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第3回 糖類(炭水化物)

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糖質(炭水化物)

Transcription:

) ) 乳菌とビフィズス菌の基礎講座 信州大学名誉教授 細野明義 はじめに 人間は長年の知恵で食品中の悪害微生物をうまく制御してきました ( 図 1) 制御の方法として 1 砂糖や塩を沢山加えて浸透圧を高める 2 窒素置換や脱気を行う 3 抗菌性物質を加える 4 魚の干物のように水分を除去する 5 やアルカリを入れ phを変える 6 低温や高温 ( 殺菌や滅菌 ) といった温度管理を行う などの方法を採ってきました 更に 乳菌のように有益な微生物を積極的に増殖させることによって悪害微生物の増殖を制御する 発酵 という方法があります 今回は 発酵 の生化学的意味について説明すると共に乳菌とビフィズス菌を中心に糖代謝について説明したいと思います (1) 代謝とは 代謝とは 生命の維持のために生物が行う一連の営みで 外界から取り入れた無機物や有機化合物を素材として行う分解や合成の化学反応のことをいいます 代謝は大きく異化と同化の二つに区分されます 一般に栄養分は菌体内で多くの酵素の作用によって分解作用を受けますが こ のことを異化作用といいます その際 生物学的化が行われ 分解産物が形成されると同時にエネルギーが生じます 分解物の一部は生じたエネルギーを利用して菌体の諸成分に再合成されます その過程を同化作用といいます ( 図 2 ) 同化の過程は生合成とも呼ばれ 同化により糖質 脂質 アミノ ヌクレオチドなどの生体構成物質が作られ 能動輸送や生命を営むための運動がなされます なお ここでは代謝を異化と同化の二つに分けて説明しましたが 両者は互いに密接に関係していて糖質から脂質を作ることもできるし アミノから糖質をつくることもでき 画一的なものではないことを付記しておきます (2) 酵素と補酵素 代謝は生体触媒である酵素の作用によって行われます 酵素は生体の様々な化学反応において触媒的な機能を果たすタンパク質です 酵素の中には非タンパク質体である補酵素 ( コエンザイム ) と結合して機能を発揮するものがあります この場合 補酵素を必要とする酵素のことをアポ酵素といい 酵素と結合したものをホロ酵素と呼んで 発酵 浸透圧 エネルギー 温度 制御方法 水分 化還元電位 抗菌物質 栄養物 異化作用 分解産物 同化作用 ) ) 図 1 食品中の悪害微生物の主な制御方法 図 2 代謝の概念

(3) エネルギー通貨としての ATP ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド 図 3 NADの化学構造式います 補酵素はアポ酵素と解離しうる状態で結合していますが 固く結合して複合タンパク質となっている場合は補欠分子族と呼びます ビタミンや金属イオンが補欠分子族となる場合がありますが 乳菌とビフィズス菌の代謝を理解する上では直接関係がないので ここではこれ以上触れません 図 3は 代表的な補酵素であるNAD( ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド ) の化学構造式です 一般的にこの補酵素は脱水素酵素 ( デヒドロゲナーゼ ) の補酵素として機能しています 化型 NAD + および還元型 NADH の2つの状態を有しています それではエネルギーとは何かについて説明し たいと思います 上述したように代謝の過程で の異化作用によってエネルギーが生まれます そのエネルギーはアデノシンと呼ばれる化学物質によって蓄積されます アデノシンはアデニンとリボースからなるヌクレオシドの一つで 代謝で生まれたエネルギーを輸送する重要な役割を担っています つまり アデノシンはと結合 ( 化 ) することにより代謝過程で生じたエネルギーを一時的に貯えるのです を3 分子結合した場合をアデノシン三といい ATPと呼んでいます ATPはを1 分子離してアデノシン二 (ADP) になりますがそのとき高いエネルギーを放出します 放出されたエネルギーは物質の代謝や合成に重要な役割を果たすことになります ( 図 4) まさに ATPはエネルギー通貨のような役割を果たしているのです (4)ATP の産生のための経路 は水と二化炭素からなる単純な分子であり バイオマスの70% を占め 天然に存在する有機物の中で最も大量に存在し かつ化学的に安定であることから 多くの生物にとって糖代謝の出発物質として利用することは有利です 生物は自然界にもっとも豊富に存在する糖質で P~ P~P P~P エネルギ ー 放出 AMP ADP ATP エネルギー利用系 運動能動輸送生合成 図 4 ATP ( アデノシン三 ) の化学構造とエネルギーの放出

