PowerPoint プレゼンテーション

Similar documents
小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

PowerPoint プレゼンテーション

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

Microsoft Word - all_ jp.docx

ん細胞の標的分子の遺伝子に高い頻度で変異が起きています その結果 標的分子の特定のアミノ酸が別のアミノ酸へと置き換わることで分子標的療法剤の標的分子への結合が阻害されて がん細胞が薬剤耐性を獲得します この病態を克服するためには 標的分子に遺伝子変異を持つモデル細胞を樹立して そのモデル細胞系を用い

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

報道発表資料 2007 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 ヒト白血病の再発は ゆっくり分裂する白血病幹細胞が原因 - 抗がん剤に抵抗性を示す白血病の新しい治療戦略にむけた第一歩 - ポイント 患者の急性骨髄性白血病を再現する 白血病ヒト化マウス を開発 白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性が

Microsoft PowerPoint - 資料6-1_高橋委員(公開用修正).pptx

BLF57E002C_ボシュリフ服薬日記_ indd

手術 抗がん剤 放射線に次ぐ第 4の治療法として期待されるがん免疫療法 いくつかの免疫チェックポイント阻害薬の効果が認められ承認されたことで がん治療におけるがん免疫療法の位置づけは大きく変わりました 今特集では がん治療の新時代の扉を開いたといわれる がん免疫療法について そのしくみや効果に関する

(Microsoft Word - \203v\203\214\203X\203\212\203\212\201[\203X doc)

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

H27_大和証券_研究業績_C本文_p indd

< 研究の背景 > 肉腫は骨や筋肉などの組織から発生するがんで 患者数が少ない稀少がんの代表格です その一方で 若い患者にしばしば発生すること 悪性度が高く難治性の症例が少なくないこと 早期発見が難しいことなど多くの問題を含んでいます ユーイング肉腫も小児や若年者に多く 発見が遅れると全身に転移する

染色体の構造の異常 Chromosomal structural changes

<4D F736F F F696E74202D2095B68B9E8BE68E7396AF8CF68A4A8D758DC D18F4390B3816A2E B8CDD8AB B83685D>

6 月 25 日胸腺腫 胸腺がん患者の情報交換会 & 勉強会質疑 応答 奥村教授にお聞きしたいこと 奥村教授の話 1 特徴 (1) 胸腺腫 胸腺がん カルチノイドの違いについて 胸腺腫はがんの種類か 病理学的には胸腺腫はがんではなくて正常と区別つかず機能を残したまま腫瘍化したもの 一部 転移するもの

1.若年性骨髄単球性白血病の新規原因遺伝子を発見 2.骨髄異形症候群の白血病化の原因遺伝子異常を発見

Microsoft Word - Seminar14.doc

<4D F736F F D2091E D A8CC48B7A8AED93E089C8>

がん免疫療法モデルの概要 1. TGN1412 第 Ⅰ 相試験事件 2. がん免疫療法での動物モデルの有用性がんワクチン抗 CTLA-4 抗体抗 PD-1 抗体 2

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

スチック その他の化学物質を生産する化学工業ではなく 生命最強のツールである酵素を使って化学反応を触媒し さらには 新しい酵素を設計して作り出すことによって 物質生産を根本的に変えることができると考えていました 当時 世界的なバイオテクノロジーブームが盛り上がる中で アーノルド博士と同様のことを多く

本日の講演内容 1. PMDA コンパニオン診断薬 WG 2. 本邦におけるコンパニオン診断薬の規制 3. 遺伝子パネルを用いた NGS コンパニオン診断システム 1 2 規制上の取扱い 評価の考え方 2

B型肝炎ウイルスのキャリアで免疫抑制・化学療法を受ける患者さんへ

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

<4D F736F F D FAC90EC816994AD955C8CE38F4390B394C F08BD682A082E8816A8F4390B38CE32E646F63>

発表者の利益相反関連事項開示 発表者氏名岩澤俊一郎所属 / 身分千葉大学医学部附属病院臨床腫瘍部 / 講師 企業の職員 法人の代表 企業等の顧問職 株式等 講演料等 原稿料等 研究費 ( 治験等 ) 寄附金 専門的助言 証言 臨床試験実施法人の代表 その他 ( 贈答品等 ) 該当なし 該当有りの場合

