非典型溶血性尿毒症症候群 (ahus) 1. 概要非典型溶血性尿毒症症候群 (ahus) は志賀毒素による溶血性尿毒症症候群と ADAMTS13 活性著減による血栓性血小板減少性紫斑病以外の微小血管障害で 微小血管症性溶血性貧血 血小板減少 急性腎障害を三主徴とする疾患である 中長期的予後は悪い 移

Similar documents
背部痛などがあげられる 詳細な問診が大切で 臨床症状を確認し 高い確率で病気を診断できる 一方 全く症状を伴わない無症候性血尿では 無症候性顕微鏡的血尿は 放置しても問題のないことが多いが 無症候性肉眼的血尿では 重大な病気である可能性がある 特に 50 歳以上の方の場合は 膀胱がんの可能性があり

109 非定型溶血性尿毒症症候群

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32


10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

汎発性膿庖性乾癬の解明

「             」  説明および同意書

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

複製 転載禁止 The Japan Diabetes Society, 2016 糖尿病診療ガイドライン 2016 CQ ステートメント 推奨グレード一覧 1. 糖尿病診断の指針 CQ なし 2. 糖尿病治療の目標と指針 CQ なし 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士に

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

透析看護の基本知識項目チェック確認確認終了 腎不全の病態と治療方法腎不全腎臓の構造と働き急性腎不全と慢性腎不全の病態腎不全の原疾患の病態慢性腎不全の病期と治療方法血液透析の特色腹膜透析の特色腎不全の特色 透析療法の仕組み血液透析の原理ダイアライザーの種類 適応 選択透析液供給装置の機能透析液の組成抗

Microsoft Word 高尿酸血症痛風の治療ガイドライン第3版主な変更点_最終

Microsoft Word - 届出基準

適応病名とレセプト病名とのリンクDB

スライド 1

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

094.原発性硬化性胆管炎[診断基準]

1治療 かっていたか, 予想される基礎値よりも 1.5 倍以上の増加があった場合,3 尿量が 6 時間にわたって 0.5 ml/kg 体重 / 時未満に減少した場合のいずれかを満たすと,AKI と診断される. KDIGO 分類の重症度分類は,と類似し 3 ステージに分けられている ( 1). ステー

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

5. 死亡 (1) 死因順位の推移 ( 人口 10 万対 ) 順位年次 佐世保市長崎県全国 死因率死因率死因率 24 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 位 26 悪性新生物 350

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

95_財団ニュース.indd

cover

学会名 : 日本免疫不全症研究会 アンケート 1 1. アンケート 2 に回答する疾患名 (1) X 連鎖無 γ グロブリン血症 (2) 慢性肉芽腫症 2. 移行期医療に取り組むしくみあり :1 年に1 回の幹事会で 毎年 discussion している また 地区ごとの地方会で 内科の先生方にいか

頭頚部がん1部[ ].indd

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

甲状腺機能が亢進して体内に甲状腺ホルモンが増えた状態になります TSH レセプター抗体は胎盤を通過して胎児の甲状腺にも影響します 母体の TSH レセプター抗体の量が多いと胎児に甲状腺機能亢進症を引き起こす可能性が高まります その場合 胎児の心拍数が上昇しひどい時には胎児が心不全となったり 胎児の成

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

問 85 慢性腎不全による透析導入基準について正しいのは次のうちどれか 1 透析導入基準の点数が 60 点以上になれば透析導入の判断となる 2 腎機能評価ではクレアチニンが評価項目である 3 血管合併症があれば基準点に加算される 4 視力障害は透析導入基準の評価には含まれない 5 日常生活の障害に関

2017 年 9 月 画像診断部 中央放射線科 造影剤投与マニュアル ver 2.0 本マニュアルは ESUR 造影剤ガイドライン version 9.0(ESUR: 欧州泌尿生殖器放射線学会 ) などを参照し 前マニュアルを改訂して作成した ( 前マニュアル作成 2014 年 3 月 今回の改訂

貧血 


心房細動1章[ ].indd

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

Microsoft Word - todaypdf doc

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

6. 治療法非典型溶血性尿毒症症候群と診断されれば 血漿交換 血漿輸注療法が行われ 唯一の治療であった 非典型溶血性尿毒症症候群に対して 補体 C5 に対するモノクローナル抗体であるエクリズマブが 2013 年 9 月に本邦でも保険適応となり 治療効果が期待されている 7. 研究斑血液凝固異常症等に

