マイコプラズマについて

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られる 3) 北海道での事例報告から 100 頭を超える搾乳規模での発生が多かった (33 例 82.5%) 冬から春にかけての発生がやや多い傾向 2006 年は 9 例 2007 年は 6 例が発生 全道的にも増加していると推察された 発生規模は 5~20% と一定で 搾乳規模に相関しなかった 発

A 農場の自家育成牛と導入牛の HI 抗体価の と抗体陽性率について 11 年の血清で比較すると 自家育成牛は 13 倍と 25% で 導入牛は 453 倍と % であった ( 図 4) A 農場の個体別に症状と保有している HI 抗体価の と抗体陽性率を 11 年の血清で比較した および流産 加療

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学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

B 農場は乳用牛 45 頭 ( 成牛 34 頭 育成牛 7 頭 子牛 4 頭 ) を飼養する酪農家で 飼養形態は対頭 対尻式ストール 例年 BCoV 病ワクチンを接種していたが 発生前年度から接種を中止していた 自家産牛の一部で育成預託を実施しており 農場全体の半数以上の牛で移動歴があった B 農場

2. マイコフ ラス マ性中耳炎子牛の中耳炎原因の 70% 以上は マイコフ ラス マ ホ ヒ スである 3 から 6 週令に発症が多く 3 ヶ月令以上には少ない 中耳炎発症の疫学として 殺菌不十分な廃棄乳の利用 バケツによる がぶ飲み哺乳 による誤嚥 ( 食べ物や異物を気管内に飲み込んでしまうこと

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現在 乳房炎治療においては 図 3に示す多くの系統の抗菌剤が使用されている 治療では最も適正と思われる薬剤を選択して処方しても 菌種によっては耐性を示したり 一度治癒してもすぐに再発することがある 特に環境性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌の場合はその傾向があり 完治しない場合は盲乳処置や牛を廃用にせざるを

地域における継続した総合的酪農支援 中島博美 小松浩 太田俊明 ( 伊那家畜保健衛生所 ) はじめに管内は 大きく諏訪地域と上伊那地域に分けられる 畜産は 両地域とも乳用牛のウエイトが最も大きく県下有数の酪農地帯である ( 表 1) 近年の酪農経営は 急激な円安や安全 安心ニーズの高まりや猛暑などの


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表 症例 の投薬歴 牛 8/4 9 月上旬 9/4 9/5 9/6 9/7 9/8 9/9 3 Flu Mel TMS Flu Mel Flu Mel Flu 体温 :39.0 体温 :38.8 : エンロフロキサシン Flu: フルニキシンメグルミン Mel: メロキシカム : ビタミン剤 TMS

Taro-19増田

検査の重要性 分娩前後は 乳房炎リスクが高まる時期 乾乳軟膏の効果が低下する分娩前後は 乳房炎感染のリスクが高まる時期です この時期をどう乗り越えるかが 乳房炎になるかどうか重要なポイントです 乾乳期に分娩前乳房炎検査を実施して 乳房炎の有無を確認 治療を行い泌乳期に備えます 分娩前後いかに乗り切る

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卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

システムの構築過程は図 1 に示すとおりで 衛生管理方針及び目標を決定後 HAC CP システムの構築から着手し その後マネジメントシステムに関わる内容を整備した 1 HACCP システムの構築本農場の衛生管理方針は 農場 HACC P の推進により 高い安全性と信頼を構築し 従業員と一体となって

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48小児感染_一般演題リスト160909

第 3 節水田放牧時の牛白血病ウイルス対策 1. はじめに水田放牧のリスクの一つとして, 感染症があります 放牧場で広がりやすい牛の感染症の中でも, 牛白血病は近年わが国で非常に問題となっています この節では, 牛白血病の概要説明とともに, 水田放牧を行う際に取るべき牛白血病対策について紹介します

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Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

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PowerPoint プレゼンテーション

インフルエンザ(成人)

