の判定は 商業は線 ( 道路 ) 住宅は面 ( 街区 ) を基本単位とすることが多い ( 図 1) なお 広幅員道路沿いの商業地域は 両側の人の流れが異なり 収益性や地価水準も大きく異なることがある その場合は 道路の片側のみを近隣地域とする方がよいだろう また 範囲の絞り込みに際しては 街路 交通接近 環境 行政的条件の類似性のほか 相続税路線価 ( 以下 路線価 ) の近似性も確認するとよい ( 図 1) 近隣地域の範囲の判定標準的画地の設定は 標準的使用との均衡に留意する 例えば 標準的使用が戸建住宅地であれば個人需要者の手の届く規模 マンション地であればディベロッパーの投資採算性に適う規模とすべきである なお 対象地の道路幅員が 4m 未満 ( 例えば 3m) の場合 幅員 要因と セットバック 要因とが重なり合う このようなときは 次のいずれかの方法で要因を整理するとよい 標準的画地の設定価格形成要因の比較 1 標準的画地の道路幅員を標準的画地の街路条件 ( セッ 3m と設定する ( 標準的画地のトバック要因を含む ) を地域奥行に応じたセットバック割要因の比較に反映させる 合も設定する ) 対象地のセットバック割合が標準的画地と異なる場合 対象地の個性率に反映させる 2 標準的画地の道路幅員を対象地の個性率に幅員とセッ 4m と想定する ( 以下 4m 想トバック割合とを反映させ定 という ) る 事例の収集と選択 ( 事例の収集 ) 鑑定士協会の 取引事例カード だけに頼るのではなく J-REIT や上場企業の開示情報の調査 宅建業者への取材など 地道な仕事が必要となる ( 事例の選択 ) 事例選択 4 要件などに留意する 1. 場所的同一性 ( 要件 1) 同一需給圏は土地の種別により大きく異なるが 常に 需要者の立場 で判定すること 例えば 郊外路線商業地なら 店舗経営者にとって同等の売上高が確保できるかどうかが判断基準となる また マンション地であれば 現況の如何に拘わらずディベロッパーにとって開発事業が成り立つかどうかが判断基準となる 2. 事情の正常性又は正常補正可能性 ( 要件 2) 評価書の信頼性を高めるため 事情補正を要する事例の選択はできるだけ避けるべきである なお 事情補正の要否 程度の判断は 鑑定士自らの責任で行わなければならない 3. 時間的同一性 ( 要件 3) 地価の安定期なら 多少古い事例でも使えるが 地価の変動期には 少しでも新しい事例を収集しなければならない 4. 要因比較可能性 ( 要件 4) 対象不動産と 同種別 同類型 であることが基本であるが さらに 要因格差は小さいほどよい 配分法が適用できるなら複合不動産の事例も採用できる 前述のとおり 最有効使用の状態にある事例を採用することが望ましいが 最有効使用の状態にない事例でも 建付増減価補正 することを前提として採用し得る 5. 公示地 基準地の選択公示地等の数が少ない種別の評価に当たって 選択に苦慮することがある 例えば 戸建住宅開発素地の評価であれば 近くの戸建住宅地を選択して無理な比較をするより 準工業地域内の大規模地を選択する方がよいこともある 2

6. その他立地条件や対象地の状況等により一概には言えないが 次の要因の類似性に着目して絞り込むと 素早く適切な事例を選択できることが多い 戸建住宅地 所在地( 町又は大字 ) 幅員 規模( 上下幅は比較的狭い ) マンション地 用途地域 ( 工業 工専以外 ) 基準容積率 ( 通常 150% から 200% 以上 ) 規模( 一定規模以上 ) 高度商業地 用途地域 ( 商業地域 ) 容積率 規模( 一定規模以上 ) 路線価郊外路線商業地 幅員( 幹線道路 ) 規模( 一定規模以上 ) なお 事例選択の段階で路線価を気にすることは本末転倒かもしれないが やはり対象地の路線価と事例の路線価とが大きく異なるときは 適切な要因比較ができないことが多い また 路線価倍率 ( 標準化補正後の事例単価 路線価 ) は 事情補正又は時点修正の要否を判断する際の参考となる 事例に係る要因調査地域要因比較 個別的要因比較を正しく行うためには 対象地の調査と同等の注意深さで事例の調査をしなければならない 日常業務で留意すべき事項として 例えば 次のものが挙げられる a. 