[pdf]研究報告2008：小麦由来機能性成分の新規利用技術の開発（２）

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ああすにいだ
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1 小麦由来機能性成分の新規利用技術の開発 (2) 樋口誠一 * 高橋学 * 山路明俊 ** Utilization of the Functional Constituents from Wheat (2) HIGUCHI Seiichi*,TAKAHASHI Manabu*,YAMAJI Akitoshi** 抄録小麦ふすま中の機能性成分であるフェルラ酸に注目しアルカリ酸繊維分解酵素を用いた3 種の遊離方法について検討を行った酵素処理はアルカリ処理よりもフェルラ酸遊離量は少なかったが他法に比べて品質面製造面での安全性が高くかつその後の精製工程も効率的に行うことができると考えられたさらに酵素剤条件の最適化によって小麦ふすま1g 当たり1.9mgのフェルラ酸を得ることが可能になったまた酵素剤を変えることによりフェルロイルオリゴ糖の選択的な生産も可能であったキーワード : 小麦ふすま, フェルラ酸, フェルロイルオリゴ糖, 繊維分解酵素 1 はじめに埼玉県は全国有数の小麦の産地であり生麺類をはじめとする各種の小麦粉製品は本県を特徴づける食品の一つになっているこの小麦粉の製造工程において副産物である小麦ふすまが大量に発生する小麦ふすまはその大半が家畜の飼料として利用されているのが現状であるが国内の飼料の需要が伸び悩んでいることや食品リサイクル法の実施に伴い他の食品残さの飼料化が行われることなどから今後は小麦ふすまの飼料としての需要が低下しその価格が下落することも考えられるそのため飼料用以外での小麦ふすまの有効利用が重要な課題となっているれる著者らは小麦ふすまからフィチン酸抽出物を得る技術を確立し抗酸化性の高いフィチン酸抽出物の利用が可能になった 1) 本研究はフィチン酸を抽出した後の残さの有効利用について検討を行った特にこの中に含まれるフェルラ酸に注目した小麦ふすまの繊維はセルロースヘミセルロースリグニンタンパク質などから構成されている主にフェルラ酸は図 1のようにヘミセルロースであるアラビノキシランにエステル結合しておりジフェルラ酸を形成してアラビノキシラン同士の架橋に関与するなど強固な骨格形成の一端を担っている 2) また工業的にはフェルラ酸小麦ふすまは製粉後に残った外皮と胚芽胚乳の一部が混ざったもので製粉時に30% ほど発 Ara 生するその成分としては食物繊維が多いがそ O の他にフィチン酸フェルラ酸などのポリフェノ O C ール類ビタミン類ミネラルなどが豊富に含ま * 北部研究所生物工学部 ** 株式会社創健社 OH OCH 3 図 1 フェルラ酸とアラビノキシランの構造

