2. 固体ソース ECR プラズマ成膜の原理 図 1 に示すように磁場 B を与えると 電子はローレンツ力を受けて磁力線の周りを回転運動する このとき磁場の強さ 87.5mT に対して 2.45GHz のマイクロ波を加えると共鳴現象が起こりマイクロ波による交播電界により電子は加速される 高速に回転し

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技術報告 固体ソース ECR プラズマ装置の電子デバイス向け保護膜への応用 固体ソース ECR プラズマ装置の電子デバイス向け保護膜への応用 Application of the Solid-Source ECR Plasma System to Barrier Thin Films for Electronic Devices 鳥居博典 Hironori Torii 工博嶋田勝 Dr. Masaru Shimada 要 旨 スマートフォンの高機能化と本体の小型化に伴い内部に搭載されている電子デバイスの高密度化が求められ デバイスの保護方法も従来の金属や樹脂による方法から成膜プロセスを用いた薄膜による保護方法の採用が進んでいる また 保護膜は大気中に含まれる水分からの保護だけではなく薬品に対する保護 摺動部分の保護など様々なデバイスで用いられることから 保護膜用途での成膜装置は今後も大きな需要が見込まれる このような分野への展開を目的として JSW アフティ株式会社が独自技術で開発 販売している固体ソース ECR プラズマ成膜装置の SiN 膜 ZrO 2 膜および Ta 2 O 5 膜の各種膜特性を評価したところ他の成膜方法にくらべ優れた特性を示す結果が得られた Synopsis The increasing functionality and compactness of smartphones require higher package density of the electronic devices mounted inside them, which accelerates the adoption of protection methods using thin films instead of conventional metals or resins. Since barrier films are used in various electronic devices not only for the protection from moisture in the atmosphere but also for the protection from chemicals or from sliding wear, demands for the deposition system for barrier film formation are expected to increase from now on. For the purpose to expand the application of thin films deposited by the solid-source ECR (Electron Cyclotron Resonance)plasma system, which has been independently developed and sold by JSW-AFTY Corporation, to this field, the evaluation of the characteristics of silicon nitride films, zirconium oxide films and tantalum oxide films were carried out, and excellent properties of these films as the barrier film were observed in comparison with those deposited by other methods. 1. 