オオイタデジタルブック「女の交差点」

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ゆあにばし
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1 第 5 回 : 自閉症と向き合う NEXT 初版発行 :2009 年 10 月 2 日

がんばっておなかをさすり励まし続けた三十八週目強烈な痛みで意識が遠くなりながら普通分娩(ぶんべん)で幸正は生まれた腕の中にすっぽり入るくらい小さいのにずっしりと重い新たな命の誕生に夫や祖父母は大喜びだった幸正が三歳のとき積み木をうまく積み上げられない様子を見た祖母は少し女の交差点 p.

2 がんばっておなかをさすり励まし続けた三十八週目強烈な痛みで意識が遠くなりながら普通分娩(ぶんべん)で幸正は生まれた腕の中にすっぽり入るくらい小さいのにずっしりと重い新たな命の誕生に夫や祖父母は大喜びだった幸正が三歳のとき積み木をうまく積み上げられない様子を見た祖母は少し女の交差点 p. 2 わが子が怖い母親失格障害悲しいことでなく宝物生まれたばかりのわが子を抱いたときのぬくもりを和歌(32 )=仮名=はいまでもはっきり覚えている和歌は二十三歳のとき幸正=仮名=を出産した夫の仕事の都合で県内に引っ越してきたばかりだった妊娠七週目突然出血切迫流産の可能性があり入院した九週目かすかに心音が聞こえた幸正は決まった時間に弟と並んでご飯を食べるテーブルには幸正が理解しやすいように和歌の作ったメニュー表が置いてある繰り返す自傷行為や暴力自閉症と向き合う(二〇〇八年九月四日)

3 女の交差点 p. 3 遅れがあるんじゃないのと指摘した幸正和歌が呼び掛けても反応を示さない幼稚園の先生からも検査を勧められた医師の診断は広汎性発達障害(自閉症) このとき和歌は治ると思っていた通っていた幼稚園からは年中に進級するのは無理だと言われ受け入れてくれるところを探して駆けずり回ったようやく見つかるとすぐ近くに引っ越したしかし新たな環境になじむことができない幸正は激しい自傷行為を繰り返すようになるコンクリートに頭をぶつけたりつめをはいだり精神が不安定で食欲がなくなり体重は激減した病院を転々とし薬などで経過をみたが良好な結果は得られなかったしつけが悪い和歌は周りの心無い言葉に何度も傷ついたパニックを起こすとコップや皿など身の回りのものを投げる幸正二歳年下の弟に暴力を振るうようになると夫は幸正を拒否するようになった暴力は和歌にも向けられた座ると幸正は手加減せずに襲ってきたわが子が怖い眠ることもできず二十四時間立ったまま監視する日々孤独と不安の中肉体的にも精神的にも限界だった子どもの気持ちを分かってあげられないなんて母親として失格だ和歌は自分を責め続けた

4 女の交差点 p. 4 あなたが背負っている負担を半分私に背負わせてください行き場をなくした和歌と幸正が最後にたどり着いた病院での医師の言葉張り詰めてきた気持ちが切れ力が抜けた涙が止めどなくあふれてきた助けてください和歌は胸の奥に詰まっていた思いを吐き出した支えてくれる人がいるそう思うと障害に立ち向かう勇気がわいた幸正には強いこだわりがある温度の変化に敏感でクーラー< ポイント > 発達障害対人関係やコミュニケーションの障害特徴的なこだわりを持つ自閉症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害注意力や落ち着きのなさを自制できない注意欠陥多動性障害 (ADHD) 読み書きや計算を習得するのが著しく困難な学習障害 (LD) などの総称でその症状が通常低年齢で発現するもの文部科学省の調査によると全国の小中学校で学習行動面で著しい困難を示す児童生徒の割合は 6.3% 40 人学級で 2 3 人いる可能性も指摘されている脳の機能障害とされるが詳しい原因は分かっていないのスイッチがOFFになっていないと嫌炊きたてのご飯じゃないと食べない和歌は幸正の嫌悲しいという感情を共感することに徹した和歌が幸正の気持ちを言語化することで少しずつ言葉を覚えていく現在幸正は特別支援学校の三年生学校と病院のサポートで徐々に社会に適応できるようになってきている以前嫌がる幸正に無理やりペンを持たせたことがあるそのことがフラッシュバックしペンを

