キレート滴定2014

Similar documents
キレート滴定

フォルハルト法 NH SCN の標準液または KSCN の標準液を用い,Ag または Hg を直接沈殿滴定する方法 および Cl, Br, I, CN, 試料溶液に Fe SCN, S 2 を指示薬として加える 例 : Cl の逆滴定による定量 などを逆滴定する方法をいう Fe を加えた試料液に硝酸

Microsoft Word - 酸塩基

XIII キレート滴定 Chelatometry 金属イオンにキレート生成試薬 ( 水溶性多座配位子 ) を加え 電離度の極めて小さい水 溶性キレート化合物 ( 分子内錯化合物 ) を生成させる キレート生成試薬 EDTA:Ethylenediaminetetraacetic Acid 最も一般的

平成27年度 前期日程 化学 解答例

木村の理論化学小ネタ 緩衝液 緩衝液とは, 酸や塩基を加えても,pH が変化しにくい性質をもつ溶液のことである A. 共役酸と共役塩基 弱酸 HA の水溶液中での電離平衡と共役酸 共役塩基 弱酸 HA の電離平衡 HA + H 3 A にお

科学先取り岡山コース ( 大学先取り 化学分野 ) 2008 年 12 月 13 日 ( 土 ) 担当 : 大久保貴広 ( 岡山大学大学院自然科学研究科 ) 1 はじめに高校までの化学では 先人たちの努力により解き明かされた物質や基本的な現象を中心に勉強していることと思います それ故 覚えなければな

Microsoft PowerPoint - D.酸塩基(2)

▲ 電離平衡

Microsoft PowerPoint - presentation2007_04_ComplexFormation.ppt

14551 フェノール ( チアゾール誘導体法 ) 測定範囲 : 0.10~2.50 mg/l C 6H 5OH 結果は mmol/l 単位でも表示できます 1. 試料の ph が ph 2~11 であるかチェックします 必要な場合 水酸化ナトリウム水溶液または硫酸を 1 滴ずつ加えて ph を調整

木村の化学重要問題集 01 解答編解説補充 H S H HS ( 第 1 電離平衡 ) HS H S ( 第 電離平衡 ) そこで溶液を中性または塩基性にすることにより, つまり [ H ] を小さくすることにより, 上の電離平衡を右に片寄らせ,[ S ] を大きくする 193. 陽イオン分析 配位

注釈 * ここでニッケルジメチルグリオキシム錯体としてのニッケルの重量分析を行う場合 恒量値を得るために乾燥操作が必要だが それにはかなりの時間を要するであろう ** この方法は, 銅の含有量が 0.5% 未満の合金において最も良い結果が得られる 化学物質および試薬 合金試料, ~0.5 g, ある

化学 1( 応用生物 生命健康科 現代教育学部 ) ( 解答番号 1 ~ 29 ) Ⅰ 化学結合に関する ⑴~⑶ の文章を読み, 下の問い ( 問 1~5) に答えよ ⑴ 塩化ナトリウム中では, ナトリウムイオン Na + と塩化物イオン Cl - が静電気的な引力で結び ついている このような陽イ

student chemistry (2019), 1, 多価酸 1 価塩基滴定曲線と酸塩基滴定における学術用語についての考察 西野光太郎, 山口悟 * 茨城県立水戸第一高等学校化学部 茨城県水戸市三の丸 (2019 年 3 月 1 日受付 ;2019 年

(Microsoft Word - \230a\225\266IChO46-Preparatory_Q36_\211\374\202Q_.doc)

分析化学講義資料 ( 容量分析 ) 林譲 (Lin, Rang) 容量分析概要容量分析法 (volumetric analysis) は滴定分析法 (titrimetric analysis) とも呼ばれている この方法は, フラスコ中の試料液の成分とビュレットに入れた濃度既知の標準液 (stand

<連載講座>アルマイト従事者のためのやさしい化学(XVII)--まとめと問題 (1)