グルコ ー ス 解糖系クエン回路電子伝達系 嫌気的代謝 好気的代謝 図 5 糖から ATP が生み出される経路 あるを分解して エネルギー通貨ともいうべきATPを生成するわけです その生成の様式は生物によって異なり 多く作れるものと 僅かしか作れないものがあります を分解してATPを作り出す経路には 解糖系 クエン回路それに電子伝達系の三つの経路があります ( 図 5) 解糖系と呼ばれる経路はほとんど全ての生物がもっており もっとも原始的な代謝系とされています 嫌気状態 ( 無素状態 ) でも起こりうる代謝系の代表的なものです 乳菌やビフィズス菌は解糖系しかもっていないため 後述するように僅かの量のATPを産生する能力しかありません それに対し真核細胞をもち好気性微生物である酵母や黴の一部は解糖系の他にクエン回路と呼ばれる経路を さらに人間などでは解糖系 クエン回路 電子伝達系の経路を全部もっているため多量のATPを産生させることが可能なのです つまり 後述するように解糖系しかもたないホモ型乳発酵を行う乳菌では1モルのから2モルのATP しか生み出すことができませんが 解糖系の他にクエン回路と電子伝達系をもった生物では1モルのから最大 38モルものATPを生み出すことが可能なのです (5) 乳菌とビフィズス菌の乳発酵形式 表 1に示したように乳菌の中にはからほぼ100% に近い収率で乳を生成するホモ型乳発酵を行う菌種と 乳の他にエタノールやCO2を生成するヘテロ型乳発酵を行う菌種があります なお 発酵乳 乳菌飲料の製造で重要な Lactobacillus 属にはホモ型発酵を行う菌種とヘテロ型発酵を行う菌種 更には培養環境によってホモ型発酵になったりヘテロ型発酵になり得る通性型発酵を行う菌種があります ( 表 2) (6) から乳に至る発酵経路 ホモ型乳発酵の発酵経路はエムデン マイヤーホフ パルナス経路 (EMP 経路 ) と呼ばれる解糖のための嫌気的分解経路です ( 図 6 ) ヘテロ型乳発酵には菌種によって様々な経路がありますが 代表的なものはヘキソース一経路 (HMP 経路 ) と呼ばれるもので 図 7にその経路を 表 1 主な乳菌とビフィズス菌の発酵形式 表 2 Lactobacillus 属乳菌の発酵形式 ホモ型乳発酵 Streptococcus, Lactococcus, Pediococcus, Vagococcus, Enterococcus 偏性ホモ型乳発酵 Lb. acidophilus, Lb.delbrueckii, Lb.gasseri, Lb.helveticus, Lb.johnsonii ヘテロ型乳発酵 Leuconostoc, Bifidobacterium 通性ヘテロ型乳発酵 Lb.casei, Lb.rhamnosus, Lb.plantarum 偏性ヘテロ型乳発酵 Lb.kefir, Lb.fermentum, Lb.reuteri

フルクトース ホスホグルコン フルクトース ビス リブロース グリセルアルデヒドジヒドロキシアセトン キシルロース ビスホスホグリセ グリセルアルデヒド -3- アセチル ホスホグリセ ビスホスホグリセ アセチル ホスホエノールピルビン ホスホグリセ アセトアルデヒド ピルビン ホスホグリセ エタノール 乳 乳ピルビン ホスホエノールピルビン 図 6 ホモ型乳発酵 (EMP 経路 ) 図 7 ヘテロ型乳発酵 (HMP 経路 ) 示しました HMP 経路では通常から乳の他にエタノールとCO2が生成されます その他にアセチルから酢が生成される場合もあります HMP 経路とEMP 経路の大きく異なる点はHMP 経路では好気的にピルビンが生成される点です 図 8に示したように 各発酵型式で生成される ATP( エネルギー ) 量は ホモ型乳発酵を行う乳菌では1モルのから2モルのATP が ヘテロ乳発酵を行う乳菌では1モルのから1モルのATPが生成されます いずれも生成されるATP 量は僅少であることがわかります 一方 ビフィズス菌においては ビフィズス菌はEMP 経路やHMP 経路をもたず から乳や酢に至る経路はビフィズム経路 ( 図 9) と呼ばれるものでヘテロ型の嫌気的な経路です この経路により 2モルから乳 2モルと酢 3モルが生成され また ATPは 2 モル当たり 5 モル生成されます ( 図 8) 以上 乳菌とビフィズス菌によってグルコー スが分解されて乳に至る経路について説明し てきましたが 乳菌もビフィズス菌もこれらの 経路をもつことによってエネルギー伝達物質であ る ATP を獲得すると共に 次に説明するように NADH から NAD + を再生させて代謝が止まらない ような仕組みが整っているのです (7) 乳菌やビフィズス菌はなぜ乳発酵を行うのか さて いよいよ乳菌やビフィズス菌がなぜ乳 発酵を行うかについて説明しますが 説明が複 雑にならないようにするために 以下ホモ型乳 エリトロース フルクトース アセチル ホモ型乳発酵 ( 経路 ) グリセルアルデヒド セドヘプツロース 酢 + 乳 キシルロース リボース ヘテロ型乳発酵 ( 経路 ) リブロース + + + キシルロース 乳エタノール グリセルアルデヒド アセチル ヘテロ型乳発酵 ( ビフィズム経路 ) + + ピルビン 乳酢 乳 酢 図 8 乳菌の発酵型式および生成 ATP( エネルギー ) 量 図 9 ビフィズム経路