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

名称未設定

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

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検査方法 :SA の分離は食塩卵黄寒天培地 血液 寒天培地を用いて分離を行い 分離株の同定は PS ラテックス栄研で選別 生化学性状をアピスタフで実施 SA に特異的な遺伝子である SAU 1) の増幅により同定した 薬剤感受性試験は 1 濃度ディスク法によりアンピシリン (ABPC) ペニシリン

耐性菌届出基準

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

12 牛白血病対策のため考案したアブ防除ジャケットの実用化試験 東青地域県民局地域農林水産部青森家畜保健衛生所 菅原健 田中慎一 齋藤豪 相馬亜耶 水島亮 林敏展 太田智恵子 森山泰穂 渡部巌 小笠原和弘 1 概要わが国では近年 牛白血病の発生が増加しているが その原因である牛白血病ウイルス (BL

る 飼料は市販の配合飼料を使用している 発生場所である肥育豚舎エリアの見取り図を図 1に示した 今回死亡豚が発生したのは肥育舎 Aと肥育舎 Dで 他の豚舎では発生していないとの事であった 今回病性鑑定した豚は黒く塗りつぶした豚房で飼育されていた なお この時点では死亡例は本場産の豚のみで発生しており

B型肝炎ウイルス検査

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成 21~22 年にかけて農林水産省の委託事業において動物衛生研究所 ( 現農業 食品産業技術総合研究機構動物衛生研究部門 ) が中心となり, 約 30 年ぶりに BLV 浸潤状況に関する全国調査を実施した. 本調査では, 移行抗体が消失する 6ヶ月齢以上の乳用牛 11,113 頭, 肉用牛 9,7

針刺し切創発生時の対応

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埼玉県調査研究成績報告書 ( 家畜保健衛生業績発表集録 ) 第 57 報 ( 平成 27 年度 ) 9 牛白血病ウイルス感染が生産性に及ぼす影響 中央家畜保健衛生所 畠中優唯 Ⅰ はじめに牛白血病は散発性と地方病性 ( 成牛型 ) の2つに分類される 牛白血病ウイルス (BLV) 感染を原因とする地

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

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2016 年 12 月 7 日放送 HTLV-1 母子感染予防に関する最近の話題 富山大学産科婦人科教授齋藤滋はじめにヒト T リンパ向性ウイルスⅠ 型 (Human T-lymphotropic virus type 1) いわゆる HTLV-1 は T リンパ球に感染するレトロウイルスで 感染者

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農業高校における繁殖指導とミニ講座による畜産教育支援 大津奈央 中島純子 長田宣夫 飯田家畜保健衛生所 1 はじめに 管内の農業高校では 教育の一環とし て 繁殖雌牛4頭を飼育し 生徒が飼養 いた また 授業外に班活動として8名が畜 産部に所属していた 管理を担うとともに 生まれた子牛を県 飼養管理

報告風しん

に侵入する ( 環境性乳房炎 ) その多くは明確な症状を呈し 農場内で顕在化することから 治療をはじめとして 感染個体の早期対応が可能となる 一方 SAは搾乳器具や人の手指を介して個体間を伝搬する微生物であり それによる乳房炎は伝染性乳房炎 ( ウシからウシに伝染する乳房炎 ) として位置付けられて

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手術や薬品などを用いて 人工的に胎児とその付属物を母体外に排出することです 実施が認められるのは 1 妊娠の継続又は分娩が 身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがあるもの 2 暴行もしくは脅迫によって妊娠の場合母体保護法により母体保護法指定医だけが施行できます 妊娠 22 週 0

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

インフルエンザ、鳥インフルエンザと新型インフルエンザの違い

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指導者検証用のガイドライン等について(案)

後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

主な内容 腸管出血性大腸菌とは 2 肉用牛農場における全国的な保有状況調査 3 継続的な保有状況調査 4 乳用牛農場における STEC O7 及び O26 保有状況調査 5 消化管内容物 肝臓 胆汁調査 2

