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いおりとこたに
5 years ago
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1 世界の工場を支える農民工の働きと暮らし厳善平 ( 同志社大学大学院 ) 中国は世界の工場だと叫ばれ始めた 1 年ほど前に, それを素直に信じる者は少数派だろうしかし今となって, 一般市民は日常的に, スーパーマーケットやデパートなどで中国製品を目にしており, そういう言い方に違和感を覚える者が少ないはずであるところが, この世界の工場を支える者は誰であり, 彼らの働きや暮らしはどのような状況にあるのかについて, 必ずしも知られているわけではない本稿では, 中国政府の関係機関で行われた全国調査に基づいて, その全体像を説明したい 1. 農民工と流動人口中国経済に多少関心を持つ人なら, 農民工という用語を知っているだろう新聞などでは農村から都市への出稼ぎ労働者を農民工と呼ぶのは一般的だが, 厳密にいうと, 農民工とは, 農業戸籍を持つ身分としての農民と, 非農業従事の現場労働者を意味する, やはり身分としての工人が合体されてできた造語であり, 前近代的な戸籍制度を背景に存続する中国固有の社会階層を表すものである彼らは都市部で暮らすものの, 自らの戸籍を農業から非農業に転換することも, 故郷から実際の居住地に戸籍を転出入することも極めて難しい中, 流動人口としての都市滞在を余儀なくされ, それ故, 非正規雇用として働かされ, 社会保障制度の適用対象から除外されることは, 大多数の農民工の置かれた基本的な状況である農民工を親に持ち, 親とともに異郷生活を強いられる子供等も流動人口の範疇に入る都市部で暮らす農民工およびその同居家族はいったいどれぐらいいるだろうか図 1に基づいて説明しよう棒の高さは都市人口, 折れ線は全人口に占める都市人口の比率を, それぞれ表す非農業戸籍者は公安警察で登記されている統計数字であるが, 都市居住の農業戸籍者は都市人口から非農業戸籍者を差し引いた推計値であるただし, 農村部に住む非農業戸籍者 ( 役場職員, 教員, 医者など ) が農村人口のおよそ6% を占めるので, 同図に示される都市居住の農業戸籍者は実際より幾分過小評価になっている国家統計局によると, 中国の都市人口は 211 年に6 億 979 万人と全人口の 51.3% を占める一方, 非農業戸籍者は 1 年に4 億 5964 万人と全人口の 34.3% にすぎないその中から農村部居住の非農業戸籍者を差し引けば, 都市部に住む非農業戸籍者は約 4 億人に減少する裏を返していえば, 都市部で暮らす農民工およびその同居家族は3 億人に上ると推測されるまた, 国家統計局の全国農家家計調査に基づいた推計では, 農民工の総数は 21 年に 8399 万人であったが,12 年には1 億 6336 万人へとほぼ倍増し, 全国の農家就業者数に占める比率も 22% から 31% に高まったさらに, 農民工のうち, 家を挙げての移動者も年々増加し,212 年には 3279 万人と農民工全体の約 2% に当たる 1

2 ( 万人 ) 図 1 都市人口およびその内訳の推移都市人口比率非農業戸籍者都市居住の農業戸籍者 (%) 年 ( 出所 ) 中国統計年鑑, 中国人口与就業統計年鑑 ( 各年版 ) より作成都市部で暮らす成人流動人口の主な特徴について, 国家人口計画生育委員会 ( 計生委 ) の調査結果が参考になるそれによると,1 流動人口の平均年齢は 27.9 歳,198 年代以降生まれの新世代は全体の 43.8% を占める 221.9% の流動人口は高卒以上の学歴を持ち, 平均教育年数は 9.5 年である 3 稼ぎ先で同居する世帯員は平均で 2.3 人, 既婚流動人口の 84.5% は夫婦が一緒に暮らしているまた, 彼らの子供の 58.2% は出稼ぎ中の親と同居する流動児童であり, 残りの 41.8% は田舎に取り残される留守児童である 4 新世代農民工の 76.3% はいつか戸籍登録地の故郷に帰還して就業することを考えていない将来, 故郷に戻ろうとする人も, その6 割強が県市役場の所在地,2% 強が郷鎮役場の所在地で働くことを望む村に戻って就業すると答えた人はわずか 1% である ( いずれも 211 年の調査結果 ) 以上からわかるように, ここ 3 年余りの中国では, 高度成長とともに都市人口比率の急上昇に現れる都市化も進んでいる就業目的で農村から都市に移動した青壮年層は都市化の原動力となり, 彼らの支えによって経済成長が達成できた側面もあるしかし一方で, 中国固有の戸籍制度が影響して, 彼らは居住先の戸籍を持たない流動人口であり, 正規雇用にはなりにくい農民工でしかない中国では農民工を半市民と呼び, 流動人口の増加でできた都市化を半都市化と揶揄するのはそのためである 2. 農民工の働きと社会保障以下, 農民工という特殊な社会階層の就業, 給与および居住状況について説明するまず, 産業別就業構造を見ると, 製造業で働く農民工が 36.%, 建設業が 17.7%, 商業サービス業が 46.3% となっている 1ヶ月当たりの就業日数は 25.4 日,1 日当たり就業が 8.8 時間と全体としては就業状況が極端に悪いわけではない ( 農民工監測報告 211 年 ) 2