Slide 1

PowerPoint プレゼンテーション

ウスターソース類の食塩分測定方法 ( モール法 ) 手順書 1. 適用範囲 この手順書は 日本農林規格に定めるウスターソース類及びその周辺製品に適用する 2. 測定方法の概要試料に水を加え ろ過した後 指示薬としてクロム酸カリウム溶液を加え 0.1 mol/l 硝酸銀溶液で滴定し 滴定終点までに消費

イオン化傾向 イオン化傾向 1 金属の単体はいずれも酸化されて陽イオンになりうる 金属のイオンのなりやすさを表したものをイオン化傾向という イオン化傾向 K Ca Na Mg Al Zn Fe Ni Sn Pb (H) Cu Hg Ag Pt Au e- を出してイオンになりやすい酸化されやすい イ

<576F F202D F94BD899E8EAE82CC8DEC82E895FB5F31325F352E6C7770>

高 1 化学冬期課題試験 1 月 11 日 ( 水 ) 実施 [1] 以下の問題に答えよ 1)200g 溶液中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 整数 ) 2)200g 溶媒中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 有効数字 2 桁 ) 3) 同じ

Taro-化学3 酸塩基 最新版

Word Pro - matome_7_酸と塩基.lwp

無電解析出

DVIOUT-酸と塩

i ( 23 ) ) SPP Science Partnership Project ( (1) (2) 2010 SSH

< イオン 電離練習問題 > No. 1 次のイオンの名称を書きなさい (1) H + ( ) (2) Na + ( ) (3) K + ( ) (4) Mg 2+ ( ) (5) Cu 2+ ( ) (6) Zn 2+ ( ) (7) NH4 + ( ) (8) Cl - ( ) (9) OH -

<4D F736F F D2089BB8A778AEE E631358D E5F89BB8AD28CB3>

2017 年度一般入試前期 A 日程 ( 1 月 23 日実施 ) 化学問題 (63 ページ 74 ページ ) 問題は大問 Ⅰ Ⅳ までありますが 一部 他科目との共通問題となっています 大問 Ⅰ は 化学基礎 + 生物基礎 の大問 Ⅰ と共通の問題です 大問 Ⅱ は 化学基礎 + 生物基礎 の大問

ビュレットに水酸化ナトリウム水溶液を入れてビュレット台にセットした この段階で予備測定として ある程度の量を滴下して 指示薬の変色までに必要な水酸化ナトリウム水溶液のおおよその滴下量を調べた 先程と同じように酢酸水溶液を調整し ビュレットに水酸化ナトリウム水溶液を補充して本測定を開始した まず 酢酸

Microsoft PowerPoint 基礎実験2

しょうゆの食塩分測定方法 ( モール法 ) 手順書 1. 適用範囲 この手順書は 日本農林規格に定めるしょうゆに適用する 2. 測定方法の概要 試料に水を加え 指示薬としてクロム酸カリウム溶液を加え 0.02 mol/l 硝酸銀溶液で滴定し 滴定終点までに消費した硝酸銀溶液の量から塩化ナトリウム含有

FdData理科3年

第 11 回化学概論 酸化と還元 P63 酸化還元反応 酸化数 酸化剤 還元剤 金属のイオン化傾向 酸化される = 酸素と化合する = 水素を奪われる = 電子を失う = 酸化数が増加する 還元される = 水素と化合する = 酸素を奪われる = 電子を得る = 酸化数が減少する 銅の酸化酸化銅の還元

A6/25 アンモニウム ( インドフェノールブルー法 ) 測定範囲 : 0.20~8.00 mg/l NH 4-N 0.26~10.30 mg/l NH ~8.00 mg/l NH 3-N 0.24~9.73 mg/l NH 3 結果は mmol/l 単位でも表示できます 1. 試料の

木村の有機化学小ネタ セルロース系再生繊維 再生繊維セルロースなど天然高分子物質を化学的処理により溶解後, 細孔から押し出し ( 紡糸 という), 再凝固させて繊維としたもの セルロース系の再生繊維には, ビスコースレーヨン, 銅アンモニア

