2014年6月15日

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海外まき網漁業を取り巻く国際激変と漁船大型化の必要性 1. 世界のかつおまぐろ漁獲量 川本太郎 ( 極洋水産株式会社 ) E-mail : tarokawamoto@nifty.com TEL : 054-622-5112 WCPFC Tuna fishery year book 2011 によれば 世界のかつおまぐろ ( メバチ キハダ ビンナガ カツオ ) 漁獲量は年間約 415 万トンであり このうち全体の 56% に相当する 230 万トンが日本の沖合を含めた中西部太平洋で漁獲されている 漁獲物を魚種別に見るとカツオが全体の 59% キハダ 26% メバチ 9% ビンナガ 6% となっている このうちカツオ キハダ ビンナガは主として缶詰原料として利用され メバチは刺身原料として消費される場合が多い また漁法別の漁獲量に着目すると まき網 延縄 一本釣り が三大漁法として知られているが 全体の約 7 割はまき網により漁獲されており 延縄および一本釣りによる漁獲量は各 1 割程度となっている 2. 世界のかつおまぐろ市場と消費形態 かつおまぐろというと日本では 刺身 のイメージが強いが 世界で年間約 415 万トン漁獲かつおまぐろは全体の約 7 割が缶詰やレトルトパウチ等に加工され EU 北米 中南米 アジア 中東等世界中の市場で消費されているのが実態である また 1 割強が生食 ( 日本市場 ) そして残りが鰹節等の加工品として消費されていると推定されている このうち日本市場は年間約 90 万トンのかつおまぐろを消費していると推定され 国単位でみれば世界最大の市場であるが そのシェアは世界全体から見れば 2 割程度に過ぎずむしろ少数派であると言える 一方前述の通り漁獲量全体の約 8 割が缶詰として加工され世界中に流通しているため 世界最大のツナ缶詰生産地であるタイのバンコクが かつおまぐろマーケットの中心的存在であり バンコクのカツオ取引価格いわゆるバンコク価格が世界の価格指標となっており 焼津 山川 枕崎等で水揚げされる日本国内のカツオ相場もバンコク価格にほぼ連動して推移しているのが現状である 3. 日本の漁獲量と海外まき網漁業の現状 平成 25 年度国際漁業資源の現況によれば 日本のかつおまぐろ漁獲量は 1984 年に約 79 万トンのピークにその後しだいに減少し 2011 年には約 46.3 万トンとなったと報告されている かつおまぐろは日本でも 延縄 一本釣り まき網の三大漁法により漁獲されているが そのうち 海外まき網 により年間約 20 万トンが漁獲されており そのうち約 9 割に相当する 18 万トンが中西部太平洋の南方海域で 残り約 1 割が三陸沖の近海漁場で漁獲されている 日本近海漁場では 海外まき網の他 船団式の近海まき網漁船やカツオ一本釣り漁船がカツオが黒潮に乗って回遊してくる春先から夏に掛けて操業を行っている 海外まき網の漁獲量は日本全体の約 43% となっている 一方まき網以外の延縄および一本釣りによる漁獲物は主として 刺身 商材として消費されているのに対して 海外まき網 の漁獲物の大半は我が国の伝統食品であ 1

る鰹節原料として活用されている 2014 年現在 日本船籍の海外まき網船は 32 隻 合弁事業等に従事している外国船籍の日本資本の船を合わせると合計 40 隻が操業している 我が国の海外まき網船は 国内の漁船の中では大型の部類に入るが 世界のまき網船と比較すると最も小型の部類に入る 図 1 に示した通り 世界のまき網船は日本船に代表される国際トン数 1000 トン型 台湾 韓国 中国が採用している 1800 トン型 そして EU 船が採用している総トン数 3000 トン以上のスーパーセイナーの 3 つに大別できる 残念ながら日本の海外まき網船はその殆どが 1000 トン型で 1800 トン型 スーパーセイナー型と比較すると魚倉容積 速力 魚群探索用ヘリコプター搭載等の点で大きく遅れをとっており 経済性 効率性の点で大幅に不利な条件で国際競争を強いられている 1000 トン型 日本標準船 ( ほとんどの日本船がこのタイプ ) 国内トン数 :349 トン 国際トン数約 1000 トン 長さ :65m, 魚倉容積 : 約 800 トン 1800 トン型 ヘリ搭載 アジア標準船 ( 台湾 韓国 中国 米国 ) 国内トン数 :760 トン 国際トン数約 1800 トン 長さ :80m, 魚倉容積 : 約 1200 トン 3200 トン型 ヘリ搭載 スーパーセイナー EU 漁船国際トン数 : 約 3200トン長さ :116m 魚倉容積 : 約 2200トン 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120m 図 1: 世界の海外まき網船大きさの比較 4. 海外まき網を巡る国際環境の変化 我が国の海外まき網漁獲量の約 9 割が漁獲されている南方漁場は 図 2 の通りミクロネシア パプアニューギニア パラオ マーシャル ソロモン ナウル ツバル キリバスの 8 カ国の排他的経済水域 いわゆる 200 海里内に存在している Palau FSM RMI PNG Nauru Solomon Is. Kiribati Tuvalu Source:WCPFC Tuna Fishery Year book 2007 図 2: 南方漁場を構成する太平洋島嶼国資料 :WCPFC Tuna fishery year book 2007 2