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

令和元年 10 月 18 日 がん免疫療法時の最適なステロイド剤投与により生存率アップへ! 名古屋大学大学院医学系研究科分子細胞免疫学 ( 国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野分野長兼任 ) の西川博嘉教授 杉山大介特任助教らの研究グループは ステロイド剤が免疫関連有害事象 1 に関連するよう

遺伝子治療用ベクターの定義と適用範囲

<4D F736F F D DC58F4994C A5F88E38A D91AE F838A838A815B835895B68F FC189BB8AED93E089C82D918189CD A2E646F63>

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

2. ポイント EGFR 陽性肺腺癌の患者さんにおいて EGFR 阻害剤治療中に T790M 耐性変異による増悪がみられた際にはオシメルチニブ ( タグリッソ ) を使用することが推奨されており 今後も多くの患者さんがオシメルチニブによる治療を受けることが想定されます オシメルチニブによる治療中に約

免疫を使ったがん治療法の検討約 150 年前 免疫ががん治療に活かせるのではないかと考えた医師ががん患者に細菌を感染させて免疫を刺激し がんに対する免疫治療効果を確認する実験を行いました この時には十分な治療効果は現れませんでした 当時は免疫に対する研究が今ほど進んでおらず 免疫の仕組みを理解しない

本日の内容 1. 本邦におけるコンパニオン診断システムの規制 2. NGSを用いたコンパニオン診断システム 1 規制上の取扱い 2 評価の考え方と検討課題 3. NGSを用いた遺伝子検査システムに関連した課題 2

第6号-2/8)最前線(大矢)

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

Microsoft PowerPoint - 分子生物学-6 [互換モード]

Slide 1

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

イマチニブ家族10-11

1. 背景ヒトの染色体は 父親と母親由来の染色体が対になっており 通常 両方の染色体の遺伝子が発現して機能しています しかし ある特定の遺伝子では 父親由来あるいは母親由来の遺伝子だけが機能し もう片方が不活化した 遺伝子刷り込み (genomic imprinting) 6 が起きています 例えば

を作る 設計図 の量を測定します ですから PCR 値は CML 患者さんの体内に残っている白血病細胞の量と活動性の両方に関わるのです PCR は非常に微量の BCR-ABL 設計図 を検出することができるため 残存している病変を測定するものとよく言われます 4. PCR の検査は末梢血と骨髄のどち

PowerPoint プレゼンテーション

鑑-H リンゼス錠他 留意事項通知の一部改正等について

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

がん登録実務について

膵臓癌について

PT51_p69_77.indd

連続講演会 東京で学ぶ京大の知 シリーズ 16 社会に浸透する情報技術第 2 回 ゲノム情報のコンピュータ解析 高校数学 +α による先端的解析手法 京都大学が東京 品川の 京都大学東京オフィス で開く連続講演会 東京で学ぶ京大の知 のシリーズ 16 社会に浸透する情報技術 9 月 22 日の第 2

1 分子標的治療薬概論 分子生物学の進歩により, がんの特性が徐々に明らかになるにつれ, がん薬物療法における新しい抗悪性腫瘍薬の開発戦略は大きく変わってきている. 本邦においても 2001 年に CD20 に対する抗体であるリツキシマブが B 細胞リンパ腫の治療薬として認可されて以来, 様々な分子

悪性黒色腫(メラノーマ)薬物療法の手引き version

細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果


SNPs( スニップス ) について 個人差に関係があると考えられている SNPs 遺伝子に保存されている情報は A( アデニン ) T( チミン ) C( シトシン ) G( グアニン ) という 4 つの物質の並びによってつくられています この並びは人類でほとんど同じですが 個人で異なる部分もあ

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

Microsoft PowerPoint - DNA1.ppt [互換モード]

<4D F736F F D F325F81698F4390B C A DB882CC895E97708E77906A C4205F315F2

ANSWER CANCER BIOMARKERS 自分の病気を理解するために 担当医に質問してみましょう 私のがんについて 治療選択に関わる バイオマーカーがありますか バイオマーカーを調べる 目的と利点を教えてください バイオマーカーは どうやって調べるのですか バイオマーカーを調べる際 痛みや不

大腸癌術前化学療法後切除標本を用いた免疫チェックポイント分子及び癌関連遺伝子異常のプロファイリングの研究 

_PressRelease_Reactive OFF-ON type alkylating agents for higher-ordered structures of nucleic acids

