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2.2 数値制御 (NC) マーキン 切断 三菱重工技報 Vol.50 No.2 (2013) マーキン 切断においては,3 台の NC レーザ切断機を導入している NC レーザ切断機は, 切断溝が 0.7mm と狭く, 切断時のトーチ角度の影響による切断面のべベル角がないことから NC プラズマ切断機と比較して切断精度が優れておりバラツキも少ない これら, 一連の切断工程終了後には, 部材切断精度の計測を必ず実施し, 定期的な装置メンテナンスに加え 1mm 以上の寸法誤差が発生した場合には, 芯出し調整を行うという体制を整えた 2.3 小組小組ステージでは, トランス材の板継やスティフナ取付け等を主に行っている 小組では, 溶接による熱収縮が大きく影響するため, 単位長さあたりの縮み代をあらかじめ鋼板に付加している 小組での主な溶接法である, 両面サブマージアーク溶接 ( 突き合わせ溶接 ),CO 2 溶接 ( すみ肉溶接 ) は, 共に縮みを発生しやすく, 脚長指示管理の徹底による過大すみ肉脚長の防止, 及び溶接時の縮み代の最適化が望まれてきた 今回, 溶接後の計測を実施し, 縮み代の最適化を行うことができた 2.4 単板ロンジ先付け装置 (PLA) 図 2に超大型ブロック製作の流れを示す 大組時 ( 中組時 ) のベースとなる鋼板は,PLA 装置と呼ばれる装置で先行してロンジ材を取り付ける単板ロンジ先付け工法を採用している PLA 装置では, ロンジ材仮付け時の足元の精度の確認, 及びロンジ取付けの垂直度を確認する目的で 3D 計測を実施している その結果, 本溶接時の入熱によるロンジ材の倒れ 熱変形を考慮した施工法を確立し, ロンジ材の取付け精度 垂直度を向上させた また, 単板製作の最終工程では, 歪矯正機によりロンジ取付け時の角変形の除去を行っており, 大組鉄工時の作業を軽減している 78 図 2 超大型ブロック製作の流れ 2.5 大組ブロック大組工程では, 当社の開発した 3D ビューワを用いた展開が主流となっている この取組みにより, 若手技能者が多く外注化率が高い生産現場において, 携帯パソコンにより確認を行いながら配材や取付けを行うことができる また, 事前にブロックの 3D 図を見て検討することも可能であるため, 図上パトロール という事前検討会を実施することで, 不具合箇所の早期発見により品質の向上に努めている 図 3に示すように, 大組ブロックの施工終了後には, ブロックの精度計測を実施し, 次工程渡し前に最終の精度調整を行っている 後工程となる総組ステージでのブロックを決めるときの事前情報として, 現在では必要不可欠なものとなっている

三菱重工技報 Vol.50 No.2 (2013) 79 図 3 ブロック精度計測状況 2.6 総組, ドック据付渠中では, ブロックの総組み, 及び建付けが行われる 大組ブロックの計測データに基づき, 総組及びドック据付時の取り合いの事前検証を行い, 建て付け干渉有無のチェックを行う このとき, 事前の 3D 計測結果, 及び 3D ビューワによる事前検討が有効で, 高精度で迅速な搭載を可能にし, 工期短縮につながっている 3. トランス挿入工法の導入 3.1 トランス挿入工法船殻構造では, 縦横骨組み交差部において, トランス材には, ロンジ材を交わすためのスロットが設けられている また, 強度上重要となる箇所については, スロット部の構造欠損をフィラープレート, 或いはインサートプレートで補強するのが一般的である これに対し, トランス挿入工法では, 縦横骨組み交差部におけるスロット構造をスリット構造へと変更し, トランス材に切り開けたロンジ材断面と同様のスリットにロンジ材を挿入させていく そのため, スロット構造のように欠損部分の強度問題は発生せず, 挿入時の技術的課題をクリアできれば, 精度 品質の向上に加え部材数減 / 溶接長減などのメリットを得ることができる 図 4にスロット構造とスリット構造の違いを示す 図 4 スロット構造とスリット構造の違い 3.2 トランス挿入工法の対象当社で建造する VLCC のトランス挿入工法を行った対象ブロックは, 主に二重底構造の内構材, 及びトランス方向の隔壁である 前者では, 長さ 45m 幅 11m の超大型ブロック, 後者では長さ 21m 幅 18m の広幅ブロックで, 当該構造のロンジ間隔は 800~900mm, ロンジサイズは 500~700mm, ロンジ材ウェブとトラン

