日補綴会誌 Ann Jpn Prosthodont Soc 5 : , 2013 ポジションペーパー 熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯 ( ノンメタルクラスプデンチャー ) の臨床応用 a,d b,c,e 笛木賢治, 大久保力廣, 谷田部 b,d,f 優, 荒川 b,c,g 一郎, 有田

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1 日補綴会誌 Ann Jpn Prosthodont Soc 5 : , 2013 ポジションペーパー 熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯 ( ノンメタルクラスプデンチャー ) の臨床応用,d,c,e 笛木賢治, 大久保力廣, 谷田部,d,f 優, 荒川,c,g 一郎, 有田,j,c,k,l 金森敏和, 河相安彦, 川良美佐雄, 小見山,l 道, 鈴木,o,h 細木真紀, 鱒見進一, 山内,p 六男, 會田,q 英紀, 小野,t,o 玉置勝司, 松香芳三, 塚崎,u 弘明, 藤澤,v 政紀, 馬場,c,h 正博, 井野 智,c,m 哲也, 永田 和裕,r 高裕, 近藤 尚知,u 一美, 古谷野 潔,i,,n,,s,,w Clinicl ppliction of removle prtil dentures using thermoplstic resin (non-metl clsp dentures) Kenji Fueki, DDS, PhD,d, Chikhiro Ohkuo, DMD, PhD,c,e, Msru Yte, DDS, PhD,d,f, Ichiro Arkw, DDS, PhD,c,g, Mshiro Arit, DDS, PhD,c,h, Stoshi Ino, DDS, PhD,i, Toshikzu Knmori, DDS, PhD,j, Ysuhiko Kwi, DDS, PhD,c,k, Miso Kwr, DDS, PhD,l, Osmu Komiym, DDS, PhD,l, Tetsuy Suzuki, DDS, PhD,c,m, Kzuhiro Ngt, DDS, PhD,n, Mki Hosoki, DDS, PhD,o, Shin-ichi Msumi, DDS, PhD,h, Mutsuo Ymuchi, DDS, PhD,p, Hideki Ait, DDS, PhD,q, Tkhiro Ono, DDS, PhD,r, Histomo Kondo, DDS, PhD,s, Ktsushi Tmki, DDS, PhD,t, Yoshizo Mtsuk, DDS, PhD,o, Hiroki Tsukski, DDS, PhD,u, Msnori Fujisw, DDS, PhD,v, Kzuyoshi B, DDS, PhD,u nd Kiyoshi Koyno, DDS, PhD,w 抄録本ポジションペーパーは, 義歯床用の熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の呼称と定義を提案し, 臨床適用への指針を示すことを目的とした.( 公社 ) 日本補綴歯科学会会員から, 熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の臨床経験を有するエキスパートパネル 14 名を選出した. パネル会議で検討した結果, 義歯の維持部を義歯床用の樹脂を用いて製作したパーシャルデンチャーの総称 をノンメタルクラスプデンチャー (non-metl clsp denture) と呼称することとした. ノンメタルクラスプデンチャーは, 樹脂と人工歯のみで構成される剛性のない義歯と, 金属構造を有する剛性のある義歯とに区分される. 剛性のないノンメタルクラスプデンチャーは, 金属アレルギー症例などの特別な症例を除き, 現在の補綴臨床の原則に照らし合わせ最終義歯として推奨できない. 剛性のあるノンメタルクラスプデンチャーは, 審美領域にメタルクラスプが走行することを患者が受け入れられない場合に推奨できる. ノンメタルクラスプデンチャーの設計は, 原則的にメタルクラスプを用いた部分床義歯の設計に則したものでなければならない. 熱可塑性樹脂の物性は材料によって大きく異なるため, 各材料の特性を考慮して臨床適用する必要がある. 全般的な特徴としては, アクリルレジンよりも変色, 面荒れしやすく, 材料によっては破折しやすい. 現時点では, 樹脂の理工学的性質と義歯の治療効果と術後経過に関する研究が不十分であり, 今後これらの知見が集積され本ポジションペーパーの改訂とガイドラインの策定が望まれる. 和文キーワード 部分床義歯, 熱可塑性樹脂, ノンメタルクラスプデンチャー, レジンクラスプ, 金属アレルギー ( 公社 ) 日本補綴歯科学会診療ガイドライン委員会 ( 平成 年度 ) ( 公社 ) 日本補綴歯科学会ノンメタルクラスプデンチャーエキスパートパネル ( 平成 年度 ) c ( 公社 ) 日本補綴歯科学会有床義歯エキスパートパネル ( 平成 年度 ) d e f g h i 東京医科歯科大学部分床義歯補綴学分野鶴見大学歯学部有床義歯補綴学講座東京支部日本歯科大学生命歯学部歯科補綴学第 1 講座九州歯科大学顎口腔欠損再構築学分野神奈川歯科大学附属横浜クリニック 387

2 388 日補綴会誌 5 巻 4 号 (2013) j 東北 北海道支部 k 日本大学松戸歯学部有床義歯補綴学講座 l 日本大学松戸歯学部顎口腔機能治療学講座 m 東京医科歯科大学口腔機能再建技工学分野 n 日本歯科大学新潟病院総合診療科 o 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部咬合管理学分野 p 朝日大学歯学部口腔機能修復学講座歯科補綴学分野 q 北海道医療大学咬合再建補綴学分野 r 大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座 ( 歯科補綴学第二 ) s 岩手医科大学補綴 インプラント学講座 t 神奈川歯科大学有床義歯補綴学分野 u 昭和大学歯学部歯科補綴学講座 v 明海大学歯学部歯科補綴学分野 w 九州大学大学院歯学研究院インプラント 義歯補綴学 Jpn Prosthodontic Society, Clinicl Guideline Committee Jpn Prosthodontic Society, Non-metl Clsp Denture Expert Pnel c Jpn Prosthodontic Society, emovle Prosthodontics Expert Pnel d Section of emovle Prtil Denture Prosthodontics, Tokyo Medicl nd Dentl University e Deprtment of emovle Prosthodontics, Tsurumi University School of Dentl Medicine f Tokyo Brnch g Deprtment of Prtil nd Complete Denture, School of Life Dentistry t Tokyo, The Nippon Dentl University h Division of Occlusion & Mxillofcil econstruction, Deprtment of Orl Function, School of Dentistry, Kyushu Dentl University i Kngw Dentl University Yokohm Clinic j Tohoku & Hokkido Brnch k Deprtment of emovle Prosthodontics, Nihon University School of Dentistry t Mtsudo l Deprtment of Orl Function nd ehilittion, Nihon University School of Dentistry t Mtsudo m Section of Orl Prosthetic Engineering, Tokyo Medicl nd Dentl University n Comprehensive Dentl Cre, The Nippon Dentl University Niigt hospitl o Deprtment of Fixed Prosthodontics, Institute of Helth Biosciences, The University of Tokushim p Deprtment of Prosthodontics, Division of Orl Functionl Science nd ehilittion, School of Dentistry, Ashi University q Division of Occlusion nd emovle Prosthodontics, Helth Sciences University of Hokkido r Deprtment of Prosthodontics, Gerodontology nd Orl ehilittion, Osk University Grdute School of Dentistry s Deprtment of Prosthodontics nd Orl Implntology, Iwte Medicl University t Deprtment of Orl & Mxillofcil ehilittion, emovle Prosthetics, Kngw Dentl College u Deprtment of Prosthodontics, Show University v Division of Fixed Prosthodontics, School of Dentistry, Meiki University w Section of Implnt nd ehilittive Dentistry, Division of Orl ehilittion Fculty of Dentl Science, Kyushu University Ⅰ. 緒言口腔の審美は, 患者にとって大きな関心事であり, 審美性について配慮することは, 補綴治療に対する患者の満足を得るために重要である. 部分床義歯のメタルクラスプが審美領域を走行することは, 患者にとって審美的, 心理的に好ましくないものであり, 部分床義歯装着を嫌う原因の 1 つである. 従来, 審美性を重視する症例に対しては, アタッチメントが適応とされてきたが, 歯質の多量の削除を必要とすることや専門的技術が要求されることから, 現在では一般的な選択 肢ではない. 一方, 米国には,1950 年代から, ポリアミド系樹脂 ( ナイロン ) のみを使用し, 金属を使用しない部分床義歯が存在してきた.2007 年以降, 本邦においても弾性を有する様々な義歯床用の熱可塑性樹脂が認可を受けたことで, 樹脂単体もしくは金属構造を組み込んだ部分床義歯が, 従来のメタルクラスプを使用したものと比べて審美性と装着感の優れた義歯として一般臨床医を中心に急速に普及している 1). 社会的意識の変化に伴い, 老化の象徴である可撤性義歯の使用を忌避する患者が増加するなど, 欠損補綴において審美に対する患者の要求が強くなっていることから, 歯科医師もこのような患者の要求に対応せざるを

