土壌から分離された日本未報告のPythium属菌3種について

Size: px

Start display at page:

Download "土壌から分離された日本未報告のPythium属菌3種について"

あきみすみい
4 years ago
Views:

1 北極産 Trichoderma が産生する褐色雪腐病菌抑制物質大阪府立大学大学院生命環境科学研究科植物バイオサイエンス分野准教授東條元昭

2 北極産 Trichoderma が産生する褐色雪腐病菌抑制物質研究の背景北極産 Trichoderma とは? 褐色雪腐病菌とは? 病原菌抑制物質の探索技術の特徴従来技術との比較今後の展開

3 研究の背景 Trichoderma は世界中の陸地に広く分布する糸状菌で, 植物病原菌に対して拮抗性を持ち, 生物農薬として利用されているものや, 工業用酵素源としても知られる褐色雪腐病は, 積雪地域のコムギや芝草の重要病害積雪地域や寒地の Trichoderma についての情報は少なく, 褐色雪腐病への抑止性は不明であった最近, 北極のコケから Trichoderma を発見し, 褐色雪腐病菌抑制物質を産生することを明らかにした

4 北極産 Trichoderma とは? スバールバル諸島の永久凍土上のコケから分離 T. polysporum と同定低温性病原菌に対して培地上で拮抗性を示す温帯産の Trichoderma よりも低温で活性化するポリガラクチュロナーゼ ( ペクチナーゼの一つ ) を産生スバールバル諸島 (74-81 N, E) United Kingdom Ireland North pole 40 E 20 0 E Norway 80 E Russia

5 北極産 Trichoderma は低温性病原菌に対して培地上で拮抗性を示す A TpA Mn TpA Pi TpA Sn TpA Tin TpA Tis TpA A TpG Mn TpG Pi TpG Sn TpG Tin TpG Tis TpG A TpJ Mn TpJ Pi TpJ Sn TpJ Tin TpJ Tis TpJ TpA: 北極産 T. polysporum, TpG: ドイツ産 T. polysporum, TpJ: 日本産 T. polysporum A: Athelia sp., Mn: Microdochium nivale, Pi: Pythium iwayamai Sn: Sclerotinia nivale, Tin: Typhula incarnata, Tis: Typhula ishikarienshis

現在の登録農薬はクロロネブ剤のみ 10 µm Masumoto S, Tojo M

6 褐色雪腐病菌 (Pythium iwayamai) とは? 10 µm Photo by Takuma Shigyo, Bayer CropScience 積雪地域のコムギや芝草の最重要病害の一つ積雪が数か月以上続く地域で発生積雪下で発生するために防除が困難現在の登録農薬はクロロネブ剤のみ 10 µm Masumoto S, Tojo M and Shigyo T (2009) Journal of Japanese Society of Turfgrass Science 38: 33-36

7 病原菌抑制物質の探索 ( 目的 ) 褐色雪腐病菌成長抑制物質北極産 Trichoderma 褐色雪腐病菌に対する環境保全型農薬の開発を目指し北極産 Trichoderma から成長抑制物質を分離しその構造を明らかにする

8 分析成長抑制試験へ /PDA 分析分析条件本体 :JASCO 社製 MD-2010 Plus カラム : ODS-P (10 i.d. 250 mm) カラム温度 : 40 病原菌抑制物質の探索 ( 方法 ) T. p o l y s p o r u m R i c e m e d i u m e x t r a c t e d w i t h M e O H M e O H E x t. p a r t i t i o n e d b e t w e e n H 2 O - A c O E t A c O E t E x t. 流速 : 2mL/min( 定流量モード ) Barentsburg OPU 1567 OPU 1568 OPU 1569 Longyearbyen OPU 1570 OPU 1571 OPU 1572 溶離液 : Gradient % MeCN(0-40min) 100% MeCN(40-60min) 検出器 : Photo Diode Array(200~400 nm) P.iwayamai の成長抑制試験培養条件 PYG 培地を 3mL ずつ試験管に分注し試験菌 P.iwayamai を一定量植菌後 20 にて振とう培養する 1 日ごとに吸光度を測定することにより成長抑制作用を確認測定条件前処理 : 培養液が均一になるように攪拌ブランク : 精製水ポジティブコントロール : クロロネブ (n=3) 測定機器機器名 :Bact-500 測定温度 :20 測定波長 :600 nm

9 11 種類の化合物を単離 H 2 O (82g) T. polysporum OPU1571 MeOH Ext. Rice medium, 20 o C, 53days extracted with MeOH partitioned with AcOEt - H 2 O H 2 O AcOEt Ext. (12.8g) partitioned with H 2 0-BuOH BuOH (30g) insoluble mannitol (29.9mg) Hexane (6.1g) partitioned with Hex.-Ben.-CHCl 3 -MeOH partitioned with 1. CHCl 3 2. CHCl 3: MeOH=100:1 3. CHCl 3: MeOH=50:1 4. CHCl 3: MeOH=20:1 5. Acetone 6. EtOH 7. MeOH Benzene (1.7g) 7 (18mg) MPLC CHCl 3 :MeOH=20:1 Ben:MeOH=10:1 CHCl 3 :Ace=3:1 CHCl 3 (4.3g) MeCN (2.6g) MPLC Ben:Ace=5:1 MeOH (211mg) Insoluble (878mg) MPLC Ben:Ace=100: ergosterol peroxide (128.2mg) 10 (303.1mg) 4 (183mg) Ben:MeOH=15:1 Ben:Ace=5:1 9 (271mg) Ben:Ace=20:1 CHCl 3 :MeOH=30:1 CHCl 3 :MeOH=30:1 mevalonic acid (17.0mg) 8 (3.4mg) Hex:Ace=5:1 CHCl 3 :MeOH=50:1 10 (10.3mg) 11 (5.7mg) CHCl 3 :MeOH=10:1 5 (49mg) 12 (1.7mg) CHCl 3 :MeOH=50:1 4-hydroxybutyric acid (3.9mg) 6 (11mg) MPLC Ben:Ace=2:1 Acetone Hex:Ace=1: (86.2mg) 3 (17mg) MPLC CHCl 3 :MeOH=10:1 MPLC CHCl 3 :MeOH=20:1