SO の場合 Leis の酸塩基説 ( 非プロトン性溶媒までも摘要可 一般化 ) B + B の化学反応の酸と塩基 SO + + SO SO + + SO 酸 塩基 酸 塩基 SO は酸にも塩基にもなっている 酸の強さ 酸が強い = 塩基へプロトンを供与する能力が大きい 強酸 ( 優れたプロトン供与

Microsoft PowerPoint - presentation2007_03_acid-base.ppt

2014 年度大学入試センター試験解説 化学 Ⅰ 第 1 問物質の構成 1 問 1 a 1 g に含まれる分子 ( 分子量 M) の数は, アボガドロ定数を N A /mol とすると M N A 個 と表すことができる よって, 分子量 M が最も小さい分子の分子数が最も多い 分 子量は, 1 H

31608 要旨 ルミノール発光 3513 後藤唯花 3612 熊﨑なつみ 3617 新野彩乃 3619 鈴木梨那 私たちは ルミノール反応で起こる化学発光が強い光で長時間続く条件について興味をもち 研究を行った まず触媒の濃度に着目し 1~9% の値で実験を行ったところ触媒濃度が低いほど強い光で長

3

コンクリート工学年次論文集 Vol.25

<4D F736F F D2093FA D95BD90E690B68EF68BC681458E7793B188C42E646F63>

生物学に関する実験例 - 生化学 / 医療に関する実験例 ラジオアッセイ法によるホルモン測定 [ 目的 ] 本実習では, 放射免疫測定 (Radioimmunoassay,RIA) 法による血中インスリンとイムノラジオメトリックアッセイ ( 免疫放射定測定 Immunoradiometric ass

<4D F736F F F696E74202D208D918E8E91CE8DF481698E5F89968AEE816A F38DFC97702E707074>

Ⅲ-2 酸 塩基の電離と水素イオン濃度 Ⅲ-2-1 弱酸 Ex. 酢酸 CH 3 COOH 希薄水溶液 (0.1mol/L 以下 ) 中では 一部が解離し 大部分は分子状で存在 CH 3 COOH CH 3 COO +H + 化学平衡の法則より [CH 3 COO ][H + ] = K [CH 3

新規な金属抽出剤

木村の理論化学小ネタ 理想気体と実在気体 A. 標準状態における気体 1mol の体積 標準状態における気体 1mol の体積は気体の種類に関係なく 22.4L のはずである しかし, 実際には, その体積が 22.4L より明らかに小さい

1 次の問い ( 問 1~ 問 5) に答えよ (23 点 ) 問 1 次の単位変換のうち, 正しいもののみをすべて含む組み合わせは どれか マーク式解答欄 1 (a) 1.0 kg = mg (b) 1.0 dl = ml (c) 1.0 g/cm 3 = 1.

Microsoft Word - basic_15.doc

untitled

 

2_R_新技術説明会(佐々木)

工業用 アミノカルボン酸系キレート剤 IP キレート D 特長 で長時間の加熱に対しても安定です 2. アルカリ溶液中で第二鉄イオンと反応します さらに中性溶液中では EDTA の錯体より安定です 3.Fe 3+ や Cu 2+ に対するキレート力が強い為 過酸化物漂白浴や過

Problem P5

PowerPoint プレゼンテーション

1/120 別表第 1(6 8 及び10 関係 ) 放射性物質の種類が明らかで かつ 一種類である場合の放射線業務従事者の呼吸する空気中の放射性物質の濃度限度等 添付 第一欄第二欄第三欄第四欄第五欄第六欄 放射性物質の種類 吸入摂取した 経口摂取した 放射線業 周辺監視 周辺監視 場合の実効線 場合

カールフィッシャー法と濃度計算問題

スライド 1

1. 測定原理 弱酸性溶液中で 遊離塩素はジエチル p フェニレンジアミンと反応して赤紫色の色素を形成し これを光学的に測定します 本法は EPA330.5 および US Standard Methods 4500-Cl₂ G EN ISO7393 に準拠しています 2. アプリケーション サンプル

