従来の薬剤探索法では 見出すことができなかった 新規抗 HCV 剤グアンファシンの同定 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科難治ウイルス病態制御研究センターセンター長池田正徳
従来技術とその問題点 C 型肝炎ウイルス (HCV) に感受性のある唯一動物モデルはチンパンジーのみであるが 霊長類であるチンパンジーを使った研究は現在 倫理的経済的問題からなされていない 現在 すべての抗 HCV 剤は 唯一 HCV を高率良く増殖させることが可能なヒト肝癌細胞由来の HuH-7 細胞株のみを使って開発されている HuH-7 細胞株という特殊な細胞内環境でのみの 抗ウイルス活性の評価を行っていると 人体では無効な薬剤が過大評価されたり 人体で有効な薬剤が過小評価されてしまう可能性がある
新技術の特徴 従来技術との比較 HuH-7 細胞株とは異なる ヒト肝癌細胞株である Li23 細胞株を第 2 の HCV 感受性細胞株として樹立し HuH-7 細胞株では見いだすことができなかった 抗 HCV 活性を有する Guanfacine を見出した 現在開発されている Direct Acting Antivirals (DAAs) は驚異的な治療成績を示す一方で 1) ウイルス排除後の肝発癌 2) DAA 治療の HBV 再活性化など 新たな課題が出現した
従来技術 (DAAs) の問題点 1. HuH-7 細胞株のみによる評価 2. 薬価が高額で医療経済を圧迫 (12 週間の治療で約 700 万円 ) 3. 薬剤耐性変異を有する HCV の出現 4. ウイルス排除後の肝発癌 5. ウイルス排除後に HBV が再活性化
想定される用途 HuH-7 では見出すことのできなかった抗 HCV 剤の評価が可能 従来の DAAs に対して耐性を示す HCV に対する薬剤候補 Drug repositioning により見いだされた薬剤なので安全性が保証されている
実用化に向けた課題 1. 前臨床試験における POC の取得 1. 化合物の最適化
企業への期待 1.Guanfacine をリード化合物とする類似化合物の合成 2. 薬剤ライブラリーの提供と Li23 細胞株を用いた抗 HCV 剤のスクリーニング
本技術に関する知的財産権 発明の名称 : 抗 HCV 活性を有する薬剤 出願番号 : 特願 2016-048508 出願人 : 国立大学法人鹿児島大学 国立大学法人岡山大学 発明者 : 池田正徳 武田緑 加藤宣之
肝炎ウイルスには 5 種類ある 肝炎ウイルスの種類 A 型肝炎ウイルス (HAV: Hepatitis A Virus) B 型肝炎ウイルス (HBV: Hepatitis B Virus) C 型肝炎ウイルス (HCV: Hepatitis C Virus) D 型肝炎ウイルス (HDV: Hepatitis D Virus) E 型肝炎ウイルス (HEV: Hepatitis E Virus) これ以外に TTV HGV(=GBV-C) などが報告されたが現在では肝炎ウイルスからは除外されている HDV は単独では増殖できず HBV の存在により増殖が可能
5 種類の肝炎ウイルス A B C D E
慢性肝炎に進展する肝炎ウイルス HBV(HDV) HCV B C D 慢性肝炎 :6 ヶ月以上肝臓に肝炎が持続している状態 HBV と HCV の感染者は世界人口の約 8% と推定されており 死に至る最大のウイルス感染症といえる
HCV 感染は慢性肝炎 肝硬変 肝がんへ進行する 70% 急性肝炎慢性肝炎肝硬変 7%/ 年 肝がん
HCV 感染による肝疾患の疫学 抗ウイルス療法 HCV キャリア 200 万人 慢性肝炎 予防 肝硬変 肝癌 3.5 万人 / 年 HBV キャリア 110 万人 アルコール NASH など ウイルスの排除 肝不全消化管出血 1.7 万人 / 年 肝臓に関連した病気で年間 5 万人以上の方が死亡している
抗ウイルス剤の標的部位
C 型肝炎ウイルス治療成績 1991 2000 2004 2011 2013 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 6% 34% 55% 75% 89% PEG: PEG-IFN RBV: Ribavirin TPV: Telaprevir SPV: Simeprevir