3 ノンメタルクラスプデンチャーのポジションペーパー 389 得ないことが, その要因として考えられる. 熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯について, 有床義歯の専門家らによって問題点が指摘されている 2 4). 第 1 に, 熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の中には, 本 5) 邦のスタンダードである義歯の設計原則から大きくかけ離れたものが存在し, このような義歯の使用は, 支台歯の歯周組織, 欠損部の顎堤に対して重篤な影響を及ぼすリスクがある. それにもかかわらず, 術式も簡単で保険外診療となるため, 患者の審美性への要求と期待を優先して, 本来の適応範囲を越えて適用されれば, 患者に大きな不利益がもたらされる. また, 材料によってはレジンクラスプの破折, 義歯研磨面の粗造化, 色調の変化等の問題が生じやすく, リラインや修理などの対応が困難であることも指摘されている. 実際, 義歯装着後に様々な問題を生じている症例が少なからず認められ, 臨床研究によるエビデンスが乏しい中, 熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の不適切な適用に基づく乱用は社会問題化する恐れがあると思われる. このような状況が放置されれば, 今後, 歯科医療と歯科医師に対する社会的信用が低下する恐れがある. 以上の背景から,( 社 ) 日本補綴歯科学会は, いわゆるノンクラスプデンチャーについては外観の回復についての有効性という光の部分と, 適応をあやまった場合に生ずる顎堤の異常吸収, 支台歯の移動という重大な障害を惹起するという影の部分があり, その適応については今後のさらなる科学的な検証が必要である. との見解を示し 6),2008 年に策定した診療ガイドラインでは, 前歯部の審美性だけを考えてフレキシブルデンチャーを装着させることは推奨されない とし 7), 熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の安易な臨床応用について注意喚起を促している. 有床義歯の専門家らによって指摘されている第 2 の問題点は, 熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯に対する定義と呼称が定まっておらず, フレキシブルデンチャー, ノンクラスプデンチャー, クラスプレスデンチャー, メタルフリーデンチャーなど様々な名称が氾濫していることである. 最近では ノンクラスプデンチャー が一般的な呼称になりつつあるが, 米国の補綴用語集 GPT-8 8) の定義に従えば, 義歯床から延長して支台歯を取り囲み維持を担う樹脂部分は, クラスプと呼ばれるべき構成要素であり, ノンクラスプ ( クラスプのない ) という用語は不適切と考えられる. このような状況を踏まえて, 社会保険 医療問題委員会からの依頼を受けて, 診療ガイドライン委員会ではガイドライン改訂の検討を始めた. 先ず, 最新のエビデンスを知るために PuMed および医学中央雑誌で 文献検索を行ったところ,2011 年 8 月の時点で熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯について臨床研究に基づく原著論文は 1 編のみであり 9), エビデンスは不足している状況であった. 一方, 有床義歯エキスパートパネルを対象にガイドラインの策定方法 ( 対象とする義歯, 欠損型, 設計, 熱可塑性樹脂材料を限定すべきか否か ) についてのアンケートを行った結果, 現在使用されている種々の熱可塑性樹脂を対象にして, 適応となる症例, 義歯の設計についての指針を策定することが望ましいとの意見が多数であった. しかし, エビデンスが不足している状況では, スタンダードな方法によって多種多様な症例を対象にガイドラインを策定することは困難であると考えられた. そこで熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の臨床経験を有する補綴学会会員をエキスパートパネルとして選定し, 臨床経験に基づきコンセンサスを形成し, ポジションペーパーとして示すこととした. 本ポジションペーパーの目的は, 1) 熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の呼称と定義を提案する.2) 本義歯の適応と禁忌, 設計, 臨床適用に際しての留意点について, 補綴専門医, 一般歯科医を対象に ( 公社 ) 日本補綴歯科学会の指針を示すことである. Ⅱ. ポジションペーパーの作成方法 ( 社 ) 補綴歯科学会で平成 年度に選定した有床義歯エキスパートパネル 21 名を対象にアンケート調査を行い, 熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の臨床経験を数例以上有する 5 名を今回のエキスパートパネルとして選出した. 次いで, 学会会員を対象に熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の臨床経験を年間 5 例以上有する会員の情報を収集し,9 名をエキスパートパネルとして選出し, これら合計 14 名のエキスパートパネルにより本ポジションペーパーの草案作成を行うことにした.2012 年 8 月にパネル会議を開催し, 熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の呼称と定義, ポジションペーパーの構成について協議を行い, コンセンサスを形成した. ポジションペーパーの草案は, エキスパートパネル全員で分担執筆し, その内容をパネル全員でのメール協議で修正を行い, コンセンサスを得た. その後, 診療ガイドライン委員会の査読を経て最終原稿を完成した. 文献検索には,PuMed と医学中央雑誌のオンラインデータベースを利用し, ハンドサーチも行った. システマチックな文献選択は行わなかった.

4 390 日補綴会誌 5 巻 4 号 (2013) 図 1 A non-metl clsp denture without metl elements 金属構成要素を全く含まないノンメタルクラスプデンチャー 図 2 A non-metl clsp denture with metl rests メタルレストを併用した金属混在型のノンメタルクラスプデンチャー Ⅲ. 義歯の呼称 定義 c d 1956 年, 米国バルプラスト社はスーパーポリアミドというナイロンの一種を義歯用素材として開発した. 金属を使用せず人工歯以外の義歯構成要素をこの熱可塑性樹脂により製作した義歯は, 製品名そのままにバルプラストと呼ばれるだけでなく, フレキシブルデンチャーあるいはナイロンデンチャーとネーミングされ, 世界各国に普及した ( 図 1) 10,11). 本邦でも厚生労働省の認可前から個人輸入により臨床応用が試行され 12), いつの頃からか ノンクラスプデンチャー, メタルフリーデンチャー 等という名称が慣用されるようになった.2008 年 4 月の薬事認可以降, 多くの熱可塑性樹脂が開発されるとともに, 製造販売元や技工所により幾多の呼び名が濫用されることになるが, 一般的には臨床家の間でノンクラスプデンチャーが総称として定着した. 補綴用語集 GPT-8 8) によれば, クラスプは その構成要素が歯面の一部と嵌合し, 維持のためにアンダーカットに入るか, 拮抗腕として最大豊隆部上を走行する. 一般に可撤性義歯の維持, 安定のために使用される. と定義されており, 本文章中にクラスプは金属製であるとの記述はない. したがって, アーム, フィンガー, ウイングなどと呼称されている樹脂による維持部は, 定義上アンダーカットを利用して義歯の維持, 安定を司る正真正銘のクラスプと考えられ, 樹脂クラスプ あるいは エステティッククラスプ とも呼ばれている 13,14). すなわち用語上の解釈からすれば, ノンクラスプデンチャーといえばクラスプを含まない義歯を意味する 図 3 A non-metl clsp denture with frmework (eigning N ). Introrl view without the denture,. Bsl surfce of the denture, c. Introrl view with the denture d. Metl rest nd resin clsp フレームワークを併用したノンメタルクラスプデンチャー ( レイニング樹脂 N ). 義歯非装着時口腔内,. 義歯粘膜面,c. 義歯装着時口腔内,d. メタルレストとレジンクラスプ ことになり, アタッチメントデンチャーやミリングデンチャー, テレスコープデンチャーを指すことになる. そこで, 本ポジションペーパーでは, 金属を使用しないフレキシブルデンチャーだけでなく, メタルレストや従来型フレームワークを併用したメタル混在型の義歯 ( 図 2,3) をも包括して ノンメタルクラスプデンチャー (non-metl clsp denture) と呼称することとし, 義歯の維持部を義歯床用の樹脂を用いて製作したパーシャルデンチャーの総称 と定義する. この定義からすれば, 維持部と義歯床を一塊として製作した義歯だけでなく, 異なる義歯床用樹脂を用いて製作した義歯 ( 図 4) も含むことになる. さらに, 本ポジションペーパーでは, ノンメタルクラスプデンチャーの樹脂による維持部を レジンクラスプ (resin clsp) と呼称することとした.

5 ノンメタルクラスプデンチャーのポジションペーパー 391 表 1 Thermoplstic resins ville for non-metl clsp dentures in Jpn (Decemer 2012) ACBZX ADBZX V 221AGBZX ACBZX FS 221AGBZX AKBZX AFBZX AFBZX N 221AFBZX AFBZX S 220ACBZX BZZ00194A01 : 222ACBZX UNIGUM 223AFBZX 図 4 A non-metl clsp denture using different denture se resins for retentive elements nd denture se. esin clsp on working cst,. Delivered denture 維持部と義歯床に異なる義歯床用樹脂を用いたノンメタルクラスプデンチャー. 作業模型上で組み込まれたレジンクラスプ,. 完成義歯 Ⅳ. ノンメタルクラスプデンチャーに用いられる熱可塑性樹脂の理工学的性質 ノンメタルクラスプデンチャー用の材料として, 日本で医療機器認証されている熱可塑性樹脂は,2012 年時点でポリアミド系, ポリエステル系, ポリカーボネート系, アクリル系, ポリプロピレン系の 5 種類 14 製品ある ( 表 1). なお, 本ポジションペーパーでは, 樹脂の一般名と製品名を容易に区別できるように, 製品名 ( 例バルプラスト ) と表記する 年に日本歯科理工学会では ( 社 ) 日本補綴歯科学会の要請を受け, 弾力性のある熱可塑性樹脂の材料学的特性を評価しているが, 試験に用いられたノンメタルクラスプデンチャー用の材料はバルプラスト, エステショット, レイニング樹脂, の 3 製品のみである 15). その後,2012 年までに次々に新しい材料が発売されたが, それらの物性評価は十分なされていない. ノンメタルクラスプデンチャーの理工学的性質としては, 曲げ強さ 15 24) 15 24), 曲げ弾性率, 接着強さ 15,24 28), 15,19 21,29,30) 15,20,31,32) 吸水性, 摩耗性, 表面硬さ 19,33 35), 耐衝 22 24) 15,20,21,29,36) 30,37 39) 撃性, 色調安定性, 適合性などが調べられている. しかし, 材料の多さばかりでなく, 臨床に即した試験方法の多様性, 試験機関ごとの結果の差異などがあり, すべての材料を客観的に比較できているとはいえない. 各製造販売元が公表している曲げ特性値を表 2 および 3 に示すが, 学術論文のデータと大きく異なっている材料もある一方, 評価されていない材料も数多くある. また, 同じポリアミド系であっても曲げ特性に大きな違いがあり, すべての材料について, 同一条件で客観的な評価をしなければならないことがわかる. 現時点では臨床が先行して, その中で主観的に評価されているといわざるを得ない. 本ポジションペーパーでは, 現在報告されている様々な理工学的性質から材料の特性をまとめるが, 今後, 新しい材料, あるいは新しい評価がなされた時点で改訂する必要がある. 同じ系統の材料であっても物性や特徴に違いがあるが, 本項では, 臨床応用の際の選択基準となるようにそれぞれの材料の物性と理工学的性質を列挙する ( 表 2 4). 1. ポリアミド系ポリアミド系のもっとも大きな特徴は, 破折しにくいという点であるが, 曲げ強さ, 曲げ弾性率が最も低

6 392 日補綴会誌 5 巻 4 号 (2013) 表 2 Flexurl strength of thermoplstic resins used for non-metl clsp dentures (MP) 15 Tkyshi 21) Hmnk 22,24)+ Ktsumt 18) * V FS ** N S UNIGUM MP MP 21), 38.2MP 22,24) * MP ** + ++ 表 3 Elstic modulus of thermoplstic resins used for non-metl clsp dentures (MP) 15 Tkyshi 21) Hmnk 22,24) Ktsumt 18) * V FS ** N S UNIGUM MP 2917MP 21), 2770MP 22,24) * MP ** + ++ いバイオ プラスト から最も高いアルティメット まで物性値は様々である. 曲げ強さや曲げ弾性率の違いは, 臨床的には歯の豊隆の程度でどの材料を使うかの選択基準になっていることが多い. しかし, 耐衝撃性に関しては曲げ強さや曲げ弾性率と関係なく, 材料ごとに大きな違いがある 22,23). ポリアミド系は, 常温重合レジンとは接着しないため 15), 修理あるいはリラインは, 原則的には技工所に預けて再成型する必要があ るが, いくつかの方法も試みられている 18,29). 吸水性については, それぞれの材料で違いがあるが, ルシトーン FS はアクリルレジン ( アクロン, ジーシー, 東京, 日本 ) より吸水量は多い 21). カレー浸漬後の色差 (ΔE) は, バルプラスト, ルシトーン FS でアクリルレジンより大きい 15,21). 適合精度に関する報告は少ないが, バルプラスト の熱収縮は大きいため, 多数歯欠損症例では注意を要する 37). アルティメット の物性と理工学