道路幅員道路幅員は 測定場所により異なることが多い 地域要因比較に際しては 前後区間の標準的幅員によることが望ましい ( 事例について 4m 想定を行った場合を除く ) b. 最寄り駅からの距離最寄り駅からの距離は 測り方により異なる 起点 ( 例 : 改札口 地上出口など ) と居住者等が日常利用すると考えられる経路とを決めて 正しい道路距離を測定する 安価なデジタルマップの普及により 距離測定はとてもラクになった c. 容積率高度利用することが一般的な地域において 容積率が地価に与える影響は極めて大きい 指定容積率 道路幅員に応じた基準容積率はもちろん 特定道路距離や地区計画による緩和等についても調べること マンション地評価において CAD を用いた対象地のボリュームチェック ( 最有効使用建物の想定 ) を行うことは常識となりつつあるが 必要に応じて事例地のチェックも行いたい なお 事例地に最有効使用と思われる建物が存する場合 当該事例の実際使用容積率を調べることも有用だろう d. 画地条件事例資料に記載された土地面積の性格 ( 登記簿か実測か 私道敷 セットバック部分を含むか否か ) 道路との高低差 擁壁設置の有無などを確認しなければならない セットバック幅については 現況の道路中心線が基準となるとは限らない 公図上の道路と事例との位置関係や 事例の周辺地のセットバック状況等から できるだけ正確に把握すべきである e. その他事例価格の標準化補正を行うためには 事例の属する類似地域に係る標準的画地を設定しなければならない 設定方法は近隣地域に係る標準的画地と同じであるが それぞれの地域の標準的画地の規模 形状を統一できれば 標準化補正 地域要因比較の目線を揃え易い 鑑定評価書への記載 ( 所在 ) 鑑定士は取引事例に対する守秘義務を負っているので 通常 事例地を特定できるような記載 ( 所在地番の表示 地図へのプロット ) をしてはならない ( 地域要因 個別的要因 ) a. 街路条件通常 接道方位 幅員 道路の種別を記載する なお 側道や背面道は 画地条件 に関する事項であるが サンプル ( 表 1) では読みやすさを重視して これらについても 街路条件 欄に記載した また 鑑定実務において 道路 とは 建築基準法上の道路を指すことが多い そこで 側道がこれに該当しないときは 東側 3m 通路 西側 5m 緑道 ( 暗渠 ) などのように記載するとよい b. 交通 接近条件通常 最寄り駅と駅からの道路距離を記載する 利用可能な駅が複数ある場合は 居住者等の立場で 日常的に利用する可能性の高い駅から順に記載すること 3

c. 環境条件何が 危険 嫌悪施設 となるかは 住宅地と商業地の別 地域の品等などにより異なるが 居住者等の立場で心理的負担を感ずる施設がないかどうか調べた上 それらが近くにあれば記載する d. 行政的条件用途地域 建ぺい率 容積率 ( 指定 基準 ) のほか 必要に応じて使用可能容積率 ( 日影規制等も考慮した容積率 ) 等も記載すべきだろう e. 画地条件規模 形状 接道状況のほか 必要に応じて道路との高低差 傾斜地の有無等を記載する ( 取引時点 ) 通常 契約年月 ( 不明の場合は登記年月 ) を記載する ( 取引価格 ) 更地価格又は配分法を適用して求めた建付地価格を事例の登記簿面積 ( 実測面積が判明しているときは実測面積 ) で除して求めた単価を記載する 次回は 更地の比準価格の求め方 2( 要因比較と比準価格の試算 ) をご紹介する予定です 鑑定 7 つ道具 1 プラニメータプラニメータは 平面上の図形の輪郭をなぞることにより その面積を計測する装置です 鑑定評価の基本は 対象不動産の 確定と確認 ぜひ 数量を確認する習慣 を身に付けてください 2 つ以上の用途地域にまたがる土地の基準容積率の算定や 賃貸ビルの有効面積の測定などにも重宝します 写真は タマヤ計測システムの PLANIX10S( 実売価格約 80 千円 ) 他社製も含め数機種ありますが ポイントモード機能 付きのものがお勧めです 事情補正事情補正の必要性の有無及び程度の判定に当たっては 多数の取引事例等を総合的に比較対照の上 検討されるべきものである すなわち 事情補正を行うときは 