三菱重工技報 Vol.50 No.2 (2013) 80 ス材スリットとのクリアランスは 3mm である 図 5にトランス挿入工法施工時の状況を示す トランス挿入工法は, 従来香焼工場で建造された VLCC にも適用されてきたが, 香焼工場にて制作する長さ 45m 級の地上超大型ブロックにおいてこの工法を適用するには, 船殻部材全般に要求される精度管理が困難で, 適用初期の効果を刈り取れていなかった 今回, 第 2 章に述べた精度管理に加え 3.3 以降に述べる取組みを行い, トランス挿入工法の技術を再構築することができた 図 5 トランス挿入工法施工状況 3.3 トランス挿入工法再構築に向けた取組み (1) 設備メンテナンス体制と計測方法第 2 章に述べた通り,NC 切断機 ( レーザ, プラズマ, ガス ), フレームプレーナについては, 鋼板切断後に精度チェック ( 対角寸法チェック ) を実施している トランス挿入ブロックの対象鋼板は, 対角寸法チェックに加えて切断 小組 板継後の長さ 幅寸法チェックを必ず行っている 寸法計測により各ステージでの施工精度も向上し, 統一した計測フォームを使用することでトランス挿入に至るまでの結果を一目で分かるよう集積している (2) 単板ロンジ取付け精度 ( 直線度 ) トランス挿入工法実現に向けて重要となるのが, ロンジの取付け精度である ロンジは, ビルトアップ部材でフェースとウェブを隅肉溶接し, 溶接後には歪取りを行っている ロンジと親板との溶接工程では, 組立て装置と呼ばれる本溶接前の仮付け装置で, ロンジを直線に矯正しながら一定間隔に仮付けを施す 但し, マーキン線とのズレも少なからず発生し, 挿入時に傷を発生させる不具合の原因となっていた 今回, ロンジ仮付け時のマーキン線とのズレを改善する手法を考案し, 取付け後の直線度を向上させ, 手直しに要する時間を大幅に削減することができた (3) 単板ロンジ取付け精度 ( 直角度 ) ロンジ取付け時の角度は, 親板に対し直角となるよう組立装置にて矯正を行っていた 一般的にロンジ材と親板の隅肉溶接では, 溶接時の熱影響により溶接トーチの後行トーチ側にロンジが倒れることが知られている 今回, その現象を 3D 計測装置により計測し, 仮付の段階で本溶接時の後行トーチと反対側にあらかじめ決められた量を倒しておくという手法を取った この結果, 仮付時に発生したロンジの倒れは, 本溶接後, おおむね 90 ( 倒れの無い状態 ) になっていることが確認された 現在, ロンジの直角度については, 倒れ量の許容値を設定し, 歪矯正装置を利用するなどで ±3mm で管理を行っている これにより, トランスのスリットとロンジとの擦れが減り, トランスを容易に挿入することが可能となった 図 6に計測結果のサンプルを示す

三菱重工技報 Vol.50 No.2 (2013) 81 図6 ロンジ倒れ量の 3D 計測装置による計測結果サンプル 図7 トランス挿入時の面押し治具 (4) 挿入手順 45m 級の超大型ブロックのトランス材を挿入する場合 従来は 挿入長さを少しでも短くする ためブロックの両端から挿入を行ってきた 一般的に鋼板切断面には 切断時のトーチ角度の影響による切断面のべベル角がついて いる また 切断面には ノロ が付着しており 挿入方向に対してトランス部材の切断面が鋭角 となる場合 ロンジ材ウェブへ傷が入りやすいことが考えられた そこで 今回 挿入時には 40m を超える場合であってもトランス材の切断面が鈍角となってい る側から挿入するよう統一した これにより 挿入時の作業性が大幅に向上した これに加え 大組時にロンジの倒れ角度により横ズレを発生しやすいトランス材の配材が容 易かつ適正に行えるようになった これにより 取付け 溶接品質の両面から 精度を向上させ ることができた (5) 面押し治具 トランス材の横方向には剛性が乏しいため トランス材挿入時にトランス材が波打った形状に なることが多い この場合 トランスのスリットとロンジの摩擦の大きな箇所を押しながら挿入して いくという手法を取っていた 今回 トランスの横曲がり変形を防止するため トランスを面で押 す治具を挿入機に取り付けた これにより トランスの横方向の波打ちを解消 一定の力で押し 続けることが可能となり トランス挿入を容易に行うことができるようになった(図7) 4. まとめ VLCC の連続建造に合わせて行ってきた高精度組立工法の確立として 各ステージでのポイ ントを明確にし 許容値の設定 縮み代の見直し 3D 計測装置を用いた測定手法 人員の統一 3D ビューワ等を活用し精度管理を継続 徹底できる体制を整えることができた 現在 LNG 船 資源探査船等 高精度を要求される高付加価値船が主流となっている香焼工場において 建造 ステージでの能率向上 及び工期短縮に大いに有効な取組みといえる また これにより 従来 精度上困難であるとされてきたトランス挿入工法を 香焼工場で施工 する 45m 級の超大型大組ブロックにおいても整斉と行うことが可能となった これら取組みにより 更なる品質向上 工期短縮が期待できるとともに 厳しい事業環境が続く 中 コスト競争力向上の一助になったと考える