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ラテックス凝集法による自動分析用抗梅毒抗体試薬の有用性の検討 高野弘紀, 伊瀬郁, 柳川義勢 Evaluation of utility of reagent for anti- syphilis antibodies using a latex agglutination on an automatic analyzer. Hiroki TAKANO,Iku ISE and Yoshitoki YANAGAWA 東京都健康安全研究センター研究年報第 58 号別刷 2007

ラテックス凝集法による自動分析用抗梅毒抗体試薬の有用性の検討 高野弘紀 *, 伊瀬郁 *, 柳川義勢 * Evaluation of utility of reagent for anti- syphilis antibodies using a latex agglutination on an automatic analyzer. Hiroki TAKANO *,Iku ISE * and Yoshitoki YANAGAWA * Keywords: 梅毒 syphilis, STS 法 serologic test for syphilis method, TP 法 TP method, ラテックス凝集法 latex agglutination 緒言梅毒は Treponema pallidum ( 以下 TP と略す ) を病原体として性行為等により感染する性感染症である. この疾患は, 戦後ペニシリンの出現により著明に減少したが,1960 年代後半に日本を含め世界的な再流行が見られた 1). さらに Human immunodeficiency virus をはじめとする他の性感染症との合併症にもなりやすいので本疾患の早期発見, 早期治療は重要である 2). しかし,TP は培養が不可能なため従来より血清学的検査による抗体検査が行われている. この検査法はウシ心筋から分離精製したリン脂質を抗原として用いる STS 法と TP の菌体成分を抗原として用いる TP 法とに分けられる.STS 法は, 治療効果を反映するが生物学的偽陽性や抗体が過剰に存在するとかえって反応が弱くなるプロゾーン現象の問題があるため特異性に欠ける. また,TP 法は特異性は高いが治癒後も抗体を長期間にわたって検出することから, 一般的には両者を組み合わせて用いている. しかし, これらの方法は用手法の凝集法であるため検査術者の熟練度や凝集判定時における個人差による誤差が避けられない. そこでより迅速でかつ特異性の高い方法として, ポリスチレンラテックス粒子に脂質抗原をコーティングした RPRLA 法とポリスチレンラテックス粒子に TP 菌体成分をコーティングした TPLA 法が開発された 3). 今回我々は, 自動分析装置で測定可能なラテックス凝集法を原理とした抗梅毒抗体試薬を用いて測定を行い, その有用性について検討したので報告する. 材料及び方法 1. 検査材料 1) 血清検体 :2000 年 5 月 ~2006 年 3 月の期間に特別区保健所より梅毒抗体検査依頼のあった血清検体 151 検体を使用した. 2) 精度管理検体 : 都区衛生検査機関の精度管理調査で血 清精度管理用として2005 年,2006 年度に用いた梅毒抗体測定用検体 10 検体を使用した. 2. 測定方法 1) ラテックス凝集法ラテックス凝集法には市販されている試薬キットのメディエース RPR( 極東製薬 ) およびメディエース TPLA( 極東製薬 ) を用いて行った. 2) 従来法従来法の試薬には RPR テスト三光 ( 三光純薬 ) およびセロディア-TP( 富士レビオ ) を用いて行った. 3) 測定機器ラテックス凝集法の試験には日立 7150 型自動分析装置を用いた. また, 本装置におけるメディエース RPR 法 ( 以下 RPRLA 法と略す ), メディエース TPLA 法 ( 以下 TPLA 法と略す ) のパラメーターを表 1に示した. 表 1. 