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がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください
目次 がんの診療の流れ 1. がんといわれたあなたの心に起こること 1 2. 悪性黒色腫とは 3 3. 検査と診断 6 4. 病期 ( ステージ ) 8 5. 治療 9 1 2 3 4 5 手術 ( 外科治療 ) 10 抗がん剤治療 ( 化学療法 ) 10 放射線治療 11 インターフェロン治療 12 免疫療法 12 6. 経過観察 13 7. 転移 13 8. 再発 13 診断や治療の方針に納得できましたか? 14 セカンドオピニオンとは? 14 メモ / 受診の前後のチェックリスト 15 がんの冊子 悪性黒色腫
1. がんといわれたあなたの心に起こること がんという診断は誰にとってもよい知らせではありません それはとてもショックな出来事ですし 何かの間違いではないか 何で自分が などと考えるのは自然な感情です がんはどのくらい進んでいるのか 果たして治るのか 治療費はどれくらいかかるのか 家族に負担や心配をかけたくない 人それぞれ悩みはつきません 気持ちが落ち込んでしまうのも当然です しかし あまり思いつめてしまっては心にも体にもよくありません この一大事を乗りきるためには がんに向き合い 現実的かつ具体的に考えて行動していく必要があります そこで まずは次の 2 つを心がけてみませんか あなたに心がけて欲しいこと 情報を集めましょうがんという自分の病気についてよく知ることです 担当医は最大の情報源です 担当医と話すときには あなたが信頼する人にも同席してもらうといいでしょう わからないことは遠慮なく質問してください また あなたが集めた情報が正しいかどうかを あなたの担当医に確認することも大切です 知識は力なり 正しい知識は あなたの考えをまとめるときに役に立ちます 1
がんといわれたあなたの心に起こること 1 病気に対する心構えを決めましょうがんに対する心構えは 積極的に治療に向き合う人 治るという固い信念をもって臨む人 なるようにしかならないと受け止める人などいろいろです どれがよいということはなく その人なりの心構えでよいのです そのためには あなたが自分の病気のことをよく知っていることが大切です 病状や治療方針 今後の見通しなどについて担当医からきちんと説明を受け いつでも率直に話し合い そのつど十分に納得したうえで がんに向き合うことにつきるでしょう 情報不足は不安と悲観的な想像を生み出すばかりです あなたが自分の病状について知ったうえで治療に取り組みたいと考えていることを 担当医や家族に伝えるようにしましょう お互いが率直に話し合うことがお互いの信頼関係を強いものにし しっかりと支え合うことにつながります あくせいこくしょくしゅでは これから悪性黒色腫について学ぶことにしましょう 2 がんの冊子 悪性黒色腫
2. 悪性黒色腫とは 悪性黒色腫は皮膚がんの一種で 皮膚の色と関係するメラニン ぼはん をつくるメラノサイト ( 色素細胞 ) や ほくろの細胞 ( 母斑細胞 ) ががん化してできます 男性では 60 歳代 女性では 70 歳代で最も多く発生しますが 30 歳 50 歳代の若中年層で発生することも少なくありません 発生部位として最も多いのは足の裏ですつめが 胴体や顔 爪などさまざまな部位に発生することもあります 悪性黒色腫が発生する原因については まだよくわかっていませんが 白色人種に多く発症することから 紫外線に関係しているといわれています また足の裏や爪など いつも刺激を受けている場所にできやすいことから 外からの刺激も関係していると考えられます 図 1. 皮膚層と細胞 3
