目 次 1 はじめに 1 2 山地災害対策を巡る現状及び課題 2 (1) 短時間強雨など極端現象の頻発や森林の高齢級化に伴う山地災害の発生形態の変化 (2) 山地災害の激甚化に伴う人的 物的被害の拡大 (3) 国土保全の拠点となる農山漁村における生活基盤の脆弱化 (4) 山地災害危険地区の把握精度の

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1 今後の山地災害対策の強化に向けて ( 中間とりまとめ ) 山地災害対策に関する検討委員会 平成 27 年 3 月

2 目 次 1 はじめに 1 2 山地災害対策を巡る現状及び課題 2 (1) 短時間強雨など極端現象の頻発や森林の高齢級化に伴う山地災害の発生形態の変化 (2) 山地災害の激甚化に伴う人的 物的被害の拡大 (3) 国土保全の拠点となる農山漁村における生活基盤の脆弱化 (4) 山地災害危険地区の把握精度の向上の必要性 (5) 山地災害危険地区における保安林の指定割合や治山施設の整備水準の低位な状況 3 事前防災対策としての山地災害対策の強化に向けた基本的な方向 5 (1) 山地災害が発生する危険性の高い個所の的確な把握 (2) 山地災害危険地区の土砂流出防備保安林等の配備を通じた制度的運用の強化 (3) 保全対象に被害を与えるリスク判断を踏まえたメリハリのある事業個所の選定や事業計画の策定 (4) 生態系としての森林の機能と治山施設の機能を組み合わせた防災 減災対策の推進 (5) 既往の治山事業施行地における治山施設の機能強化を含む長寿命化対策等災害リスクの高まりに対応した整備水準の向上 (6) ハード ソフト施策の連携の強化 4 主な取組の考え方 8 (1) 山地災害危険地区の調査基準の見直し (2) 適正な保安林の配備及び保全管理の推進 (3) 土石流 流木災害への対応の強化 (4) トータルコストの縮減による効率的な事業執行 (5) 特異な山地災害への対応 (6) 山地災害の発生メカニズム等の知見の向上に向けた調査 研究の推進 (7) ハード ソフト施策の連携の強化 (8) 事業の実施体制の確保 5 その他山地災害への対応 12 (1) 地震及び火山噴火に起因する山地災害 (2) シカの採食による過度な土壌侵食の発生 6 施策への反映 13 山地災害対策に関する検討委員会委員名簿 14

3 1 はじめに 治山事業は 山地災害の防止 生活環境の保全等森林の持つ公益的機能の発 揮が特に必要な保安林等において 豪雨 地震等に起因して発生する山地災害 から国民の生命 財産等への被害を最小限にとどめ 地域の安全性の向上に資することを目的として実施するものである その取組の歴史は長く 特に戦中 戦後の荒廃した国土の復旧が本格化されて以降 森林の持つこれら機能の維 持向上に大きな役割を果たすとともに 他の国土保全施策とも相まって 自然 災害による被害を減らすことに寄与してきたところである 一方 近年 地球温暖化の影響により過去の観測記録を上回るような異常な豪雨が頻繁に発生するようになり その度に全国各地で激甚な山地災害に見舞 われている 特に昨年 8 月に広島市で発生した土石流災害では 74 名にも及 ぶ多数の尊い人命が奪われ 豪雨に起因するものとしては 昭和 58 年 7 月の 島根災害以降 最大の犠牲をもたらすなど 治山事業における山地災害対策に も様々な課題を突きつけることとなった もとより我が国は 急峻な地形 脆弱な地質 台風の常襲地帯といった自然 条件に加え 国土の約 7 割を森林が占める中にあって 山麓部の扇状地や沖積 地を中心とする狭いエリアに集落や経済インフラが密集していることから 潜 在的に山地災害のリスクを有する立地条件にある さらに 先般公表された気 候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第 5 次評価報告書においては 地球温暖化により極端な降水がより強く 頻繁となる可能性が非常に高いことが指摘 されているなど 山地災害の発生リスクは 今後さらに高まっていくことが予 想される このような中 将来にわたって国民の生命 財産等を守っていくためには 森林の造成等により荒廃山地を復旧させることに主眼を置いたこれまでの山地災害対策から 国土の強靱化の一環として 成熟しつつある森林の災害外力に 対する強靱性を高めていくことにより 局地的な豪雨等極端な気象現象に対し ても下流の保全対象に甚大な被害を与えないことを旨とし 山腹崩壊や土石流 等山地災害による被害を防止 軽減する事前防災としての取組に施策の重点を 移していくことが求められている また 平成 23 年の紀伊半島大水害のように 過疎化 高齢化が進む集落等が甚大な被害を受け 多数の被災者が出るケースも近年多くみられる ひとた びこのような山地災害が発生した場合 被災者が集落や耕作地等の再建を断念 し 都市部に移転せざるを得なくなる結果 人口減少に拍車がかかり 国土保 全の拠点である集落の消滅につながる事態も想定される 今後の人口減少社会 の到来も見据え 我が国の国土保全の要となる森林を守り育てる人々の生活基盤を支えていく観点からも 事前防災対策としての山地災害対策の強化が必要 - 1 -