2 は抗酸化剤などとして利用されている従来は合 2.3 フェルラ酸遊離法の検討成により作られていたが近年は米ぬか油副生成小麦ふすまからのフェルラ酸の遊離方法につ物から得られている 3) 植物界全般に存在しておいてアルカリ酸繊維分解酵素を用いた3 法り特に単子葉植物に多く見られるが現在小麦を検討したアルカリ処理は水洗小麦ふすまふすまに含まれるフェルラ酸は有効に利用されて 0.3g に対し結合型フェルラ酸量を測定する場いない合と同様に行った酸処理は水洗小麦ふすまそこで小麦ふすまを有効利用した機能性食品 0.3g に 0.1N 硫酸 20mL を加え 100 で 60 分間素材の開発を目的に小麦ふすまを原料としたフ加水分解した酵素処理は水洗小麦ふすまェルラ酸の製造方法について検討を行った 0.3g を水に懸濁し 100 で 5 分間膨潤処理したものに対し 0.6%(w/v) 酵素剤溶液 ( 表 1 A4 2 実験方法 50mM 酢酸緩衝液 (ph4.5) 対試料 ) 5mL を 2.1 供試試料添加し 40 で 24 時間インキュベートしたこ県内製粉会社において得られた埼玉県産農林れらの分解後の溶液について塩酸酸性とし前項 61 号の小麦ふすまを用い既報 1) にしたがって脱と同様にフェルラ酸含量を測定した脂加熱粉砕処理を行ったこれを水洗した 2.4 酵素活性の測定後風乾したものを供試試料とした小麦ふすまからのフェルラ酸遊離に適した繊維 2.2 フェルラ酸の定量分解酵素を調べるため 10 社 20 種類の主に食品フェルラ酸の定量はKrygierらの方法 4) により以用酵素剤 ( 表 1) についてフェルラ酸エステラー下のように行った小麦ふすま試料 0.2gに 80% ゼ (FAE) 活性及びキシラナーゼ活性を評価したアセトン水溶液 15mLを添加して振とう抽出し FAE 活性の評価はフェルラ酸メチルを基質と遠心分離後の上清を遊離型フェルラ酸溶液としして以下のとおり行った 5) 予備試験を行ったとたまた同様に抽出した液を減圧乾固し 2N ころ FAEの至適条件はpH であったの水酸化ナトリウム水溶液 20mLを加えて 65 ででこの条件で評価を行ったまず 2mMフェ 90 分間加水分解したものをエステル型フェルラルラ酸メチル 0.5mLに 0.(w/v) 酵素剤溶液酸溶液としたさらに先に遠心分離した沈殿に (50mM MES (2-Morpholinoethanesulfonic acid) 緩ついて同様にアルカリ処理をしたものを結合型衝液 (ph6.0)) 0.5mLを添加し 50 で 10 分間インフェルラ酸溶液としたそれぞれの試料溶液につキュベートしたその後沸騰水浴中にて酵素をいて塩酸酸性としヘキサンで洗浄後ジエチル失活させた遠心分離後の上清につき生じたフエーテル / 酢酸エチル混液 (1:1) 10mLで 3 回抽出ェルラ酸量を 2.2 項と同様の条件によりHPLC 分した集めた有機溶媒層を減圧乾固し 50mM 酢析した 1 分間当たり 1μmolのフェルラ酸を遊酸緩衝液 (ph4.0)/ アセトニトリル混液 (1:1) 1mL 離する酵素量を 1 ユニットと定義したに溶解し高速液体クロマトグラフィー (HPLC) キシラナーゼ活性の測定は小麦由来アラビノ分析に供した HPLC 条件としてカラムはGLサキシラン ( メガザイム社 ) を基質に使用して次のイエンス製 Inertsil ODS-3 (φ mm 5μ ように行った 0. アラビノキシラン溶液 m) 溶出は 50mM 酢酸緩衝液 (ph4.0) に対しアセ 0.5mLに 0.02(w/v) 酵素剤溶液 (50mM 酢酸緩トニトリルを 30 分間で 5 から 50% にするグラジ衝液 (ph4.5) 対試料 ) 0.5mLを添加し 50 でエントカラム温度 40 流速 1.0mL/min 検出 60 分間インキュベートしたその後沸騰水浴は 320nmのUV 吸収で分析したなおエステル中にて酵素を失活させた遠心分離後の上清につ型フェルラ酸量は遊離型フェルラ酸量を差し引いき 3,5-ジニトロサリチル酸 (DNS) 法 6) により還元て算出した糖量を測定しキシロース当量で表した 1 分間

3 当たり 1μmolの還元糖を生じる酵素量を 1 ユニ処理において細胞壁多糖の分解のみならずフェットと定義したルラ酸も遊離したのはこれを糖鎖から切り出す 2.5 小麦ふすまの酵素処理 FAE 8) が繊維分解酵素中に存在するためであると酵素剤を使用した小麦ふすまからのフェルラ酸考えられる製造方法を以下のとおり検討したこれらの分解生成物を比較するとアルカリ及水洗小麦ふすま 10mgに 50mM MES 緩衝液び酸処理後の反応液は濃い茶色を呈していた生 (ph6.0) 0.5mLを加え 100 で 5 分間加熱しふじたフェルラ酸を利用する際にはこの色素や反すまを膨潤させた冷却後 0.(w/v) 酵素溶液応液の中和により生じる多量の塩が問題になると (50mM MES 緩衝液 (ph6.0) 対試料 ) 0.5mLを予想されたこれに対して酵素処理ではこのよう添加し 50 で 20 時間インキュベートしたそなことがなく品質面製造面での安全性も高いの後沸騰水浴中にて酵素を失活させた遠心分と考えられる酵素処理におけるフェルラ酸遊離離後の上清につきフェルラ酸含量を 2.2 項と同量はアルカリ処理の約 60% であるが酵素の種様の条件によりHPLC 分析するとともに還元糖類や条件によってはこれを高めることができると量総ポリフェノール量 7) DPPH (1,1-diphenyl-2- 考えられたので以後酵素による処理について pycrylhydrazyl) ラジカル消去能 7) を測定したま検討することとしたたこの上清 300μLを取り 2N 水酸化ナトリウ 3.3 酵素剤の比較ム水溶液 150μLを加えて 65 で 60 分間加水分小麦ふすまからのフェルラ酸遊離に適した繊維解した冷却後 2N 塩酸 150μLを加えた溶液に分解酵素剤について検討した結果を表 1に示すついて 2.2 項と同様にフェルラ酸含量のHPLC 分フェルラ酸メチルを基質とした FAE 活性は析を行ったアルカリ分解前後における溶液中フ Aspergillus 属起源のものが高くなる傾向であったェルラ酸含量の差からフェルロイルオリゴ糖量が属起源ではその活性がほとんどを算出したなかったキシラナーゼ活性は A1 と A10 を除くと大差がなく酵素の起源に関係なく小麦アラビ 3 結果及び考察ノキシランを分解できることを確認した 3.1 小麦ふすまのフェルラ酸実際に小麦ふすまを基質にした場合フェルラまず小麦ふすまに含まれるフェノール酸類に酸遊離量が多いのは A4 A5 A3 などといついて調べたところほとんどがフェルラ酸であった FAE 活性が高い Aspergillus 属起源のものでりその含量は 1g 中約 2.6mg であったまたあったが T9 のように FAE 活性がまったくなかフェルラ酸の存在様式について調べたところ遊った属起源のものでも遊離が認めら離型エステル型はそれぞれ % とほとんれたこれは両者に含まれている FAE の基質ど存在せず残り 96.4% が不溶な細胞壁多糖に特異性が異なるためではないかと考えられた結合した形で存在していると推定されたそのたその一方でのようにフェルラ酸遊離量はめふすまの結合型フェルラ酸の遊離法についてほとんどないが総ポリフェノール量が多く以下に検討を行った DPPHラジカル消去能も高いものがあったこの 3.2 フェルラ酸遊離法の検討原因について検討を行ったところ表 1 及び図 2 アルカリ酸繊維分解酵素を用いた3 法につに示すとおりフェルラ酸がフェルロイルオリゴいてそのフェルラ酸遊離量を比較したところ糖として存在していることが明らかになりそれぞれ mg/gであったアルカリ属起源のものでその量が多くなる傾処理のフェルラ酸遊離量が多いのはエステル結向が認められたフェルラ酸の主な遊離過程は合を選択的に切断できるためと考えられる酵素まず細胞壁多糖にキシラナーゼが働いてフェルロ

