The World Leader in High Performance Signal Processing Solutions SPICE ツールで適切な周波数特性と異常発振しない OP アンプ回路を実現する 基礎編 アナログ デバイセズ株式会社石井聡 1
アジェンダ 1. イントロダクション 2. アナログ回路での単位 db などの見方 考え方 3. SPICEツールNI Multisim の基本機能 4. 周波数特性の検討 5. 異常発振してしまう原理 6. まとめ 2 Analog Devices Proprietary Information
3 その 2 実践編 も是非ご覧ください
4 1. イントロダクション
コツがわからないから安定に動かせない 開発仕様書を渡されて まかせたぞ といわれても ( 汗 ) どのように仕様書を回路で実現し どのようなところがポイント ( 押さえどころ ) かが判らない どこが重要かつ基本的なポイントなんだろう? OP アンプで実験回路を組んでみたけど 利得は設計どおりだけど 目的の周波数特性が出ていない OP アンプが発振している!! OP アンプを確実に動作させるための 勘どころ がある 実動作で検証するまえの 道しるべ として SPICE ツールを活用する 5 Analog Devices Proprietary Information
6 2. アナログ回路での単位 db などの見方 考え方
大きさ 大きさの差 を表す単位 db( デシ ベル ) アナログ回路では対数表記が多い A[V] C[W] 電圧増幅率 電力増幅率 AMP B[V] D[W] db 値電圧比電力比 -10 0.3 0.1-3 1/ 2 0.5(1/2) 0 1 1 3 2 2 10 3 10 20 10 100 40 100 10000 100 100000 10^10 160 10^8 10^16 db がマイナスでも比率自体がマイナスになるのではない 7 Analog Devices Proprietary Information
位相差とは同じ信号どうしの時間差 電圧 [V] 電圧 [V] 2 1 0-1 -2 0 100 200 300 2 +55 1 進み位相の電圧波形 0-1 波形の周期 交流電圧 V 波形の周期 200us こちらの波形を基準とすると 遅れ 43us 電圧 [V] 8-2 0 100 200 300 2 1 0-1 -35 遅れ位相の電圧波形 -2 0 100 200 300 時間 [μsec] 位相 = 360 x (43/200) = 77.4 遅れ 波形の 1 周期を 360 とし先に立ち上がった波形 進み後に立ち上がった波形 遅れ
9 3. SPICE ツール NI Multisim の基本機能
使用する SPICE シミュレータについて このセッションでは National Instruments の NI Multisim Ver.11 Analog Devices Edition ( 無償版 ) を用いる 10 Analog Devices Proprietary Information 弊社サイトで検索してみてください
SPICE シミュレーションを意識しない仮想測定器 オシロスコープ ボーデプロッタ 11 Analog Devices Edition ( フリー版 ) の仮想測定器 このセッションで用いるもの Full Edition, Pro Edition ( 正規版 ) の仮想測定器 Analog Devices Proprietary Information 歪み スペアナ ネットアナ
12 4. 周波数特性の検討 ( ボーデ プロッタ )
OP アンプの周波数特性 ( フィードバックなしで開放時 ) DC 利得から -3dB 0.43Hz 非常に低い これで G = 10 とか G = 1 とかは実現できないのでは? DC 利得 G = 130dB = 3 x 10^6 倍 (3000000 倍 ) 非常に大きい 利得 G = 0dB = 1 倍 1Hz 100 Hz 10 khz G = 0dB 1.3MHz ここが GB 積 1MHz 13 OP2177 の例 GB 積 = 1.3MHz の OP アンプ 周波数はログスケール ( 以降同じ )
帰還をかけて目的の利得 G = 10 など実現する 電圧増幅率 非反転増幅回路 帰還回路 ボルテージフォロア回路 電圧増幅率 帰還回路 帰還回路 電圧増幅率 反転増幅回路 14 Analog Devices Proprietary Information