4 となっている この場合 災害時の防災 減災機能に加え 平常時の水源涵養や生活環境 生物多様性の保全等自然生態系の持つ様々な機能を積極的に活用したグリーン インフラの考え方も踏まえながら 厳しい財政事情の中 これら森林の機能を 最大限活用することにより 地域の生活基盤の保全を効率的に進めていくことが期待される この中間とりまとめは 以上のような状況を踏まえ 治山事業における事前 防災としての山地災害対策の強化の必要性について認識を共有した上で 特に 国土保全上重要な脅威となりつつある異常な豪雨に起因する山地災害による被 害の防止 軽減を図っていくために必要な対策のあり方について 山地災害対策に関する検討委員会 として検討を行い その意見をとりまとめたもので ある 2 山地災害対策を巡る現状及び課題 近年の山地災害対策を巡る情勢として 降雨強度の増加等に伴う災害外力の増大 森林資源の成熟段階への移行等の自然条件の変化に加え 過疎化 高齢化の進行や森林の荒廃 厳しい財政事情等の社会構造の変化がみられ これらに伴って以下のような課題が生じている (1) 短時間強雨など極端現象の頻発や森林の高齢級化に伴う山地災害の発生形 態の変化 社会経済の近代化の過程において 森林の過剰な伐採等による山地の荒廃 に起因する度重なる災害に対峙するため 森林の造成や治山施設の整備等の 取組が営々と行われてきた結果 近年 森林の土砂崩壊 流出防止等の機能が高まり 降雨等の災害外力に対しても 一定程度 山地災害の発生が抑制 されつつあることは 防災上の効果として評価されるべきである 一方 近年 時間雨量 80mm を超えるような短時間強雨の発生頻度が増加 傾向にあることに加え 72 時間降雨量の記録も相次いで更新されるなど 極端な現象が多く発生し 森林の土砂崩壊 流出防止等の機能を大きく上回 る災害外力が働くことによって山地災害が多発している これら山地災害の特徴として 以前はあまり問題とならなかった以下に示 すような傾向が顕著となりつつあり こうした山地災害の発生形態の変化に 対応した山地災害対策の強化が求められている 森林の高齢級化が進む中 短時間強雨など極端な現象の影響もあり 山地災害は 成熟した壮齢林においても多く発生 - 2 -