皮膚の血管炎・結節性多発動脈炎なら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

ロミプレート 患者用冊子 特発性血小板減少性紫斑病の治療を受ける患者さんへ

2017 年 12 月 28 日放送 第 116 回日本皮膚科学会総会 8 教育講演 14-5 血管性浮腫の診断と治療 横浜市立大学大学院環境免疫病態皮膚科学 准教授猪又直子 はじめに血管性浮腫は 皮膚や粘膜の限局した範囲に生じる深部浮腫で 蕁麻疹の類縁疾患です 近年 国際ガイドラインが発表され メ


医療関係者 Version 2.0 多発性内分泌腫瘍症 2 型と RET 遺伝子 Ⅰ. 臨床病変 エムイーエヌ 多発性内分泌腫瘍症 2 型 (multiple endocrine neoplasia type 2 : MEN2) は甲状腺髄様癌 褐色細胞腫 副甲状腺機能亢進症を発生する常染色体優性遺

糖尿病性腎症に合併したネフローゼ症候群の治療

小児におけるCKD活動


インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

「血液製剤の使用指針《(改定版)

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

ROCKY NOTE クリオグロブリン血症 (140617) クリオグロブリン血症について復習 クリオグロブリンは in virto では 37 以下で析出沈殿し 温めると再溶解する免疫グロブリン (immun

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

認定看護師教育基準カリキュラム

己炎症性疾患と言います 具体的な症例それでは狭義の自己炎症性疾患の具体的な症例を 2 つほどご紹介致しましょう 症例は 12 歳の女性ですが 発熱 右下腹部痛を主訴に受診されました 理学所見で右下腹部に圧痛があり 血液検査で CRP 及び白血球上昇をみとめ 急性虫垂炎と診断 外科手術を受けました し

デベルザ錠20mg 適正使用のお願い

Microsoft Word - ①【修正】B型肝炎 ワクチンにおける副反応の報告基準について

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

330 先天性気管狭窄症 / 先天性声門下狭窄症 概要 1. 概要気道は上気道 ( 鼻咽頭腔から喉頭 ) と下気道 ( 気管 気管支 ) に大別される 指定難病の対象となるものは声門下腔や気管に先天的な狭窄や閉塞症状を来す疾患で その中でも先天性気管狭窄症や先天性声門下狭窄症が代表的な疾病である 多

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

Transcription:

(17) 奇形症候群分野 先天性腎尿路異常 (CAKUT) 1. 概要先天性腎尿路異常 (CAKUT) は様々な腎尿路の発生異常 奇形 機能異常 およびそれらの複合した病態である 進行した慢性腎臓病の原疾患の約 60 % 透析導入される患児の原疾患の約 70 % を占める 多くは他臓器の奇形や異常を伴わない腎尿路単独の異常である一方 複数の臓器異常の一つとして腎尿路異常を合併する奇形症候群も多くみられる 自覚症状に乏しく 発見のためには超音波検査をはじめとする画像検査が必要である 長期的かつ適切なフォローアップにより腎予後を改善させうる 2. 疫学 CAKUT は約 500 出生に 1 例に見られる 進行した小児慢性腎臓病 (CKD) の約 60% を占める 3. 原因 CAKUT の原因遺伝子として HNF1B PAX2( 腎コロボーマ症候群の原因遺伝子 ) EYA1, SIX1( 鰓弓耳腎 (BOR) 症候群の原因遺伝子 ) SALL1( タウンズ ブロックス症候群の原因遺伝子 ) などの主に転写因子および転写調節因子をコードする遺伝子が同定されている しかし CAKUT の関連遺伝子は極めて多く さらにこれらの遺伝子変異が検出されるのは 15% 程度にすぎない 大半の CAKUT 症例は依然としてその原因は不明である 4. 症状画像検査上様々な腎尿路異常 ( 低形成 異形成腎などの発生異常 水腎 水尿管などの尿路通過障害 膀胱尿管逆流など ) を呈する 蛋白尿を認めることがあるが 尿濃縮力障害のため希釈尿であり 試験紙での同定は難しい 胎児期に羊水過少 新生児 乳児期に経口摂取不良や体重増加不良を認めることがある 幼児期には多飲 多尿や低身長を認める 腎機能障害の進行とともに いわゆる尿毒症として全身の様々な臓器の症状が出現する 軽度の異常の場合には成人以後に末期腎不全に至る 5. 合併症尿路感染症 遺尿 夜尿 排尿困難 腎機能障害が進行すると 高血圧 電解質異常 代謝性アシドーシス 腎性貧血 骨ミネラル代謝異常 成長障害などが見られる 6. 治療法時に尿路系の異常に対して泌尿器科的介入が必要となる 腎不全への進行予防のため, 明確なエビデンスに乏しいままアンジオテンシン変換酵素阻害薬 (ACEI) やアンジオテンシン Ⅱ 受容体拮抗薬 (ARB) 球形吸着炭等の投与がなされている 末期腎不全に至れば透析 移植が必要となる