緒言スマートフォン本体の高機能化や薄型化に伴い内部の電子デバイスも小型化 高機能化が求められ ウェハの状態でパッケージングまで行うウェハレベルチップサイズパッケージ ( W L - C S P ) と呼ばれる半導体パッケージ技術 (1) が高周波フィルターの一つである SAW( 表面弾性波 ) デバイスにも採用され始めた (2) この場合 非常に保護特性の高い薄膜が必要になる また スマートフォン内部のデータ保存に関連した新しい技術としては データをクラウドで外部ストレージに保存する方法が普及し始めており データセンターで使用 されているハードディスクの記録密度向上が求められている 記録密度向上のための技術として熱アシスト記録方式が提案されおり やはり保護特性の優れた薄膜が必要になっている (3) JSW アフティ社の ECR プラズマ成膜装置は高密度プラズマを活かした優れた膜質と 高均一化技術による高い膜厚均一性成膜を活かし半導体レーザー端面の誘電体膜コート ハードディスクヘッドの絶縁膜などの無加熱で高品質な膜が求められる電子デバイスに採用されてきた この技術を活かし前述に挙げたデバイスをはじめとして様々なデバイス用の保護膜形成装置に適応すべく成膜条件の最適化を行い 保護膜特性評価を実施した結果を報告する JSW アフティ株式会社 JSW AFTY Corporation (142)

2. 固体ソース ECR プラズマ成膜の原理 図 1 に示すように磁場 B を与えると 電子はローレンツ力を受けて磁力線の周りを回転運動する このとき磁場の強さ 87.5mT に対して 2.45GHz のマイクロ波を加えると共鳴現象が起こりマイクロ波による交播電界により電子は加速される 高速に回転した電子はプロセスガスと衝突し 電子が放出されることで連続したプラズマが生成される こうして生成されたプラズマを ECR(Electron Cyclotron Resonance) プラズマという 真空チャンバ内に 磁界形成と交播電界としてのマイクロ波供給のみでプラズマが生成されるので 他のプラズマ源に比べると電極やプラズマ引出しグリッドなどを必要としないことから長寿命で且つ汚染が少ないプラズマを生成することができる また一般的なプラズマに対し一桁以上低い 0.1Pa 以下の高真空状態で 10mA/ cm 2 レベルの高密度プラズマを得ることができ 反応性成膜が容易となる 図 2 装置説明 図 3 AFTEX-9600 図 1 ECR プラズマの生成原理 3. ECR プラズマと装置構成固体ソース ECR プラズマ成膜装置の基本構成を図 2 に 装置外観写真 (AFTEX-9600) を図 3 に示す 基本的な装置構成は成膜室と ECR プラズマチャンバーで構成され 成膜室に取り付けられたターボ分子ポンプで真空排気される ECR プラズマの生成は成膜室にアルゴンガスを供給し 次に ECR プラズマチャンバーに配置されたコイルによって発散磁場を生成させる プラズマ中の電子は磁場勾配に沿って基板に移動し イオンはその電子を追うように基板側に引き出されプラズマ流が形成される このときの基板とプラズマチャンバー間のポテンシャル差は 20 30V 程度であり非常にエネルギーの低いプラズマ流となる ECR プラズマチャンバー出口には円筒型ターゲットが配置されており ターゲットに RF 電力を印加するとターゲットには負のセルフバイアスが発生しプラズマ中のイオンがターゲットに加速されスパッタリングされる また 円筒ターゲットに RF 電力を投入しなければ ECR プラズマのみ基板に照射することが可能で 成膜前に基板表面に付着した水分などを除去することができる さらに Ar の代わりに酸素を導入すれば基板の酸化 窒素を導入することで窒化も可能であり これらの処理は半導体レーザーの端面コート成膜の必須技術とされている 高い膜厚均一性を得るために E CR プラズマチャンバーを傾斜配置させ 基板ホルダに基板回転機構と基板 - ターゲット間距離を調整する機構 ( 図 2) を持つ AFTEX-9600( 図 3) で成膜した SiN の膜厚 - 屈折率均一性を図 4 に示す 6 インチ面内で ± 3% 以下 4 インチ面内では ±1% 以下と非常に優れた膜厚均一性が得られている また 屈折率均一性も ± 0.1% 以下を実現しており面内で均一な膜質が形成されていることが分かる 図 4 SiN 膜の膜厚分布と屈折率分布 (143)

長時間運用技術の一つとしてマイクロ波の供給を一度分岐させた後 ECR プラズマチャンバー下部で結合導入する構造を採用している マイクロ波導入用石英窓をターゲットの位置から死角に配置でき 成膜時にターゲットからスパッタされた材料がマイクロ波導入窓へ付着することを大幅に低減できる これにより長時間の運用でもマイクロ波の減衰が抑制され 24 時間の稼働が可能となっている (4) 石英基板上に膜厚 50nm 成膜し分光光度計 ( 日本分光社製 V-650) で透過率測定を行った結果を図 5 と図 6 に示す 4. 