5 壮齢林が崩壊や土石流等の発生源となる結果 斜面上に生育する立木 が崩壊等とともに流下し 橋梁等を閉塞することにより土砂の氾濫域が 拡大し 被害の増大をもたらす流木災害が顕在化 特に脆弱な地質地帯においては 0 次谷 ( 谷頭部 ) を含む山腹斜面で の同時多発的な崩壊が発生 0 次谷 ( 谷頭部 ) での小規模崩壊が引き金となって発生する土石流の みならず 表面流水や浸透水が渓流沿いに集中 流下し 渓床堆積物の 移動がきっかけとなって 渓床 渓岸の侵食等を繰り返しながら流下土 砂量の規模拡大を招くタイプの土石流が発生 ( 後者の場合 源頭部の崩 壊は必ずしも明瞭でないが 下流での被害は甚大となる傾向 ) 林木の根系が届かない不透水層を境界面として山腹が崩壊する深層崩 壊が発生 全国に約 44 万基 ( 平成 24 年度末現在 ) の治山ダムが整備されるなど 既に多くのストックが形成されているが 記録的な豪雨等により 一度 安定化した既往の治山事業施行地であっても 再び山地災害が発生するケースが顕在化 (2) 山地災害の激甚化に伴う人的 物的被害の拡大 山地における土砂の崩壊 流出による下流への被害は 時に甚大な社会的 経済的影響を与えることとなるが 平成 23 年の紀伊半島の台風 12 号災害 24 年の九州北部豪雨災害 25 年の東京都伊豆大島の台風 26 号災害 26 年の広 島市の局地的豪雨災害など ここ数年 多くの死者 行方不明者を伴う激甚 な山地災害が連続しており 人的 物的被害も拡大する傾向にある IPCC 第 5 次評価報告書において 今世紀末までに極端な降水がより強く 頻繁となる可能性が非常に高いと指摘されていることを踏まえれば 山地災害の激甚化の傾向が今後一層顕著となることが見込まれる中で これら地球 温暖化による影響の軽減を図るための適応策を進めていく観点からも 国民 の生命 財産等の保護により重点を置いた山地災害対策の充実強化を図って いく必要がある (3) 国土保全の拠点となる農山村における生活基盤の脆弱化国立社会保障人口問題研究所による将来人口の推計結果によれば 30 年 後には全ての都道府県において人口が減少し この中でも特に農林漁業の従 事者数が多い市町村の人口減少率が大きくなる傾向が示されている このよ うな事態が進行すれば 森林をはじめとするグリーンインフラによる生態系 サービスを享受 活用しながら国土保全の役割を担ってきた農山村における人々の生活基盤の脆弱化も懸念されるが 山地災害の発生は こうした流れ - 3 -

6 を加速化させることにつながりかねない このため 人口減少社会の到来を見据え 地域の土地利用計画との調整を図りつつ これら国土保全の拠点となる農山村における人々の生活基盤を維持していく観点からも 山地災害対策を効果的に進めていく必要がある (4) 山地災害危険地区の把握精度の向上の必要性 国土の 7 割を占める森林は集落や社会的インフラの周辺に広域にわたって 偏在していることから 森林に近接する集落等においては 常に山地災害に 見舞われる潜在的なリスクを排除し得ない 一方 山地災害の発生メカニズ ムは それぞれの箇所ごとの傾斜や地質 土質条件 森林の根系分布等の素因に加え 降雨等の誘因が複雑に絡み合っており 山地災害がいつ どこで どのような規模で発生するのか等を正確に予測するには技術的な困難を伴 う しかしながら 森林における山腹崩壊や土石流等の現象は 地形 地質 土層深等に加え 林木の林齢等の影響を受けることが統計的に把握されており これらの因子をもとに危険度を判定する手法により 一定以上の崩壊等 のリスクを有する個所を各都道府県等が山地災害危険地区として調査し 平 成 24 年度末現在 全国で約 18.4 万地区が把握されている 毎年平均 2 千件程度の報告がある山地災害の発生件数のうち 山地災害危 険地区において発生するものの割合は およそ 4 割強となっており 山地災害対策の対象を絞り込むに当たって 一定の役割を果たしてきたものと評価 されるものの 事前防災としての山地災害対策の効果を高めていくためには さらにその把握精度の向上を図っていくことが重要である (5) 山地災害危険地区における保安林の指定割合や治山施設の整備水準の低位な状況 森林資源が成熟段階を迎えつつある今日 森林の多面的機能を発揮させつ つ 新たな木材需要の創出 国産材の安定的 効率的な供給体制の構築によ る林業の成長産業化を実現するためには 資源の循環利用を進めていく必要 がある 一方 成熟した森林が集中豪雨等に起因する山腹崩壊等により失わ れるリスクも高まっており 集落周辺の森林において山腹崩壊等が発生した場合 流出した土砂や流木が下流の集落等に被害を与えるおそれがある このため 森林計画制度に基づくゾーニングにより 森林の持つ木材生産 機能と国土保全機能等との調整を図っていくことが重要であり 特に人家等 を保全対象として含む山地災害危険地区については 災害の防止を図るべき 森林として位置付けた上で 異常な土砂の崩壊 流出等を招かないよう 森林の保全管理を適切に行っていくことが求められる - 4 -

