生物物理化学 酵素の働きとその機構 ( 第 4 章 )
酵素 (enzyme) の働きとその機構 エネルギー 遷移状態 酵素がある場合の活性化エネルギー 酵素がない場合の活性化エネルギー 基質 生成物 酵素による活性化エネルギーの低下 反応座標 触媒の効果 反応 触媒 活性化エネルギー [cal/mol] なし 8, 白金コロイド, H O の分解 カタラーゼ 5,5 水素イオン 6,5 ショ糖の分解 スクラーゼ,5 タンパク質 DNAの構造と機能
活性化エネルギーと反応速度 (activation energy an reaction rate) をショ糖の濃度 A を分解の頻度因子とすると 水素イノンとスクラーゼを用いた場合の反応速度は 次のように表される H H 65 Aexp( ) RT 5 Aexp( ) RT 65 Aexp( ) RT 5 Aexp( ) RT exp( 頻度因子は同一として 反応速度の比を取ると 倍も速度が違うことがわかる R=. cal/mol/eg T=3K 5 ) RT.399 3
酵素の分類と名称 Ⅰ プロテアーゼ (Protease): ペプチド結合加水分解酵素の総称 タンパク質 ペプチド加水分解酵素 リパーゼ (lipase) : 脂質を構成するエステル結合を加水分解する酵素群アミラーゼ (amylase): 膵液や唾液に含まれる消化酵素 グリコシド結合を加水分解する ヌクレアーゼ (Nuclease): 核酸分解酵素の総称 ホスホジエステル結合を加水分解しヌクレオシドへ 4
酵素の分類と名称 Ⅱ 5
基質特異性 (substrate specificity) 酵素の表面には基質が結合する溝状のくぼみがある 基質はこのくぼみに結合し, 変化を受ける このような酵素の立体構造の領域を活性部位 (active site) という 一般に, 活性部位の立体構造は 鍵と鍵穴の関係のように特定の基質とぴったり合うようになっている 従って, 酵素は基質の立体構造を認識することができる分子といえる ある酵素では, 特定の基質と結合する時に活性部位の立体構造が少し変化する このように, 基質によって立体構造が変化する現象を誘導適合 (inuce fit) という 6
Michaelis-Menten 式 Ⅰ(p43~) + + 酵素基質酵素基質複合体酵素生成物 + +P - 7
8 Michaelis-Menten 式 Ⅱ + +P - P s t t t t ( 定常状態 )
Michaelis-Menten 式 Ⅱ + +P - P s t t t t (3) () ( 定常状態 ) M MAX M P K V K t ) ( MAX V (),() 及び (3) 式を用いて, 次式を導きなさい. ()
() () ) ( ) ( ) ( M K ) ( ) ( ) ( () 式を () 式に代入すると M MAX M P K V K t ) ( MAX V
Michaelis-Menten 式 Ⅲ K m (Michaelis 定数 ) 6 5 ここで - >> ならば K m は 生成に平衡定数となる 最終的に生成物の生成速度は 次式であらわされる t P V VMAX K M 速度 4 3 V max Km...3.4 酵素反応の定常状態速度と基質諸濃度の関係 (Km=.76 mol m - ) ショ糖の初濃度 ( c ) K m がv=(/)V max を与える基質濃度になることは ミカエリス メンテンの式から容易に分かる
Michaelis-Menten 式 Ⅳ v 逆数を取ると v v V MAX K ( V K V MAX M MAX K M M V MAX ) )( Lineweaver Burプロット) /v vs / s をプロットすると, 傾きから K M /V MAX が, 切片から /V MAX が得られる (Lineweaver-Bur プロット ). Km 値が小さければ 酵素は基質濃度の低いところで反応速度が最大となる 酵素と基質の親和性 ( 結合性 ) が強い Km 値が大きければ 酵素と基質の親和性 ( 結合性 ) は弱い
基質特異性 (substrate specificity) 酵素の表面には基質が結合する溝状のくぼみがある 基質はこのくぼみに結合し, 変化を受ける このような酵素の立体構造の領域を活性部位または活性中心という 一般に, 活性部位の立体構造は 鍵と鍵穴の関係のように特定の基質とぴったり合うようになっている 従って, 酵素は基質の立体構造を認識することができる分子といえる ある酵素では, 特定の基質と結合する時に活性部位の立体構造が少し変化する このように, 基質によって立体構造が変化する現象を誘導適合 (inuce fit) という 3
基質特異性 (9 ページ ) アスパラターゼにおけるアスパラギン酸の推定結合モデル OOH NH H(H OOH)OOH + NH3 HOO 4
