川瀬基弘 液 2.5 L を投入した 純培養液は, クロロフィル a (Chl.a) 濃度で, およそ 00 μg L -1 とした 実験中はエアレーションを充分に行い, 水温を 20( ± 1.5) に保ち,C. vulgaris の沈殿を防ぎ, 均等に分散させるために適度な水流を作った 海産二枚

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陸の水 (Limnology in Tokai Region of Japan3 : 71-81(2010) 日本産イシガイ類による炭素 窒素除去 川瀬基弘 Water purification by Japanese Unionoida Motohiro KAWASE 1) 摘要 カワシンジュガイ, ヨコハマシジラガイ, ニセマツカサガイ, ササノハガイ, カタハガイ, マツカサガイ, オバエボシガイ, ドブガイのイシガイ類 8 種の水質浄化能力を室内実験により検証した その結果, 実験条件下において,8 種すべてが昼間より夜間に濾水量が大きくなることがわかった また, 全種が TOC と TN を減少させる傾向にあり, 水質浄化に寄与していることが証明された ただし, 全種を通じた濾水量と TOC TN 除去量の関係には直接的な相関関係はみられず, 種ごとに異なる TOC TN 除去能を有している可能性が示唆された キーワード : 濁度, イシガイ類, 水質浄化,TN( 全窒素 ),TOC( 全有機炭素 ) (2008 年 9 月 16 日受付 ;2009 年 8 月 3 日受理 ) はじめに 海域, 汽水域や淡水域には, 水中の懸濁物を摂食する濾過摂食性の二枚貝が, 数多く生息している これらは透明度低下の原因となる植物プランクトンを取り込むことで, 水質浄化に寄与している このような濾過摂食性の二枚貝の水質浄化能力については, 数多くの研究があり, 特にアサリやヤマトシジミなどの水産有用種で研究が進んでいる ( 相崎 福地, 1998; 相崎ほか,1998; 磯野,1998; 中村ほか,2001; 金綱ほか,2003 など多数 ) このように一部の海産二枚貝の研究は極めて多い反面, 水産資源としての利用が進まなかった淡水二枚貝の研究は,Kryger and Riisgard(1988),Sylvester et al.(2005),wu et al.(2005) などに限られている 日本の国土は地形が険しく, 大河や大湖はなく, 河川が短いため淡水に生息する貝類の種類は, 中国大陸や北米大陸などに比べて少ない 特にイシガイ類は研究者が少ないことから, 生息分布や生態的特徴に関する基礎情報が不足していたが, 近年, これらの基礎情報が蓄積されてきた ( 近藤,2008) 濾過摂食性の淡水二枚貝類の中でも大型の部類に属するイシガイ類は, アサリやシジミといった水産有用種と同等以上の浄化能力が期待できることを考慮すれば, これを解明することは河川や湖沼の水質管理を考える上で重要であると考えられる ところで, 二枚貝の水質浄化能力の研究は, 濁度から濾水 量を算出しているものが多く (Coughlan,1969;Nakamura et al.,1988; 長谷川ほか,2000; 相崎ほか,2001 など ), 汚濁の原因となる生元素の分析まではほとんど行われていない そこで本研究では, 研究例の少ない淡水二枚貝 ( イシガイ類 ) の水質浄化能力を, 濁度, クロロフィル a (Chl.a), 炭素及び窒素に注目して室内実験により検証した 方法 実験には, カワシンジュガイ Margaritifera laevis, ヨコハマシジラガイ Inversiunio jokohamensis, ニセマツカサガイ I. yanagawensis, ササノハガイ Lanceolaria grayana, カタハガイ Obovalis omiensis, マツカサガイ Pronodularia japanensis, オバエボシガイ Inversidens brandti, ドブガイ Anodonta woodiana の 8 種を用いた これらの二枚貝は, 東海 近畿地域の河川 湖沼で採集し ( カワシンジュガイのみ北海道産 ),Kryger and Riisgard(1988) や Sylvester et al. (2005) に倣って, 植物プランクトン Chlorella vulgaris を毎日充分に与えて飼育した また, 二枚貝は環境の変化に敏感なものが多く, 水温変化や採集時のストレスによる影響を減らす必要があったため (McLusky,1973;Jorgensen,1975; 山室,1992), 実験を開始するまでに 30 日以上室内の水槽に馴致させた 実験には市販されている縦 270 mm 横 180 mm 高さ 120 mm のプラスチック容器を使用し,C. vulgaris の純培養 1) 70-039 豊田市平戸橋町波岩 86-1 愛知みずほ大学人間科学部 School of Human Sciences, Aichi Mizuho College, Haiwa 86-1, Hirato-bashi, Toyota, Aichi 70-039 (E-mail: kawase@mizuho-c.ac.jp) 71