非典型溶血性尿毒症症候群 (ahus) 1. 概要非典型溶血性尿毒症症候群 (ahus) は志賀毒素による溶血性尿毒症症候群と ADAMTS13 活性著減による血栓性血小板減少性紫斑病以外の微小血管障害で 微小血管症性溶血性貧血 血小板減少 急性腎障害を三主徴とする疾患である 中長期的予後は悪い 移植後の再発率は高く 高率に移植腎機能の廃絶に至る 半数以上の症例が補体調節因子異常症による ahus 症例である 2. 疫学本邦推定患者数は不明 欧米では 100 万人に 0.1-0.2 人である 3. 原因 ahus は多くの疾患との関連性が認められているが 半数以上の症例で補体調節因子異常症に伴う補体の過剰活性化が原因であることが判明している 原因として同定された補体調節因子には H 因子 I 因子 MCP トロンボモジュリン C3 B 因子の異常が報告されている また H 因子に対する自己抗体 ( 抗 H 因子抗体 ) が存在する症例もある 4. 症状感染などを契機として 微小血管障害性溶血性貧血 血小板減少 急性腎障害を発症する 疾患予後は異常因子の種類によって異なる 中長期的予後は不良で 腎移植後の再発率および再発時の移植腎機能廃絶率ともに高い 5. 合併症中枢神経合併症 ( 痙攣 皮質盲 半身麻痺 傾眠 昏睡 ) 末梢性壊疽 肺胞出血 呼吸不全 心筋梗塞 6. 治療法血漿交換 血漿輸注などの血漿治療を行う 近年 ヒト C5 モノクローナル抗体 ( エクリズマブ ) による治療が本邦でも開始されている 末期腎不全にいたった場合は腎移植療法 肝腎複合移植を行うことがある

アルポート症候群 1. 概要進行性遺伝性腎炎の代表的疾患で約 9 割が X 連鎖型遺伝を呈する その他常染色体劣性型 常染色体優性型がある 重症例では男性で 10 代後半から 20 代前半に末期腎不全に進行する 若年透析導入の主因である 糸球体基底膜に電子顕微鏡で特徴的網目状変化を認め また皮膚基底膜などの IV 型コラーゲン蛋白の異常を検出することが診断に有用である 遺伝子解析も可能である 2. 疫学本邦の推定患者数は約 25,000 である 3. 原因アルポート症候群では糸球体基底膜に特徴的な変化が見られ その病因は糸球体基底膜を構成する IV 型コラーゲンの遺伝子変異である X 連鎖型アルポート症候群の原因遺伝子は Xq22 遺伝子座に存在する IV 型コラーゲン α5(iv) 鎖遺伝子 (COL4A5) 常染色体劣性アルポート症候群の原因遺伝子は第 2 染色体上の IV 型コラーゲン α3(iv) 鎖遺伝子 (COL4A3) と α4(iv) 鎖遺伝子 (COL4A4) である 腎炎進行機序の詳細は不明で その解明が今後の課題である 4. 症状病初期には血尿が唯一の所見である 蛋白尿は病期の進行とともに増加し ネフロ ゼ症候群を呈することもよくある 進行性の慢性腎炎であり 小児期には通常腎機能は正常で 思春期以後 徐々に腎機能が低下しはじめ 男性患者では 10 代後半 20 代 30 代で末期腎不全に至るものが多い X 連鎖型の女性患者は一般に進行が遅く 腎不全に進行することは稀でキャリアーになることが多い 5. 合併症神経性難聴 網膜 角膜 水晶体病変 6. 治療法現在 疾患病態機序に特異的な治療法はなく今後の課題である 腎不全進行予防のためアンジオテンシン変換酵素阻害薬 (ACEI) やアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) の投与が行われ一定の効果を認めている 一部にシクロスポリンが有効との報告があるが 議論のあるところである 末期腎不全に至れば透析 移植が必要となる