5 女の交差点 p. 5 持つたびにパニックを起こしていたが今年の父の日には父親の似顔絵を描いたまゆ毛が太いところなどうまく特徴をとらえている夫の喜びはひとしおだった兄弟並んでご飯を食べるそんな当たり前のことを家族全員で喜ぶことができる幸正のおかげで家族のきずなはしっかりと結ばれ失いかけていた笑顔も戻っていた障害はつらく悲しいことではなく宝物和歌は障害のあるわが子と生きる楽しさを見つけた (文化科学部藤田恵子) 集団の中で社会適応を博愛病院(大分市) 釘宮誠司院長の話自閉症の子は共通して足を踏みならす大声をあげるなどのパニックを起こす原因は特有のこだわりにあるこうでなければならないという完ぺきを求めるこだわりが中断されたときにパニックは起こる自閉症の子を持つお母さんは一歳くらいで人と違うということを感じ集団の中で遊ぶことから引き離してしまうそして一人遊びをさせることがこだわりを助長してしまう社会適応ができないといじめ引きこもり暴力など二次障害を引き起こす可能性もある早期に発見し集団の中で我慢強さを教えていくことでパニックを起こさずに暮らすことができるようになる昔は心の広さでみんなが障害のある子を受け入れてい

6 女の交差点 p. 6 たもう一度自閉症の子どもに居場所を確保してあげたいそれは今ある家庭保育園幼稚園学校医療機関福祉施設で十分対応できると思う自閉症のそれぞれの特性を理解しうまく導くことで社会に貢献できる優秀な人材になり得る心の尊さ教えてくれる県発達障がい者支援センターイコール (豊後大野市犬飼町) 五十嵐猛センター長の話自閉症の子は相手の立場で物事をとらえたり自分を客観的に見ることが苦手であるため人の気持ちや考え方の違いを理解できず孤立しやすくなる普通の子どもたちは日常のコミュニケーションの中で人の気持ちを理解する力が育つが自閉症の子にはその気持ちを言葉にしながら丁寧に伝えていく配慮が求められるしかし地域や家族のきずなが希薄になりつつあるいま人の気持ちを気遣ったり考えたりする機会が少なくなっているように思うこれは自閉症の子どもだけでなくすべての子どもに何らかの影響を与えていることが考えられる人の気持ちを顧みない行為が目立つ社会で心の尊さを自閉症の子どもが教えてくれているのかもしれない同センターの昨年度の延べ相談件数は972件相談の内容は診断や施設紹介などの情報提供家庭療育不適応行動教育就労など問い合わせは電

7 女の交差点 p. 7 子育て中の母親も共感今回の年間企画女の交差点では自閉症のわが子と向き合う和歌さん(32 )=仮名=にスポットを当て葛藤(かっとう)や苦悩を乗り越え喜びを感じられるまでになった体験を掲載した読者からは障害は宝物というお母さんに心を打たれた家族の心のつながりが伝わった障害のあるなしにかかわらず自分を好きだと思える子どもに育てることが親や大人の使命だと思う母親が周りに支えられ気持ちに余裕がなければ子どもを受け止める力がわいてこないなど多くの感想が届いた和歌さんは親が子どものために良かれと思ってやっていたことが子どもに苦痛を与えることもあるという幸正君(8つ)=仮名=は通っていた幼稚園から進級は無理と言われたが和歌さんは別の受け入れ先を探し引っ越したその結果幸正君は環境への変化や周囲の無理解からストレスを受けパニックを起こし自傷行為を繰り返していたと和歌さんは振り返る子どもの目線に立ってゆっくり待つことそれが可能性につながると話す自閉症の子を持つ母親の一人は大切なのはこの子自身を理子どもを理解し寄り添う自閉症と向き合う取材後記(二〇〇八年九月十一日)