7 ノンメタルクラスプデンチャーのポジションペーパー 393 表 4 Physicl nd mechnicl properties of thermoplstic resins used for non-metl clsp dentures 12,15,20,21,58,31 12,15,20,21,58,31 FS 17,18,37,39,40,61 19,21 N 24 24,28 15,17,18,19,20,55 15,19,21,39,64 g/cm ** * 1.15 ** * * * * * ** 67* 113* 150 % 0.8** ** MP * μg/mm 3 0.3* 2 0 0* 0* 1.6 * 0.3** μg/mm * * 6.4* 22** % 1.5* * J HM * KJ/m * 5.2** kj/m 2 22, NB** * * μm MP 24, MP * ** + silic coting + 4-META/MMA-TBB NB: 2 3 的性質について, 現時点では製造販売元の情報に限られており, 他施設での検証が必要である. 2. ポリエステル系ポリエステル系は 2 種類あるが, いずれも比較的新しい材料である. エステショット は, 曲げ強さ, 曲げ弾性率ともに義歯床用材料としての ISO 規格の要求値を越えている 15,19,21 23). しかし, 耐衝撃性が弱く, 破折するリスクは高い 22,23). 一方, エステショットブライト は, 製造販売元の公表値ではあるが, 曲げ弾性率が 1490 MP でポリアミド系に近い弾性率で, 柔らかく耐衝撃性がエステショット の 8 倍に向上している ( 表 4). ポリエステル系の大きな特徴のひとつは, 常温重合レジンとの接着が良好であることである 15,29). すなわち, 修理や増歯, リラインがチェアサイドで可能である. エステショット の吸水量はアクリルレジンより少ないが, カレー浸漬後の色差はアクリルレジンより大きい 15,21). エステショット の適合精度は, 他の樹脂と比較して, 最も良好である 37). 3. ポリカーボネート系ポリカーボネート系は, 従来保険導入されていた熱可塑性樹脂をノンメタルクラスプデンチャー用に改良したものである. 曲げ強さ, 曲げ弾性率ともポリアミド系, ポリエステル系と比較して高い 15,19,21 23). 製造販売元の公表値によるとジェットカーボ-S, レイニング 樹脂 N は, 従来のジェット カーボ, レイニング樹脂 よりも弾性率を低くしてアンダーカットが大きい症例にも適用できるようにしている. 破折のリスクに関する文献は認められないが, レイニング樹脂 の耐衝撃性は高い 19,22,23). 実際, 破折が起こるという報告もあるため, 臨床に即した物性評価が待たれる. 適合性はエステショット よりも劣るがバルプラストよりも良好である 37). 常温重合レジンとの接着は, アクリルレジンと同程度である 15). ジェット カーボ, レイニング樹脂 の吸水量はアクリルレジンよりも少ない 15,21). カレー浸漬後の色差はレイニング樹脂 ではアクリルレジンとほぼ同等か少ない 15,21). 4. アクリル系ノンメタルクラスプデンチャー用のアクリルレジンは, アクリ : トーン のみであり, 保険適応の熱可塑性樹脂であるアクリショット やアクリジェット と比較するとかなり柔らかいアクリルレジンを使用していると思われるが, 物性に関する詳細な情報は限られている 24). 5. ポリプロピレン系新しく義歯床用熱可塑性レジンとして認可された樹脂である. 樹脂名である UNIGUM は発売元によって多用途な修復材料として提案されているが, 詳細な文献情報はない.

8 394 日補綴会誌 5 巻 4 号 (2013) Ⅴ. ノンメタルクラスプデンチャーの適応症, 禁忌症, 適用に注意を要する症例 1. 適応症 本ポジションペーパーでは, ノンメタルクラスプデンチャーの適応症について, 金属構造の有無と樹脂の曲げ弾性率にもとづいて義歯全体としての剛性のあり / なしに区分した. 表 5 にⅧ 章で詳述する樹脂を用いた義歯の区分を記す. 金属構造を含まず剛性のないノンメタルクラスプデンチャーの適応症としては, 暫間義歯, スペア用の義歯, 金属アレルギー症例, 前歯部少数歯欠損症例, 咬合支持のある少数歯欠損症例, エピテーゼ, 義歯に機能力の負担がかからない症例, 審美性を最優先せざるを得ない症例, 支台歯の切削 ( 前処置 ) に同意が得られない症例が挙げられる ( 図 5). 一方で, 金属構造を含み剛性のあるノンメタルクラスプデンチャーは, 基本的に広い範囲に適応可能である ( 図 2 4). 表 5 igidity of non-metl clsp dentures using thermoplstic resins * ** FS ** ** ** N * 2000MP 2000MP ** 2. 禁忌症, 適用に際して注意を要する症例ノンメタルクラスプデンチャーの適用が困難な症例について整理すると, 欠損歯列の診断に係る因子である欠損様式と咬合関係, 義歯の設計と製作に影響する解剖学的因子, 義歯補綴治療の維持管理に係る衛生状態とにまとめられる. 各因子について, ノンメタルクラスプデンチャーの適用時に考慮すべき点を述べる. 1) 欠損様式と咬合関係ノンメタルクラスプデンチャーは, メタルレストや従来型フレームワークを併用することによって機能時の義歯の動揺を制御する設計が可能となることから, 金属混在型の設計であれば, ほとんどすべての欠損様式に適応できると考えられてきている. しかしながら, すれ違い咬合症例や少数歯残存症例など, 一般的なクラスプデンチャーでさえ良好な治療結果を期待することが難しい症例への適用は困難である. 特にすれ違い咬合症例では, 義歯床の回転沈下, 咬合位の変化, 顎堤の吸収が生じやすく, 結果として, レジンクラスプに過大な応力が集中することが想定される 40,41). レジンクラスプが早期に変形, あるいは破折する危険性が高いことから, 禁忌症であると考えられる. 少数歯残存症例も, レジンクラスプに大きな負荷がかかりやすい 41). 残存歯の部位, 対合歯列の状態にもよるが, 臼歯部咬合支持が失われている場合, 咬合位が不安定な場合, 高度顎堤吸収や床下粘膜異常など欠損部顎堤の支持能力が低い場合には, 特に注意を要する. c 図 5 A non-metl clsp denture without metl frmework replcing missing mxillry ilterl frontl teeth (Vlplst ). Lil view on working cst,. Pltl view on working cst, c. Introrl lil view with the denture 上顎両側中切歯欠損に対して製作した金属構造を併用しないノンメタルクラスプデンチャー ( バルプラスト ). 唇側面 ( 模型上 ),. 口蓋側面 ( 模型上 ),c. 唇側面 ( 口腔内装着時 ) 2) 解剖学的因子ノンメタルクラスプデンチャーのレジンクラスプは, 上縁が歯面上, 下縁が歯肉面上に設定されるため, その外形は, 支台歯の歯冠形態だけでなく, 歯槽部の形態にも影響される. 臨床的歯冠長が短い症例, 支台歯のサベイラインから口腔前庭までの距離が足りない症例, 歯槽部に過大なアンダーカットがある症例では, レジンクラスプの形態や幅を適切に設定することが困難な場合がある 41 43). レジンクラスプの維持力と強度が不足する可能性があり, 注意を要する. ノンメタル

9 ノンメタルクラスプデンチャーのポジションペーパー 395 c 図 6 A non-metl clsp denture with metl frmework using EstheShot. Polished surfce of denture,. Introrl view with mndiulr non-metl clsp denture nd mxillry complete denture using het-cured crylic resin, c. Denture se of the posterior re frctured y flling t 9 months fter plcement nd it ws repired using cold-cured resin (indicted with rrow). No complictions occurred on the repired lesion for 6 months fter the repir nd dhesion with the repired resin ws well mintined. Although polished surfce of the mxillry complete denture ws good, surfce of the mndiulr denture se of posterior re hs ecome roughened fter yer nd 6-month use. フレームワークを併用しエステショット を用いたノンメタルクラスプデンチャー. 義歯研磨面,. 口腔内装着時, 上顎はアクリルレジンを用いた全部床義歯.c. 下顎義歯の落下により臼歯後隆起部の義歯床が破折し ( 装着 9 ヶ月 ), 常温重合レジンで修理した ( 矢印 ). 修理後 6 ヶ月では修理部位に問題を認めず, 良好な接着状況を維持している. 上顎全部床義歯の研磨面の性状は良好だが, 下顎義歯では最後臼歯後方の研磨面に面荒れを認める ( 装着 1 年半 ). クラスプデンチャーの床用材料の多くでは人工歯との化学的結合が期待できないため, 人工歯に保持孔を付与し, 機械的に結合させる必要がある. 欠損部における対合歯とのクリアランス量が少ない症例では, 人工歯の脱落, 亀裂, 破折が生じやすいため, 注意を要する 43 45). 3) 衛生状態メタルクラスプは歯肉縁に接触しないように設計されるが, ノンメタルクラスプデンチャーのレジンクラスプは支台歯の歯頸部歯質, 辺縁歯肉, 唇頬側粘膜を大きく被覆する. 支台歯周囲が広い範囲で不潔域となるため, 齲蝕や歯周疾患を惹起あるいは増悪させる可能性がある. 十分なプラークコントロールが必要であ 図 7 Deteriortion of thermoplstic resin used for nonmetl clsp dentures. Loss of urnish on polished surfce (Vlplst ),. Discolortion nd decoloriztion of thermoplstic resin (Lucitone FS ) ノンメタルクラスプデンチャーの熱可塑性樹脂の劣化. 光沢の消失 ( バルプラスト ),. 熱可塑性樹脂の変色と脱色 ( ルシトーン FS ) ることが強調されており 42,45,46), 口腔衛生不良の症例や定期的なリコールに応じない症例は禁忌症であると考えられる. 樹脂材料の劣化がプラークの付着を増大させ, 義歯の衛生状態を悪化させる懸念があることからも, 定期的なリコールの実施は必須であろう. また, メタルレストによる支持がない症例では, 義歯が沈下した場合にレジンクラスプが辺縁歯肉を圧迫し, 機械的に障害する可能性がある. 金属構成要素を全く含まないノンメタルクラスプデンチャーは義歯の沈下が生じやすいと報告されている 46) ことから, メタルフリーの症例では, より慎重な経過観察が必要である. Ⅵ. ノンメタルクラスプデンチャーのメリットとデメリット 1. メリット 1) 審美性装着者の審美性に対する評価は, 男女を問わず好評である 12,47 49). 欠損部位へのインプラント治療は有効であるが, 金属体を骨中に埋入することへの抵抗と外科手術に恐怖感を持つ患者は多い. また費用も一般的に高額となる. これに対する提案は可撤性部分床義歯 ( パーシャルデンチャー ) であるが, 外観にふれるメタルクラスプを考えると患者も術者も躊躇する場合がある. 部分床義歯ではマグネットおよびプレシジョン ( 精密 ) アタッチメント, ミリングデンチャー, テレスコープデンチャーにおいて審美性を保障できるが, 支台歯が生活歯である場合はこれらの装置の適応が難しく, 対応に苦慮する. ノンメタルクラスプデンチャーにおいては維持部を生活歯へ積極的に応用することができ, 患者と術者にとって部分床義歯を選択する機会が増加した. 2) 装着感 ( 軽量 薄床化 )