(Microsoft Word \203r\203^\203~\203\223\230_\225\266)

留意点 指導面 物質量について物質を扱うとき, 体積や質量で表すことが多い しかし, 化学変化は, 物質の構成粒子が切り離されたり, 結合したりすることによっておこるため, 粒子の個数で表した方が都合がよい 一方, 物質の構成粒子は非常に小さく,1 個ずつ数えることはできない また, 私たちが日常取

補足 中学校では塩基性ではなくアルカリ性という表現を使って学習する アルカリはアラビア語 (al qily) で, アル (al) は定冠詞, カリ (qily) はオカヒジキ属の植物を焼いた灰の意味 植物の灰には Na,K,Ca などの金属元素が含まれており, それに水を加えて溶かすと, NaOH

CERT化学2013前期_問題

CH 2 CH CH 2 CH CH 2 CH CH 2 CH 2 COONa CH 2 N CH 2 COONa O Co 2+ O CO CH 2 CH N 2 CH 2 CO 9 Change in Ionic Form of IDA resin with h ph CH 2 NH + COO

B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

基礎化学 ( 問題 ) 光速 c = m/s, プランク定数 h = J s, 電気素量 e = C 電子の質量 m e = kg, 真空中の誘電率 ε 0 = C 2 s 2 (kg

Microsoft Word - t30_西_修正__ doc

日本電子News vol.44, 2012

Microsoft Word - VBA基礎(2).docx

Microsoft Word 後期化学問題

02

2004 年度センター化学 ⅠB p1 第 1 問問 1 a 水素結合 X HLY X,Y= F,O,N ( ) この形をもつ分子は 5 NH 3 である 1 5 b 昇華性の物質 ドライアイス CO 2, ヨウ素 I 2, ナフタレン 2 3 c 総電子数 = ( 原子番号 ) d CH 4 :6

酒類総合研究所標準分析法 遊離型亜硫酸の分析方法の一部修正

Microsoft PowerPoint - anachem2018PPT

IC-PC法による大気粉じん中の六価クロム化合物の測定

現場での微量分析に最適 シリーズ Spectroquant 試薬キットシリーズ 専用装置シリーズ 主な測定項目 下水 / 廃水 アンモニア 亜硝酸 硝酸 リン酸 TNP COD Cr 重金属 揮発性有機酸 陰イオン / 陽イオン界面活性剤 等 上水 / 簡易水道 残留塩素 アンモニア 鉄 マンガン

New Color Chemosensors for Monosaccharides Based on Azo Dyes

CuSO POINT S 2 Ni Sn Hg Cu Ag Zn 2 Cu Cu Cu OH 2 Cu NH CuSO 4 5H 2O Ag Ag 2O Ag 2CrO4 Zn ZnS ZnO 2+ Fe Fe OH 2 Fe 3+ Fe OH 3 2 Cu Cu OH 2 Ag Ag

酢酸エチルの合成

Ⅳ 沈殿平衡 ( 溶解平衡 ) 論 沈殿平衡とは 固体とその飽和溶液 (Ex. 氷砂糖と砂糖水 ) が共存する系 ( 固相と液相 が平衡状態にある : 不均一系 ) であり その溶液の濃度が溶解度である 分析化学上 重要な沈殿平衡は難溶性電解質についてのもの Ⅳ-1 沈殿生成と溶解 電解質について

木村の有機化学小ネタ 糖の構造 単糖類の鎖状構造と環状構造 1.D と L について D-グルコースとか L-アラニンの D,L の意味について説明する 1953 年右旋性 ( 偏光面を右に曲げる ) をもつグリセルアルデヒドの立体配置が

スライド 1

Microsoft PowerPoint - lecture_2019_HP用

電子配置と価電子 P H 2He 第 4 回化学概論 3Li 4Be 5B 6C 7N 8O 9F 10Ne 周期表と元素イオン 11Na 12Mg 13Al 14Si 15P 16S 17Cl 18Ar 価電子数 陽