利得が G = 10, G = 100 の周波数特性 G = 10 = 20dB -3dB 1Hz 155.4kHz 10 MHz G = 100 = 40dB 周波数はログスケール 周波数対利得 & 位相特性を計測ボーデ プロッタを接続 測定信号源 15-3dB 14.8kHz 1Hz 10 MHz Analog Devices Proprietary Information 9kΩ G = 10 = 20dB 99kΩ G = 100 = 40dB 実回路では電源デカップリング用のコンデンサはかならず接続する
利得が G = 1, G = 10, G = 100 の周波数特性 G = 100 = 40dB -3dB 14.8kHz 利得が大きくなれば -3dB 周波数は低くなるこの波形は Multisim の 解析 AC 解析 の機能 かつ重ね合わせて表示 G = 10 = 20dB -3dB 155.4kHz OP アンプ GB 積 1.3MHz G = 1 = 0dB -3dB 2.2MHz 1Hz 100 Hz 10 khz 1MHz 16
5. 周波数特性の検討 ( 実際の OP アンプの特性と比較してみる ) 17 Analog Devices Proprietary Information
実際の OP2177 を G = 10 で特性測定 G = 10 = 20dB -3dB 155.4kHz を活用 100 Hz シミュレーション 10 khz 0dB ライン 1MHz G = 10 = 20dB 実測 -3dB 37.95kHz?? 答えがあわないぞ! 100 Hz 10 khz 1MHz 0dB ライン 18
不一致の理由 AC シミュレーションの限界 波形が三角波になってレベルも低下している! 出力 (5V pk) 入力 (0.5V pk) 10 倍の出力が得られる AC シミュレーション ( ボーデ プロッタ ) はこのようすをシミュレーションできない 周波数 5kHz 大振幅 周波数 50kHz 大振幅 出力 (0.5V pk) 入力 (50mV pk) 19 周波数 5kHz 小振幅 振幅を小さくした 周波数 50kHz 小振幅 振幅が小さければ 10 倍の出力が得られる
不一致の理由 スルーレートとフルパワー帯域幅 FPBW これ以上 波形は高速に変化できない 出力 (5V pk) 約 7V 10us 50kHz 入力 (0.5V pk) OP2177 のスルーレート ( 出力最大変化速度 ) SR = 0.7V/us V PK を出せる BW が決まってしまう 20 Analog Devices Proprietary Information
測定方法改善での結果 G = 10 = 20dB -3dB 37.95kHz 前出の特性 Vin = 0.5Vpk 100 Hz 10 khz 1MHz 0dB ライン G = 10 = 20dB 100 Hz 189.7kHz ( シミュレーション 155.4kHz) 10 khz 1MHz 入力レベルを下げて制限が出ないようにした Vin = 50mVpk 0dB ライン 21 Analog Devices Proprietary Information
仮想オシロによるスルーレート制限のようす (G = 10) 時間軸波形を計測オシロスコープを接続 出力本来なら 5V pk だが三角波 50kHz 入力 0.5V pk 22 信号源パラメータを設定 ボーデ プロッタは AC 解析手法オシロスコープは過渡解析手法 ( シミュレーション方式が異なる ) Analog Devices Proprietary Information
ここまでのまとめと補足 OP アンプの周波数特性は利得 G を大きくすると帯域幅が狭くなる シミュレーションで確認できる なお電流帰還型 OP アンプでは振る舞いが異なるので注意 スルーレートとフルパワー帯域幅 FPBW により 実測で目的の周波数特性が得られないことがあるので注意 シミュレーション ( 時間波形 ) でも確認できる 実回路 ( 時間波形と周波数特性の両方 ) でチェックする 実回路ではバイパス コンデンサを忘れない! 23 Analog Devices Proprietary Information
6. 異常発振してしまう原理 ( 負帰還から正帰還になるようすを理解する ) 24
