SDD とは? Selective Digestive Decontamination 非吸収性抗菌薬を消化管内に投与し, 病院感染の主な原因である好気性グラム陰性桿菌 * や真菌 ** の増殖を選択的に抑制し, VAP や, BT による血流感染などの院内感染症の発症を予防する方法. * 緑膿菌,

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SDD とは? Selective Digestive Decontamination 非吸収性抗菌薬を消化管内に投与し, 病院感染の主な原因である好気性グラム陰性桿菌 * や真菌 ** の増殖を選択的に抑制し, VAP や, BT による血流感染などの院内感染症の発症を予防する方法. * 緑膿菌, エンテロバクタ ** カンジダ 感染の Type ターゲット対応する SDD の 4 要素 一次性内因性 ( 早期 ) 元々患者が保菌していた菌 ( 多くは市中感染起炎菌 ) 経静脈的抗菌薬投与 二次性内因性 ( 後期 ) ICU 入室後に患者が保菌した菌 ( 多くは院内感染起炎菌 ) 口腔 消化管内抗菌薬投与 監視培養による除菌評価 外因性無菌部位に直接混入した菌 手指衛生 選択的口腔咽頭除菌 :SOD Selective Oropharyngeal Decontamination 2013.6.25 ICU 勉強会 一部改

重症感染症を予防し, 生命予後を改善する可能性を示すしかし SDD について懐疑的な意見も存在する. 最初の報告は 1984 年の Van Saene ら. SDD の適応により院内感染症発生率が 81% から 18% へ 劇的に低下したと報告. 2003 年 de Jonge らの RCT では,SDD 群で ICU および院内死亡率が有意に低下した.(OR 0.80 (95%CI 0.69-0.94) 2009 年 Cochrane 共同計画の SDD による肺炎予防および 生命予後改善効果を評価するメタ解析では SDD の予防的 投与群は対照群に比較して肺炎発生率 (OR 0.28 (95%CI 0.20-0.38), 死亡率 (OR 0.75 (95%CI 0.65-0.87) が有意に低下した. Intensive Care Med. 1984; 10: 185-192. 以後 60 以上の RCT 15 以上のメタ解析が行われた Lancet. 2003; 362: 1011-6 Cochrane Database Syst Rev. 2009 CD000022

SDD をめぐる諸問題 1 汎用性 2 耐性菌の出現

汎用性の問題 感染の Type ターゲット具体的な起因菌 一次性内因性 ( 早期 ) 二次性内因性 ( 後期 ) 元々患者が保菌していた菌 ( 多くは市中感染起炎菌 ) ICU 入室後に患者が保菌した菌 ( 多くは院内感染起炎菌 ) グラム陽性球菌群 腸内細菌科グラム陰性桿菌群 グラム陰性桿菌群 外因性 無菌部位に直接混入した菌 SDD の治療対象に含まれていない薬剤耐性菌群による感染症に対しては当然無効である. 具体的には, メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) バンコマイシン耐性腸球菌 (VRE) 基質特異性拡張型 β ラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌群 (ESBL) これらの感染症に慢性的に暴露されている地域とそうではない地域ではその差異を勘案する必要がある.