木村の理論化学小ネタ 熱化学方程式と反応熱の分類発熱反応と吸熱反応化学反応は, 反応の前後の物質のエネルギーが異なるため, エネルギーの出入りを伴い, それが, 熱 光 電気などのエネルギーの形で現れる とくに, 化学変化と熱エネルギーの関

Microsoft Word - H29統合版.doc

9 果実酒 9-1 試料の採取 3-1 による ただし 発泡のおそれのあるものは綿栓をして 速やかに試験に供する 9-2 性状 3-2 による 別に試料及び貯蔵容器において 皮膜の状態についても観察する 9-3 ガス圧 8-3 に準じて測定する 9-4 検体の調製 ガスを含むときは 8-4 によって

2 Zn Zn + MnO 2 () 2 O 2 2 H2 O + O 2 O 2 MnO 2 2 KClO 3 2 KCl + 3 O 2 O 3 or 3 O 2 2 O 3 N 2 () NH 4 NO 2 2 O + N 2 ( ) MnO HCl Mn O + CaCl(ClO

2011年度 化学1(物理学科)

木村の理論化学小ネタ 液体と液体の混合物 ( 二成分系 ) の気液平衡 はじめに 純物質 A( 液体 ) と純物質 B( 液体 ) が存在し, 分子 A の間に働く力 分子 B の間に働く力 分子 A と分子 B の間に働く力 のとき, A

例題 1 表は, 分圧 Pa, 温度 0 および 20 において, 水 1.00L に溶解する二酸化炭素と 窒素の物質量を表している 二酸化炭素窒素 mol mol mol mol 温度, 圧力, 体積を変えられる容器を用意し,

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

1. 測 定 原 理 アルカリ 溶 液 中 で 亜 鉛 イオンは ピリジルアゾレゾルシノール(PAR)と 反 応 して 赤 色 の 錯 体 を 形 成 し これを 光 学 的 に 測 定 し 2. アプリケーション 本 法 は 亜 鉛 イオンを 測 定 し 不 溶 性 や 錯 体 と 結 合 した

(3) イオン交換水を 5,000rpm で 5 分間遠心分離し 上澄み液 50μL をバッキングフィルム上で 滴下 乾燥し 上澄み液バックグラウンドターゲットを作製した (4) イオン交換水に 標準土壌 (GBW:Tibet Soil) を既知量加え 十分混合し 土壌混合溶液を作製した (5) 土

(Microsoft PowerPoint - \211\273\212w\225\275\215t.ppt)

ph の計算 2018 年 4 月 1 日

Transcription:

キレート滴定 本実験の目的本実験では 水道水や天然水に含まれるミネラル成分の指標である 硬度 を EDTA Na 塩 (EDTA:Ethylene Diamine Tetra Acetic acid) を利用して分析する手法を学ぶ さらに本手法を利用して 水道水および二種類の天然水の総硬度を決定する 調査項目キレート 標準溶液と標定 EDTA の構造ならびに性質 キレート生成定数 ( 安定度定数 ) 金属指示薬 緩衝溶液 マスキング剤 アメリカ硬度 ドイツ硬度 原理 EDTA とはエチレンジアミン四酢酸の略称であり 次のような構造をもっている この構造は種々の金属ときわめて安定かつ水に可溶な錯化合物をつくる HOOCCH HOOCCH N-CH -CH -N CH COOH CH COOH 溶液中で金属イオン ( n ) とキレート試薬 (Y - ) が反応して金属キレート化合物を生成する過程を考える 反応系 ( 左辺 ) と生成系 ( 右辺 ) との間に平衡が成立すると その平衡反応式は式 () のようになる n Y - Y (-n)- () この平衡定数は 以下の式 () によって示される (n) [ Y n [ [ Y () ここで の値は安定度定数またはキレート生成定数といい 金属キレート化合物の安定度をはかる尺度である なお 生成した金属キレート化合物が難溶性の沈殿である場合には 反応は生成系の方向へ一方的に進み 平衡も著しく右辺にずれることになる また キレート試薬はしばしば H Y と略記され はじめに示した構造からわかるとおり四塩基酸であるから 次のような四段階の解離が与えられる H Y H H Y -.0 0 - H Y - H H Y -. 0 - H Y - H HY - 6.9 0-7 HY - H Y - 5.50 0 -