名称未設定-2

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家畜衛生ニュース-中央

PowerPoint プレゼンテーション

B型肝炎ウイルス検査

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

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2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

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安全な畜産物の生産と生産性の向上適正な飼養管理家畜の健康の維持 家畜のアニマルウェルフェア (Animal Welfare) とは 国際獣疫事務局 (OIE) のアニマルウェルフェアに関する勧告の序論では アニマルウェルフェアとは 動物が生活及び死亡する環境と関連する動物の身体的及び心理的状態をいう

Microsoft Word 村田.doc


さらに 職場における感染防止対策の検討を行うに当たっては 産業医等の助 言を受けることや 衛生委員会において対策を審議するなど 労働安全衛生法上 の安全衛生管理体制を活用し 実施していくことが望まれます Q2 発熱や呼吸器症状等のインフルエンザ様症状を呈した労働者にはどのような注意をすればよいですか

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Taro-H28.11

薬剤耐性とは何か? 薬剤耐性とは 微生物によって引き起こされる感染症の治療に本来有効であった抗微生物薬に対するその微生物の抵抗性を言う 耐性の微生物 ( 細菌 真菌 ウイルス 寄生虫を含む ) は 抗菌薬 ( 抗生物質など ) 抗真菌薬 抗ウイルス薬 抗マラリア薬などの抗微生物薬による治療に耐えるこ

Q&A(最終)ホームページ公開用.xlsx

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出題 マウス ラットの微生物モニタリングに関する記述で誤っているものはどれか 正答 1 コメント 1. 検査対象となる動物は SPF 環境下ならびにコンベンショナル環境下で飼育されている動物である 2. 検査項目となる微生物はウイルス 細菌 真菌 寄生虫などである 3. 検査方法としては 過去の感染

今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

乳牛の繁殖技術と生産性向上

第 7 回トキ飼育繁殖小委員会資料 2 ファウンダー死亡時の対応について ( 案 ) 1 トキのファウンダー死亡時の細胞 組織の保存について ( 基本方針 ) トキのファウンダーの細胞 組織の保存は ( 独 ) 国立環境研究所 ( 以下 国環研 ) が行う 国環研へは環境省から文書

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Microsoft Word - H19_13.doc

黒毛和種の受動免疫による呼吸器病ワクチネーション効果と飼養管理 現場では時間的 労力的な制約から十分実施されることは少なく断続的に発生する呼吸器病の対応に苦慮する事例が多い また 黒毛和種は乳用種に比べ幼齢期の免疫能が劣る [5] のに加え ロボットでは運動量増に伴う栄養要求量の増加 闘争によるスト

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Transcription:

マイコプラズマの種類と感染について 北海道根室家畜保健衛生所 内藤友子 1

マイコプラズマとは 細菌 ウイルス 原虫 サルモネラ 大腸菌 ブドウ球菌 など マイコプラズマ ロタウイルス 牛白血病ウイルス コロナウイルス など 細菌の一種 コクシジウム クリプトスポリジウム など でもちょっと違う 2

マイコプラズマとは 一般細菌 細胞壁 細胞膜 マイコプラズマ 細胞壁がない! 小さい! 形を変えられる! 体の中に侵入しやすい! 3

発育が遅い (1 週間程度 ) 種類を決めるのに 時間がかかる (1~2 週間程度 ) 平板培地上のコロニー ( 目玉焼き状 ) ( 出典 : マイコプラズマとその実験法 ) 4

牛のマイコプラズマ マイコプラズマ全約 120 種類ウシに病原性のあるもの約 10 数種類 分離報告あり 5

乳房炎を起こすマイコプラズマ 強 ボビス 中 弱 ボビジェニタリウム カリフォルニカム アルカレッセンス カナデンス ディスパー 種類によって病原性に強弱がある 6