3 中国では, 労働関連の主な法律に労働法 (1994 年 ), 労働契約法 (28 年 ), 雇用促進法 ( 同 ), 労働紛争調停仲裁法 ( 同 ) の4つがある雇用促進法の中に, 農民工は都市部の戸籍住民と平等の労働権利を有し, 農村から都市への就業移動に対して差別的な制限が設置されてはならないという農民工に関わる規定があるものの, 各法律では農民工, 非農業戸籍者といった文言が見当たらず, 個々の条文を誰に適用するかといった規定もないしかし, 実際の労働行政では, 労働者の権利規定が農民工に適用されない場合も多い農民工の相対賃金, 社会保障制度への加入状況, 居住環境からその一端を窺うことにしよう図 2は農民工全体の平均月給, および都市部の正規雇用に対するその相対水準の推移を示している同図の示す通り, 農民工の平均月給は 21 年の 644 元から 11 年の 249 元へと 3.18 倍増えた年平均伸び率でみると 12.3%, また, 物価上昇の効果を考慮しても農民工の月収は年平均で 9.4% 伸びた同期間の経済成長率に匹敵する高さと言えるところが, 都市部における正規雇用者の平均月給に比べると, 農民工の相対的低賃金が改善されずにいることが分かる正規雇用全体, および農民工が主に働く製造業の平均月給を 1 とした農民工の相対水準は 23 年以降 5~6 割程度で安定している長年最低賃金制度が農民工に適用されず, 初期賃金の絶対水準が低すぎたことは最も大きな原因である ( 元 / 月 ) 図 2 農民工の平均月給およびその対正規雇用比率平均月給 ( 左軸 ) 対全体比対製造業比 ( 出所 ) 中国統計年鑑, 国家統計局農民工監測報告, 都陽 (21) より作成次に, 社会保障制度への加入状況を見る 199 年代末以来, 国有企業改革に伴い, 医療, 年金, 失業, 労災, 生育に関わる社会保障制度, および住宅積立金制度が作られ, 政府機関, 大学等の公共機関, 国有企業, 民間大企業などの正規従業員に対して, これらの制度が厳格に適用されている保険料は個人と勤め先が一定の割合で負担するが, かなり手厚いものとなっているたとえば, 正規従業員は年金保険制度に加入しなければならず, 個人は給与の 8% を個人年金口座に, 勤め先は給与総額の 2% に相当する保険料を年金基金 (%) 年 3

