ための手法として主成分分析がどのように使われているか例を示す. これにより, 主成分分析を事象や個人のもつ特性の識別に適応することの正当性を示す. (1) 因子分析法 各種の事物に対するイメージの共通因子を発見する手法として, 因子分析法および因子分析法を用いて行う SD(semantic diff

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主成分分析による配色イメージに対する感性類似度測定 白田由香利 本論文では, 商品の配色イメージに対する感性評価を消費者が行う際, 消費者の配色イメージに対する感性の類似度を表現する尺度として, 主成分分析を用いることを提案する. インターネット上の膨大な数の商品群の中から, 自分の感性に合った配色イメージのものを検索することは容易ではない. 検索の際, アドバイスをしてくれるアドバイザーがいると検索のコストを軽減することが可能となる. しかしながら, アドバイザーの感性が自分の配色イメージの感性に類似しているか否かを示す, 尺度およびその測定法があることが望まれる. 本論文の提案は, warm および soft の 因子から求められる主成分軸の傾きの角度を, 類似の尺度として利用することである. この手法により, 婦人靴の配色イメージに対する感性の類似度を測定した. Affective Impression Similarities Analysis for Color Image by Principal Component Analysis Yukari Shirota In the paper, it is proposed to use principal component analysis as measurements for affective impression (Kansei) similarities when consumers evaluate color image of the product. When we retrieve a lot of products on the Internet, it is very difficult to select ones with impressive color image. If advisors on the Internet give us their recommendations, the selection would cost much less than while browsing alone. However, the advisor's Kansei will then have to be similar to the consumer's Kansei. Therefore measurement of Kansei is 学習院大学経済学部経営学科 Gakushuin University, Department of Management Faculty of Economics required. I propose that as the measurement we use the inclination angle of the obtained principal component axis from two variables, warm and soft. By the measurement, I evaluate color image Kansei similarities of shoes for women among respondents. 1. はじめに インターネット上の膨大な数の商品群の中から, 自分の感性に合った商品を検索することは容易ではない. 検索の際, アドバイスをしてくれるアドバイザーがいると検索のコストを軽減することが可能となるであろう. しかしながら, そのアドバイザーの感性が自分の感性とかけ離れたものである場合, 検索は役に立たない. そこで, 感性の類似度を測る, 客観的な尺度およびその測定法があることが望まれる. 配色イメージ以外にも感性の対象となる対象物は各種存在するが, 人がインターネットの情報のみで婦人服や婦人靴などのファッション性の高い物を購買する際を考えたとき, その商品の配色イメージが非常に重要となる. そこで, 商品の配色イメージに対する感性の類似度を研究対象とすることとした. その測定手法として, 本論文では, 主成分分析を用いることを提案する. 感性評価の研究においては,SD 法における因子分析法, 回帰分析法が広く使われているが, 著者の知る限り, 主成分分析法を著者のようなアプローチで感性評価に適応した事例はまだない. 主成分分析は, 多数の説明変数を統合化することにより, 説明変数の数を減らし, 複数の変数間の相関を説明しようとする手法である. 例えば, レストランに対して 変数, 食べ物の質, およびサービスの質についてアンケート評価を行ったとする. その 変数を主成分分析で統合化することにより, 新たな主成分軸が得られる. この場合, その軸はレストランの総合的評価を表している, と解釈できる. 