小児 ANCA 関連腎炎 1. 概要 ANCA 関連血管炎とは 抗好中球抗体 (ANCA) という共通の疾患標識抗体による小型壊死性血管炎の一群である 顕微鏡的多発血管炎 (MPA) ウェゲナー肉芽腫症 / 多発血管炎性肉芽腫症 (GPA) チャーグ ストラウス症候群 / 好酸球性多発性血管炎性肉芽腫 (EGPA) の 3 疾患がある これらの疾患は多数の臓器に血管炎病変を形成するが 中でも腎炎は好発病変であり 予後への影響が大きい ANCA 関連腎炎とはこれらの疾患に合併する腎炎の総称である 近年 成人で ANCA 関連血管炎の増加が報告されているが 小児については不明である 2. 疫学小児の頻度は不明である ( 成人は慢性特定疾患の受給者数 8000 人 ) 3. 原因 MPA では好中球のミエロペルオキシダーゼに対する抗体である MPO-ANCA により血管内皮障害 血管炎を生じる 遺伝素因として HLA-DRB1*09:01 DQB1*03:03 ハプロタイプの関連が報告されている 外因としては甲状腺薬や D- ペニシラミンなどが知られている WG では好中球の細胞質に対する PR3-ANCA が関与することが多い AGA も約半数で MPO-ANCA が陽性である ANCA は好中球を活性化し 活性化好中球は直接血管内皮障害を来たす 4. 症状全身性の血管炎として発熱 体重減少 倦怠感 関節炎 消化管出血等を認める MPA の臓器障害は腎炎が最も多く 70-80% の患者に認め 半月体形成性の急速進行性糸球体腎炎を来す 40-60% に間質性肺炎や肺出血などを合併する WG では上気道 気管支 肺などの肉芽腫性炎症を特徴とし さらに腎障害をきたす EPGA では気管支喘息が先行し その後 好酸球増多を伴い発症する また 多発単神経炎や呼吸障害を認める ANCA 関連腎炎では早期発見 早期治療が腎予後の改善に必要である 5. 合併症特に MPA において急速進行性糸球体腎炎の合併頻度が高い 発見時に腎機能障害が進行している事も多く その場合高頻度で末期腎不全に進行する 6. 治療法プレドニゾロン ステロイドパルス療法 シクロホスファミド大量静注療法が寛解導入療法として用いられるが 重症例には 血漿交換やリツキシマブの追加を検討する 寛解維持療法には 低用量のステロイド薬にアザチオプリやミコフェノール酸モフェチルを用いる

18) その他分野 エプシュタイン症候群 1. 概要エプシュタイン症候群は 1) 巨大血小板性血小板減少症 2) 進行性腎機能障害 3) 難聴を合併する遺伝性疾患である 腎機能腎障害は進行性であり 症例により思春期にすでに末期腎不全に至るものもある 難聴 ( 症例によっては完全な聴力消失 ) を伴うため 患者の QOL は著しく損なわれ また血小板減少があることから 血液透析や手術なども困難を極める難治性疾患である 2. 疫学本邦発症数は約 200 名である 3. 原因本研究班の國島らにより エプシュタイン症候群が非筋性ミオシン重鎖 2A(MYH9 遺伝子によりコードされる ) 異常によることが明らかにされている MYH9 遺伝子の特定領域の変異によりエプシュタイン症候群を発症することがある程度判明しつつある 4. 症状 1) 巨大血小板性血小板減少症 2) 進行性腎機能障害 ( 進行が早いものでは思春期に末期腎不全にいたる ) 3) 難聴 ( 進行が早いものは 20 歳台で完全に聴力を失う ) 5. 合併症出血傾向にともなう種々の合併症 腎不全における治療の困難性 6. 治療法エプシュタイン症候群に対しての確立された治療法はない 一方本研究班の関根らの研究では 数名でのパイロット研究からアンジオテンシン受容体拮抗薬のタンパク尿減少効果を確認し また腎機能障害の進展を遅延させることも確認している