これまで日本の海外まき網漁業者は 上部団体である 一般社団法人海外まき網漁業協会 を通じて太平洋島嶼国と二国間入漁協定を締結し 一定の入漁料を支払って入料権を確保してきた 2000 年代初頭までは 年間一定額の入漁料を支払えば漁獲量や入漁日数の制限なく年間操業を行う権利が保障され 年間 1 隻あたりの入漁料も 2000 万円程度であった ( 図 3) 百万円 200 海外まき網漁船 1 隻あたりの年間入漁経費 VD $8,000 150 100 VD $5000 VD $6000 50 0 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 注 )2014 年 :$6000 x 208 日 2015 年 :$10,000 x 208 日で推定出典 : 極洋水産 ( 株 ) 図 3: 海外まき網船 1 隻あたりの年間入漁経費資料 : 極洋水産株式会社 その後 2005 年に 島嶼国 8 カ国で構成される機関である PNA(Party to the Nauru Agreement) が VDS(Vessel Days scheme) を導入し まき網船の入漁料は 年間定額方式 から 漁場に漁船が滞在できる権利 =VD を購入するシステムに変更された VDS 導入当初の 2006 年から 2011 年までは 年間の入漁経費も概ね 4-5000 万円で安定して推移してきたが 2012 年から PNA が VD の最低価格制度を導入するようになって以来 VD 価格は急上昇し 2014 年には 6000 ドルと年々値上がりしたことに加えて 2015 年には VD 最低価格を 8000 ドルとすることが 2014 年 6 月 12 日の PNA 大臣会合で決議された このような経緯から 海外まき網船 1 隻が年間操業に必要な入漁経費は 図 3 に示す通り 2013 年には年間 1 億円を超え 2014 年には 1.3 億 2015 年には 1.7 億円を超えるものと予測される すなわち海外まき網船の年間入漁経費は過去 5 年で約 4 倍に跳ね上がる見込みとなっている さらに PNA 事務局は 2014 年 7 月 29 日 中西部太平洋で海外まき網船を運航する主要漁業者に対して来年分の VD の一部を入札販売する旨の通知を行っており 2015 年から VD の入札制が本格的に運用されることが明らかとなった 2015 年の VD の総枠 (Total Allowable Effort) は既に 44,623 日と決定されているため 今後二国間入漁協定で売買できる VD 枠が削減される可能性が高く 近い将来 VD 不足により操業中断せざるを得ない状況に陥る可能性も否めない 5. 日本の漁業規制と外国漁船との関係 諸外国の海外まき網船が船の大きさ ( トン数制限 ) を受けていないのに対して 我が国の漁船は漁業法の規定により建造できる船の大きさに制限がある 具体的には海外まき網船の場合 漁業法の規定により船の大きさが 階層 1:349 トン以下と階層 2:760 トン以下の 2 段階に分けらが 多くの船が階層 1 の許可もしくは階層 2 でも魚倉容積が階層 1 並に制限された許可しか持っていない 3