悪性黒色腫とは 2 悪性黒色腫の臨床症状は 大きく 4 つのグループ ( 病型 ) に分 けられます しかし 明確に分類できない場合もあります (1) 表在拡大型黒色腫 多くの場合 ほくろの細胞から発生することが多いと考えられ 全身 のどこにでもできます 白人に多い病型ですが 近年 日本人にも増 加しています わずかに盛り上がったシミが見られ 境界も不整で 色調は濃淡のまざったまだら状です 40 歳 50 歳代に多く 腫瘍 ( がん ) の成長は比較的ゆるやかです こくしがた (2) 悪性黒子型黒色腫 しゅはい高齢者に多く 顔面や首 手背などにでき 境界が不整で色調もまだら な黒褐色の平らな色素斑ができます ゆっくり成長し 治癒する確率 は高いといわれます (3) 末端黒子型黒色腫 日本人に最も多い病型で 主に足の裏や手のひら 手足の爪に発生し ます はじめのうちは褐色 黒褐色のシミができ 色調が一部濃くな かいようったりまだらになったりします 進行すると隆起や潰瘍ができること もあります 爪に黒い縦のスジができ 爪全体に広がり割れることが あります 60 歳代以降に多くみられ かなり進行してから気付かれる ことが少なくありません 最近はダーモスコピーという診断法で早期 病変の状態で発見することが可能になりました (4) 結節型黒色腫 はじめから急速に成長することが多く 全身のどこにでも発生します しゅりゅう結節 ( 硬いしこり ) 状の小腫瘤から発生し 色調は全体的に濃黒色や 濃淡が混ざるようになります 40 歳 50 歳代に多くみられます 腫 瘍 ( がん ) の成長が速い黒色腫です 4 がんの冊子 悪性黒色腫
悪性黒色腫は がんの前駆症状ないし早期段階の症状があり その検出に下記に示すABCDE の5つの特徴が役立つといわれています この 5つのポイントを示す場合 悪性黒色腫の可能性が高くなります このほか 主な特徴として1 大きさの変化 2 色の変化 3 形の変化 そのほかの特徴として 4 炎症性潰瘍 5 出血あるいはかさぶた状 6 感覚の変化 7 病変の長径が6mm より大きい といった点が悪性黒色腫を早期に検出するのに役立ちます 普段 気をつけて観察し 気になったときは早めに受診することが 早期発見につながります 表 1. 悪性黒色腫の早期の症状 A : Asymmetry 形が左右非対称性である B : Border of irregularities 辺縁がギザギザして不整である 色のにじみ出しがある C : Color variegation 色調が均一でない 色むらがある D : Diameter greater than 6 mm 長径が6mm 以上である E : Enlargement or evolution of color change, shape, or symptoms 大きさの拡大 色や形 症状の変化 5
検査と診断 3 3. 検査と診断 悪性黒色腫は 皮膚科専門医による臨床症状の総合的な診断が必要です 見ただけでは診断が難しい場合には 患部から組織を採って顕微鏡で調べる病理検査が行われますが 悪性黒色腫に直接メスを入れる皮膚生検は かつて転移を促す可能性があるとされていたことから 現在でも積極的には行われていません 臨床症状から診断するのが難しい場合は 腫瘍全体を切除する全切除生検を行います そのほかにも血液検査で腫瘍マーカーの値を参考にすることもあります しかし腫瘍マーカーはかなり進行した段階で上昇するものですので 早期診断に有用とはいえません リンパ節や内臓などへの転移を調べるために X 線 超音波 ( エコー ) CT MRI PET などの画像診断を行うこともあります 1 超音波 ( エコー ) 検査 体に超音波をあてて その反響の様子で体内の状態を調べる方法です 原発巣 ( 最初に発生したがん ) の進行度の重要な指標である厚さを予測したり リンパ節などへの転移の検索に役立ちます 6 がんの冊子 悪性黒色腫
2 CT MRI 検査 CTは X 線を使って体の内部を描き出し 治療前に転移や周辺の臓器へのがんの広がりを調べます MRI は 磁気を使用します 造影剤を使用する場合 アレルギーを起こすことがあります アレルギーの経験のある人は医師に申し出てください 3 PET 検査 放射性フッ素を含む薬剤を注射し その取り込みの分布を撮影 することで全身のがん細胞を検出するのが PET です 7
病期 ( ステージ )4 4. 病期 ( ステージ ) 病期とは がんの進行の程度を示す言葉で 英語をそのまま用いてステージともいいます 説明などでは ステージ という言葉が使われることが多いかもしれません 悪性黒色腫では I 期 II 期 III 期 IV 期の4つの病期 ( ステージ ) に分類され がんの厚さ リンパ節への転移や別の臓器への転移があるかどうかによって病期がほぼ決まります 診断された病期によって治療方法が決まっています 図 2. 悪性黒色腫の病期 日本皮膚悪性腫瘍学会編 皮膚悪性腫瘍取扱い規約 2010 年 8 月 ( 第 2 版 ) ( 金原出版 ) より作成 8 がんの冊子 悪性黒色腫