日立 7150における測定パラメーター項目 RPRLA.TPLA 単位 R.U T.U 検体量 20μL 16μL 標準血清 20μL 1 16μL 2 緩衝液量 180μL 175μL 懸濁液量 60μL 25μL 反応時間 14 分 14 分測定波長 700nm 700nm 1: 標準血清 5 濃度 (0.0, 1.1, 2.1, 4.1, 7.8) 2: 標準血清 5 濃度 (0.0, 18.0, 37.0, 118.0, 242.0) 4) 判定基準ラテックス凝集法における判定基準は, 試薬の添付資料に従った. すなわち RPRLA 法の判定基準は 1.0(R.U) 未満を陰性,1.0(R.U) 以上を陽性とした.TPLA 法の判定 * 東京都健康安全研究センター微生物部病原細菌研究科 169-0073 東京都新宿区百人町 3-24-1 * Tokyo Metropolitan Institute of Public Health 3-24-1, Hyakunin-cho, Shinjuku-ku, Tokyo 169-0073 Japan

基準は 0.0~10.0(T.U) 未満を陰性,10.0~20.0(T.U) 未満を判定保留,20.0(T.U) 以上を陽性とした. 結果 1. ラテックス凝集法の基礎的検討成績試薬キットに添付されているコントロール血清を用いて行った測定機器および実験手法における基礎的検討結果を表 2に示した. コントロール血清の測定値は RPRLA 法, TPLA 法ともメーカの示した表示値およびその許容範囲内に測定でき, 使用機器および手法に問題のないことを確認した. また,STS 法および TP 法で高い抗体価を示した検体を段階的に希釈してラテックス凝集法で測定した結果, RPRLA 法の直線性は5.8R.U まで,TPLA 法の直線性は 287.0T.U まで認められた. つぎに,3 濃度の血清を試料 A, 試料 B, 試料 C として検討した同時再現性の結果を表 3に示した. 低濃度になるに従い変動係数が高くなる傾向があるがほぼ良好な結果が得られた. 表 2. メディエースコントロール表示値と測定値 RPRLA コントロール表示値 ( 許容範囲 ) 測定値陰性コントロール 0.1(±0.3) 0.0 陽性コントロール 2.3(±0.5) 2.2 97.5%, 陰性一致率 100.0%) であった. 一方,TPHA 法に対する TPLA 法の一致率は97.4%( 陽性一致率 97.4%, 陰性一致率 97.1%) であった. RPR カード法において陰性と判定された 24 検体は, RPRLA 法の測定値において 0.0~0.9(R.U) と全て陰性の値を示した. しかし,RPR カード法で 1 倍の抗体価を示した 19 検体中 3 検体においては RPRLA 法が陰性の結果となった.TPHA 法の陰性の結果を示した 34 検体は,TPLA 法の測定値において 1 検体だけ 48.5 (T.U) と陽性の値を示した. また,TPHA 法で陽性の結果を示した 117 検体のうち TPHA 抗体価 80 倍を示した 2 検体は判定保留,TPHA 抗体価 160 倍を示した 1 検体は陰性と判定された. RPRLA 測定値 (R.U) 160.0 N=151 140.0 y=1.235x+4.054 120.0 r=0.820 100.0 80.0 60.0 40.0 20.0 TPLA 陽性コントロール 表示値 ( 許容範囲 ) 測定値 A 22.7(±7.6) 22.3 B 77.1(±12.0) 76.9 0.0 0 100 200 300 RPR カード法抗体価 表 3. 同時再現性 RPRLA (n=10) TPLA(n=10) 試料 A 試料 B 試料 C 試料 A 試料 B 試料 C 平均 1.9 3.5 7.2 2.4 21.3 86.8 標準偏差 0.2 0.3 0.5 0.3 1.8 5.4 変動係数 10.5 8.6 6.9 12.5 8.4 6.2 2. 従来法とラテックス凝集法との相関性従来法である RPR 法 ( 以下 RPR カード法と略す ) に対する RPRLA 法との相関と従来法の TP 法 ( 以下 TPHA 法と略す ) に対する TPLA 法との相関を図 1と図 2に示した. 従来法とラテックス凝集法との相関性は RPRLA 法において相関係数 r=0.820,tpla 法において相関係数 r=0.704という結果であった. 3. 