市場の客観的価格水準との乖離等をマクロ的に考察しなければならない その際 路線価倍率のチェックは有効である 併せて 取引当事者からの回答を踏まえ 特殊な事情 の内容をミクロ的に考察する ただし 精度の高い事情補正は難しいので そもそも事情補正を要する事例を選択しない努力が大切である 寄稿者略歴菱村寛 ( ひしむらひろし ) 昭和 39 年生まれ 平成 1 年立教大学卒 三菱信託銀行 財団法人日本不動産研究所勤務を経て 平成 17 年に不動産鑑定工房を開業 時点修正時点修正率は 1 多数の取引事例について時系列的な分析 2 一般的要因の動向 3 地価公示等の資料の活用 4 売買希望価格等の動向を考慮して求めることとされている 不動産鑑定士の多くは地価公示等の公的評価活動を通じて常時最新の状況を確認しあっており 上記 3の資料は重要である なお 地価の高騰期においては 従前の価格水準を大きく上回る先行的な取引事例が現れ 徐々にその水準の取引事例が増えてくることが多い この場合 先行的な高額事例を後発事例と同じように一律 月 % 上昇 として時点修正を行うと 先行的事例から求めた価格が極端に高くなってしまう 先行的事例の時点修正は 後発事例より緩やかにする等の配慮が必要と考える 4

( 表 1) 標準価格査定表サンプル 公示地 取引事例 標準的画地 -1 1 2 区 区 区 区 所在 3 丁目 1 丁目 100 番 町 2 丁目 1-2-3 西側 6m 区道 東側 5m 区道 西側 8m 区道 東側 3.5m 区道 北側 6.2m 区道 北側 3m 通路 a. 街路条件 3 区 3 丁目東側 5.5m 区道 b. 交通 接近条件 c. 環境条件 JR 線 JR 線 危険 嫌悪施設等 : ない危険 嫌悪施設等 : ない危険 嫌悪施設等 : 墓地に近接 JR 線 駅 1,100m 駅 950m 駅 800m 駅 550m 駅 700m 駅 300m 駅 300m 危険 嫌悪施設等 : ない JR 線 駅 800m 駅 500m 危険 嫌悪施設等 : ない d. 行政的条件 第 1 種中高層住居専用地域 第 1 種中高層住居専用地域 第 1 種住居地域 第 1 種住居地域 第 1 種住居地域 指定建ぺい率 60% 指定建ぺい率 60% 指定建ぺい率 60% 指定建ぺい率 60% 指定建ぺい率 60% 指定容積率 300% 指定容積率 300% 指定容積率 400% 指定容積率 300% 指定容積率 400% 基準容積率 240% 基準容積率 200% 基準容積率 320% 基準容積率 160% 基準容積率 220% 緩和後基準容積率 360% e. 画地条件 500 m2 250 m2 450 m2 220 m2 長方形地 1:1.2 長方形地 1:1.2 L 字型地 1:2 長方形地 1:1.5 中間画地中間画地二方路地中間画地 555 m2 略長方形地 3:1 中間画地 取引時点等平成 19 年 1 月平成 18 年 5 月平成 18 年 11 月 平成 19 年 2 月 1 取引価格等 660,000 円 / m2 735,000 円 / m2 590,000 円 / m2 800,000 円 / m2 2 事情補正 3 時点修正 ( 注 ) 4 建付増減価補正 5 事例地の個別的要因 ( 標準化補正 ) - - 102 110 104 101 100 容積率 6 幅員 -2 間口が広い 5 二方路地 3 準角地 1 不整形地 -15 セットハ ック -1 6 事例地の地域要因 100 100 93 98 105 幅員 -2 幅員 1 幅員 -4 幅員 -1 駅接近性 4 駅接近性 -1 駅接近性 4 駅接近性 2 住環境 5 住環境 -5 利便性等 5 住環境 5 容積率 -8 容積率 17 容積率 -17 容積率 -4 100 98 111 87 102 7 査定標準価格 ( 上記 1から6の相乗積 ) 687,000 円 / m2 783,000 円 / m2 720,000 円 / m2 ( 注 ) 時点修正率 ( 月率 ) 平成 18 年 5 月から 平成 18 年 12 月 1.00% 1.00% 平成 19 年 1 月から 平成 19 年 4 月 0.50% 0.50% 0.50% 754,000 円 / m2 0.50% 5