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要旨 本研究の目的は 大学女子長距離選手の最大酸素摂取量 vv O 2 max および OBLA の縦断的な変化を検討することであった 全日本大学女子駅伝対校選手権大会に出場した 10 名を含む 25 名が 最大酸素摂取量 vv O 2 max および OBLA を入学時と入学 1 年後に測定した 主に次のことが明らかとなった 1 最大酸素摂取量は 入学時 597 ± 44 ml/kg/ 分に対して 入学 1 年後では 615 ± 37 ml/kg/ 分と有意に増加した (p < 01) 2 vv O 2 max( 最大酸素摂取量が出現する走速度 ) は 入学時 2932 ± 165 m/ 分に対して 入学 1 年後では 3016 ± 128 m/ 分と有意に増加した (p < 01) 3 vobla(obla に相当する走速度 ) に有意な変化は 見られなかった ( 入学時 :2571 ± 251 m/ 分 vs 入学 1 年後 :2625 ± 150 m/ 分 ) 4 入学時に 最大酸素摂取量 vv O 2 max あるいは vobla が低値のランナーの方が 入学 1 年後にそれぞれの値をより改善する傾向がうかがえた キーワード : 大学女子長距離選手 最大酸素摂取量 vvo 2 max OBLA 1 はじめに陸上長距離選手をはじめ持久的競技種目を専門とする選手は 有酸素性能力の高いことがよく知られており ( 山地, 2001) 最大酸素摂取量や血中乳酸濃度の 4mmol/L に相当する OBLA (Onset of Blood Lactate Accumulation) は それを評価する指標として以前から用いられてき た また 最近では最大酸素摂取量に経済性 (running economy) を加味した vvo 2 max( 最大酸素摂取量が出現したときの走速度 ) も 持久的競技種目の成績と関連性が高いこと (Billat ら, 1994; 山地, 1998) から 有酸素性能力の有力な指標とされている 日本人の大学女子長距離選手の有酸素性能力や有酸素性能力と競技記録との関係について - 139 -

は 最近でもいくつかの報告がなされているが ( 髙橋ら, 2012; 足立と豊岡, 2013; 原村ら, 2014) 有酸素性能力の経年的変化を明らかにした研究は少ない 仲田ら(1994) は 大学女子長距離選手 3 名 (3000m 競技記録 :10 分 36 秒 ~11 分 11 秒 最大酸素摂取量 :450~523ml/kg/ 分 ) を対象に 2 年間の持久的トレーングが心形態 心機能に及ぼす影響を検討し 最大酸素摂取量の平均増加率が 94% だったことを明らかにした しかしながら 全国レベルの大学 女子長距離選手の vvo 2 max や OBLA を含んだ有酸素性能力の経年変化に関しては まだ十分に研究されていない 一方 大学女子長距離選手は 入学前にすでにかなりの持久的トレーニングを積んでいることから トレーナビリティがそれほど高くないことも推測され 大学入学時から縦断的に有酸素性能力の変化を検討することは意義があると考えられる そこで 本研究の目的は 全日本大学女子駅伝対校選手権大会への出場経験者を含む大学女子長距離選手を対象に 最大酸素摂取量 vv O 2 max および OBLA について 縦断的に検討することであった 2 方法 1) 対象 2001 年度から 2015 年度に本学に入学した女子長距離選手で 大学に入学した年の 6 月下旬から 8 月上旬 および 1 年後の同時期に最大酸素摂取量 vv O 2 max 及び OBLA の測定を実施した 25 名であった この中には全日本大学女子駅伝対校選手権大会に出場した選手が 10 名含まれていた 入学した年の年齢 身長 体重 および BMI は 183 ± 05 歳 1587 ± 67 cm 485 ± 59kg および 192 ± 16 であった 練習は 年間を通して 概ね週 6 日 朝と午後の 2 回行われていた 月間走行距離は 時期や個人によって差はあるものの 練習実績表からおおよそ 300km 程度と推測された 2) 測定方法と測定項目 (1) 最大酸素摂取量の測定トレッドミルを用いて 最大漸増負荷試験を行った 走速度 220m/ 分 傾斜角度 2% で運動を開始し 以後 1 分毎に速度を 10m/ 分ずつ漸増しながら 疲労困憊まで走行させた 走行中の酸素摂取量 二酸化炭素排出量 換気量 および呼吸交換比は 自動呼気ガス分析器 (AE300s あるいは AE310S: ミナト医科学社製 ) によって呼気ガス収集法で求めた 最大酸素摂取量の判定基準は 1 酸素摂取量に leveling off がみられること 2 心拍数が 180 拍 / 分以上であること 3 呼吸交換比が 11 を超えていることの 3 つの条件のうち 2 つ以上を満たすこととした vvo 2 max は Billat ら (1994) の方法にしたがい 最大酸素摂取量が出現した時の走速度 - 140 -