固体ソース ECR プラズマ成膜の膜特性 固体ソース ECR プラズマ成膜法は高密度プラズマの反応性を利用することにより 各種ターゲット材料とプロセスガスを組み合わせることで多種多様な膜種を形成することが可能である プロセスガスに Ar+O 2 を導入すれば酸化物が形成でき Ar+N 2 を導入すれば SiN AlN などの窒化膜が Ar+N 2 +O 2 の導入で AlON SiON のような屈折率制御可能な酸窒化膜が形成できる 固体ソース ECR プラズマ成膜装置で主に使用されている膜種とその用途の一例を表 1 に示す 図 5 酸化膜の透過率比較 ZrO 2 では酸化物ターゲットを使用したマグネトロンスパッタ法と同等 Ta 2 O 5 では波長 300nm 近辺で優れた透過特性が得られており 金属ターゲットを使用した成膜でも E CR プラズマ法の高密度プラズマによる酸化反応性の良さが表れている 表 1 膜種と用途 図 6 SiN 膜の透過率比較 ECR プラズマ法の優位性を確認するために表 1 の中から光学特性 且つ機械的特性に優れている材料として ZrO 2 Ta 2 O 5 SiN を取り上げ 他の成膜方法で成膜したサンプルと比較を行った サンプルは PECVD 法の SiN マグネトロンスパッタ法の ZrO 2 Ta 2 O 5 で透過率 膜密度 表面平坦性を比較評価した それぞれの成膜条件を表 2 に示す 表 2 サンプルの成膜方法と成膜条件 PECVD 法の SiN は波長 400nm 近辺から急激に透過率が低下している ( 図 6) CVD 法の膜は原料ガスの残留生成物の影響や窒化が不十分などの理由から透明度が低くなるとされている ECR プラズマ法の SiN はターゲットに単結晶 Si とプロセスガスに純 Ar と N 2 を使用していることから不純物の混入が少なく さらに高密度プラズマの照射により十分に窒化された透過性の高い SiN が形成できていることが分かる 次に Si<100> 基板上に膜厚 50nm 成膜したサンプルの表面平坦性を原子間力顕微鏡 (Atomic Force Microscopy : AFM) で 膜密度を X 線反射率法 (X-ray Reflectometer : XRR) で測定した結果を図 7 と表 3 に示す (144)

5. SiN 成膜と防湿特性評価 図 7 AFM による表面粗さ測定結果 ECR プラズマ法の SiN Ta 2 O 5 は Si 基板と同レベルの平坦性が得られていたが PECVD 法 マグネトロンスパッタ法の膜は粒界が存在し表面が荒れていた ZrO 2 は ECR プラズマ法とマグネトロンスパッタ法ともに結晶粒がみられたが 結晶粒のサイズは ECR プラズマ法が非常に小さい 表 3 XRR 法による膜密度測定結果 SiN は緻密な膜質であることから有機 EL や電子デバイス用フィルム及び SAW フィルターなどの温度上昇を嫌う電子デバイスの保護膜として使用されている SiN を低温成膜できる一つの成膜法として PECVD 法があるが 低温成膜条件ではバリア特性の低下や透明度の低下を引き起こすとされている (6)(7) 一方 固体ソース ECR プラズマ成膜は高密度プラズマにより無加熱で高品質の窒化膜を得ることが可能であり 成膜時の温度上昇を嫌うようなデバイスにおいても有効な成膜方法と思われる ここでは ECR プラズマ法での SiN の最適化と防湿特性の評価を行った結果を報告する 5.1 SiN 成膜条件の最適化デバイスの生産性に関係する項目として成膜速度が挙げられる ECR プラズマ成膜法で成膜速度を速める方法はマイクロ波とターゲットに印可するパワーを上げて成膜すればよい もう一つの成膜速度を決めるパラメータとして Ar 流量がある ECR プラズマ法では Ar 流量増加に伴いイオン電流密度が上昇するため成膜速度が増加する 図 8 は標準的なパワーである 500W から 700W に設定し Ar 流量と窒素流量を変化させた成膜速度と屈折率の関係である ECR プラズマ法の SiN ZrO 2 は他の成膜法より密度が高い結果となり緻密な膜が形成されている Ta 2 O 5 はマグネトロンスパッタ法に比べ低い結果となった AFM 観察では E CR プラズマ法の Ta 2 O 5 は結晶粒界が観察されず マグネトロンスパッタ法で粒界が観察されることから膜の組成や結晶構造などが異なることが考えられる また 後で述べる薬品耐性や硬度の結果では劣っていない結果が得られたため Ta 2 O 5 の物性についてさらに調べる予定である 上記の結果の様に一般的に ECR プラズマ成膜法は高密度プラズマにより基板表面に付着した材料が十分にマイグレーションし 高い酸化 窒化反応性により透明度が高く 平坦性に優れ且つ理論密度に近い密度の緻密な膜を低温で得ることができる 本成膜装置が半導体レーザー端面コートの標準装置として採用されている理由は 前述の様な優れた特徴を持つ薄膜を端面に形成できるため COD(Catastrophic Optical Damage) と呼ばれる光出射端面の破壊 (5) を生じさせないためである 図 8 パワー Ar 流量に対する成膜速度と屈折率の関係図 8 の様に投入パワーの増加と Ar 流量の増加で成膜速度を増加させることが可能である ここで 700W 条件の屈折率安定領域で屈折率に Ar 流量依存性が見られたため 膜質の確認のために 5% の希フッ酸を使用しエッチング速度を測定した (145)