基質特異性 (substrate specificity) 酵素は特定の反応だけを触媒する また, 特定の化合物または一群の化合物にしか作用しない この性質を酵素の基質特異性という 以下, 例を示す ペプシン, トリプシン : タンパク質やペプチドの特定のアミノ酸残基のペプチド結合を切断 ( 加水分解 ) する しかし, 糖や脂質の加水分解は触媒しない (46 ページ ) 5
蛋白質 ( ピンク ) がトリプシンの活性部位に結合している様子 6
基質特異性 (substrate specificity) 酵素は特定の反応だけを触媒する また, 特定の化合物または一群の化合物にしか作用しない この性質を酵素の基質特異性という 以下, 例を示す a- アミラーゼ : デンプンを加水分解し, 麦芽糖 ( マルトース ) に変える しかし, タンパク質や脂質を加水分解しないし, また, セルロースや寒天など, 他の多糖類には作用しない ( 次スライド ) マルタ - ゼは麦芽糖 ( マルトース ) を加水分解するが, 他の二糖類には作用しない スクラーゼはスクロースを,b- ガラクトシダーゼはラクトースを分解する また, ウレアーゼは尿素だけを分解する リパーゼ : 脂質を加水分解する タンパク質や糖には作用しない これらは, 基質特異性が高いと言う 7
たんぱく質分解酵素 ( セリンプロテアーゼ ) 概要 : プロテアーゼは他の蛋白質を切ることで体の中で多くの重要な機能を果たしている プロテアーゼには一般に 切られるべき特定のペプチド結合を並べるように他の蛋白質のアミノ酸側鎖を入れ込む深い溝がある 種類のプロテアーゼがとくによく研究されており それらはセリンプロテアーゼ システイン ( あるいはチオール ) プロテアーゼと呼ばれる これらの呼び名は そのプロテアーゼがペプチド結合を切断する際に最も重要な活性部位がセリンまたはシステインであることからきている このセリンまたはシステインはヒスチジンとアスパラギン酸とともに3つ組触媒部位あるいはチャージリレー系と呼ばれる部位を形成しており ペプチド結合を切断するためにプロトンチャージの転移を行っている トリプシンはつあるセリンプロテアーゼサブファミリーのうちの一つ トリプシンファミリーに属する もう一つはサブチリシンファミリーと呼ばれており 機能的には似ているがその全体構造が異なっている 哺乳動物のセリンプロテアーゼはすべてトリプシンファミリーに属しているが 原核生物のプロテアーゼはサブチシリンファミリーに属することが多い 直接的に あるいは間接的に多くの細胞内反応に関わるため プロテアーゼは新薬開発の重要なターゲットとなっている ここで見せるヒトトリプシンの構造はiisopropyl- phosphofluoriate(dfp) という化学物質によって阻害したものである この化学物質は活性部位のセリンと共有結合をつくるため セリンプロテアーゼに対して非常に強い阻害剤として機能する またこれによってプロテアーゼ活性は完全にそして不可逆的に阻害される ヒトトリプシンにDFPを加えることによって一つ奇妙な副次的作用がある まったく関連のないチロシン残基の側鎖のヒドロキシル基がリン酸化されるのである 著者 :Arno Paehler 訳者 : 前田将司 8
基質特異性 微生物型のβ-アミラーゼ活性部位の図です 7,367 触媒残基です 赤色で示しているところは 基質アナログにより開閉するループです 左の図基質が入っていない状態右の図マルトースが結合した状態
内分泌攪乱物質について
環境基準 ( 環境省ホームページより ) 人の健康の保護及び生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準として 終局的に 大気 水 土壌 騒音をどの程度に保つことを目標に施策を実施していくのかという目標を定めたものが環境基準である 環境基準は 維持されることが望ましい基準 であり 行政上の政策目標である これは 人の健康等を維持するための最低限度としてではなく より積極的に維持されることが望ましい目標として その確保を図っていこうとするものである また 汚染が現在進行していない地域については 少なくとも現状より悪化することとならないように環境基準を設定し これを維持していくことが望ましいものである また 環境基準は 現に得られる限りの科学的知見を基礎として定められているものであり 常に新しい科学的知見の収集に努め 適切な科学的判断が加えられていかなければならないものである
環境ホルモン ( 内分泌攪乱物質 ) の作用機構 合成エストロジェン (D など ), 植物ホルモン, ヒドロキシ PB, ビスフェノール A, ノニルフェノールなど p,p'-dd(ddt の代謝物 ), フタル酸エステルなど 本間善夫研究室 ( 生活環境化学の部屋 より ) 3
