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査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

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Transcription:

30 日眼会誌 116 巻 1 号 第 5 章 緑内障の病型別治療 はじめに緑内障治療 ( 治療方針の決定, 変更, 治療の実施, 経過観察 ) にあたって患者との信頼関係を築くことが, 有効な治療を導く最大の要点であることを忘れてはならない. また, 各治療法の効果と副作用 ( 合併症 ) を理解し, 効果が患者の視機能, 全身状態,quality of life(qol) に与える負の効果を上回る治療法を選択しなければならない. 治療中の経過観察間隔は各症例の眼圧, 視神経, 視野の状態によって短縮, あるいは延長されることを理解し, 画一的観察を行ってはならない. 経過観察には眼圧測定, 視野検査, 視神経検査などを行い, 視神経検査では画像記録を行うことが望ましい. Ⅰ 原発緑内障. 原発開放隅角緑内障治療の目標眼圧は各症例の病期, 病態によって決定されるが ( フローチャートⅣ, 第 4 章参照 ), あくまでも目安であることを銘記し, 目標眼圧が達成されていることに満足して観察を怠ったり, 逆に目標眼圧値にこだわって過度な治療を行ってはならない. ) 薬物治療 原発開放隅角緑内障の治療は薬物治療を第 1 選択とする. 薬物治療は眼圧下降点眼薬の単剤療法から開始し, 有効性が確認されない場合には他剤に変更し, 有効性が十分でない場合には多剤併用 ( 配合点眼薬を含む ) を行う. 眼圧下降効果の確認には, 可能であれば片眼投与による非点眼側との眼圧比較, あるいは無治療時, 治療時の眼圧日内変動測定を行い, 治療効果の安定性を確認する. 眼圧下降療法以外に視神経血流改善療法や神経保護治療が注目され, カルシウム拮抗薬内服の有効性を推定する報告もあるが, 多数例を対象とした多施設共同研究や, 無作為投与試験による明確な治療効果の証明はなされていない. ) レーザー線維柱帯形成術 非観血的手術として外来で点眼麻酔下に施行できるという利点がある. 眼圧下降効果の持続性については経時的に低下することが知られており, 術後 10 年の経過では 10 30 % の例で眼圧下降が維持されているにすぎない. さらに, 施術の有効例と無効例を予測することができない. また, 線維柱帯組織が障害され長期的には 房水流出機能を低下させ, 眼圧上昇を来す可能性もあることから, 最終的に観血的手術を行えない, あるいは拒否する患者に対して安易に施術することは 避けなければならない. 眼圧が投薬下で 25 mmhg を超える例での眼圧正常化は困難であることが知られている. 施術に際してはレーザー照射後眼圧上昇を来す例があるので, 施術後数時間の眼圧モニターを行い, 上昇例では眼圧値, 視神経, 視野の状態に応じて眼圧下降手段を講じる. レーザー照射後の眼圧上昇予防に交感神経 a 2 刺激薬 ( アプラクロニジン ) の術前後の点眼が有効性であることが知られているが, その効果が完全ではないことから照射後 1 3 時間の眼圧モニターを怠ってはならない. ) 観血的手術 ( 必要に応じて術後薬物治療を追加 ) (1) 濾過手術 ( 代謝拮抗薬併用 / 非併用線維柱帯切除術, 非穿孔性線維柱帯切除術, チューブシャント手術 ) (2) 房水流出路再建手術 ( 線維柱帯切開術など ) 現在最も広く行われている術式は線維柱帯切除術である. また近年では海外においてチューブシャント手術が一般化しつつあり, 良好な成績が報告されているが, ただし, 我が国においては医療器具として最近その一部が認可されたばかりで使用経験に乏しい. また, 術後合併症の問題も存在する. 線維柱帯切開術の術後眼圧は線維柱帯切除術に比べて高値で, 術後緑内障治療薬併用で 10 mmhg 台後半であることが知られているが, 線維柱帯切除術に比べて合併症が少なく代謝拮抗薬を併用しない利点がある. 非穿孔性線維柱帯切除術に関しては, 成績は代謝拮抗薬併用線維柱帯切除術に比較して眼圧下降効果に劣ることは多くの報告で一致している. (3) 毛様体破壊術原発開放隅角緑内障 ( 広義 ) 治療で必要となることはまれである. 眼球構造, 機能に影響が大きく適応にはきわめて慎重であるべきである. ) 経過観察経過観察間隔は各症例の眼圧, 視神経, 視野の状態によって短縮, あるいは延長されることを理解し, 画一的観察を行ってはならない. 眼圧のコントロールが得られても 1 数か月に 1 回の眼圧測定, 視神経観察, 年に 1 2 回の視野測定を行う. また, 眼底画像記録も経過を知るうえで有用である. 濾過手術眼では濾過胞感染の危険を説明し, 充血, 流涙, 霧視, 眼痛などの感染を示唆する症状があれば直ちに来院するように指示することが大切である.