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

1. 研究の名称 : 芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の分子病理学的研究 2. 研究組織 : 研究責任者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 准教授 百瀬修二 研究実施者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 教授 田丸淳一 埼玉医科大学総合医療センター血液内科 助教 田中佑加 基盤施設研究責任者

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

2. ポイント ALK 陽性肺がんに対する次世代 ALK 阻害薬 Ceritinib( 国内承認申請中, 米 欧承認済 ) への耐性機構として 新たに P 糖たんぱく質 (ABCB1) の過剰発現が Ceritinib の細胞外排出を亢進して耐性を起こすことを発見しました P 糖たんぱく質の過剰発現

ポイント 急性リンパ性白血病の免疫療法が更に進展! -CAR-T 細胞療法の安全性評価のための新システム開発と名大発の CAR-T 細胞療法の安全性評価 - 〇 CAR-T 細胞の安全性を評価する新たな方法として これまでの方法よりも短時間で正確に解 析ができる tagmentation-assis

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

汎発性膿庖性乾癬の解明

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

<4D F736F F D20819B8CA48B868C7689E68F D A8CA9967B5F E646F63>

環境変化への業界側取組  ~CU制度に係るパイロット試験での経験から~

白血病とは 異常な血液細胞がふえ 正常な血液細胞の産生を妨げる病気です 血液のがん 白血病は 血液細胞のもとになる細胞が異常をきたして白血病細胞となり 無秩 序にふえてしまう病気で 血液のがん ともいわれています 白血病細胞が血液をつくる場所である骨髄の中でふえて 正常な血液細胞の産 生を抑えてしま

リンパ球は 体内に侵入してきた異物を除去する (= 免疫 ) 役割を担う細胞です リンパ球は 骨の中にある 骨髄 という組織でつくられます 骨髄中には すべての血液細胞の基になる 造血幹細胞 があります 造血幹細胞から分化 成熟したリンパ球は免疫力を獲得し からだを異物から守ります 骨髄 リンパ球の

目次 1. 抗体治療とは? 2. 免疫とは? 3. 免疫の働きとは? 4. 抗体が主役の免疫とは? 5. 抗体とは? 6. 抗体の構造とは? 7. 抗体の種類とは? 8. 抗体の働きとは? 9. 抗体医薬品とは? 10. 抗体医薬品の特徴とは? 10. モノクローナル抗体とは? 11. モノクローナ

nagasaki_GMT2015_key09

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

これまで, 北海道大学動物医療センターの高木哲准教授, 同大学院獣医学研究院の今内覚准教授及び賀川由美子客員教授らは, イヌの難治性の腫瘍においても PD-L1 が頻繁に発現していることを報告してきました そこで, イヌの腫瘍治療に応用できる免疫チェックポイント阻害薬としてラット -イヌキメラ抗 P

急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1


Transcription:

平成 29 年 6 月 23 日市民公開講座文京シビックセンター がん遺伝子とがん免疫との関係 講師 : 東京医科歯科大学難治疾患研究所ゲノム病理学分野石川俊平

はじめに用語解説 : 遺伝子 ゲノム DNA の関係 ゲノム : 細胞に含まれるすべての遺伝する DNA の情報全体でヒトでは約 30 億塩基 (30 億文字 ) の DNA よりなる 細胞 ゲノム 染色体 : ゲノムの DNA が分割されて折りたたまれた構造で 46 本ある 染色体 遺伝子 : ゲノム DNA のなかの一部で RNA やタンパクに変換されて実際に機能する部分 遺伝子 DNA: デオキシリボ核酸 ゲノムや遺伝子の化学物質としての名前 https://www.ck12.org/book/ck-12-biology/section/8.1/

がんのゲノム異常にはどのようなものがあるか? がん がん細胞 ~100mm ~100µm 塩基配列解析 http://www.stop-smoking-programs.org/ http://win.eurocytology.eu/static/eurocy tology/tur/cervical/mod3img1c.html 染色体解析 がん 正常 http://www.rikengenesis.jp/ EGFR 遺伝子の塩基配列の変異 染色体の数の異常 ( コピー数異常 ) 3

メラノーマ ( ほくろのがん ) の全ゲノムの解読 Y 染色体 1 番染色体 サーカスプロット 2 番染色体 コピー数異常 ( 数の異常 ) 塩基配列の変異 染色体転座 ( 違う場所の染色体同士がつながる ) Nature. 2010 Jan 14;463(7278):191-6. 今では 30 億塩基の全ゲノムの異常を一度に見れるようになりました