川瀬基弘 液 2.5 L を投入した 純培養液は, クロロフィル a (Chl.a) 濃度で, およそ 00 μg L -1 とした 実験中はエアレーションを充分に行い, 水温を 20( ± 1.5) に保ち,C. vulgaris の沈殿を防ぎ, 均等に分散させるために適度な水流を作った 海産二枚貝による実験において, 明 暗条件による浄化能力の違いを確認したので ( 川瀬ほか,2008), 本実験においても明条件, 暗条件と対照区の 容器を用いた 明条件には 2 本の 0 W 普通蛍光灯 (2000 lux) を当て, 暗条件は二重のアルミ箔で容器を被い光を遮断し, それぞれの対照区の容器には貝を入れなかった 自然条件下の淡水二枚貝は, 一般に堆積物中で埋在生活をしているが, 堆積物の投入により堆積物から溶出する物質があることを配慮して, 堆積物の存在しない条件下で実験を試みた 実験は各条件 1 回ずつ行い, 個体毎に浄化能力の違いがある可能性に配慮して, 各実験水槽には 3 ~ 5 個体の貝を投入した 各実験に使用した個体数, 個体の殻長 ( 前端から後端までの長さ ) の平均 標準偏差, 湿重量の平均 標準偏差を表 1 に示す 測定方法は, 二枚貝の濾過速度を測定するのに多く用いられている間接法 ( 山室,1992) を採用し, 実験開始時から 1 時間毎に採水して 6 時間後までの 7 回を測定した なお, 直接法は, 二枚貝の出水管と入水管にガラスチューブなどを取り付けて, 流水量を直接測定する方法である (Coughlan and Ansell,196; 木村,2006) 本実験に用いたイシガイ類は, アサリやシジミのような出水管と入水管をもたず, 外套膜が癒着した構造をもつため ( 増田 内山,200), 直接測定では誤差を生じやすいと考え, 間接法を採用した 採水時には, 粘液状物質として排出された糞と擬糞 ( 波部ほか,1999) の混入を避けた 測定項目, 測定機器と測定方法は以下の通りである 濁度は積分球式法 [JASCO V-550] で, カオリン濁度標準液を基に 定量した. クロロフィル a (Chl.a) は, 試料水をガラス繊維濾紙 (Whatman GF/F) で吸引濾過し, アセトン抽出 吸光法の原理でロレンツェン法により蛍光光度計 [TURNER 10-AU] で測定した ( 日本分析化学北海道支部編,1981; 西條 三田村,1995) 全有機炭素 (TOC) 溶存有機炭素 (DOC) 及び全窒素 (TN) 全溶存窒素 (TDN) の分析には, 試料に塩酸 200 μl を加え,TOC 分析装置 [SHIMADZU TOC-V,TNM-1] による乾式 (850 燃焼 ) 法を用いた なお, 全炭素 (TC) = TOC + 無機炭素 (IC) であり, 塩酸を加えることで IC を取り除き,TC = TOC とした ここで,TOC = 懸濁有機炭素 (POC) + DOC である 一方,TN = 懸濁有機窒素 (PON) + TDN であり,TDN = 溶存有機窒素 (DON) + 全無機窒素 (T inorg. N) である ここで,T inorg. N = NH + NO 2 + NO 3 である. 濾水量 F は,Nakamura et al.(1988) が用いた次式 (1) に濁度の値を代入して計算した (1) ここで,F: 濾水量 (ml h -1 ),V: 実験に用いた水量 (ml),t: 実験時間 (h),c 0 : 淡水貝を投入した容器内での実験開始時の対象とする物質の濃度 (mg L -1 ),C t : 淡水貝を投入した容器内での t 時間後の対象とする物質の濃度 (mg L -1 ),C b0 : 対照区の容器内での実験開始時の対象とする物質の濃度 (mg L -1 ),C bt : 対照区の容器内での t 時間後の対象とする物質の濃度 (mg L -1 ) を表す また,(1) 式を以下の (2) 式のように変換して無次元化すれば, 左辺に測定値を代入することにより, 容器内の物質の除去 凝集効果を示すことができる 図 1 では,1 個体当たりに換算した数値を縦軸にとって示し, 図 2 ~ についても同様に整理した (2) 表 1. イシガイ類 8 種の実験条件. 和名学名明暗条件 各実験に使用した個体数 殻長の平均 (mm) 殻長の標準偏差 湿重量の平均 (g) 湿重量の標準偏差 カワシンジュガイ ヨコハマシジラガイ ニセマツカサガイ ササノハガイ カタハガイ マツカサガイ オバエボシガイ ドブガイ Margaritifera laevis Inversiunio jokohamensis Inversiunio yanagawensis Lanceolaria grayana Obovalis omiensis Pronodularia japanensis Inversidens brandti Anodonta woodiana 5 5 5 5 5 5 3 3 62.2 60. 67.5 66.3 52.5 52.5 66. 68.8 72.5 69.3 57.6 57.6 0.7 0.0 77.8 7.8 2.39 3.21 3.70.99 3.70 1.29 5.6 5.76.12.86 5.08.56 2.08 0.00.65.65 3.2 2.9 5.3 5.3 3.8.1 1.1 1. 6.0 7.7 3.2 3.1 2.3 2.1 11. 8.5 0.91 0.63 0.88 0.99 0.69 0.77 0.23 0. 1.38 2.79 1.19 0.9 0.12 0.53 0.98 1.95 72