平成 24 年 1 月 10 日第 5 章緑内障の病型別治療 31 付記 1) 高眼圧症眼圧が統計学的に規定された正常上限を超えていながら, 視神経, 視野に異常のない例が原発開放隅角緑内障に移行する割合は1 年に1 2% にすぎない. 米国で行われた多施設共同研究では眼圧が 24 32 mmhg の高眼圧症例を無作為に無治療群もしくは治療群 ( 点眼療法で眼圧 24 mmhg 以下を目標とする ) に分けて 5 年間にわたって観察した結果, 視野障害あるいは視神経障害の発症が治療群で有意に少なかったことが示されているが, 眼圧が 24 mmhg 未満の例にも治療が有効であるかなどは検討されていない. したがって, 眼圧が正常値上限を僅かに超えていることのみでは治療対象とする十分な理由とはならない. 繰り返し眼圧 20 mmhg 台後半を示すような例, 緑内障家族歴などの危険因子 ( 第 2 章参照 ) のある場合には, 耐用可能な点眼薬で治療を行うことでは見解が一致している. 経過観察間隔は 1 数か月ごととし, 眼圧の推移を観察する. 視神経, 視野検査が正常であることが確認され, かつ, 原発開放隅角緑内障へ移行する危険因子のない例では 1 2 年おきの眼圧, 視神経検査, 視野検査を行う. 付記 2) preperimetric glaucoma 眼底検査において緑内障性視神経乳頭所見や網膜神経線維層欠損所見などの緑内障を示唆する異常がありながらも通常の自動静的視野検査で視野欠損を認めない状態を preperimetric glaucoma と称することがある. この状態には緑内障の前駆状態もしくは緑内障に類似した所見を示している正常眼もしくは他の疾患の一部が含まれると考えられ, 原則的には無治療で慎重に経過観察する. しかしながら, 高眼圧や, 強度近視, 緑内障家族歴など緑内障発症の危険因子を有している場合や, より早期の緑内障性異常が検出できる可能性があるとされるその他の視野検査や眼底三次元画像解析装置により異常が検出される場合には, 必要最小限の治療を開始することを考慮する.. 正常眼圧緑内障治療の目標眼圧に関して, 米国での多施設共同研究の結果では無治療時眼圧から 30% 以上の眼圧下降を得られた群と無治療群では視野障害進行に有意の差があり, 眼圧下降が有効であることが報告されている. しかし, 眼圧下降が必ず 30% 以上である必要があるか否かは不明である. また報告では 30% 以上の眼圧下降を得るために半数以上で濾過手術が適用されており, 術後の白内障進行が視機能を低下させることも報告されている. 治療と経過観察は, 原発開放隅角緑内障に準じるが, レーザー線維柱帯形成術は眼圧下降効果が小さいと考えられている. 眼圧下降療法以外に視神経血流改善療法や神経保護治 療が注目され, カルシウム拮抗薬内服の有効性を推定する報告もあるが, 多数例を対象とした多施設共同研究や, 無作為投与試験による明確な治療効果の証明はなされていない.. 原発閉塞隅角緑内障 原発閉塞隅角症 -A. 相対的瞳孔ブロックによる原発閉塞隅角緑内障 原発閉塞隅角症レーザー虹彩切開術あるいは虹彩切除術による瞳孔ブロック解除が根本的治療法であり, 治療の第 1 選択である. 有水晶体眼では水晶体摘出も有効であるが, 白内障手術の適応のない例に, 瞳孔ブロック解除を目的とした水晶体摘出を行うことについては意見が分かれる. 