5. 治療 悪性黒色腫は 病期に基づいて治療法が決まります 次に示すものは 悪性黒色腫の病期と治療方法の関係を大まかに示した図です 担当医と治療方針について話し合う参考にしてください なお 日本皮膚科学会の 皮膚悪性腫瘍ガイドライン メラノーマ ( 悪性黒色腫 ) もご参照ください 図 3. 悪性黒色腫の臨床病期と治療 日本皮膚悪性腫瘍学会編 科学的根拠に基づく皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第 1 版 ( 金原出版 ) より一部改変 9
治療 5 1 手術 ( 外科治療 ) 悪性黒色腫では 手術によってがんを切除する方法が優先されます しかし悪性黒色腫の場合 病巣周囲の目に見えない部位にまで広がっていることがあるため 目に見える原発巣のみを切除しただけでは周囲に再発する危険性があります 従って 最初のふち手術で原発巣の縁から1 3cm 離して広範囲に切除するのが原則です 進行すると 原発巣の周囲に皮膚転移 ( 衛星病巣 ) が数ヵ所発生することがありますが その場合はさらに広く切除します 手術による皮膚の傷が大きくて縫い寄せられない場合は 自分の皮膚の一部を移植する手術が行われることもあります 皮膚 そけい を採る場所は 主にわき腹 太ももの付け根 ( 鼠径部 ) 耳のうし ろ 太ももの前面や後面 お尻などです 所属リンパ節を郭清 ( 切除 ) した場合などに 手や足などがむくんだり しびれが残ったりすることもあります その対処法については医師や看護師に相談して上手に乗りきりましょう 2 抗がん剤治療 ( 化学療法 ) 手術の後には 手術によって取り除くことのできなかった少数のがん細胞を傷害して再発 転移を予防するためや 内臓やリンパ節などに転移した病巣を消滅させるために 抗がん剤による治療 ( 静脈注射 ) を行います 10 がんの冊子 悪性黒色腫
抗がん剤の副作用抗がん剤は正常な細胞にも影響を与えるため いろいろな副作用が起きます その症状や程度は抗がん剤の種類や量 個人差などによおうとって異なりますが 白血球減少 血小板減少 貧血 吐き気 嘔吐 食欲不振 下痢 手足のしびれ 肝機能障害 腎機能障害 脱毛 だるさなどがあげられます 現在では 抗がん剤の副作用による苦痛を軽くする方法が進んでいますし 副作用が著しい場合には治療薬の変更や治療の休止 中断などを検討することもあります 3 放射線治療 放射線治療は 高エネルギーの X 線や電子線を照射してがん細胞を傷害し がんを小さくする効果があります しかし悪性黒色腫では この一般的な放射線治療はあまり効果が期待できません 速中性子線や重粒子線といわれる特別な放射線の照射は効果的ですが ごく限られた施設でしか行われていませんので このような治療を希望する場合は医師にご相談ください 脳転移にはガンマナイフが有効で 骨転移には痛みをやわらげるために使います 放射線治療の副作用放射線を照射すると皮膚に炎症を起こすことがあります このよう なんこう な場合は かゆみ止めや痛み止めの薬を内服したり 照射後に軟膏 を塗布したりして症状を軽くします なお炎症は照射が終了すれば時間とともに軽くなります 11
治療 5 4 インターフェロン治療 皮膚転移を抑制する目的で 体内でつくられる生理活性物質であるインターフェロン製剤が用いられます 悪性黒色腫では 原発巣切除後に 再発予防のためにインターフェロンをその切除部位周辺に注射することがあります また 皮膚転移や皮下転移に直接注射を打つ方法も行われます インターフェロンの副作用げねつざいインターフェロンで発熱することがありますが これは解熱剤を投与することで下げることができます また 頭痛 貧血 食欲不振や白血球減少 肝機能障害などが生じることもありますが いずれも軽度です 5 免疫療法 自身の免疫力を高めることによる治療を免疫療法といい 悪性黒色腫はがんの中でもその効果が期待されると考えられています ただし現在のところ 正式に認可を受けた ( 保険適用の ) 治療法はありません 患者さん自身のリンパ球 ( 免疫を担当する細胞 ) を体外に取り出し それを培養増殖させて体内に戻す養子免疫療法などを行っている施設もごく一部にあります 免疫療法の副作用当初は発熱や寒気 ふるえなどの症状がみられましたが 現在ではほとんど改善されています しかしながら それほど効果が得られていないのが現状です 12 がんの冊子 悪性黒色腫