FFA の漁船登録によれば 2014 年 6 月現在 中西部太平洋で操業する海外まき網船約 280 隻が登録されているが ( 図 4) 日本船や主として日本の中古船を使用しているフィリピン船を除いて 諸外国の海外まき網船の殆どが 1800 トン型を採用しており これがアジアの標準船型となっている ( 図 1 参照 ) 図 4: 中西部太平洋操業するまき網船の登録数資料 :FFA 漁船登録 このように世界的にみれば 諸外国の殆どの海外まき網船が 1800 トン型 3000 トン型という大型船型を採用しているのに対して 日本船で 1800 トン型以上の船はわずか 4 隻 (1) のみであり それ以外の海外まき網船の殆どが 1000 トン型の小型船で 外国船と比較し経済性 効率性のみならず 安全性や乗組員の居住環境の点でも大きく遅れをとっている 6. 日本船の国際競争力 中西部太平洋海外まき網漁船隻数の推移 2014 Japan Korea 2013 Taiwan 2012 China USA 2011 NZ 2010 Philippine Spain 2009 EC 2008 Ecuador El salvador 2007 Indonesia 2006 FSM Kiribati 2005 Solomon 2004 PNG Marshall 2002 Tuvalu 1999 Vanuatu 0 50 100 150 200 250 300 出典 :FFA 漁船登録 ( 海外まき網船 : 冷凍能力を持つ長さ概ね50m 以上のまき網船 ) 表 1 は 2009 年にフィリピンで開催された WTPO(World Tuna Purse seine fishing Organization: 世界のまき網漁業者が構成する機関 ) 年次会合で 参加各国から報告された採算分岐魚価である この数値は 2009 年当時の漁獲物 1 トン漁獲するために要する漁業コストと言い換えることができ 韓国は日本の約 8 割 フィリピンに至っては日本の 6 割以下のコストで漁業経営が成り立つことを示している 表 1: 各国まき網船の採算分岐魚価 (2009 年 ) 日本を100とし国名採算分岐魚価た場合の比率 フィリピン $800 57% エクアドル $950 68% 韓国 $1,100 79% スペイン $1,200 86% 日本 $1,400 100% 資料 :2009 年 WTPO 年次会合 4

このように我が国まき網漁業の国際競争力が低い理由としては 諸外国と比較して高い人件費や材料費等の点が挙げられるが 繰り返し述べているように船型が外国船と比較して小さいことが最大の要因であると考えられる 2014 年現在 2009 年と比較すると燃料費および入漁経費が大幅に上昇していることを考えると 昨今の魚価水準 ( バンコク相場 (2) 1500 ドル程度 ) ではほとんどの日本船が採算割れとなり 近い将来廃業に追い込まれることが危惧される また図 4 を見ても解るとおり 1999 年以降諸外国のまき網船は急速にその精力を拡大しており 日本船が撤退すれば競争力の高い諸外国まき網船に取って代わられることは間違いなく ますます日本の立場が弱くなるという悪循環に陥る可能性が高い 7. 規制緩和の必要性 これまで述べてきた通り中西部太平洋のまき網漁業を巡る国際環境は現在急速に変化しつつあり これまで国内の遠洋漁業の中では比較的恵まれた経営環境にあると思われていた海外まき網漁業も 昨今の燃料費高騰加えて入漁経費の急激な高騰により今後その存続自体が危ぶまれる状況に陥っている このような問題を解決し日本の海外まき網船の根本的な収益性を高めるためには トン数規制 を大幅に緩和することが不可欠であり規制緩和により漁船の大型化が可能となれば 次の様なメリットにより我が国の海外まき網漁船の国際競争力は大幅に改善されると考えられる 魚倉が大型化され 年間の操業効率が向上すると共に 従来洋上で魚倉に入りきらず投棄せざるを得なかった魚を取り込むことが可能となる 既に外国船では一般的になっている魚群探索用のヘリコプターを搭載することが可能となり 効率的な魚群探索が可能となる 船体の大型化により堪航性 安全性が高まるとともに乗組員の居住環境が改善され 優秀な人材を確保育成できる このように我が国の海外まき網漁業を取り巻く国際環境は これまでに無い速さで変化しており 海外まき網漁業が生き残ってゆく為には漁船の大型化は避けて通れない課題であり最も有効な国際競争力強化対策でもある 一般社団法人海外まき網漁業協会の中前会長もたびたび強調されている通り 域内で操業する漁船がなくなれば 我が国は国際社会で発言力を失ってしまう 今後中西部太平洋に於ける我が国の漁業権益を守ってゆく為には 一刻も早く我が国の海外まき網船をアジア標準船並に大型化することが急務であり 早急な国の対応が望まれる 注 : (1) 日本資本の大型船 4 隻のうち 2 隻は島嶼国船籍に転籍したため 2014 年 8 月現在 日本船籍の大型船は 2 隻のみ ( 調査船等を除く ) (2) バンコク相場とは タイ バンコクで売買されるカツオ (1 尾あたりの重量 1.8kg-3.5kg)1 トン当たりの取引価格 ( 米ドル ) を指し これが世界のカツオ価格の指標として利用されている 参考文献 : (1) WCPFC Tuna fishery yearbook 2007, 2011 (2) 川本太郎 海外まき網漁業の漁業戦略として考えられること 漁業経済学会ディ 5

スカッション ペーパー第 5 巻 (2010 年度 ) (3) 独立行政法人水産総合研究センター 平成 25 年度国際漁業資源の現況 (4) みなと新聞平成 26 年 6 月 26 日 6