薬物治療による眼圧下降は瞳孔ブロック解消後にも遷延する高眼圧 残余緑内障 (residual glaucoma) に対する治療法として, あるいは急性緑内障発作などの例では症状や所見を緩和し, さらにレーザー虹彩切開術や虹彩切除術の施行を容易にし, 安全性を高める目的で行われる. また, ほとんどの例が両眼性であることから, 片眼に原発閉塞隅角緑内障 原発閉塞隅角症がみられた場合は, 他眼に対しても予防的なレーザー虹彩切開術や虹彩切除術を行う. A-ⅰ) 急性原発閉塞隅角緑内障 急性原発閉塞隅角症 ) 薬物治療 (1) 高張浸透圧薬高度の眼圧上昇を沈静化させるのに最も有効な薬剤である. 高張浸透圧薬は細胞外液に分布し, 血液の浸透圧を高めて細胞内液の水分を細胞外液に移行させる作用を持ち, 眼内では主に硝子体液が脈絡膜毛細血管に引き込まれ, 硝子体容積の減少によって眼圧下降が得られる. 硝子体容積の減少は, 虹彩を後退させ, 前房を深くし, 急性原発閉塞隅角緑内障 急性原発閉塞隅角症発作の際に有効性を発揮する. 高張浸透圧薬の点滴は最も即効性で眼圧下降効果が強いが, 全身的には急激な細胞外液量の増加は循環血漿量の増加となり循環器系に負担をかけ, 心不全, 肺うっ血の患者では肺水腫を起こす可能性に注意しなければならない. また高張浸透圧薬の眼圧下降効果は一時的であり, 持続的眼圧下降を期待しての度重なる投与は全身状態を悪化させるのみであることを銘記しなければならない. a. 点滴マンニトール :20% マンニトール溶液 1 回 1.0 3.0 g/kg を 30 45 分で点滴静注する. 眼圧が最低値に達するのは 60 90 分後で, 眼圧下降の持続は 4 6 時間である. マンニトールは腎から排泄されるため, 腎障害で排泄が減少していると血漿浸透圧が上昇し循環血漿量が増加することにより急性腎不全を来すことがある. また急

32 性緑内障では発作時には既に嘔吐により脱水に陥っていることがあるが, マンニトールの利尿作用により脱水が悪化する可能性がある. グリセオール :300 500 ml を45 90 分で点滴静注する. 点滴開始から 30 135 分で最低眼圧に達する. 効果持続時間は約 5 時間である. 代謝過程でぶどう糖を生じ, また 1 l あたり 637kcal のエネルギーを有することから, 糖尿病患者への投与には注意が必要である. b. 内服イソソルビド :70% 溶液 70 140 ml を1 日 2 3 回に分けて投与する. グリセリン :50% 内服液 3 ml/kg を1 日 1 2 回投与する. (2) 縮瞳 1% あるいは 2% ピロカルピンを 1 時間に 2 3 回点眼する. 高眼圧のため瞳孔括約筋が虚血状態になり対光反射が消失 ( 括約筋麻痺 ) している場合, 副交感神経刺激薬の頻回投与は効果がなく, 縮瞳せず, かえって毛様体筋の前方移動の原因となって瞳孔ブロックが増強する. また大量の縮瞳薬の投与は経鼻的に吸収され全身的な副作用を引き起こし, 腹痛の原因ともなる. したがって, 強力な副交感神経作動薬の投与は好ましくない. (3) 房水産生の抑制 a. アセタゾラミド10 mg/kg 経静脈あるいは経口投与 b. 交感神経 b 遮断薬点眼 c. 交感神経 ab 遮断薬 d. 炭酸脱水酵素阻害薬点眼 (4) 房水流出の促進 a. プロスタグランジン関連薬点眼 b. 交感神経 a 1 遮断薬 c. 