若年性ネフロン癆 1. 概要若年性ネフロン癆 (Juvenile nephronophthisis) は 腎髄質に嚢胞形成を認める疾患の代表であり進行性の腎機能障害を呈する 末期腎不全に至る時期により 3 つのサブタイプに分類される 2. 疫学およそ 500~600 名 ( 小児透析患者約 23 万人のうちの約 4%) 3. 原因現在 ネフロン癆には NPHP1~NPHP11 までの責任遺伝子が同定されているが これらのいずれの遺伝子にも異常を見出せないものも少なからず存在する 遺伝形式は主として常染色体劣性遺伝を示すが 弧発例もある 4. 症状進行性腎機能障害による多尿 成長障害 貧血を呈する 5. 合併症本症には 腎外症状から発見される例もある 特に 網膜色素変性症 ( シニア ローケン症候群 ) 眼球運動の失調 ( コーガン症候群 ) 肝線維症 骨格や顔貌の異常なども早期発見のための観察点となる 6. 治療法現時点では腎移植以外に特別有効な治療法はなく 腎機能の低下が進行する場合には 一般的保存的治療が行われる 家族に対する遺伝相談も重要である

(7) 循環器系疾患分野 小児腎血管性高血圧 1. 概要小児腎血管性高血圧は小児の二次性高血圧の原因としては頻度が高い疾患である 降圧薬による内科的な治療では十分な降圧が得られない場合が多い 200mmHg 以上の重度な高血圧を呈する場合も少なくなく 痙攣等の高血圧緊急症で発症する場合もある 高血圧が持続すれば 左室肥大などの心血管障害を招く 一方 成人例に比較し 経皮的バルーン拡張術が奏功しやすく 適切に診断し原因を除去できれば根治可能な疾患である 2. 疫学小児高血圧の 5~10% を占めるが正確な患者数は不明 3. 原因小児では線維筋性異形成 (FMD) の頻度が最も高く その他大動脈炎症候群 神経線維腫症やもやもや病などが原因となる また 11-60% に家族性の発症が報告されており 遺伝子異常の存在が指摘されている 多くは常染色体優性遺伝であるが 浸透率は様々である これらの疾患に伴う腎動脈の狭窄により 腎組織中の血流が低下する結果 レニン - アンジオテンシン (RA) 系の活性化を生じ 末梢血管抵抗が増大するとともにアルドステロンの分泌が促進し ナトリウムおよび水分の再吸収を促進するため 循環血液量が増大し血圧が上昇する 4. 症状収縮期 200mmHg 前後の極めて高値を呈する場合が多く 高血圧脳症や心不全などの重篤な合併症状で発見される場合も多い 多くは 降圧薬によるコントロールが困難な場合が多い 5. 合併症 10~15% の症例で痙攣や意識障害などの高血圧脳症を 7% の症例で心不全を合併する ベル麻痺も腎血管性高血圧の合併症の一つである また しばしば低ナトリウム血症 低カリウム血症 多尿などを合併する 高血圧の発見の遅れや 薬物治療に不応性な高血圧の持続により 高頻度に心血管障害を招く 6. 治療法レニンーアンジオテンシン系阻害薬を主とした内科的治療を行うが コントロールが困難な例が多い 小児は FMD に起因する例が多く 粥状動脈硬化の多い成人例と比較して成功率が高いことから バルーンカテーテルを用いた経皮経管的腎血管形成術 (PTRA) が良い適応となる PTRA での血行再建が困難な場合や再狭窄を来たす症例では 外科的な狭窄部位の切除 自家腎移植術 腎摘出術も検討する必要がある