増幅器 ( アンプ ) を設計したはずが発振器になっている シミュレータ上では 仮想計測器に結果が表示されない とか 収束しない (Convergence Error) 結果になる場合もある 出力波形異常発振 何を指標にすればいいんだ! 位相余裕!? 25 Analog Devices Proprietary Information アンプへの入力波形
帰還回路の視点を少し変えてみる 電圧増幅率 V in マイナス側に帰還するので 負帰還 と言う V FB A 増幅 V out V FB 26 帰還率 β 帰還回路 入力に戻す 減衰器 とも言える
アンプが発振してしまう原理 V in OP アンプ内部の位相遅れが大きい V in 正常 打ち消すはずが遅れであおる方向に! 正帰還 位相遅れ V in OP アンプ内部の出力抵抗 V FB 負荷容量たとえばシールド ケーブル V FB マイナス側に帰還する 負帰還 打ち消す方向に動く 27 位相遅れ 打ち消すはずが遅れであおる方向に! 正帰還 発振! Analog Devices Proprietary Information V FB
28 7. 異常発振してしまう原理 ( 位相余裕を理解する )
ループゲインを定義する 電圧増幅率 V in V FB A(f) V out 増幅 β V FB 帰還率 β ループゲイン = A(f) β 29 帰還回路
アンプ発振の原理 (1 AD8601 で発振しない条件を例にしてループゲインの計算 ) ボルテージ フォロア構成が発振に一番厳しい条件 Vin = 0V - 入力 AD8601 接続しない状態で考える V FB 帰還無しにして ( 切断して ) ー入力から V FB までの特性 ( ループゲイン ) を計算してみる! 30 AD8601 高精度, 広帯域 CMOS R to R I/O アンプ Analog Devices Proprietary Information
1AD8601 で発振しない条件を例 ( ループゲインの計算 ) 利得 0.1Hz 100Hz これらの特性算出方法は 実践編 で説明 利得 0dB ライン 100kHz 100MHz 180 31 0 マイナス側に帰還する 負帰還 打ち消す方向に動く位相 周波数に応じて位相が遅れてくる 位相 0 のライン 打ち消すはずが遅れであおる方向に! 正帰還 になる位相 位相
1AD8601 で発振しない条件を例 ( 拡大 ) 利得 0dB(1 倍 ) 利得 2MHz 利得 0dB ライン 4MHz 10MHz 20MHz 90 これを 位相余裕 50 という 50 位相 0 位相 0 のライン 32
アンプ発振の原理 (2AD797 G = 2 と負荷容量 1nF で発振する条件を例にしてループゲインの計算 ) Vin = 0V - 入力 1nF の容量をつけてみた 接続しない状態で考える 33 帰還無しにして ( 切断して )- 入力から V FB までの特性を計算してみる! V FB AD797 超ローノイズ 超低歪みアンプ
2AD797 G = 2, 1nF で発振する条件例 ( ループゲイン ) 利得 100Hz 利得 0dB ライン 100kHz これらの特性算出方法は 実践編 で説明 100MHz 180 周波数に応じて位相が遅れてくる 位相 位相 0 のライン 0 34
2AD797 G = 2, 1nF で発振する条件例 ( 拡大 ) 利得 0dB 利得 利得 0dB ライン 5MHz 10MHz 20MHz 50MHz 30 位相 位相 0 のライン -30 この付近 ( 位相ゼロ ) で発振 利得 0dB(1 倍 ) で位相が逆転 35
36 8. まとめ
アンプが発振してしまう原理 ( まとめ ) 打ち消す ( 負帰還 ) べきが 周波数が上昇したところで あおり ( 正帰還 ) に転じてしまう 周波数に応じて OP アンプ内部などの位相が遅れてくるため あおり のところでループゲイン >1 だと発振 位相余裕 を指標にすればよい ループゲインが 0dB になったときの位相量が 位相余裕 位相余裕がプラスであれば OP アンプは発振しない 位相余裕が少ない またはマイナスだと OP アンプは発振する 37 Analog Devices Proprietary Information
アンプが発振してしまう原理 ( まとめ ) 発振しやすい要因とは 帰還量が多い場合 ( ボルテージフォロア G = 1 = 0dB が厳しい ) 位相余裕の少ないアンプ 容量性負荷 ( コンデンサや同軸ケーブルなど ) が接続された場合 これらのようすを 実践編 でみていきます 38 Analog Devices Proprietary Information