NAD + NADH NADH NAD + グルコ ー ス H CHO C OH 2- CH2OPO3 グリセルアルデヒド 3- 脱水素酵素 H O C OPO3 2- C OH CH2OPO3 2- CH3 C O COOH 乳脱水素酵素 H CH 3 C OH COOH グリセルアルデヒド 3- ビスホスホグリセピルビン乳 図 10 ホモ発酵型乳菌の場合における NAD + の再生 発酵を行う乳菌に限定して説明したいと思います 図 10に示すようにEMP 経路においてが分解して乳に至る過程でフルクトース-1, 6 -ビスからグリセルアルデヒド-3-ができ そのグリセルアルデヒド-3-が1,3ビスホスホグリセになる段階でグリセルアルデヒド3-脱水素酵素が作用しています この酵素は酵素として働く上で補酵素であるNAD + を必要とします この反応の進行によってNAD + はNADHに還元されます からピルビンに至る過程でNAD + が関与するのはこの部分だけですが この段階でNAD + から NADHへの還元反応が動かなければ解糖系全体が動かなくなり 代謝が止まることになります もとよりNAD + は量的に無尽蔵ではなく極めて限定的であることからどこかでNADHをNAD + に再生させる必要があります そのために乳菌やビフィズス菌はピルビンから乳になる経路を保持しています その経路はピルビンの還元に よって乳をつくり出す経路であり そこに関与するのが乳脱水素酵素と呼ばれる酵素です この酵素が機能するには補酵素であるNADを必要としていることからピルビンから乳をつくることによってNADHをNAD + に再生させ その NAD + をEMP 経路に戻し グリセルアルデヒド- 3-から1,3ビスホスホグリセが生成する反応に補酵素として供給させるのです ( 図 10 参照 ) つまり 乳菌やビフィズス菌側からすると乳を作る最大の理由はNADHをNAD + に再生させて糖代謝を動かすためであり 乳菌やビフィズス菌にとって乳発酵の 発酵 とは無素状態での呼吸であり この機能をもたなければ乳菌やビフィズス菌はこの地球上に存在しなかったことになります 発酵を 酵母 細菌などの微生物が 有機化合物を分解してアルコールや有機を生じること と説明することはあくまで発酵産物を利用する人間側からの見方に過ぎないのです ヘテロ型乳発酵を行う乳菌もビフィズス 表 3 乳菌の主な培地 (1L 当たり ) BCP 加プレートカウント寒天培地 ( 公定培地 ) 酵母エキス ( 2. 5 g ) ペプトン ( 5 g ) ( 1 g ) ツイーン 8 0( 1 g ) L - システイン ( 0. 1 g ) ブロムクレゾールパープル (0.04 ~0.06g) 寒天 (15g) ph 6.8 ~7.0 TYG 寒天培地トリプトン (10g) 酵母エキス (5g) (10g) NaCl(5g) 寒天 (15g) ph 7.0 ラクティック寒天培地 M17 培地 MRS 培地 トリプトン ( 2 0 g ) 酵母エキス ( 5 g ) ゼラチン ( 2. 5 g ) ( 5 g ) ラクトース ( 5 g ) スクロース (5g) NaCl(4g) 酢ナトリウム (1.5g) アスコルビン (0.5g) 寒天 (15g) ph 6.8 ファイトン ( 5 g ) ポリペプトン ( 5 g ) 酵母エキス ( 5 g ) 牛肉エキス ( 2. 5 g ) ラクトース ( 5 g ) アスコルビン ( 0. 5 g ) β - グリセロ二ナトリウム ( 1 9 g ) 1M MgSO4 7 H 2O 溶液 (1ml) ph 7.1 ペプトン ( 1 0 g ) 肉エキス ( 1 0 g ) 酵母エキス ( 5 g ) K 2HPO4( 2 g ) クエン二アンモニウム ( 2 g ) ( 2 0 g ) ツイーン 8 0( 1 g ) 酢ナトリウム ( 5 g ) MgS04 H2O(0.58g) MnSO4 4H2O(0.28g) ph 6.2 ~ 6.6