とした 心拍数は 無線心拍数測定装置 (S610i:POLAR 社製 ) を用いて測定した (2)OBLA の測定トレッドミルを用いて 4~6 段階の速度での走行を各段階それぞれ 3 分間行った 初期速度は 各個人の持久的能力を考慮して 180m/ 分 200m/ 分 あるいは 220m/ 分に設定した 傾斜角度は 2% とした 初期速度での 3 分間の走行後 簡易血中乳酸測定器 ( ラクテートプロ LT-1710: アークレイ社製 ) を用いて 血中乳酸濃度を測定した 以後 血中乳酸濃度が少なくとも 4mmol/L を超えるまで 走速度を 1 段階あたり 20m/ 分ずつ漸増しながら 3 分間走行を繰り返した 走行中は 無線心拍数測定装置 (S610i:POLAR 社製 ) を装着して心拍数を測定した 血中乳酸濃度が 4mmol/L に相当する走速度を vobla 血中乳酸濃度が 4mmol/L に相当する心拍数を HR-OBLA とした 測定は大学入学から 3~4 か月を経過した時期に実施されたが 本論文では入学した年に実施した測定を 入学時 その 1 年後の測定を 入学 1 年後 と記述することとした 測定中 室温が 21~23 相対湿度が 55~65% の範囲になるように設定した なお 本研究は ヘルシンキ宣言に基づき行われた 測定に先立ち インフォームド コンセントとして 被験者に測定目的 具体的な内容 および方法を説明し 参加の同意を得た 3) 統計分析それぞれの値は 平均 ± 標準偏差で表した 各測定項目の入学時と入学 1 年後の比較には 対応のある t 検定を用いた 有意水準は p<005 とした 3 結果 1) 身体的特徴表 1 は 入学時と入学 1 年後の身体的特徴を表している 入学時の身長 体重 および BMI はそれぞれ 1587 ± 56 cm(1473~1671 cm) 485 ± 59kg(406~652 kg) および 192 ± 16 (162~243) であった 入学 1 年後はそれぞれ 1590 ± 56 cm(1470~1672 cm) 488 ± 56 kg (400~651 kg) および 192 ± 15(162~241) で 入学時と比較して有意差は見られなかった - 141 -

表 1 入学時と入学 1 年後の身体的特徴 入学時 入学 1 年後 身長 cm 1587±56 1590±56 NS 体重 kg 485±59 488±56 NS BMI 192±16 192±15 NS 2) 最大酸素摂取量 vvo 2 max および最大心拍数 表 2 は 最大漸増負荷試験で得られた入学時と入学 1 年後の最大酸素摂取量 vvo 2 max および最大心拍数を表している 入学時の最大酸素摂取量は 597 ± 44 ml/kg/ 分 (508~670 ml/kg/ 分 ) であったが 入学 1 年後には 615 ± 37 ml/kg/ 分 (543~671 ml/kg/ 分 ) と有意に増加した 表 2 入学時と入学 1 年後の最大酸素摂取量 vvo2max 最大心拍数 入学時 入学 1 年後 最大酸素摂取量 ml/kg/ 分 597±44 615±37 ** vvo 2 max m/ 分 2932±165 3016±128 ** 最大心拍数 拍 / 分 189±9 189±9 NS **p <01 vv O 2 max についても 入学時の 2932 ± 165 m/ 分 (260~320m/ 分 ) から 3016 ±128 m/ 分 (270 ~320 m/ 分 ) を示し 有意に増加した 一方 最大心拍数は 入学時が 189 ± 9 拍 / 分 (164~203 拍 / 分 ) 入学 1 年後が 189 ± 9 拍 / 分 (164~205 拍 / 分 ) で変化は見られなかった 3)OBLA 表 3 は 入学時と入学 1 年後の vobla および HR-OBLA を表している vobla は 入学時 2571 ± 250 m/ 分 (200~308 m/ 分 ) 入学 1 年後 2625 ± 150 m/ 分 (237~291 m/ 分 ) で 有意差は見られなかった 表 3 入学時と入学 1 年後の OBLA 入学時 入学 1 年後 vobla m/ 分 2571±250 2625±150 NS HR-OBLA 拍 / 分 169±9 170±9 NS HR-OBLA は 入学時 169 ± 9 拍 / 分 (153~190 拍 / 分 ) 入学 1 年後 170 ± 9 拍 / 分 (152~186 拍 / 分 ) で 有意な差は示されなかった - 142 -