10 396 日補綴会誌 5 巻 4 号 (2013) 現在応用されている樹脂で, アクリルレジンと比較して曲げ弾性率の低い樹脂においては表面硬さも柔らかく 19,33 35), 装着感が良好に感じられている. また, 適合性にも問題はないようである 30,37). 樹脂単体による, 剛性のない弾力性に富んだ義歯では, 破折の心配が少ないために義歯床の厚さが薄く製作されている. このため, 従来のアクリルレジン, あるいはフレームワークを併用して剛性を確保した義歯に比べると軽量 薄床である. 表 4 に樹脂の比重を示す 50). 3) 金属アレルギー金属を全く使用しない義歯においては, 金属アレルギーへの懸念を排除できる. 歴史的に, ノンメタルクラスプデンチャーは1950 年代のナイロン (Polymide) 義歯から始まっているが, それはアクリルレジンの重合後残留モノマーによるアレルギーへの対応のために開発された 51). その後, 金属アレルギーについてもそのメリットが生かされている 52). 2. デメリット 1) 材料の着色 劣化一部の材料を除き, 義歯装着後数か月での材料の表面荒れが指摘されている 53). アクリルレジンに比較して表面硬さが低く, そのため研磨表面の光沢が消失する. また, 変色と脱色が見られる 21,29,36) ( 図 6c, 7). 義歯のメインテナンスができるうちはカンジダの繁殖は心配ないと思われるが, 十分な清掃ができない状況ではアクリルレジンに比べると注意が必要であろう 54). 2) 研磨の難しさノンメタルクラスプデンチャーに使用される床用材の歯ブラシ摩耗試験 ( 体積減少量 ) ではアクリルレジンに比較すると 1/5 以下となっている 15). しかしながら前述したように表面は傷つきやすいことから, これらの材料は傷ついても剥落しにくい材料であることがうかがえる. その性質もあって, アクリルレジンと比較するとチェアサイドでの研磨が難しい材料もあり 32), 専用研磨材を必要とする. 高分子材料の非結晶部分ではガラス転移点を超えるとゴム状態となることが知られており, 研磨による加熱の影響も疑われる. 表 4 に各種熱可塑性樹脂のガラス転移点を示す. 3) 維持部の破折 維持力調整困難 修理困難ノンメタルクラスプデンチャーの維持部については, 設計指針が示されていない. このため, 幅, 厚さ, 長さなどのデザインについては試行錯誤の下で行われているのが現状である. これについては, 材料物性の相違からみたデザイン指針が望まれる 55). 初期に多く見られた維持部の破折に関しては, 物性の改良が進め られている. また維持部にクラスプワイヤーを埋設し, 維持力の継続と破折防止が図られている. 常温重合レジンと接着する材料であれば維持力もある程度修復できるが, そうでなければ調整はむずかしい. 材料別に見た修理 リラインにおける常温重合レジンとの接着の可否についてはⅦおよびⅧ 章を参照されたい. 接着しない材料では技工所へ依頼する必要がある. 4) 維持部デザインと歯周環境ノンメタルクラスプデンチャーでは, 維持部を歯冠側方向と歯根側方向に幅広くして支台歯の歯頸部を被い, 歯肉と一体化して見えるようにデザインする. このため維持部の被覆範囲が広くなり, アンダーカットやリリーフ域も死腔になりやすく, 歯周疾患の増悪が心配されており, 清掃への注意は必須である. 5) 自費診療熱可塑性樹脂を用いたノンメタルクラスプデンチャーは保険外診療で行われている. 樹脂のみで構成される義歯と, フレームワークを併用して剛性を持たせる義歯で費用設定は異なる. 自費診療として患者の負担は増すが, 本項の冒頭に述べたように, ノンメタルクラスプデンチャーを多くの人が選択しており, これは部分床義歯の審美性が改善されたことに依拠する. Ⅶ. ノンメタルクラスプデンチャーのメインテナンス ノンメタルクラスプデンチャーの材料は多種多様であり, その性質は材料ごとに異なった特徴を持つ. メインテナンスの際にもそれらの特徴を十分に理解した上で適切な方法で行う必要がある. 表 6 に主な熱可塑性樹脂におけるメインテナンスの注意点を列挙する. ポリアミド系樹脂を用いたノンメタルクラスプデンチャーの取り扱いは, 一般的には, 加熱重合レジン ( アクリルレジン ) を用いた義歯とは大きく異なる. すなわち, 義歯の機械的清掃には義歯用ブラシのような硬毛は不適当で, 柔らかい材質のブラシを用いる必要がある 56). 傷がつきやすく変形しやすいため, 短い期間で定期的なリコールが必要である. ポリアミド系樹脂を用いたノンメタルクラスプデンチャーでは, 通法による診療室での常温重合レジンを用いた修理とリラインは困難であり, 一般的には印象採得を行い技工所に再射出による修理を依頼する必要がある. ポリエステル系またはポリカーボネート系樹脂を用いたノンメタルクラスプデンチャーの取り扱いは, ポリアミド系樹脂よりも加熱重合レジンを用いた義歯に近く, 診療室で常温重合レジンを用いた修理が可能で

11 ノンメタルクラスプデンチャーのポジションペーパー 397 表 6 Mintennce of non-metl clsp dentures using thermoplstic resins 56) V & M.U.Bond 44,60) V FS M.U.Bond 44,60) 25) 17) ph>11, ph>12 24) 64) 24) N 64) P ある.pH の高い強アルカリ性の義歯洗浄剤はポリエステル系樹脂には不適であるため, 義歯洗浄剤の選択の際に注意を要する ( 表 6, 7). Ⅷ. 各種ノンメタルクラスプデンチャー用熱可塑性樹脂の特徴 この章では, エキスパートパネルが臨床経験を有する 7 つの市販システム ( バルプラスト, ルシトーン FS, アルティメット, エステショット, エステショットブライト, レイニング樹脂, レイニング樹脂 N ) を用いたノンメタルクラスプデンチャーを樹脂の曲げ弾性率と義歯の剛性の有無をもとに区分し ( 表 5), それぞれの樹脂の特徴, 適応症, 義歯の設計, 臨床適用時の留意点を記載する ( 各樹脂の物性と理工学的性質については表 2 4 を参照 ). 1. ポリアミド系 1) バルプラスト ナイロンの一種の素材から開発したポリアミド系樹脂であり,99.9% が化学式 {CO(OH2)11NH}n のポリラウリルラクタム ( ナイロン 12) で構成されている 20). アクリルレジンよりも弾性係数が小さく, 曲げ強さと曲げ弾性係数は約 1/3 である. したがって, 柔らかく変形しやすく, たわみが大きい. しかし, 曲げ変位量が大きく破断しないため, 大きな咬合力や応力 が加わっても床が破折しない. 優れた弾性力により, 大きなアンダーカットにも対応が可能である. 色調は 1 色であるが, ピンク系の半透明であるため, 歯肉の色に溶け込み, 歯肉と義歯床の境界が判別しにくい審美的な利点がある 12,48,52,56 58). アクリルレジンよりも床を薄くすることが可能で 12,52,58), 比重がアクリルレジンよりも小さい 12,50,57,58) ため, 義歯装着時の違和感が少ない 48,57,58). スペアとしての義歯, 外出時にのみ装着する義歯として有用である 48). 最大応力に達しても破折しない強靭さと弾力性を有している 15,20,58). 無味無臭でアレルギーの心配がない 48,52,57). 耐酸, 耐アルカリ性に優れる. グルタールアルデヒドや, 次亜塩素酸ナトリウムに浸漬しても表面粗さはほとんど変化しない 20). 義歯床を顎堤のアンダーカットに入れて維持を図ることもある 20). 欠点としては, 表面が傷つきやすく 52,56,59), 義歯装着後, 徐々に研磨面の光沢が消失し粗造感や黒ずみが生じてくる 12,56) ( 図 7). これに対しては, バルプラスト を扱う専門の技工所で研磨を行うことで一定の改善が得られる 48,56). 切削や研磨が非常に困難である 48,52,56,57). 維持力の調整が困難である 48,57). アクリルレジンよりも表面粗さが大きいためプラークが付着しやすく, 着色もしやすい 56,58). 食品では特にカレーに変色が大きい 15,21,20,57,58). 被覆する面積が大きい程, 適合が不良になる 59). 小さな応力でたわむため, 欠損歯

