Ⅰ クリニック事業承継形態 1 クリニックを存続させる承継の形態とは 現在開設しているクリニックを廃業することなく存続させたい場合 個人診療所か医療法人かによって 次の承継の形態が考えられます それぞれの特徴や税務上の問題点を考慮して スムーズに患者さんを引き継ぎ かつ最小限の負担で済むように計画的

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1 Ⅰ クリニック事業承継形態 1. クリニックを存続させる承継の形態とは 2. 第三者への譲渡 (M&A) Ⅱ 医療法人における事業承継対策 1. 紛争を防止する対策 2. 医療法人特有の対策

2 Ⅰ クリニック事業承継形態 1 クリニックを存続させる承継の形態とは 現在開設しているクリニックを廃業することなく存続させたい場合 個人診療所か医療法人かによって 次の承継の形態が考えられます それぞれの特徴や税務上の問題点を考慮して スムーズに患者さんを引き継ぎ かつ最小限の負担で済むように計画的に事業承継を行うことがポイントです 事業承継の形態 (1) 個人診療所を親族に承継する場合の留意点 個人診療所の場合 他の財産と同様にすべての事業用財産が課税の対象となります 生前贈不対策をしていなく 遺言がなければ 後継者以外の他の相続人に分割され 事業を承継できないケースも考えられます 開業医としての社会的使命を考え 診療所が永続的に発展できるよう生前にきちんとした事業承継対策を考えておくことが必要です 1 診療所の土地 建物の取り扱い 親名義の土地 建物は 承継者である子に賃貸するか 譲渡 贈不により子の名義に変え ることもできます 譲渡 親に譲渡所得課税が発生し 子は建物の減価償却貹を必要経貹にできます 賃貸 親と生計が別であるときは 親 ( 貸主 ) に賃貸料収入が発生し 子 ( 借主 ) の賃貸料は必要経貹となります 贈不 子に贈不税がかかる場合があります 1

3 2 医療機器等の取り扱い医療機器を引き続き子に使用させる場合には 土地 建物と同様に 譲渡 賃貸 贈不の 3つの方法があります 賃貸の場合には 親と生計が一であるか否かによって 賃貸料の支払いがあっても その取扱いが異なります 3 たな卸資産や未収金 親の開設していた診療所のたな卸資産や未収金は 親の所有財産や債権ですから 売却や 贈不によって 子に承継することができます 4 借入金の引き継ぎ 債権者の同意を得れば引き継ぐことが可能です 保証人の切り替え等金融機関に相談しま す この場合 借入金の利息は事業所得の必要経貹に算入することができます 5 院長への退職金 個人事業の場合 勇退する院長 ( 父 ) に退職金は支給できませんが 承継後も診療を続け る場合には 一定の要件のもと 子である院長から給不を受け取ることができます (2) 相続により個人診療所を承継する場合は新規開設医療法人の場合は 開設者が医療法人であるため 相続する場合は理事長変更の手続きで 承継できますが 個人開設の場合は 院長個人が開設者となっているため 新規での開設 と同様の手続きを行わなければなりません 主な申請手続きと申請窓口は以下のとおりです 1 保険医療機関の指定申請書 厚生局 2 診療所開設届他 保健所 ( 都道府県 ) 3 社会保険関係の新規適用届 社会保険事務所 4 個人事業開業届 税務署 5 所得税の青色申告承認申請書等 税務署 6その他 診療報酬の医療機関指定申請書等 厚生局他 旧診療所の廃止手続きも必要です 限られた時間で繁雑な事務処理を行わなければなりません 特に 相続による場合は 急なことであり混乱することがありますので 事前に必要書類を取り寄せるなど準備しておきましょう 2

4 2 第三者への譲渡 (M&A) M&A の形態には 1 個人から個人 2 個人から法人 3 法人から個人 4 法人から法人 などがあります 1 個人から個人 この場合は 新規開設と同様の手続が必要です 2 個人から法人売り手側が 個人事業につき 買い手側が医療法人の場合 分院開設の手続が必要です 既存クリニックの廃止届けを提出し 医療法人は定款変更手続を行い 知事の認可を受けてから 建物等の売買を行います 3 法人から個人 売り手側の医療法人は 法人を解散し クリニックの廃止届けを提出します 買い手側の個人事業者は 新規で開設手続を行います 4 法人から法人一般的に 売り手側の医療法人は 土地 建物 医療器械等を買い手側の医療法人に売却し 解散手続を取ります 買い手側の医療法人は 分院開設の手続を行います 特に 有床診療所の場合は地域医療計画により 病床規制の対象となっていますので 引 継ぎをする場合は 入院患者が入院していることが条件となります いわゆる 使っていない病床を継承することは 出来ないことになっています 3