7 現在 集落周辺を中心に約 260 万 ha の森林 ( うち人工林が約 100 万 ha) が土砂流出防備保安林又は土砂崩壊防備保安林 ( 以下 土砂流出防備保安 林等 という ) に指定されているが 保安林の指定が治山事業の着手と連 動して行われる場合が多いこともあり 山地災害危険地区における土砂流出 防備保安林等の指定の割合は 治山事業の着手率 ( 平成 24 年度末現在で約 48 %) を若干上回る水準にとどまっているのが現状である さらに 治山事業が着手された山地災害危険地区であっても 必要な施設 整備がすべて完了した いわゆる概成に至った地区の割合はその 2 割強に過 ぎず 多くは当面の対策のみがなされた段階にとどまっている状況にある このように 近年の山地災害の発生リスクの高まりを考慮した場合 必ずしも十分な整備水準が確保されていない個所もあることから 事業の効果や地 域のニーズ等を踏まえつつ 治山事業の整備水準を高めていく必要性につい ても考慮する必要がある 3 事前防災対策としての山地災害対策の強化に向けた基本的な方向 上記 2 に示した山地災害対策を巡る現状と課題を踏まえ 今後 事前防災対 策としての充実強化を図っていくために必要な取組を 柔軟かつ効果的に推進 していくことが求められている 具体的には 山腹崩壊や土石流等が発生するリスクの高い森林を山地災害危険地区として的確に把握するとともに これらを土砂流出防備保安林等に指定 することにより 国土保全機能の発揮を重視した森林管理を制度的に担保した 上で 山腹崩壊や土石流等が発生した場合であっても人家等下流の保全対象に 甚大な被害を与えないよう 必要な対策を事前に講じていく必要がある このような観点から 以下の基本的方向に基づき 今後の山地災害対策を推進していくこととする (1) 山地災害が発生する危険性の高い個所の的確な把握 依然として毎年多くの山地災害が発生しており その被害は単に森林資源 の滅失にとどまらず 人的 物的被害も含め 社会経済的に甚大な損失をも たらしている このような状況の中 事前防災としての山地災害対策を進めていくことは 国民の安全 安心の確保の観点から 治山事業として最も優先して取り組む べき課題の一つであり 客観的な基準に基づき把握された山地災害危険地区 に係る情報を施策ツールとして活用しながら 安全水準の向上に向けて効果 的かつ効率的に事業を実施していくことが肝要である このため これまでの山地災害の発生事例から得られた統計的データや森 - 5 -

8 林の土砂崩壊防止機能等に係る科学的知見等に基づき 現行の山地災害危険地区の調査基準について 近年の山地災害の発生状況や発生形態の変化等を踏まえながら詳細な分析を加えた上で その精度の向上が図られるよう 所要の見直しを行うこととする (2) 山地災害危険地区の土砂流出防備保安林等の配備を通じた制度的運用の強 化 山地災害の発生リスクが高い森林として把握された山地災害危険地区につ いては 人工林を含め 国土保全上の重要性を踏まえ 土砂流出防備保安林 等の配備を計画的に進め 伐採 開発等に対する一定の規制措置を講じ 治山事業の実施とともに 土砂崩壊 流出防止機能の十全な発揮を図っていく こととする (3) 保全対象に被害を与えるリスク判断を踏まえたメリハリのある事業箇所の 選定や事業計画の策定山地災害の発生源は無数に存在することに加え 財政的な制約がより厳し くなると見込まれる中 山地災害のリスクが一定程度以上想定される個所全 てにおいて対策を進めていくことは現実的ではない このため 土砂の崩壊や流出等により下流の保全対象に被害を及ぼすリス クやその程度 安全 安心な生活に対する地域のニーズ等を踏まえて 治山事業の実施個所の選定や治山事業計画の策定を適切に行っていく必要があ る 具体的には 地形や地質条件等から判断される崩壊等を招く森林の潜在的 な脆弱性 崩壊や土砂の流出状況等に応じて想定される被害の規模 保全対 象との関係 ( 迂回路のある道路か あるいは人家の密集地か 崩壊は発生しているが保全対象への影響はみられないか等 ) 既存の治山施設の効果の発 現状況 ( 土石流が想定される渓流であって 治山ダムの基数や強度等が不足 している等 ) 等 様々な条件を考慮して事業実施に係る優先度評価を適切に 行う 特に下流の人家等への被害が想定される土砂の崩壊や土石流等の発生源と なる森林においては 土砂の生産 流出の場となる流域の中で 適切な配置計画に基づく治山施設の整備や健全な森林への誘導に向けた森林の整備を推 進する 特に治山施設については 過去の被災事例から得られた教訓を踏ま え 近年顕著になりつつある渓流への出水の集中により生じる土石流流体力 等の外力を的確に考慮した必要な強度を有し かつ 想定を超える外力によ って施設の一部が破損した場合でも 下流に甚大な被害を及ぼさないよう 施設の最低限の機能は維持される性能を有するような 粘り強い構造とする - 6 -