12 398 日補綴会誌 5 巻 4 号 (2013) 表 7 ph of denture cleners * D** ** ph 11.2 *** V (ph ) *** ph *** ** * ** *** 数が多く義歯床が大きい症例において, 患者は義歯の動揺を感じやすく, 噛みごたえを感じにくい 59). アクリルレジンとは接着しないため 48,58), 診療室でのリラインと修理が困難である 48,51,52,56,57). これに対しては, 44,60) レジン補修材を用いる方法, サンドブラスト処理後に 4-META/MMA-TBB レジンで表面処理を行うことでアクリルレジンを接着させる方法が報告されている 26,48). バルプラスト は, 維持部と義歯床のみで大連結子を必要としない前歯 1 ~ 2 歯の中間欠損症例が最も適している 59) ( 図 5). 他には, 臼歯の中間欠損症例 ( メタルレストが必要 ) が適応症である 48,57). バルプラスト は弾性率が低いため義歯の剛性はないが, フレームワークを併用することで剛性が得られ, 適応症が拡大する 48,57,59,61). 2) ルシトーン FS ハイグレード微結晶性ポリアミド ( トロガミド CX7323) を用いた安全性, 審美性, 機能性に優れたポリアミド系樹脂である. ポリエステル系樹脂やポリカーボネート系樹脂と比較すると, 柔らかいという特徴を有している. 柔らかいことにより疼痛が生じにくく, 装着感に優れる. また, 落としても割れにくい. 同じポリアミド系樹脂であるバルプラスト よりは少し硬めの樹脂で, 耐久性に優れる. 適合性も良好で, 耐摩耗性は高く, 研磨や切削作業も容易で, ステインや歯石が付着しにくいなどの利点がある. 図 8 A non-metl clsp denture connecting metl rest nd uccl-medil/lingul resin clsps with wrought wire on mxillry left first premolr (Lucitone FS ) メタルレストとレジンクラスプ 4 頬舌側近心部をワイヤーで連結したノンメタルクラスプデンチャー ( ルシトーン FS ) 一方, 症例によって, 義歯床の厚みが薄すぎた場合には破折が生じることがあることや, 色調安定性に欠ける 29,36) などの欠点もある ( 図 7). また, 維持力を増強するためには唇頬側のデザインを考慮する必要がある 55). さらに, 長期使用により緩みが生じる場合があるため, 金属によるレストやワイヤーによる頬舌的な連結などにより緩みを抑制する対策を施した方が得策である ( 図 8). 最大の欠点は常温重合レジンが接着しないことで, そのため, 修理やリラインが困難であり, 特殊な器材を用いた方法も紹介されている 44). また人工歯も脱落しやすいことから, 十分な機械的維持孔を

13 ノンメタルクラスプデンチャーのポジションペーパー 399 c c d 図 9 A non-metl clsp denture using EstheShot Bright. Denture design. Non-metl clsp dentures using EstheShot Bright s well s EstheShot should follow the design principles of conventionl PDs. esin clsps should e used s retiners only for esthetic requirement,. Introrl view with denture, c. oughened polished surfce nd frctures were not oserved fter 6-month use. エステショットブライト を用いたノンメタルクラスプデンチャー. 義歯の設計. エステショット と同様に部分床義歯の設計原則にしたがい, 審美要件の必要な支台装置のみをレジンクラスプとする,. 口腔内装着時,c. 研摩面の荒れや破折等は認めない ( 装着 6ヶ月 ). 図 10 A non-metl clsp denture without metl element used for n immedite denture (eigning ) in ptient with multi-tooth loss. Denture on working cst,. Denture se view immedite fter relining using cold-cured resin, c. The relined resin ws detched on connecting regions t yer nd 7-month fter relining, d. Frcture of resin clsps fter 4-yer nd 3-month use. 多数歯欠損症例に対して, 即時義歯としてレイニング 樹脂単体で製作したノンメタルクラスプデンチャー. 作業模型上の義歯,. 常温重合レジンによるリライン直後,c. レイニング樹脂 と常温重合レジンとの接合部に剥離が認められる ( リライン後 1 年 7 ヶ月 ), d. レジンクラスプが破折した ( 装着 4 年 3 ヶ月 ). 付与しておく必要がある. メタルレストを併用することで適応症は広がるものの, 審美性の求められる前歯部や小臼歯部を含み, 維持部にあまり力のかからない少数歯欠損症例が適応症となる. 3) アルティメット アルティメット は, ポリアミド系樹脂であるバルプラスト やルシトーン FS に近い床用材料である. 新しい材料であり, 不明な点も多く, 取り扱う技工所もまだ少ない. アルティメット は弾性率の低い柔軟な材料であるが, 耐久性も高いのが特徴である. 床を薄く, 軽くできるので, 装着感が良好である. 設計は, メタルレストや金属製の大連結子を用いて剛性を高め, レジンクラスプの破損防止および維持力の再調整を目的にワイヤーを組み込む構造が望ましいと思われる. このような設計を行えば剛性が向上し, 適応症例が拡大する. クリアランスが不足して人工歯の保持や強度に問題がある症例や口腔前庭が浅い症例 (10mm 未満 ) に適応する場合には注意が必要である. ポリアミド系樹脂の一般的な問題点として, 経時的な脱色, 変色が挙げられる. 個人差や義歯の管理方法にもよるが, バルプラスト やルシトーン FS に比べ, アルティメット は, 義歯装着後の色調の変化が少ないと思われる. アルティメット もポリアミド系樹脂のため, 診療室での常温重合レジンを用いた修理とリラインが困難である. ただし, アルティメット を再射出することで, 間接リライン, 増歯, レジンクラスプの修理は可能である. さらに, ルシトーン FS を用いたノンメタルクラスプデンチャーに対しても, アルティメット を用いて修理とリラインが可能である. 2. ポリエステル系 ( エステショット, エステショットブライト ) エステショット は, ポリエチレンテレフタレート共重合体を主成分とするポリエステル系樹脂であり, いわゆる PET ボトルの成分として知られる. エステ

14 400 日補綴会誌 5 巻 4 号 (2013) 図 11 eltion etween elstic modulus of thermoplstic resin nd esthetics of resin clsp Undercut for resin clsp using thermoplstic resin with higher elstic modulus () should e less thn with lower elstic modulus (). Thus, when survey lines of utment teeth re on sme level, exposure of the resin clsp with higher elstic modulus is more thn tht with lower elstic modulus. In cses with esthetic prolems, it is necessry to recontour the utment teeth or to chnge for thermoplstic resins with lower elstic modulus. 樹脂の弾性率とレジンクラスプの審美性の関係弾性率が高い熱可塑性樹脂を用いたレジンクラスプ () では, 弾性率が低い熱可塑性樹脂を用いた場合 () よりもアンダーカット量を小さく設定する. そのため, サベイラインの高さが同一の場合には, 樹脂の弾性率が高いほどレジンクラスプの審美的な露出量が増える. 審美性が阻害される場合には, 支台歯のリカンタリングを行うか曲げ弾性率の低い材料に変更する必要がある. ショットブライト は, エステショット より曲げ弾性率が低く, 強さと柔軟性をあわせ持った新しいポリエステル系樹脂として発売された. 添付文書には, エステショットブライト の成分はポリエステル共重合体と記載されている. 両者とも安全性, 審美性, 機能性に優れている. エステショットブライト の物性についての報告があまりないが, エステショット については各種物性が報告されている ( 表 4) 19,21). エステショット とアクリルレジンとの接着せん断試験における接着強さは, ポリアミド系樹脂, ポリカーボネート系樹脂, アセタール樹脂に比較して最も高い値を示している 15). このことがエステショット の最も優れた点と考えられ, 実際に常温重合レジンによる修理を全く問題なく行うことができる ( 図 6c). また, ポリアミド系樹脂やポリカーボネート系樹脂と比較して適合試験の結果が良いとの報告がある 37). 事実, 実際の臨床において, 適合度に問題を感じたことはない. 一方で, ポリカーボネート系樹脂やポリアミド系樹脂と比較して, レジリエンス, ロックウェル硬度が低いとの報告がある 19). レジリエンスの低さはすなわち破折の危険につながるが, やはり義歯の破折例が散見される. さらに, 硬度が低いことにより, 摩耗が生じやすいと考えられ, 長期使用による面荒れという問題点も認める ( 図 6c). エステショットブライト に関する物性報告はまだ少なく客観的な比較はできないが, 基本的な利点はエステショット に準じると考えられる. 曲げ弾性率が低 く, これは破折を防ぐために改善されたと考えることが妥当であろう. 硬度も低いかもしれないが, もともとエステショット はアクリルレジンと違って研削の際に少し粘る感じがあり, エステショットブライト においても, 義歯調整でそれほど変化を感じない. ただ, 臨床感覚として研磨は少し容易になったと感じる.6 ヶ月経過において表面粗さは目立たないので, この点も改善されたと思われる ( 図 9) が, 今後の長期観察の評価を持って明らかにする課題であろう. 両材料とも, 添付文書にはアルカリ性の強い義歯洗浄剤を使用しないように注意書きがあり, 劣化の恐れがある ( 表 7). 部分床義歯の原則に則った設計に準じて義歯を製作することが求められ, そのことにより支台装置に対する負担増, 義歯の沈下などの様々なトラブルを可及的に避けることができると考えられる. またフレームワークとの併用で, 義歯の支持, 維持および把持の主要な機能はフレームワークが担い, 審美的な要件が求められる箇所の維持部は樹脂を応用することで ( 図 6,,9,), 義歯の動揺を最小限に抑制し, 結果としてレジンクラスプの支台歯への負担を軽減するものとも考えられる. 3. ポリカーボネート系 1) レイニング樹脂ポリカーボネート樹脂を主成分として顔料を含有する義歯床用熱可塑性レジンである. ポリカーボネート系樹脂は, 従来から義歯床用材料として健康保険に適