著者の提案は, こうして得られた新たな主成分の軸の傾きの値を, 感性の類似度の尺度として利用しようというものである. 次節では, 感性評価に関する既存研究において, 因子分析法, 回帰分析法, 主成分分析法がどのように利用されているかについて述べる. 第 3 節では, 提案する配色イメージに対する感性の類似度の測定法について説明する. 第 節では, その測定法により, 婦人靴に対して評価を行った結果とその考察を述べる. 最終節はまとめである.. 関連研究 本節では, 既存の感性評価の研究において因子分析および回帰分析がどのように適応されているかを述べる. 次に, 個々の事象 ( 絵画など ) や人のもつ特性を識別する 1 c9 Information Processing Society of Japan

ための手法として主成分分析がどのように使われているか例を示す. これにより, 主成分分析を事象や個人のもつ特性の識別に適応することの正当性を示す. (1) 因子分析法 各種の事物に対するイメージの共通因子を発見する手法として, 因子分析法および因子分析法を用いて行う SD(semantic differential) 法が広く使われている. 事象に対するイメージ語は無数にある. その複雑な関係をもつイメージ語の集合の中から, 因子の統合化を行い, 共通性の高い主因子を求め, 単純化して表現しようとする試みと言える. 共通因子発見の分野を代表する研究者は,SD 法提唱者であるイリノイ大学のオズグッドである. オズグッドは概念の情緒的意味は文化や言語の違いに影響されることなく共通していると主張した. そして共通因子として以下の 3 つの因子 EPA を提唱した [1]. Evaluation ( 評価 ) Potency ( 力動性 ) Activity ( 活動性 ) 以来,SD 法は絵画, 音楽, 映像などのイメージ評定に広く使われるようになった. 例えば,Oyama らは情緒的意味の類似性を共感覚性 (synaesthetic tendencies) と呼び, 色彩, 形態, 音楽, 映像などの各種の刺激を用いて,SD 法によりイメージ評定を行っている []. その結果, 同じ情緒的意味をもつ刺激は, 類似した因子構造を示すことを明らかにし, 共感覚性の存在を示唆している. 物品の外観に対するイメージの共通因子を求める手法として, 因子分析法が使われている対象物としては, 服, 靴, アクセサリー, パッケージ, インテリア, 自動車, 街路景観, 標識 ポスター, 絵画などがある [3]. 例えば, 出水らは, 街路景観の感性評価のアンケートで以下のようなイメージ語を用いてアンケート調査をしている []: 静かな, 歴史的な, 興味深い, 古い, 田舎的な, 開放的な, 美しい, 殺風景な, など. 出水らはこれらに対して SD 法を用いて つの主因子を求めているが, 第 1 主因子, 第 主因子とするのみで, 主因子に具体的な名前は与えてはいない. 宝珍らが行っている,MPEG 動画のイメージ評定の研究においても,SD 法が用いられている [5]. そこでは, 主因子の数をオズグッドによる提唱の 3 つ EPA から,5 個に増やしている. そして, それら 5 つの因子の得点を, 各種 MPEG の物理量を説明変数とする重回帰分析モデルにより計算している. こうした因子分析においては, 最終的に得られた主因子をどう解釈して命名するかが問題となるが, それは分析者に依存する. 因子分析と類似した多変量分析とし て主成分分析がある. 因子分析法と主成分分析法のアプローチの違いを以下のように言える. 因子分析法では, 観測データを分解し, 未知なる少数の主因子を発見するために行う []. それに対して主成分分析は既に因子は与えられている. 複数の因子で表現される観測データを単純化するために, 要約して少数の因子に統合化する手法である. 初めに因子分析法により因子を求め, その因子に対して主成分分析を用いることもある. () 回帰分析法 事象のイメージのレベルを推定するモデルを作成するために, 回帰分析法がどのように用いられているか説明する. モデル作成の前提として, 自動的に計測可能な物理量は各事象に対して与えられる, あるいは求められるとする. これらの物理量が説明変数となる. 一方, サンプル事象の集合に対して, 評価者がイメージ語のレベルを与える. 複数の評価者からの回答の平均をとり, イメージ語のレベルとする. これが目的変数となる. そして, 重回帰分析を用いることで, 物理量からイメージ語レベルを推定する回帰式モデルが求められる. 例えば, 今村らは T シャツのデザインの感性評価を行う際, 以下の つの特徴量を抽出し, それを計算するための物理量を設定している [7]. (A) 色情報 :RGB 値の平均と標準偏差 (B) 大きさ, 位置情報 : パターン領域の総面積と重心 (C) 形状情報 : 画像のパターン領域の絶対最大長, パターン幅, パターン方向, 円相当径, 円形度, 凹凸度そして, ひとつのイメージ語 ( 例 : プリティ ) に対する重回帰式を求める.T シャツデザインに関する画像的物理量が説明変数となる. 