6 経過観察 7 転移 8 再発 6. 経過観察 治療を行った後の体調確認のため また再発の有無を確認するために定期的に通院します 再発の危険度が高いほど頻繁 かつ長期的に通院することになります 従って 治療が終了した後も毎年皮膚や全身の検査を受けます ほくろの多い人は年に1 回 全身のほくろの検査を受けたほうがよいでしょう 7. 転移 転移とは がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って別の臓器に移動し そこで成長したものをいいます がんを手術で全部切除できたようにみえても その時点ですでにがん細胞が別の臓器に移動している可能性があり 手術した時点では見つけられなくても 時間がたってから転移として見つかることがあります 悪性黒色腫は転移しやすく 転移したところで増殖を続けます 8. 再発 再発とは 治療により目に見える大きさのがんがなくなった後 再びがんが出現することをいいます 再発といってもそれぞれの患者さんで状態は異なります 転移が生じている場合には治療法も総合的に判断する必要があります 患者さんの状況に応じて治療やその後のケアを決めていきます 悪性黒色腫は再発する可能性が高いがんですが 再発しても初期であれば高い治療効果が望めます 13
診断や治療の方針に納得できましたか?/ セカンドオピニオンとは? 診断や治療の方針に納得できましたか? 治療方法は すべて担当医に任せたいという患者さんがいます 一方 自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたいという患者さんもふえています どちらが正しいというわけではなく 患者さん自身が満足できる方法がいちばんです まずは 病状を詳しく把握しましょう あなたの体をいちばんよく知っているのは担当医です わからないことは 何でも質問してみましょう 診断を聞くときには 病期 ( ステージ ) を確認しましょう 治療法は 病期によって異なります 医療者とうまくコミュニケーションをとりながら 自分に合った治療法であることを確認してください 診断や治療法を十分に納得したうえで 治療を始めましょう 最初にかかった担当医に何でも相談でき 治療方針に納得できればいうことはありません セカンドオピニオンとは? 担当医以外の医師の意見を聞くこともできます これを セカンドオピニオンを聞く といいます ここでは 1 診断の確認 2 治療方針の確認 3その他の治療方法の確認とその根拠を聞くことができます 聞いてみたいと思ったら セカンドオピニオンを聞きたいので 紹介状やデータをお願いします と担当医に伝えましょう 担当医との関係が悪くならないかと心配になるかもしれませんが 多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的なことと理解していますので 快く資料をつくってくれるはずです 14 がんの冊子 悪性黒色腫
メモ / 受診の前後のチェックリスト メモ ( 年月日 ) がんの種類 [ ] がんの厚さ [ ] mm 別の臓器やリンパ節への転移 [ あり なし ] 受診の前後のチェックリスト 後で読み返せるように 医師に説明の内容を紙に書いてもらったり 自分でメモを取るようにしましょう 説明はよくわかりますか 整理しながら聞きましょう 自分にあてはまる治療の選択肢と それぞれのよい点 悪い点について 聞いてみましょう 勧められた治療法が どのようによいのか理解できましたか 自分はどう思うのか どうしたいのかを伝えましょう 治療についての具体的な予定を聞いておきましょう 症状によって 相談や受診を急がなければならない場合があるかどうか確認しておきましょう いつでも連絡や相談ができる電話番号を聞いて わかるようにしておきましょう 説明を受けるときには家族や友人が一緒のほうが 理解できたり安心できると思うなら 早めに頼んでおきましょう 診断や治療などについて 担当医以外の医師に意見を聞いてみたければ セカンドオピニオンを聞きたいと担当医に伝えましょう 15
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