Cochrane Syst Rev 2009. をよく見ると 報告者年国 n Weight OR 95%CI 耐性菌 De Jonge 2003 オランダ 934 25.0 0.71 0.53-0.94 Aerdts 1991 オランダ 88 1.5 0.67 0.19-2.29 Kerver 1988 オランダ 96 2.5 0.85 0.36-2.04 Stoutenbeek 2007 オランダ 401 7.9 0.94 0.58-1.51 Ulrich 1989 オランダ 112 4.4 0.48 0.23-1.03 Krueger 2002 ドイツ 527 13.7 0.61 0.41-0.91 Abele- Hom 1997 ドイツ 88 1.2 1.17 0.37-3.74 Rocha 1992 スペイン 151 5.6 0.53 0.28-1.02 Sanchez- Garcia 1992 スペイン 271 8.7 0.74 0.45-1.19 2% 4.9% 19.3% Verwest 1997 ベルギー 440 7.1 1.22 0.76-1.96 25.6% Winter 1992 イギリス 183 5.7 0.74 0.41-1.34 27.5% Cockerill 1992 アメリカ 150 3.1 0.63 0.27-1.48 34.2% 死亡リスクが検討された 17 研究のうち, リスク軽減が有意だったのは 2 研究のみ. いずれも, 耐性菌分離率の低い環境 ( オランダ, ドイツ ) からの報告. メタ解析はこの 2 研究の影響を受けている可能性が高い. 2013.6.25 ICU 勉強会 一部改

耐性菌の出現 SDD を導入すると, ICU での GPC の定着率が上昇し, かつ, MRSA の割合が激増する (18% 81%). J Hosp Infect. 1998; 39: 195-206. オーストリア SDD を導入したら ESBL がアウトブレイクした. J Antimicrob Chemother. 2006; 58: 853-6. オランダ 耐性 GNR の分離率が SDD 非施行患者も含めた ICU ユニット全体で考えた場合増加する. Am J Respir Crit Care Med. 2010; 181: 452-7. オランダ 2013 年 Daneman らのメタ解析では,SDD および SOD によって MRSA,VRE の分離率が増加することはなかったと報告. Lancet Infect Dis. 2013; 13: 328-341

これまでのまとめ 臨床的アウトカム 28 日死亡リスクが有意に減る. 血流感染症リスクが有意に減る. 抗生剤の全身投与量が減る傾向にある. 批判的な意見 汎用性の問題. 耐性菌の出現, 分離率が増加する可能性がある. 長期的な予後, 副作用に関しては不明である.

JAMA. 2014 ; 312 : 1429-37.

研究の目的 SDD/SOD における 抗生剤耐性化と 患者アウトカムの比較

方法 患者選択 ICU に 48 時間以上滞在すると予想された患者 研究デザイン 多施設共同研究 (16 ICUs in Netherlands) クラスターランダム化クロスオーバー比較試験 施設 8 施設 8 SDD SOD SOD SDD 期間 2009 年 8 月 1 日 ~2013 年 2 月 1 日 各試験期間 12ヵ月 wash in/out 1ヵ月

方法 : プロトコール 介入対象部位 1, 口腔内投与 (SOD*) 2, 消化管内投与 薬物 ポリミキシン E( コリスチン ) トブラマイシンアンホテリシン B ポリミキシン E トブラマイシンアンホテリシン B 3, 全身投与 ( 静注 ) セフォタキシム ( もしくはシプロフロキサシン ) 投与量 ( 下記を 1 日 4 回 ) 2% ペースト, 0.5g 2% ペースト, 0.5g 2% ペースト, 0.5g 100mg 80mg 500mg 1g4 回 / 日 (11 施設 ) 2g/ 日 (5 施設 ) *SOD=Selective Oropharyngeal Decontamination グループ 1, 口腔内投与 2, 消化管内投与 3, 全身投与 ( 静注 ) SDD(1+2+3) ICU 退出まで ICU 退出まで最初の 4 日間 SOD(1 のみ ) ICU 退出まで ( - ) ( - )

方法 感染が疑われた患者は, 標準的な臨床プラクティスに従って治療された. 嫌気性細菌叢維持 ( コロニゼーションレジスタンス ) の目的で, 嫌気性菌に対する抗菌作用のある抗菌薬は SDD の実施期間中は禁止された. ( アモキシシリン ペニシリン アモキシシリン - クラブリン酸 カルバぺネムなど ) ICU 滞在中, 気管内採痰, 咽頭擦過検体の監視培養, 直腸擦過検体採取を行った.