肺炎を起こすマイコプラズマ ボビス ボビジェニタリウム ディスパー 肺炎を起こすマイコプラズマと乳房炎を起こすマイコプラズマでは同じものがある これら以外は二次感染することで肺炎症状を悪化させると推定されている 7

マイコプラズマ乳房炎の感染のしかた 最初の 1 頭は 感染した導入牛から 子牛の時にマイコプラズマに感染した初産牛 肺炎子牛の鼻汁から 導入 体内潜伏 鼻汁 乳房炎 8

マイコプラズマ乳房炎の感染のしかた 下向性 上向性 下向性 体の中 ( 肺炎など ) にあるマイコプラズマが血液を介して乳腺に侵入 上向性 マイコプラズマ ( 汚染乳汁中など ) が乳頭口より乳腺に侵入 9

マイコプラズマが拡がる要因 人による伝播 感染した子牛を世話した後 手洗い 着替え等をしないで搾乳 搾乳中に汚染乳汁がミルカーを介して伝播 10

マイコプラズマの感染の特徴 マイコプラズマの主要な寄生部位 気道 尿生殖道 眼 消化管 乳腺の粘膜表面関節腔の内面 ( 組織 細胞内への侵入はまれ ) 細胞壁がないため 形が変わる 隙間に定着しやすい 感染が続きやすい! 気管粘膜上のマイコプラズマ ( 出典 : マイコプラズマとその実験法 11 )

マイコプラズマ乳房炎発生の特徴 季節に関係なく発生 病原性の強い菌種は伝染力も強い 集団発生することがある 搾乳時に汚染乳汁から感染することが多い 牛を導入した直後に発生しやすい 呼吸器病から続発することがある 12

発生防止対策 育成期の呼吸器病対策呼吸器病を発症させない! 導入牛のマイコプラズマ検査 ( 乳汁 ) 定期的なバルク乳スクリーニング 搾乳時 1 頭毎にミルカーを消毒 日頃からの牛群観察を強化 異常牛の早期発見 乳房炎検査で一般細菌 (-) となった場合はマイコプラズマ検査を実施 13

呼吸器病対策 質の良い初乳を充分与える ワクチン接種 ( 呼吸器ウイルス病対策 ) ストレスの少ない飼養管理 ( 飼養密度 換気 保温等 ) 衛生的な環境の維持 ( 牛舎 哺乳瓶 餌槽 水槽の清掃消毒等 ) 母牛 ( 特に妊娠後期 ) の栄養管理徹底 ( 子牛の免疫力を高める ) 14

それでもマイコプラズマ乳房炎が発生してしまったら 検査 菌種の同定 薬剤感受性試験 同居牛検査 分離菌の病原性 農場内の汚染状況の確認 15

それでもマイコプラズマ乳房炎が発生してしまったら 対策 検査結果に基づく対策を実施 発症牛 陽性牛の隔離 治療または淘汰 搾乳衛生の徹底 陽性牛を最後に搾乳する ミルカーの1 頭ごとの消毒 ( 塩素剤系 ) 16

牛マイコプラズマ乳房炎に関する 調査研究結果 17

調査研究実施機関 ( 地独 ) 北海道立総合研究機構畜産試験場 基盤研究部家畜衛生グループ 発表者 : 根釧農業試験場研究部乳牛グループ 松井義貴 18

調査研究の内容 1 乳汁中マイコプラズマの検出状況 (A 管内における調査 ) 2マイコプラズマの侵入経路 感染源 (B C D 農場における調査 ) 3 牛マイコプラズマ乳房炎の蔓延防止策 19

A 管内における乳汁中マイコプラズマ検出状況平成 22~25 年に乳汁を検査したのべ 1,538 戸の調査 20

乳汁中のマイコプラズマ発覚の経緯陽性農場のべ 185 戸の調査 21

陽性農場のマイコプラズマ菌種 陽性農場のべ 159 戸の調査 M.canadence 1% M.arginini 1% M.alkalescens 1% M.adleri 2% 菌種不明 29% 22

