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35 カチオン交換型ミックスモードゲル TOYOPEARL MX-Trp-650M の性能 バイオサイエンス事業部 開発部セパレーションセンター 久保雄二 中村孝司 1. 背景近年 バイオ医薬品の中でも免疫グロブリン G(IgG) を中心とした抗体医薬に対する需要の増加は特に著しい その抗体医薬品の成功に伴い 生産工程の第一段階である培養工程において 抗体の発現量が増加している その結果 生産工程の第二段階である精製工程においても 生産性 コストパフォーマンスに優れた新しい分離充填剤の開発が必要とされてきている 1) その一例が 高吸着容量化であり この技術によりタンパク質医薬品の精製工程での生産性を著しく改良することが可能となる 一般的に IgG の精製には Capture 工程での分離精製用充填剤として アフィニティーモードの Protein A 充填剤がよく用いられる Protein A 充填剤は IgG に対する親和性に優れ 夾雑物との分離能が優れている その一方で 高価格 低アルカリ安定性 リガンドの漏洩によるコンタミネーション 吸着容量が低いことによる低生産性などの欠点を有している 2) これに対し イオン交換型充填剤は 安価で吸着容量も高いという利点を有しているが Protein A 充填剤に比べ分離選択性に劣り また塩耐性が低い ( 高塩濃度下での吸着力が低い ) という欠点がある その他に IgG 精製によく使用される充填剤として疎水性相互作用クロマトグラフィー充填剤が挙げられる この充填剤は 高塩濃度下で使用され IgG とその凝集体や宿主細胞由来タンパク質等の不純物とを分離する事が可能であるが 塩濃度が高いためタンパク質の沈殿や変性を起こしやすいという欠点を有している 1),3) 近年 Protein A 充填剤に代わる安価で取扱いが容易な新しい充填剤として 疑似 Protein A リガンドやミックスモードリガンド技術の開発が盛んに行われている 特に ミックスモード充填剤に関しては 種々の製品が開発され市場に投入され始めており Protein A 充填剤の代替など Capture 用途での利用だけでなく その後の polishing 工程での不純物分離等 精力的に IgG 精製への応用が検討されている 4 8) 我々は 最近 新しい構造を有するミックスモード 型充填剤 TOYOPEARL MX Trp 650M を製品化した この充填剤はリガンドとして カルボキシル基に由来するカチオン交換性とインドール環に由来する疎水性の両方の特徴を有したトリプトファンを用いており 高吸着容量で 且つ塩耐性にも優れ 従来のイオン交換体や疎水性相互作用クロマトグラフィーにない新しい分離選択性を有している この充填剤は IgG の精製だけに限らず インシュリンやその他のタンパク質医薬品の精製にも使用可能である 本稿では この新規充填剤の基本的性能 特徴について報告する 2. 実験項 [1] 試薬 充填剤ポリクローナルヒト IgG は 化血研製ガンマグロブリンを購入し用いた モノクローナル IgG および CHO(Chinese Hamster Ovary) 細胞培養液夾雑物は Tosoh Bioscience GmbH(Germany) から入手した 酢酸 酢酸ナトリウム NaCl NaOH などの試薬は和光純薬 ( 株 ) から購入した Capto MMC は GE Healthcare 社 ( 株 ) 製の製品を用いた TOYOPEARL は東ソー ( 株 ) 製の製品を用いた [2] ポリクローナルヒト IgG 動的吸着量の測定 4 種類の充填剤 TOYOPEARL MX Trp 650M TOYOPEARL GigaCap S 650M TOYOPEARL GigaCap CM 650M Capto MMC を それぞれ 6 mm I.D. 40 mm のステンレス製カラムに充填し用いた 吸着緩衝液には 0.05 mol / L 酢酸ナトリウムを用い それぞれ ph を 4.0 4.3 4.7 5.0 5.5 6.0 に調整し用いた 塩化ナトリウム濃度は 0.0 0.1 0.15 0.2 mol / L の濃度に調整した タンパク質として 化血研製ガンマグロブリンを用い 上記の種々の吸着緩衝液へ溶解し 1 mg / ml の濃度へ調整した 充填したカラムへ送液ポンプと UV 検出器 (280 nm) を接続し 調整したタンパク質溶液を線速度 212 425 637 849 cm / hr の流速で負荷させた 得られた吸着破過曲線から 充填剤の動的吸着容量 (Dynamic binding