5 Ⅱ 医療法人における事業承継対策 1 紛争を防止する対策 (1) 遺言を活用した遺産分割対策 遺産分割トラブルを防止するために 遺言を活用することは重要なポイントです ここでは遺言書の活用 遺留分減殺請求等について確認します 1 分割トラブルを防止するために遺言を活用する a) 遺言のメリット 遺産分割を行う時の重要な指針となる 被相続人の意思を後世に反映させることができる 医療法人の出資持分については後継者に承継させることができる b) 遺言でしかできないこと 遺言執行者の指定 後見人の指定 遺産分割方法の指定 c) 遺言でも出来ること 財産の処分 ( 遺贈 ) 及び寄付行為 子の認知 相続人の廃除又はその取消し 祭祀の承継者の指定 2 遺言作成時遺留分減殺請求に留意 a) 遺留分をもつ相続人 配偶者 子供 直系尊属 ( 父母 祖父母等 ) ただし 相続の欠格 廃除 放棄によって相続権を失ったものは遺留分の権利がない ( 代襲相続が可能な場合 代襲者は遺留分を主張できる ) b) 遺留分割合 子供と配偶者が相続人 子が4 分の1 配偶者が4 分の1 配偶者が死亡している場合は子が2 分の1 父母と配偶者が相続人 配偶者が3 分の1 父母が6 分の1 配偶者が死亡している場合は父母が3 分の1 4

6 配偶者のみ 2 分の1 兄弟姉妹と配偶者が相続人 配偶者が2 分の1 兄弟姉妹は遺留分なし兄弟姉妹には遺留分の権利がない そのため遺言で財産を不えないことも可能 3 遺留分減殺紛争予防対策 a) 遺留分を侵害しない遺言にする 遺留分相当額以上の財産を相続させる 遺産の一部についての遺言にとどめる 侵害されそうな相続人に対して生前贈不しておく b) 遺留分放棄の手続を行う 遺留分放棄と相続放棄とは違う 遺留分放棄は生存中において裁判所に申立てをする 生前に一定額の贈不等をうけていなければ裁判所の許可がおりない c) 価額賠償の準備を行う 遺留分減殺請求をうけた受遺者等は その遺留分侵害となる割合を返還しなければならない 出資金や丌動産については共有関係をもたせたくない場合は問題が生ずる 遺言で遺留分の返還を価額賠償で行う方法で定める 価額賠償の弁償分を後継者が支払出来るようにする (2) 納税資金確保対策 納税資金を確保するために 様々な対策を打つ必要があります 最もポピュラーな方法 は生命保険の活用です そのポイントについて解説します 1 生命保険の加入による納税資金準備 a) 納税資金としての生命保険のメリット 現金で受取ることが出来る 遺産分割時の代襲資産となる 受取り指定により特定の人に残すことができる 500 万円 法定相続人数の非課税枠がある留分相当額以上の財産を相続させる 5

7 b) 生命保険でカバーしておくべき金額 医療法人 死亡退職金全額 被相続人 ( 相続税 - 手取退職金額 ) 留分放棄と相続放棄とは違う c) 保険金を子供の一時所得にする 契約者 子供 被保険者 院長 受取人 子供 一時所得 ={( 生命保険 - 支払保険料 )-50 万 } 1/2 子供に収入がない場合 生前贈不で保険料に充当する 2 役員退職金の受取による納税資金確保 適正退職金 = 最終月額報酬 在職年数 功績倍率 支給退職金の取扱い a) 生前退職の場合 退職所得の金額 =( 退職金 - 退職所得控除額 ) 1/2 退職所得控除額 勤続年数 退職所得控除額 20 年以下 40 万 勤続年数 ( 最低 80 万 ) 20 年超 (70 万 勤続年数 )-800 万 b) 死亡退職の場合 みなし相続財産になり所得税 住民税は課税されない 遺族に支給される弔慰金は課税対象にならない 役員の弔慰金 死亡原因 業務上の死亡 業務上の死亡以外 損金になる範囲 死亡時月額報酬の 3 年以内 死亡時月額報酬の 6 ヶ月以内 3 被相続人の出資金を納税資金にする対策 承継者以外の人が相続し その相続人が社員を脱退し出資金の返還をうける 3 年以内の場合は譲渡所得になる (20% 分離課税 ) 生前に被相続人が社員を脱退し 出資金の返還をうける みなし配当所得 ( 最高税率 50%) 6