検出菌種による清浄化までに要した期間清浄化の有無が確定している 119 戸の調査 50 19 9 5 清浄化までに要した期間 ( ヶ月 ) 23

全頭検査の実施の有無による 清浄化までに要した期間ボビス カリフォルニカム ボビジェニタリウムが検出された農場 19 13 8 6 7 5 2 24

まとめ 定期的なバルク乳検査 乳房炎の早期発見に有効 マイコプラズマボビスカリフォルニカムボビジェニタリウム 清浄化に時間 を要する 全頭検査により感染牛を特定 し 対策することで短縮可能 25

乳房炎の原因となるマイコプラズマはどこからやってくるか? 肺炎子牛が原因となる可能性の検討 B 農場 C 農場 哺育群 育成群 搾乳群 鼻汁 乳汁 ( バルク乳 個体乳 ) 環境 ( 飼槽 水槽 床 ) 26

マイコプラズマボビスによる肺炎と 乳房炎との関連 (B 農場 ) 牛群 試料 時間の経過 哺育群鼻汁 0/7 頭 2/2 頭 5/8 頭 10/12 頭 1/10 頭 育成群鼻汁 1/9 頭 1/1 頭 2/9 頭 1/7 頭 2/12 頭 搾乳群バルク乳 0/2 回 - 2/4 回 5/5 回 0/2 回 ボビス検出数 / 検査総数 -: 検査せず 肺炎の流行 鼻汁と個体乳で同一遺伝子型のボビスが検出 27

マイコプラズマボビスによる肺炎と 乳房炎との関連 (C 農場 ) 牛群 試料 時間の経過 哺育群 育成群 鼻汁 2/5 頭 - - - 3/3 頭 環境 0/2ヶ所 - - - 0/3ヶ所 鼻汁 3/15 頭 - - - 3/7 頭 環境 0/12ヶ所 - - - 2/8ヶ所 搾乳群バルク乳 0/1 回 0/2 回 0/1 回 3/3 回 1/3 回 ボビス検出数 / 検査総数 -: 検査せず 肺炎の流行 鼻汁 環境とバルク乳で同一遺伝子型のボビスが検出 28

肺炎子牛が原因となる可能性 B 農場 : 飼育管理者の手指 衣類等による伝播の可能性 C 農場 : 哺育 育成群の敷料を搾乳群の敷料に再利用しているため 敷料による伝播の可能性 子牛と成牛が直接接触できる環境で飼養しない 子牛群と成牛群とで引き続いて作業する際は 衣類等を替える 子牛群と成牛群とでの物品の移動に注意する 29

乳房炎の原因となるマイコプラズマはどこからやってくるか? 保菌子牛の成長との関連性の検討 B 農場 (20 頭 ) D 農場 (50 頭 ) 哺育 ~ 育成 ~ 初産分娩 鼻汁 乳汁 ( 個体乳 ) 30

子牛期のマイコプラズマ感染と 分娩後の乳房炎との関連 (B D 農場 ) 調査頭数 20 頭 調査頭数 50 頭 牛番号 哺育期育成前期育成後期初妊期初産分娩後鼻汁鼻汁鼻汁鼻汁鼻汁乳汁 B-1 - + - - - - B-2 - + - - - - B-3 - - + - - - B-4 - + - - - - B-5 + + - - - - B-6 + - - - - - B-7 + - - - - - B-8 + + - - - - B-9 + - - - - - B-10 + - - - - - B-11 + - - - - - B-12 + + - - - - B-13 + - - - - - B-14 - - + - - - B-15 - - + - - - D-1 - + - - - - D-2 + - - - - - D-3 - - - + - - D-4 - + - - - - D-5 - - - + + - D-6 - - + - - - D-7 - - + - - - D-8 - - + - - - +: ボビスを検出 -: ボビスを検出せず 乳汁からは 1 頭も検出されなかった 31