この反応式は ph の関数であり ph による反応の変化は次のような反応式から得られる ph>0 : Y - Y - ph7~9 : HY - Y - H ph~5 : H Y - Y - H ph< : H Y - Y - H これらの式からわかるように ph が 0 よりも充分大きい場合に限り EDTA の大部分が 価の陰イオン Y - として存在する ここで金属キレート Y - が極めて安定であれば この反応が完了した時点で p が急激に変わる ( ただし p-log[ である ) しかし ph が 0 より小さい場合には HY - のほうが優勢となってしまい H が EDTA と結合しようとして金属イオンと競合することが考えられる このような金属キレート化合物の生成によって 金属イオンは遊離金属イオンとしての独自の性質を失い 同時にキレート試薬も金属との配位結合の結果 それ自身に変化が起こる 一方 の値は表 に示すように金属イオンの種類により大きく変化し その値は 0 の数乗という大きな値をとるため その常用対数 (Log) で表す 例えば カルシウムの安定度定数 log0.70 とは 5.0 0 0 を意味する 表 より明らかなように 価以外のほとんどの金属イオンの log はおよそ 8 以上であり EDTA のキレート生成反応が定量的に進むことが予想される 表 EDTA キレート化合物の安定度定数 金属イオン log 金属イオン log 金属イオン log Al 6. Cu 8.80 Ni 8.6 Ba 7.76 Na.66 Pb 8.0 Ca 0.70 Fe 5. Sr 8.6 Cd 6.6 Hg.6 Th. Co 6. g 8.69 Zn 6.50 Co 6 n.0 Zr 9.9 キレート生成反応の平衡式からも明らかな通り キレート化合物の安定度は ph の影響を受ける つまり水素イオン濃度 [H が高くなれば平衡は左辺に移行し キレート化合物の解離が起こる キレート滴定における終点の判定方法には一般に金属指示薬が使用される 金属指示薬とは 金属イオンと結合して有色の錯化合物を作る染料である この指示薬をあらかじめ金属塩溶液に加えておくと 最初は金属と結合した化合物の色を示す ここに EDTA を加えて n がすべて EDTA 錯化合物となれば 染料は遊離状態の色に戻るため ここを終点とする 代表的な金属指示薬には ムレキシドやエリオクロムブラック T( エリオ T または EBT と略す ) などがある EDTA の特性をまとめると (a) ほとんどの 価以上の金属イオンと安定度の高いキレート化合物を生成する (b) 金属イオンと EDTA の結合比はつねに : である (c) 生成した EDTA キレートは水溶性であり また多くの場合が無色である