C 型肝炎に対する DAA 製剤の開発状況 2011 PR+telaprevir (NS3) 田辺三菱社 2013 2014 PR+simeprevir (NS3) PR+vaniprevir (NS3) daclatasvir (NS5A) +asunaprevir (NS3) ヤンセンファーマ社 MSD 社 ブリストル マイヤーズ社 2015 ledipasvir (NS5A) +sofosbuvir (NS5B) ギリアド サイエンシズ社 ombitasvir (NS5A) +paritaprevir (NS3) アッヴィ社 PR: PEG-IFN/RBV
1. ハーボニー (2015 年 9 月 ) C 型慢性肝炎に対する新しい経口配合剤 NS5B 阻害剤 NS5A 阻害剤 + Sofosbuvir Ledipasvir 2. ヴィキラックス (2015 年 11 月 ) NS3/4A 阻害剤 NS5A 阻害剤 + + Ritonavir Paritaprevir Ombitasvir
最近の抗 HCV 剤は驚異的な治療成績を達成しているが ウイルス排除後の肝発癌が新たな課題となっている Development of hepatocellular carcinoma in patients with hepatitis C virus infection who achieved sustained virological response following interferon therapy: A large-scale, long-term cohort study (Nagaoki Y, Chayama K et al., J Gastroenterol Hepatol, 2015) 36(3%) of 1094 patients developed HCC after SVR The cumurative rates of HCC at 5, 10, and 14 years were 4%, 6% and 12%, respectively 肝発癌予防に対する新たな戦略 : 抗腫瘍剤のなかで抗ウイルス活性を有する化合物を探索する
DAA による HBV 再活性化に関する注意勧告
DAA 時代の HCV 研究の課題 1.SVR 後 HCC 2.DAA 治療における HBV の再活性化 肝発癌予防 HBV 再活性化予防
HCV とレプリコン Hepatitis C Virus: HCV フラビウイルス科ヘパシウイルス属 1 本鎖 プラス鎖 RNA 血液を介した感染 HCV 感染者日本 :200 万人以上世界 :2 億人以上 HCV ゲノム RNA(9.6kb) 5 UTR IRES Core E1 E2 NS2 NS3 4B NS5A NS5B 3 UTR 構造領域 非構造 (NS) 領域 HCV レプリコン (Lohmann et al. Science 1999) ΔC 5 UTR Neo R EMCV IRES NS3 4B NS5A NS5B 3 UTR Con-1 株遺伝子型 1b
HCV の生活環 細胞 5 3 放出 翻訳 複製 5 3 5 3 3 5 3 5 5 3 5 3 5 3 5 3 核 粒子形成
全長 12 kb RNA RL アッセイシステム C P7 NS4A 5 EMCV RL Neo R C E1 E2 NS2 NS3 NS4B NS5A NS5B 3 IRES HCV 外来性 HCV レニラルシフェラーゼ (RL) を発現する全長 HCV RNA 複製細胞に 薬剤を添加し 24 72 時間後にルシフェラーゼ活性を測定する HCV RNA(%) 140 120 100 80 60 40 20 0 RT-PCR による従来法 0 1 10 100 IFN- (IU/mL) 添加 24 時間後 (LightCycler PCR) よく一致する 120 100 80 60 40 20 0 RL アッセイシステム ルシフェラーゼ活性を測定 0 1 10 100 IFN- (IU/mL) 添加 24 時間後
OR6 アッセイシステムを用いて見出した抗 HCV 剤候補 医薬品やサプリメント 論文発表本来の薬効や機能治療剤としての現状 スタチン剤 Hepatology ( 06) 高脂血症治療剤臨床試験 ( 全国 ) フルバスタチン (EC 50 ; 0.9 mm) 治癒率 70%? テプレノン Liver Int ( 11) 抗潰瘍剤臨床試験 ( 岡山 ) (EC 50 ; 5 mg/ml) ミゾリビン (EC 50 ; 100 mm) BBRC ( 05) リウマチ治療剤 ビタミン D2 生理活性物質 (EC 50 ; 4 mm) AAC ( 07) 栄養補助剤 ハイドロキシウレア (EC 50 ; 60 mm) Arch Virol ( 10) 慢性骨髄性 臨床試験 ( 横浜 ) 白血病治療剤 Antiviral Ther ( 10) 国内外特許出願 ラロキシフェン (EC 50 ; 1 mm) JGV( 12) 骨粗鬆症治療剤 N-251 (EC 50 ; 3 mm) PLoS ONE ( 13) 抗マラリア剤臨床試験予定 オンコスタチンM (EC 50 ; 0.7 ng/ml) FEBS Lett ( 09) IL6ファミリー ( 肝分化誘導 抗腫瘍効果 ) 5-HETE (EC 50 ; 2 mm) 国内特許出願 アラキドン酸代謝産物