目的変数は, イメージ語に対する得点である. この重回帰式により, 未知の T シャツのデザインに対しても, 得点が推定できるようになる. 別の適用事例として, 宝珍らが行っている動画に対する類似度測定の研究がある [5]. この研究では,MPEG 動画の特徴量 ( 明度, 動きベクトル, 輝度 ) を説明変数として, 以下の 5 つの共通因子をそれぞれ目的変数としている. ( あ ) 明快性 ( い ) 力量性 ( う ) 活動性 ( え ) 軽量性 ( お ) 堅鋭性例えば, 明快性というイメージ語への得点が, 動画特徴量を説明変数とする重回帰 c9 Information Processing Society of Japan

式として推定可能となる. このようなモデル作成のためには, アンケート評価者の感性が共通している必要がある. 特にファッションデザインのような分野では世代, 性別, などの要素により大きく異なる可能性がある. 回帰分析によるモデルの善し悪しは, その共通性の有無に依存するものであり, そこが課題と言える. しかしながら, 色から受けるイメージは多少の差はあるが, おおむね似たようなものになると言われている []. 色に対するイメージであれば回帰分析によるモデルも信頼性が得られると考える. (3) 主成分分析による個人の特性の表現 一般に事象に対するイメージを表現するには, 多数の指標が存在してしまい, データが複雑な構造となる傾向がある. その複雑になる傾向のあるイメージを簡素化して表現するために, 主成分分析が使われている. イメージ語を簡易に表現するために主成分分析を使った例を示す. 栗田らは, 絵画データベースのイメージ語による検索において, イメージの表現ベクトルに対して, 主成分分析を用いることで, イメージ語の空間配置を得ている [9]. イメージ語は, すがすがしい, など 3 の言葉を選択し, か 1 の値をもつ 3 次元のベクトルとして表現する. このイメージ語の空間上においては, イメージ語間の関係が点の配置として表現される. 利用者はそれを検索のための手がかりとすることができるので, イメージを言葉で表現するよりも直観的にわかりやすいインターフェースが実現できる. 栗田らの論文では, 画像の色調 配色に関する画像特徴ベクトルを求め, イメージベクトルと画像特徴ベクトルの相関が最大になるような変換行列を正準相関分析により求めることで, イメージ語と絵画とのマッピングを図っている [9]. 感性評価以外の分野では, 次のような適応例がある.ATR の木下らは, 顔の動きに関する個人の特性を表現するために, 主成分分析を用いている [, 11]. この研究では, 個人の顔面運動のようすをモーションキャプチャデータとして取り,3 次元顔データベースを作成している. そして顔面上に設定した 点からなる頂点の座標の動きを, 主成分分析によって統計分析した結果, 以下のような つの主成分を求めている. 第 1 主成分 : 顎の上下運動第 主成分 : 唇の丸め 突き出し / 横方向への唇の広げそして, これらの つの主成分と, 名前の無い第 3 主成分までを用いて, 顔面運動を表現し, 次に,A さんの顔面運動を B さんの顔面運動および 3 次元顔形状に変換している. この研究では, 個人の顔の動きの特性を主成分分析による主成分で表現している. 上記 例のように, 各絵画, 各人の顔の動きなどの個々の物体を明確に区別しようとする際に, 主成分分析は用いられている. 著者の提案も, 与えられた多数の商品の 配色イメージを, 商品ごとに明確に区別するために主成分分析を用いている. よって, 主成分分析を商品の差異を明確化する目的で用いることは正しいと言える. 以下では, 栗田ら [9] の主成分分析の利用アプローチと, 著者の利用アプローチの違いを述べる. 栗田らの研究 [9] においては, 絵画全体に対し, 各絵画に対応付けられたイメージベクトルの差異を最も際立たせるために, 主成分分析が用いられている. つまり, 各絵画の付加されたイメージ語の違いを明確にするために主成分分析を用いている. 求めた主成分軸は, この与えられた絵画の集合に対しては万人に共通のもとという仮定のもと, 共同利用される. それに対して著者の提案は, 各個人で主成分分析の軸は異なることを前提としている. 軸の差異を表現する指標として主成分軸の傾斜角度を利用することを提案している. よって主成分軸を求めた後の主成分軸の利用法は異なる. 3. 主成分分析による配色イメージに対する感性の類似度測定 本節では著者が提案する, 主成分分析による個々人の配色イメージに対する感性の類似度測定手法を説明する. 婦人服や婦人靴などの外観が重要視される物品においては, その色が重要なファクターとなる. 配色イメージを分析する際, 長年にわたり色について研究を行ってきた小林重順の研究成果であるカラーイメージスケールによる手法が有効である, と著者は考えた. 