10 化合物名 5 日間培養褐色雪腐病菌に対する成長抑制試験 cont rol クロロネブ μg 写真 [abs] v.s. Control Mean ±SD **P<0.01 (n=3) ** ** ** ** ** ** ** ** Control クロロネブ化合物 3 化合物 6 化合物 7 化合物 10 [μg]

10 100 5 10 100 5 10 100 写真 [abs] 1.2 1.

11 化合物名 7 日間培養褐色雪腐病菌に対する成長抑制試験 cont rol クロロネブ μg 写真 [abs] v.s. Control Mean ±SD (n=3) *P<0.05 **P< * ** ** ** Control クロロネブ化合物 3 化合物 6 化合物 7 化合物 10 [μg]

12 15 日間培養褐色雪腐病菌に対する成長抑制試験化合物名 control クロロネブ 7 μg 写真 [abs] * * v.s. Control 1 10μg 2 100μg 3 10μg 4 100μg 5 Control クロロネブ化合物 7 Mean ±SD *P<0.05 (n=3)

13 病原菌抑制物質の探索 ( 結論 ) 北極産 Trichoderma OPU1571 株の培養物から単離した化合物 3, 6, 7, 10 が褐色雪腐病菌に対する成長抑制作用を示した化合物 7 については抗菌薬クロロネブより効果が持続した化合物 3 は,(E)-3-(6-oxabicyclo [3.1.0] hexan-1-yl)-prop-2-enoic acid のメチルエステルと同定し, 新規化合物であることがわかった

14 特許出願発明者 : 東條元昭細江智夫出願人 : 公立大学法人大阪府立大学学校法人星薬科大学発明の名称 : 抗ピシウム菌剤特許出願番号 : 特願出願日 : 平成 25 年 8 月 6 日論文 Yamazaki, Y., Tojo, M., Hoshino, T., Kida, K., Sakamoto, T., Ihara, H., Yumoto, I., Tronsmo, A.M., and Kanda, H. (2011) Characterization of Trichoderma polysporum from Spitsbergen, Svalbard archipelago, Norway, on species identity, infectivity to moss, and polygalacturonase activity. Fungal Ecology 4:

15 技術の特徴従来技術との比較北極のコケに生息する糸状菌が産生する天然の抗菌化合物であるため, 環境保全型農業への応用が期待できる褐色雪腐病はゴルフ場の芝に大きな被害をもたらすため, とくに寒冷地のゴルフ場芝への応用が期待できる褐色雪腐病の登録農薬は現在のところクロロネブ剤のみである北極産 Trichoderma が産生する抗菌化合物はこれまで知られておらず, 褐色雪腐病に対する新規の農薬や資材の候補となる

16 実用化に向けた課題北極産 Trichoderma は穀類エキス等の一般的な培地で容易に培養できるが, 培養コストは未算出外国産の糸状菌であるために, 生菌を直接圃場に散布することはできない北極産 Trichoderma (T. polysporum) の人畜への病原性や毒素産生の報告は無いが, 農薬登録基準に則った安全性評価は行っていない

17 想定される用途褐色雪腐病防除においてクロロネブを補完する北日本地域の他, 海外では北米西岸などの積雪量の多い地域でも褐色雪腐病が多発しているこれら広範な地域での利用が想定される植物病害防除以外に, 低温性糸状菌が産生する抗菌物質の特性を生かした低温環境での防かび剤としての応用も考えられる

18 本技術に関する問い合わせ先大阪府立大学産学官研究連携推進センターリエゾンオフィス TEL: FAX:

( 一財 ) 沖縄美ら島財団調査研究技術開発助成事業実施内容及び成果に関する報告書助成事業名 : 土着微生物を活用した沖縄産農作物の病害防除技術の開発島根大学生物資源科学部農林生産学科上野誠実施内容及び成果沖縄県のマンゴー栽培では, マンゴー炭疽病の被害が大きく, 防除も困難となっている

( 一財 ) 沖縄美ら島財団調査研究技術開発助成事業実施内容及び成果に関する報告書助成事業名 : 土着微生物を活用した沖縄産農作物の病害防除技術の開発島根大学生物資源科学部農林生産学科上野誠実施内容及び成果沖縄県のマンゴー栽培では, マンゴー炭疽病の被害が大きく, 防除も困難となっている ( 一財 ) 沖縄美ら島財団調査研究技術開発助成事業実施内容及び成果に関する報告書助成事業名 : 土着微生物を活用した沖縄産農作物の病害防除技術の開発島根大学生物資源科学部農林生産学科上野誠実施内容及び成果沖縄県のマンゴー栽培では, マンゴー炭疽病の被害が大きく, 防除も困難となっている. マンゴー炭疽病の防除には, 農薬が使用されているが, 耐性菌の出現が危ぶまれている本研究では,