日本産イシガイ類による炭素 窒素除去 図 1. イシガイ類 8 種における 1 個体当たりの懸濁物質の除去 凝集効果. 各実験区の濁度の変化率を対照区の変化率で除し, さらに実験に投入した貝の個体数で除して,1 個体当たりの懸濁物質の除去 凝集効果を百分率で示した. 図中には実験値をプロット, その近似直線をラインで示し, その傾きを併記した 実線と黒丸は明条件, 点線と白丸は暗条件を示す. 73

川瀬基弘 図 2. イシガイ類 8 種における 1 個体当たりの Chl.a の除去 凝集効果. 各実験区の Chl.a 濃度の変化率を対照区の変化率で除し, さらに実験に投入した貝の個体数で除して,1 個体当たりの Chl.a の除去 凝集効果を百分率で示した. 図中には実験値をプロット, その近似直線をラインで示し, その傾きを併記した. 実線と黒丸は明条件, 点線と白丸は暗条件を示す. 7

日本産イシガイ類による炭素 窒素除去 図 3-1. イシガイ類 8 種における 1 個体当たりの TOC DOC POC の除去 凝集効果. 各実験区の TOC 濃度と DOC 濃度の変化率を対照区の変化率で除し, さらに実験に投入した貝の個体数で除して,1 個体当たりの TOC,DOC,POC の除去 凝集効果を百分率で示した. 図中には実験値をプロット, その近似直線をラインで示し, その傾きを併記した. 太実線 は TOC 濃度, 点線 は DOC 濃度, 細実線 は POC 濃度 (POC = TOC - DOC) の変化を示す. 75

川瀬基弘 図 3-2. イシガイ類 8 種における 1 個体当たりの TOC DOC POC の除去 凝集効果 ( 続き ). 各実験区の TOC 濃度と DOC 濃度の変化率を対照区の変化率で除し, さらに実験に投入した貝の個体数で除して,1 個体当たりの TOC,DOC,POC の除去 凝集効果を百分率で示した. 図中には実験値をプロット, その近似直線をラインで示し, その傾きを併記した. 太実線 は TOC 濃度, 点線 は DOC 濃度, 細実線 は POC 濃度 (POC = TOC - DOC) の変化を示す. 76