小林によるカラーイメージはデザインの世界で広く使われている [3, 1-1]. 小林は 197 年から 7 年に単色および配色に対するイメージを,SD 法を用いることで調査した. その結果として, 主要因子として,warm-cool, soft-hard を得た. warm-cool( 暖寒 ) は色相,soft-hard( 強弱 ) はトーン ( 濃淡 ) を表す. 小林の主張は, 単色および配色に対する人のイメージは各人に依存して異なることはあるものの, 共通の感性というものがあり, 横軸に warm-cool, 縦軸に soft-hard をとり, 色や配色のもつ意味を 次元内の位置として表現するイメージスケールによりシステム化できる, というものである. 197 年以降は, 配色とイメージ語にも共通性があることを発見し, イメージ調査および SD 法を実施することで, その共通性が定常的に現れることを検証した [17]. 配色イメージに対する感性の主因子として何を選ぶかが重要となるが, 上記の小林の研究成果である warm-cool, soft-hard は信頼性の高いものであるので, 筆者はこの 因子を用いることとした. 評価者に, 同じ商品群を提示し, それの配色イメージに対して warm-cool, soft-hard のレベルを入力してもらう. その標本に対して主成分分析を行う. 新たな主成分軸の傾きの角度をその評価者の配色イメージの感性の尺度, 類似度とする. 3 c9 Information Processing Society of Japan

主成分分析のプロセス詳細は以下のようになる. 第 1 ステップは, 相互に関連する複数の説明変数に対し, 分散共分散行列を求めることである. 分散共分散行列は, 説明変数相互の相関を表している. 第 ステップとして, その分散共分散行列の固有値を求める. その中の最大値である第 1 固有値に対応する固有ベクトルの方向を, 新たな統合化された主成分の方向とする. 今回の提案手法のように説明変数が 個の場合, 行列のサイズは であり, 求められるのは第 固有値までである. 行列は必ず対称行列となるので, つの固有ベクトルは必ず直交する. 後述するように, 婦人靴の配色イメージの感性評価において,5 人の評価者中, 人の女性が類似した傾きの主成分軸であったのに対し, 男性評価者のみが女性グループと直交する第 固有ベクトル方法に主成分軸をとっていたことは興味深い事実である. これは, 少なくともこの 1 人の男性評価者に対しては, 他の評価者と異なり, 第 1 固有ベクトルと第 固有ベクトルの入れ替えが起こった, と解釈できる. 第 3 ステップは, 求められた主成分軸の平行移動である. 個々人の感性類似度を比較しやすくするためには, 原点を合わせておく必要がある. そのため, サンプルとなる点集合 ( 個々の商品が 1 点に対応する ) の x 座標 (warm),y 座標 (soft) の平均値を予め計算しておき, その重心点が, 新たな原点となるように, 各サンプルの座標を移動させる. すると, 主成分軸は必ず原点を通り, かつ, 主成分軸と x 軸とのなす角度は, 度から 1 度の間となる. 一人の評価者の, その商品群のデザイン評価に対する主成分軸の方向は, その角度の数字 ( 度以上 1 度未満 ) で表わすことができる. 本論文では, 評価者の配色イメージに対する感性の類似度を, この主成分軸の角度の数字によって表現することを提案する. 提案する主成分軸の角度という尺度が, その評価者の配色イメージに対する感性評価の傾向とどのように関連しているかを以下で, 説明しよう. まず,A という評価者が warm-cool レベルには殆ど関心がなく, すべての商品デザインの warm レベルに同じ値を与えた場合を考えてみよう. その場合,warm に関する分散はゼロであり, 全ての点は,soft レベルを表す y 軸上にプロットされる. そして, y 軸が新たな主成分軸となる. 理由は, 主成分分析とは, 全てのサンプルの分散の和が最大となるように, 主成分軸を決定するからである. 同様に,B という評価者が,warm レベルを表す x 軸上にすべてのサンプルを並べた場合, その評価者は soft-hard レベルには全く関心がないと解釈できる. よって, どちらの因子に対してセンシティブであるかを, 主成分軸の角度は表していると解釈できる. 主成分軸の傾き角度は, その評価者の配色イメージに対する感性が,soft-hard に対してセンシティブであるか,warm-cool に対してセンシティブであるかの度合を表現している. 一般に主成分は, その変数を表す単位の影響を受けてしまうので, データの標準化を行う必要がある. 分散共分散行列を標準化して相関行列にして, その固有ベクトルを求めることで単位の影響を取り除くことができる. 小林は, 配色とファッションイメージ語に対しても共通性があるとし, イメージ調査および SD 法の実施の後,warm-cool,soft-hard の 軸上にファッションイメージ語を対応させたイメージ語のイメージスケールも完成させた [17]. この配色 イメージ語の変換を用いると, 配色イメージの主成分分析の結果を以下のように表現することができる. 