阿蘇地域の過去の豪雨災害から 立野ダムを考える 村田重之 ( 崇城大学名誉教授 )
内 容 1. 平成 2 年阿蘇豪雨災害 2. 平成 24 年阿蘇豪雨災害 3. 立野ダムは必要か
1. 平成 2 年阿蘇豪雨災害 (H2/7/2) 根子岳高岳中岳 一の宮町坂梨 根子岳を源流とする古恵川が氾濫被災した一の宮町坂梨と阿蘇山
一の宮町坂梨で氾濫 熊本市 国道 57 号線 古恵川 竹田市 国道 57 号線熊本市 竹田市 古恵川
一の宮町 至竹田市 松原橋 至熊本市
流木が橋にかかり流れを堰き止め氾濫 国道 57 号線の松原橋の河道閉塞 松原橋を下流から 松原橋を上流から 橋下の河道面積が小さい
一の宮町坂梨の流木被害の状況 おびただしい流木に言葉を失う どこから流れて来たのか大きな関心事になる
一の宮町坂梨の流木被害の状況 このあたりに松原橋がある
時間雨量 (mm) 累積雨量 (mm) 阿蘇豪雨災害の降雨特性 100 80 阿蘇乙姫 (H2) 600 500 60 50 40 20 400 300 200 100 0 0 1 6 11 16 21 2 7 12 17 22 3 8 13 18 23 7/1 時刻 7/2 7/3 一宮町で 11 人の死者 昼間の災害で規模の割に死者が少なかった
いたる所で土石流が発生 阿蘇根子岳の土石流 阿蘇高岳の土石流
急斜面に植林された人工林の崩壊 土石流や斜面崩壊の痕跡
土石流による渓岸浸食で拡大した川の中流域 流木の約 7 割が渓岸浸食で発生
10m 位洗掘された場所もある
土石流の通り道に植林 土石流が形成した地盤 川の中に植林?
阿蘇災害調査の新聞記事 ( 熊日 H2/8/3)
古恵川の砂防 治山ダム ダムの破壊で捕捉されていた土石が流出 被害の拡大を招いた ダム天端 ダム天端 下流側 エプロンに大きな穴が開いている土石流の破壊力の大きさを物語る 上流側 ダムの崩壊で堆積した土石が流出
破壊した砂防ダムや治山ダム
練り石積み工法の治山ダム内の構造 ダムの表面は強固に見えるが 中は川底の石が積み重ねられたもので強度に問題がある
内部構造に問題あり このダムは跡形もなく流出 コンクリート製のダムだと骨材が大きすぎ ダムの内部は土と石 かさ上げされたダム
破壊した砂防 治山ダム 国道 57 号線 災害調査の新聞記事 ( 毎日新聞 H2/8/31) 松原橋 豊肥本線 古恵川 根子岳 32 基中 12 基が破壊
ダムの水通し前面が損傷
砂防ダムの破壊のメカニズム
この災害の問題点 人工林で崩壊が多発火山地帯の急な斜面にスギやヒノキを植林 渓岸浸食で多量のスギが流出土石流が形成した場所にスギを植林 植林後の間伐等の管理が不十分 砂防ダムや治山ダムが構造的に問題ダムの崩壊で土石流が規模を拡大 被害が増加
何をすべきか 火山地帯の植林は経済性ではなく 防災を最優先にすること つまり スギやヒノキではなく根の張りの良い雑木のよう樹木を植林する すでに植林した人工林は間伐等の管理を行い 少しでも災害に強い森林にかえて行く 砂防ダムや治山ダムは壊れると被害を拡大するので 壊れないものを造る
災害後に流木対策として透過型の砂防ダムが 造られた 高さ 12-13m
2. 平成 24 年阿蘇豪雨災害 (H24/7/12) 南阿蘇村立野の土石流 一の宮町手野の土石流 平成 2 年の豪雨災害の教訓が生かされていない
塩井川 1 の下流で被害が発生
塩井川 1 の治山ダムの崩壊
塩井川 2 の砂防ダムでは捕捉できなかった土 石流によって下流で被害が発生
塩井川 2 での被害状況