腎性低尿酸血症 1. 概要腎性低尿酸血症は 腎臓における尿酸の再吸収低下または分泌亢進といった尿酸の排泄亢進に起因する尿酸輸送体病であり 血清尿酸値の低下と尿中尿酸排泄率の増加を特徴とする 合併症として重篤な運動後急性腎不全や尿路結石が問題となる 2. 疫学腎性低尿酸血症 1 型 2 型ともに 正確な疫学データがなく不明である 3. 原因これまでに 腎性低尿酸血症 1 型の病因遺伝子が Urate transporter 1 (URAT1/SLC22A12) であることが報告されていた 最近 本研究班の松尾らによって 2 型の病因遺伝子として Glucose transporter 9 (GLUT9/SLC2A9) が同定された これらはともに腎近位尿細管において尿酸再吸収に働く輸送体である 腎性低尿酸血症には 1 型にも 2 型にも属さないものも存在しており 新たな病因遺伝子の同定及び分子機構の解明とそれに基づく予防法の開発が必要とされている 4. 症状通常 低尿酸血症自体による症状は認めない 急性腎不全など重篤な合併症を発症してから初めて発見されることが多く 疾患の認知度も低いことから 多くの症例で合併症を含めて適切に診断 治療がなされていないのが現状である 5. 合併症本症の合併症として 運動後急性腎不全と尿路結石が挙げられる 最も重篤な合併症である運動後急性腎不全は 運動後数時間してからの急激な腰背部痛 嘔気 嘔吐が特徴である 2-4 週間で腎機能の改善をみることが多いが 約 20% に再発を認める 有酸素運動より無酸素運動の方が 運動後急性腎不全を起こしやすいと考えられている 尿路結石の症状としては 背部痛 血尿などが挙げられる 6. 治療法合併症の予防対策として 運動前の十分な水分補給が挙げられる また 感冒時 抗炎症薬 ( 非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID) など ) の内服時に運動後急性腎不全が生じやすいことが報告されており このようなときには 急激な運動を避けることが必要である 合併症を引き起こす機序は不明であり その解明が期待されるとともに 適切な予防策の策定と啓発が必要である

先天性ネフローゼ症候群 1. 概要先天性ネフローゼ症候群は生後 3 か月以内に発症するネフローゼ症候群で 大きくフィンランド型とびまん性メサンギウム硬化症に分けられる 原因として各種の遺伝子変異が同定されている フィンランド型は常染色体劣性遺伝形式で発症する 低たんぱく血症 浮腫の程度はフィンランド型で重いが 生後 6 か月頃までは腎機能は正常である その後腎機能が低下する びまん性メサンギウム硬化症は 早期から腎機能障害を伴う いずれもステロイドや免疫抑制薬は無効である 2. 疫学本邦発症数不明 3. 原因フィンランド型は 糸球体上皮細胞 ( ポドサイト ) に発現する細胞接着因子であるネフリンの先天的異常により発症する 原因遺伝子は NPHS1 であるが 本邦では臨床所見はフィンランド型であるものの遺伝子変異を伴わない症例が散見され その解明が課題である びまん性メサンギウム硬化症は デニス - ドラッシュ症候群 ピアソン症候群などに合併し 原因遺伝子として WT1,PLCE1 が同定されている 臨床病理所見と原因遺伝子変異を融合して疾患を分類することが今後の課題である 4. 症状フィンランド型では 胎生期から始まる高度のたんぱく漏出により 低たんぱく血症 高度の浮腫が見られ低栄養状態となる また免疫グロブリン 各種ビタミン 凝固因子 甲状腺ホルモン結合蛋白なども漏出する 特に重篤な細菌感染症や血栓症が予後と関係する 腎機能は徐々に低下し 4 5 歳で末期腎不全に至る びまん性メサンギウム硬化症は 症状の程度はフィンランド型より軽いが 発症早期から腎機能障害をともない 数ヶ月のうちに末期腎不全に至る ウイルムス腫瘍の合併が見られる 5. 合併症重篤な細菌感染症 血栓症 高脂血症 外性器異常 ウィルムス腫瘍 6. 治療法ネフローゼ期は 浮腫の管理 栄養補給 ホルモン異常の是正 感染症への対応 血栓症予防などの対症療法を行う 体重 7kg 程度で腎摘 ( 片側または両側 ) を行い 末期腎不全に至ったら透析導入を行う 低たんぱく血症 凝固異常の是正後に腎移植を行う びまん性メサンギウム硬化症では 腎摘せずに末期腎不全に至るため透析導入し 後に腎移植を行う