方法 主要評価項目 抗生剤耐性グラム陰性菌の有病率 直腸および呼吸器サンプルからの耐性菌の有病率 二次評価項目 28 日間での死亡率 ICUにおける菌血症発生率 ICU 滞在および入院期間

方法 ICU における菌血症 ICU 入室後 48 時間以上経過し, 菌血症が疑われた際に採取した血液培養で特定の種で陽性が出た場合と定義. サブグループ解析 外科患者と非外科患者で二次評価項目を比較. 外科患者 :ICU に入室前 1 週間以内に手術を受けた患者

統計解析 方法 主要評価項目 random - effects Poisson regression analysis 二次評価項目 28 日死亡率 :random - effects logistc regression model その他 :Cox regression modeling 統計的有意 p<0.05 データ解析 SPSS version 19.0(SPSS Inc) and R version 2.14.2 (R Project for StaTsTcal CompuTng)

Results

結果 : 割り付け 94 施設がリストアップ 集中治療評価に参加の 79 施設 ICU ケアの水準を満たす 16 施設 8 施設ずつにグループ分け ICU ごとの患者数の幅 201 名から 1945 名

結果 : 患者背景 性別 年齢 人工呼吸器の使用 疾患 APACHEⅣ スコア すべて有意差なし

結果 : 主要評価項目 直腸擦過検体 3776 のサンプルで 384 の定点有病率調査が行われた. 薬剤耐性菌の有病率は,SOD よりも SDD で有意に低かった. ( 抗菌薬高度耐性菌,ESBL 産生菌, アミノグリコシド, シプロフロキサシン, カルバぺネム耐性菌 ) コリスチン耐性グラム陰性菌と VRE の有病率は 1% より低かった. ( 統計学的有意差なし ) SOD および SDD 期間中, 徐々に耐性菌有病率が増加した. SOD に比して SDD で耐性菌増加率が高い傾向にあり, 特にアミノグリコシド耐性菌の増加率が有意に高かった.

結果 : 主要評価項目

結果 : 主要評価項目 呼吸器系サンプル 呼吸器系のコロニーでは 3651 人が定点有病率調査に含まれた 一か月の平均患者数は SOD 群で 156 名 SDD 群で 153 名であった 薬剤耐性微生物の有病率は 直腸擦過検体と比較して呼吸器系サンプルで顕著に低下した SOD と SDD の間で有病率に統計的有意差はなかった 耐性菌増加傾向に有意差はなかった

結果 : 主要評価項目

結果 : 二次評価項目 28 日死亡率 ICU および入院期間 ICU および院内発生のハザードレート 全て有意差なし

結果 : 二次評価項目 ICU における菌血症発生率 菌血症発症率は SOD に比して SDD で低下する傾向にあり, Enterobacteriaceae において有意差があった.(OR 0.42 (95%CI 0.29-0.60) 耐性菌では, アミノグリコシド耐性菌の菌血症が SOD に比して SDD で有意に低下した.(OR 0.54 (95%CI 0.31-0.97) コリスチン耐性グラム陰性菌,VRE,MRSA の菌血症の割合は, SDD および SOD において 0.2% を下回った. 菌血症の発生までの時間に有意差はなかった.

結果 : サブグループ解析 28 日死亡率 ICU および入院死亡率 全て有意差なし

Discussion

SDD/SOD は, 薬剤耐性菌の有病率の低下と関連があった. SOD に比し SDD において有意に菌血症の発生率が減少した. ( とくにアミノグリコシド耐性グラム陰性桿菌において ) その他のアウトカム ( 生存率や IUC 滞在および在院日数 ) に有意差はなかった. SDD および SOD 実施期間中, 徐々に耐性菌有病率の増加を認めた. ( 特に SOD に比して SDD でアミノグリコシド耐性菌の増加率が有意に高かった )

長期投与の影響について SDD の長期的な影響を調査した大規模な研究はこれまでに発表されていない. いくつかの報告において長期間の SDD/SOD による耐性菌の増加は認められていない Intensive Care Med.2006 32:1569-76. J Antimicrob Chemother:2014 Mar;69:797-804 汎用性について オランダの ICU において MRSA,VRE, カルバぺネム耐性グラム陰性菌の有病率は低い. 薬剤耐性菌の有病率の高い地域においては,SDD と SOD の有効性と安全性は不明である MRSA,VRE, 多剤耐性グラム陰性菌の有病率がオランダよりも高い水準の地域で臨床研究を行う必要がある.