36 TOSOH Research & Technology Review Vol.56(2012) capacity:dbc) を算出した 吸着させた IgG は 脱着緩衝液 0.30 mol / L の塩化ナトリウムを含む 0.1 mol / L Tris HCl ph 8.5 で回収し その回収液の UV 吸光度から IgG の回収率を計算した [3] モノクローナル IgG 動的吸着量の測定吸着緩衝液として 0.10 mol / L 塩化ナトリウムを含む 0.05 mol / L 酢酸ナトリウム ph 4.7 を用い この緩衝液にそれぞれ濃度が 1 mg / ml 4 mg / ml となるようにモノクローナル IgG と CHO 細胞由来夾雑物を溶解させた 得られたタンパク質混合溶液を TOYOPEARL MX Trp 650M を充填したステンレス製カラム (6 mm I.D. 40 mm) に 流速 1 ml / min. で負荷させた Flow through フラクションは 採集しサイズ排除クロマトグラフィー (SEC) で分析した 一定量のタンパク質混合溶液を負荷させた後 吸着緩衝液で洗浄し 次いで脱着緩衝液 0.30 mol / L の塩化ナトリウムを含む 0.1 mol / L Tris HCl ph 8.5 でタンパク質を脱着させた 脱着フラクションは 同様に採集しサイズ排除クロマトグラフィーで分析した 脱着フラクションの UV 吸光度 (280 nm) から モノクローナル IgG の濃度を定量し 負荷量に対する回収率を計算した [4] サイズ排除クロマトグラフィー測定条件上記 2. [3] 項で得られた各フラクション及び各溶液を SEC で分析した カラムは TSKgel G3000SWXL( カラムサイズ :7.8 mm I.D. 30 cm) を用い 溶離液として 0.3 mol / L の塩化ナトリウムを含む 0.1 mol / Lリン酸緩衝液 ph 7.0 を用いて分析した 流速は 1 ml / min. で 検出は UV 検出器 (280 nm) で測定した [5] 充填剤の使用耐久性の測定 6 mm I.D. 40 mm のステンレス製カラムに TOYOPEARL MX Trp 650M を充填し ポリクローナル IgG の DBC を測定した 測定後 吸着タンパク質を脱着させ その後 アルカリ洗浄液で洗浄した アルカリ洗浄条件は 0.1 mol / L NaOH 溶液を洗浄液として用いた場合 5 倍の column volume(cv) で洗浄し 次いで 0.3 mol / L の塩化ナトリウムを含む 0.1 mol / L Tris HCl ph 8.5 を用い 10 CV で洗浄した これを洗浄 1 サイクルとし 所定の回数洗浄後 再度吸着容量の測定を繰り返した 0.5 mol / L NaOH 溶液を洗浄液として用いた場合は 3 CV で洗浄後 0.3 mol / L の塩化ナトリウムを含む 0.1 mol / L Tris HCl ph 8.5 を用い 5 CV で洗浄し これを洗浄 1 サイクルとして洗浄 吸着実験を繰り返した 洗浄回数はそれぞれのアルカリ洗浄液で 200 回実施した 3. 結果と考察 [1]TOYOPEARL MX Trp 650M の構造 TOYOPEARL MX Trp 650M はリガンドとして 疎水性アミノ酸であるトリプトファンを結合させたミックスモード型充填剤である その構造は Fig. 1 に示した様にトリプトファンのアミノ基を利用し アミド結合で TOYOPEARL に共有結合させている 官能基としては トリプトファン由来のカルボキシル基 ( 弱カチオン交換基 ) とインドール環 ( 疎水性官能基 ) を有している 疎水性アミノ酸であるトリプトファンは 過去様々なタンパク質の分離精製用充填剤のリガンドとして用いられている 9) 12) また 分離膜を利用した技術では γ グロブリンを吸着分離する例が報告されている 13) 血液浄化用ゲルに固定化された例では 血液中の抗体成分分離にも利用されている 14) 我々は 既存製品である TOYOPEARL GigaCap シリーズの開発時に確立した高吸着容量化技術 15) とトリプトファンリガンドにみられるタンパク質分離精製能を組み合わせることにより 高吸着容量でタンパク質 特に IgG に対する分離精製能が優れた新規ミックスモード型充填剤を開発 製品化した [2] ポリクローナルヒト IgG の吸着容量 TOYOPEARL MX Trp 650M のポリクローナルヒ

