(Varicella) 1. 臨床 潜伏期間 :10 日 ~21 日 症状 ( 図 1): 軽い発熱 倦怠感の後 掻痒感の強い小斑点状丘疹 ( 紅斑 ) で発症し 数時間で水疱疹となる 水疱疹は2~3 日で体幹部 顔面 頭部 ( 有髪部位 ) に広がり ( 図 2) 2~3 日で痂皮形成し 発症 5 日目で全水疱が痂皮化 ( 感染性消失 ) する この間 水疱 膿疱 痂皮の順に急速に進行し 3 者が同時に混在する 7~10 日目には痂皮が脱落し わずかな陥凹を残して治癒する 不顕性感染例は5% と少ない 潜伏期間 (10~21 日間 ) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 感染発症治癒 2 日間ウイルス排泄 ( 感染 ) 期間 発熱 ( 軽度 ) 倦怠感 発疹 ( 顔面 体幹部中心 ) 小斑点状丘疹 ( 紅斑 ) 水疱疹膿疱疹痂皮 不顕性感染例 (5%) もウイルスを排泄する 図 1. 水痘の臨床経過 感染様式 : 空気感染と飛沫感染が中心で感染力が非常に強い 水疱液の接触感染もある 感染期間 : 発疹出現の 2 日前から全水疱の痂皮化まで 治療 : アシクロビル ( 内服 静注 ) フェノール亜鉛華軟膏 抗ヒスタミン薬 ( 掻痒 ) 図 2. 水痘の皮疹 重症水痘 : 細胞性免疫低下患者の感染では 出血性 進行性 播種性で致死的になりうる 成人水痘 : 成人や妊婦の初感染例は重症化しやすく 脳炎や肺炎の合併が多い 先天性水痘症候群 : 妊娠初期 (8~20 週目 ) の初感染で 2% の児に多彩な障害が現れる
2. 院内感染対策 1) 院内感染の予防策 : 職員の抗体獲得 ( ワクチンの項参照 ) 2) 発症時の対応 : 職員 患者共に発症が疑われた時点で感染制御部に連絡し 小児科または皮膚科を受診 させる 軽症例は自宅待機させ 重症例 ( 肺炎 原疾患 ) は個室隔離とし 入室者は抗体獲得者に 制限する やむをえず抗体陰性者がケアをする場合は 空気感染対策を実施する 皮膚を掻かせず 全水疱が痂皮化するまで入浴を制限する 3) 感染染制御部への連絡方法 入院患者および院内全職員においてウイルス感染症発症の疑い または発症が確認され た場合は直ちに感染制御部まで連絡する 平日 8:30~17:00 : 病棟師長 病棟医長 リンクナース リンクドクターが職員ならび に患者の感染症の既往およびワクチン歴を聴取し接触者リストを作成し 感染制御部に連 絡 平日 17:00~ 8:30 : 当該科当直医と病棟看護師のリーダが指揮をして職員ならびに 患者の感染症の既往およびワクチン歴を聴取し接触者リストを作成し 翌朝感染制御部に 連絡 土曜 日曜 祝日 : 当該科当直医と病棟看護師のリーダが指揮をして職員ならびに患者 の感染症の既往およびワクチン歴を聴取し接触者リストを作成し 月曜日の朝感染制御部 に連絡 4) 接触者リストの作成 : 発疹出現の 2 日前から発症者と同一フロアにいた抗体陰性者をリストアップし 抗体価を測 定する 接触の程度を A: 濃厚 B: 中等度 C: 軽度の 3 段階にランク分けし 状況に応じて接触者を 決定する 特に免疫低下患者 移植前患者 3 ヶ月以内の妊娠 2 週間以内の抗癌剤治療や手術予 定者については別途考慮する ランク A: 主治医 看護師 同室者等で発症者に直接触れた者 1m 以内で会話をした者 長 時間同室にいた者など ランク B: 発症者に直接触れていないが 2~3m 以内で会話をした者 明らかに発症者が触れ た物品に触れた者など ランク C: 発症者と直接 間接的な接触はないが 同一フロアにいた者
接触者リストの記載範囲と対応 1. 病棟で水痘患者が発生した場合 1) 入院患者に発症した場合発症患者 ( 疑い患者 ) は 直ちに個室に収容し患者及び家族に十分な隔離説明をする 水痘の伝播経路は 空気および飛沫感染であるため接触者の検索対象はフロア全体を対象とする 具体的には 同一フロアの患者 職員 付き添い 面会者 さらに検査移動などで明らかに当該患者と接触した他の患者 あるいは他部門の医療者も対象とする すべての接触者 ( 接触ランク A,B,C) で既往歴の明らかでない者を検査対象とする 2) 病棟で医療者 従業員に発症した場合 病棟のリストに関しては 入院患者発症時に同じ 特定できるすべての接触者 ( 接触ランク A,B,C) で既往歴の明らかでない者を検査対象とする 2. 