交感神経 ab 遮断薬 (1) レーザー虹彩切開術レーザー虹彩切開術は角膜が十分に透明な状態で施行すべきである. 不透明な角膜を通してのレーザー照射は水疱性角膜症発症の危険が高い. したがって角膜混濁の例では無理なレーザー照射を避け, 手術的虹彩切除術の適応を考慮する必要がある. レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症発症は, 滴状角膜, 糖尿病患者, あるいは急性緑内障発作既往のある例, あるいは角膜内皮細胞が既に減少している例で多いことが知られている. (2) 手術的虹彩切除術手術的虹彩切除術はレーザー照射が困難な角膜混濁の状態でも施術可能であるという利点を有する一方, 内眼手術に伴う危険がある. 特に原発閉塞隅角緑内障 原発閉塞隅角症の急性発作眼では悪性緑内障の発症や脈絡膜出血などの危険があり, 術前に十分な眼圧下降を行う必要がある. 日眼会誌 116 巻 1 号 A-ⅱ) 慢性原発閉塞隅角緑内障急性原発閉塞隅角緑内障 急性原発閉塞隅角症と同様, 瞳孔ブロックの解消が治療の基本である. 瞳孔ブロック解除後の遷延する高眼圧 残余緑内障 (residual glaucoma) に対する治療は原発開放隅角緑内障に準じ, 薬物治療, レーザー療法, 手術療法を行う. ) 薬物治療 ( 原発開放隅角緑内障に準じて以下の薬物を組み合わせて使用する ) a. プロスタグランジン関連薬 b. 交感神経 b 遮断薬 c. 交感神経 ab 遮断薬 d. 交感神経 a 1 遮断薬 e. 副交感神経刺激薬 f. 炭酸脱水酵素阻害薬 g. 配合点眼薬 (1) レーザー線維柱帯形成術周辺虹彩前癒着のない部分に適用可能であるが, 眼圧下降効果が弱い. 狭隅角眼では照射後の周辺虹彩前癒着形成を来しやすいことに注意が必要である. (2) 房水流出路再建術 ( 隅角癒着解離術, 線維柱帯切開術 ) 隅角癒着解離術は周辺虹彩前癒着が広範な例 ( 例えば隅角の半周以上 ) が適応となる. 線維柱帯切開術は線維柱帯が開放している部分に適用される. また, 周辺虹彩前癒着を解離する目的でも用いられる. 両術式ともに水晶体摘出 ( 眼内レンズ挿入術を含む ) を併用することにより, 手術部の再癒着が予防され, 眼圧下降効果も優れていることが報告されている. (3) 線維柱帯切除術薬物治療で眼圧コントロールが不十分な例, 周辺虹彩前癒着が長期にわたる例, 隅角の透見が困難で隅角癒着解離術が施行しがたい例, あるいは隅角癒着解離術や線維柱帯切開術が奏功しなかった例が適応となる. 手術に際して狭隅角眼では, 前房消失, 悪性緑内障などの合併症が少なくないことに留意する必要がある. 付記 ) 原発閉塞隅角症疑い (PACS) 原発閉塞隅角症疑いに対してレーザー治療を含む瞳孔ブロック解除手術を行うことについては, 必ずしも原発閉塞隅角緑内障を発症するとは限らないことより意見が分かれる. しかしながら各種負荷試験陽性眼や定期検査のできない例, 急性発作時にすぐに眼科を受診できない例, 原発閉塞隅角緑内障の家族歴のある例, 糖尿病網膜症などの眼底疾患で散瞳する機会が多い例は手術の適応と考えてよい. 原発閉塞隅角症疑いに対する瞳孔ブロック解除は原発閉塞隅角緑内障 原発閉塞隅角症発症への予防的治療であることから, 観血的虹彩切除術ではなく, レーザー虹