主成分軸が x 軸となす角度が から 9 度までの範囲では, その評価者はプリティ vs モダンカジュアルの評価軸を第 1 主成分として, クールカジュアル vs ハードカジュアルの評価軸を第 主成分としている. 主成分軸が x 軸となす角度が 9 から 1 度までの範囲では, その評価者はクールカジュアル -- ハードカジュアルの評価軸を第 1 主成分として, プリティ -- モダンカジュアルの評価軸を第 主成分としている.. 婦人靴のデザイン評価への適応 提案した評価法によって, 評価者の配色イメージに対する感性類似度を測定してみる. 実験対象は 5 人の大学生 ( うち男性一人 ) に, 婦人靴 7 足の配色イメージに対して warm, soft の値を -5 から +5 の範囲で決定してもらった. 評価対象の婦人靴は同一のものを用いている. 結果は以下の通りであった. 被験者 主成分軸の角度 ( 著者が提案する感性類似度 ) Tさん 17. Yさん 3. Nさん.3 Mさん 5.9 YB 君 11. 5 人の全サンプルの評価点の結果の様子を水平軸 warm-cool および垂直軸 soft-hard の 次元平面図で示した. 個々のサンプルの位置を見ると, かなり異なる評価がなされているものもあるが, 全体としての評価基準は想定される範囲内のものである. ま c9 Information Processing Society of Japan

た, 平面図の隣に, 各評価者の主成分軸上の主成分得点の分散のようすを示した. 人によって分散のようすは様々であることが読み取れる.5 人の評価者中, 人の女性が類似した傾きの主成分軸であったのに対し, 男性評価者のみが女性グループと直交する第 固有ベクトル方法に主成分軸をとっていた ( 角度 11 度 ) ことは興味深い事実である. これは, 少なくともこの 1 人の男性評価者に対しては, 他の評価者と異なり, 第 1 固有ベクトルと第 固有ベクトルの入れ替えが起こった, と解釈できる. 換言すると, 女性 人の評価者が, プリティ vs モダンカジュアルの評価軸を第 1 主成分としたのに対し, 男性評価者 1 人は, クールカジュアル vs ハードカジュアルの評価軸を第 1 主成分としている. この違いが, 基本的な男性と女性の感性の違いなのか, この評価者特有のもので一般的ではないのかは, さらなる実験を行わないと分からない. 現時点の実験データからのみでは何も言及できない. また, 角度が同じだとしても, その主成分軸上でのサンプルの位置は大きく異なる可能性がある. 主成分分析で求められた主成分軸は, 評価者が元々与えられた軸のどの軸に対してセンシティブであるのかを示している. これは一般的に成立することである. 著者の提案は, 配色イメージに対する個々人の感性の類似度として,soft-hard,warm-cool の 因子成分の主成分軸の傾き角度を使うことである. 主成分軸の傾き角度は, その評価者の配色イメージに対する感性が,soft-hard に対してセンシティブであるか, warm-cool に対してセンシティブであるかの度合を表現している. 本節で行った実験では, 評価者 5 人の配色イメージ感性類似度を計算しただけであり, 本提案手法の有効性を示すことにはいたらない. インターネットショッピングでの応用を考える場合, テストデータにおいて個々人の配色イメージ感性類似度を計算し, その値が似ている人を探し, その人が感性評価を行っている他の商品群に対する買い物の際に, その人の評価を参考にするという流れになる. よって, 異なる商品群の集合に対して, 感性の類似度は成立するか否かの検証が今後必要となる. データ T さん : 角度 17. データ Y さん : 角度 3. 1 1 データ T 9 7 5 3 1 1 3 5 7 9 データ Y 5. おわりに 本稿では, 商品デザインの感性評価を消費者が行う際の消費者の配色イメージに対する感性の類似度を表現する尺度として, 主成分分析を用いることを提案した. インターネット上の膨大な数の商品群の中から, 自分の感性に合ったデザインのものを検索する際に, アドバイザー的存在のユーザの感性が自分と類似しているか否かを評価することは重要だからである. 9 7 5 3 1 1 3 5 7 9 5 c9 Information Processing Society of Japan