組成 ( 培地 ml 当たり ) 転移ガラクトオリゴ糖 ( ) ペプトン酵母エキス二水素カリウム一水素カリウム硫アンモニウム硫マグネシウム ( 水和物 ) システイン塩塩 ( 水和物 ) プロピオンナトリウムガラクトオリゴ糖寒天 Gal β1 4 Gal β1 (4 - ガラクトシルラクトース ) 図 11 ビフィズス菌の選択培地 (TOS プロピオン寒天培地 ) 菌もそれぞれ特有のから乳に至る 経路を使って上述のホモ型乳発酵を行う乳 菌と同じように乳発酵を行っているのです (8) 乳菌とビフィズス菌の検出培地 i) 乳菌の検査培地発酵乳および乳菌飲料は乳等省令により製 品中に一定以上の乳菌の生菌の含有が規定さ れ さらに乳菌の菌数測定法が定められていま す 公定培地として BCP 加プレートカウント寒 天培地が採用されています ( 表 3) この他に TYG 寒天培地や MRS 寒天培地も一般的に乳菌検出 培地として用いられています また 対象とする 乳菌の分離源と同じか それと組成が近似した 天然培地が利用されることもあり 例えば脱脂乳 は乳菌の保存培地によく用いられる天然培地 です 培養温度は 30 前後ですが 一部の発酵乳で は 37 が一般的です 低温性乳菌では 20 ~ 22 で培養されます いずれも 2 ~ 3 日でコロニー の形成が認められます ii) ビフィズス菌の検出培地ビフィズス菌のみを含有している試料の菌数 測定には市販 例えば 栄研化学 ( 株 ) 日水製薬 ( 株 ) の嫌気性菌用培地がありますが 一般社団法人全国発酵乳乳菌飲料協会がガイドラインとして平成 12 年に示した3 種のビフィズス菌の検出培地のうち図 11に示したTOSプロピオン寒天培地はより良好な培地として我国から国際標準化機構 ( ISO ) に提案されました TOSとは転移ガラクトオリゴ糖 ( Transgalactosylated Oligosaccharides ) の略で高濃度のラクトースにラクターゼを反応させ 転移反応により生成したオリゴ糖を高純度に濃縮したものです 提案を受けたISOでは (1) 誰がいつ どこで実施しても同じ結果が得られる方法であること (2) ビフィズス菌のみが生育し 乳菌が一切生育しないこと の 2つを満たすことを絶対条件として国際酪農連盟 (IDF) の協力のもとにTOSプロピオン寒天培地の妥当性について検証がなされました その結果 2010 年にTOSプロピオン寒天培地にムピロシンの水溶液 (1 mg/ml) を5% 量加えたMUP 加 TOSプロピオン寒天培地が国際標準培地として採択されました ( ISO 29981 / IDF 220 ) ムピロシン (mupirocin) はPseudomonas fluorescens NCIMB 10586から分離された無毒性の抗生物質で 化学構造式を図 12に示しました なお 我国においてはビフィズス菌の検出法について乳等省令には記載されていませんが 一般社団法人全国発酵乳乳菌飲料協会が ビフィズス菌使用発酵乳 乳菌飲料のガイドライン ( 平成 26 年 3 月発行 ) を発行しています また IDFが刊行している Bulletin of the International Dairy Federation のNo.411 1-5 (2007) にはビフィズス菌検出のための主要培地の詳細が記されているので参考にされるといいと思います 図 12 ムピロシンの化学構造式 次回は プロバイオティクスとしての乳菌と ビフィズス菌 について解説します