4 考察 1) 最大酸素摂取量日本の大学女子長距離選手の最大酸素摂取量については 最近でもいくつかの報告がなされている 原村ら (2014) は 実業団および大学所属の女子長距離選手の最大酸素摂取量について 記録上位群 (5000m:16 分 20 秒 ± 136 秒 ) と下位群 (5000m: 17 分 01 秒 ± 139 秒 ) に分け 上位群 (n=8 年齢 257 ± 30 歳 ) は 664 ± 51 ml/kg/ 分 下位群 (n=9 年齢 :203 ± 11 歳 ) は 662 ± 45 ml/kg/ 分であったと報告した 高橋ら (2012) は 全日本大学女子駅伝にエントリーされた 18 名 (205 ± 05 歳 3000m: 9 分 42 秒 (9 分 10 秒 ~10 分 21 秒 )) の長距離選手の最大酸素摂取量が 631 ± 09 ml/kg/ 分 (588~719 ml/kg/ 分 ) であったと報告している また 足立と豊岡 (2013) は 日本インカレ入賞者 6 名を含む 3000m の競技記録が 9 分 47 秒 ± 24 秒 (9 分 10 秒 ~10 分 23 秒 ) の大学女子中長距離選手 19 名の最大酸素摂取量が 6130 ± 552 ml/kg/ 分 (5113~7193 ml/kg/ 分 ) と報告した これらの先行研究と本研究を比較すると 本研究の被験者の最大酸素摂取量 ( 入学 1 年後 ) は 実業団選手を含んだ原村ら (2014) の被験者よりも低かったが 足立と豊岡 (2013) の大学女子長距離トップレベル選手を含む被験者には匹敵する値を示していた 本研究において 入学 1 年後の最大酸素摂取量は 入学時と比較して有意に増加した このことから 高校時代から継続的な持久的トレーニングを行っていた大学女子長距離選手においても 最大酸素摂取量の改善が見られることが分かった 平均で 18 ml/kg/ 分 (-40~70 ml/kg/ 分 ) 増加し 32%(-69 ~116%) の改善率であった これは トレーニングによる最大酸素摂取量改善の上限と考えられている 25~30%( 山地と横山, 1987) よりも 改善の程度はかなり低い また 本研究の被験者よりも 初回測定時の最大酸素摂取量が低い女子長距離選手の改善率 94%( 仲田ら, 1994) よりも低かった トレーニングによる最大酸素摂取量の改善の大きさは トレーニング前の日常生活における活動水準 トレーニング前の個人の最大酸素摂量とその個人がもって生まれた最大酸素摂取量の資質的上限の差によって決定される ( 山地, 2001) 本研究の大学女子長距離選手は 入学前にすでによく鍛錬されていると推測されるので これまでの持久的なトレ-ニングにより すでに最大酸素摂取量がかなり改善されている可能性が高い したがって 本研究の改善率は概ね妥当だと考えられる 今回の被験者は 入学時の最大酸素摂取量がおおよそ 50 ml/kg/ 分前半から 60 ml/kg/ 分後半と比較的広い範囲に分布していたので 入学時の最大酸素摂取量の大きさが入学後の最大酸素摂取量の変化の程度とどのように関係するかを検討してみた 図 1 は 入学時の最大酸素摂取量と 1 年後の変化量の関係を示している 入学時 最大酸素摂取量が相対的に低いランナーの方が 入学 1 年後により増加する傾向がうかがえた - 143 -