5.2 SiN 成膜条件の防湿特性評価 ECR プラズマ法による SiN の防湿特性を評価するために PES フィルム上に成膜しモコン法 (JIS K7129 B 法準拠 ) にて評価した 測定環境は水蒸気透過度を温度 40 湿度 90%RH の試験雰囲気である 表 4 モコン法評価結果 図 9 Ar 流量に対するエッチング速度 図 9 の様に Ar 流量の増加に伴いエッチング速度が低下する傾向が見られた この原因を調べるためにラザフォード後方散乱分光法 (Rutherford Backscattering Spectrometry : RBS) で膜中組成比を X 線反射率法 (X-ray Reflectometer : XRR) にて膜密度を評価した 膜厚方向で組成ずれは見られず均一な膜が形成されており組成比も窒化シリコンの化学量論比に近い 1.31 を示していたが 膜中に Ar 取り込みがあり図 10 の様に成膜時に導入する Ar 流量の増加にしたがって Ar 組成は減少する結果となった 膜厚 50nm で測定下限となり優れた水蒸気防湿特性が得られている ( 表 4) また Si 基板上に CVD 法で成膜された O 3 -TEOS N S G( O 3 -tetraethoxysilane-base non doped silicate glass) 膜上に ECR-SiN を成膜したサンプルを加熱し TEOS NSG 膜から放出された水分と水素を TDS (Thermal Desorption Spectroscopy: 昇温脱離分析法 ) で測定した結果が報告されている (9) ( 図 11, 図 12) 図 10 Ar 流量に対する Ar 組成 図 11 水分子の TDS スペクトル (9) このような膜中への Ar の取り込みは Arトラップと呼ばれるスパッタ法でみられる現象であり (8) 図 10 のように成膜時の Ar 流量の増加にしたがって膜中への Ar 取り込み量は低下するとされ ECR プラズマ成膜においても同様の結果となった ECR プラズマ法では Ar 流量を減少させるとプラズマチャンバー内部の Ar と電子との衝突確率が低下し 電子の平均自由工程が増加する このためイオンエネルギーが高くなり基板とプラズマ間のポテンシャル差が大きくなりイオンの打ち込み効果が生じ膜中に Ar が取り込まれたと予想される Ar 流量はプラズマ密度とイオンエネルギーを決めるパラメータであるが 膜中の Ar 組成にも関連し膜質に大きな影響を与えることが分かった 図 12 水素分子の TDS スペクトル (9) TEOS 膜は水分と水素を多く含んでおり SiN を成膜していない基板では基板温度 100 度付近から水素と水分脱離が始まるが ECR-SiN を成膜したサンプルは 350 度程度まで水素と水分が脱離せず非常に高い遮断特性を持ち合わせていることが分かる (146)

6. ハードディスクヘッド保護膜への応用 ハードディスクのさらなる高記録密度化を実現する一つの記録方式として熱アシスト記録方式 (Thermally Assisted Magnetic Recording: TAMR) が提案されている TAMR 方式はヘッド表面から光学波長 800nm 近辺の光を磁気媒体へ出射する構造とされ (10)(11) 従来のヘッド保護膜に求められる硬度 表面平坦性 プロセス耐性に加え 出射光に対して高い透過性が加わることになる 酸化物 窒化物材料の中でこれらを満足するものとして Zr O 2 Ta 2 O 5 SiN が挙げられる (12)(13) ここでは表 2 に示したサンプルで膜の硬度と薬品を使用する製造プロセスの耐性評価として耐エッチング特性を評価した 6.1 薬品耐性評価保護膜が製造プロセスに耐えられるか 5% の希フッ酸 アルカリ性のレジスト現像液 ( 東京応化 P-7G) でエッチング評価を行った結果を図 13 に示す 図 14 AFM によるスクラッチテスト結果 ECR プラズマ法の SiN ZrO 2 は他の成膜法に比べ非常に耐摩耗性に優れていることが分かる Ta 2 O 5 はマグネトロンスパッタ法と同等の結果になった エッチング評価 硬度評価の結果から ECR プラズマ法の SiN ZrO 2 は熱アシスト記録方式の保護膜として適応できる可能性を見出した また 熱アシスト記録はヘッドが非常に高温になると予想されているため耐熱評価を今後行う予定である 7. 