平成 24 年 1 月 10 日第 5 章緑内障の病型別治療 33 彩切開術が適応となる. 白内障手術適応のある例では水晶体摘出も瞳孔ブロック解除に有効である. -B. プラトー虹彩機序による原発閉塞隅角緑内障 原発閉塞隅角症 ) 薬物治療縮瞳により周辺部虹彩を中心に向かって牽引し, 隅角を開大し, 隅角閉塞の進行を予防する. 周辺虹彩前癒着が広範囲で, 縮瞳剤のみでの眼圧下降が得られない場合には, 瞳孔ブロック解除後の慢性原発閉塞隅角緑内障と同様, 房水産生抑制, 房水流出促進を目的とした薬物治療を行う. レーザー隅角形成術 ( レーザー周辺部虹彩形成術 ) により虹彩根部を収縮し, 虹彩根部と隅角との距離を広げることが可能であるが, 長期的有効性はまだ分かっていない. 虹彩切除術やレーザー虹彩切開術はプラトー虹彩に瞳孔ブロック機序を合併している場合にのみ有効である. 白内障手術適応のある例では水晶体摘出によって隅角開大が期待できる.. 混合型緑内障本来は原発開放隅角緑内障と原発閉塞隅角緑内障の合併例を混合型緑内障と呼称するが, 慢性原発閉塞隅角緑内障, および単なる狭隅角眼に生じた原発開放隅角緑内障との鑑別は厳密には不可能である. しかし治療の面からは瞳孔ブロックの解消が第 1 であり, その後は原発開放隅角緑内障として治療を行う点では原発閉塞隅角緑内障 原発閉塞隅角症と同様である. Ⅱ 続発緑内障 続発緑内障の治療は可能な限り原因疾患の治療を第 1 とする. 併発症である緑内障の治療法は各疾患で大きく異なることから, 各疾患の眼圧上昇機序を把握して治療法を選択する必要がある. 続発緑内障は開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障に大別されるが, 原疾患ならびにその病態によって必ずしも明確に開放隅角と閉塞隅角に区別できないことに注意が必要である. 隅角検査は眼圧上昇機序の判断のみならず, 病型診断にも不可欠である. 以下に主な眼圧上昇機序による分類とそれに属する各疾患を挙げ, 代表例についての治療法を記す.. 続発開放隅角緑内障 -A. 線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障 A-ⅰ) 血管新生緑内障, 異色性虹彩毛様体炎, 前房内上皮増殖など ) 薬物治療原発開放隅角緑内障に準じて薬物治療を行うが, 副交 感神経刺激薬は無効例が多く, 血液房水柵の破壊による病態悪化を来す場合もある. また, 保険適用外ではあるが, 血管新生緑内障に対して抗血管内皮増殖因子 (vascular endothelial growth factor:vegf) 薬の眼内投与の有効性が報告されており, 短期的な症状緩和や手術成績の向上に有効である. 線維柱帯切除術 ( 代謝拮抗薬併用 / 非併用 ) を行う. レーザー線維柱帯形成術は無効であるばかりではなく有害である. 非穿孔性線維柱帯切除術, 房水流出路再建手術 ( 線維柱帯切開術 ) の有効性は確認されていない. 血管新生緑内障ではレーザーあるいは冷凍法による可及的網膜凝固が行われなければならない. -B. 