15 ノンメタルクラスプデンチャーのポジションペーパー 401 図 12 Chewing complint with non-metl clsp denture. Introrl view with denture,. Inpproprite denture design ノンメタルクラスプデンチャーによる咀嚼障害. 義歯装着時,. 不適切な義歯の設計 図 13 Esthetic complint for resin clsp of non-metl clsp denture ノンメタルクラスプデンチャーのレジンクラスプによる審美障害 用され信頼性は高い. レイニング樹脂 の主成分である ポリカーボネート系樹脂は, 義歯床用材料として約 20 年前から臨床応用されており, ポリカーボネート系樹脂を用いた義歯は安全性, 適合性, 装着感等においてアクリルレジンを用いた義歯との差は認められない 62). レイニング樹脂 は, ポリエステル系樹脂と同等の物性を持つが, 他のノンメタルクラスプデンチャー用樹脂に比べて吸水率が低く, 研磨性が良いのが特徴である. また, 義歯洗浄剤の影響を受けにくい材料でもある. 基本設計として支持部, 把持部を金属とし, 維持部のみレイニング樹脂 で製作することが望ましい. レイ ニング樹脂単体での使用は, 咬合圧のあまりかからない前歯部症例や患者の審美性要求が高い場合とし, 咬合が緊密な場合には前歯であっても金属構造とする. 咬合圧負担の大きい多数歯欠損において支持が不十分 な場合にレイニング樹脂単体で製作した場合には, クラスプ部の破折の危険性が大きい ( 図 10d). アンダーカット量は 0.5 mm を基本とする.0.5 mm のアンダーカットではクラスプが歯冠の高位に位置して審美性を阻害する場合 ( 図 11) には, 支台歯のリカンタリングかアンダーカットが大きくても使用可能な曲げ弾性率の低い材料に変更する. 常温重合レジンによるリラインも可能ではあるが, 接合部で剥離が生じやすい ( 図 10c). そのため, リラインの必要な即時義歯や抜歯直後の症例への応用はできるだけ避ける. クラスプが破折した場合には修理部分をワックスにて形成後, 埋没して射出成型を行うことにより, 修理ができる. また, 専用の補修材も出ており, 部分的な破折には対応できるようになっている. レイニング樹脂 と同素材の人工歯を用いることにより特別な維持は不要となる. 2) レイニング樹脂 N レイニング樹脂 N は, レイニング樹脂 の後継品として発売された. レイニング樹脂 では, 内部応力の開 放や機械的ストレスが原因と考えられる経時的な破折や亀裂の発生が報告されている 63) が, レイニング樹脂 N では, 現在までに通常の使用条件下での破折は報告されていない. これは, レイニング樹脂 N では, 耐久性が 2 倍に向上 (3 点疲労試験による破断曲げ回数 64) が 60 万回から 120 万回へ増加 ) したこと, 耐薬品性が向上したことによると考えられる. レイニング樹脂 N の特徴は, ポリアミド系やポリエステル系樹脂よりも弾性率が高く, 曲げ強度が大きいため, 義歯の剛性が高いことである. 衛生学的な観点では, 吸水性が低く衛生的であり, モノマーの溶出がなく過敏症やアレルギーを生じにくい. また, 他の樹脂と比較して, 着色や変色が生じにくく経年的な劣化が少ない, 表面硬度が高く耐摩耗性が高い 15). 素材に透明色が存在し, 熱溶着を行うことでレジンクラスプはクリア, 義歯床はクリアピンクと 2 回に分けて射出成型することが可能なことも, 本樹脂の特徴的な点である 65). 製作上の便宜性では, 耐衝撃性の高いポリカーボネート樹脂製人工歯との熱溶着が可能であるため, 人工歯に維持孔を付与しなくとも脱落しにくい. また弾性の低い樹脂と比較した場合, 研磨性が高く, 研磨による熱変形が生じにくい, 射出後の収縮が小さく, 金属製のレストや大連結子を併用しやすい ( 図 3) などの長所があるが, アクリルレジンよりは収縮が大きく, エステショットと比較すると適合精度は劣る 37,39). 完成後の補修およびリラインに関しては, レイニング樹脂 N と常温重合レジンとの剪断接着強さが大きい 15,28) ため, 診療室で常温重合レジンを用いた修理とリラインが可能である. また, ガラス転移点が 130 以上と高く 39), 再射出による熱溶着が行えるため, 増歯と修理が容易である. 臨床上の注意点としては, レイニング樹脂 N は弾性率が高いことから, ポリアミド系やポリエステル系樹脂と同程度にアンダーカット量を大きく設定すると

16 402 日補綴会誌 5 巻 4 号 (2013) 維持力が過大になり, 支台歯の負担や, レジンクラスプの破折が増加するリスクが高くなる. また, サベイラインが高位に位置する場合には, レイニング樹脂 と同様に審美性を阻害する場合がある ( 図 11). 一般的にノンメタルクラスプデンチャーは, 支持の弱さが最大の欠点と考えられている 66). レイニング樹脂 N は熱可塑性樹脂の中でも弾性率が高いため, 支持の高い設計が可能だが, レストやレジンクラスプの破損を防止するためには, 支持部と把持部は金属製とし維持部のみをレイニング樹脂 N にすることが望ましい. サベイングとレジンクラスプのアンダーカットの設定は, レイニング樹脂 と同様 ( アンダーカット量 0.5 mm を基本 ) とする. 金属構造を併用せずレイニング樹脂 N 単体で製作する義歯は, レイニング樹脂と同様に咬合圧のあまりかからない前歯部症例や患者の審美性要求が高い症例に限定する. Ⅸ. 臨床経過からみたノンメタルクラスプデンチャー装着後の問題点 ノンメタルクラスプデンチャーの使用症例にみられる問題点を整理すると, 装着時にみられる問題としばらく経過してからみられる問題にまとめられる. それぞれについて原因を考察し, 適用に際して注意すべき点を示す. c 図 14 Frcture of non-metl clsp denture. Frcture of resin clsp,. Unfvorle cervicl form of utment tooth nd excessive undercut of residul ridge, c. Frcture of mjor connector, d. Thickness of the mjor connector is not sufficient (provided y i-cast Co, Ltd.) ノンメタルクラスプデンチャーの破折. レジンクラスプの破折,. 歯頸部の不整な形態と顎堤のアンダーカット,c. 連結子の破折,d. 明らかに薄い連結子 ( アイキャスト提供 ) d 1. 装着時 ( 直後 ) にみられる問題図 12 は, 装着直後から噛めない と訴えている症例である. 片側 4 歯欠損であり, 直接支台装置 1 歯で 3 歯を修復している遊離端欠損症例である. 問題は使用している材料よりも義歯の動きを抑える設計がなされていないことである. ノンメタルクラスプデンチャーであっても部分床義歯の設計の考え方に相違はない. 図 13 は, 義歯であることに気づかれてしまう, 異物感が大きい と訴えのある症例である. 片側 3 歯欠損であるが, 片側設計であるため, 支台装置を右側中切歯まで延長している. 歯槽堤の形態の問題もあり, レジンクラスプの幅を確保するために, 歯頸部の位置が左右非対称になっている. 片側設計にこだわった結果, かえって審美性が犠牲になり異物感も大きくなったと考えられる. 2. 装着後しばらくしてみられる問題図 14 はレジンクラスプと連結子が破折した症例である. 歯冠形態, 義歯の設計, 技工操作に問題がある. 柔らかい破折しにくい材料を使った場合には, 義歯の変形によって床下粘膜の疼痛, 顎堤の吸収や咬合位の 図 15 Frcture of resin clsp. Frcture of uccl resin clsp (indicted with rrow),. Occlusl reltion overloding resin clsp レジンクラスプの亀裂. 頬側レジンクラスプに生じた亀裂 ( 矢印 ),. レジンクラスプに負担を生じる咬合関係 変化が起こると考えられる. 安定した部分床義歯を製作するためには支持, 把持, 連結強度を十分考慮した設計が必要である. 図 15 は頬側のレジンクラスプに亀裂が生じた症例である. すれ違い咬合では, 義歯の動きがレジンクラスプに直接作用する. したがって, 連結子をフレームワークにしたとしてもレジンクラスプが破折するか, 維持力が低下する. したがって, このような症例はノンメタルクラスプデンチャーの適応にならない. 図 16 はレジンクラスプに被覆される歯肉に炎症を認める症例である. メタルレストによる支持がないため, 義歯が沈下を起こした結果であると考えられる. レジンクラスプの把持効果はメタルクラス

17 ノンメタルクラスプデンチャーのポジションペーパー 403 図 16 Influence of resin clsp on gingivl tissue. esin clsp without metl rest,. Compression nd inflmmtion of mrginl gingiv of utment tooth due to depression of denture se レジンクラスプが支台歯の歯周組織に及ぼす影響. メタルレストのないレジンクラスプ,. 義歯の沈下による支台歯の辺縁歯肉への圧迫と炎症 図 17 A non-metl clsp denture tht overlods utment teeth. Introrl view with denture,. A terminl utment tooth (mndiulr right first premolr) presenting severe moility 支台歯への負担が大きいノンメタルクラスプデンチャー. 義歯装着時,. 大きな動揺を示す最後方の支台歯 ( 右側第一小臼歯 ) 図 18 Detchment of n rtificil frontl tooth from denture se 人工歯の脱離 図 19 Frcture of rtificil first molr on occlusl surfce 人工歯 ( 第一大臼歯 ) の咬合面に生じた亀裂 プよりも大きく劣るため, 十分な支持効果があるメタルレストが必要である. 図 17 は下顎右側第一小臼歯が動揺している症例である.2 歯欠損に対して支台歯を 3 歯用いているが, メタルレストがなく, 義歯の水平性の回転に対して第一小臼歯の支台歯のみに負担がかかることが原因と考えられる. 義歯の動きに対応する設計上の配慮が必要である. 図 18 は人工歯が脱落した症例である. どの樹脂を用いたとしても人工歯と熱可塑性樹脂との接着においては, 人工歯に機械的維持を付与することは必須である. 特に上顎の前歯は唇側方向への負荷を受けやすいため, 注意しなければならない. 図 19 はレストを起点に人工歯の咬合面に亀裂が生じた症例である. レジンクラスプは着脱の際に肩部で大きく広げられると, メタルレストと樹脂の境界部から亀裂が入りやすい. したがって, アンダーカットが大きい歯では, 歯冠形態の修正や弾性率の低い材料の使用を考慮する. また, クリアランスが十分でないと人工歯にも亀裂が入りやすい. さらにレストによる支持が十分でないと義歯が沈下しやすくなるため, 機能時にレジンクラスプが開き, 破折の原因にもなる. 対合歯とのクリアランスが十分でない欠損症例では注意を要する. 装着期間は様々であるが, 変色, 脱色, 面あれ ( 図 6c, 7) などが見られることも少なくない. 材料自体の特性である場合, 術者側では対応が難しいことが多いが, 義歯洗浄剤の使用, やわらかい歯ブラシの使用が推奨される. 以上, 義歯装着直後と装着後しばらく経過してから起こり得る問題を挙げた. この中にはノンメタルクラスプデンチャーの適応症でないものもあるが, 義歯の設計や技工操作に注意を払えば避けられるトラブルも少なくない. ノンメタルクラスプデンチャーとはいえ, 従来の部分床義歯の設計原則を十分考慮して治療する必要があることは言うまでもない. 材料に関しては, ほんの一部の材料の情報しか入手できていない. それぞれに特性があるため, 学術論文, 技工所などからできるだけ客観的な情報を得て使用することが大切である. 今後, さらに安定した材料の開発が望まれる. なお, 本ポジションペーパーでは, 各熱可塑性樹脂とフ