30 億塩基のがんゲノムを一度に解読する機械 ( 次世代シーケンサー ) 1 回あたり 2 日で 約 6 兆塩基 =~6Tbp( テラベースペア ) ヒト全ゲノム 60 人分の情報 ( 一人あたり ~3Gbpx33 カバレッジ 100Gbp とした場合 ) -www.illumina.com

次世代シーケンサーはどのような原理か? DNA を断片化してスライドグラスの上に張り付ける ATCG などの DNA の材料に蛍光色素をつけて見えるようにする レーザー 1 スライドグラスあたり (1 DNA 断片の長さ300bp) x ( 20 億断片 ) = 合計 6 兆塩基 レーザーで画像をとる https://biology.stackexchange.com/questions/ 16674/what-is-meant-by-single-moleculesequencing 塩基を判定

がんゲノムを解読する費用は? 100 億円 1 億円 次世代シーケンサーの登場 (2007) ムーアの法則 ( 同じ半導体の性能 = 部品数のコストが年間半分に ) 10 万円 $1000/genome Consumer Genome の普及ライン ヒトの全ゲノムの配列データを取得するのはそれほど難しくなくなりつつある むしろゲノム解析の情報解析の負荷 コストが今後の課題 ( スーパーコンピューターが必要な場合もある )

がんゲノムの解析の実際 次世代シーケンサー @SEQ_ID GATTTGGGGTTCAAAGCAGTATCGATCAAATAGTAAATCCATTTGTTCAACTCACAGTTT,,,,, これが延々と続く文庫本 30000 冊分 新聞 25 年分程度 どこの配列ですか? この配列が正常か異常か判断するために ヒトゲノム配列 30 億塩基のどこに相当するかを探す =Mapping( マッピング ) という作業??? Mapping( マッピング ) という作業にはコンピューターで多くの計算を行う必要がある - パソコン 1 台 (CPU1 個 ) ではがんゲノムの解析に数日必要 - 医療機関で 100~1000 人分の解析ではスーパーコンピューターが必要 https://www.ck12.org/book/ck-12-biology/section/8.1/

がんにとって重要な遺伝子変異とは がん細胞の増殖シグナルの流れ 細胞外からの刺激 細胞増殖やアポトーシス ( 細胞死 ) 抵抗性につながるシグナル経路上の分子の遺伝子は変異を起こしやすい http://blog.goo.ne.jp/kfukuda_ginzaclinic/e/c81d4b1a97f31271f5ce1ca472f36b5d 変異によってがん細胞は細胞外からの刺激なしでも 増殖するようになる Neoplasia ( 悪性新生物 )

がんに重要な遺伝子変異の探し方 - 遺伝子は 22,000 個もあるので どれが大事か探すのは簡単ではない 重要な遺伝子の変異はランダムにはおこらない = 特定の部位に集中する ( ホットスポット ) 1 個の は 1 症例の変異 EGFR タンパク質 EGFR 遺伝子の例 Clin Cancer Res. 2004 Dec 15;10(24):8195-203. 重要な部位に集中して変異がおこる N Engl J Med 2004; 350:2129-2139 がんに重要な遺伝子や変異は多くの患者さんのがんゲノム情報をあわせてはじめてわかる

無増悪生存率 がんで遺伝子変異が見つかるといいことはありますか? EGFR タンパク質 遺伝子変異を持った肺がんの生存曲線 ( 治験の結果 ) 遺伝子変異を持った肺がんの分子標的治療薬の著効例 投与前 6 週間後 EGFR に対する分子標的治療薬 N Engl J Med 2004; 350:2129-2139 N Engl J Med 2004; 350:2129-2139 重要な部位に集中して変異がおこる 通常の抗がん剤 分子標的治療薬 月 N Engl J Med 2010; 362:2380-2388 特定の遺伝子の変異が見つかれば 分子標的治療薬がよく効く可能性がある

遺伝子変異の情報が使われている抗がん剤の例 遺伝子名遺伝子変異の種類 対象となるがん 分子標的治療薬 EGFR 変異等 肺がん エルロチニブ BRAF 変異 メラノーマ ( ほくろのがん ) ベムラフェニブ ALK 融合遺伝子 肺がん クリゾチニブ ABL 融合遺伝子 慢性骨髄性白血病 ( 白血病の1 種 ) イマチニブ ほかにも治験などで利用できる薬があり また今後も増えてきます