2 種類の肝細胞株における相違点 HuH-7 細胞 肝細胞がん 日本人 男性 57 歳 岡山大学 (1982 年 ) IL28B SNP:rs8099917 T/G ( インターフェロン治療抵抗性 ) 全長 HCV RNA 複製細胞システム OR6 細胞 (Ikeda et al. BBRC 2005) Li23 細胞 肝細胞がん 日本人 男性 56 歳 国立がんセンター (1987 年 ) IL28B SNP:rs8099917 T/T ( インターフェロン治療感受性 ) 全長 HCV RNA 複製細胞システム ORL8 細胞 (Kato et al. Virus Res 2009) HuH-7 細胞と Li23 細胞は リバビリンやメトトレキサートなどの抗 HCV 剤に対して異なる薬剤感受性を示す
図 3 肝細胞およびウイルス株の背景 細胞株 年齢 性別 人種 細胞の由来 IL28B SNP rs8099917 rs12979860 HuH-7 57 男 日本人 肝細胞癌 T/G C/T Li23 56 男 日本人 肝細胞癌 T/T C/C HCV 株 遺伝子型 臨床 Core a.a. (70/91) ISDR HCV RNA 複製細胞 HuH-7 Li23 O 1b ヘルシーキャリアー Q/L 0 OR6 ORL8 1B-4 1b ヘルシーキャリアー R/L 0 1B-4R 1B-4RL KAH5 1b 急性肝炎 Q/L 1 KAH5R KAH5RL IL28B SNP で rs809917 が T/T だと IFN 感受性 rs12979860 が C/C だと IFN 感受性 ISDR の変異が 2 個以上だと IFN 感受性 Core aa70 が野生型 (R) だと IFN 感受性 Core aa91 が野性型 (L) だと IFN 感受性
全長 HCV 増殖レポーターアッセイ系による薬剤感受性の評価 C P7 NS4A 5 EMCV RL Neo R C E1 E2 NS2 NS3 NS4B NS5A NS5B 3 IRES HuH-7 Li23 OR6 1B-4R KAH5R ORL8 1B-4RL KAH5RL IFN-α (IU/ml) 0.94 0.58 0.44 0.18 0.24 0.16 IFN-γ (IU/ml) 0.25 1.00 0.44 0.06 0.06 0.05 IFN-λ1 (ng/ml) >40.00 10.00 1.45 0.02 0.08 0.06 OSM (ng/ml) 1.13 2.25 0.80 0.18 0.38 2.00 CsA (μg/ml) 0.37 0.31 0.35 0.19 0.24 0.25 PTV (µm) 0.58 0.39 0.86 0.08 0.20 0.08 IFN: Interferon OSM: Oncostatin M CsA: Cyclosporine A PTV: Pitavastatin EC 50
2 種類の肝細胞株を用いたメトトレキサートに対する薬剤感受性の違い Ueda et al. BBRC 2011 HuH-7 細胞と Li23 細胞は メトトレキサートに対して異なる薬剤感受性を示す
細胞株による IFN-λ1 に対する感受性 RLU (%) 120 100 80 60 40 OR6 ORL8 20 0 IFN-λ1 (ng/ml) IFN-λ1 (ng/ml) OR6 0 0.2 2 20 ORL8
ORL6 と ORL8 のリバビリンに対する感受性 RLU (%) Cell number (%) 120 100 Core 80 60 40 OR6 EC 50 : >100 mm 20 100 0 12.5 25 50 100 リバビリン (mm) 0 12.5 25 50 100 140 120 100 80 60 40 20 0 ORL8 EC 50 : 8.7 mm 12.5 25 50 100 リバビリン (mm) 0 12.5 25 50 100 kda 21 NS5B b-actin 66 42 ORL8 は患者血中濃度 (10-14mM) で抗 HCV 活性を示す