従来法とラテックス凝集法測定値との比較 RPR カード法の抗体価に対する RPRLA 法の測定値の分布を表 4に,TPHA 法の抗体価に対する TPLA 法測定値の分布を表 5に示した. RPR カード法と RPRLA 法の成績の比較を表 6に, TPHA 法と TPLA 法の成績の比較を表 7に示した.RPR カード法に対する RPRLA 法の一致率は94.0%( 陽性一致率 TPLA 測定値 (T.U) 図 1.RPR 抗体価とRPRLA 測定値との相関 18000.0 N=151 16000.0 y=1.422x+920.823 14000.0 r=0.704 12000.0 10000.0 8000.0 6000.0 4000.0 2000.0 0.0 0 5000 10000 15000 20000 25000 TPHA 抗体価図 2.TPHA 抗体価とTPLA 測定値との相関

表 4.RPR カード法の抗体価に対する RPRLA 法の測定値の分布 RPR カード法 ( 抗体価 ) - 検体数 24 RPRLA(R.U) 0.0~0.9 平均値 0.03 標準偏差 0.07 ± 6 0.1~2.5 0.23 0.25 1 19 0.0~2.4 1.24 0.54 2 25 1.1~4.9 1.52 0.22 4 16 1.4~4.4 2.49 0.35 8 10 1.6~11.0 4.24 0.54 16 12 1.8~11.0 5.52 0.89 32 14 4.6~64.0 14.90 4.55 64 16 2.1~96.0 52.51 12.12 128 8 4.9~94.0 88.50 4.42 256 1 67.0 表 5.TPHA 法の抗体価に対する TPLA 法の測定値の分布 TPHA 法 ( 抗体価 ) - 検体数 34 TPLA(T.U) 0.0~48.5 平均値 1.55 標準偏差 3.29 80 5 11.0~84.0 37.34 28.52 160 15 9.9~231.2 97.72 49.91 320 12 78.0~490.7 224.55 123.83 640 23 139.5~1054.5 283.85 55.90 1280 24 78.0~3647.0 1036.63 947.93 2560 13 214.0~3998.8 1244.12 206.50 5120 8 1147.0~10009.3 1942.82 305.70 10240 11 643.2~13822.0 3499.89 571.07 20480 6 1692.0~17098.0 10180.38 4224.30 表 6.RPR カード法と RPRLA 法との比較 RPRLA 法 + ± - 合計 + 118 0 3 121 RPRカード法 ± 0 0 6 6-0 0 24 24 合計 118 0 33 151 表 7.TPHA 法と TPLA 法との比較 TPLA 法 + ± - 合計 + 114 2 1 117 TPHA 法 ± 0 0 0 0-1 0 33 34 合計 115 2 34 151 4. 精度管理検体の他施設の測定値との比較 都区衛生検査機関の精度管理調査でラテックス凝集法を 用いて試験した検査施設 (A 保健所 ) があった. そこで 2005 年と 2006 年に使用した血清精度管理用の検体を RPRLA 法と TPLA 法によりを測定し,A 保健所の測定値と比較した ( 表 8). 使用自動分析器機が同一でないため正確な数値の比較はできないが, センターとA 保健所の成績はほぼ一致していた. また,RPR カード法,TPHA 法で測定した抗体価と RPRLA 法および TPLA 法の測定値の連動性も認められた. 考察自動分析装置を用いて抗梅毒抗体測定試薬の有用性について検討した. 従来法との相関性において RPRLA 法の相関係数 0.820, TPLA 法の相関係数は 0.704 といずれもやや不良だった. 供試した検体は 2000 年から 2006 年と長時間経過しているため, 相関係数が低かった可能性もある. ちなみに, 半年以内の検体 44 検体を用いて行った結果では,RPRLA 法の相関係数 0.920,TPLA 法の相関係数 0.865 と良好な結果が得られている. ラテックス凝集法においては, 検体採取後長期間経過した検体は, 検体中の脂質, 蛋白質の変質や, ブロッキング成分との非特異的吸着 結合を起こす物質に影響を受けることが知られており, また, ラテックス粒子