日本産イシガイ類による炭素 窒素除去 図 -1. イシガイ類 8 種における 1 個体当たりの TN TDN PON の除去 凝集効果. 各実験区の TN 濃度と TDN 濃度の変化率を対照区の変化率で除し, さらに実験に投入した貝の個体数で除して,1 個体当たりの TN,TDN,PON の除去 凝集効果を百分率で示した. 図中には実験値をプロット, その近似直線をラインで示し, その傾きを併記した. 太実線 は TN 濃度, 点線 は TDN 濃度, 細実線 は PON 濃度 (PON = TN - TDN) の変化を示す. 77

川瀬基弘 図 -2. イシガイ類 8 種における 1 個体当たりの TN TDN PON の除去 凝集効果 ( 続き ). 各実験区の TN 濃度と TDN 濃度の変化率を対照区の変化率で除し, さらに実験に投入した貝の個体数で除して,1 個体当たりの TN,TDN,PON の除去 凝集効果を百分率で示した. 図中には実験値をプロット, その近似直線をラインで示し, その傾きを併記した. 太実線 は TN 濃度, 点線 は TDN 濃度, 細実線 は PON 濃度 (PON = TN - TDN) の変化を示す. 78

日本産イシガイ類による炭素 窒素除去 結 果 考察 懸濁物質の除去 凝集効果として濁度の経時変化を図 1 に, Chl.a の除去 凝集効果として Chl.a 濃度の経時変化を図 2 に示す 図 1 から明らかなように, 明 暗条件ともに,8 種の貝類は懸濁物質を減少させていた 図 2 より Chl.a 濃度の変化率については, ニセマツカサガイとマツカサガイは明条件で小さかったが, それ以外は概ね減少傾向であった 図 1, 2 より, 懸濁物質や Chl.a の除去 凝集効果の除去量は, 種によって異なった 例えば, 図 1 のカワシンジュガイやニセマツカサガイでは実験開始 時間後に, 図 2 のヨコハマシジラガイでは実験開始 3 時間後に最も減少し, その後は増加傾向であった 図 1 のドブガイでは, 減少率がほぼ安定しており, 図 2 のカタハガイでは,1 時間後に減少した後, やや増加傾向を示し, さらにその後で急激に減少した 実験中の平均的な傾向をみるために, 実験水の濁度変化を式 ( 1) に代入して得た濾水量を表 2 に示す イシガイ類 8 種の濾水量を比較すると,1 個体当たりの濾水量と, 軟体部単位湿重量当たりの濾水量ともに, 全種が明条件より暗条件で濾水量が大きかった また,1 個体の濾水量と単位湿重量当たりの濾水量の相対的な大小関係は一致しておらず, 本実験条件下においては種ごとに異なる濾水量を示した TOC,DOC 及び POC(POC = TOC - DOC) の除去 凝集効果を図 3 に,TN,TDN 及び PON(PON = TN - TDN) の除去 凝集効果を図 に示す TOC は明 暗条件で多少の違いが見られたが, 全種ともに減少傾向であった ただし, 多くの種において, 減少している TOC の大部分は POC であり, DOC ではあまり変動がみられなかった TN も TOC とほぼ同様の傾向であり, 明 暗条件で多少の違いが見られたが, 全種ともに TN は減少傾向であった 減少している TN の大部分は PON であり,TDN はやや増加傾向を示す種が多かった さらに, 図 3, をもとに,1 時間当たりの TOC 除去量と TN 除去量を算出して表 2 に示す 1 個体当たりの TOC 除去量を 8 種の淡水貝で比較すると, 明条件でヨコハマシジラガイの除去量が最も大きく, 暗条件ではドブガイやオバエボシガイが大きい値を示した ヨコハマシジラガイとカタハガイでは暗条件より明条件で TOC 除去量が大きかった