親から子に遺伝する がんの遺伝子変異は遺伝しない? ( 今日お話ししている方の変異 ) 親から子に遺伝しない 胚細胞遺伝子変異 体全体の細胞に遺伝子変異が入る 胚細胞遺伝子変異 体細胞遺伝子変異 体細胞遺伝子変異 体ができた後に 一部の細胞のみに遺伝子変異が発生 がん細胞のみに遺伝子変異が存在 精子にも遺伝子変異がはいり子供に伝わる 遺伝子変異は精子には入らず子供には伝わらない http://ib.bioninja.com.au/standard-level/topic-3-genetics/33-meiosis/somatic-vs-germline-mutatio.html

がんの種類によって遺伝子変異の数は大きく異なる 小児のがん - がん種ごとに見た遺伝子変異の数 ( 密度 ) 環境要因の蓄積によるがん 肺扁平上皮がん ( タバコ ) メラノーマ ( 紫外線 ) 変異が特別多いがん! 1 つの点が 1 症例 ( 症例によってもかなりのバラツキ ) Nature. 2013 Aug 22;500(7463):415-21

遺伝子変異の特別多いがんは何故できる? 細胞にもともと備わる DNA 複製のエラー修復のメカニズム 複製する酵素 遺伝子変異の特別多いがんの組織像 黒い粒 = リンパ球 T リンパ球が茶色に染まっている DNA2 本鎖 複製する酵素 複製エラーを修復する酵素 Nat Genet. 2013 Feb;45(2):121-2 Mod Pathol 2001;14(3):236 245 変異が多いがんには免疫がおこっている この仕組みがおかしくなると急に変異が増える 代表的なものが マイクロサテライト不安定性のがん と呼ばれる

リンパ球ががん細胞を攻撃するしくみ がんの免疫と免疫療法のしくみ がん細胞 がん抗原を認識して攻撃 T リンパ球 抗原のタンパク ウイルスタンパク : RGFGHYRIRTQ ヒト正常タンパク : RAFGHYKIRVQ がんの遺伝子変異による異常タンパク : RAFCHYKIRVQ 異物 ( 免疫で強く排除 ) 免疫で排除されない 異物 ( 免疫で弱く排除 ) リンパ球を不活性化させて守る Nat Rev Cancer. 2012 Mar 22;12(4):252-64 抗 PD-1 抗体で リンパ球を不活性化のシグナルをブロック! ( 免疫チェックポイント阻害剤 ) がんで変異したタンパクも異物として認識され免疫で攻撃される

腫瘍マーカーのレベル ( 腫瘍の大きさ ) ゲノム変異の数と免疫チェックポイント阻害剤の効果 遺伝子変異の数による抗 PD-1 抗体投与後の腫瘍マーカーレベルの違い マイクロサテライト安定性大腸がん ( 変異の少ないがん ) マイクロサテライト不安定性大腸がん ( 変異の多いがん ) マイクロサテライト不安定性その他のがん ( 変異の多いがん ) 肺がんに対して著効した例 治療前 2 か月後 4 か月後 N Engl J Med 2012;366:2443-2454. 投与後の日数 N Engl J Med 2015;372:2509-2520. 遺伝子変異が多いほど 免疫療法が効きやすいことが分かってきた

複数の症例 がん免疫療法をのがれる癌の仕組み 胃がんにおける PD-L1 の遺伝子の数の増加 がん細胞 がん抗原を認識して攻撃 T リンパ球 http://www.genome.gov/multimedia/slides/tcga3/30_bass.pdf 遺伝子の数 ( コピー数 ) がん細胞は自らの PD-L1 遺伝子を増やして自分を守ろうとする! リンパ球を不活性化させて守る Nat Rev Cancer. 2012 Mar 22;12(4):252-64 抗 PD-1 抗体で リンパ球を活性化へのブレーキを解き放つ!( 免疫チェックポイント阻害剤 )

今日のまとめ - がん遺伝子とがん免疫との関係 ゲノム 染色体 遺伝子 DNAの違い がんのゲノム異常の種類 ( 配列の異常 数の異常 ) 次世代シーケンサーによるがんゲノム解析 がんの遺伝子変異と分子標的治療薬 遺伝子変異の個数のばらつき がん免疫の仕組みと免疫治療薬 抗 PD-1 抗体 遺伝子変異の個数とがん免疫療法の効果