9 など 現地の状況に応じ 柔軟な対応を行うこととする 一方 保全対象に人家が含まれない あるいは保全対象が遠いなどの場合 は 生態系としての森林の防災機能を最大限活用することにより 治山事業 の目的をできる限り効率的に達成できる計画とし 維持管理に要する費用を 勘案したライフサイクルコストも含め 保安林の指定目的を達成するために要する全体としてのトータルコストの縮減を図る このように 今後の災害リスクの増大に備えた地域の安全水準の向上と厳 しい財政事情の下での効率的な事業執行の双方の課題に的確に対応するため には 保全対象との関係等に応じたメリハリのある取組を推進していくこと が肝要である また このような事前防災 減災対策としての取組を効果的かつ効率的に 進めていくためには 既に荒廃現象や崩壊の前兆現象がみられる森林のみな らず 山地災害危険地区として把握された潜在的な崩壊等の危険性のある森 林も含めた形で 下流の保全対象に被害を与えるリスクや事業実施による効 果等を同一の尺度により判断した上で 事業実施後の保安林としての適切な管理も含めて 事業を計画していく必要があり これらを踏まえた事業の進 め方等についても検討が必要である (4) 生態系としての森林の機能と治山施設の機能を組み合わせた防災 減災対 策の推進治山事業は 根系の土壌緊縛力等生態系としての森林が持つ防災 減災効 果とともに 森林の生育基盤となる林地の侵食防止や山脚固定等の治山ダム 等の施設が有する機能を併せて発揮させることにより 山地災害から国民の 生命 財産等への被害を最小限にとどめ 地域の安全性の向上に資すること を目的として実施するものである こうした取組により 豪雨時等の土砂崩壊 流出防止機能と平時の生活環 境保全機能や生物多様性保全機能等の双方の機能の発揮が図られるものであ り 山地災害の防止という直接的な効果のみならず 森林の多面的機能の発 揮を通じて国民生活に様々な便益をもたらすものである このことは 生態 系を活用した防災 減災対策の取組として欧米を中心に進められているグリ ーンインフラの整備の考え方とも共通するものである 今後 渓流を軸とした治山施設の整備にとどまらず 森林域における土砂 の生産 流出の場となる発生源 流送区域 堆積区域を一連のものとして空 間的に捉え それぞれの立地特性に応じ 治山施設の整備と森林の整備を組 み合わせた取組を行うことにより 根系の土壌緊縛力 下層植生の発達によ る土壌の侵食防止力や保水力を含めた形で 森林の持つ防災 減災機能を総合的に高める 緑の国土強靱化 を推進することとする - 7 -