女性ホルモン (strogen) について 4-[4-(4-hyroxyphenyl)hex-3-en-3-yl]phenol OH OH H HO HO H H エストロゲン ( 女性ホルモン ) ジエチルスチルベストロール ( 合成女性ホルモン ) HO ノニルフェノール HO ビスフェノール -A OH O O 卵胞期が 5~95(pg /ml) 排卵期が 66~4(pg /ml) 黄体期が 4~6(pg /ml) 閉経期が ~4(pg /ml) イソフラボン エストロゲンレセプター 4
エストラジオールと D の類似性 ( 次元構造 ) 5
エストラジオールと D の類似性 (3 次元構造 ) D エストラジオール DDT 6
現在までの研究結果 ( 社 ) 日本化学工業協会の HP より 米国で出版された Our tolen Future( 邦訳版 : 奪われし未来, シーアコルボーン, ジョン ピーターソンマイヤーズ, ダイアン ダマノスキ ) では 結論として 環境中に放出された DDT や PB 等のいわゆる残留性塩素化合物等に代表される合成化学物質の中に生体が持つホルモンと類似の作用をするものがあり これが野生生物やヒトの内分泌 ( ホルモン ) 作用を攪乱するため 野生生物に起こっている深刻な影響が人間にも及んでいる と言う 説 を展開 基礎的かつ科学的研究の実施と早急な対策を講ずるよう 強く警告を発しています 野生生物では ある種の農薬 ヒト ( 女性 ) ホルモン 合成ホルモン トリブチルスズ化合物 (TBT) によると思れれる影響例や 内分泌攪乱 との関連は明確ではないが ある種のダイオキシンや PB によると思れれる影響例が挙げられる - 方 ヒトに関しては ジエチルスチルベストロール (D: 流産防止剤 ) 等の例外を除けば 内分泌攪乱 を通じて影響を受けたという例は確認されていない 現在の環境濃度下では ( 内分泌攪乱 ヘの防御機構を有する ) 大人ではおそらく悪影響を受けることはないが 防御機構の不十分な胎児や新生児でもこれが言えるかどうかについては もっと情報を集めて決定する必要がある (PA 報告 )
奪われし未来 に取り上げられている野生生物やヒトの異常例については以下のように考えています () 野生生物の異常例としてリストされたのは 例です このうち 次の 例を除いて推定原因物質は PB DDT ダイオキシンです ( イ ) 例外の一つは 94 年代からオーストラリアで観察されているヒツジの繁殖力の低下です この原因を調査した結果 ヒツジが食べるクローバーに植物エストロゲンが含まれていることがわかりました ( ロ ) もう一つの例は 988 年に英国で見つかりました 下水処理施設の排水が流入する河川でオスの魚のメス化が生じているというものです 界面活性剤の分解物であるのノニルフェノールが原因と疑われました しかし 奪われし未来 ( 原書 ) 出版後に英国環境庁の調査結果が発表されました 原因物質は女性の体内で生成するエストロゲン ( 女性ホルモン ) が尿として出たものである可能性が強く示唆されました () ヒトヘの悪い影響が疑われた例として 例あげています ジエチルスチルベストロール (D) の 例を除いて PB DDT ダイオキシンが原因とされています D は合成のエストロゲンとして 938 年に開発された医薬品であります 流産防止用などのため広く用いられました これを服用した妊婦から生まれた子供が成人するころになって生殖器に異常があることがわかり 97 年に使用が禁止されました
ラットの 世代試験の結果環境中濃度を考慮した濃度レベルで試験を実施したところ 物質のうち 8 物質で環境中濃度と比較して高用量で精巣重量の増加或いは減少等の現象が認められていますが 物質のいずれも ラットの 世代試験で見る限り明らかな内分泌攪乱作用は確認されていません 9 物質の調査結果 環境ホルモン戦略計画 PD 98 パンフレットより 9
マラリア感染者数の経年変化 http://homepage3.nifty.com/junonaanishi/za386_39.html より中西準子 ( 元産業技術総合研究所安全科学研究部門長 ) この図からも分かるように 全く対策の行われなかった48 年頃には ~5 万人の発症があったと推定されている DDTの散布を含む様々な対策の 絶滅作戦 で マラリア感染者がゼロに近いレベルまで下がった 劇的な成功だった しかし DDTに対する耐性種の出現で効果が薄れ 耐性種の問題が解決した6 年代の中頃になって DDTの使用禁止が言われるようになり これと符合するかのようにマラリア感染者数が再び増え始めた 様々な対策がとられ ほぼ 年 3 万人程度のレベルが続くが 9 年頃から再び増加が始まり PHとかRBMの対策が相当の資金援助で進められ この図ではやや下がったように見えるが それほどの効果はなかった 3