保菌子牛の成長との関連性 哺育 育成期のボビスの感染は 成長後の初産分娩時に おける乳房炎を必ず引き起こすわけではない 今回 乳汁からはたまたま検出されなかったのかもしれない 個体の疾病状況等を記録し リスクのある牛は分娩時の乳汁検査を推奨する 32

乳房炎の原因となるマイコプラズマはどこからやってくるか? 生殖器からの排泄の可能性の検討 D 農場 分娩牛 乳汁 ( 個体乳 ) 腟 環境 ( 飼槽 水槽 床 ) 33

生殖器のマイコプラズマ感染と 乳房炎との関連 (D 農場 ) 遺伝子型牛群サンプルボビジェニタリウム検出数 Ⅰ Ⅱ 分娩群腟 2 頭 泌乳初期群個体乳 1 頭 分娩群環境 2 ヶ所 分娩群個体乳 1 頭 Ⅲ 泌乳初期群個体乳 1 頭 Ⅳ 分娩群腟 2 頭 Ⅴ 分娩群腟 2 頭 Ⅵ 分娩群環境 1 ヶ所 Ⅶ 分娩群環境 1 ヶ所 遺伝子型は区別のために便宜的に Ⅰ~Ⅶ とした 腟からボビジェニタリウムが検出された分娩牛の乳汁はマイコプラズマ陰性 34

生殖器からの排泄の可能性 ストール数以上の牛の収容や敷料の下への石 おろ 灰散布をしないことがあり 生殖器からの排泄物 ( 悪露等 ) から環境を介して感染の可能性 通路の除糞や牛床の清掃 消毒を適宜行う 35

乳房炎の原因となるマイコプラズマはどこからやってくるか? 外部導入牛による農場への侵入の検討 C 農場未経産牛 ( 導入前 分娩後 ) 鼻汁 乳汁 ( 個体乳 ) 36

外部導入牛と乳房炎との関連 (C 農場 ) 導入頭数 導入前鼻汁 分娩直後鼻汁 分娩直後乳汁 陽性頭数菌種陽性頭数菌種陽性頭数 1 0-0 - 0 2 0-0 - 0 10 0-0 - 0 1 0-0 - 0 6 1 arg 0-0 4 0-0 - 0 16 2 can 1 arg 0 2 0-0 - 0 2 0-0 - 0 16 0-0 - 0 総計 60 3 arg can 1 arg 0 arg: マイコプラズマアルギニニ can: マイコプラズマカナデンス 導入元農場にマイコプラズマ乳房炎の発生および導入時に肺炎症状はない 37

外部導入牛による農場への侵入 今回の調査では 侵入は認められなかった 外部導入牛からの農場への侵入リスクは少なからず ある 導入元農場の疾病状況を把握し 健康牛を導入する 38

マイコプラズマの農場への侵入 伝播経路 肺炎子牛が排菌していて 乳房炎 分娩牛が生殖器から排菌して 子牛が保菌したまま成長して 外部導入牛が持ち込んで 39

牛マイコプラズマ乳房炎の予防および蔓延防止のためのポイント 1. 肺炎発生牛からの伝播予防 2. 分娩牛の牛床管理 3. 定期的なバルク乳検査の実施 4. 菌種同定の実施 ( バルクと個体 ) 5. 搾乳衛生対策の徹底 40

マイコプラズマ乳房炎発症から対処までの事例 根室地区農業共済組合 損防検診課課長大野浩 41

過去に経験した 2 例から 現在よりもマイコプラズマ乳房炎の 認知度が遥かに低かったころの 出来事ですが 42

発症事例 1 搾乳牛はフリーストール牛舎 分娩は対頭式つなぎ牛舎 ( 旧牛舎 ) 新生子牛が同居 ( 出生直後は母牛の後ろに繋留 ) 新生子牛に風邪症状を呈するものが散在 規模拡大途上 導入牛あり 43