8 女の交差点 p. 8 解し気持ちをくんで寄り添い安心して暮らしていける場を増やしてやることだと思う別の母親は認知する能力が上がると周りの刺激が大きすぎて自傷やパニックを起こすこともあるそれで保育園をやめた子もいる一見後退しているように見えるが集団ではなく個別でゆっくり育てることが大事な時期もあると語った県自閉症協会(大分市)の平野亙会長は自閉症の子は私たちとは全く違う感覚脳の働きを持っているので自分たちの物差しで測ってはいけない常識や思い込みはときには理解の妨げになる自閉症の特性その子の特性を正しく理解することからすべてが始まると指摘子どもに寄り添って育てていくということが大切と強調した自閉症は見た目には分からない見えない障害そのためいまだに社会的な理解が不足しておりしつけがよくないなどと言われ傷つき苦しんでいる母親はたくさんいる平野さんは子どもが支援を求めているのはもちろんだが保護者も支えられてやっと生きていけると話す同協会は現在医療福祉教育地域が連携して自閉症の子どもとその家族を支援するシステムづくりに力を注いでいる和歌さんと幸正君は地域の行事に必ず顔を出す地域を知ること地域の人に障害を知ってもらうことが大事障害への理解が深まれば誰もが暮らしやすい社会になると信じている和歌さんの子育てに対して読者からは自分は和歌さんのよ

9 女の交差点 p. 9 うに子どもに寄り添った子育てをしているだろうか子ども二人を育てるのは大変だからと無意識のうちに親の気持ちに子どもを沿わせるような子育てをしていると記事を見てハッとした (三十代女性)との感想があった障害のあるなしにかかわらず子育てをしている母親たちは和歌さんに共感する部分があったのだと思う今回紹介した和歌さんと幸正君のケースは自閉症の一例にすぎないかもしれないでも平野さんが言う自閉症の特性その子の特性を理解することから始まるというその一歩になったのではないかと考えている記事を通じて少しでも自閉症に対する理解が広がることを願っている (文化科学部藤田恵子)

10 女の交差点 p. 10 オオイタデジタルブックとはオオイタデジタルブックは大分合同新聞社と学校法人別府大学が大分の文化振興の一助となることを願って立ち上げたインターネット活用プロジェクト NAN-NAN( なんなん ) の一環です NAN-NAN では大分の文化と歴史を伝承していくうえで重要なさまざまな文書や資料をデジタル化して公開しますそして読者からの指摘追加情報を受けながら逐次改訂して充実発展を図っていきたいと願っています情報があればぜひ NAN-NAN 事務局にお寄せください NAN-NAN ではこの女の交差点以外にもデジタルブック等をホームページで公開していますインターネットに接続のうえ下のボタンをクリックするとホームページが立ち上がりますまずはクリック!!! 大分合同新聞社別府大学デジタル版女の交差点第 5 回自閉症と向き合う編集大分合同新聞社初出掲載媒体大分合同新聞 (2008 年 4 月 3 日 ~ 2009 年 3 月 19 日 ) デジタル版 2009 年 10 月 2 日初版発行編集大分合同新聞社制作別府大学メディア教育研究センター地域連携部 / 川村研究室発行 NAN-NAN 事務局 ( 大分市府内町大分合同新聞社企画調査部内 ) c 大分合同新聞社デジタル版女の交差点について女の交差点は大分合同新聞社が 2008 年 3 月から翌 2009 年 3 月まで同紙朝刊に掲載した年間企画同社文化科学部の女性記者陣が企画執筆した今回デジタルブックとして再構成し公開する登場人物の年齢をはじめ文中の記述内容は新聞連載時のもの 2009 年 9 月 4 日 NAN-NAN 事務局

オオイタデジタルブック「大分を創る」

オオイタデジタルブック「大分を創る」 5 第 2 部 : 市町村合併を考える ❶ NEXT 初版発行 :2010 年 6 月 11 日大分を創る第 2 部 : 市町村合併を考える 1 p. 2 第2部では暮らしの視点から県内の市町村合併を考えます中山間地の暮らし揺れる地域医療地域づくりと住民自治の動きなどを共同取材活字と映像のメディアミックスで平成の大合併の周辺を伝えます二〇〇三年九月二十六日第2部市町村合併を考える