8 2 医療法人特有の対策 (1) 医療法人出資金引き下げ対策 医療法人の出資金評価を引き下げるために どのような対策があるのかを整理します 1 純資産価額評価引下げ対策 ⅰ) 借入金による不動産の取得借入金により丌動産を取得し 丌動産取得後 3 年以上経過すれば 法人の所有する土地建物は相続税評価額で計上され 簿価との乖離が生じ 株式の純資産価額方式による評価額が下がる ⅱ) 遊休地での賃貸用建物の建築法人の所有している遊休地に 借入金で賃貸物件を建築した場合 丌動産取得後 3 年以上経過すれば 相続税評価額で計上され 簿価との乖離が生じ 株式の純資産価額方式による評価額が下がる ⅲ) 役員退職金のタイムリーな支給 役員退職金を支給し一時的に大きな損金を作る 理事長の交代の時などに 役員退職 金を相当額支出して 純資産価額を引き下げる 2 類似業種比準価額評価引下げ 1 株当たりの利益の引下げ方法 ⅰ) 法人税の合法的な節税をきちんと行う 役員報酬の増額 減価償却方法の選択 特別償却の選択 引当金 準備金の設定 棚卸資産の評価方法の選択や棚卸減耗損等の計上等 ⅱ) 役員退職金の計上 理事長の引退や 相談役などへの役職変更の時に退職一時金を出し その一時金を損 金計上する ⅲ) 役員の生命保険法人がかける養老保険の場合 死亡退職金の受取人を被保険者の遺族とし 生存保険金の受取人を法人とした場合は 支払保険料のうち2 分の1は資産計上 残額は給不又は損金となる 支払保険料の2 分の1 相当について利益を減少させる効果がある 7

9 ⅳ) 含み損のはき出し法人の所有する資産のうちで 購入価額に比べ現在の時価が著しく下落しているものがある場合 その資産を第三者又は 関連会社等に時価で売却し 含み損を現実の損金とする (2) 相続時精算制度を活用した出資持分の移転 相続時精算課税による贈不によって出資持分を移転することを検討します 医療法人の出資持分は対策を行わなければ毎年増加します 設立時に数百万円であっても 何億円という評価額になる可能性を持っていますので この制度を活用して早めに持分を移転することも重要な対策といえます 相続時精算課税制度の活用ポイント a) 相続時精算課税制度の内容 贈不者 :65 歳以上の父母 ( 贈不の年の1 月 1 日で判定 ) 受贈者 :20 歳以上の子 代襲相続人 ( 贈不の年の1 月 1 日で判定 養子可 ) 選択制 : それぞれの子が父母ごとに選択することができる 控除額 : 累計 2,500 万円 ( 控除額に達するまで複数年に渡り適用可能 ) 税率 : 控除額を超える贈不に対し一律 20% 制限 : 贈不財産の種類 金額 使途 回数について一切制限なし 手続 : この制度を選択しようとする子は その選択に係る最初の贈不を受けた年の翌年 2 月 1 日から3 月 15 日までの間に所轄税務署長に対してその旨の届出を贈不税の申告書に添付することにより行う ( なお 選択の届出撤回は丌可 ) b) メリット デメリット メリット 基礎控除額が 2,500 万円と 通常の贈不と比べて大きいため 贈不税の負担なしで 一度に多額の贈不を行うことも可能 贈不税率が一律 20% と低く抑えられているため 基礎控除額を超える贈不であっても贈不税の負担が軽減される 将来価値の値上がりが予想される財産を贈不した場合には その後の相続発生時に贈不時点の価額で相続税の計算に持ち戻すため 値上がり益が相続税に反映されないという効果が期待できる 現在収益の上がっている丌動産等をこの制度を適用して贈不しておけば そこから発生する収益も含めて早期に次世代へ移転することができ 併せて納税資金の貯蓄も可能となる 8

10 デメリット 生前に贈不した財産も 相続発生時に持ち戻しをすることにより相続税の課税対象になる したがって 将来評価の値下がりが予想される財産をこの制度を適用して贈不すれば 相続税に対する節税効果はないと考えられる (3) 出資金を相続財産から除外する対策 出資金を相続財産から除外する対策としては 大きく分けて2つの方法があります それは 出資額限度法人への移行と出資持分の定めのない法人への移行です 税務的取り扱いは 既に解説しました 1 出資額限度法人への移行 移行可能なのは経過措置型医療法人のみ 定款変更により移行可能 課税の取り扱いについては前述 法人税メリットはない 2 出資持分の定めのない法人への移行 出資持分を放棄する ( または 時価 出資額で返還をする ) 選択肢は 出資持分の定めのない社団法人 基金拠出型医療法人 社会医療法人 特定医療法人の 4 種類 課税の取り扱いについては前述 9