結言 図 13 フッ酸によるエッチングテスト結果アルカリ性のレジスト現像液 P-7G ではすべてのサンプルでエッチングされなかったが 希フッ酸で差が見られた ECR の SiN ZrO 2 はスパッタ法 PE CV D 法に比べエッチング量の差が大きく膜質が優れていることが分かる AFM の表面測定では ECR 法は非常に平坦であり スパッタ PECVD は粒界がみられることから 粒界浸食が起こり上記のような結果になったと思われる ECR プラズマ成膜法と他の成膜法の薄膜を比較したところ ECR プラズマ成膜法は優れた保護膜特性を持ち合わせていることが分かった しかし 実際のデバイスでは様々な膜上に成膜することになり膜同士の相性 動作時の温度など様々な環境で膜特性を維持しなければならない 今後はアプリケーションにマッチした成膜技術の開発を進め 装置販売に寄与できるよう努めると同時に生産性向上の為のスループット向上やコストダウン パーティクル対策などの装置技術開発も同時に進めていく方針である 6.2 硬度評価膜硬度の一般的な評価方法はマイクロビッカース法などであるが サブナノレベルの薄膜を評価する場合には基板の硬さが測定結果に影響し評価が困難である 今回の用いた評価方法は AFM を応用したもので 単結晶ダイヤモンド探針で薄膜表面スクラッチし その摩耗深さから膜の硬度を相対比較する方法である リファレンス膜を熱酸化 Si とし荷重 4 0 u N でのスクラッチ痕の深さを測定した結果を図 14 に示す (147)

参考文献 (1) 浅田敏明, 他 : ウエハレベルチップサイズパッケージ (WL-CSP) の開発, 古河電工時報, 第 119 号 (2007., 1), p.13-17 (2) 電子デバイス産業新聞 : 2013 年 9 月 18 日号, 1 面 http://www.sangyo-times.jp/scn/headindex. aspx?i D=419( 参照 2015-4-20) (3) 村岡裕明 : 記録技術の新展開, 映像情報メディア学会誌, Vol. 68, No. 1,(2014)p.32-34 (4) 天沢敬生 : ECR プラズマの光半導体プロセスへの応用, 精密工学会誌, Vol.73, No.9, (2007)p.975-979 (5) 坂元, ほか : ファイバレーザ励起用高出力半導体レーザモジュール, フジクラ技報, 第 126 号, Vol.1, (2014) p.11-16 (6) 山脇正也, ほか : PE-CVD シリコン窒化膜用シラン代替材料の開発, 大陽日酸技報, No.32, (2013)p.31-32 (7) 部家, ほか : 有機 EL ディスプレイ用水蒸気バリア膜の形成, 電子情報通信学会技術研究報告. R, 信頼性 105 (434), (2005-11-18)p.7-12 (8) 小林春洋 : スパッタ薄膜基礎と応用, p.69-71, 日刊工業新聞社,(1993) (9) M. Takahashi, H. Yamada and T. Amazawa : Barrier Effect of Electron Cyclotron Resonance Sputtered Films Against Water and Hydrogen Molecules Permeation, Journal of The Electrochemical Sci., 149, (11), (2002)p. B487-B490 (10)K. Osawa, K. Sekine, M. Saka, N. Nishida, and H. Hatano : Optical TAMR Head Design for Placing a Heating Spot Close to a Magnetic Pole KONICA MINOLTA TECHNOLOGY REPORT, VOL.7(2010) p.122-125 (11) 稲葉, 他 : 新しい高密度記録技術エネルギーアシスト磁気記録媒体, 富士時報, Vol.83 No.4, (2010)p.257-260 (12) 中山, 他 : セラミックスの熱特性と熱応力破壊, 社団法人日本材料学材料 32(357), (1983-06-15) p.683-689 (13) 李正中 : 光学薄膜と成膜技術, 株式会社アルバック訳, p.411-427, アネグ技術センター (2002-9-25) (148)