4 表 1 酵素剤の比較 No. 起源キシラナーフェルラ酸還元糖総ポリフェ DPPH フェルロイ FAE 活性ゼ活性遊離量生成率ノール量ラジカルルオリゴ糖 (U/g) (U/g) (mg/g) *1 (%) *2 (mg/g) *3 *4 消去能 (mg/g) *1*3 A1 Aspergillus niger (3) (2) A2 Aspergillus niger (17) (1) A3 Aspergillus niger (39) (2) A4 Aspergillus niger (42) (0) A5 Aspergillus niger (42) (1) Aspergillus niger (54) (1) A7 Aspergillus niger (15) (0) A8 Aspergillus niger (18) (0) A9 Aspergillus usamii (8) (1) A10 Aspergillus oryzae (6) (2) T1 sp (1) (58) T2 sp (1) (59) viride (3) (67) T4 viride (3) (45) T5 reesei (2) (55) T6 reesei (13) (44) T (20) (13) T (20) (31) T (45) (16) B1 Basidiomycetes sp (0) (55) *1:( ) 内はアルカリ処理におけるフェルラ酸遊離量を100としたときの割合 *2: 小麦ふすまがキシロースへ完全分解したと仮定した場合の還元糖を100としたときの割合 *3: フェルラ酸当量 *4:Trolox 当量 (nmol) イルオリゴ糖が生成しその後 FAE がフェルロイルオリゴ糖からフェルラ酸を遊離させると考えられている 8) フェルロイルオリゴ糖の多いものは FAE 量が少なくフェルラ酸遊離までに至っていないと考えられるフェルラ酸とフェルロイルオリゴ糖は同程度の抗酸化性を持っていると考えられるが一方で水溶性などが異なるため抗酸化剤の用途によってこれらを使い分けることも可能であるまたフェルロイルオリゴ糖には LDL 酸化抑制能 9) 抗菌性 10) や抗癌性 11) などでフェルラ酸よりも高い機能性があるとの報告もされフェルラ酸当量 (mg/g) フェルロイルオリゴ糖フェルラ酸 A1 A2 A3 A4 A5 A7 A8 A9 A10 T1 T2 T4 T5 T6 T7 T8 T9 B1 図 2 酵素剤によるフェルラ酸及びフェルロイルオリゴ糖の遊離量ており本研究で開発した酵素分解法では付加価値の高い製品製造も可能である従来法である米ぬかからのフェルラ酸製造法と比較すると米ぬかではフェルラ酸エステルであるγ-オリザノールのアルカリ加水分解によりフェルラ酸のみが生産される 12) 本研究で検討した小麦ふすまの酵素処理ではフェルラ酸だけでなく機能性の高いフェルロイルオリゴ糖も選択的に生産することが可能であるほか食品用酵素を使用することでより安全性の高い生産が可能であるなど本研究で開発した小麦ふすまからのフェルラ酸類の生産技術の優位性を示していた 3.4 酵素処理における最適条件の検討最後にフェルラ酸遊離量の多かった及びフェルロイルオリゴ糖遊離量の多かったについて最適な酵素量と反応時間を検討した結果を図 3に示すは添加酵素量及び反応時間の増加とともにフェルラ酸遊離量が増加したのに対しては少量の酵素と短時間の条件でもフェルロイルオリゴ糖の遊離量が多かったそこで両者を組み合わせて反応させたところ反応 4 時