10 (5) 既往の治山事業施行地における治山施設の機能強化を含む長寿命化対策等 災害リスクの高まりに対応した整備水準の向上 既往の治山事業施行地において 治山施設の老朽化に伴う機能の劣化や治 山ダムの下流のり先の洗掘等に起因する施設の不安定化等がみられる場合に加え 周辺地域における集中豪雨の頻発等により 災害外力が増大するリス クが高まっているなど 当該施設の施行当時よりも厳しい計画条件となって いる場合においては これらを考慮した構造等への見直し等を図るなど 当 該施設の機能強化も含めた長寿命化対策や追加的な施設の配置 機能の低下 した森林の整備等を推進し 森林の土砂崩壊 流出防止機能の持続的な発揮を図ることとする (6) ハード ソフト施策の連携の強化 山地災害による被害の防止 軽減を図る観点から 治山施設の整備等ハー ド対策に加え 地域における監視 観測体制や避難体制の整備等のソフト施策との連携を強化する 4 主な取組の考え方 (1) 山地災害危険地区の調査基準の見直し山地災害危険地区の調査基準のうち 地形 地質 土層深 林木の樹種 齢級等の評価区分や評価点数等について これまでの崩壊の実態分析や森林 の土砂崩壊 流出防止機能等に係る研究成果等に基づき その妥当性を検証 した上で 調査基準の見直しを行う 特に 以前と比較して若齢の森林面積が大きく減少して全体として高齢級へ移行した現状を踏まえた齢級の評価を行うとともに 過去の観測記録を上 回る豪雨が全国的に生じつつある中 これまで降雨量が比較的多い地域と少 ない地域では 降雨量の変動に対する崩壊等の脆弱性に差があると考えられ ることから これら降雨量に応じた地域特性を踏まえた山地災害の危険度判 定手法の検討を行う また 渓床堆積物の上に植生が繁茂し 長期間にわたって安定している渓流であっても 過去の観測記録を上回る豪雨に伴う外力が誘因となって土石 流化するケースもみられることから 山地災害危険地区の調査データをもと に 航空レーザ測量成果を活用した微地形解析の手法等も取り入れ 個々の 流域単位で崩壊等のリスク評価を行った上で これを具体の山地災害対策に つなげていくような取組を推進する 山地災害危険地区の危険度の判定に当たっては 災害履歴 保全対象とな - 8 -

11 る人家や公共施設等 林木の齢級等 時系列に変化する判定因子も含まれて いることから こうした変化を適時 的確に把握し 定期的に最新の危険度 スコアに更新するなどにより 治山事業の優先度を随時見直していく (2) 適正な保安林の配備及び保全管理の推進山地災害危険地区の土砂流出防備保安林等の配備に当たって 治山事業施 行地にあっては 当該治山事業の実施による効果の発現が一体のものとして 捉えることができる全体計画の範囲を基本単位とし 治山施設の上流域や上 部山腹斜面を含む森林の機能の発揮が効果的に図られる面的な区域を指定す るなど 適正な配備に努める また 現時点では荒廃現象や崩壊を招く前兆現象が必ずしも明瞭な形では 確認されていない山地災害危険地区も多く存在するものと見込まれるが 山 地災害危険地区に係る調査基準に照らして精査した上でなお 山地災害危険 地区としての基準を満たすものについては 保全対象の重要度等も勘案しな がら 土砂流出防備保安林等の指定を早急に進めていくことが肝要である さらに 治山事業施行地については 工事概成後も森林の土砂崩壊 流出 防止機能等が持続的に発揮されるよう 森林の保育 管理 治山施設の維持 管理 周辺の保安林を含めた立木の伐採規制や開発規制等の施策を一体的に 運用していく (3) 土石流 流木災害への対応の強化人家等重要な保全対象を有する山地災害危険地区を中心として 流域内での土砂の生産 流出の場を一連のものとして空間的に捉えた上で 以下の取組を推進する 1 流域調査航空レーザ測量データや森林 GIS 等の活用により 微地形や森林構成等の詳細な属地情報を収集 分析するとともに 土砂の崩壊 流出等のシミュレーションや森林の土砂崩壊防止機能の評価等を行い 具体的な治山施設の配置や森林の整備等事業計画の策定を効果的かつ効率的に行うための手法の高度化や汎用性の向上を図る 2 発生源 0 次谷 ( 谷頭部 ) や遷急線付近の発生源対策として 今後想定される崩壊 の形態や規模 施工条件等に応じた山腹工 ( 筋工 土留工 ロープネット工 アンカー工等 ) を計画する また 森林の土砂崩壊防止機能等の評価を踏まえ 人工林や広葉樹二次林を含め 根系や下層植生の発達を促すための適正 - 9 -