外来で水痘患者が発生した場合 1) 外来患者が発症した場合 当該外来患者が受診した外来診療フロア 採血室 レントゲン室などの検査フロアなどで接触したランク A および B の患者ならびに職員をリストアップする ランク A および B の接触患者のうち免疫不全者 移植前患者 妊娠早期 (3 ヶ月以内 ) 2 週間以内に抗癌化学療法や手術を予定している者などを主治医に抽出してもらい 既往の明らかでない者の検査を行う 2) 医療者 派遣従業員に発症した場合 当該外来職員が職務した外来診療フロア 採血 レントゲンなどの検査フロアなどで接触したランク A および B の患者ならびに職員をリストアップする 接触職員ならびにランク A および B の接触患者のうち免疫不全者 移植前患者 妊娠早期 (3 ヶ月以内 ) 2 週間以内に抗癌化学療法や手術を予定している者などを主治医に抽出してもらい 既往の明らかでない者の検査を行う * 対応は 対象が小児か成人によって異なり 接触者の範囲を変更する場合もあり 感染制御 部と共同でリストの作成範囲を設定する
5) 抗体価測定のための検体採取方法 発症者 接触者の血液を血清分離剤入り試験管 ( 緑のゴム蓋 ) に採血し部署でまとめて感染 制御部へ提出する ( 成人 5 ml 小児 2 ml) 6) 接触者の発症予防策 ( 図 3): 以下を院内感染対策費で行う 既往歴がなく抗体陰性の接触者に 接触後 72 時間以内であればワクチン緊急接種を 接触後 6 日以内であれば水痘高力価免疫グロブリン投与 (100 mg/kg 1 回 ) を検討する 妊婦 ( 流早産 ) と免疫低下患者 ( 感染 発病 ) はワクチン禁忌である 両予防策共に不可能な症例にはアシクロビル予防内服 (20mg/kg 4 回 接触 7 日目から連日 5 日間 ) を検討する 7) 接触者の対応 ( 図 3): ワクチン緊急接種やグロブリン投与を共に行わない場合 接触後 8 日目から 21 日目までは 無症候性にウイルスを伝播する可能性があり 患者は個室隔離とする 抗体価が陰性もしくは十分な抗体価が得られていない医療従事者でワクチン未接種者は 発症がない場合でも接触後 8 日目から 21 日目までは就業停止を考慮する ウイルス排泄 ( 感染 ) 期間水疱出現 2 日前 ~ 全水疱の痂皮化接触発症痂皮化治癒発症者の経過 7~18 日 -3-2 -1 1 2 3 4 5 2~5 日潜伏期 10~21 日水疱 : 不顕性感染は5% ( ウイルスは排泄する ) 接触者の対応接触 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 21 ワクチン接種 3 日以内グロブリン投与 6 日以内アシクロビル予防内服 7 日目から5 日間抗体価が陰性の患者の隔離 8 日目から21 日目まで職員の就業停止を考慮 8 日目から21 日目まで 図 3. 水痘発症時の経過と接触者の対応
3. 免疫不全患者の入院する病棟での帯状疱疹患者発生時の対応 1) 臨床 症状水痘に罹患した後 三叉神経節や脊髄後根神経節に潜伏感染していた水痘 帯状疱疹ウイルスが さまざまな因子で再活性化して発症する皮膚疾患である 初期に片側性に神経痛様の疼痛が認められ その後に浮腫性の紅斑や小水疱が神経支配領域に一致して出現してくる 水疱は破れてびらん 潰瘍となり 痂皮化し約 3 週間で治癒する 感染様式気道粘膜での増殖がないので 基本的には接触感染で伝播すると考えられている しかし 帯状疱疹の患者の病室の空気を調べると 70%(9/13) から水痘 帯状疱疹ウイルスの DNA が検出されたとの報告があり 皮膚からウイルスが排出された結果であろうと考えられている 帯状疱疹が播種状 (3 分節以上 ) になっている場合には 接触感染対策に加え 水痘と同様に空気感染対策が必要となる 2) 院内感染対策 標準予防策を確実に実施する 必要に応じて接触感染対策 空気感染対策を追加する (1) 患者の隔離通常 帯状疱疹は接触感染が主とされているが 移植等の免疫不全患者の入院する病棟では 空気感染も考慮し 発疹が痂疲化するまで原則個室隔離とする 個室が不可能で多床室に入室する場合は 同室者に移植患者は避け 抗体陽性者とする (2) 皮膚管理発疹部分はガーゼではなく フィルム等の被覆材で確実に覆う 被覆材の交換時は 標準予防策を遵守し 手袋 エプロンを適正に使用し 手指衛生を確実に行う (3) 同室者の抗体価測定発症者と同室であった患者 多床室で管理する場合の同室者等 必要に応じて抗体価測定を行う 院内感染対策費での対応とし 患者負担はない 検査オーダーは行わず 感染制御部に連絡する (4) 抗体陰性患者の予防投与同室者で抗体陰性患者に対して 予防投与を考慮する ( 水痘の項参照 ) 予防投与は院内感染対策費での対応とし 患者負担はない 予防投与を行う場合は 氏名 ID 投与期間を感染制御部に連絡する