18 404 日補綴会誌 5 巻 4 号 (2013) レームワークのフィニッシュラインにおける剥離や着色に関しては情報も不足していることから言及しないが, この点に関しても今後の報告を待たなければならない. Ⅹ. 本ポジションペーパーの適用の限界と今後の展望 本ポジションペーパーに記載されている義歯の使用感, 耐久性などについては, エキスパートパネルの臨床経験をもとにした意見であり, 臨床研究によるエビデンスに基づくものではない. また, 最近認可された材料については, 短期間のフォローアップに基づく場合もある. エキスパートパネルが現在認可されている熱可塑性樹脂すべてに精通しているわけではない. そのため, 本ポジションペーパーには, 一部の材料の臨床適用についての詳細な指針は記載されていない. 以上のことを十分に留意した上で, 部分歯列欠損への補綴治療の一助として本ポジションペーパーを活用していただきたい. 現時点では, 熱可塑性樹脂の物性に関する情報は不十分であり, 今後も特に臨床に即した理工学的研究が必要である. さらに, ノンメタルクラスプデンチャーの治療効果と術後経過に関する臨床研究はほとんど報告されていない. 周到にデザインされた臨床研究の実施が望まれる. 今後, これらのエビデンスが蓄積されることで, 本ポジションペーパーで示した指針の妥当性が検証され, 将来的にガイドラインとして改訂されることが望まれる. また, 理工学的性質が改良された新材料が開発されることで, 義歯の臨床適用についての指針が改変される可能性がある. ノンメタルクラスプデンチャーに対する患者の期待は大きく, 需要と供給はこれからも増大していくと予想されるが, ノンメタルクラスプデンチャーが適切に臨床適用されるためには, 継続的な患者と医療提供者 ( 歯科医師, 歯科衛生士, 歯科技工士 ) への情報提供も重要である. XI. 推 本ポジションペーパーでは現状での限られた範囲において, 義歯床に剛性のないノンメタルクラスプデンチャーは, 金属アレルギー症例などの特別な症例を除き, 現在の補綴臨床の原則に照らし合わせ最終義歯として推奨できない. フレームワークなどを併用した剛性のあるノンメタルクラスプデンチャーは, 審美領域にメタルクラスプが走行することを患者が受け入れられない場合に推奨できる. また, リラインとメインテ 奨 ナンスについては各材料の特性に応じた方法を理解しておくことが望ましい. XII. 利益相反 本ポジションペーパーは ( 社 ) 日本補綴歯科学会の運営費によって作成された.( 社 ) 日本補綴歯科学会は, 特定の団体 企業からの支援を受けているものではない. 本ポジションペーパーの作成にそのような団体, 企業の資金は用いられていない. 本ポジションペーパーの作成に関わったエキスパートパネルと診療ガイドライン委員は, ノンメタルクラスプデンチャーに関わる特定の団体 企業からの支援を受けてはいない. エキスパートパネルが, 特定樹脂の開発, 講演などに関与していた場合は, 当該樹脂の原稿作成を担当していない. 謝辞本ポジションペーパーの作成に際し, 文献資料及びデータ 24) をご提供いただきました福岡歯科大学咬合修復学講座有床義歯学分野濵中一平先生, 高橋裕先生に厚く感謝を申し上げます. 文献 1) 鈴木達也, 新保秀仁, 北野展久, 佐藤薪, 川井善之, 神吉ゆかりほか. 弾性熱可塑性合成樹脂義歯 ( ノンクラスプデンチャー ) のアンケート調査. 日補綴会誌 2011;3(120 回特別号 ):133. 2) 櫻井薫. 高齢者医療における補綴装置に対する最近の知見.Geritr Med 2009;47: ) 大久保力廣, 谷田部優, 有田正博. ノンメタルクラスプデンチャーの現状と問題点 補綴装置の一選択肢となり得るのか. 日補綴会誌 2011;4(121 回特別号 ): ) 大久保力廣. ノンメタルクラスプデンチャーの現状と補綴学的一考察. 補綴臨床 2012;45: ) 五十嵐順正. 義歯の設計の原則. 藍稔, 五十嵐順正編, スタンダード部分床義歯補綴学第 2 版, 東京 : 学建書院 ;2010, )( 社 ) 日本補綴歯科学会. ノンクラスプデンチャーに関する現時点における ( 社 ) 日本補綴歯科学会としての見解 < [ccessed ]. 7)( 社 ) 日本補綴歯科学会. 歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン 2008< [ccessed ]. 8) Glossry of Prosthodontic Terms 8th Edition. J Prosthet Dent 2005; 94: ) 齋藤誠, 小熊均. スーパーポリアミド製義歯の患

19 ノンメタルクラスプデンチャーのポジションペーパー 405 者満足度調査. 歯科審美 2009;22: ) Lowe LG. Flexile denture flnges for ptients exhiiting undercut tuerosities nd reduced width of the uccl vestiule: clinicl report. J Prosthet Dent 2004; 92: ) Meijer GJ, Wolgen PJ. Provisionl flexile denture to ssist in undistured heling of the reconstructed mxill. J Prosthet Dent 2007; 98: ) 金森敏和, 海津雅隆. バルプラスト義歯 ( ナイロン義歯 ) を装着してみて. 北海道歯科医師会誌 2005; 60: ) Kpln P. Flexile removle prtil dentures: design nd clsp concepts. Dent Tody 2008; 27, ) Singh JP, Dhimn K, Bedi P, Girish SH. Flexile denture se mteril: A vile lterntive to conventionl crylic denture se mteril. Contemp Clin Dent 2011; 2: ) 高橋英和, 河田英司, 玉置幸道, 寺岡文雄, 細井紀雄, 吉田隆一. ノンクラスプ用デンチャー材料の基礎的物性. 歯材器 2009;28: ) 町博之, 林克哉, 横山菜穂子, 内田多惠子, 小野高裕, 野首孝祠. 義歯用高分子材料としてのポリアミド樹脂 ( ナイロン系 ) の物性について ( 第 3 報 ) 曲げ特性ならびに疲労特性. 日歯技工誌 2004;25: ) Yunus N, shid AA, Azmi LL, Au-Hssn MI. Some flexurl properties of nylon denture se polymer. J Orl ehil 2005; 32: ) Ktsumt Y, Hojo S, Ino S, Hmno N, Wtne T, Suzuki Y, et l. Mechnicl chrcteriztion of flexile nylon denture se mteril. Bull Kngw Dent Col 2007; 35: ) 佐野正枝, 伊藤圭一, 野村章子, 河野正司. ノンクラスプ義歯用熱可塑性樹脂の物性. 日歯産会誌 2009; 23: ) 高林洋太. ノンクラスプデンチャーの理工学的性質. デンタルダイヤ 2009;34: ) Tkyshi Y. Chrcteristics of denture thermoplstic resins for non-metl clsp dentures. Dent Mter J 2010; 29: ) Hmnk I, Tkhshi Y, Simizu H. Mechnicl properties of injection-molded thermoplstic denture se resins. Act Odont Scnd 2011; 69: ) Tkhshi Y, Hmnk I, Simizu H. Efffect of therml shock on mechnicl properties of injectionmolded thermoplstic denture se resins. Act Odont Scnd 2012; 70: ) 濱中一平, 岩本実砂, 宮口巌, 勝俣辰也, 池浦政裕, 清水博史ほか. ノンクラスプデンチャー用材料の諸性質. 日補綴会誌 2012;4(121 回特別号 ): ) Ktsumt Y, Hojo S, Hmno N, Wtne T, Ymguchi H, Okd S, et l. Bonding strength of utopolymerizing resin to nylon denture se polymer. Dent Mter J 2009; 28: ) 新保秀仁, 大久保力廣, 土川益司. ポリアミド系合成樹脂とアクリルレジンの接着に関する研究. 日補綴会誌 2009;1(118 回特別号 ): ) 新保秀仁, 大久保力廣. ノンクラスプデンチャーは高齢者に有効か? 高橋英登編, 日本歯科評論 / 別冊 2011 高齢者にやさしい歯冠修復 補綴治療 - Biocomptiility( 生体調和 ) に基づいた対応 -, 東京 : ヒョ - ロン パブリッシャーズ ;2011, ) Hmnk I, Shimizu H, Tkhshi Y. Sher ond strength of n utopolymerizing repir resin to injection-molded thermoplstic denture se resins. Act Odontol Scnd Jn 23. [Epu hed of print] PMID: ) 勝俣友樹, 北條了, 井野智, 濱野奈穂, 渡辺智良, 近藤永ほか. 高弾性ナイロン樹脂による床用レジンの色調安定性. 神奈川歯学 2007;42: ) 林克哉, 横山菜穂子, 町博之, 内田多惠子, 小野高裕, 野首孝祠. 義歯用高分子材料としてのポリアミド樹脂 ( ナイロン系 ) の物性について ( 第 1 報 ) 吸水特性及び寸法変化. 日歯技工誌 2004;25: ) 佐藤吉則, 丸屋貴之, 永井栄一, 大谷賢二, 秋田尚典, 江間誠一郎ほか. 義歯床用スーパーポリアミドに関する研究 表面粗さについて. 日歯医療管理誌 2005; 39: ) Auzr MA, Bellur S, Duong N, Kim BB, Lu P, Plfreymn N et l. Evluting surfce roughness of polymide denture se mteril in comprison with poly (methyl methcrylte). J Orl Science 2010; 52: ) 横山菜穂子, 町博之, 林克哉, 内田多惠子, 小野高裕, 野首孝祠. 義歯用高分子材料としてのポリアミド樹脂 ( ナイロン系 ) の物性について ( 第 2 報 ) 表面硬さならびに引張り強さ. 日歯技工誌 2004;25: ) 川良美佐雄, 鈴木浩司, 石川栄. 審美義歯エステショットの臨床 耐摩耗性に関する知見. 平成 22 年度支部学術大会抄録集 ( 東関東 ). 日補綴会誌 2011;3: E89. 35) Ucr Y, Akov T, Aysn I. Mechnicl properties of polymide versus different PMMA denture se mterils. J Prosthodont 2012; 21: ) Sepúlved-Nvrro WF, Arn-Corre BE, Borges CP, Jorge JH, Urn VM, Cmpnh NH. Color stility of resins nd nylon s denture se mteril in everges. J Prosthodont 20; 2011: ) 菱本宗光, 加藤葉子, 明田喜仁, 村上由利子, 飯田誠一. ポリエステル共重合体の理工学的特性について. 日歯技工誌特別号 2008;29: ) 宮永裕彰, 安藤貴則, 田内義人, 岡田政俊, 前田芳信. ノンクラスプデンチャー用床用材料の適合性の検討. 日補綴会誌 2011;3(120 回特別号 ):132.