平成 2 年に崩壊した場所が再度崩壊 ( 一の宮町三野古閑 ) 写真は国土地理院のホームページから 平成 2 年の対策工が見える
多くの崩壊が人工林で発生している 立野新所 三野 三野古閑 坂梨
火山地帯の急傾斜地には スギ ヒノキの植林は適さない
管理をしてない人工林 ( 坂梨 )
昼間も暗い 下草が生えていない
阿蘇では今後も同じような災害が 起こる危険性がある
地質的に災害予備軍が至る所に存在する 地質から見た崩壊予備軍 これらを崩壊しないように変えてゆくことは不可能
人工林地帯にも崩壊予備軍が いたる所に存在する 立野地区 人工林地帯の崩壊予備軍 手野地区 崩壊しにくい森林に変えることは可能
不健全な森林を健全な森林へ 保水力の向上 河川への流出水の抑制 防災力の向上 山地崩壊の抑制 樹木の価値向上 林業の活性化 水源涵養 地下水の保全
3. 立野ダムは必要か.
流木が橋にかかり流れを堰き止め氾濫 橋下の河道 ( 幅約 6m 高さ約 2m) 松原橋の河道閉塞 橋下の河道面積が小さい
流木は枝や根があるので絡まって流れてくる 流木は流下中にからまって そのまま束になって流れ堆積したものと考えられる
H24 年の豪雨のとき土砂と流木で満杯 立野ダムの放流孔もこのようになることが予想される
立野ダムの放流孔は流木や土砂で塞がれる 流木には枝や根がついているのでスクリーンに絡まり動かなくなる その後は流木が次々に積み重なり放流孔は閉塞される スクリーンに流木がかかると 土石も堆積し放流孔は完全に塞がれる 国交省の推理模型実験は実際の阿蘇の流木を評価しておらず その結果は当てにならない
有明海への悪影響 洪水がダムで遮断されて土砂が堆積する 堆積した土砂は掘削排除するので 山からの栄養分が海に入らなくなる 山からの栄養分が海に入らなくなると 有明海に異変が起こり 漁業やノリの養殖に悪影響が出かねない 近年漁業者が山からの恵みに気付き 山に植林をするような活動がはじまっているが 悪影響が出てからでは取り返えせない
時間雨量 (mm) 累積雨量 (mm) 時間雨量 (mm). 累積雨量 (mm) 時間雨量 (mm) 累積雨量 (mm) 時間雨量 (mm) 累積雨量 (mm) 昭和 28 年水害よりも激しい降雨が起きている 100 75 50 25 0 阿蘇山 (S28) 1 6 11 16 21 2 7 12 17 22 3 8 13 18 23 時刻 700 600 500 400 300 200 100 0 60 50 40 30 20 10 0 1 14 3 16 5 18 7 20 9 221124 13 2 15 時刻 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 昭和 28 年 6 月 25-27 日 平成 9 年 6 月 6-13 日 100 75 50 25 阿蘇乙姫 (H2) 600 500 400 300 200 100 120 100 80 60 40 20 600 500 400 300 200 100 0 1 6 11 16 21 2 7 12 17 22 3 8 13 18 23 時刻 0 0 1 4 7 1013161922 1 4 7 1013161922 時刻 0 平成 2 年 1-2 日 平成 24 年 7 月 11-12 日
河川改修で被害を最小限に抑えることは可能 28 年以上の豪雨でも大災害は起きていない H24 年の豪雨災害がこの程度の被害で済んだのは 様々な洪水対策の成果とみてよい 現在の河川改修で対応できる 熊本市内で被害が起きているのは 無理な開発に起因している 100% の洪水対策は土木技術の過信であり 次の被害を蓄積してしまう ( 例 : 熊本市龍田の水害 東日本大震災の防潮堤 )