12 な密度管理を実施することとし 伐倒木については 流木災害につながらな いよう 林内において安定化を図るなど 適切な処理を行う 加えて 土石流については 渓流を流下する過程で発達してエネルギーが 増大し 衝撃力も大きくなるため これをできる限り発生源付近で効率的に 抑えることを基本として 治山ダムによる山脚固定 渓流内に堆積する不安定土砂の固定等を図る 3 流送区間 土石流等の発生源から流送区間における山脚固定や渓床勾配の緩和によ り 渓岸や渓床の侵食の抑制 土石流の流下エネルギーの軽減を図るための遮水型と透過型を組み合わせた階段状の治山ダム群を配置する この場合 下流の保全対象との関係等を踏まえ 集中豪雨等により想定さ れる土石流流体力等の外力について 周辺地域における山地災害の発生状況 等もみながら ある程度幅を持たせた形で想定した上で 適切な天端厚 鉄 筋の挿入や背面への盛土等による袖部の補強 副ダム等洗掘防止対策等を加味した施設の計画 設計を行う 既存の施設については 嵩上げ 増厚 流 木止めの付加 副ダムの整備等の機能強化及び透過型治山ダムの除石 除木 等による機能維持を含む適正な維持管理 更新等の長寿命化対策を推進す る また 流出土砂が渓流沿いの立木や倒木を巻き込み 流木化することにより土石流災害による被害の拡大を招くおそれがある このため 渓流沿いに 堆積又は倒伏している林木を流出させないための適切な処理を行う さらに 流送区間にある森林については 平時の侵食防止機能等を確保するとともに 土石流の発生時に流木化した場合に これら保全対象に与える衝撃力を軽減 させる観点から 周辺での広葉樹の生育状況等を踏まえた自然植生の導入の可能性等も勘案しつつ 立木材積の小さい広葉樹等への転換を図る森林整備 についても検討を行う 4 堆積区間 堆積区間においては 想定を超えた規模で土砂が流出した場合の流出土砂 の堆積促進機能や流木の捕捉機能を有する災害緩衝林として 立木の成長を促すための密度管理を主眼とした森林の整備及びその維持造成に必要な治山 施設の整備を推進する (4) トータルコストの縮減による効率的な事業執行 今後 厳しい財政事情の下で 必要な山地災害対策を着実に進め 国民の安全 安心の確保を図っていくためには より一層効率的な事業の執行に努

13 めていく必要がある 具体的には 崩壊地であって 次期降雨による拡大崩壊のおそれが少ない と見込まれるとともに 保全対象に与える影響や将来的な植生回復の見通し を比較検討した上で妥当と判断される場合には 必要なモニタリングを行い つつ 自然の回復力を活用した復旧方法を検討する また 治山事業の施行に当たって 事業コストの縮減を図るため 木材や 転石等現地発生資材を活用した工法等の普及を進める さらに これまでに整備された治山施設について 点検 診断を着実に実 施し その結果に基づき 必要な補修や更新等を適切な時期に実施するメン テナンスサイクルの構築を図るとともに 災害外力が増大するリスク等が想定される場合には治山ダムの嵩上げや増厚等の機能強化を行うなど 既存施 設を有効活用した取組を推進する これらの取組を総合的に進めることにより 効率的な事業の執行に努め トータルコストの縮減を図る (5) 深層崩壊への対応 記録的な豪雨の頻度が増えることにより発生が見込まれる深層崩壊につい ては 現時点では山地災害危険地区として的確に把握することは困難であり 当面 林野庁が平成 25 年度末にとりまとめた 大規模崩壊治山対策マニュ アル に基づき 地すべり防止事業を含む治山事業の実施区域等での試行事例を増やしながら その汎用性を高め 対応力の強化を図る (6) 山地災害の発生メカニズム等の知見の向上に向けた調査 研究の推進 地球温暖化による降雨強度の増大等に対応していくため 山地災害の発生 のメカニズムや森林が山地災害の発生を抑制する効果等について その定量的な評価を含め 科学的な知見をさらに向上させるための調査 研究やデー タの体系的な蓄積を進め 事前防災対策としての治山技術の高度化への活用 を図っていく (7) ハード ソフト施策の連携の強化 山地災害による被害を防止 軽減し 国民の生命 財産の保護を図っていくためには 森林の整備や治山施設の整備等を進めていくことが重要である が 山地災害の発生には不確実性が伴うことに加え このような対策は財政 的な制約もあり 早期に必要な整備水準を満たすことは困難である このため 治山施設の整備等ハード対策に加え 荒廃地等の監視 観測体 制の構築 山地災害危険地区や保安林の指定状況等を地図情報として住民に提供すること等による避難体制の整備等のソフト対策を効果的に組み合わ