4 に払い込む定年退職者は年金基金から当該地域の前年度平均月給の 2% 相当額と, 退職時の個人口座残高の 12 分の 1 を年金として受給するところが, 農民工には, つい最近までこのような社会保障制度がなかった表 1は国家統計局の農家家計調査と, 計生委の都市流動人口調査から得られた結果を示している前者は農民工を送り出す農家サイド, 後者は農民工を吸収する都市サイドからの情報であり, 本来なら,2つの調査は同じ結果になるべきだが, 大きな隔たりがある実態は両調査結果の間にあると考えてよかろうだとすれば,21 年頃に農民工の社会保障制度への加入率は, 都市部の正規雇用だけでなく, 流動人口だが非農業戸籍を持つ者の加入率よりも著しく低い具体的には, 年金制度に当たる養老保険への加入率は2 割程度, 労災保険, 医療保険は2~3 割, 失業保険は 1 割にとどまる住宅を購入する際に頭金あるいは住宅ローンの担保として使える住宅積立金にかかわる制度への加入が認められていないセーフティネットのない状況に置かれた農民工は, 結果的に普通の市民になりきれないでいるのである表 1 農民工の社会保障制度への加入状況単位 :% 養老保険労災保険医療保険失業保険生育保険 29 年農家家計調査農民工 ( 統計局 ) 年農家家計調査農民工 ( 統計局 ) 年都市流動人口調査農業戸籍者 ( 計生委 ) 年都市流動人口調査非農戸籍者 ( 計生委 ) ( 出所 ) 国家統計局農民工監測報告 ( 各年 ), 国家人口計画生育委員会 (211) より作成 3. 農民工の暮らし最後に, 農民工の居住状況をみる農民工の市民化を妨げる重要なファクターとして, 安定的な住まいを持つか否かも挙げられる低所得者向けの住宅供給制度があるかそもそも農民工を普通の市民として迎え入れる用意があるか答えはノーである農民工の居住状況は全体として貧弱であり, 普通の市民として定住できるようなものではない表 2は農家家計調査に基づいて整理したものである同表のように,211 年に, 農民工の 37.3% は勤め先の用意した宿舎で集団生活を送っている筆者の現地調査では, 工場の敷地内の一角, あるいは町の片隅に農民工用の寮が建てられ, 数人もしくは十数人が一室の二段ベッドで暮らす風景をよく見かけた建設現場の小屋や工場店舗等の職場に住まいを構える農民工は全体の約 2 割を占める筆者が上海市でみた工事現場の臨時宿舎では, 上下水道の設備も食堂もなく, 室内にテレビすらない宿舎は休憩する場所にはなるが, 心身ともに寛げるような空間ではないと感じた賃貸のシェアルームと単独住居は約 4 割を占める近年, 労働者確保のため, 地方の行政等は賃貸住宅の供給に力を入れ, 農民工向けの団地を郊外で建設しつつある戸籍住民が不動産投資として手に入れた住宅, 都市近郊の農家の持つ余剰住宅が賃貸に出されることも増えている 4

5 マイホームを買って暮らす農民工がわずかながら見られる彼らはビジネスで成功した者であり例外的な存在である住宅ローンの制度が整備されていないこともあり, 不動産価格が高騰する都市部では, マイホームを購入することは農民工にとって夢でしかない年齢階層, 婚姻状態によって居住状態に一定の差異も見られる新世代農民工では, 勤め先の宿舎に住む人が比較的多いものの, 結婚していると, 賃貸の単独住居に住む者が多くなる表 2 農民工の居住形態別構成 ( 全国, 農家家計調査 ) 単位 :% 211 年 29 年全体全体旧世代新世代新世代夫婦勤め先の宿舎建設現場の小屋工場店舗等の職場賃貸のシェアルーム賃貸の単独住居現住地で買った住居その他合計 ( 注 ) 自宅から近隣の郷鎮に通勤する者を除外した場合の構成比である (211 年調査では該当者が 13.2%) ( 出所 ) 国家統計局 211 年農民工監測報告, 蔡昉 (211) より作成近年都市化の促進が新たな政府方針として打ち出されているそれに合わせて戸籍制度社会保障制度等も改革され始めた目標は戸籍差別をなくし職業選択と移住の自由をできるだけ保障することによって農民工の市民化を実現するということであるが背景に本物の都市化を通して消費拡大を促進し消費主導の経済成長が求められていることがある農民工は普通の市民になれるかこれからは正念場である参考文献厳善平 (29) 農村から都市へ 1 億 3 万人の農民大移動岩波書店厳善平 (21) 中国農民工の調査研究上海市珠江デルタにおける農民工の就業賃金暮らし晃洋書房厳善平 (212) 現代中国農家の人口と労働農家調査のミクロデータに基づいて NIHU 現代中国早稲田大学拠点蔡昉編 (211) 人口与労働緑皮書 (211) 十二五時期挑戦: 人口, 就業和収入分配社会科学文献出版社都陽 (21) 農村労働力流動: 転折时期的政策選択経済社会体制比較第 5 期国家人口計画生育委員会 (211) 中国流動人口発展報告 211 中国人口出版社 5

Microsoft PowerPoint

Microsoft PowerPoint ( 資料出所 ) 平成 11 年までは総務省労働力調査 ( 特別調査 ) (2 月調査 ) 長期時系列表 9 平成 16 年以降は総務省労働力調査 ( 詳細集計 ) ( 年平均 ) 長期時系列表 1 ( 注 )1) 平成 17 年から平成 22 年までの数値は平成 22 年国勢調査の確定人口に基づく推計人口 ( 新基準 ) の切替による遡及集計した数値 ( 割合は除く ) 2) 平成 23 年の数値