グラウトの地下水脈への影響 ダム本体の下は遮水 ( 岩盤の割目を埋める ) のためにグラウト ( セメントミルクの注入 ) を行う 熊本市は阿蘇カルデラからの伏流水で水道水をまかなっているが 阿蘇から熊本市への地下水の流れはまだ完全に分かっていない 地下水脈が立野河口瀬の下を通っていることが考えられる グラウトで地下水の水脈が遮断されると熊本の地下水の供給が止まって大変なことになるのではないか 地下水が動いているとセメントミルクはなかなか固まらない グラウト工事で地下水が汚染され 汚染された地下水が熊本市に流れてきてそれは長い年月にわたる可能性がある ( 例 : 福島第一原発の棟土壁工事 )
ダムに水が溜まらない 火山地帯の地下はたくさんの亀裂があり ザルに水を灌ぐようなものと考えられる ( 例 : 大蘇ダムで実証済み ) 漏水を止めるために膨大なお金と時間が必要になるだろう こうなった場合いったい誰が責任を取るのだろうか おそらく熊本に大きな負の財産が残され 熊本県民がその被害を受けることになるだろう
立野ダムは未来の阿蘇地域に禍根を残す ( 例 ) 霊台橋と国道の橋 国道 218 線 緑川ダム 上流からの素晴らしい眺望
霊台橋の景観を壊す国道の橋
エル グレコが 1610 年に描いたトレドの町
スペイン内戦で廃墟になったトレドを元の街並 に復旧した 現在は世界遺産になっている 人口 6 万人の町に 万人の観光客が押し寄せる
スペインのトレドの石橋と国道橋 サン マルティン橋 13 世紀建造
おおや気仙沼市大谷海岸の巨大海岸堤防計画 大谷海岸位置図 当初の防潮堤高さ (9.8m) を示す看板
国道 45 号をかさ上げする兼用堤に変更 住民が提案する国道のかさ上げ案 大谷海岸は環境省の 快水浴場百選 にも選ばれたちない随一の観光スポット 砂浜がなくなれば地域の賑わいが取り戻せなくなる 国道 45 号を 9.5m かさ上げして防潮堤の役割を持たせる 兼用堤 とする住民の提案に市長が賛同し 県とも協力して国を動かした
少しの知恵を出せばダム以外での対策は可能 ダムありきから脱却すべき時期に来ているのに 国交省は思考停止している 熊本地震で阿蘇地域で大きな被害を受け 布田川断層が阿蘇まで伸びていることもわかったのに何の反省もない 自然をコントロールしようとすると無理が生じる 災害を完全になくしようとするのではなく ある程度で折合をつけないといけない
今ならまだ間に合う 自然のことがいかに私たちに理解できていないかは 今回の熊本地震や阿蘇山の噴火から誰の目にも明らかである ダムができてからではもう間に合わない 今が中止する最後のチャンスである 世界の阿蘇にこのようなダムをつくれば 外国の笑いものになる 阿蘇の自治体の首長たちは阿蘇の世界に誇る価値を再認識し 今こそ協力して下流の市町村の首長にダムによらない防災を訴えて未来に禍根を残さない行動を起こすべき
立野ダム建設中止を訴える皆様の活動に 敬意を表して講演を終了いたします ご清聴ありがとうございました
技術委員に熊本の人は入っていない 技術委員は阿蘇の世界的な価値についてどの程度の認識を持っていたのか疑問が残る 阿蘇は世界的な価値のある場所なので自分の専門分野だけの判断のみでは済まされない そのような認識が欲しい
柳川の掘割の再生 高度成長期にどぶ川になる コンクリートでフタをして駐車場にする計画が浮上 広松伝氏が市民をまきこみ ドブさらえをして掘割を再生する 今の柳川の観光が生まれた