実験操作.EDTA Na 水溶液の標定 用意されている 0.0-EDTA Na 水溶液を約 50mL 自班の容器に取り分ける 少量の EDTA Na 水溶液でビュレットを共洗いしてから EDTA Na 水溶液を入れる 秤量ビンを用いて CaCO 約 0.gを精秤する この秤量ビンに蒸留水 ml を加え ドラフト内 ( 必ず保護メガネをかける ) で HCl を数滴 ( 発泡に注意しながら ) 徐々に加え 完全に CaCO を溶解した後 ロートを用いて 00mLメスフラスコに入れ 秤量ビンおよびロートも蒸留水でよく洗いながら 標線まで希釈する 5 ホールピペットを用いて CaCO 標準溶液 0.00mL を三角フラスコに正確に計り取り ph0 の緩衝溶液 ml と EBT 指示薬を 滴 それぞれ加える 加えた EBT の量によって終点の色が微妙に異なるため EBT の添加量は必ず一定にする また 色の変化を確認しやすいようにブランクを用意しておくと良い 6 ビュレットに入れてある EDTA Na 水溶液を用いて滴定を行い 溶液の色が赤紫色 青色へ変化した点を終点とする 滴定操作は 回繰り返す ( 滴定誤差は 0.05mL 以内 ). 水道水および二種類の天然水の総硬度の決定 用意されているビュレットを用い 水道水および二種類の天然水をそれぞれ 5.00mL ずつ三角フラスコに正確にとり ph0 の緩衝溶液 ml と EBT 指示薬 滴を加える ビュレットに入れてある EDTA Na 水溶液を用いて滴定を行い 溶液の色が赤紫色 青色へ変化した点を終点とする 滴定操作は 回繰り返す ( 滴定誤差は 0.05mL 以内 ) 結果の整理 各班で調製した CaCO 標準液のモル濃度を計算する EDTA Na 水溶液のモル濃度を計算する 水道水および二種類の天然水の総硬度を計算し アメリカ硬度ならびにドイツ硬度で示しそれらは軟水か硬水かを判定せよ レポート課題 キレート滴定とキレート定数との関係について説明せよ 緩衝溶液及び緩衝作用について平衡論より説明せよ 実験操作 の滴定曲線を方眼紙上に図示せよ

キレート滴定の理論と計算 キレート剤に EDTA を利用する場合 EDTA は四塩基酸であるため 以下に示す四段階の解離が考えられる なお 式中の Y は EDTA を便宜的に表したものである また各解離平衡定数を併記する H Y H H Y - [ H [ H Y a.0 0 () [ H Y α H Y - H H Y - [ H [ H Y a. 0 () [ H Y α H Y - H HY - 7 [ H [ HY a 6.9 0 () [ H Y α HY - H Y - [ H [ Y a 5.5 0 () [ HY ph>0 において Ca と EDTA との反応は Ca Y - CaY - (5) で表される ここでキレートの生成定数を とすると Y [ Y α 5.0 0 0 (6) である ただし (6) 式は ph の場合にのみ成立する これは ph0 では H Y の全てが Y - として解離していないためである したがって ()~() 式において EDTA の全ての濃度を C HY とすると C HY [Y - [HY - [H Y - [H Y - [H Y (7) 両辺を [Y - で除すと C [ Y [ HY [ Y [ H Y [ H Y [ Y [ Y H Y [ H [ Y Y (8) ()~() 式の関係より (8) 式は以下のように書き換えられる C H Y [ H [ H [ H [ H [ Y α a a a a a a a a a a () (9) ここでα は Y - として存在する EDTA の分率を表すため ph0 では /α.8 であり α 0.5 である また Y - α C HY であるから これを (6) 式に代入すると Y α C H Y Y (0) α (0 ) C となり は ph0 における条件付き生成定数となる すなわち 5.0 0 0 0.5.8 0 0 Y C H Y.8 0 0 H Y

キレート滴定における滴定曲線 (ph0 の緩衝溶液を用いる場合 ) 図の縦軸に pca, 横軸に EDTA の滴定量をとり 結果を plot する CaCO のモル濃度を (mol/l), サンプリング量を (L), 滴下する EDTA 溶液のモル濃度を,EDTA 溶液の滴下量を とすると 滴定前では p-log[ 当量点に至るまでは で変化する ただし 生成した CaY - はほとんど解離せず これから生成する Ca の量は無視できる pca log[ Ca log 当量点では [Ca は全て [CaY - となる したがって Y また [Ca C HY であるから () 式より ( ) 0.8 0 pca log[ Ca log となり ( 0.8 0 ( 0 ).8 0 ) となる ただし ph の場合では 5.0 0 0 である 当量点以降では C EDTA H Y で変化する ここで生成した CaY - はほとんど解離しない つまり CaY - から Ca はほとんど生成しない ため CaY - から生成する Ca の量は無視できる Y ただし ph の場合では であるから pca log log である となり 5