5 フェルラ酸当量 (mg/g) 図 3 酵素処理における最適条件の検討図中 % 値は試料に対する酵素添加量を示す間でも小麦ふすま 1g あたり 1.9mg のフェルラ酸を得ることができたこのように起源の異なる複数の酵素剤を組み合わせることで反応時間の短縮と遊離フェルラ酸量の増加が可能であることが明らかとなった 4 まとめ小麦ふすまからのフェルラ酸の製造方法についてアルカリ酸繊維分解酵素を用いた 3 種の方法について検討を行った酵素処理はアルカリ処理よりもフェルラ酸遊離量は少なかったが他法に比べて分解物の品質や製造面での安全性が高くかつその後の精製工程も効率的に行うことができるため有効な方法であると考えられた酵素剤と反応条件の最適化により小麦ふすま 1g あたり 1.9mg のフェルラ酸を遊離することが可能であったまた使用する酵素剤を変えることでより付加価値の高いフェルロイルオリゴ糖の選択的生産も可能であった既報のフィチン酸の抽出技術 1) とフェルラ酸類の抽出技術を組み合わせることにより小麦ふすまに含まれる機能性成分の総合的な利用が可能になると考えている謝辞本研究を進めるに当たり客員研究員として御指導を頂いた埼玉大学の円谷陽一教授に深く感謝の意を表しますまた試料は前田食品に提供して頂きましたここに心より感謝申し上げますフェルロイルオリゴ糖フェルラ酸反応 15 時間反応 15 時間 + 埼玉県産業技術総合センター研究報告第 6 巻 (2008) 参考文献 1) 樋口誠一, 高橋学, 山路明俊 : 小麦由来機能性成分の新規利用技術の開発, 埼玉県産業技術総合センター研究報告,5,(2007) 71 2) 渋谷直人 : 植物細胞壁多糖間の架橋構造, 化学と生物,21,(1983) 143 3) Graf, E. : Antioxidant potential of ferulic acid, Free Radic. Biol. Med., 13, 4 (1992) 435 4) Krygier, K. Sosulski, F. Hogge, L. : Free, esterified, and insoluble-bound phenolic acids. 1. Extraction and purification procedure, J. Agric. Food Chem., 30, (1982) 330 5) Faulds, CB. Williamson, G. : The purification and characterization of 4-hydroxy-3-methoxycinnamic (ferulic) acid esterase from Streptomyces olivochromogenes, J. Gen. Microbiol., 137, 10 (1991) ) 福井作造 : 生化学実験法 1 還元糖の定量法第 2 版, 学会出版センター,(1990) 23 7) 須田郁夫, 沖智之, 西場洋一, 増田真美, 小林美緒, 永井沙樹, 比屋根理恵, 宮重俊一 : 沖縄県産果実類野菜類のポリフェノール含量とラジカル消去活性, 食科工, 52, 10 (2005) 462 8) Williamson, G. Kroon, PA. Faulds, CB. : Hairy plant polysaccharides : a close shave with microbial esterases, Microbiology, 144, (1998) ) Ohta, T. Semboku, N. Kuchii, A. Egashira, Y. Sanada, H. : Antioxidant activity of corn bran cellwall fragments in the LDL oxidation system, J. Agric. Food Chem., 45, (1997) ) 石原昌信, 長谷川真由, 平良東紀, 当山清善 : パイナップル茎部からのフェルロイルオリゴ糖エステルとその抗菌活性, 食科工, 47, 1 (2000) 23 11) 加藤陽治 : 植物細胞壁多糖の微細構造解析と機能に関する研究, J. Appl. Glycosci., 55, (2008)35 12) 国産農水産物利用食品新素材利用マニュアル No.1 フェルラ酸,( 社 ) 菓子総合技術センター

小麦由来機能性成分の新規利用技術の開発

小麦由来機能性成分の新規利用技術の開発樋口誠一 * 高橋学 * 山路明俊 ** Utilization of the Functional Constituents from Wheat HIGUCHI Seiichi*,TAKAHASHI Manabu*,YAMAJI Akitoshi** 抄録小麦ふすまの機能性成分としてフィチン酸に注目し有機酸による抽出を試みたその結果フィチン酸を約 15%