入学 1 年後の VO 2 max- 入学時の VO 2 max (ml/kg/ 分 ) 8 6 4 2 0 2 4 6 8 50 55 60 65 70 入学時のVO2max (ml/kg/ 分 ) 図 1 入学時の V O 2 max と 1 年後の V O 2 max の変化量との関係 (n=25) 2)vV O 2 max 足立と豊岡 (2013) の最近の研究では 大学女子中長距離選手の vv O 2 max が 312 ±20 m/ 分 (280~334 m/ 分 ) であったと報告している また 高橋ら (2012) の研究では 3130 ± 43 m/ 分 (287~345 m/ 分 ) で 足立と豊岡 (2013) の被験者と非常に類似した値を報告している 本研究の被験者は 入学時 2932 ± 165 m/ 分 (260~320 m/ 分 ) 入学 1 年後 3016 ± 128 m/ 分 (270~320 m/ 分 ) であったので 先行研究よりも入学時で 20m/ 分 入学 1 年後で 10m/ 分程度 低いことが分かった しかしながら 本研究では傾斜角度を 2% に設定して測定したのに対して 先行研究では 0% だったので その点を考慮すれば 先行研究との走速度の差はより小さくなると考えられる 本研究の結果から vv O 2 max は入学時と比較して入学 1 年後に有意に増加することが示された 平均で 84m/ 分 (-100~500 m/ 分 ) 増加し 30%(-33~185%) の改善率であった 本研究の被験者のように 少なくとも高校時代にはすでに中長距離の持久的トレーニングを行っていた大学 女子長距離選手においても 入学後の vvo 2 max に改善が見られることが明らかになった Bragada ら (2010) は 男子 3000mランナー 18 名 ( 年齢 :20 ± 3 歳 3000m: 9 分 5 秒 ± 22 秒 ) を被験者として 2 シーズン (1 年 8 ヶ月 ) にわたり 有酸素性能力の尺度に関する縦断的な研究を行っ た その結果 vvo 2 max は 330m/ 分から 1 年後に 67m/ 分増加し 20% の改善率であったことを報告した 本研究と被験者に性差の違いはあるが ほぼ同程度の変化を示していた vvo 2 max を改善するには vvo 2 max 付近 つまり高い走速度でのトレーニングが効果的である 本研究の測定時期は トラック シーズン終盤の 6 月下旬から 8 月上旬であった 指導者の内省報告からも この時期は比較的高い走速度でのトレーニングが高頻度で行われた可 能性があり このことが vvo 2 max 改善の一部に関与しているかもしれない 図 2 は 入学時の vv O 2 max と 1 年後の変化量の関係を示している 入学時に相対的に低値を示したランナーの方が 入学 1 年後に増加する傾向がうかがえた - 144 -

入学 1 年後の vvo 2 max- 入学時の vvo 2 max (m/ 分 ) 80 60 40 20 0 20 40 240 260 280 300 320 340 入学時のvVO2max (m/ 分 ) 図 2 入学時の vv O 2 max と 1 年後の vv O 2 max の変化量との関係 (n=25) 3)vOBLA 足立と豊岡 (2013) は 大学女子中長距離選手の vobla について 284 ± 19 m/ 分 (251~ 312 m/ 分 ) と報告している また 原村ら (2014) は競技成績上位群で 2762 ± 116 m/ 分 下位群で 2665 ± 82 m/ 分で 群間に有意差が見られたことを明らかにした 本研究では入学時 2571 ± 250 m/ 分 (200~308 m/ 分 ) 入学 1 年後 2625 ± 150 m/ 分 (237~291 m/ 分 ) であったので 先行研究の被験者よりも 入学時でおおよそ 10~27 m/ 分 入学 1 年後で 4~22 m/ 分ほど低値であることが分かった 傾斜角度の相違を考慮しても vobla は vv O 2 max 以上に本研究と先行研究との間に相違のあることが明らかになった 最大酸素摂取量 vv O 2 max が入学 1 年後に有意な増加を示したのに対して vobla に変化は見られなかった 前述の Bragada ら (2010) の男子 3000m ランナーを被験者とした縦断的な研究においても 本研究の結果と同様で 2950 ± 233 m/ 分から 2933 ± 267 m/ 分と増加 しなかった vobla の改善には vv O2 max よりも低い vobla 付近での走速度で より長時間のトレーニングが有効である ( 八田, 2009) このことから考えると vobla に変化が見られなかったひとつの可能性として すでに述べたように直近のトレーニング内容が影響しているのかもしれない しかしながら 本研究では 指導者からの内省報告は受けているものの 選手のトレーニング内容 ( 強度 時間 頻度等 ) を客観的に分析していないので この点については推論の域を出ない 図 3 は 入学時の vobla と 1 年後の変化量の関係を示している 入学時に相対的に低値を示したランナーの方が 入学 1 年後に増加する傾向がうかがえた - 145 -