東ソー研究 技術報告第 56 巻 (2012) 37 ト IgG に対する吸着容量を評価した 結果を Table 1 に示した 吸着条件としては 塩濃度が 0.10 ~ 0.15 mol / L( 導電率 12 ~ 17 ms / cm) と高い条件下での DBC を測定した 抗体だけに限らず タンパク質医薬品などの培養液は 一般的に導電率が高く この培養液を精製工程初期の Capture 工程で精製するには 充填剤の塩耐性が必要となる 塩耐性の低い充填剤を用いるためには あらかじめ培養液を希釈して導電率を下げる 脱塩する等の操作が必要となる しかしながら TOYOPEARL MX Trp 650M は 高塩濃度下でもポリクローナルヒト IgG に対し高い吸着能を有し 高い塩耐性を示すことを確認した [3] 動的吸着量の流速依存性カラムクロマトグラフィー充填剤を用いたタンパク質医薬品等の精製では 充填剤をカラムに充填し これにタンパク質溶液を通液して目的成分と不純物との 分離を行う 従って 通液速度が速い方が精製に要する時間の短縮につながり 結果として製造コストの削減が可能になるため 高流速下でも吸着容量が高い充填剤が望まれている そこで TOYOPEARL MX Trp 650M のポリクローナルヒト IgG に対する DBC の通液速度依存性を測定した 結果を Fig. 2に示したが ここでは通液速度は 単位時間当りに溶液がカラム内を移動する距離である線速度で表した この充填剤は非常に速い通液速度でも吸着容量の低下が少なく 十分に高い吸着容量を示した [4] 充填剤の塩耐性 TOYOPEARL MX Trp 650M の吸着容量の塩耐性を更に詳細に測定した Fig. 3では塩濃度 0.1 mol / L の吸着条件下での DBC に対する ph の影響を確認した 既存製品に比べ TOYOPEARL MX Trp 650M は 高い ph でもより高い DBC を示した 競合品 Capto

38 TOSOH Research & Technology Review Vol.56(2012) MMC(GE Healthcare 社製ミックスモード型充填剤 ) に比べても 十分に高い吸着容量を示すことを確認した また Fig. 4では 0.0 ~ 0.2 mol / L の範囲の様々な塩濃度下での DBC に対する ph の影響を確認した 塩濃度が低下するに従い 吸着容量に対する ph の影響は変化し より高い ph で吸着可能になる傾向を確認した タンパク質医薬品の精製は 通常 Capture 工程 Intermediate purification 工程 Polishing 工程の 3 工程からなり 後者の 2 工程では 分離モードによっても異なるが 低塩濃度下で実施されることが多い 不純物との分離能は ph 等を最適化することにより改善できることがあるため より広い範囲の ph で使用できることが好ましく 本製品はその利用可能な範囲が広いと考えられる [5] モノクローナル IgG の分離精製例モノクローナル IgG 抗体と その培養時の不純物である CHO 細胞培養液夾雑物を混合した溶液を調整し その分離精製能を評価した 結果を Fig. 5 Fig. 6 に示した ここで吸着緩衝液は 0.10 mol / L 塩化ナ

東ソー研究 技術報告第 56 巻 (2012) 39 トリウムを含む 0.05 mol /L 酢酸ナトリウム緩衝液 ph 4.7 を用い その導電率は 12 ms / cm であった 吸着タンパク質混合溶液中のモノクローナル IgG の濃度は 1 mg /ml に調整し TOYOPEARL MX Trp 650M を充填したカラムに負荷させた Flow through でカラムを素通りした成分と充填剤に吸着した成分を分離し 最後に 0.3 mol / L 塩化ナトリウムを含む 0.05 mol /L Tris HCl ph 8.5 で吸着成分を脱着させた 脱着した溶液の吸光度からモノクローナル