発症牛の概要 分娩直後 食欲不振 熱発胎盤遺残肺炎症状 1 分房腫脹 硬結 熱感乳汁黄色 半透明 細菌検査 : 乳房炎起因菌検査では 菌検出されず 44

経過 抗生物質全身投与 乳房内注入 ~ 解熱し肺炎症状は改善食欲回復 乳房 乳汁症状は変わらず泌乳量急減 ~ 再検査 マイコプラズマを検出 最終的には泌乳停止 45

対処 搾乳牛全頭検査 100 頭中 8 頭からマイコプラズマ検出 治療 : 抗生物質全身投与 乳房内注入併用 結果 : 半数は治癒半数は治癒せず 盲乳化 対策期間 : 約 4 ヶ月 46

発症事例 2 搾乳牛対尻式つなぎ牛舎 哺乳子牛と乾乳牛は同じ牛舎で管理 育成牛は別棟で飼育 子牛 育成牛の導入が頻繁 多数 風邪症状を呈する子牛が著しく多い 47

概要 バルク乳の高体細胞数が高い 難治性の乳房炎が散発 腫脹 硬結等臨床症状はそれほど強くない 乳房炎は 自家治療 が主体 細菌検査をほとんど実施していなかった 48

経過 乳房炎発症牛について細菌検査を実施 ~ 有意菌ほとんど検出されず マイコプラズマの関与を疑う 49

対処 搾乳牛全頭検査 100 頭中 5 頭からマイコプラズマ検出 ~ 即淘汰 定期的に全頭検査を実施 : 搾乳牛 分娩牛 以降 感染牛は検出されず 50

早期対処のためには 乳房炎発症牛は 治療前に必ず採材 検査 敵の正体を知らなければ対策は立てられない ( マイコプラズマに限らず ) 特定個体の監視 定期的なバルク乳スクリーニング 牛群 ( 搾乳牛 ) の監視 51

根室ブランド の確立 根室地域は 生乳生産地 である 乳牛供給地 でもある 地域全体での感染症対策が重要! = 他の地域で行っていない活動を展開中 BVD 対策 ハ ルク乳検査 ワクチン接種 ( 春 秋 ) サルモネラ対策 初生トクの出荷時検査サルモネラ発症時防疫対策マニュアル ( 地域独自 ) ~ 個体販売時の付加価値が高まる 感染症リスクの低い乳牛の生産 販売 52

根室管内マイコプラズマ乳房炎 対策会議の取り組み 根室生産農業協同組合連合会 生産振興課長 池田和之 53

日本国内の検査状況は 現在調査中です 検査の単位 ( 地域 農協 市町村 ) がバラバラですが 間違いなく酪農場への侵入は確認されています 府県 (6 ヶ所 ) での発症等の報告もありますが 地域全体での取り組み事例は十勝と根室が最も大きいようです 54

基本的な体制は25 年度と同じです 根室管内の関係機関が連携することで 迅速な対応を図っております 特に 農協 根室家保 NOSAI 酪検協会 民間検査機関との連携が重要です 55

26 年度バルク乳検査の陽性率は 25 年度より増加する可能性が高い 陽性戸数が増える事が問題ではない 早く発見して 早く対処する その結果として被害が最小限であることが重要です! 56

現時点での提案や注意事項を この 1 ページにまとめました ( 飼養管理 乳房炎牛への対処 ) このページだけ でも 家族全員 お目通し下さい おかしい 怪しい と感じた時は 担当獣医師との相談が重要と考えております 57

誰も好んで 陽性牛を淘汰して下さい とは言いたくありません しかし 罹患牛の症状 菌種などから淘汰を選択しなければならない場面は発生します この病気の情報を整理して行く事で 新薬の開発や 明確な対処方法が確立されて行く事を願っております その為には 生産者と関係団体の連携が重要 ( 必要 ) です 58