コリスチン耐性菌への懸念 本研究では コリスチン耐性菌の有病率は直腸擦過検体において 1.1%, 呼吸器サンプルで 0.6% を下回った. コリスチン耐性グラム陰性菌による菌血症はわずかに 4 例のみであった. カルバぺネム耐性グラム陰性菌感染症の割合が世界各地で増加している今日において コリスチンの重要性は増している. アミノグリコシド耐性菌の増加は, コリスチン耐性獲得の可能性に繋がる. オランダのICUにおけるSDD/SODを使用した研究で, コリスチン耐性菌の増加が報告されている. Intensive Care Med. 2013;39:653-660. コリスチンの日常的ルーチン投与を施行するには,SDD および SOD 双方でアミノグリコシドとコリスチンの耐性菌の出現を注意深くモニタリングする必要がある.

Limita/ons

コントロールグループがない. オランダでは, すでに SDD が標準的な治療として確立されているため. 全身投与の抗菌薬使用を定量化していない. 5 施設はセフトリアキソンをセフォタキシムで代用している. クラスターランダム化試験は組み入れバイアスの影響を受け易い.

Conclusion

SDD/SOD の適応は耐性菌の有病率の 低下と関連がある. 死亡率, 入院期間に有意差なし. SDD/SOD はアミノグリコシド耐性グラム 陰性菌有病率の緩徐な増加を招く. SOD に比して SDD では菌血症は減るが, 耐性菌増加のスピードは速い.

Editorial

耐性菌増加の懸念 耐性菌の増加は, 抗生剤選択の複雑化を招き, さらなる抗生剤投与の遅れに繋がる. 最も大きな懸念はコリスチン耐性菌の増加であり, 世界各地で SDD によるコリスチン耐性菌の増加が報告されてきている. 潜在的に全ての抗生物質に耐性を持つこととなるため, コリスチン耐性を得たカルバペネム耐性腸球菌の出現は特に脅威である. リミテーションへの言及 オランダでの研究であること, コントロール群の欠如に加えて, 最も重要なリミテーションは, 抗生剤の経口投与を増進したことである.

将来的な展望 抗菌薬使用と耐性化の問題に対する将来的なアプローチとして, 非抗生物質的あるいは非薬理学的な方法が最も合理的な方法のようである. 具体的には分子レベルの手法や顕微鏡技術の進歩によって, 菌の同定, 耐性菌の発見の迅速化を図ることで, 漫然としたエンピリックな抗生剤治療を避け, 不必要な抗生剤暴露を最小限に留めることである. 腸内細菌叢の維持が耐性菌増加を防ぎ院内感染を減らすとの報告もあり, プロバイオティクス, 新型ワクチン, モノクローナル抗体, 宿主免疫調整療法といった, 宿主の微生物叢に与える影響が低い感染症の治療 予防戦略の研究も並行していく必要がある.

私見 オランダでの SDD のエビデンスは確立しているが, 他の医療状況において十分な有効性評価や副作用に関する知見が得られていない現時点では, 当院をはじめ他の医療機関で現行をそのまま臨床現場に用いることは困難と言わざるを得ない. SOD と SDD を比較した時, どちらが導入し易いかという問いに関しては, 生存率改善はほぼ同等 費用 簡便さ 耐性菌増加のスピード 腸管細菌叢への影響などの観点から,SOD の方に軍配が上がるのではないかと思う