表 8.2005 年,2006 年に使用した精度管理検体の他施設との測定値の比較 検体 No RPR カード法 RPRLA(R.U) TPHA 法 TPLA(T.U) ( 抗体価 ) センター A 保健所 ( 抗体価 ) センター A 保健所 1-0.0 0.0-0.0 0.0 2 1 1.6 1.7 160 210.5 197.2 3 16 33.5 32.0 160 139.9 131.6 4 1 5.9 5.6 2560 1795.0 1749.0 5-0.0 0.0-0.0 0.0 6 2 3.6 3.9 640 285.5 275.4 7-0.0 0.0-0.0 0.0 8 16 7.9 7.8 320 275.5 259.8 9-0.0 0.0-0.0 0.0 10 4 3.8 4.0 1280 565.5 538.6 の均一な分散を阻害する因子の存在等も報告されている 4). したがって, これら複雑な要因による非特異現象反応を回避するために,TPLA 法で 250(T.U) 以上示した陽性検体については中和試験を行い,TP 抗体陽性であることを確認していくことをメーカ側は指示している. また, 従来法で陰性であった検体の中で TPLA 法が陽性値を示したものがあったが, この理由として検出する抗体の差が考えられる. 今回使用した TPLA 試薬では,IgM 抗体との反応性の良い TP47KDa の抗原を主要抗原として使用している. これにより, 従来の凝集法よりさらに感染初期を捉えることが可能となることが示唆される. 一方, 本検査は免疫化学的検査法であるが, この方法は臨床化学的検査法とは異なる特徴がある. すなわち検量線の多くは曲線であり, 今回測定した RPRLA 標準濃度の検量線においても高濃度領域では直線性が失われていた. さらに, 梅毒抗体陽性の検体には極端な異常高値を示す場合があるので, 本検査において検体測定値が RPRLA 法では 7.0(R.U) 以上,TPLA 法が 250(T.U) 以上示した場合 5 倍希釈を行って再測定を行う方法をメーカ側は推奨している. この方法でデータを求めた場合, 極端に高い値では正確なデータが得られないことになる. しかし, 現状の梅毒抗体検査の意義は陽性検体の正確な定量値を求めるよりもプロゾーン現象や生物学的偽陽性の問題に対処して陰性, 偽陽性を区別していくことができる特異性の高い検査法が重要である. そのためにも, 佐藤ら 5) が提案している方法, すなわち,Ⅰ 型 ( 梅毒陰性 ),Ⅱ 型 ( 梅毒感染初期または BFP),Ⅲ 型 ( 治癒後 ),Ⅳ 型 ( 梅毒感染 ) に分類し, 適時ガラス板法を追加使用するなどにより, 本検査法の有用性を高めていくことが期待できる. また, ラテックス凝集法は試薬キットが汎自動分析機器であるためほとんどの臨床化学で使用している自動分析機器で対応が可能であり, 多数検体処理において迅速性には優れている. しかし, キット試薬や自動分析機器のランニングコスト等を考慮する必要があろう. まとめ 1) 従来法とラテックス凝集法における相関性は RPRLA 法において相関係数 =0.820,TPLA 法において相関係数 =0.704であり TPLA 法の相関性は低かったが, 半年以内の検体を用いて行った結果では,RPRLA 法において相関係数 =0.920,TPLA 法において相関係数 =0.865となり相関性が高まった. 2) 従来法に対するラテックス凝集法の一致率は RPRLA 法では94.0%( 陽性一致率 97.5%, 陰性一致率 100.0%) で, TPLA 法では97.4%( 陽性一致率 97.4%, 陰性一致率 97.1%) と良好であった. 謝辞本検査にあたり自動分析機器を使用さ謝辞本検査にあたり自動分析機器を使用させて頂いた精度管理研究室に対して深謝致します. 文献 1) 中山週一 :IDWR,3(49),10-12,2001. 2) 熊本悦明 : アニムス,6,33-38,2001. 3) 青山紀昭 : 機器 試薬,17,223-227,1994. 4) 片川一之, 木村孝司, 富田真理, 他 : 医学検査,50, 11 689-692,2001. 5) 佐藤千秋, 渡辺麻子, 新井祐司, 他 : 医学検査,52, 11 959-963,2003.