20 406 日補綴会誌 5 巻 4 号 (2013) 39) 寺岡文雄, 呉曄, 高砂文彦. ノンクラスプデンチャーの現状設計 製作と性能評価から考えるメタルフリーデンチャーとの相違. 歯科技工 2009;37: ) 柚木崎秀樹. ノンクラスプデンチャーによる欠損補綴, 臨床の際のポイント. 歯界展望 2008;111: ) 谷田部優. ノンクラスプデンチャーは部分床義歯の一翼を担うか. デンタルダイヤ 2010;35: ) 小野寺進二. バルプラストデンチャーの臨床術式. デンタルダイヤ 2009;34: ) 有田正博. ノンメタルクラスプデンチャー. 五十嵐順正, 岡崎定司, 馬場一美, 谷田部優編, 患者に喜ばれるパーシャルデンチャー, 東京 : デンタルダイヤモンド社 ; 2012, ) 今泉邦夫, 尾尻恵祐. 米国発ノンクラスプデンチャーの設計と技工弾性樹脂材料 ルシトーン FS による義歯製作. 歯科技工 2007;35: ) 谷田部優. ノンクラスプデンチャーの適応と設計を考える.QDT 2012;37: ) 細井紀雄. ノンクラスプデンチャー.DE 2009;168: ) 谷田部優. ノンクラスプデンチャーの現在補綴処置の一選択肢となり得るか? ポリエステル系樹脂製ノンクラスプデンチャーの現在. 歯科評論 2010;70: ) 大久保力廣. ノンクラスプデンチャーの現在補綴処置の一選択となりうるか? ポリアミド系樹脂製ノンクラスプデンチャーの現在. 歯科評論 2010;70: ) 辰川惠, 多田郁, 渡辺誠. ノンクラスプデンチャーの現在補綴処置の一選択肢となり得るか? ポリカーボネート系樹脂製ノンクラスプデンチャーの現在. 歯科評論 2010;70: ) HONJO KASEI CO.,LTD. プラスチックの比重.< [ccessed ] 51) Stfford GD, Huggett. The use of nylon s denture-se mteril. J Dent 1986;14: ) 桑原克久, 長濱文雄, 北原喜一, 和田守康, 牧村正治, 木村功ほか. 金属アレルギーを有する患者にノンメタルクラスプデンチャーを応用した症例. 日大口腔科学 2004;30: ) 谷田部優. ノンクラスプデンチャーは臨床のどこで使えるか? その利点 欠点と適応症 : 疑問と不安に応えて.QE 2010;29: ) Fernndes FSF, Pereir-Cenci T, Silv WJ, Filho AP, Strioto FG, Cury AADB. Efficcy of denture clensers on Cndid Spp. iofilm formed on polymide nd polymethyl methcrylte resins. J Prosthet Dent 2010; 105: ) Tguchi Y, Shimmur I, Skuri K. Effect of uccl prt designs of polymide resin prtil removle dentl prosthesis on retentive force. J Prosthodont es 2011; 55: ) 石川千恵子. 実践歯学ライブラリーノンクラスプデンチャーの特徴と臨床応用バルプラストデンチャーの臨床経過. デンタルダイヤ 2009;34: ) 大久保力廣, 細井紀雄. ノンクラスプデンチャーの概略と特徴. デンタルダイヤ 2009;34: ) 細井紀雄, 高林洋太, 小野寺進二. ノンクラスプデンチャーバルプラスト. デンタルダイヤ 2009;34: ) 金森敏和. 見えてきた, バルプラスト義歯 ( ナイロン義歯 ) の問題点. 北海道歯科医師会誌 2006;61: ) 今泉邦夫, 尾尻恵祐. ノンクラスプデンチャー用レジン補修材の有効性 臨床技工での接着性の検証と操作法. 歯科技工 2010;38: ) Ito M, Wee AG, Miymoto T, Kwi Y. The comintion of nylon nd trditionl prtil removle dentl prosthesis for improved esthetics: A clinicl report. J Prosthet Dent 2013; 109: ) 杉原圭子, 河原安, 谷口信一, 中浜淳, 関根一郎, 山内六男. 新しい義歯床用レジン ( 第 3 報 ) ポリカーボネート義歯の臨床的評価について. 顎頭蓋誌 1994; 6: ) 清水友. ノンクラスプデンチャー 軟性樹脂によるノンクラスプデンチャーの臨床応用.DE 2009; 168: ) 東伸洋行. レイング樹脂 N.< we/new/dl/reigning_c.pdf>; [ccessed ] 65) 金子潤. 新 臨床に役立つすぐれモノレイニング樹脂 N 製ノンクラスプデンチャー 二色成形義歯 見た目の美しさ と しっかり噛める を両立. 更に修理も可能に!! デンタルダイヤ 2011;36: ) 依田信裕, 渡辺誠, 末永華子, 小針啓司, 濱田泰三, 佐々木啓一. 支台歯荷重, 義歯床下荷重から見たノンクラスプデンチャーの生体力学的検討. 日補綴会誌 2012; 4: ( 参考 ) 本ポジションペーパー作成の参考にした製造販売元のウェブサイトバルプラスト < [ccessed ] ルシトーン FS < item/554_ct.pdf>; [ccessed ] ジェット カーボ 樹脂, ジェットカーボ -S < min_05-d.htm>; [ccessed ] アルティメット < [ccessed ]

21 ノンメタルクラスプデンチャーのポジションペーパー 407 エステショット < [ccessed ] エステショットブライト < html>; [ccessed ] レイニング樹脂 N < c.pdf>; [ccessed ] 著者連絡先 : 笛木賢治 文京区湯島 Tel: Fx: E-mil: kunfu.rpro@tmd.c.jp

22 408 日補綴会誌 5 巻 4 号 (2013) Clinicl ppliction of removle prtil dentures using thermoplstic resin (non-metl clsp dentures) Kenji Fueki, DDS, PhD,d, Chikhiro Ohkuo, DMD, PhD,c,e, Msru Yte, DDS, PhD,d,f, Ichiro Arkw, DDS, PhD,c,g, Mshiro Arit, DDS, PhD,c,h, Stoshi Ino, DDS, PhD,i, Toshikzu Knmori, DDS, PhD,j, Ysuhiko Kwi, DDS, PhD,c,k, Miso Kwr, DDS, PhD,l, Osmu Komiym, DDS, PhD,l, Tetsuy Suzuki, DDS, PhD,c,m, Kzuhiro Ngt, DDS, PhD,n, Mki Hosoki, DDS, PhD,o, Shin-ichi Msumi, DDS, PhD,h, Mutsuo Ymuchi, DDS, PhD,p, Hideki Ait, DDS, PhD,q, Tkhiro Ono, DDS, PhD,r, Histomo Kondo, DDS, PhD,s, Ktsushi Tmki, DDS, PhD,t, Yoshizo Mtsuk, DDS, PhD,o, Hiroki Tsukski, DDS, PhD,u, Msnori Fujisw, DDS, PhD,v, Kzuyoshi B, DDS, PhD,u nd Kiyoshi Koyno, DDS, PhD,w Jpn Prosthodontic Society, Clinicl Guideline Committee, Jpn Prosthodontic Society, Non-metl Clsp Denture Expert Pnel, c Jpn Prosthodontic Society, emovle Prosthodontics Expert Pnel, d Section of emovle Prtil Denture Prosthodontics, Tokyo Medicl nd Dentl University, e Deprtment of emovle Prosthodontics, Tsurumi University School of Dentl Medicine, f Tokyo Brnch, g Deprtment of Prtil nd Complete Denture, School of Life Dentistry t Tokyo, The Nippon Dentl University, h Division of Occlusion & Mxillofcil econstruction, Deprtment of Orl Function, School of Dentistry, Kyushu Dentl University, i Kngw Dentl University Yokohm Clinic, j Tohoku & Hokkido Brnch, k Deprtment of emovle Prosthodontics, Nihon University School of Dentistry t Mtsudo, l Deprtment of Orl Function nd ehilittion, Nihon University School of Dentistry t Mtsudo, m Section of Orl Prosthetic Engineering, Tokyo Medicl nd Dentl University, n Comprehensive Dentl Cre, The Nippon Dentl University Niigt hospitl, o Deprtment of Fixed Prosthodontics, Institute of Helth Biosciences, The University of Tokushim, p Deprtment of Prosthodontics, Division of Orl Functionl Science nd ehilittion, School of Dentistry, Ashi University, q Division of Occlusion nd emovle Prosthodontics, Helth Sciences University of Hokkido, r Deprtment of Prosthodontics, Gerodontology nd Orl ehilittion, Osk University Grdute School of Dentistry, s Deprtment of Prosthodontics nd Orl Implntology, Iwte Medicl University, t Deprtment of Orl & Mxillofcil ehilittion, emovle Prosthetics, Kngw Dentl College, u Deprtment of Prosthodontics, Show University, v Division of Fixed Prosthodontics, School of Dentistry, Meiki University, w Section of Implnt nd ehilittive Dentistry, Division of Orl ehilittion Fculty of Dentl Science, Kyushu University Ann Jpn Prosthodont Soc 5: , 2013 ABSTACT This position pper proposes definition nd nming stndrd for removle prtil dentures (PDs) using thermoplstic resin, nd presents guideline for clinicl ppliction. A pnel of 14 experts hving rod experience with clinicl ppliction of PDs using thermoplstic resin ws selected from memers of the Jpn Prosthodontic Society. At meeting of the pnel, non-metl clsp denture ws defined s the generic nme of PDs with retentive elements (resin clsps) mde of thermoplstic resin. The pnel clssified nonmetl clsp dentures into two types: one with flexile structure tht lcks metl frmework nd the other hving rigid structure tht includes metl frmework. According to current prosthetic principles, flexile non-metl clsp dentures re not recommended s definitive dentures, except for limited cses such s ptients with metl llergy. igid non-metl clsp dentures re recommended in cses where ptients will not ccept metl clsps for esthetic resons. Non-metl clsp dentures should follow the sme design principles s conventionl PDs using metl clsps. Since the physicl properties of thermoplstic-resin products vry gretly, clinicins should utilize them with creful considertion of the specific properties of ech product. In generl, thermoplstic resin hs lower color-stility nd higher risk of frcture thn polymethylmethcrylte. Additionlly, the surfce of thermoplstic resin ecomes roughened more esily thn polymethylmethcrylte. Studies on the physicl properties of thermoplstic resin, tretment efficcy nd follow-up re insufficient to rech definitive conclusion t this time. Therefore, this position pper should e revised sed on future studies nd clinicl guideline should e developed. Key words removle prtil dentures,thermoplstic resin,non-metl clsp denture, resin clsp, metl llergy