入学 1 年後の vobla- 入学時の vobla (m/ 分 ) 80 60 40 20 0 20 40 180 200 220 240 260 280 300 320 入学時のvOBLA (m/ 分 ) 図 3 入学時の vobla と 1 年後の vobla の変化量との関係 (n=25) 5 まとめ 以上より 大学女子長距離選手の最大酸素摂取量 vv O 2 max および OBLA の縦断的な変化 を検討して 主に次のことが明らかになった 1 最大酸素摂取量は 入学時 597 ± 44 ml/kg/ 分に対して 入学 1 年後では 615 ± 37 ml/kg/ 分と有意に増加した (p < 01) 2 vv O 2 max( 最大酸素摂取量が出現する走速度 ) は 入学時 2932 ± 165 m/ 分に対して 入学 1 年後では 3016 ± 128 m/ 分と有意に増加した (p < 01) 3 vobla(obla に相当する走速度 ) に有意な変化は 見られなかった ( 入学時 :2571 ± 251m/ 分 vs 入学 1 年後 :2625 ± 150m/ 分 ) 4 入学時に 最大酸素摂取量 vv O2 max あるいは vobla が低値のランナーの方が 入学 1 年後にそれぞれの値をより改善する傾向がうかがえた 参考文献 足立哲司 豊岡示朗 (2013) 大学女子中長距離選手の競技記録と V O2max/kg vv O2max OBLA スピードとの関係 大阪体育大学紀要,44:1-10 Billat V, Renoux JC, Pinoteau J, Petit B, Koralsztein JP (1994) Reproducibility of running time to exhaustion at V O2max in subelite runners Med Sci Sports Exerc 26:254-257 Bragada, J A, Santos, P J, Maia, J A, Colaco, P and Barbosa, T M (2010) Longitudinal study in 3000m male runners: relationship between performance and selected physiological parameters J Sports Sci & Med, 9: 439-444 - 146 -

仲田秀臣 三村寛一 作山欽治 田中喜代次 宮本忠吉 前田如矢 (1994) 女子長距離選手の持久的トレーニングが心形態 心機能に及ぼす影響 -2 年間の経年変化 -Ann Physiol Anthrop, 13:1-8 八田秀雄 (2009) 乳酸と運動生理 生化学 市村出版 : 東京原村未来 高井洋平 松村勲 奥島大 福永裕子 隅野美砂輝 山本正嘉 前田晃 (2014) 女子長距離選手との比較からみたマラソン世界選手権入賞経験のある女子選手の形態および生理学的特性 スポーツパフォーマンス研究,6:99-112 高橋篤志 足立哲司 山崎大樹 豊岡示朗 (2012) 大学女子長距離選手の競技記録と最大酸素摂取量および最大酸素摂取量で走れるスピードとの関係 大阪総合保健大学紀要,7:95-103 山地啓司 (1998) 最高有酸素的ランニング速度 (vv O2max) の意義と評価 日本運動生理学雑誌,5:89-99 山地啓司 (2001) 改訂最大酸素摂取量の科学 杏林書院 : 東京 山地啓司 横山泰行 (1987) 持久性トレーニング ( 強度 時間 頻度 期間 ) の最大酸素摂取量への影響 体育学研究 32:167-179 - 147 -

Abstract The purpose of the present study was to investigate longitudinal changes in maximal oxygen uptake (V O 2 max), velocity at maximal oxygen uptake (vv O 2 max), and onset of blood lactate accumulation (OBLA) in university female long-distance runners In this study, 25 university female long-distance runners, including 10 runners who participated in the All-Japan University Women s Ekiden, were assessed at their first and second years in university The following parameters were measured at each time point: V O 2 max, vv O 2 max, and OBLA The results were as follows: 1 V O 2 max increased significantly from 597 ± 44 to 615 ± 37 ml/kg/min (p < 01) 2 vv O 2 max increased significantly from 2932 ± 165 to 3016 ± 128 m/min (p < 01) 3 No significant difference in velocity at OBLA (vobla) was observed (1 year vs 2 years in university: 2571 ± 251 vs 2625 ± 150 m/min) 4 Lower V O 2 max, vv O 2 max, or vobla tended to be associated with better aerobic capacity 1 year later in the runners Key words: university female long-distance runner, V O 2 max, vv O 2 max, OBLA - 148 -