線維柱帯に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障 B-ⅰ) ステロイド緑内障 (1) 副腎皮質ステロイド薬の中止 (2) 眼圧下降薬の点眼および全身的な投与 (3) レーザー線維柱帯形成術 (4) 線維柱帯切開術, 線維柱帯切除術 ( 代謝拮抗薬併 用 / 非併用 ) B-ⅱ) 落 緑内障 (1) 点眼療法 (2) レーザー線維柱帯形成術でしばしば大きな眼圧下降が得られる, 線維柱帯切開術 B-ⅲ) 炎症性疾患 (Posner-Schlossman 症候群, サルコイドーシス,Behçet 病, ヘルペス性角膜 ぶどう膜炎, 細菌 / 真菌性眼内炎など ) (1) 消炎療法 (2) 点眼療法 B-ⅳ) 水晶体融解緑内障 (1) 眼圧下降薬の点眼および全身的な投与 (2) 原因である水晶体や水晶体断片の摘出, 抗炎症薬の点眼, 場合により硝子体切除術 B-ⅴ) Schwartz 症候群 (1) 眼圧下降薬の点眼および全身的な投与 (2) 網膜復位手術 レーザー線維柱帯形成術は無効である. 線維柱帯切開

34 術の有効性は確認されていない. 日眼会誌 116 巻 1 号 眼では水晶体摘出術を併用する場合もある ) B-ⅵ) 色素緑内障, あるいは色素散布症候群 (1) 点眼療法散瞳薬は色素散布を招き, 房水流出を悪化させる危険がある. (2) レーザー線維柱帯形成術線維柱帯の色素沈着が高度であるため, 通常より出力を低くする. 眼圧の反応は変動が大きい. (4) レーザー虹彩切開術, 水晶体摘出術逆瞳孔ブロックが明らかな例では虹彩と水晶体の接触による色素散布を減少させ, 不可逆的な線維柱帯の障害を予防しうる可能性がある. -C.Schlemm 管より後方に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障 C-ⅰ) 甲状腺眼症などの眼球突出, 内頸動静脈瘻などの静脈圧亢進 (1) 原疾患の治療 (2) 眼圧下降薬の点眼および全身的な投与 (3) 症例に応じて手術療法. 続発閉塞隅角緑内障 -A. 瞳孔ブロックによる続発閉塞隅角緑内障 A-ⅰ) 膨隆水晶体, 小眼球症, 虹彩後癒着, 水晶体脱臼, 前房内上皮増殖など瞳孔ブロックの原因となる機序の臨床像によって, 治療法を考慮する必要がある. (1) 眼圧下降薬の点眼および全身的な投与 (2) レーザー虹彩切開術 (3) 水晶体摘出術, 硝子体切除術 (4) 縮瞳薬が原因の瞳孔ブロックでは縮瞳薬の中止 -B. 水晶体より後方に存在する組織の前方移動による続発閉塞隅角緑内障 B-ⅰ) 毛様体の前方突出, あるいは虹彩 水晶体 ( 硝子体 ) 壁の移動による緑内障 ( 広義の悪性緑内障 ): 悪性緑内障, 網膜光凝固後, 強膜内陥術後, 後部強膜炎, 原田病, 網膜中心静脈閉塞症など (1) 縮瞳薬は毛様体前方突出を助長するため禁忌 (2) アトロピン点眼による瞳孔散大と毛様体弛緩 (3) 高張浸透圧薬の全身投与および眼圧下降薬の点眼および全身投与 (4) 人工水晶体眼あるいは無水晶体眼ではレーザーあるいは手術的前部硝子体膜切開術や水晶体囊切開 術 (5) 前部硝子体膜切開を伴う硝子体切除術 ( 有水晶体 B-ⅱ) 眼内占拠病変による緑内障 : 眼内腫瘍, 囊腫, 眼内タンポナーデ ( ガス, シリコーンオイルなど ), 眼内出血 ( 脈絡膜出血など ) など (1) 眼圧下降薬の点眼および全身投与 (2) レーザー囊胞破壊術あるいは手術的囊胞摘出術 (3) 腫瘍切除 (4) タンポナーデ物質除去 (5) 眼内出血除去 -C. 