14 せ 事前防災としての取組の強化を図る 特に地域ぐるみでの自主的な警戒 避難体制の整備が重要となることから 山地災害危険地区に係る情報の周知 に当たっては 当該情報が地域レベルの防災活動にどのように活用されるか 十分留意した上で行うとともに 毎年 梅雨期前に行っている山地災害防止 キャンペーン等の機会を通じ 地域住民による山地災害危険地区等の点検や避難経路 避難場所等の検討を進めるために必要な支援を行う (8) 事業の実施体制の確保 治山事業の実施に当たっては それぞれの地形 地質条件や林況等に応じ て 事業の調査 計画や工事の設計 積算 施工管理等を適切に行う必要があり これらに携わる治山技術者は 多様な施工条件に対応できる豊かな知 見と経験が求められる 今後も気候変動による災害外力の増大や国民の森林への多様なニーズに適 切に対応しながら 効果的かつ効率的な山地災害対策を進めていくため 国 や都道府県等における研修や技術交流会への参加 業務に係る調査 試験研究の成果の発表の促進等を通じて これら治山技術者の育成 確保を図って いく また 大規模な山地災害の発生時の現況調査や応急対策 災害復旧対策の 立案等に当たっては 都道府県等の要請を踏まえ 林野庁 各森林管理局 署等の技術者や独立行政法人森林総合研究所等の専門家による支援や技術的助言等を迅速に行う さらに 狭隘でアクセスが困難な施工条件の下 作業者の安全や工事等の 品質を確保しながら 効率的に工事施工や森林整備 さらには施工後の施設 の維持管理等を計画的 安定的に実施していくため 公共工事の品質確保の 観点も踏まえ 適切な発注等を通じて これら工事等を担う民間事業体の育成 確保を図っていく 5 その他山地災害への対応 (1) 地震及び火山噴火に起因する山地災害 平成 23 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震以来 日本の周辺では地震及び火山の活動が活発化してきていると言われている 地震に関しては 近い 将来 海溝型の巨大地震である南海トラフ地震等が発生する可能性が高まっ ている また 火山噴火については 平成 26 年 9 月の御嶽山での水蒸気爆 発により多数の死傷者が発生しており さらに現在でも桜島等で活発な火山 噴火活動が発生している このような地震及び火山噴火が発生した場合には 広域的に山腹崩壊 地

15 すべり 火山泥流 溶岩流等が発生して直接的に人命や居住地域に被害を与えるとともに 降灰等により森林が荒廃し その後の豪雨で土石流が発生して下流の人家や施設に被害を与える危険性が高い 以上のような状況を踏まえ 地震及び火山噴火に伴う山地災害についても 必要な対策を推進する (2) シカの採食による過度な土壌侵食の発生 昭和 53 年 (1978 年 ) と平成 15 年 (2003 年 ) に環境省が行った全国調査 の結果によれば この間にシカの分布域が 70 % 増えたことが報告されてい る このため 全国各地でシカの採食による林床植生の衰退が発生し これに伴い過度な土壌侵食が発生している場所も多くみられる 山腹斜面で土壌侵食が発生することにより 渓流に土砂が流れ込み 集落 の取水施設や渓流の水質などに悪影響を与えていることに加え 道路等公共 施設への直接的な影響も生じているなど 国土保全の拠点となる農山村の豊 かな暮らしを脅かす要因にもなっている また シカの採食により山腹工による植生回復が阻害されている場合もある このような問題を解決するにはシカの生息密度を適切に管理することが重 要であるが 当面の間 必要に応じて植生保護柵の設置を進めるとともに 効果的な土壌侵食対策工を行うなど 林床植生の衰退に伴う土壌侵食の拡大 等を未然に防止するための取組を推進する 6 施策への反映 本中間とりまとめに示された今後の山地災害対策の進め方について 今後策 定が行われる地球温暖化の適応に向けた計画や森林 林業の基本的な施策に係る計画等に適切に反映されること等により 保安林 治山行政の推進に当たっ て具体化されることを期待する

16 山地災害対策に関する検討委員会 委員名簿 有識者 石川芳治東京農工大学大学院農学研究院教授 執印康裕宇都宮大学農学部教授 鈴木雅一東京大学大学院農学生命科学研究科教授 大丸裕武独立行政法人森林総合研究所水土保全研究領域山地災害研究室室長 都道府県 田邊幹雄山梨県森林環境部治山林道課課長前島啓伸長野県林務部森林づくり推進課課長田畑三正岐阜県林政部治山課課長 : 委員長 ( 敬称略 有識者は五十音順 )