データ N さん : 角度.3 度 データ YB 君 : 角度 11 度 1 1 データ N 1 1 データ YB: 11 度 1 1 9 7 5 3 1 1 3 5 7 9 9 7 5 3 1 1 3 5 7 9 データ M さん : 角度 5.9 9 7 5 3 1 データ M 9 7 5 3 1 1 3 5 7 9 本論文の提案は, warm および soft の 因子から求められる主成分軸の傾きの角度を, 類似の尺度として利用することである. 一般に主成分分析を行う際は, 多数の説明変数を対象とするが, 説明変数は warm および soft の つのみとする. この手法により, 婦人靴の配色イメージに対する感性評価の場合の5 人の評価者の感性の類似度を測定した. 結果によると, 女性 人の評価者が, プリティ vs モダンカジュアルの評価軸を第 1 主成分としたのに対し, 男性評価者 1 人は, クールカジュアル vs ハードカジュアルの評価軸を第 1 主成分としていた. この違いが, 基本的な男性と女性の感性の違いなのか, この評価者特有のもので一般的ではないのかは, さらなる実験を行わないと分からない. 本論文で行った実験では, 評価者 5 人の配色イメージ類似度を計算しただけであり, 本提案手法の有効性を示すことにはいたらない. インターネットショッピングでの応用を考える場合, テストデータにおいて個々人の配色イメージ感性類似度を計算し, その値が似ている人を探し, その人が感性評価を行っている他の商品群に対する買い物の際に, その人の評価を参考にするという流れになる. よって, 異なる商品群の集合に対して, 感性の類似度は成立するか否かの検証が今後必要となる. インターネット上の商品検索において, 配色イメージに対する感性評価は益々重要になると考える. 今後とも感性評価に対して, 各種の分析手法の有効性を検証していきたい. c9 Information Processing Society of Japan

謝辞本研究の一部は,9 年度学習院大学計算機センター特別研究プロジェクト 多変量解析プロセスの Maple による表示 ( 代表 : 白田由香利 ) による. ここに記して謝意を表します. 1. Kobayashi, S. Color Image Scale. 9 [cited 9 th, October]; Available from: http://www.ncd-ri.co.jp/english/main_.html. 17. 小林重順, カラーシステム. 1999: 講談社. 参考文献 1. Osgood, C.E., Studies on the generality of affective meaning systems, The American psychologist, 19. 17(1): p. -.. Oyama, T., T. Yamada, and H. Iwasawa, SYNESTHETIC TENDENCIES AS THE BASIS OF SENSORY SYMBOLISM : A REVIEW OF A SERIES OF EXPERIMENTS BY MEANS OF SEMANTIC DIFFERENTIAL, Psychologia, 199. 1(3): p. 3-15. 3. 小林重順, カラーマーケティング戦略 : 感性データベースによるイメージプランニング, 19: 日本能率協会.. 出水里枝, 本間俊雄, 友清貴和, 感性工学手法を導入した街路景観の再評価. 日本建築学会九州支部研究報告, 3. 7: p. 5-. 5. 宝珍輝尚, 他, 動画の特徴量からの感性の主因子の因子得点の推定, 情報処理学会研究報告,. -DBS-13(I)(1): p. 153-.. 浅野熙彦, 入門多変量解析の実際第 版, : 講談社. 7. 今村亮介 and 椎塚久雄, 重回帰分析を用いた T シャツデザインの感性評価, 工学院大学研究報告,. 1: p. 135-139.. 木本晴夫, 感性語による画像検索とその精度評価, 情報処理学会論文誌, 1999. (3): p. -9. 9. 栗田多喜夫, 加藤俊一, 他, 印象語による絵画データベースの検索, 情報処理学会論文誌, 199. 33(11): p. 1373-133.. 木下敬介, 倉立尚明, 主成分分析によるリアルタイムトーキングヘッドシステム, 電子情報通信学会技術研究報告 HIP, ヒューマン情報処理,. (55): p. 7-5. 11. 倉立尚明, 木下敬介, 主成分分析によるリアルタイムトーキングヘッドシステム, 画像電子学会誌, 5. 3(): p. 33-33. 1. Kobayashi, S., COLOR IMAGE SCALE 1991, Tokyo: Kodansha International. 13. Kobayashi, S., Colorist: A Practical Handbook for Personal and Professional Use 199, Tokyo: Kodansha International. 1. Kobayashi, S., A Book of Colors. 197, Tokyo: Kodansha International. 15. Kobayashi, S., The Aim and Method of the Color Image Scale. Color Research and Application, 191. (): p. 9-7. 7 c9 Information Processing Society of Japan