IgG の DBC を算出した 結果は Fig. 5に示したが DBC は 93 g / L( 回収率 96 %) であった また 精製物の純度を SEC で測 定した それぞれ モノクローナル IgG 純品 CHO 細胞培養夾雑物 それらを混合した吸着タンパク質混合溶液 脱着成分 Flow through 成分を分析し モノクローナル IgG と CHO 細胞由来不純物とが高純度で分離できることを確認した [6] 充填剤の使用耐久性一般的にタンパク質の精製に使用されたカラムは タンパク質の吸着 脱着操作の後 カラムの殺菌のため NaOH による洗浄操作 (CIP 操作 :Cleaning in place) が行われ 再利用される 16) この時 NaOH に対する安定性が低いと 充填剤の選択性や吸着能が

40 TOSOH Research & Technology Review Vol.56(2012) 低下し その結果充填剤の交換頻度が高くなるため タンパク質医薬品の製造コストが高くなる ここでは アルカリ性洗浄液として 0.1 ~ 0.5 mol / L NaOH を使用して その繰り返し使用耐久性を評価した 結果を Fig. 7に示した タンパク質としてポリクローナルヒト IgG を用い その DBC の変化を確認したが 200 回の洗浄操作の後でも吸着能の変化は認められなかった 4. まとめ本稿では タンパク質医薬品 特にIgGなどの精製に有益な 新しいミックスモード型充填剤 TOYOPEARL MX Trp 650M の基本的な性能を紹介した 本製品は トリプトファンという疎水性アミノ酸をリガンドとして用いることで 弱カチオン交換基と疎水性官能基を有し その結果 高い塩濃度下でも IgG に対し高い吸着能を有する従来に無い新しい充填剤を提供することができた モノクローナル IgG と CHO 細胞由来不純物も高純度で分離できることを確認した 本製品は Protein A 充填剤と比べ 高吸着容量であり 且つ安価で繰り返し使用耐久性にも優れることから IgG などタンパク質医薬品の生産性の向上及び製造コスト削減に寄与することが期待できる 引用文献 1)U. Gottschalk,Process scale purification of antibodies(2009) 2)Y. Sun,Journal of chromatography A, 1216, 6081 6087(2009) 3)W. Lindner,Journal of chromatography A, 1218, 8925 8936(2011) 4)J. Chen,Journal of chromatography A, 1217, 216 224(2010) 5)M. A. Vijayalakshmi,Journal of chromatography B, 878, 1031 1037(2010) 6)M. Morbidelli,Journal of chromatography A, 1217, 5753 5760(2010) 7)X. Geng,Journal of chromatography A, 1218, 8813 8825(2011) 8)S.M. Cramer,Biotechnology and Bioengineering, 109, 1, 176 186(2012) 9)I.Sjoholm,Journal of biological chemistry, 248, 8434 8441(1973) 10)W.Carter,Journal of biological chemistry, 251, 5381 5385(1976) 11)M.Vijayalakshmi,Journal of Chromatography, 177, 201 208(1979) 12)K.Shimura,Journal of Chromatography, 350, 265 272(1985)

東ソー研究 技術報告第 56 巻 (2012) 41 13)M.Kim,Journal of Chromatography, 585, 45 51 (1991) 14)N.Yuki,Neurology, 46, 1644 1651(1996) 15) 久保雄二 中村孝司 東ソー研究 技術報告 50 59(2006) 16)S. Ahuja,Handbook of Bioseparations(2000)