前房深度に無関係に生じる周辺虹彩前癒着による緑内障 C-ⅰ) 遷延する前房消失あるいは浅前房, 炎症性疾患, 角膜移植後, 血管新生緑内障, 虹彩角膜内皮 (ICE) 症候群, 後部多形性角膜ジストロフィ, 虹彩分離症など (1) 薬物治療 (2) 線維柱帯切除術 ( 代謝拮抗薬併用 / 非併用 ) 遷延した前房消失, 浅前房による周辺虹彩前癒着例では水晶体摘出と隅角癒着解離術が有効である可能性もある. (3) 血管新生緑内障ではレーザーあるいは冷凍法による網膜凝固を可及的に行う. Ⅲ 発達緑内障. 早発型発達緑内障治療の第 1 選択は手術療法である. これは本症発症の原因が隅角の発育異常であり多くは手術的に解決可能であるという経験的事実, また乳幼児では薬物治療の実効ならびにその効果確認が困難であることによる. 薬物治療は手術療法後の補助手段として行われる. (1) 隅角切開術透明な角膜を有する例に対して適用される.1 回の隅角切開術で 90 120 度の切開が可能である.3 回までは手術の追加効果がみられることが多い. 本術式と線維柱帯切開術との選択は術者の経験による. (2) 線維柱帯切開術隅角切開術に比べて角膜の透見が困難であっても施術できる利点を有するが, 施術に際しての結膜弁, 強膜弁 を作製する必要があり, 将来濾過手術を要した際にその施術を困難にする可能性がある. また, 巨大角膜例では Schlemm 管の同定が困難である場合もあり, 施術に際しては豊富な手術経験を必要とする. (3) 濾過手術隅角切開術あるいは線維柱帯切開術の無効な例が適応となる. 早発型発達緑内障患者の強膜は薄く, 強膜弁の作製が困難であるばかりでなく, 虹彩, 毛様体の解剖学

平成 24 年 1 月 10 日第 5 章緑内障の病型別治療 35 的異常が多いことを念頭に置く必要がある. また乳幼児では代謝拮抗薬を併用しても濾過胞形成が困難である例, あるいは濾過胞が形成されても, その後の長い人生で術後感染の危険にさらされることを考慮して適応を決定しなければならない. (4) チューブシャント手術 (5) 毛様体破壊術 ) 薬物治療原発開放隅角緑内障に準じて, 薬物を組み合わせて使用するが, 乳幼児では点眼薬であっても体重, 体表面積に比して投与量が多くなることを念頭に置き, 可能な限り低濃度薬剤から使用すべきである. またどの薬物も乳幼児, 小児における安全性および効果についてのデータは確立していないことを忘れてはならない.. 遅発型発達緑内障原則的に原発開放隅角緑内障の治療に準ずるが, 隅角形成異常や著しい高眼圧など早発型と重なる部分も大き いため, その点も考慮に入れて治療にあたることが必要である.. 他の先天異常を伴う発達緑内障 : 無虹彩症, Sturge-Weber 症候群,Axenfeld-Rieger 症候群,Petersʼ anomaly, 第一次硝子体過形成遺残,Marfan 症候群, 神経線維腫症, 風疹症候群, 先天小角膜, 先天ぶどう膜外反,Weill-Marchesani 症候群, ホモシスチン尿症,Pierre Robin 症候群,Lowe 症候群,Rubinstein- Taybi 症候群,Hallermann-Streiff 症候群など以上の疾患が緑内障を併発することが知れられているが, 発症確率は十分に検討されていない. また, 発症時期も生下時から成人まで多岐にわたり, さらに眼圧上昇機序も異なるため, 治療法も一定ではない. 原則として乳幼児期の発症例に対しては早発型発達緑内障に準じて手術療法が第 1 選択であり, 小児期以降の発症では薬物治療を第 1 選択とする.