それ以外の 6 種は暗条件において高い除去量を示した TN では, ヨコハマシジラガイを除く 7 種が, 暗条件で明条件より高い除去量を示した 1 個体当たりの TN 除去量を種ごとに比較しても,TOC と同様に TN でも明条件でヨコハマシジラガイが一番大きく, 暗条件ではオバエボシガイやドブガイが大きい値を示した ただし, 濾水量と同様,TOC,TN についても単位湿重量当たりの除去量は 1 個体の除去量の相対的な大小関係と一致しておらず, 種ごとの特性が表れた はじめに, 実験条件が濾水量,TOC TN 除去量に及ぼす影響について議論する 先行研究と比較可能なドブガイの濾水量を,Kryger and Riisgard(1988) の結果と比較すると, 本実験の方が少ない濾水量を示した 本実験で用いた間接法と Kryger and Riisgard(1988) が用いた直接法では, 山室 (1992) や木村 (2006) が指摘しているように, 間接法では濾過の際の粒子捕捉率が 100% とは限らないこと, 直接法では貝の水管に微小流速計が近接することによる個体のストレスが原因となって結果が異なったものと考えられる この他にも, Mohlenberg and Riisgard(1979) の結果から, 堆積物に埋在した条件下では, 堆積物から個体を取り出した場合に比べて 3 倍以上の濾水速度があることが知られているほか, 容器の大きさや濁度 ( 餌として与えた植物プランクトンの濃度 ) の初期条件による影響が考えられるが, 本実験では過密にならないよう, また, 十分な餌が供給されるよう, 調整した これまでにも多くの研究で測定が簡便な間接法が用いられていることから ( 山室 :1992), 従来の知見と数値の違いはあるものの, 本実験においては, 濾水量,TOC TN 除去量に関する種間の相対的な差異を議論できるものと思われる イシガイ類 8 種は, 懸濁物質を除去し,Chl.a 濃度を減少させていることが証明された 濾水量は全 8 種において暗条件下で明条件下より大きい値を示していることから ( 表 2), 実験に用いた淡水貝類は, 昼間より夜間に濾水量が増加することが明らかになった 二枚貝類の昼夜の行動特性に着目した研究は少ないが, 例えば, 宗宮ほか (2008) がヤマトシジミの夜行性を指摘しているように, 本実験でも夜間に活発に濾過摂食をしていたもの ( 表 2) と考えられる ただし, 人工的な明 暗条件下における結果であるため, 個々の種に対して夜間に濾水量が上昇することを証明するためには, 自然条件下において更なる検討が必要である 実験に用いた全種が TOC と TN の濃度を減少させる傾向にあったことから ( 図 3, 図, 表 2), イシガイ類は富栄養化の主要な原因である TN や, 富栄養化の結果として増加する TOC などを取り込み, 水質浄化に寄与しているものと考えられる 全種共に TOC の除去量が TN の除去量を大きく上回り ( 表 2), 多くの実験ケースにおいて溶存態ではなく粒子態 ( 懸濁態 ) で顕著な減少がみられた ( 図 3, 図 ) 貝類の吸収 消化量と不定期に排出される排泄物 ( 糞と擬糞 ) の量は,POC DOC と PON TDN の変化量に反映されるため, 以下のことが推察される すなわち, 多くの実験ケースにおいて DOC の量がほとんど増減なく安定していたのは,DOC が濾過により取り込まれず, 排出もされなかったためと考えられる 一方,TDN の量が経時的にやや増加傾向にあったのは, 貝類が排泄物の一部を TDN として排出したか, あるいは, 粘液質の排泄物 ( 擬糞 ) から TDN が溶出した可能性 79