OR6 および ORL8 細胞における IFN-λ1 と RBV 併用効果 1000 OR6 RLU (%) 100 10 1 1000 (-) 0.1 1 10 IFN-λ1 (ng/ml) ORL8 RLU (%) 100 10 1 RBV (-) RBV 12.5µM RBV 25µM RBV 50µM 0.1 (-) 0.1 1 10 IFN-λ1 (ng/ml)
HuH-7 および Li23 細胞由来の JFH-1 感受性細胞株 C P7 NS4A 5 EMCV RL C E1 E2 NS2 NS3 NS4B NS5A NS5B 3 IRES HCV strain genotype clinical condition HCV permissive cells HuH-7 Li23 JFH 1 2a Fulminant hepatitis RSc D7 HCV JFH-1 株は現在感染性 HCV 粒子産生が可能な唯一の HCV 株
HCV 培養細胞系 C NS4A 5 RL Neo R EMCV IRES NS3 NS4B NS5A NS5B 3 C P7 NS4A 5 EMCV RL Neo R C E1 E2 NS2 NS3 NS4B NS5A NS5B 3 IRES 細胞株 HuH-7 Li23 HCV 株 Sub full Sub full O so OR6 ND ORL8 1B-4 s1b-4r 1B-4R ND 1B-4RL KAH5R skah5r KAH5R ND KAH5RL JFH1 RSc D7
Li23 細胞で Guanfacine HCl は抗 HCV 活性を示す 細胞 薬剤 解析 -24h 0h 72h Relative RL Activity (%) 120 100 80 60 40 20 0 (-) 0.08 0.16 0.31 0.63 1.25 2.5 5 10 Guanfacine-HCl (µm) EC 50 : 0.768 µm Cell Viavility (%) 120 100 80 60 40 20 0 (-) 0.240.490.981.953.917.8115.631.362.5 125 250 Guanfacine-HCl (µm) CC 50 : 128 µm Guanfacine-HCl (µm) (-) 0.63 1.25 2.5 5 10 Core β-actin 21 kda 42 kda
HCV JFH-1 株においても Guanfacine HCl は抗 HCV 活性を示す 細胞 薬剤 解析 -24h 0h 72h Relative RL Activity (%) Cell Viavility (%) 140 120 100 80 60 40 20 0 200 150 100 50 EC 50 : 1.23 µm (-) 0.08 0.16 0.31 0.63 1.25 2.5 5 Guanfacine-HCl (µm) CC 50 : 139µM 0 (-) 0.98 1.95 3.91 7.81 15.6 31.3 62.5 125 250 Guanfacine-HCl (µm)
HuH-7 系細胞では Guanfacine HCl は抗 HCV 活性を示さない 細胞 薬剤 解析 -24h 0h 72h OR6 RSc JRN/35B Relative RL Activity (%) 120 100 80 60 40 20 0 (-) 0.16 0.31 0.63 1.25 2.5 5 10 Relative RL Activity (%) 120 100 80 60 40 20 0 (-) 0.08 0.16 0.31 0.63 1.25 2.5 5 Guanfacine-HCl (µm) Guanfacine-HCl (µm)
Guanfacine ( エスタリック ) 降圧剤 (α2 アドレナリン受容体作動薬 ) アドレナリン受容体のうち α2 受容体のみが 抑制性の G タンパク (Gi) 共役型であり セカンドメッセンジャーの camp を減少させる 2005 年効果がないため販売中止となった 製造 : 日本チバガイギー 発売 : ノバルティス 販売 : 持田製薬 camp を抑制して作業記憶を改善 2013 年より小児の ADHD に対して治験開始 塩野義 /Shire( アイルランド ) が日本で申請準備中 (2015 年 8 月 )
お問い合わせ先 国立大学法人鹿児島大学 産学官連携推進センター知的財産部門 890-0065 鹿児島市郡元 1-21-40 TEL:099-285-3878 FAX:099-285-3886 E-Mail:tizai@kuas.kagoshima-u.ac.jp