川瀬基弘 表 2. イシガイ類 8 種の濾水量と TOC,TN 除去量 和名カワシンジュガイヨコハマシジラガイニセマツカサガイササノハガイカタハガイマツカサガイオバエボシガイドブガイ 明暗条件 1 個体 (ml ind -1 h -1 ) 135.1 12.8 10.9 13.5 8.7 61.7 5.8 76.3 105. 172.8 21.6 32. 66.3 82.0 107.7 131.6 濾水量 TOC 除去量 TN 除去量 単位湿重量 (ml g -1 h -1 ) 2.3 9.3 19.9 27.3 12.7 15.1 9.5 5. 17. 22. 6.7 10.5 29.1 38.7 9. 15. 1 個体 (ml ind -1 h -1 ) 0.63 0.70 1.21 0.59 0.30 0.2 0.1 0.25 0.92 0.85 0.50 0.69 0.5 1.01 0.88 1.15 単位湿重量 (ml g -1 h -1 ) 0.197 0.21 0.229 0.112 0.080 0.103 0.130 0.176 0.151 0.110 0.156 0.22 0.236 0.77 0.077 0.13 1 個体 (ml ind -1 h -1 ) 0.16 0.21 0.20 0.15 0.11 0.12 0.03 0.0 0.07 0.22 0.09 0.12 0.13 0.28 0.18 0.25 単位湿重量 (ml g -1 h -1 ) 0.051 0.07 0.037 0.029 0.029 0.030 0.023 0.029 0.012 0.028 0.028 0.038 0.056 0.132 0.016 0.029 が示唆される ただし,PON の除去量は TDN の増加量を上回っており, 総体的な TN は減少傾向を示した このことから, 実験に用いた貝類の多くは POC と PON を除去し TDN を少量排出したものと考えられる 図 1 ~ の実験結果 ( 経時変化 ) について, 実験開始後, いくつかの種で早い時間帯に濁度等の濃度が減少し, その後, 減少の度合いが少なくなって収束に向かうという傾向が見られた このことは実験に用いた貝類が, 水槽への投入直後に環境変化などの影響を受けていると考えられる 実験開始時の実験水槽には充分に餌があり, 貝が多少空腹状態でもあったために, 投入直後に濁度は早く減少するが, 一定時間後には活発な餌の取り込みが減じられる 餌は実験終了時まで充分に残存することから, 減少率の低下は, 貝の空腹状態が緩和された結果であると考えられる TOC,TN 除去量における明暗条件の対比では,TOC はヨコハマシジラガイとカタハガイを除く 6 種において暗条件で大きな除去量を示し,TN はヨコハマシジラガイを除く 7 種において暗条件で大きな除去量を示した このことから淡水イシガイ類は一部の例外 ( ヨコハマシジラガイ ) を除き, 夜間の活発な濾過摂食を通じて TOC と TN をより多く除去したものと考えられる ただし,1 個体当たりの TOC と TN の除去量が, 必ずしも濾水量の大きさと対応していないことは興味深い結果である 例えば,1 個体当たりの濾水量は, 本実験で用いた 8 種中でカワシンジュガイ ( 湿重量 6 位 ) が最大であったにもかかわらず,TOC 除去量はカタハガイ ( 湿重量 2 位 ) やドブガイ ( 湿重量 1 位 ) の方が大きかった ( 表 2) また,1 個体当たりの TOC と TN の除去量が明 暗条件ともに最も小さかったササノハガイ ( 湿重量 8 位 ) は,1 個体当たりの濾水量は 8 種中 6 位であったが, 単位湿重量当 たりに換算すると明 暗条件ともに最大値を示した ( 表 2) このように, 濾水量の大きさと TOC,TN 除去量が種によって異なる要因としては, 殻の厚み, 軟体部の構造や生理機能の違いによる可能性などが考えられるが, これは今後の検討課題の 1 つである 謝辞 本研究をまとめるにあたり, 愛知工業大学の八木明彦教授には終始御指導いただいた 同大学院博士課程の梅村麻希氏には分析機器の操作方法を御教示いただいた また, 編集委員および匿名の査読者の方には貴重なコメントをいただいた ここに記して以上の方々にお礼申し上げる 文献 相崎守弘 福地美和 (1998): ヤマトシジミを用いた汽水性汚濁水域の浄化. 用水と廃水,0(10):6-50. 相崎守弘 森岡美津子 木幡邦夫 (1998): ヤマトシジミを利用した汽水域の水質浄化に関する基礎的研究. 用水と廃水,0(2):3-39. 相崎守弘 高橋愛 山口啓子 (2001): ヤマトシジミの大量斃死機構に関する基礎的研究 Ⅰ.LAGUNA( 汽水域研究 ), 8,:31-37. Coughlan, J. (1969):The estimation of filtering rate from the clearance of suspensions. Marine Biology, 2,:356-358. Coughlan, J. and A. D. Ansell(196):A direct method for determining the pumping rate of siphonate bivalves. Journal du conseil (Conseil permanent international pour l'exploration de la 80

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